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オコゼに刺された場合の処置法

水曜日, 8月 8th, 2007

KW:毒性・中毒・オコゼ゙・オニオコゼ゙・虎魚・ヒメオコゼ゙・ダルマオコゼ゙・過マンガン酸カリ・処置・解毒法・治療法

Q:魚のオコゼに刺されたという患者が来院中である。処置法について

A:オコゼと呼称される魚は、オニオコゼ科に属するオニオコゼ(鬼オコゼ・虎魚)・ヒメオコゼ・ダルマオコゼ等が有り近縁種としてハオコゼ科のハオコゼが知られている。

  • オニオコゼ:全長20~30cm、背鰭の棘に猛毒が存在する。刺されると猛烈な痛みがある。棘の付け根にある毒腺から毒が注入される。食用とする。刺されたときは、アンモニアの塗布が痛みを和らげるとする報告が見られる。
  • ヒメオコゼ:全長10~15cm、背鰭の棘に毒腺が有り、鰓蓋には鋭利な棘がある。食用にならない。
  • ダルマオコゼ(Erosaerosa):全長15cm。食用にしない。痛みが手足全体に広がり、酷い呼吸困難から発汗、昏睡が起こり、2~3時間で死亡することも有る。毒は熱に弱いので、60℃以上の湯で傷口を2分以上洗い、医師の手当てを受ける。過マンガン酸カリ等の注射が有効であるとする報告がされているが、本邦では過マンガン酸カリの注射剤は入手できない。また、漁場、釣り場等で直ちに60℃以上の温湯の入手は困難であり、熱傷の可能性はないのか等検討が必要である。
  • その他、フサカサゴ科に分類されるニセフサスサゴもオコゼと呼ぶ地方が有る。全長30~40cm。毒は同様に背鰭に毒腺が存在する。

通常、オニオコゼ以外食用とならないため、釣り人あるいは職業漁師以外刺さ れることはあまりないが、「満潮に刺されると干潮になるまで痛む」とされており、「オコゼに刺されたら黒砂糖を溶かして湿布する」、「酢か海水を沸かして患部を温めるといい」等の民間療法も伝承されている。

刺されたときの応急処置としては、蛋白性の毒なので、熱湯に患部を浸けると毒が内部で固まり、全身への拡散が防げる。いずれにしろ刺されたら医師の手当てを受けた方が無難である。

<<オコゼ誤刺時の処置>>

  • <局所症状>:激しい頭痛、時にしびれ感、発赤腫脹・蒼白膨張
  • <全身症状>:嘔気、嘔吐、下痢、腹痛、呼吸困難、痙攣、リンパ管炎、ショック(顔面蒼白、冷汗、血圧低下、脈拍異常)
  • <毒物の除去>:棘が残っている場合は棘の除去。傷口の洗滌、消毒(食酢又は消毒用アルコール)
  • <対症療法>:温湯による鎮痛(45℃以下、30~90分、疼痛の取れるまで)、リバノール湿布、無効のときは局麻。
    *局麻入りステロイド軟膏の塗布。
    *破傷風、感染の予防。
    *ショックには輸液療法。
    *必要に応じてステロイド軟膏、強心剤。
  • <維持管理>:重症の場合、呼吸・循環管理。

実際に釣り人でオニオコゼに刺された事例を何例か承知しているが、通常の場合、棘に刺された部位を口で吸うことにより特に処置することなく丸1日程度で痛み及びしびれは取れているようであるが、重篤な場合、上記の対症療法を実施する。その他、渋柿のシブ等を塗布することで処置できるとする報告、あるいはタンニン酸軟膏の塗布により処置可能とする報告も見られる。

[1997.4.30.古泉 秀夫]


  1. 豊田 直之・他:釣り魚カラー図鑑;東西社,1995
  2. 西 勝英・監修:薬・毒物中毒マニュアル 改訂5版;医薬ジャーナル,1994
  3. 塚原 博:魚のおもしろ生態学-その生活と行動-;講談社,1991
  4. 阿部 宗明:原色魚類検索図鑑;北隆館,1982
  5. 田中 秀男:魚偏に遊ぶ-日本海遊博物誌;PMC出版,1987
  6. 内藤 裕史・編著:中毒110番;東京図書,1986

塩化セチルピリジニウムについて

水曜日, 8月 8th, 2007

KW:薬名検索・塩化セチルピリジニウム・cetylpyridinium chloride・CPC・殺菌剤・防黴剤・陽イオン界面活性剤・cationic surfactant

Q:一般用医薬品として市販されているうがい薬に入っている塩化セチルピリジニウムについて

A:塩化セチルピリジニウム(Cetylpyridinium chlorid:CPC)は、白色の結晶又は結晶性の粉末で、臭いはないか又は僅かに特異な臭いがあり、味は苦い。

本品は定量するとき、換算した脱水物に対して塩化セチルピリジニウム(C21H38ClN=339.99)99.0-102.0%を含む。C21H38ClN・H2O=358.01。

本品は水、クロロホルム、エタノールに溶け易く、ベンゼン、エーテルに微溶、アセトン、エーテル類、炭化水素類に難溶性である。吸湿性は認められない 。

  • 融点:80-84℃。陽イオン界面活性剤(cationic surfactant)。
  • 別名:N-ヘキサデシルピリジニウムクロリド(N-Hexadecylpyridinium chloride)、セチルピリジニウムクロリド( cetylpyridinium chloride)[日本化粧品成分表示名]、CETYLPYRIDINIUM CHLORIDE[INCI(国際化粧品成分名)]。
  • 化学名:Hexadecylpyridium Chloride, Monohydrate
  • 用途:殺菌剤、防黴剤、清浄剤の原料。
  • 急性毒性:LD50:経口(マウス)200mg/kg、経口(家兎)400mg/kg 、LD0:皮膚(家兎)2000mg/kg。

本品は口中の病原細菌である溶血レンサ球菌、黄色ブドウ球菌、及びカンジダ等の真菌に対しても強い抗菌力を示す。咽頭炎、扁桃炎、口内炎にトローチ剤として投与される。

[011.1.CET:2006.1.31.古泉秀夫]


  1. 14303の化学商品;化学工業日報社,2003
  2. 日本薬局方外医薬品規格;財団法人日本公定書協会,1997
  3. 薬科学大辞典 第3版;広川書店,2001

塩酸シブトラミン一水和物について

水曜日, 8月 8th, 2007

KW:薬名検索・健康食品・シブトラミン・sibutramine・塩酸シブトラミン一水和物・痩身剤・肥満・肥満症・meridia・メリディア・副作用

Q:中国製ダイエット食品服用により30代女性が死亡の記事中に、シブトラミンが配合されていたという記載が見られたが、これはどのような薬か

A:報道された記事の内容は、下記の通りである。

『岩手県は29日、仙台市内の食品輸入業者が輸入、販売した中国製のダイエット食品を服用していた県内の30歳代の女性が死亡したと発表した。
食品から国内では未承認の医薬品成分「シブトラミン」が検出されたことから、同県と連絡を受けた宮城県は薬事法に違反するとして、両県内の販売店と輸入業者に販売の中止と回収を指示した。
女性は7月4日に盛岡保健所管内の医療機関で死亡。
医療機関から、女性が複数のダイエット食品を服用していたとの情報が寄せられたことから、県が調べたところVenus line 21(ヴィーナス・ライン21)[ランドエース:仙台市青葉区]1カプセル中から0.86-0.14mgのシブトラミンを検出した。シブトラミンは、アメリカなどで肥満症の治療薬として医薬品の承認を受けている。心拍数の上昇などの副作用があるとされる。』

シブトラミン(sibutramine:Sibutramine hydrochloride monohydrate)は、米国でMeridia(メリディア)の商品名で市販されている『肥満』治療薬である。

製品規格は5mg・10mg・ 15mg/Cap.である。神経終末でのノルエピネフリン、セロトニン、ドパミンの取り込み抑制作用。

1日1回10mgの内服から開始し、服用4週間後に 1日1回5mgに減量してもよい。使用時の注意として『低カロリー食事療法を行い、血圧変化を観察すること』とされている。

その他、厚生労働省から本件に関連する報道資料として、次の資料が配布されている。

 

平成15年11月27日

厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課

シブトラミン類似物質(脱N-ジメチルシブトラミン)を含有するいわゆるダイエット用健康食品(無承認無許可医薬品)の発見について先般、シブトラミンが検出されたとして公表していた、いわゆるダイエット用健康食品等から、シブトラミンと類似の化学構造を有する脱N-ジメチルシブトラミンが新たに検出されましたので、下記のとおりお知らせいたします。

  1. 経緯
    福岡県の業者が、九州地区の美容室を中心として販売していた、いわゆるダイエット用健康食品及びその原材料より、未知の成分が検出されていたとして富山県より国立医薬品食品衛生研究所あてにこの成分の構造決定等の依頼があり、その結果、当該成分は、脱N-ジメチルシブトラミンであると判明した。
  2. 脱N-ジメチルシブトラミンを検出した製品の名称等<名称等>貴宝美健(きほうびけん)-販売者 株式会社 鈴正(すずまさ)爽健美人(そうけんびじん)-販売者 有限会社ソーケン

    注)

    ・同一原材料による同一の製品が2つの商品名で販売されている。

    ・貴宝美健については、脱N-ジメチルシブトラミンとは別に、シブトラミンが検出された製品があり、既に全製品について回収等を実施中である。

    ・爽健美人は、(株)鈴正から(有)ソーケンに提供されている。

    <原産国>:中国産原材料をもとに、国内で錠剤化

    <形状>三角形の錠剤

  3. 脱N-ジメチルシブトラミンについて
    海外で医薬品(適応:肥満症の治療)として使用されている塩酸シブトラミン一水和物(商品名 Meridia;メリディア)の米国における添付文書によれば、脱N-ジメチルシブトラミンはシブトラミンの主要活性代謝物の1つであるとされているが、公表されている文献情報等は存在しない。
  4. 健康被害事例について
    現時点では、脱N-ジメチルシブトラミンを含有していることが確認された製品による健康被害事例は報告されていない。しかしながら、脱N-ジメチルシブトラミンは、医薬品成分であるシブトラミンと同様の作用を有すると考えられ、健康被害が発生するおそれが否定できないので、これらの製品を服用されている方は、服用を中止いただき、製品の服用が原因と疑われる症状を示している場合には、医療機関や最寄りの保健所まで相談いただきたい。
  5. 今後の対応
    これらの製品については、関係都道府県が回収等の必要な措置を行うとともに、厚生労働省としても分析方法を都道府県等あてに通知し、同様の事例についての取締りの強化、再発防止に努めることとする。

(参考)

  • 活性代謝物とは:生体内で酵素反応等により他の化学物質に変換された物(代謝物)のうち、生理活性を有する物をいう。
  • シブトラミンについて: 国内では未承認であるが、海外では医薬品として承認されている。<適応>肥満症の治療<作用>中枢性食欲抑制作用

    <副作用>血圧上昇、心拍数増加、頭痛、口渇、便秘、鼻炎 等

 

平成16年7月30日

医薬食品局監視指導・麻薬対策課

医薬品成分(シブトラミン、脱N-ジメチルシブトラミン)が検出されたいわゆる健康食品について(この情報は、各県等によりそれぞれ報道発表されたもので、厚生労働省においてもプレスへ情報提供を行っているものです。)下記製品を服用された方で、健康被害事例が報告されており、当該製品による健康被害の疑いがあります。これらの製品は、医薬品の成分が検出されており、健康被害の発生するおそれが否定できないと考えられます。

  1. 商品名: 貴宝美健(きほうびけん)、軽身美人(けいしんびじん)、爽健美人(そうけんびじん)注)同一製品が3つの商品名で販売されております。

    <標 榜> ダイエットサポート

    <原産国> 中国産原材料をもとに、国内で錠剤化

    <形状>三角形の錠剤

    <検出された医薬品成分>シブトラミン— 貴宝美健、軽身美人

    脱N-ジメチルシブトラミン —貴宝美健、爽健美人

    注)貴宝美健には、シブトラミンを含有する製品と脱N-ジメチルシブトラミンを含有する製品があります。

    <備考>心拍数増加(1例)が報告されており、本品による健康被害の疑いがある。

    (平成15年11月7日に宮崎県、同月18日に富山県、同月19日に福岡県、同月27日に厚生労働省、福岡県発表)

  2. 商品名: 美的身源(びてきしんげん)<標 榜>納豆菌ダイエット<原産国>中国産原材料をもとに、国内で錠剤化

    <形 状>三角形の錠剤

    <検出された医薬品成分>シブトラミン、脱N-ジメチルシブトラミン

    (平成15年12月11日福岡県発表)

  3. 商品名: 美姿宝(びそうほう)、スリムデール・プロ注)同一製品が2つの商品名で販売されております。

    <標榜>納豆菌を使ったダイエット 等

    <原産国> 中国産原材料をもとに、国内で錠剤化

    <形状>三角形の錠剤

    <検出された医薬品成分>脱N-ジメチルシブトラミン

    (平成15年12月26日福岡県発表)

  4. 商品名: VENUS LINE 21<標 榜>体内の脂肪吸収を抑える等

    <原産国>中国

    <形状>カプセル

    <検出された医薬品成分>シブトラミン

    <備考>本品の摂取との因果関係は不明であるが、循環器不全による死亡(女性1例)が報告されている。

(平成16年7月29日岩手県、宮城県発表)

[011.1.SIB:2004.10.19.古泉秀夫]


  1. 中国製ダイエット食品服用 30代女性が死亡 岩手県・宮城県回収指示;読売新聞,第46107号,2004.7.30.
  2. 飯野靖彦・監訳:スカット・モンキーハンドブック;メディカル・サイエンス・インターナショナル,2003
  3. http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/11/h1127-2.html,2004.7.31.
  4. http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/diet/other/031110-1.html,2004.7.31.

エンドルフィンについて

水曜日, 8月 8th, 2007

KW:薬名検索・エンドルフィン・endorphin・快感物質・内因性オ ピオイドペプチド・プロオピオメラノコルチン・POMC

Q:快感物質エンドルフィンについて

A:エンドルフィン(endorphin)とは、内因性オピオイドペプチド で、副腎皮質刺激ホルモンなどの前駆物質であるプロオピオメラノコルチン(POMC)から下垂体前葉と中葉及び脳で産生される。

下垂体からは血中にも放出されている。α(アミノ酸16)、β(アミノ酸31)、γ(アミノ酸17)endorphinの3種類があるが、βが最も活性が高い。

オピオイド受容体と結合してモルヒネ様作用を発揮する。ストレスなどの侵害刺激により産生されて鎮痛、鎮静に働く。また成長ホルモン、プロラクチン分泌を促進する。神経系では抑制性神経伝達物質として働くと推測されているとする報告が見られる。

その他、endorphinは、哺乳類の脳及び下垂体に存在する内因性オピオイドペプチドで、α、β、γの3種が知られている。

オピオイド受容体と結合してモルヒネ作用を発現し、その活性はβ-endorphinがも強い。

α及びγ体は、β-endorphinの代謝物と考えられている。

β-endorphinは下垂体中・後葉に特に多く含まれ、ストレスなどの侵害要因により血中に分泌される。

一般に神経系では抑制性神経伝達物質として作用すると考えられているが、その生理的意義は明らかでない。

脳内では、視床下部、中脳、延髄、橋に含まれるが、メチオニンエンケファリンが多量に存在する線条体に殆ど検出されない。

薬理作用としては鎮痛、下垂体ホルモン分泌制御をはじめとして、エンケファリン、ダイノルフィンより強い場合が多い。

β-endorphinは、そのN端末部がメチオニンエンケファリン構造に相当するが、メチオニンエンケファリンの生合成中間体ではない。また生体内には活性のないN-アセチル体も存在する等の報告が見られる。

[011.1.END:2003.12.9. 古泉秀夫]


  1. 伊藤正男・他総編集:医学書院医学大辞典:医学書院,2003
  2. 今堀和友・他監修:生化学辞典 第3版;東京化学同人,1998

ウロナミンの代替品について

水曜日, 8月 8th, 2007

KW:薬名検索・ウロナミン腸溶錠・代替薬・マンデル酸ヘキサミン・hexamine mandelate・尿路感染症・ウワウルシ・bearberry

Q:ウロナミン腸溶錠250mgの製造が中止される。現在服用中の患者が、継続して同剤を服用したいとしているが、同一効果が期待できる代替薬として何があるか

A:ウロナミン腸溶錠(住友)はマンデル酸ヘキサミン(hexamine mandelate)250mgを含有する製剤で、尿路感染症(膀胱炎、腎盂腎炎)が承認適応である。本品については、2006年1月、在庫終了次第販売中止とする連絡が企業からあったとされる。

マンデル酸ヘキサミンの同意語として、マンデル酸メテナミン(methenamine mandelate)、ウロトロピン(urotropin)、マンデル酸ヘキサメチレンテトラミン(hexamethylenetetramine mandelate)等が報告されている。

hexamine mandelateは、尿中でマンデル酸とヘキサミンになり、ヘキサミンは更に酸性尿中でホルムアルデヒドとなって抗菌力を示すとされている。マンデル酸にも中等度の抗菌力はあるが、抗菌力よりは尿のpHを下げることで、ヘキサミンに協力的に作用する尿路消毒薬である。

大腸菌、クレブシェラ、変形菌、緑膿菌に抗菌作用を示す。

hexamine mandelateについて、抗生剤耐性菌種による再感染症の治療に適するが、抗生剤を併用する方がよいとする報告がみられる。

尿のpH5.5以下で抗菌力を示すが、尿中発生ホルマリン量には個人差がある。

hexamine mandelate 4g/日・アスコルビン酸1.6-3.2g/日を4回に分割投与時、尿中に65-515(平均308μg/mL)のホルムアルデヒドを認めたとする報告がある。

尿路消毒薬としてのhexamine mandelateと全く同一の効能を持つ薬物は見当たらないが、尿路殺菌作用を示すものとしてウワウルシ(uva ursi leaves)が報告されている。

ウワウルシの英名はbearberry leafで、ツツジ科の植物の葉を開花期に採集し、乾燥したものである。配糖体アルブチン(arbutin)を含み、これが腎から排泄される際にヒドロキノン(hydroquinone)を生じ、尿に弱い殺菌作用を付与するため、尿防腐薬とされる。

ただし、ウワウルシについてhexamine mandelateを対照とした効力比較試験の結果は報告されていない。

いずれにしろ薬の投与は、患者を診察した医師が最終的に判断することであり、医師と相談するよう患者には伝えることが必要である。

-参照-

ウワウルシ(Uvae ursi folium)、原植物:Arctostaphylos uva-ursi(L.)Spreng.(クマコケモモ)、ツツジ科(Ericaceae)

  • 産地:北半球に分布する低灌木。本生薬は専らスペイン、バルカン諸国、イタリア及び旧ソ連の野生植物に由来する。本品は収れん性でわずかに苦い。
  • 含有成分:ヒドロキノン誘導体、そのうち主成分としてヒドロキノンモノグルコシドのarutin(arbutoside)が乾燥生薬から最低5 -6-8%と変動はあるが、普通少量のmethylarbutin、更に多量のガロタンニン型及びカテキン型のタンニン類(約15-20%)、 arbutin gallic acid ester、フラボノイド類(特にhyperoside)及びトリテルペン類、イリドイド配糖体monotropein及びpiceoside(p- hydroxyacetophenone glucoside)。
  • 適応:尿路及び膀胱の軽い炎症性の疾病に、尿路消毒剤として。抗菌作用はarbutinによるのではなく、排泄物である hydroquinone glucuronideとhydroquinone sulfateから尿中で遊離したhydroquinoneによるものである。

[011.1HEX:2006.1.6.古泉秀夫]


  1. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2005
  2. 大阪府病院薬剤師会・編:全訂医薬品要覧;薬業時報社,1984
  3. 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
  4. 井上博之・監訳:カラーグラフィック西洋生薬;廣川書店,1999

ウブレチド錠服用患者の嚥下障害

水曜日, 8月 8th, 2007

KW:副作用・嚥下障害・ウブレチド錠・臭化ジスチグミン・distigmine bromide・副交感神経興奮薬・ChE阻害作用・cholinestrase

Q:ウブレチド錠を長期に服用していた患者が、胃の手術を受けたところ嚥下障害が起きるようになったと訴えている。発現理由は薬の副作用か、あるいは胃の手術によるのか

A:ウブレチド錠(鳥居)は、1錠中に臭化ジスチグミン(distigmine bromide)5mgを含有する副交感神経興奮薬である。本剤の適応は『1)重症筋無力症、2)手術後及び神経因性膀胱などの低緊張性膀胱による排尿困難』である。

本剤の作用として、ChE(cholinestrase)阻害作用、アセチルコリン作用の増強、抗クラーレ作用、胃運動亢進作用、縮瞳作用があるとされている。

本剤の添付文書に記載されている副作用のうち消化器系に係るものは下痢(54件:5.2%)、腹痛(34件:3.3%)、悪心・不快感、嘔気・嘔吐、腹鳴、胃腸症状、便失禁、心窩部不快感、流唾、テネスムス(しぶり腹)、口渇である。重大な副作用としてコリン作動性クリーゼが記載されているが、重症筋無力症患者で嚥下障害(クリーゼ)の記載が見られる。その他、重症筋無力症では、抗ChE服用中にコリン性クリーゼ(急に生じる呼吸困難、嚥下困難、気管分泌亢進)を誘発するので、患者にはクリーゼに対する注意を喚起するの報告も見られる。

薬の副作用としては上記の通りであるが、患者側の状況の変化として胃の手術がある。この質問からでは、胃の手術の程度は不明であるが、胃の一部摘出等の手術が行われているとすれば、嚥下障害の原因として手術の影響も考えられる。急性炎症、瘢痕性狭窄、筋力衰弱等が嚥下困難の理由となるの報告もされているため、手術の状況等を含めて主治医と相談するよう患者に指示されたい。

なお、薬の副作用による嚥下困難であれば、対応に緊急性を要すると考えられるため、直ちに主治医に相談する。

[065.DIS:2004.10.5.古泉秀夫]


  1. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
  2. ウブレチド錠添付文書,2003.8.改訂
  3. 医学大辞典;南山堂,1992
  4. 日本病院薬剤師会・編:重大な副作用回避のための服薬指導情報集[2];じほう,1998

ウコンの薬効について

水曜日, 8月 8th, 2007

Q:健康食品として市販されているウコンの効能について

A:健康食品として市販されているウコン(鬱金)は、ショウガ科植物ウコン(学名:Curcuma longa L.)の根茎あるいは根茎成分である。
ウコンは熱帯アジア、インドを原産地とし、熱帯及び亜熱帯アジア諸国、台湾、ハイチ、ジャマイカ、ペルーを主産地とする多年生草木で、食品添加物としてウコン色素(クルクミン:curcumin)が用いられる。また、本品はターメリック色素(turmeric oleoresin)とも呼称される。

ウコン色素はウコンの根茎から得られたクルクミンを主成分とするもので、食用油脂を含むことがある。

本品は、黄?暗赤褐色の粉末、塊、ペースト又は液体で、特異な臭いがある。クルクミンは、β-ジケトン類に属する黄色色素である。

ウコンはカレー粉、沢庵、漬物、ピクルス、フレンチマスタード、ピラフ、マーガリン、バター、チーズ、フルーツドリンク、リキュール酒に用いられ、また高価なサフランの代用としてブイヤベース、パエリア等のフランス料理、スペイン料理の着色料として用いられる。

インドネシアでは、新郎・新婦が自分達の腕をウコンで黄色に染め、日本の赤飯の代わりにウコンで色付けした黄飯を食べるという伝統が残っている。インドでは女性の無駄毛を抑える目的で外用薬として塗布しているとする報告も見られる。

多くのアジア諸国では芳香性健胃薬や駆風剤(腸内ガス除去)、利胆薬として肝臓炎、胆石症、カタル性黄疸に用いられ、また治療中の潰瘍の内服薬や皮膚のはれ物、炎症を抑える軟膏として用いられている。

その他、ウコンに含まれる成分について、次の報告がされている。精油を1.5?5.5%含有し、その構成成分はturmerone、(+)-ar-turmerone、zingiberene、(+)-α- phellandrene、cineol等である。黄色色素はcurcumin(0.3%)、p-coumaroyl feruoylmethane、di-p-coumaroylmethane等である。その他、脂肪油、澱粉などを含有する。

薬理作用として

  1. 消化器作用:精油懸濁剤の経口投与により、口腔粘膜の刺激に伴う唾液分泌の亢進が見られる。胃内では、胃に温感を与え、胃運動を亢進、分泌を刺激する。これらの作用により食欲増進、健胃作用を示す。消化管運動は、始め緊張を増し、その後弛緩させる。
  2. 利胆作用:curcumine、turmerone、cineol等の成分が肝細胞を刺激して分泌を増大、胆汁排泄も促進するので、利胆薬に分類される。大量では肝臓の脂肪変性を起こす。
  3. 心臓作用:麻酔ネコの心電図を指標とした実験で、心房、心室の収縮力を増大させる作用が認められたが、過剰量では抑制作用のみが発現した。心臓促進作用と同時に、呼吸興奮作用のあることも確認されている。

等の報告がされている。

適用として

  • 芳香健胃薬として各種の処方に配合される。また利胆薬として肝炎、胆道煙、胆石症、カタル性黄疸に用いる。常用量は粉末として6?20g/日。

[015.9CUR:2000.3.14.古泉秀夫]


  1. 鈴木郁生・他監修:第7版 食品添加物公定書解説書;広川書店,1999
  2. 高木敬次郎・他編:和漢薬物学;南山堂,1983

ウラジロガシの有用性について

水曜日, 8月 8th, 2007

KW:健康食品・漢方薬・代替医療・裏白樫・ウラジロガシ・胆石症

Q:ウラジロガシの有用性について

A:コナラ属、ぶな科のウラジロガシ(裏白樫;QuercussalicinaBlume)は、本州東北地方以南、四国、九州、沖縄及び済州島、台湾に分布し、暖帯の山野に生える常緑の高木である。

  • 薬用部分:小枝、葉。必要時に小枝と葉を採集し、細かく刻んで日干しにする。
  • 成分:小枝と葉にフラボノイドのクエルセチン、ケンフェロール、イソクエルセチン、トリテルペノイドのフリーデリン、エピフリーデリン、フリーデナロール、タラクセロールの他、コハク酸、エラグ酸、没食子酸、β-D?グルコガリン、カテコール、ピロガール等を含む。
  • 薬効・薬理:ウラジロガシエキス(UragilogashiExe.)は、ラットに対し膀胱内結石形成抑制作用、溶解作用が認められ、長期投与によって尿中のカルシウム、リンは増加傾向を示す。また試験管内でビリルビン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウムからなる結石は、10%-水浸エキスにより50?90%溶解し、完全崩壊するものもある。ウラジロガシは民間薬として、胆石症、腎石症に用いられるとする報告がされている。
  • 使用法: 1日量50?70gに600?1000mLの水を加え、1/3量に煎じて服用する。

なお、ウラジロガシエキスの製剤として、ウロカルン(日本新薬)の市販がされている。

本薬は1Cap.中にウラジロガシエキス225mgを含有する製剤で、その適応は「腎結石・尿管結石の排出促進」とされている。

本薬は、古くから我が国において民間療法として賞用されていたウラジロガシを製剤したもので、尿路結石の排出促進作用を有し、耐用性は大で、長期間の使用が可能であるとされている。

本薬の薬理作用として、次の3点が報告されている。

  1. 結石の発育抑制並びに溶解作用:リン酸石灰結石をウラジロガシエキス含有尿で灌流するとき、溶解作用が認められ(invitro)、動物実験でのウラジロガシエキスの経口投与は、結石の発育抑制作用及び溶解作用を示す(ラット)。
  2. 抗炎症作用:足蹠浮腫(ラット)、血管透過性の亢進(ウサギ)及び胸膜炎(ラット)を抑制する。
  3. 利尿作用:一過性の尿量増加を示す(尿路結石患者)

本薬の有効性については、尿管結石72.9%、腎結石21.0%、その他の結石(前立腺結石、膀胱結石他)38.1%の有効率が報告されている。

本薬の副作用として胃腸系(胃部不快感、下痢等)の副作用が報告されている。

[1998.4.1.古泉秀夫]


  1. 三橋博・監修:原色牧野和漢薬草大図鑑;北隆館,1988.p.17
  2. ウロカルン添付文書,1996.8.改訂

ウコンとアムロジンの相互作用について

水曜日, 8月 8th, 2007

?KW:相互作用・健康食品・鬱金・ウコン・アムロジン・代替医療

Q:健康食品として市販されているウコンとアムロジンの相互作用について

A:健康食品として市販されているウコン(鬱金)は、ショウガ科の植物の根塊である。姜黄(キョウオウ・和名:ウコン)、鬱金(ウコン・和名:ハルウコン)及び莪朮(ガジュツ・和名:ガジュツ)。

  1. ウコン:学名Curcuma longa L. →姜黄。
  2. ハルウコン:学名Curcuma aromatica Salisb.
  3. ガジュツ:学名Curcuma zedoaria(Berg.)Rosc. 鬱金は熱帯アジア、インドを原産地とし、熱帯及び亜熱帯アジア諸国、台湾、ハイチ、ジャマイカ、ペルーを主産地とする多年生草木で、食品添加物としてウコン色素(クルクミン:curcumin)が用いられる。また、本品はターメリック色素(turmeric oleoresin)とも呼称される。
  • [成分]
    鬱金(学名Curcuma longa L. →姜黄・Curcuma aromatica Salisb.→鬱金)の根茎には精油4.5%、6%が含まれる。
    精油中にはターメロン58%、ジンゲレン25%、フェランドレン1%、1,8-シネオール1%、サピーネン0.6%、ボルネオール0.5%、デヒドロターメロン等が含まれる。
    更にクルクミン0.3%・1.1%・4.8%及びアラビノース 1.1%、フルクトース12%、グルコース28%、脂肪油、澱粉、蓚酸塩等が含まれる。鬱金色素は鬱金の根茎から得られたcurcuminを主成分とするもので、食用油脂を含むことがある。
    本品は黄?暗赤褐色の粉末、塊、ペースト又は液体で特異な臭いがある。curcuminは、β-ジケトン類に属する黄色色素である。
    その他、鬱金の含有成分について、次の報告も見られる。
    精油を1.5?5.5%含有し、その構成成分はturmerone、(+)-ar-turmerone、zingiberene、(+)-α- phellandrene、cineol等である。黄色色素はcurcumin(0.3%)、p-coumaroyl feruoylmethane、di-p-coumaroylmethane等である。
    その他、脂肪油、澱粉などを含有する。
  • [薬理]1.利胆作用:姜黄の煎剤及び浸剤はイヌの胆汁分泌を増加させ、胆汁成分を正常に回復させる。更に胆嚢の収縮を増大し、その作用は弱いが持久的で、1?2時間持続する。curcuminとそのナトリウム塩には利胆作用があり、イヌに静脈注射すると、個体成分の含有量を減少させて、胆汁の分泌量を増加させる。しかし総合的な絶対値から見ると、コール酸塩・ビリルビン・コレステロールの分泌量はいずれも増加し、脂肪酸の成分は一定を保つ。もう一つの同属植物から抽出された精油は、胆汁分泌を増加させ、色素は胆嚢の収縮を惹起する。curcumenはコレステロールの溶剤となり、胆道結石の治療に用いることができる。50%の姜黄煎剤は、食欲を増進させる。その他、利胆作用についてcurcumine、turmerone、 cineol等の成分が肝細胞を刺激して分泌を増大、胆汁排泄も促進するので、利胆薬に分類される。大量では肝臓の脂肪変性を起こす。2 . 消化器作用:精油懸濁剤の経口投与により、口腔粘膜の刺激に伴う唾液分泌の亢進が見られる。胃内では、胃に温感を与え、胃運動を亢進、分泌を刺激する。これらの作用により食欲増進、健胃作用を示す。消化管運動は、始め緊張を増し、その後弛緩させる。3 .子宮に対する作用:片姜黄及び色姜黄の煎剤と浸剤(2%の塩酸を溶剤とする)は、マウス・モルモットの摘出子宮に対しては興奮作用があり、ウサギの子宮瘻管に対しては周期的収縮を起こし、1回の投与で5?7時間その作用が持続する。

    4.降圧作用:姜黄のアルコール抽出液は、麻酔下のイヌに対して降圧作用を示し、この作用はアトロピンの注射及び迷走神経切除によっても、影響を受けない。あらかじめ麦角エキスを注射しておくと、降圧作用を上昇作用へと逆転させることができ(コプチシンの逆転作用と相似したことがある)、エーテルによる抽出成分は、降圧作用は極めて弱い。

    5.心臓作用:麻酔ネコの心電図を指標とした実験で、心房、心室の収縮力を増大させる作用が認められたが、過剰量では抑制作用のみが発現した。心臓促進作用と同時に、呼吸興奮作用のあることも確認されている。

    6.抗菌作用:curcumin及び精油の成分は、黄色ブドウ球菌に対して比較的良好な抗菌作用がある。姜黄の水浸液はin vitroで多種の皮膚真菌に対して、それぞれ程度の異なる抑制作用を示す。煎剤はウイルスを接種したマウスに対し、生存期間を延長する。しかしウイルス性肝炎のうえに化学性(四塩化炭素)の肝障害が加わったものに対しては効果がない。この他姜黄の製剤はハエを殺すことができる。

    7.その他の作用:姜黄の煎剤は鎮痛作用があり、カエルの摘出心増に対しては顕著な抑制を示す。適用として『芳香健胃薬として各種の処方に配合される。
    また利胆薬として肝炎、胆道煙、胆石症、カタル性黄疸に用いる。常用量は粉末として6?20g/ 日』等の報告が見られる。
    amlodipine besilate[アムロジン(住友)]は、持続性Ca拮抗剤であり、高血圧症、狭心症の治療薬である。
    本剤に関しては飲食物との相互作用は報告されていない。
    但し、鬱金のアルコール抽出液では降圧作用を示したとされている。
    鬱金を経口摂取した場合とアルコール抽出物を摂取した場合とでは、鬱金中の成分摂取量が異なることが考えられるが、念のため処方医に鬱金摂取の事実を報告することが必要であると考える。ただ、鬱金はカレー粉、沢庵、漬物、ピクルス、フレンチマスタード、ピラフ、マーガリン、バター、チーズ、フルーツドリンク、リキュール酒に用いられ、また高価なサフランの代用としてブイヤベース、パエリア等のフランス料理、スペイン料理の着色料として用いられるとされている他、インドネシアでは、新郎・新婦が自分達の腕をウコンで黄色に染め、日本の赤飯の代わりに鬱金で色付けした黄飯を食べるという伝統が残っているとする報告も見られる。
    多くのアジア諸国では芳香性健胃薬や駆風剤(腸内ガス除去)、利胆薬として肝臓炎、胆石症、カタル性黄疸に用いられ、また治療中の潰瘍の内服薬や皮膚のはれ物、炎症を抑える軟膏として用いられている等の報告から考えると鬱金の摂取が直ちに服用中の薬物と相互作用を起こすことはないのではないかと考える。

[015.2CUR:2000.6.19.古泉秀夫]


  1. 鈴木郁生・他監修:第7版 食品添加物公定書解説書;広川書店,1999
  2. 高木敬次郎・他編:和漢薬物学;南山堂,1983
  3. 上海科学技術出版社・編:中薬大辞典;小学館,1985
  4. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2000
  5. アムロジン錠添付文書,1999.12.改訂

ウコンとワーファリンの相互作用について

水曜日, 8月 8th, 2007

KW:相互作用・健康食品・代替医療・漢方薬・ウコン・鬱金・ワーファリン

Q:健康食品として市販されているウコンとワーファリンの相互作用について

A:健康食品として市販されているウコン(鬱金)は、ショウガ科の植物の根塊である。姜黄(キョウオウ・和名:ウコン)、鬱金(ウコン・和名:ハルウコン)及び莪朮(ガジュツ・和名:ガジュツ)。

  1. ウコン:学名Curcuma longa L. →姜黄。
  2. ハルウコン:学名Curcuma aromatica Salisb.
  3. ガジュツ:学名Curcuma zedoaria(Berg.)Rosc.

鬱金は熱帯アジア、インドを原産地とし、熱帯及び亜熱帯アジア諸国、台湾、ハイチ、ジャマイカ、ペルーを主産地とする多年生草木で、食品添加物としてウコン色素(クルクミン:curcumin)が用いられる。

また、本品はターメリック色素(turmeric oleoresin)とも呼称される。

  • [成分]
    鬱金(学名Curcuma longa L. →姜黄・Curcuma aromatica Salisb.→鬱金)の根茎には精油4.5%、6%が含まれる。精油中にはターメロン58%、ジンゲレン25%、フェランドレン1%、1,8-シネオール1%、サピーネン0.6%、ボルネオール0.5%、デヒドロターメロン等が含まれる。更にクルクミン0.3%・1.1%・4.8%及びアラビノース 1.1%、フルクトース12%、グルコース28%、脂肪油、澱粉、蓚酸塩等が含まれる。鬱金色素は鬱金の根茎から得られたcurcuminを主成分とするもので、食用油脂を含むことがある。本品は、黄?暗赤褐色の粉末、塊、ペースト又は液体で、特異な臭いがある。curcuminは、β-ジケトン類に属する黄色色素である。その他、鬱金の含有成分について、次の報告も見られる。

    精油を1.5?5.5%含有し、その構成成分はturmerone、(+)-ar-turmerone、zingiberene、(+)-α-phellandrene、cineol等である。黄色色素はcurcumin(0.3%)、p-coumaroyl feruoylmethane、di-p-coumaroylmethane等である。その他、脂肪油、澱粉などを含有する。

  • [薬理]1.利胆作用:姜黄の煎剤及び浸剤はイヌの胆汁分泌を増加させ、胆汁成分を正常に回復させる。更に胆嚢の収縮を増大し、その作用は弱いが持久的で、1?2時間持続する。curcuminとそのナトリウム塩には利胆作用があり、イヌに静脈注射すると、個体成分の含有量を減少させて、胆汁の分泌量を増加させる。しかし総合的な絶対値から見ると、コール酸塩・ビリルビン・コレステロールの分泌量はいずれも増加し、脂肪酸の成分は一定を保つ。もう一つの同属植物から抽出された精油は、胆汁分泌を増加させ、色素は胆嚢の収縮を惹起する。curcumenはコレステロールの溶剤となり、胆道結石の治療に用いることができる。50%の姜黄煎剤は、食欲を増進させる。その他、利胆作用についてcurcumine、turmerone、 cineol等の成分が肝細胞を刺激して分泌を増大、胆汁排泄も促進するので、利胆薬に分類される。大量では肝臓の脂肪変性を起こす。2 . 消化器作用:精油懸濁剤の経口投与により、口腔粘膜の刺激に伴う唾液分泌の亢進が見られる。胃内では、胃に温感を与え、胃運動を亢進、分泌を刺激する。これらの作用により食欲増進、健胃作用を示す。消化管運動は、始め緊張を増し、その後弛緩させる。

    3 .子宮に対する作用:片姜黄及び色姜黄の煎剤と浸剤(2%の塩酸を溶剤とする)は、マウス・モルモットの摘出子宮に対しては興奮作用があり、ウサギの子宮瘻管に対しては周期的収縮を起こし、1回の投与で5?7時間その作用が持続する。

    4.降圧作用:姜黄のアルコール抽出液は、麻酔下のイヌに対して降圧作用を示し、この作用はアトロピンの注射及び迷走神経切除によっても、影響を受けない。あらかじめ麦角エキスを注射しておくと、降圧作用を上昇作用へと逆転させることができ(コプチシンの逆転作用と相似したことがある)、エーテルによる抽出成分は、降圧作用は極めて弱い。

    5.心臓作用:麻酔ネコの心電図を指標とした実験で、心房、心室の収縮力を増大させる作用が認められたが、過剰量では抑制作用のみが発現した。心臓促進作用と同時に、呼吸興奮作用のあることも確認されている。

    6.抗菌作用:curcumin及び精油の成分は、黄色ブドウ球菌に対して比較的良好な抗菌作用がある。姜黄の水浸液はin vitroで多種の皮膚真菌に対して、それぞれ程度の異なる抑制作用を示す。煎剤はウイルスを接種したマウスに対し、生存期間を延長する。しかしウイルス性肝炎のうえに化学性(四塩化炭素)の肝障害が加わったものに対しては効果がない。この他姜黄の製剤はハエを殺すことができる。

    7.その他の作用:姜黄の煎剤は鎮痛作用があり、カエルの摘出心臓に対しては顕著な抑制を示す。
    適用として『芳香健胃薬として各種の処方に配合される。また利胆薬として肝炎、胆道煙、胆石症、カタル性黄疸に用いる。常用量は粉末として6?20g/日。』等の報告が見られる。

warfarin potassiumと飲食物の相互作用については、食品中に含まれるビタミンKの影響が報告されている。
しかし、公表されている鬱金の成分としてビタミンに関する報告はされていない。

この結果から鬱金中にビタミンの存在はないと判断するのかあるいは測定されていないだけなのかは不明であるが、鬱金はカレー粉、沢庵、漬物、ピクルス、フレンチマスタード、ピラフ、マーガリン、バター、チーズ、フルーツドリンク、リキュール酒に用いられ、また高価なサフランの代用としてブイヤベース、パエリア等のフランス料理、スペイン料理の着色料として用いられるとされている。
他、インドネシアでは、新郎・新婦が自分達の腕をウコンで黄色に染め、日本の赤飯の代わりにウコンで色付けした黄飯を食べるという伝統が残っている。インドでは女性の無駄毛を抑える目的で外用薬として塗布しているとする報告も見られる。

多くのアジア諸国では芳香性健胃薬や駆風剤(腸内ガス除去)、利胆薬として肝臓炎、胆石症、カタル性黄疸に用いられ、また治療中の潰瘍の内服薬や皮膚のはれ物、炎症を抑える軟膏として用いられている等の報告から考えるとwarfarin potassiumと鬱金の間に相互作用があるとすれば、既に何等かの報告がされているはずであるが、検索した結果、そのような報告が見られないことから鬱金とwarfarin potassiumとの間に相互作用はないものと判断される。

[015.2CUR:2000.6.19.古泉秀夫]


  1. 鈴木郁生・他監修:第7版 食品添加物公定書解説書;広川書店,1999
  2. 高木敬次郎・他編:和漢薬物学;南山堂,1983
  3. 上海科学技術出版社・編:中薬大辞典;小学館,1985
  4. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2000

医師無承諾の処方薬変更について

水曜日, 8月 8th, 2007

KW:法律・規則・処方せん・処方変更・医師承諾・医師法・医療法施行規則・疑義照会

Q:今回、医師が処方したインサイドパップ10cm×14cmのところ欠品だったため医師に疑義照会をせず、患者に成分効能が同じと説明し了解を得たのでイドメシンコーワパップを調剤した。この調剤について、違反だとして保健所の査察を受け、始末書の提出を求められたが、患者の同意を得た上で同一組成・同効薬を投薬しても違反となるのか。

A:医師の=処方せんの交付義務=を定めた医師法第21条では『医師は、患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には、患者又は現にその看護に当たっている者に対して処方せんを交付しなければならない。ただし、患者又は現にその看護に当たっている者が処方せんの交付を必要としない旨を申し出た場合及び次の各号の一に該当する場合においては、この限りでない。』(以下省略)。

=処方せんの記載事項=を定めた医療法施行規則第21条では『医師は、患者に交付する処方せんに、患者の氏名、年齢、薬名、分量、用法、用量、発行の年月日、使用期間及び病院若しくは診療所の名称及び所在地又は医師の住所を記載し、記名押印又は署名しなければならない』と規定されている。

医師法第21条を見るまでもなく、処方せんを書くという行為は医師の専権事項であり、医療法施行規則第21条では、処方せんに『薬名』を書くことを規定されている。

従って、医師が記載した処方せん上の医薬品名を、医師の了解無しに勝手に変更して調剤したとすれば、処方せんを改竄したととられても抗弁のしようはない。

今回の場合、在庫切れということであれば、

  1. 処方せん持参患者の待ち時間の余裕はどの程度あるのか、又は配達可能範囲か
  2. 卸に緊急の配送が依頼できないか
  3. 近隣の調剤薬局からの借り入れはできないか

等について検討することが先決である。

患者に時間的余裕がなく、遠方で配達する事は不可能。更に近隣の薬局からの借り入れ、卸の緊急配送が困難等の条件が重なったとき、初めて最終的な選択として医師に連絡し処方せんの変更を依頼するというのが取るべき手順である。

◆処方せんによる調剤について薬剤師法第23条に次の規定がされている。

第23条 薬剤師は、医師、歯科医師又は獣医師の処方せんによらなければ、販売又は授与の目的で調剤してはならない。

二 薬剤師は、処方せんに記載された医薬品につき、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師の同意を得た場合を除くほか、これを変更して調剤してはならない。

罰則=法30条(2)

更に第23条には罰則規定が定められている。

第30条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役若しくは五万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

二 第22条、第23条又は第25条の規定に違反した者

なお、今回の事例とは直接関係しないが、処方せんに関する疑義紹介について、次の規定が定められている。

◆処方せん中の疑義(薬剤師法)

第24条 薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない。

罰則=法31(3)

本条項は、医師等の記載した処方内容を第三者である薬剤師が、薬学的な知識に基づき監査し、薬剤の最終使用者である患者の安全性を確保することを目的としたものである。

その意味では、薬剤師としての感性により処方箋上に疑義を見出した場合、必ず疑義照会をしなければならない。

なお、本条項に関連する罰則規定は、以下の通りである。

第31条 次の各号のいずれかに該当する者は、三万円以下の罰金に処する。

三 第24条又は第26条から第28条までの規定に違反した者

また、「保険医療機関及び保健医療養担当規則(以下「療養担当規則」)」第23条において「保険医は、処方せんを交付する場合には、様式第2号又はこれに準ずる様式の処方せんに必要な事項を記載しなければならない。」、

「2.保険医は、その交付した処方せんに関し、保険薬剤師から疑義の照会があった場合には、これに適切に対応しなければならない。」の記載がされている。

疑義照会時の具体的注意事項について、院内処方せんと院外処方せんでは、若干の違いがあるが、原則的には以下の通りである。

  1. 処方せんに関する疑義照会は、殆どの場合、電話による照会となる。電話の場合、相手が現在何をしているのかが不明のまま会話が始まるため、最初に患者名及び処方せんに関する疑義照会であることを伝える。
  2. 時に看護婦等が疑義内容を取り次ぐことがあるが、第三者が間にはいることで質問の主旨が正確に医師に伝わらないことがあるため、可能な限り処方医に直接伝える。
  3. 時間のロスを避けるため、質問内容はあらかじめメモ等にまとめ、明快に意図を伝達する。
  4. 疑義照会の結果、処方内容の変更がされた場合、疑義事項が残るよう二本線で抹消し、訂正印を捺印。変更内容を処方せんあるいは備考欄に記載する。また、用法・用量、薬剤の単位等について疑義照会し、追加記載する場合には、追加記載が明確に判別できるよう追加記載部分に下線を引く等による区分をし、訂正印を捺印する。なお、その内容をレセプトにも記載する(院内処方:医事課に連絡する)。
  5. 次回処方せん記載時の医師の情報源は「カルテ」である。カルテの転記ミスによる誤記でない限り、次回処方時、同様の誤記が起こることが考えられるので「カルテ」と異なる変更がされた場合には、「カルテ」の訂正を依頼する。

なお、厚生省保険局保健医療課長通知保険発第33号(平成6年3月29日)により疑義照会に関連し、次の事項を「備考」欄又は「処方」欄に記入することとされている。

  • ア.処方せんを交付した医師又は歯科医師の同意を得て処方せんに記載された薬品名を変更して調剤した場合には、その変更内容。
  • イ.医師又は歯科医師に疑義照会を行った場合は、その回答の内容。

上記「ア」は、疑義照会の事例に限定されたものではなく、「処方せんによる調剤」として薬剤師法上に規定されている内容に対する対応である。


  1. 基本医療六法 平成17年版;中央法規,2004
  2. 日本公定書協会・編:薬事衛生六法;薬事日報社,1997
  3. 診療点数早見表;医学通信社,1998
  4. 日本薬剤師会:処方・調剤・保険請求のQ&A;調剤と情報,2(3):281(1996)

-参照-

その他、処方せんに記載される医薬品について厚生省医務・薬務両局長通知(昭和31.3.30.薬発第120号、各都道府県知事宛)として、次の文書が発出されている。

 

「処方せんの記載並びに調剤について」

新医薬制度の実施上留意を要すると認められる点については、すでに3月13日薬発第94号をもって通知したところであるが、更に左記の点についても関係者に周知徹底方何分の御配意を煩わしたい。

処方せんに記載する医薬品の名称は、公定書名、一般名又は商品名の何れを用いても差し支えないが、このうち商品名については、特に医師、歯科医師又は獣医師がその商品を指定する意思を表明する場合には、その商品名に(特)と附記する等の方法によって、その旨を明らかにするよう指導されたいこと。

薬剤師が調剤する場合、商品名で記載された医薬品については、原則としてその商品名のものを使用することを要し、(特)と附記する等の方法により特にその商品を使用することを指定する旨の表明がされている医薬品については、その商品名の医薬品を使用しなければならないこと。

ただ、処方せんに記載された商品名の医薬品が手許にない場合において、特にその商品を使用すべき旨の表明がなされていないときには、当該医薬品が公定書収載医薬品であれば、これと同一の成分分量を有する他の医薬品を使用して調剤しても差し支えないものとも考えられるが、この場合でもでき得る限り処方せんを交付した医師等と連絡することとするよう指導されたいこと。

以上の通知について、その主旨を考えた場合、次の3項に区分できる。

  1. 『商品名で記載された医薬品は原則として商品名のものを使用すること』
  2. 『特にその商品を使用することを指定する旨の表明がされている医薬品はその商品名の医薬品を使用』
  3. 『処方せんに記載された商品名の医薬品が手許にない場合において、特にその商品を使用すべき旨の表明がなされていないときには、当該医薬品が公定書収載医薬品であれば、これと同一の成分分量を有する他の医薬品を使用して調剤しても差し支えないものとも考えられる』

1は『原則として』とされてはいるが、『商品名のものを使用』とされており、代替調剤を容認しているものとは考えられない。

2は『医師が商品名を指定』しており、代替調剤の対象外である。

3は『処方せんに記載された商品名の医薬品が手許にない場合において、特にその商品名の使用が特定されておらず、当該医薬品が局方品であれば、同一成分分量を有する他の医薬品の使用』としているが、『できえる限り医師に連絡』としており、あくまで医師の意志確認が求められている。

つまり使用薬剤の範囲は狭く限定されており、米国でいう代替調剤には該当しない。

[615.1.ACC:2005.9.30.古泉秀夫]


  1. 武藤正樹・他:座談会 後発医薬品を育てる-不安を信頼に変えるために;週刊医学界新聞,第2591号,2004.7.5.
  2. http://www.ncc.go.jp/nk-cc/ingai-syohou/saiyoulist.html,2004.7.10.

イミグラン錠の適応外使用について

水曜日, 8月 8th, 2007

KW:特殊用例・適応外使用・イミグラン錠・コハク酸スマトリプタン・sumatriptan succinate・片頭痛・群発頭痛

Q:イミグラン錠1回30錠とする処方せんがでるが、適応外使用で何か特殊な使用法がされているのか。

A:イミグラン錠(GSK)は、1錠中にコハク酸スマトリプタン(sumatriptan succinate)50mgを含有する『片頭痛』治療薬である。

本剤の作用として5-HT1B、5-HT1Dに作用して頭痛発作時に過度に拡張した頭蓋内外の血管を収縮 させることにより片頭痛を改善すると考えられている。 本剤の用法として『1回50mgを片頭痛の頭痛発現時に経口』

  1. 効果不十分な場合には、追加投与可能→前回の投与から2時間以上あけること。
  2. 50mgで効果が不十分であった場合には、次回片頭痛発現時から100mgを経口可。
  3. 1日の総投与量は200mg以内とされている。

sumatriptanは5-HT1B/1D 受容体の選択的作動薬で、欧米において既に数年以上の使用経験があり、有効性が確立している片頭痛、群発頭痛の治療薬である。酒石酸エルゴタミンより有効率が高く、悪心・嘔吐などの片頭痛の随伴症状にも効果があることが特徴である。 本剤注射薬の適応は、片頭痛、群発頭痛の両者であるが、経口薬の適応は片頭痛のみである。

  1. 通常、1回50mgを発作時に内服する。効果発現までに30分程度を要し、2時間後の頭痛改善率は約60%、消失率は約30%で、注射薬との比較では効果発現までの時間が長く、また有効率も低い。
    効果が十分でない場合、また頭痛が再発する場合(24時間以内の再発率約30%)は、2時間の間隔を開ければ、 24時間以内に2回まで服用してよい。また次回の発作時には、はじめから100mgを投与することも可能である。
  2. 本剤はあくまでも頭痛の発作治療薬であるので、発作の予防を目的に投与してはならない。また経口薬の適応は片頭痛だけであり、群発頭痛には適応しない。
  3. 一つのトリプタン製剤が無効であっても、他のトリプタン製剤を試してみる価値はある。
    その他、非家族性の片麻痺性片頭痛、脳底型片頭痛で神経脱落症状・意識障害が高度でなく、これまでも数回の発作があって完全に回復している例では、専門医が慎重に経過を観察しながらトリプタンを使用することは容認されてもよいと思われる。
    この様な使用経験を蓄積した上で、臨床的な有用性や標準的な使用法のコンセンサスが得られれば、将来的に適応が承認されるべきである。
    ただし、現時点でこれらの病態への使用を広く一般に勧めることには慎重であるべきと考えるとする報告が見られる。
    以上の調査の結果では、sumatriptan succinateを片頭痛以外の特殊な適応に適応外使用する事例は検索できなかった。質問の内容からは、処方せんの記載がどの様になっているのか不明であるが、

    イミグラン錠1錠/回
    発作2時間の間隔を開け最大2回まで×30

    とする処方内容であれば、通常、特に問題があるとは考えられないが、片頭痛発作時に1回『服用』するという本剤の適用から見て、1回の処方量は 10錠程度といわれており、1回の処方量が30錠というのは、減額査定の対象となるのではないかとする意見も見られる。

[035.4.SUM:2005.1.24.古泉秀夫]


  1. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
  2. 竹島多賀夫・他:トリブタン治療最前線? 特殊な片頭痛におけるトリブタン使用の是非?片麻痺性片頭痛、脳底型片頭痛など;医学のあゆみ, 204(7):483-487(2003.2.)
  3. 山口徹・他総編:今日の治療指針;医学書院,2005
  4. GSK学術課・私信,2005.1.

院内製剤とPL法

水曜日, 8月 8th, 2007

KW:法律規則・院内製剤・一般用製剤・特殊製剤・PL法・坐薬・プラセボ

Q:院内製剤はPL法の規制を受けるか。また坐薬のプラセボは入手できるか

A:病院における院内製剤は、調剤予備行為としての一般製剤と特定の患者を対象として市販されていない製剤を調製する院内特殊製剤とに区分される。

調剤予備行為としての一般製剤は、調剤業務・診療業務の効率化、合理化(予製剤・消毒剤の希釈)を目的として調製するものであり、調剤過誤防止・病棟での消毒薬の誤用等を回避する目的も含めて、比較的大量に調製するもので、医師の処方に基づく調剤の範疇であり、PL法の規制は受けないと考えられている。

院内特殊製剤は、市販製剤として入手不可能であり、特定な患者の治療に限定して調製される製剤である。医師が特殊疾患、難治性疾患の患者を診療する場合、あるいは新しい治療法を開発する場合、市販にない処方、剤形の製剤を必要とすることが多い。これらの必要性に対応ずべく、調製するのが特殊製剤である。

特殊製剤申し込みの実際としては、医師は『特殊製剤依頼書』を薬剤部に提出する。この時その製剤に関する文献等を一緒に添付してもらう。

製剤室では製剤にあたっての調製設備、試験設備、原料の入手法等を検討し、製剤可能か否かを決定する。その後、薬剤部長決裁を求め、院内倫理委員会において製剤化の可否判断を求める。その際、使用に際して使用する患者説明文書、同意取得文書の原案を提出し、最終的な製剤化の適否について審議する。

倫理委員会の審議に際しては、申請医師及び製剤室責任者は十分に話し合いを行い、文献等の資料を提出し、判定を仰ぐ必要がある。更に調製後も有効性、安全性、製剤の安定性等の資料を収集し、倫理委員会に報告することを忘れてはならない。

以上の手順を踏んで同意文書を得た上で実施する場合、PL法上の問題はないものと考えているが、調製した製剤に不備があった場合、『業務上の過失(注意義務違反)』は当然追求される。

なお、病院の薬剤部設置の根拠法は、医療法(調剤所)であり、薬剤師法上の薬局ではないため、院内製剤を院内に限定して使用している限り薬事法上の違反に問われることはないと考えられている。

『坐薬』に限らず、院内で使用するプラセボを院外から入手することは困難である。

製薬企業に製剤を依頼することを考えたとしても、製薬企業が製造する場合、薬事法上の承認が必要であるとされており、承認なしに調製した場合、無許可での販売に該当するため、企業に依頼することは不可能である。

最終的には医師の処方に基づき『院内調製』することになるが、製剤室等の設備がない場合、調製は困難であると考えられる。

また、プラセボという以上、現在使用している坐薬と全く同一の剤形とすることが必要であり、対象薬剤によっては調製困難な場合も考えられる。

[615.1.PLA:2004.12.14.古泉秀夫]


  1. 全国国立病院療養所薬剤部科長協議会・監修:病院薬局管理学;薬業時報社,1994

咽頭炎に対する点鼻薬の処方

水曜日, 8月 8th, 2007

KW:薬物療法・咽頭炎・pharyngitis・急性咽頭炎・慢性咽頭炎・アレルギー性鼻炎・血管運動性鼻炎・点鼻薬・フルニソリド・ flunisolide・シナクリン点鼻液

Q:咽頭炎の治療に鼻炎治療用の点鼻薬(フルニソリド等)が処方されることがあるが、このような使用法は適応外使用に当たらないか

A:咽頭炎(pharyngitis)とは、口狭、咽頭の粘膜及びこの部のリンパ組織の炎症をいうとされている。

  • 急性咽頭炎:感冒、種々の物理的・化学的刺激、鼻疾患などの隣接部位の炎症の波及、その他伝染性疾患に際して起こり、咽頭粘膜の発赤腫脹を伴い、嚥下痛、発熱、異物感、乾燥感、及び分泌過多を起こす。
  • 慢性咽頭炎:急性炎症からの移行、塵埃、乾燥、寒冷、熱気、飲酒、喫煙及び鼻疾患などの咽頭粘膜への持続的刺激により生ずる。

等の報告が見られる。

一方、フルニソリド(flunisolide)製剤である「シナクリン点鼻液(大塚)」の承認適応は、「アレルギー性鼻炎、血管運動性鼻炎」の2適応である。

咽頭炎がウイルス又は細菌の感染に起因する場合、本剤の添付文書中に禁忌として「有効な抗菌剤の存在しない感染症、全身の真菌症の患者[免疫抑制作用により、症状が増悪するおそれがある]」の記載がされており使用は回避すべきである。

咽頭炎の原因が、アレルギー性の鼻疾患に関連するもの又は血管運動性鼻炎との関連の疑いがあり、flunisolide製剤の投与がされた場合、原疾患の治療ということで、適応外使用には当たらないと考えられる。

しかし、いずれにしろ医師の診断の根拠が明確にならない限り、本剤使用の是非を論ずることは困難である。

[035.1.PHA:2004.1.27.古泉秀夫]


  1. 医学大辞典;南山堂,1992
  2. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2003
  3. シナクリン点鼻液添付文書,2002.12.改訂
  4. 高久史麿・他監訳:ワシントンマニュアル 第9版;メディカル・サイエンス・インターナショナル,2002

インスリン注射の副作用-難聴

水曜日, 8月 8th, 2007

KW:副作用・インスリン注射液・難聴・2型糖尿病・非インスリン依存型糖尿病・ミトコンドリア・mitochondria・ミトコンドリア細胞症・ミトコンドリア脳症

Q:糖尿病でインスリン注射をしている患者が難聴になり易いと聞いたが、難聴になり易い理由又は発生機序について

A: インスリン(insulin)注射液の副作用として『難聴』の記載は見られない。高齢者に多く見られる2型糖尿病(非インスリン依存型糖尿病)は、体内でエネルギーを生産する細胞内器官ミトコンドリア(mitochondria)の機能の衰えに関係があることを、米・エール大学の研究チームが突き止め、米紙・サイエンスに発表した。

健康な高齢者と若年者の2グループにブドウ糖を投与し、代謝機能を詳細に検討した結果、

  1. 若者に比較して血糖値が下がり難い
  2. 血糖値を制御するために膵臓が分泌するインスリンも若者に比べ長時間にわたり高濃度を保つ
  3. 筋肉や肝臓の脂肪レベルが高い

等の糖尿病に近い傾向があることが解った。

また高齢者の筋肉内細胞が含むmitochondriaの機能を、特殊な方法で測定したところ、糖からエネルギーを取り出す働きが、若者に比べて最大で 40%も低下していた。この働きはインスリンの分泌に深く関与しており、mitochondriaの老化が、高齢者に糖尿病が多いことの理由と考えられるとしている。

mitochondriaの異常により全身の臓器が障害される病態は、ミトコンドリア細胞症(mitochondrial cytopathy)と総称し、骨格筋と中枢神経の障害を示すミトコンドリア脳症が主体である。血液・髄液中の乳酸・ピルビン酸、筋生検、ミトコンドリア遺伝子変異、画像検査などを行う。代謝性アシドーシス・糖尿病・心筋症などの種々の合併症を伴うことがある。

細胞のエネルギー工場に当たるmitochondriaのDNAに変異が起きたため、膵臓のインスリンを分泌する細胞の働きが障害され、糖尿病になる場合のあることが解ってきた。

mitochondria遺伝子異常による糖尿病は、全糖尿病患者の1%のヒトに認められ、日本には数万人の患者がいることになる。

このタイプの糖尿病は一見普通の糖尿病と変わらないが、インスリン分泌は低下し、進行してインスリン注射の必要が多い、難聴を合併する、心電図変化が見られる等が特徴としてあげられる。

mitochondria異常による糖尿病では、母親に糖尿病を持っている人が多く、本人が男性であれば糖尿病は子孫に遺伝しないが、女性であれば遺伝することがある等の報告が見られる。

以上の各報告から『インスリン注射による難聴』ではなく、mitochondria遺伝子の異常に起因する糖尿病患者の場合、『難聴』の発生は、原因疾患に起因するものであるといえる。

[065.MIT:2004.2.3.古泉秀夫]


  1. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
  2. 2型糖尿病 ミトコンドリア老化が原因;読売新聞,2003.5.20.
  3. 山口徹・他総編:今日の治療指針;医学書院,2004
  4. 門脇 孝:ミトコンドリア遺伝子異常;
    http://www.jadce.or.jp/documents/booklets/clinic2/4.html,2004.2.3.
  5. 瀬野悟史・他:糖尿病を伴った突発性難聴;耳鼻咽喉科臨床,92(11):1171-1180(1999.11.)
  6. 金澤康徳:遺伝子異常と糖尿病-ミトコンドリアDNA異常を中心に-;日本医事新報,No.3731(平成7.10.28.)