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緑茶の効用について

月曜日, 8月 13th, 2007

KW:臨床薬理・緑茶・茶葉・チャヨウ・タンニン・tannin・緑茶タン ニン・栄養成分・機能性成分・カテキン・catechin・消毒・タンニン酸・tannic acid

Q:最近富にお茶、特に緑茶の効用が叫ば れ、カテキンがもてはやされています。昔からお茶は、薬効があるものとされていましたが、お茶の効用及びその成分等について教えてください。

A:通常、日本人が飲用するお茶は、生薬名「茶葉(チャヨウ)」と呼ばれる ものである。

ツバキ科(Theaceae)のチャ(Camellia sinensis L.)の葉を摘み、セイロで蒸し、酸化酵素の作用を停止したものである。

日常的に飲用するお茶は煎茶と考えられるので、煎茶の栄養成分を以下に紹介する。

茶葉 浸出液
エネルギー 331kcal 2kcal
水分 2.8g 99.4g
蛋白質 24.5g 0.2g
脂質 4.7g (0)
炭水化物 47.7g 0.2g
灰分 5.0g 0.1g
無機質 Na 3mg 3mg
K 2200mg 27mg
Ca 450mg 3mg
Mg 200mg 2mg
P 290mg 2mg
Fe 20.0mg 0.2mg
Zn 3.2mg Tr
Cu 1.30mg 0.01mg
Mn 55.00mg 0.31mg
ビタミン A retinol (0) (0)
carotene 13000μg (0)
レチノール当量 2200μg (0)
D (0) (0)
E 68.1mg ?
K 1400μg Tr
B1 0.36mg 0
B2 1.43mg 0.05mg
niacin 4.1mg 0.2mg
B12 (0) (0)
葉酸 1300μg 16μg
pantothenic acid 3.10mg 0.04mg
C 260mg 6mg
脂肪酸 飽和 0.62g ?
一価不飽和 0.25g ?
多価不飽和 1.95g ?
コレステロール (0) (0)
食物繊維 水溶性 3.0g ?
不溶性 43.5g ?
総量 46.5g ?
食塩相当量 0 0
廃棄率 0 0
カフェイン 2.3g 0.02g
タンニン 13.0g 0.07g

表1.中の浸出液は茶葉10gを90℃の湯430mLに1分間浸出したものである。茶葉中の栄養成分と比較して浸出成分は極く僅かな量である。

緑茶タンニンでは70mg/100mLに過ぎない。

次に茶葉に含まれる機能性成分について紹介する。

メチルキサンチン類(caffeine 4%、theobromine、adenine、xanthine)

一般に知られているものでmethylxanthine類の一部はタンニンと結合している。

(?)-epigallocatechin gallate(エピガロカテキンガレート)

茶葉の主成分で緑茶の渋味の本体である。

(?)-epicatechin gallate(エピカテキンガレート)

渋味がある。

これらは低分子であるが、蛋白質と結合しやすいなどタンニン(tannin)としての諸性質を備えているため、 tanninの一種(緑茶タンニン)として取り扱われている。

緑茶中の カテキン[(+)-catechin、(?)-epicatechin、(?)-epigallocatechinを含む。]の量は10%前後で、そのうち半分以上が(?)-epigallocatechin gallate(EGCG)である。

EGCGの抗酸化作用や抗発癌プロモーター作用が種々の動物実験で確かめられており、発癌予防の観点から注目されて いる。

tannin

蛋白質、塩基性物質、金属などに強い親和性を示し、難溶性沈殿を生成する植物性ポリフェノール群の総称である。tanninの名称(tan=皮を鞣す)からも明らかなように、従来皮なめし効果を持つものとして取り扱われてきた。

化学構造の特徴から加水分解性タンニン(hydrolyzable tannin)と縮合型タンニン(condensed tannin)とに大別される。縮合型タンニンはcatechine類の縮合物である。

縮合型タンニンはプロアントシアニジン (proanthocyanidin)と呼ぶのが一般化しつつある。

緑茶中に含まれる機能性成分の効能について、次の報告がされている。

栄養成分 ビタミンC 抗酸化、抗ストレス、風邪予防
葉酸 茶葉には葉酸が高含量に含まれており、その半分程度が茶葉浸出液に溶出され、玉露、茎茶、芽茶で は30-45μg/100mLと報告。

葉酸は体内でメチレーションの補酵素として機能し、巨赤芽球性貧血症予防効果や新生児の神経管欠損予防効果がある。

カフェイン 眠気を覚ます興奮作用、胃液の分泌を促し消化を高める作用、脂肪蓄積予防作用を持つ。
機能性成分 カテキン

EGCG

(epigallocatechin-gallate)

EGC

(epicatechin-gallate)

EGCG3Me

(epigallocatechin-3-o(3-o-methyl)-gallate

活性酸素を除去する酸素ラジカル吸収能。1杯の緑茶にはカテキンが70mg程度含まれ、野菜等の 10倍程度の抗酸化能を持つ。

*細胞膜の脂質二重層と高い親和力を持つ。

*幾つかの反応でレセプターの役目をするガレート部位を持つ等の理由から 特に抗酸化性が高いとされている。

[1]経口投与で血漿の活性酸素消去活性が上昇し、総コレステロール、LDL コレステロール、中性脂肪値を減少させる。

[2]血漿中のLDLの酸化を抑制し、動脈硬化を防止する。

[3]小腸粘膜スクラーゼの酵素活性を非拮抗的に阻害し、血 中グルコース濃度を低下させ(ラット)、糖尿病を予防する。

[4]血圧上昇物質であるアンジオテンシンIIへ変換する酵素(ACE)の活性部位にガレート部が 結合し酵素作用を阻害し、血圧を抑制する。

[5]抗酸化能により遺伝子の突然変異を抑制して発がんのイニシエーションを抑制する。

[6]発がんプロモータのレセプ ターに拮抗的に結合し、プロモーションを抑制する。

[7]抗菌、抗ウイルス作用により、食中毒や風邪を予防する。

メチル化カテキン:強い抗アレルギー作用が報告。

テアニン

(グルタミン酸エチルアミド)

玉露のような高級なお茶に多く含まれる旨味成分。

テアニンはL系の輸送系を介し、血液脳関門を通 過して脳内に送り込まれる。

また経口摂取によりラットで血圧降下作用、脳内ドパミン放出量の増加作用があることが確認されている。

ヒトでの試験では脂肪蓄 積抑制作用や、200mgというかなり高濃度のテアニン摂取下ではリラックス時にみられる脳内α波の増大が報告されている。

サポニン 肥満や脂肪肝を抑制することがマウスで確認されている。

サポニンは膵リパーゼ作用を阻害し、脂肪 の腸管吸収を低下させる。

なお、病棟において茶浸出液を、含嗽・陰部洗浄等に使用しているとされる が、その目的は、茶浸出液の抗菌作用に期待したものであると考えられるので、茶浸出液の抗菌作用に関する報告を以下に紹介する。

[1]

近年、鶏卵・鶏肉及びその加工品によるSalmonella Enteritidis汚染に起因するサルモネラ食中毒が増加していることから、養鶏場におけるSalmonella Enteritidis汚染防止対策目的で鶏存在下に噴霧できる消毒薬の検討目的で実験した。

その結果としてSalmonella Enteritidisに対するcatechiの試験管内殺菌効果について、次の報告が見られる。

有機物
消毒資材 濃度
カテキン 250ppm

500ppm

1000ppm

効果なし

効果なし

効果なし

効果なし

効果なし

効果なし

註]効果なし:作用時間5分間で殺菌できないもの。

ただし、本実験はcatechiを使用したもので、お茶の浸出液を使用した ものではない。

[2]

緑茶のMRSA菌に対する効果について実験した例では、おーいお茶L缶 (伊藤園)245gを連日飲用。試料中の(?)-epigallocatechin-gallate濃度は120μg/mL。健常男子5人には2缶、 MRSA保菌者3人には1缶を飲用させた後、血中の(?)-epigallocatechin-gallateの

濃度を測定。また(?)-epigallocatechin- gallateのMRSAに対する最小発育阻止濃度は15μg/mLあるいは32-64μg/mLと報告されている。

最高血中濃度到達時間 最高血漿中濃度
健常者5人 約1-2時間 0.01082-0.034μg/mL
MRSA保菌者3人 0.00741-0.00927μg/mL
14日以内 29日以内 46日以内 87日以内
2人 2人 3人 1人

以上の結果からMRSAの陰性化における作用機序は、緑茶飲用後吸収された (?)-epigallocatechin-gallateが除菌効果を示しているとは考えにくい。

緑茶中の(?)-epigallocatechin- gallateの濃度は120μg/mLであることから、緑茶飲用によって咽頭に付着している菌に対して、直接作用により除菌効果を示していると思われ る。また、緑茶を飲用することによる咽頭附着菌の洗浄効果を示していることが示唆されたとしている。

ただし、本実験では、市販の缶入りのお茶を使用しており、茶葉から直接浸出 した浸出液でないという点で含有成分量が異なることが考えられる。

[3]

茶葉10gに沸騰した蒸留水500mLを加え、2分間抽出後濾紙で濾過した液を用いてMRSA、MSSA、E.coli、Enterobacter cloacae、P.aeruginosaに対する抗菌力を検討した実験で、

緑茶濃度 100% 75% 50%
MRSA 発育無し 発育無し 発育無し
MSSA 発育無し 発育無し 発育無し
E.coli 発育無し 発育無し 発育無し
Enterobacter cloacae 発育無し 発育無し 発育無し
P.aeruginosa 発育無し 発育無し 3コロニー

また、MRSAに対する緑茶の作用時間によるコロニー数の推移を見ると、 100%あるいは50%濃度で48時間後に0とする報告がされている。緑茶による発育抑制は緩やかなものであり、消毒液のように短時間で効果は見られず、 一夜以上を要した。菌液濃度がデータに大きく関係し、接種菌量が多いと緑茶の効果は見られなかったとする報告がされている。

[4]

Streptococcus pneumoniaeに対する緑茶抽出エキス及び茶から抽出、精製したカテキン[(?)epigallocatechin gallate:EGCg]の抗菌・殺菌作用について検討した。標準菌株9株と臨床分離株49株に対するepigallocatechin gallateのMICは250μg/mL(MIC90)で、通常飲用濃度(2.5%)で十分な殺菌作用を示した。

Penicillin-resistant-Streptococcus pneumoniae(PRSP)11株に対するepigallocatechin gallateとペニシリンとの併用効果を検討したところ、1/4MICのepigallocatechin gallateを併用することによって、高度耐性株が感受性株と同じ濃度のペニシリンで殺菌されることが分かった。

PCR法を用いたこれら耐性株の耐性遺 伝子の検出結果から、これらPenicillin-resistant-Streptococcus pneumoniaeに対するペニシリンとepigallocatechin gallateの併用効果は、Penicillin-resistant-Streptococcus pneumoniaeの耐性獲得機序に関係なく得られることが判明した[伊藤 勇・他:日化療会誌,50(2):118-125(2002.2.)]。

なお、局方タンニン酸(tannic acid)は、五倍子又は没食子酸から得たタンニンであるとされている。本品は局所収斂薬、含嗽薬として使用される。酸性並びに中性溶液で蛋白を凝固し 収斂作用を呈する。これにより局所の保護及び抗炎症作用を示す。

  • 副作用:長期連用・大量の外用により経皮吸収による肝障害を起こす可 能性がある。また皮膚の乾燥・変色が現れることがある。濃厚液の含嗽により粘膜の粗荒・乾燥、舌・口腔・咽頭粘膜の知覚鈍麻が現れることがある。
  • 適用:口腔・咽頭粘膜の炎症性疾患、極めて小範囲の熱傷及び創傷、肛門及 びその周囲の糜爛・炎症における収斂を目的として、含そう剤として2%水溶液を、外用剤として2-5%の軟膏を用いる。

天然に産出する植物の成分は、地味・気候等の外部環境に影響される。また、煎茶の場合、一番摘み とそれ以後の茶ではタンニンの含有量が異なるとする報告も見られるため、安定した効果を期待することは出来ないと考えるべきである。従って、通常飲用する お茶を利用して、医療機関内で発生する感染を防止することは不適当であるといわざるを得ない。

[015.4.CAT:2003.9.14. 古泉秀夫]


  1. 古泉秀夫・編著:健康食品Q&A;じほう,2003
  2. 香川芳子・監修:五訂 食品成分表;女子栄養大学出版部,2003
  3. 川上美智子:おばあちゃんの知恵袋-ことわざでみる食物[1];食生活, 97(4):43-47(2003)
  4. 田中 治・他編:天然物化学;南江堂,2002
  5. 緑茶に含まれるカテキンはウロキナーゼ阻害作用によりがんを抑制、米研 究報告;医薬関連情報,6:453(1997.6.)
  6. 三重県科学技術振興センター農業技術センター(畜産)中小家畜グルー プ:実験室レベルにおける噴霧消毒に有効な消毒資材;
    http: //www.mate.pref.mie.jp/marc/kennkyuuseika/seikajouhou/H12/14seikaH12.PDF,2003.9.12.
  7. 中村 護・他:緑茶のMRSA菌に対する効果;医薬ジャーナル,35 (2):695-699(1999)
  8. 石川恵子・他:新生児病棟(NICU)における緑茶を用いた院内感染対策;http: //www.chiringi.or.jp/k_library/kaishi/kaishi2002_3/,2003.9.12.
  9. Streptococcus pneumoniaeに対するepigallocatechin gallateの殺菌作用;医薬の窓-近着誌から-;薬事新報,No.2215:586(2002)

らふま茶について

月曜日, 8月 13th, 2007

KW:健康食品・らふま茶・羅布麻・ラフマ・紅麻・コウマ・野麻・ヤマ・茶葉花・チャヨウカ

Q:らふま茶が健康にいいという問い合わせを受けたが、これはどの様なものか

A:羅布麻[陜西中草薬]は、キョウチクトウ科の宿根草で、羅布麻(ラフマ)の全草である。

羅布麻(Apocynum venetum L.)は多年生草本で高さ1-2m、全株が乳汁を含む。

茎は直立して無毛、葉は対生し、楕円形か楕円状披針形。川岸、谷川、山地の斜面の砂地に生える。

繊維質に富んで麻のように用いられたところから紅麻(コウマ)、野麻(ヤマ)、沢漆麻(タクシツマ)等の異名がある。

また古くからその葉が代用茶として愛飲されていたため、茶葉花(チャヨウカ)、野茶とも呼ばれる。

羅布麻葉を用いたお茶は、烏龍茶に似た薄甘い味わいで口当たりが良く、我が国では羅布麻茶・ヤンロン茶(燕龍茶)とも呼ばれている。

  • 異名:吉吉麻(キツキツマ)、紅花草(コウカソウ)、羅布歓的爾<ウイグル名>
  • 分布:遼寧、吉林、内モンゴル、甘粛、新羅、陜西、山西、山東、河南、河北、江蘇、安徽(アンキ)北部等。
  • 成分:根にはシマリン及びストロファンチジン、K-ストロファンチジン-βを含む。葉にはルチン、d-カテキン、アントラキノン、グルタミン酸、アラニン、バリン、塩化カリウムなどを含み、更にクエルセチン及びイソクエルシトリンを含む。また全草にはネオイソルチンを含む。
  • その他、近年における中国の研究でルチン、カテキン、アントラキノン、グルタミン酸、アラニン、バリン、塩化カリウムの他、多様なフラボノイド、フェノール物質、多糖体が確認されているの報告が見られる。

なお、(財)日本食品分析センター(赤数字)における成分試験の結果及びその他の資料による成分含有量の数値が、次の通り報告されている。

水分 2.8g
蛋白質 18.0g
脂質 4.0g
糖質 49.8g
繊維 7.5g
灰分 12.3g
Ca 1500-1540mg
P 129-260mg
Na 93-138mg
K 1140-2430mg
Fe 128mg
Mg 465mg
Cu 6.57mg
Zn 7.33mg
tannin 5500mg
quercetin 190mg
rutin 2.5mg
caffeine 未検出

羅布麻葉中の含有成分について、報告されている数値に大きな差が見られるが、植物中の含有成分は採集地・採集時期・天候等の外的要因によって必ずしも同一ではないとされているために見られる差である可能性も考えられる。

薬理

  1. 降圧作用:羅布麻の葉の煎剤を腎性高血圧のイヌの胃に注入して2時間後、血圧は降下し、そのまま安定して比較的低い水準を保ち3日後に上昇した。
  2. 強心作用:羅布麻の根に含まれるcymarinはin vitro及びin situのネコの心臓に対し、収縮幅度を増大させ、心拍数を減少させ、その後不整脈を生じ、ついには収縮期の心臓停止を来す。その作用の性質と速度はストロファンチジンと類似している。羅布麻根の抽出物もin situのネコの心臓に対する実験で強心配糖体用の作用を示す。
  3. その他の作用:cymarinは一般に昇圧作用を示し、in vitroでウサギ耳血管を収縮収縮させる。ラットに対する利尿作用はstrophanthidin、エリシミン、ネリオリン(オレアンドリン)の作用よりも強い。cymarin抽出物は少量で利尿作用を示し(ラット)、多量では逆に尿量を減少させる。
  4. 毒性:ラットの亜急性毒性試験で、羅布麻の葉は無毒であることが証明されている。
  5. 生物活性:山東羅布麻の抽出物のキャット・ユニットは3.19mg/kgで、cymarinの0.16mg/kgよりも低い。cymarinの強心作用及び生物活性はK- strophanthidinよりも弱い。
  6. 副作用:比較的多いのは腸鳴、悪心、下痢で、時に胃痛、食欲不振、口乾・口苦、一部に呼吸困難又は肝痛。心臓への副作用は主として拍動過緩及び期前収縮で、投与中止で消失する。その他カリウム欠乏症に注意の記載が見られる。

[015.9.APO:2005.10.18.古泉秀夫]


  1. 上海科学技術出版・編:中薬大辞典;小学館,1998
  2. 奥田拓道・監修:健康・栄養食品事典 改訂新版;東洋医学舎,2002-2003
  3. http://www.myujp.com/rahuma/,2005.10.17.
  4. http://www1.ocn.ne.jp/~nezunezu/homepage/newpage2.html,2005.10.17.

リン酸コデインと麻黄湯の相互作用

月曜日, 8月 13th, 2007

Q:リン酸コデインと麻黄湯の併用は可能か

A:麻黄湯は、麻黄4-5g・桂皮3-4g・杏仁4-5g・甘草1.5-2gが配合された発汗解熱剤である。

本剤の使用上の注意を見る限り、リン酸コデイン等他剤との併用については、何等記載されていない。

また、リン酸コデイン[codeinephosphate](田辺製薬)の添付文書中に、併用又は飲酒により作用が増強されるとして挙げられている薬剤は「フェノチアジン誘導体・バルビツール酸誘導体等の中枢神経抑制剤、吸入麻酔剤、モノアミン酸化酵素阻害剤、三環系抗欝剤、β-遮断剤、クマリン系抗凝血剤」である。

尚、麻黄湯中に配合されている各生薬に含まれる成分について、調査した結果は次の通りである。

麻黄(EphedrasinicaStapf)

地上茎にアルカロイドのL-エフェドリン、d-プソイドエフェドリン、L-メチルエフェドリン、L-ノルエフェドリンの他、エフェドラキサン、オキサゾリジン誘導体を含む。根にはエフェドリン型アルカロイドは存在せず、ベタイン、アフェランドリン、チロシン等が単離されている。

  • 薬効・薬理:エフェドリンはアドレナリンに似た交感神経興奮作用があり、エピレナミンより作用は弱いが毒性も弱い。眼交感神経末梢刺激による散瞳作用があり、比較的短時間で消失する。また、痙攣毒の有無にかかわらず気管支筋を弛緩させ、その作用は緩和で持続性がある。

その他発汗、血圧上昇作用が認められ、発汗、鎮咳、去痰薬として喘息、肺炎、皮膚の排泄機能障害による呼吸困難等に用いられる。

桂皮(CinnamomumcassiaBlume)

樹皮にケイアルデヒド、ケイヒ酸、オイゲノールを含む。

  • 薬効・薬理:桂皮の精油は、腸の蠕動運動を亢進し、グラム陽性菌、皮膚真菌に対して殺菌作用が認められている。精油の主成分であるケイアルデヒドは、dd系雄性マウスの腹腔内投与で睡眠延長、体温下降、緩和な中枢神経抑制による鎮静作用等が認められ、作用発現量は LD50の1/4以下だった。

桂皮、肉桂子は健胃、駆風矯味、解熱、鎮痛薬として頭痛、熱感、身体疼痛等に用いられる。

杏仁(PrunusaremeniacaL.)

杏仁は、アミグダリン約3%、脂肪油35-50%を含む。アミグダリンは酵素エムルシンで加水分解されベンズアルデヒド、青酸、ブドウ糖を生ずる。また、最近はバンガミン酸が発見されている。

  • 薬効・薬理:鎮咳・去痰薬として喘息、咳、呼吸困難、身体の浮腫等に用いられる。

甘草(GlycyrrhizaglabraL.)

トリテルペン系サポニンであるグリチルリチン(甘味物質)を4 -12%含む。その他、フラボノイド(リクイリチゲニン等)やその配糖体(リクイチリン等)を含有。フラボノイド関連化合物は、近縁植物の間で分布を異にしている。

  • 薬効・薬理:エキスには抗潰瘍作用、副腎皮質ホルモン様作用、抗炎症作用、抗アレルギー作用があり、慢性肝炎に対しても有効である。これらの薬理作用は主成分のグリチルリチンに関連している。一方、グリチルリチンを含まない甘草エキスにも抗潰瘍作用、胃液分泌抑制作用があり、フラボノイド成分がこれに関連している。甘草が持つ筋肉弛緩作用もフラボノイドに基づく作用である。

以上、各生薬成分中に含まれる各成分の薬理作用と、リン酸コデインで報告されている相互作用該当薬とを比較検討する限り、リン酸コデインと麻黄湯の併用について特に問題とする点はないといえる。

[59.FD19.015.21MA][1992.1.24.・1999.4.13.一部修正.古泉秀夫]


  1. 日本製薬団体連合会安全性懇談会・編:一般用漢方製剤使用上の注意-解説-;薬業時報社,1989,p.298
  2. リン酸コデイン添付文書,1989
  3. 三橋博・監修:原色牧野和漢薬草大図鑑;北隆館,1988
  4. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:FAX.DI-News,No.272,1992.3.5.より転載

ラタニアについて

月曜日, 8月 13th, 2007

KW:薬名検索・ラタニアチンキ・ラタニア・クラメリア・Rathania・クラメリア科・Krameriaceae・ラタニア赤・Krameria red

Q:OTC薬のうがい薬に配合されている「ラタニアチンキ」とは何か

A:ラタニア根(Ratanhiae radix)を原料としたチンキ剤である。

ラタニア根は、暗褐色、太さ1-3cmの根。薄い根皮は、老根では鱗片状、幼根では平滑で、容易に材部から剥がれる。木部には小孔と、多数の狭い放射組織がある。味は収れん性で、わずかに苦い。

  • 原植物:Krameria triandra Ruiz et Pavon.、クラメリア科(Krameriaceae)。
  • 同意語:[英]Rhatany root、[独]Ratanhiawurzel、Rote Ratanhia、Payta-Ratanhia、[ラ]ratanhiae radix、Radix Krameriae。
  • 和名:ラタニア、クラメリア
  • 産地:ボリビアとペルーのアンデス山地に原産する小低木。赤い花の咲く軟毛で覆われた単葉の低木。
  • 含有成分:15%までのカテコールタンニン(特に皮に局在)、長期貯蔵するとタンニンの縮合(不溶性フロバフエン:phlobaphene、いわゆるラタニア赤:Krameria redに変化)が進むため、含量が低下する。その他の成分:親油性ベンゾフラン誘導体、澱粉、糖、N-methyltyrosin等。
  • 適応:タンニン含有量が高いので、主としてチンキ剤の剤型で収斂薬として使用する。特に歯肉炎、舌の裂傷、口内炎、咽頭炎、稀にはアンギナーにもうがい薬や塗布剤として用いる。時にミルラチンキと配合して用いる。

本品の他の使用法(止瀉薬として経口・潰瘍部外用)は、現在殆ど行われていない。

[011.1.RAT:2006.1.31.古泉秀夫]


  1. 井上博之・監訳:カラーグラフィック西洋生薬;廣川書店, 1999
  2. 薬科学大辞典 第3版;広川書店,2001

ラロニダーゼについて

月曜日, 8月 13th, 2007

KW:薬名検索・ラロニダーゼlaronidase・I型ムコ多糖症・MSP-I・Hurler症候群・ハーラー症候群・α-L-iduronidase・α-L-イズロニダーゼ

Q:ラロニダーゼについて

A:ラロニダーゼ(laronidase)は遺伝子組換えα-L-iduronidaseで、最も重症例の場合Hurler症候群(ハーラー症候群)と呼ばれるI型ムコ多糖症(MSP-I)に対する補酵素補充目的に使用される医薬品として開発された。剤型:静注。

同意語:BM-101、α-L-iduronidase(recombinant)、rh α-L-iduronidase、α-L-イズロニダーゼ(遺伝子組換え)。[商]Aldurazyme(BioMarin Pharmaceutical)。

本症は常染色体劣性遺伝による稀な疾患で、α-L-iduronidase欠損によりリソソームへの蓄積障害が起こる。本症は小児にみられ、症状としては成長及び発育遅延、脾臓及び肝臓の肥大、骨格形成異常、視力障害、脱毛及び水頭症などが認められる。

本剤はI型ムコ多糖症の適応で、米国においてfist track(早期承認)指定を受けた。米国及びEUでオーファンドラッグの指定を受けている。米国では2002年4月に申請が出され、優先審査の対象に指定されたが、2003年1月追加情報の提出を求められたと報告されている。2003年4月30日FDAで承認され、EUでは2003年6月に承認されたとされる。日本ではムコ多糖症-I型患者の諸症状の緩和の適応について、1999年8月25日オーファンドラッグの指定を受けたの報告がされている。

米国のバイオ医薬企業Genzyme General 社は、本剤について日本国内の臨床試験データなしに承認申請する方針を固めた。国内の患者数が20人程度と極めて少なく、厚生労働省も申請を後押しする。これまで国内の臨床試験なしに承認申請するケースは抗エイズウイルス(HIV)薬以外ではなかった。

Genzyme General 社では、日本国内における臨床治験について検討していたが、極端に患者数が少ないことから作業は進まなかった。しかし、厚生労働省が患者や医療現場での要望が強い薬の早期承認を検討する中で、アルドラザイム(Aldurazyme)が対象薬に浮上。厚労省が近くGenzyme General 社に申請作業を要請する見通しとする新聞報道がみられる。

2005年4月27日に開かれた厚生労働省の第4回「未承認薬使用問題検討会議」で、ボルテゾミブ(対象疾患:多発性骨髄腫)、ラロニダーゼ(対象疾患:I型-ムコ多糖症)、ジアゾキサイド(対象疾患:高インスリン血症による低血糖症)の3剤について、ワーキンググループでの検討結果を基に議論がされた。その結果を受け、3剤とも、患者が早期に薬を使用できるよう、厚生労働省から企業に対応を求めていくことになった。今回検討された3剤はいずれも、過去5年間に学会や患者団体などから早期承認・早期保険適用の要望があり、かつ2005年3月までに欧米4カ国(米、英、独、仏)のいずれかで承認済みの薬物である。

ムコ多糖症は、酵素α-L-iduronidase先天的に欠損する病態である。α-L-iduronidaseの欠損により糖質が細胞内に蓄積し、この糖質の蓄積が心臓・肺機能不全や発育遅延・骨・関節変形、持久力減少等の症状を惹起する。ムコ多糖症患者の大部分は、成人までの成長が困難であるとされている。 laronidaseは、ムコ多糖症患者に不足しているα-L-iduronidaseのヒト組替蛋白質で、laronidaseは、α-L- iduronidaseと同じ作用により細胞内の糖を処理すると報告されている。

なお、副作用として5例で一過性の蕁麻疹、4例で血清中にα-L-iduronidaseに対する抗体が検出された。

[011.1.LAR:2005.5.9.古泉秀夫]


  1. 明日の新薬CD-ROM版:Technomics社,2005.5.9.
  2. 日本経済新聞,2005.5.3
  3. http://dextromethorphan.blog6.fc2.com/,2005.5.9.
  4. http://www.biotoday.com/view.php?n=7200,2005.5.9

ヨモギローションについて

月曜日, 8月 13th, 2007

Q:ヨモギローションとは何か。またその入手法について

A:医療法人洛和会丸太町病院(京都市中京区七本松通丸田町下ル)内科病棟・高橋圭子らが、寝たきり老人の皮膚掻痒感解消の目的で検討した、以下の処方による製剤である。

乾燥ヨモギ50gを水2Lを用いて20分間煎じる。煎じたヨモギ液を用いて

  • ヨモギ液…………20mL
  • メントール………0.5g
  • エタノール………10mL

以上全量

  • 用法:掻痒感を訴える場合、本ローションを用いてパッティングする。日中で最高9時間の鎮痒効果がえられる。

尚、本品の扱いについては、かぶれ止めの成分を配合すると共に、濁りをなくす工夫を加え、大阪市天王寺区の化粧品会社が厚生省から製造許可を得たとされているが、取扱い窓口は「よもぎ友の会」(〒604京都市中京区西ノ京車坂町九医療法人洛和会・丸太町病院内。 TEL.075-801-0315)が窓口となっている。500mL容器入り。なお、問い合わせ及び申込みは郵便によることとしている。

ヨモギ(ArtemisiaprincepsPampan.)の成分・作用については、次の報告がされている。

葉に精油成分としてシネオール、ツヨシ、β-カリオフィレン、ボルネオール、カンタァー、脂肪油のパルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、臘質のセチルアルコール、トリコサノールの他、コリン、アデニン、塩化カリウム、ビタミンA、B1、B2、Cが含まれている。

鎮痛、収斂止血作用があるとされ、腹痛、腰痛、止血、腫れ物、下痢等に用いられる。

[510.FD9.011.1ART][1990.7.30.・1999.3.30.一部修正.古泉秀夫]


  1. 寝たきり老人すっきり<ヨモギ液でかゆみ退治>;中川安医薬情報,No.96:1(1988)
  2. 看護婦さん考案のかゆみ止めに人気;朝日新聞,1989.12.23.
  3. 三橋博・監修:原色牧野和漢薬草大図鑑:北隆館,1988,p.538
  4. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:FAX.DI-News,No.83,1991.5.21.より転載

ユーパスタの配合変化

月曜日, 8月 13th, 2007

KW:物理化学的性状・配合変化・ユーパスタ・精製白糖・ポビドンヨード・ Povidone-Iodine

Q:ユーパスタに他剤(軟膏剤・外用散剤)を配合することの可否について  

A:両剤の性状等について、次の通り報告されている。

商品名(会社名) ユーパスタ(興和)
組成 100g中精製白糖70.0g・ポビドンヨード3.0g
性状 *精製白糖(Sucrose):白色の結晶性の粉末、又は光沢のある無色あるいは白色の結晶であ る。水に極めて溶け易く、エタノール(95)に溶け難くい。

*ポビドンヨード(Povidone-Iodine):暗赤褐色の粉末 で、僅かに特異な臭いがある。水又はエタノール(99.5)に溶け易い。

適用上の注意 他剤と混合して使用しないこと。

ユーパスタ軟膏は、従前『イソジンシュガー軟膏』の名称で院内製剤として調製されていたものである。イソジンシュガー軟膏はpHの低下、白糖からの転化糖の生成、ポビドンヨードの分解促進等、安定性が悪く、更に調製が困難である等の問題があった。

本剤は白糖・ポビドンヨードの双方に安定なpH域の選定、緩衝剤及び基剤の選択など、製剤設計上の検討を加え、製品化が可能となった製剤である。なお、添付文書中に『他剤と混合して使用しないこと。』の適用上の注意が記載されている。

本剤の製剤上の均衡が崩れることによって、安定性上問題が起こるとの認識によるものと思われる。

次に参照資料として、報告されている本剤の配合変化について紹介する。

ユーパスタの配合量は30gとし、室温25℃、2週間保存した。

配合剤 配合直後 特記事項
配合量 外観 硬度 pH 残存沃素 残存白糖
ユーパスタ 30g 褐色 78 3.5-5.5 100% 100%
アクトシン軟膏 30g 褐色 27 6.03 93.0 99.1
アクリノール液 1mL 分離 4.7 4.77 ? ? 硬度低下、外観変
アズノール軟膏 30g 褐色 18.3 5.18 16.6 ? 沃素低下
硫酸アミカシン注 1mL 褐色 19.0 5.21 95.8 100.7 ○2週間保存-安定
イソジン液 1mL 褐色 11.7 4.69 108.5 101.3 ○2週間保存-安定
イソジンゲル 30g 褐色 14.7 4.10 212.2 92.5 ○2週間保存-安定
エレース軟膏 30g 褐色 5.0 4.75 47.1 88.2 沃素・白糖低下
エレースC 30g 褐色 5.0 4.87 52.5 90.2 沃素低下
オルセノン軟膏 30g 褐色 2.0 4.32 93.8 98.5 硬度低下、流動性
キシロカイン注 3mL 分離 1.0 ? ? ? 硬度低、外観変化
ゲーベンC 30g 褐色 13 6.48 10.3 94.4 沃素低、不溶性塊
ゲンタシン軟膏 30g 褐色 56.3 4.48 6.7 ? ×沃素力価低下
ゲンタシンC 30 褐色 2.0 4.69 39.9 ? 硬度、沃素低下
ゲンタシン注 1mL 褐色 8.0 4.34 104.0 103.3 ○2週間保存-安定
ジルダザック軟膏 30g 褐色 39.7 4.19 7.6 ? 沃素低下
ソルコセリル軟膏 30g 褐色 9.3 ? ? ? 外観変化
ダラシンP注 2mL 褐色 2.7 5.98 71.8 98.7 硬度、沃素低下
バリダーゼ 2mL 褐色 2.0 ? 100.4 ? 硬度低下、液状化
バリダーゼ 10g 褐色 ? 5.15 99.4 99.9 白糖2w後70.2%
ヒビテン液 1mL 褐色 4.7 5.05 49.3 99.4 硬度、沃素低下
リドメックス軟膏 30g 褐色 29.3 4.88 5.8 92.3 沃素低下
リドメックスC 30g 褐色 3.0 4.55 48.0 ? 沃素低下
リフラップ軟膏 30g 褐色 18.0 5.10 0.0 ? 沃素低下
リフレットゲル 30g 褐色 4 ? ? ? ダマ発生・不均一
リラシリン注 2mL 褐色 5.0 ? ? ? 外観変化

[014.4.POV:2005.3.8.古泉秀夫]


  1. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2005
  2. ユーパスタ軟膏添付文書,2004.11.改訂
  3. ユーパスタコーワIF,1995.2..
  4. 国立国際医療センター医薬品情報管理室・編:医薬品情報,27(5): 418-419(2000)
  5. ユーパスタコーワIF,1997.12.

油水分配係数について

月曜日, 8月 13th, 2007

KW:語彙解釈・分配係数・n-オクタノール/水分配係数・水溶性薬物・脂溶性薬物・薬物代謝酵素

Q:添付文書中に見られる「有効成分に関する理化学的知見」の項に記載されている油水分配係数について

A:油水分配係数とは、『n-オクタノール/水分配係数』のことである。これは個々の薬物について、油に溶解する割合が多いか、水に溶解する割合が多いかを示した数値で、『油水分配係数が1より大きければ脂溶性薬物、1より小さければ水溶性薬物』に分類される。 通常、分配係数の対数(logP)で示されているが、『水溶性薬物はマイナスになり、脂溶性薬物はプラス』で表記され、その薬物の脂溶性が高いほど、大きな値になる。水溶性薬物はその殆どが腎排泄型薬物であり、脂溶性薬物は肝排泄型薬物である。

薬品名 分配係数 logP 油/水
cimetidine(タガメット) 1.5 0.17 脂溶性
ranitidine hydrochloride(ザンタック) 0.03 -1.52 水溶性
famotidine(ガスター) 0.15 -0.82 水溶性
nizatidine(アシノン) 0.70 -0.15 水溶性
roxatidine acetate hydrochloride(アルタット) 29.6* 1.47* 脂溶性
lafutidine(プロテカジン) 2.48** 0.39** 脂溶性

*クロロホルム/緩衝液  **pH:6

脂溶性の薬物は肝臓で代謝され、血中から消失するが、水溶性の薬物は未変化体として腎臓から排泄され、消失する。脂溶性の薬物は薬物代謝酵素阻害や薬物代謝酵素誘導など、代謝に関係した相互作用が起き易いが、水溶性の薬物では薬物代謝酵素阻害や薬物代謝酵素誘導はあまり起きないとされている。

油水分配係数の相違を尿中未変化体排泄率(fu)で分類すると、脂溶性薬物は尿中未変化体排泄率(fu)が低い肝排泄型の薬物に、水溶性薬物は尿中未変化体排泄率(fu)が高い腎排泄型の薬物に相当する。

項目 脂溶性薬物 水溶性薬物
胃腸管吸収 良い 悪い
初回通過効果 受け易い 受け難い
組織移行 良い 悪い
体外への消失 肝臓で代謝 腎臓から排泄
肝障害時血中濃度 上昇? 変化無し
肝障害時投与量 減量 不変
腎障害時血中濃度 変化無し 上昇
腎障害時投与量 不変 減量
酵素誘導・阻害 影響大 影響少
透析による除去
中枢性副作用 頻度大 頻度少

[615.8.DIS:2005.1.25.古泉秀夫]


  1. 菅野 彊・編著:薬剤師のための添付文書の読み方;協和醗酵工業株式会社,2001
  2. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
  3. 菅野 彊:薬物動態値からくすりの違いを比較し評価してみよう;都薬雑誌,22(5):38-41(2000)

輸血後肝炎の検査時期

月曜日, 8月 13th, 2007

KW:副作用・輸血・輸血後肝炎・検査・血液製剤使用指針・輸血療法実施指針・急性型副作用・遅発型副作用

Q:日本赤十字社から入手した血液を輸血した際、輸血後肝炎の発症を確認するための検査の時期について

A:厚生省医薬安全局長から都道府県知事宛に発出された『血液製剤の使用指針及び輸血療法の実施に関する指針について』(医薬発第715号 平成11年6月10日)に『VIII.輸血に伴う副作用・合併症』として次の記載が見られる。

*輸血副作用・合併症には、免疫学的機序によるもの、感染性のもの及びその他の機序によるものとがあり、さらにそれぞれ発症の時期により即時型(あるは急性型)と遅発型とに分けられる。輸血開始時及び輸血中ばかりでなく輸血終了後にも、これらの副作用・合併症の発生の有無について必要な検査を行う等経過を観察することが望ましい。

*これらの副作用・合併症を認めた場合には、遅滞なく輸血部門あるいは輸血療法委員会に報告し、その原因を明らかにするように努め、類似の事態の再発を予防する対策を講じる。特に人為的過誤(患者の取り違い、転記ミス、検査ミス、検体採取ミスなど)による場合は,その発生原因及び講じられた予防対策を記録に残しておく。

  1. 急性型副作用: 輸血開始後数分から数時間以内に発症してくる急性型(あるいは即時型)の重篤な副作用としては、型不適合による血管内溶血、アナフィラキシ?ショック、細菌汚染血輸血によるエンドトキシンショック(菌血症)、播種性血管内凝固症候群、循環不全などがある。このような症状を認めた場合には、直ちに輸血を中止し、輸血セットを交換して生理食塩液又は細胞外液類似輸液剤の点滴に切り替える。
  2. 遅発型副作用:遅発型の副作用としては、輸血後数日経過して見られる血管外溶血や輸血後紫斑病などがある。
  3. 輸血後植片対宿主病:本症は輸血後7?14日頃に発熱、紅斑、下痢、肝機能障害及び汎血球減少症を伴って発症する。本症の予防には放射線照射血液の使用が有効である。
  4. 輸血後肝炎:本症は、早ければ輸血後2?3週間以内に発症するが、肝炎の臨床症状あるいは肝機能の異常所見を把握できなくても、肝炎ウイルスに感染している場合がある。特に供血者がウインドウ期にあることによる感染が問題となる。このような感染の有無を見るためには、輸血後最低3カ月間、できれば6カ月間程度、定期的に肝機能検査と肝炎ウイルス関連マーカーの検査を行う必要がある。
  5. ヒト免疫不全ウイルス感染: 後天性免疫不全症候群(エイズ)の起因ウイルス(HIV)感染では、感染後2?8週で、一部の感染者では抗体の出現に先んじて一過性の感冒様症状が現われることがあるが、多くは無症状に経過して、以後年余にわたり無症候性に経過する。特に供血者がウインドウ期にある場合の感染が問題となる。感染の有無を確認するためには、輸血後2?3ヶ月以降に抗体検査等を行う必要がある。
  6. その他:輸血によるヒトTリンパ球向性ウイルスI型(HTLV-I)などの感染の有無や免疫抗体産生の有無などについても、問診や必要に応じた検査により追跡することが望ましい。
  7. その他、我が国では従来、『厚生省吉利班あるいは日本輸血学会の診断基準に基づき、輸血後引き続き2回以上GPT 100単位を超えるものを肝炎とした例が多いが、外国における報告では、輸血2週以後の引き続く2回以上の検査でGPTが正常の2倍あるいは2.5倍以上を示す場合』としたものが多く、いずれの場合も他の肝障害をきたす原因は全て除かれることが条件であるとする報告がされている。

『血液製剤の使用指針及び輸血療法の実施に関する指針』では、輸血後肝炎は速ければ『輸血後2-3週間以内に発症』とされていることから他家血輸血の場合、輸血2週経過後により肝機能検査を実施し、更に3-6カ月にわたって『肝炎ウイルス関連マーカーの検査を行う』ことが必要ではないかと考えるが、実施の最終的な判断は『主治医の判断』による。

[065.BLO:2003.8.26.古泉秀夫]


  1. 関口定美:輸血後肝炎の発症頻度;日本医事新報,No.3200,1985.8.24.

優克竜について

月曜日, 8月 13th, 2007

Q:日本で製造し、中国で販売されている「優克竜」とは何か

A:「優克竜」→ウロカルンカプセル(日本新薬)

本品は、古くから尿路結石の治療目的で民間薬として使用されてきた「うらじろがし」を製剤化した製品で、1Cap.中にウラジロガシエキス(quercus stenophylla extract)225mgを含有する製剤である。

尿路結石の発育抑制作用、溶解作用、抗炎症作用、利尿作用を有するとされている。

[1998.10.26.古泉秀夫]


  1. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・私信,1998.10.26. 2)高久 史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,1998

ヤエヤマアオキについて

月曜日, 8月 13th, 2007

Q:ヤエヤマアオキの果実のジュースが体にいいと聞いたが、どの様な効果があるのか

A:和名:ヤエヤマアオキ(八重山青木)は、アカネ科の高さ8m程度の常緑小高木で、樹皮から赤色染料、根から黄色染料(根の木質部:赤色染料、樹皮:黄色染料とする報告もある)を取るためボルネオ等では広く栽培されている。メンクデュ(Mengkudu)、学名: Morinda citrifolia Rubiaceae。

本品はインドからマレー、東インド諸島、太平洋諸島、オーストラリア東部及びフィリピン、台湾、沖縄等に亘って広く分布している。

ボルネオでは本品は二次林や荒廃地に自生しているが、木の実を野菜として食べるため栽培も行われている。果実は種子が多く味もなく、決して美味とはいえないが、旱魃で食糧の欠乏時にはこれを食用とする。

ボルネオでは、ヤエヤマアオキの葉と果実を薬用として使用している。完熟した果実は糖尿病の進行を制御する働きをしたり、女性の身体の血液を浄化する作用もあると伝えられている。解熱や腹痛を治療するときは、葉を乾燥して温布にして胸部や腹部に張り付ける。新鮮な果実は、シャンプーとして洗髪に使用し、鉄鍋を磨くためにも使用されている。

その他、本品についてフレンチポリネシア諸島で「神からの贈り物」といわれ古くから幅広く利用されている果実があり「ノニ」と現地ではいわれているとする報告も見られる。ノニ中に含まれる成分については、次の資料を入手したが、各成分の含有量については記載されていない。

なお、含有成分について、原資料は日本名で記載されているが、調査の都合上、該当する英名を調査し、調査不能な物質については、確認された物質の英名から一部類推した。

各成分のうち既に合成され、食品添加物等として使用されている物、あるいは医薬品原料とされているもの等、その一部について資料の捕捉はできたが、本品固有の成分と考えら物質では、現段階では検索不能のものも見られる。

従って、本品の摂取と服用中の薬品に対する影響等については、不明であるとすることになるが、医薬品の服用に際し、ジュースでの服用は避けるとするのが原則であり、同時に摂取しない限り、特に問題はないのではないかと判断する。

ヤエヤマアオキの果実を商品化したものとして「タヒチアンTMジュース(モリンダ社)が市販されている。

商品化されたジュースには、ブルーベリーとグレープが配合されているとされる。 なお、本品はフルーツジュースとして市販されており、薬効は標榜されていない。

[015.9.MOR:2000.4.12.古泉秀夫]


  1. 深井 勉:素材を探る14-ボルネオ先住民の植物利用;健康産業流通新聞,10.3.12.
  2. 花城良廣:染料植物;www.ryukyushimpo.co.jp/,2000.3.17.
  3. village.infoweb.ne.jp,2000.3.17.
  4. http://www.nttl-net.ne.jp/boxtree/nonitop.htm,2000.3.17
  5. 薬科学大辞典 第2版;廣川書店,1990
  6. 中薬大辞典;上海科学技術出版社,1979
  7. 13599の化学商品;化学工業日報社,1999
  8. The Merck Index 12Ed.,1996

モダフィニルについて

月曜日, 8月 13th, 2007

KW:薬名検索・モダフィニル・modafinil・adrafinil・ Olmifon・α1-agonist・興奮剤・覚せい剤・中枢神経用薬・神経筋疾患治療薬・抗うつ剤・国際陸連・IAAF・禁止 薬物・ドーピング

Q:世界陸上選手権パリ大会の女子 100m・200m優勝者のドーピング(禁止薬物使用)検査で興奮剤の一種であるモダフィニルが検出されたとする報道がされていたが、これはどの様な薬剤か。

A:現時点でモダフィニルは、国際陸連(IAAF)禁止薬物のリストに収載 されていないとされているが、国内での市販もされていない。

modafinilはα1-agonistであり、 薬効として興奮剤、覚せい剤、中枢神経用薬、神経筋疾患治療薬、抗うつ剤とする報告がされている。

modafinilはadrafinil(Olmifon@)の誘導体で、 中枢系のα1刺激作用を有する。特発性過眠症、ナルコレプシーを適応として、フランスでは1994年に上市されたほか、数カ国で上 市されている。注意欠陥多動性障害に対しても有用と考えられる。多発性硬化症、うつ病、アルツハイマー病、パーキンソン病の適応での臨床治験も行われている。

英国では、睡眠時無呼吸に伴う日中の過度の眠気の適応で2002年3月に申 請され、同年11月に承認された。米国ではナルコレプシーにおける長時間の傾眠傾向の適応で、オーファンドラッグに指定された。ナルコレプシー、閉塞型睡眠時無呼吸症候群、交代勤務睡眠障害などの、成人における睡眠と覚醒の障害による過度の眠気への適応拡大が、2002年12月に申請された。

日本では2000年1月ナルコレプシーの適応でオーファンドラッグに指定さ れた。

臨床試験段階の副作用として頭痛、悪心、口渇、胸焼け、眩暈。

同意語:CN-801、CEP-1538、CRL-40476。

[商]provigil、alertec、modiodal、 mediodal、lafon(Cephalon社)。

カナダ Draxis Health社
ドイツ・東欧諸国 Merckle社
アメリカ、メキシコ、イギリス、アイルランド、スイス Cepalon社
オランダ Nourypharma社(Akzo社)
スペイン、ポルトガル CEPA社
イタリア Dompe社
韓国 Choongwae社
日本 アズウェル社

[011.1.MOD:2003.9.9.古 泉秀夫]


  1. 興奮剤検出 ホワイト「シロだ!」;読売新聞,第45774号, 2003.9.1.
  2. 明日の新薬CD-ROM版,2003.9.1.

メサラジンの服用と葉酸の併用について

月曜日, 8月 13th, 2007

KW:副作用・併用療法・メサラジン・葉酸・サラゾピリン錠・フォリアミン錠・ペンタサ錠・salazosulfapyridine・sulfasalazine・mesalazine

Q:サラゾピリン錠とフォリアミン錠が併用投与されていた患者が、今回、サラゾピリン錠からペンタサ錠に処方変更されたのに伴い、フォリアミン錠の服用は必要ないのではないかといっているが、どう対応すべきか。

A:両薬剤の作用機序、副作用等は下記の通り報告されている。

一般名 salazosulfapyridine(sulfasalazine) mesalazine
商品名

会社名

サラゾピリン錠・坐薬

(三菱ウェルファーマ)

ペンタサ錠・注腸

(日清キョーリン)

適応症 経口:潰瘍性大腸炎、限局性腸炎、非特異性大腸炎。

挿入:潰瘍性大腸炎

経口:潰瘍性大腸炎(重症を除く)、クローン病。

注腸:潰瘍性大腸炎(重症を除く)

作用 投与の約1/3は小腸でそのままの形で吸収されるが、大部分は大腸に移行し、腸内細菌で5-アミ ノサリチル酸とスルファピリジンに分解・吸収される。

その治療活性部分は5-アミノサリチル酸である。

5-アミノサリチル酸は組織学的に変化の認められる粘膜上皮細胞の結合組織に対して特異な親和力を示し、この5-アミノサリチル酸の抗炎症作用により効果を現す。

本剤は5-ASAを有効成分として炎症性細胞から放出される活性酸素を消去し、炎症の進展と組織 の障害を抑制すること及びロイコトリエンB4の生合成を抑制し、炎症性細胞の組織への浸潤を抑制することが考えられている。

マクロファージや好中球などの炎症性細胞から放出される過酸化水素や次亜 塩素酸イオンなどの活性酸素を消去し、炎症の進展と組織の障害を抑制する。

副作用 重大:1)再生不良性貧血、汎血球減少、無顆粒球症、血小板減少、貧血 [溶血性貧血、巨赤芽球性貧血(葉酸欠乏)等] 重大:4)再生不良性貧血、汎血球減少、無顆粒球症、血小板減少症
その他 葉酸の吸収低下(大赤血球症、汎血球減少を来す葉酸欠乏症のおそれ)→欠乏症が疑われる場合に は、葉酸を補給。 葉酸の吸収阻害等に関する報告は見られない。

salazosulfapyridine(sulfasalazine) は、腸内細菌によりスルホンアミドのスルファピリジンと5-アミノサリチル酸に分解される。

スルホンアミド類は構造上、細菌のジヒドロ葉酸(DHF)合成の構成要素であるパラアミノ安息香酸(PAB)に類似する。偽の基質としてスルホンアミド類は競合的にパラアミノ安息香酸の利用を妨げ、ジヒドロ葉酸合成を阻害すると報告されている。

その意味では5-アミノサリチル酸を単独の有効成分とするmesalazine製剤では、葉酸欠乏を惹起せず、葉酸欠乏を原因とする巨赤芽球性貧血等は発現しないと考えられる。

mesalazineによる副作用としての貧血は、国内における治験段階では1例の報告もなく、1999年9月段階での市販後の報告として4例の貧血と1例の再生不良性貧血が報告されているが、葉酸欠乏による副作用とは確認されていないとされる。 salazosulfapyridine(sulfasalazine) は、その薬理作用上、葉酸欠乏の可能性があり、葉酸の補充が必要であったが、mesalazineではその必要性はないと考えられる。

従ってサラゾピリン錠の副作用防止目的で、葉酸製剤が投与されていたのであれば、サラゾピリン錠からペンタサ錠に処方変更された段階で、葉酸製剤は不要ということになるが、処方内容の変更は医師の専権事項であり、医師に相談するよう患者に伝えることが必要である。

[065.ASA:2005.3.8.古泉秀夫]


  1. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2005
  2. 名尾良憲・他編著:臨床医薬品副作用ハンドブック;南山堂,1999
  3. 福原武彦・監訳:薬理学アトラス;文光堂,1998
  4. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:医薬品情報,27 (4):323-324(2000)

メチルスルフォニルメタンについて

月曜日, 8月 13th, 2007

KW:健康食品・メチルスルフォニルメタン・ methylsulfonylmethane・MSM・DMSO ・ジメチルスルホキシド・dimethl sulfoxide・イオウ・硫黄

Q:健康食品中に加えられているメチルス ルフォニルメタンとは何か

A:非金属性ミネラルである硫黄は、全ての体細胞に含まれており、多くの体 機能に不可欠であるとされている。硫黄の中でも吸収率が極めて高いといわれる有機イオウのメチルスルフォニルメタン (methylsulfonylmethane:MSM)は、その有用性が最近見直されているとする報告がある。

MSMは植物、肉類、卵、乳製品などに含まれており、人間の体内で酵素や抗 体、グルタチオン、その他軟骨やコラーゲン、毛髪、爪、皮膚を作るのに必要な物質である。またアミノ酸の生成に不可欠で、MSMや他の硫黄化合物がなければ、蛋白質は分子構造を持つことができないとされている。

MSMの形状は白色、無臭でわずかに苦味がある結晶状の物質であり、硫黄元 素の含有量は34%で水溶性である。構造は簡単で、硫黄の原子1個に酸素が2個、メチル基(炭素1個と水素3個)が2個付いたもので化学式はCH3SO2CH3(C2H6O2S)である。

MSMはあらゆる生物体に存在する硫黄の85%を供給していることが示唆されてい る。自然界にあるMSMは海から始まり、微小なプランクトンが、ジメチルスルフォニウム塩(dimethylsulfoniumsalts)と呼ばれる硫黄化合物を放出する。これらの塩類は海洋中で揮発性の高い化合物DMS (dimethylsulfide)に変化し、気体となって大気圏の上層に達する。DMS と異なり、DMSO (ジメチルスルホキシド:dimethl sulfoxide)と MSM は、水溶性で雨により地面へと吸収される。植物は根からそれらを吸収し、最高 100倍まで濃縮する。MSMは、鎮静作用や抗炎症作用などの機能が科学的に立証されている。

MSMについて、我が国では、2001年3月付けで「医薬品の範囲に関する 基準改正について」および、同年6月の「厚生労働省医薬局食品保健部基準課長名の食基発第20号」の通達で「医薬品的効能効果を標榜しない限り、食品と認められる成分リスト」に硫黄が収載されたことで、健康食品への使用が可能になった。

MSMの代表的な機能として、鎮痛作用(神経線維を伝わる痛みのインパルス を抑制)、抗炎症作用があり、副次機能として血管拡張、血流を促進、筋肉の痙攣が減少することから、関節炎の緩和、筋肉痛の緩和、外傷性晩期の痛みや炎症の緩和、ケラチン形成促進作用(髪及び爪の成長促進)などがあるといわれている。

また、MSMがヒスタミン受容体と結合するのを阻止する働きから、アレルギー抑制効果があるのではないかとする報告がされている。

なお、Lignisul MSM(リグニサル エムエスエム)について、北米原産のテーダ松のリグニンより造られたMSM99.9%の高純度を持つ植物性製品である。特に石油系の無機物質を原料とする MSMとは異なるため、安全性は高いと報告されている。

MSMをサプリメント目的に生産を始めたのは最近のことで、1989年頃か らである。もともとMSMは、製紙工場の副産物として生まれた。製紙は木のチップを硫酸処理し、圧縮して行われるが、廃棄物として生まれる液体は、木の細胞間に存在するリグニン(Lignin)が混入し、DMSO(ジメチルスルホキシド)を形成している。

[015.9.MET:2004.6.22. 古泉秀夫]


  1. 丸元康生・監修:サプリメントバイブル;株式会社ネコ・パブリッシン グ,2003
  2. 株式会社東洋発酵・資料(愛知県大府市追分町3丁目89番地 TEL0562-46-7677・FAX0562-46-8122),2004.5.15.
  3. http://www.toyohakko.com/MSM.pdf, 2004.5.15.

メシマコブについて

月曜日, 8月 13th, 2007

Q:健康食品として取り扱われているメシマコブとはどの様なものか

A:「メシマコブ」は学名Phellinus linteus(Berk.et Curt)Aoshimaとされるタバコウロコタケ科キコブタケ属の担子菌類である。

学名中のAoshimaは発見者の青島清夫氏の名前に因むとされている。

桑の古木に寄生し、こぶ状から次第に扇状に育ち、傘の直径は8?12cm、最大で30cm程度になるとされている。

傘の裏側が黄色を示すことから漢方薬として『本草綱目』に収載されている「桑黄(ソウオウ)」がこれに相当するのではないかとされている。和名「メシマコブ」の由来は、長崎県男女群島の女島(メシマ)に多くの野生株が見られることによるとされる。

但し、『桑黄』については、

  • 別名:桑臣(ソウシン)、桑耳(ソウジ)、胡孫眼(コソンガン)。
  • サルノコシカケ科の植物、針層孔(シンソウコウ)の子実体。
  • 原植物:Phellinus igniarius(L.ex Fr.)Ouel.菌蓋は木質、扁平な半球形あるいは馬蹄形、浅肝褐色ないし暗灰色あるいは黒色。カワヤナギ、ヤナギ、シラカバ、クヌギなどの樹幹に生える。分布は中国東北、華北、西北及び四川、雲南等。
  • 成分:アガリシン酸(粗製品名:アガリシン)を約4%(菌糸体はアガリシン酸を含まない)、脂肪酸(主なものは C22・C24の飽和脂肪酸)、C23・C25の飽和炭化水素、アミノ酸(主要なものはグリシン、アスパラギン酸)、蓚酸、トリテルペン酸、芳香族酸、エルゴステロール及びキシローズ酸化酵素、カタラーゼ、ウレアーゼ、エステラーゼ、スクラーゼ、マルターゼ、ラクターゼ、セルラーゼ等多種の酵素を含む。
  • 薬理:アガリシン酸には汗腺の分泌を抑制する作用があり、海外ではかって盗汗(寝汗)の治療に使用された。数時間以内に作用が発現し、24時間持続する。投与量は30mg/回あるいは100mg/日を超過してはならない。
    通常、連続して1?5日間用いる必要があり、比較的良い治療効果が見られ、甚だしい副作用はない。唾液腺の分泌を抑制しない。局部に対して刺激性があり、大量に経口服用すると嘔吐、下痢を惹起し、また皮下注射はできない。
    ジギタリス様の作用があり、低濃度で平滑筋を興奮させ、大量では抑制作用を起こす。中毒量は延髄の血管運動中枢・呼吸中枢をまず興奮させた後麻痺させる等の報告がされている。
  • 性味:味は甘辛、無毒。
  • 適応:血崩、血淋、脱肛瀉血、帯下(こしけ)、月経閉止を治す。

以上の報告を見る限りメシマコブと桑黄は、全く別種の茸である可能性が推定できる。

メシマコブの薬効に初めて注目したのは元国立ガンセンター研究所の池川哲郎氏と東京大学薬学部の柴田承二氏の研究グループである。

1968年に国立ガンセンター研究所で行われた実験でマウス癌サルコーマ180に対する担子菌類・食用菌類の熱水抽出物による癌増殖阻止率の検討の結果メシマコブは96.7%の阻止率を示し、茸類で最も高い癌増殖阻止率を示した。

和名 腫瘍阻止率(% )
アラゲカワラタケ 65.0
ウスバシハイタケ 45.5
エノキタケ 81.1
オオシロタケ 44.8
オオチリメンタケ 49.2
カイガラタケ 23.9
カワラタケ 77.5
カンタケ 72.3
キクラゲ 42.6
コフキサルノコシカケ 64.9
シイタケ 80.7
チャカイガラタケ 70.2
ナメコ 86.5
ヒラタケ 75.3
ベッコウタケ 44.2
マツタケ 91.8
メシマコブ 96.7

メシマコブはその栽培・培養が困難であったため、簡単に入手することができなかったが、韓国の(株)韓国新薬と韓国科学技術省の共同研究により栽培に成功。メシマコブに少量含まれる抗ガン成分を有効量にまで高める培養法を確立した。

メシマコブの菌株中から最も強力で人体に無害な抗ガン免疫増強効果を発揮する画期的な物質としてメシマPL2・PL5の存在を確認。更にメシマコブ培養菌糸体の熱水抽出物から制ガン免疫賦活剤「Mesima」を開発した。

  • 作用機序:茸の多糖体を用いた癌治療用薬としてクレスチン(カワラタケ)、レンチナン(シイタケ)が既に実用化されているが、植物由来の抗腫瘍性多糖体に共通している特徴は癌細胞に直接作用する細胞毒ではなく、人が本来持っている免疫機能を活性化させる作用を示すということである。メシマコブには多種類の多糖類、核酸、脂肪酸、アミノ酸、酵素等が含まれている。現在までに解明されている作用機序は、マクロファージの活性を介し、T細胞を活性化し、インターロイキンを始め数種の免疫活性物質を放出することである。

メシマコブの培養菌糸体抽出物は、強力な抗腫瘍免疫増強作用を発揮し、免疫機能を担うリンパ球のB細胞やT細胞、 NK細胞等の働きを増大させ、サイトカイン産出を高める働きを示す。その結果、人体の免疫機能が高まり、抗ガン作用を発揮、癌に対しては予防効果が期待される他、化学療法剤との併用により副作用の発現を抑制する飲みでなく、抗ガン効果を増強する等の報告がされている。

[015.9MES.2000.4.7.古泉秀夫]


  1. 奥田拓道・監修:改訂新版 健康・栄養食品事典;東洋医学社,2000
  2. 上海科学技術出版・編:中薬大辞典 第3巻;小学館,1985
  3. 新しい免疫活性素材「メシマコブ」;健康産業流通新聞,1999.1.7.
  4. 山名征三:免疫アジュバント-メシマコブ多糖体の各種癌患者に対する使用経験;診療と新薬,27(6):1101-1106(1990)