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インスリン注射の副作用-難聴

水曜日, 8月 8th, 2007

KW:副作用・インスリン注射液・難聴・2型糖尿病・非インスリン依存型糖尿病・ミトコンドリア・mitochondria・ミトコンドリア細胞症・ミトコンドリア脳症

Q:糖尿病でインスリン注射をしている患者が難聴になり易いと聞いたが、難聴になり易い理由又は発生機序について

A: インスリン(insulin)注射液の副作用として『難聴』の記載は見られない。高齢者に多く見られる2型糖尿病(非インスリン依存型糖尿病)は、体内でエネルギーを生産する細胞内器官ミトコンドリア(mitochondria)の機能の衰えに関係があることを、米・エール大学の研究チームが突き止め、米紙・サイエンスに発表した。

健康な高齢者と若年者の2グループにブドウ糖を投与し、代謝機能を詳細に検討した結果、

  1. 若者に比較して血糖値が下がり難い
  2. 血糖値を制御するために膵臓が分泌するインスリンも若者に比べ長時間にわたり高濃度を保つ
  3. 筋肉や肝臓の脂肪レベルが高い

等の糖尿病に近い傾向があることが解った。

また高齢者の筋肉内細胞が含むmitochondriaの機能を、特殊な方法で測定したところ、糖からエネルギーを取り出す働きが、若者に比べて最大で 40%も低下していた。この働きはインスリンの分泌に深く関与しており、mitochondriaの老化が、高齢者に糖尿病が多いことの理由と考えられるとしている。

mitochondriaの異常により全身の臓器が障害される病態は、ミトコンドリア細胞症(mitochondrial cytopathy)と総称し、骨格筋と中枢神経の障害を示すミトコンドリア脳症が主体である。血液・髄液中の乳酸・ピルビン酸、筋生検、ミトコンドリア遺伝子変異、画像検査などを行う。代謝性アシドーシス・糖尿病・心筋症などの種々の合併症を伴うことがある。

細胞のエネルギー工場に当たるmitochondriaのDNAに変異が起きたため、膵臓のインスリンを分泌する細胞の働きが障害され、糖尿病になる場合のあることが解ってきた。

mitochondria遺伝子異常による糖尿病は、全糖尿病患者の1%のヒトに認められ、日本には数万人の患者がいることになる。

このタイプの糖尿病は一見普通の糖尿病と変わらないが、インスリン分泌は低下し、進行してインスリン注射の必要が多い、難聴を合併する、心電図変化が見られる等が特徴としてあげられる。

mitochondria異常による糖尿病では、母親に糖尿病を持っている人が多く、本人が男性であれば糖尿病は子孫に遺伝しないが、女性であれば遺伝することがある等の報告が見られる。

以上の各報告から『インスリン注射による難聴』ではなく、mitochondria遺伝子の異常に起因する糖尿病患者の場合、『難聴』の発生は、原因疾患に起因するものであるといえる。

[065.MIT:2004.2.3.古泉秀夫]


  1. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
  2. 2型糖尿病 ミトコンドリア老化が原因;読売新聞,2003.5.20.
  3. 山口徹・他総編:今日の治療指針;医学書院,2004
  4. 門脇 孝:ミトコンドリア遺伝子異常;
    http://www.jadce.or.jp/documents/booklets/clinic2/4.html,2004.2.3.
  5. 瀬野悟史・他:糖尿病を伴った突発性難聴;耳鼻咽喉科臨床,92(11):1171-1180(1999.11.)
  6. 金澤康徳:遺伝子異常と糖尿病-ミトコンドリアDNA異常を中心に-;日本医事新報,No.3731(平成7.10.28.)