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「クレアチンの副作用」

月曜日, 4月 4th, 2005

 

KW:副作用・クレアチン・creatine・クレアチンリン酸・creatine phosphate・ホスホクレアチン・hospho creatine・メチルグリコシアミン・methylglycocyamine

Q:クレアチンの副作用について

A:クレアチン(メチルグリコシアミン:methylglycocyamine)。[英]creatine、[独]Kreatin、[仏]créatine。

筋肉や神経組織に遊離又はクレアチンリン酸(creatine phosphate、ホスホクレアチン:hospho creatine)として多く存在する。creatine phosphateは、高エネルギーリン酸結合をもち、高エネルギーリン酸の貯蔵として働く。creatineは肝臓でグリシンとアルギニンから生成されるグアニジノ酢酸にS-アデノシルメチオニンのメチル基が転移して合成される。creatineは腎糸球体でろ過されるが、尿細管で再吸収されるので成人男子では殆ど尿中に排出されない。筋肉ではcreatine phosphateは非酵素的反応でクレアチニン(creatinine)となり、尿中に排出される。その他creatineが直接creatinineとなる反応も存在するらしいの報告がされている。

creatineの副作用については、医薬品と異なり医師等の監視下に使用されているわけではないため、詳細な報告は見られないが、一部専門家の監視下で使用された際の副作用報告がされている。

経口creatine補助剤、製薬会社の推奨服用量で、よく忍容するように思われる。補助剤を服用したネフローゼ症候群の患者1例で、腎不全が報告されている[Pritchard NR,et al:Lancet,351:1252,April25,1998]が、健常人では有害な副作用は見られていない[Poortmans JR ,et al:ancet,352:234,July18,1998]。FDAへの副作用症例報告には発疹、消化不良、嘔吐、下痢、神経質、不安、疲労、片頭痛、筋障害、多発性筋炎、発作及び心房細動が含まれる。ただし、FDAでは個々の副作用の背景については検討していないとされる。
なお、dietary supplementsは食事補助剤としている。

creatineは肝臓、腎臓、膵臓で合成され、肉や魚に含まれているが、ウェイトリフティングなどの強度の高い運動の能力を高めるsupplementとして広く使用されている。一部の研究によってcreatineを含むsupplementが高負荷トレーニング中に力を増強することが明らかにされている[Willoughby DS,et al:Med Sci Sport Exerc,35:923(2003)]。大学フットボール選手を対象とした21ヵ月間のオープン試験では、平均5g/日を摂取したところ副作用は認められなかった[ Kreider RB,et al:Mol Cell Biochem,244:95(2003)]。creatineは水分貯留、体重増加及び筋痙攣の増加を惹起するとする報告がある[Persky AM,et al:Pharmacol,Rev,53:161(2001)]。

  creatineの経口投与による副作用報告データは、実験的研究以外では少ない。1998年10月までに米国FDAは32件の有害事象を収集した。残念ながら因果関係の評価は行われておらず、発症時の状況も記されていない。最も重篤な報告事項は2例の死亡、3例の不整脈及び6例の重篤な神経症状(大発作含む)であった。有害事象が報告されることは稀である。報告されるものは通常、筋痙攣(しばしば水分摂取不足による)等の軽い症状や非特異的な消化器症状などが多い。より重篤な報告としては横紋筋融解症1例、尿中クレアチニン上昇1例、腎機能障害2例があり、投与中止により改善した2例等があった。また中等度の血圧上昇をきたすこともある。フランスの食品安全局によれば、creatineを長期にわたって摂取した場合、発癌性を示唆する動物実験データがあるという[Pérès G.,Medecine Nutrition,37(3):107-123(2001)]。

その他、creatineの副作用について、以下の報告が見られる。

creatineは肉などの食物に含まれているアミノ酸の一種であり、通常量の摂取では問題はないと思われる。しかし、supplementとして大量のcreatineを摂取用すると、分解産物であるcreatinineの血中濃度が増加し、結果的に尿量の増加による腎臓・心臓への負担が増す可能性が考えられる。直接の因果関係は不明であるが、creatineの常用スポーツ選手に腎機能障害を惹起したという報告、心不全で死亡したという報告もみられる。一般的に、creatineは食後に十分な水分と一緒に服用するよう勧められている。十分な水分が必要な理由は、creatineの服用で脱水が生じやすいためとされる。食後に服用するのは、creatineは食後に摂取することで吸収されやすいからとされている。比較的多く見られる副作用としては、食欲増進、発汗などが挙げられている。国立療養所刀根山病院で、30名程度の患者・健常者にcreatine投与を試みた例では、胃部不快や下痢などの消化器症状、発汗、眠気などの症状が10名以上で見られた。いずれもその程度は軽く、副作用により摂取を中断した事例はなかったが、発現頻度は低いとはいえないとされている。また、自己購入して服用した例の中には10kg以上体重が増加した事例も見られた。急激な体重増加は筋肉や心臓への負担となる恐れがあり、適切な栄養指導と定期的な観察の下で服用する必要がある。また、creatineが本当に筋力を増強すると仮定すると、心臓や呼吸に過度の負担をかける可能性が問題となる。今回の研究では、心肺機能や肝・腎機能への著明な影響は見られなかったが、長期的な観察が重要であると考えられる。

ヒトを対象とした、creatine摂取の効果に関する研究はまだ十分ではない。動物実験の場合に相当する量を摂取すると、1日10g程度と考えられる。ヒトの身体に含まれるcreatineの総量は約100gと推定されており、1日10gは相当な摂取量である。このように多量のcreatineを摂取すると、分解産物であるcreatinineの血漿中濃度が増大し、結果的に尿量が増加して腎臓や心臓に負担をかけると考えられている。健康を考えるなら、肉や魚にも十分量(100g当たり約200mg)含まれていることを認識し、やみくもな摂取は避けるべきである。それでもなおcreatineを別途使用するというのであれば、摂取量を注意しながら、ペリオダイゼーション(periodization)の一期間に限って使用し、継続使用しないことが重要である。

creatine supplementは長期投与による悪影響が殆ど報告されていないため、インターネットの販売サイトでは副作用があまり無いと宣伝されているが、短期間の投与による副作用が無いわけではない。海外で報告されている副作用の中で、重要なものとして腎機能低下が報告されている。これは摂取したcreatineが体内でcreatinineという代謝物となって腎臓から排泄されるため、supplement摂取によって腎臓の仕事量が異常に増加することによるとされている。特に高齢者や腎臓疾患を有する者では、腎機能低下が見られるため危険であると考えられる。また、体重増加も多くの報告が見られる。体重増加は主に初回摂取時に見られることが多く、約1kgも増加した例が報告されている。これはcreatineに水分保持作用があり、初回摂取時には多目に摂取するため副作用が発現しやすいと考えられている。この他に、脱水症状、下痢などが報告されている。また、supplementとして売られているcreatineの原料は、サルコシンと呼ばれる牛組織由来の物質である。このため、狂牛病の感染源になる可能性も否定できない。事実、フランスではcreatine製品の販売が禁止されている。

機能障害度の高い筋ジストロフィー患者においてcreatine投与による筋力の改善について検討した報告で、筋ジストロフィー患者5名(16歳-23歳、DMD3名、FCMD2名)を対象とし、creatine 20g/日を1週間、その後5g/日を11週間、その後2.5g/日を維持量として合計12ヵ月間投与した事例で、DMDの1例は肝機能障害が出現し12週で投与を中止した。肝機能障害はcreatine中止後速やかに改善した。その他の副作用としては20g/日投与中の1例に一過性の軟便を認めた。

歩行可能な成人型筋ジストロフィー患者に対して、creatine投与の筋力・運動耐容能への効果等を評価する治験で、creatineの投与量として、導入1週間が20g/day、維持期は5g/dayを8週間継続した結果、有害事象として、眠気4名、発汗2名、体重増加2名、胃部不快感を1名で認めたが、何れも軽度でcreatineの継続に支障はなかった。しかし、自己購入で服用した患者で、著明な体重増加(10kg)、著明な発汗を認めた症例があった。

エネルギー放出補充薬であるcreatineは、野球、短距離走など、瞬発力を必要とする運動での成果を改善するだろう。しかし、長距離走、水泳、自転車競技などの持久運動には効果がない。creatineの使用によって筋肉線維は太くなり、身体はより高い抵抗トレーニング負荷に適応するが、creatineの副作用を見過ごしてはならない。creatineはステロイドより安全であるが、リスクがないわけではない。creatineによって重度の消化管症状、ハムストリング筋の断裂、重度の腎障害が発生する可能性がある。更に不幸なことにcreatineを服用している人の大部分では、服用前に腎機能検査を受けていないため、腎機能がボーダーラインにある人がcreatineを服用すると重大な腎障害が発生する可能性がある[Medical Tribune,33(2):19(2000.1.13.)]

1)南山堂医学大辞典第18版;南山堂, 1998
2)クレアチン及びアンドロステンジオン-2つの"dietary supplements":The Medical Letter<日本語版>,14(23):105-106(1998.11.6.)
3)運動能力向上薬;The Medical Letter<日本語版>,20(15):57-59(2004.7.19.)
4)クレアチン:疑わしいサプリメントとしての意味-効果がないのに副作用のリスク-;The Informed Prescriber,17(6):61-64(2002)
5)川井 充(主任研究員 国立病院機構東埼玉病院):厚生労働省精神・神経疾患研究委託研究-筋ジストロフィーの治療と医学的管理に関する臨床研究班;http://www.pmdrinsho.jp/CreatineFAQ.html,2005.3.10.
6)福留隆康・他:筋ジストロフィー患者へのクレアチン投与の試み;http://www.pmdrinsho.jp/Meeting2002/getAbstract.php?num=9,2005.3.16.
7)松村 剛・他:筋ジストロフィーにおけるクレアチンの効果の検討(速報);http://www.pmdrinsho.jp/Meeting2002/getAbstract.php,2005.3.16.
8)http://www.kentai.co.jp/column/physiology/p017.html,2005.3.10.
9)http://www.pharm.kitasato-u.ac.jp/poison/DShomepage/creatineippan.html,2005.3.10.
10)http://www.medical-tribune.co.jp/mtbackno3/3302/02hp/M3302191.htm,2005.4.4.

                                                    [065.CRE:2005.4.4.古泉秀夫]