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ミッキー・フィンの毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 ミッキー・フィン(Mickey Finn)
成分 抱水クロラール(chloral hydrate)。 [米]chloral hydrate、[仏]Hydrate dechloral、[独]Chloralhydrate、[ラ]Chloralis
hydras。
別名:トリクロロアセトアルデヒド(trichloroacetaldehyde)。
一般的性状 劇薬
本品は抱水クロラール(C2H3O2Cl3=165.42)99.5%以上を含む。本品は無色透明又は白色の結晶で、刺激性の芳香を有し、味は腐食性でやや苦い。空気中では徐々に揮散する。本品1gは水0.25cc、アルコール1.3cc、 クロロホルム2cc又はエーテル1.5ccに溶け、テレビン油には溶け易く、オリブ油には極めて溶け易い。
安定性:水溶液は紫外線照射により速やかに塩酸及びトリクロル酢酸に分解する。通常の保管条件では、徐々に分解が起こり、1%-溶液では室温で20週後、 約5%が分解する。
貯法:気密容器。
常用量:1回0.5g、1日1.5g。極量:1回2g、1日6g。
基原:1832年Liebigが初めて本品を発見し、1834年Dumasはクロラールの組成を決定し、Stadelerは澱粉をMnO2及びHClと蒸留するときクロラールの生成することを知った。 1869年Liebreichは初めて本品を催眠薬として用いた。日局には初版以来収載されている。

応用:1.0-2.0gを経口投与するとき、徐々に倦怠感を増し、約30分で睡眠し、1時間で極点に達し、数時間持続する。本品は分子自体が睡眠作用を有
し、一部は不変のままで、一部は体内でCCl3・CH2OHに還元され、glucuronic acidと結合しurochloralic acid C7H11Cl3O7となって、他は徐々に分解されて尿中に排泄される。抱水クロ ラールが主に注腸、坐薬として使用されるのは、経口投与時の口腔・胃に対する刺激、筋注したときの神経・筋に対する障害、静注による血栓形成などを避ける
ためである。
本品は精神興奮状態、酒客譫妄、破傷風、ストリキニーネによる痙攣、癲癇、急癇、子癇、舞踏病に用いる。

内服には1日量1.0-2.5-3.0gを大量の水で稀釈し、あるいは粘漿、牛乳及び卵黄に和して投与する。酒客譫妄などには大量1日7.0-8.0
(!)を与えることもあるが、数回に分服させる。大量の頓服はしばしば死因となる。小児は比較的大量に耐える。鎮静薬としては1-2時間毎に1回0.2-
0.5-1.0-2.5(!)を用いる。
外用には粘漿(サレップ漿、ゴム漿)と和して潅腸料とし、1回量を成人(3.0-5.0:200);小児(0.1-0.6:60);乳児0.25として反
復する。テタニーには鎮痙薬としてなお多量を用いる。
注射は刺激が大きいため、痔核並びに海綿様血管腫の治療に使われることがあるに過ぎない。その他歯科で局所麻酔に、また皮膚科では毛生え液原料とする。
本品は水で分解するから用に臨んで冷水で配剤する。
副作用:特異体質の患者では、薬用量で呼吸及び血行障害、昏睡、悪心、嘔吐、蕁麻疹、紅斑、皮下溢血等を起こす。ことに呼吸器又は心臓の疾患ある患者には 危険で、肺浮腫又は心臓麻痺を起こして死ぬことがある。
習慣性があるので、連用すれば大量を要し、大量の連用は、消化不良、下痢、発疹、羸痩(ルイソウ)、精神機能減退、臓器の変性を起こす。
慢性中毒患者には、一時に使用を中止すると禁断現象が起こるため、徐々に減量する。

毒性 致死量は約10gとされるが、4gで死亡した例がある。また30gを摂取しても障害を見なかったという報告もある。致命的血中濃度:通常 25mg/100mL。
急性毒性:LD50ラット(経口) 500mg/kg。・(経口)800mg/kg。ヒト経口中毒量:約10g。
症状 重 篤な昏睡及びチアノーゼ症状に続きショック状態、不整脈を呈する。多量投与は体温と血圧低下、遅く弱い呼吸を伴う心臓衰弱を起こす。アルコールは協同作用を持つ。慢性作用は腎と肝の障害で、中毒性精神病を伴う。被刺激性
と性格荒廃。眠気、精神錯乱と歩行の協同運動失調、浅い呼吸で昏睡、弛緩、後に肺水腫が現れ、気管支肺炎にいたる。脳浮腫、長く続く昏睡の肺への作用で死
亡。本品の蒸気は眼や鼻を刺激する。濃厚溶液は皮膚を刺激する。
中枢・末梢神経症状:痙攣発作、譫妄、振戦、不安、頭痛、眩暈、興奮、運動失調、抑鬱、構音障害。
消化器症状:悪心、嘔吐、胃痛。
循環器症状:低血圧、チアノーゼ、心臓麻痺、ショック、不整脈。
呼吸器症状:呼吸緩徐、呼吸麻痺。
皮膚症状:発疹、紅斑、掻痒感。
その他:発汗、体温下降、肝障害、腎障害。
処置 急性中毒には人工呼吸、胃洗滌、興奮薬の注射を行う。又は胃洗浄。人工呼吸と酸素吸入。血圧を維持するために、血管収縮剤。予防的ペニシリン。
毒物の除去:催吐又は胃洗浄。吸着剤と塩類下剤。
排泄促進:血液透析、血液灌流
維持管理:気道確保、人工呼吸。正常体温維持。心電図モニター(心疾患素因のある患者)。
対症療法
低血圧にはα-アドレナリン作動薬。不整脈に対してリドカイン(本剤による不整脈にはβ-遮断薬が有効である)
事例 「要するに、この事件のトリックなるものは」と、この家の主は続けた。「ミッキー・フィンと称する強力飲物があるな。麻酔薬のまざった、飲むと頭がくらくらっ
とするやつだ。あれにヒントをえたものなのなのさ。いい気持ちで、あいつを飲んでおると、とつぜん、頭がひっぱたかれたみたいな感覚に見舞われる。いきな
り、猛烈な痛みがはじまって、耳ががんがん鳴り出す。酷いときは、そのまま意識を失ってしまうことがあるものだ。
ミルズのやつ、例のサイフォンに、この飲物を仕掛けたんだが、あの日のうちに、チャンスはいくらもあった。彼は必要な時刻を心得ておったのだから、その
時までに、仕事をすませればよかったのだ。いや、彼ばかりじゃない。きみたちもみんなが知っていることで、フランシス・シートンがウイスキー・ソーダを飲
む時刻は、1日にわずか1回、それもきちんときまっておる」 [宇野利泰・訳(ディクスン・カー):カー短編全集2-妖魔の森の家-ある密室;創元推理文庫,1970]。
備考 『ミッ キー・フィン』という名称の毒薬はない。しかし、辞書で検索したところ『Mickey Finn=睡眠薬入りの酒』と書かれている位であるから英国当たりではそれなりに認知されているということなのだろう。
Mickey Finn=仕込み酒。本来はアイルランド系の人の名前あるいは酒場の名前だという紹介も見られる。酒場のおやじが嫌みな男で、酒に下剤を入れられたという
ことから来ているようである。
その他、『Mickey』だけで、通例アルコール飲料に麻酔剤や下剤をこっそり混ぜたもので、何も知らずに飲んだものを無力にするという解説も辞書中に見
られる。酒に入れられた下剤は『クロトン・オイル(croton oil)=ハズ油』であるとされている。その後仕込み酒に仕込まれる薬物は、バルビツール剤あるいは抱水クロラールになったということであるが、本編の場
合、その書きぶりからすると抱水クロラールであろうと考えられる。
文献 1) 小学館ランダムハウス英和大辞典;小学館,1979
2)第六改正日本薬局方解説書;南江堂,1954
3)大阪府病院薬剤師会・編:全訂医薬品要覧;薬業時報社,1984
4)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療;南江堂,2001
5)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル,20016)白川 充・他:薬物中毒必携 第2版;医歯薬出版株式会社,1989
調査者 古泉秀夫 記入日 2005. 11.9.

マムシの毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 マムシ・蝮・蝮蛇(フクダ)
成 分 血液毒が主体で、神経毒性分は極く僅かである。ヘビ毒は数十種の異なった蛋白質で構成され、一つ一つの蛋白質が異なった作用を示す。
毒成分 作用機序 病理と症状
キニナーゼII阻害因 ブラジキニンの作用増強 血圧低下、疼痛、毛細血管透 過性亢進
プロテイナーゼ フィブリノーゲンの分解 出血、線溶亢進
出血因子 血 管内皮細胞の間隙の解放と赤血球の漏出及び形質膜の破壊 出血
ホスホリパーゼA2
(間接溶血因子)
リン脂質の加水分解とアラキドン酸の生成 溶血、血小板破壊、ヒスタミ ン・セロトニンの遊離
毛細血管透過性亢進因子 浮腫
一般的性状 マムシ(mamushi)。学名:Agkishodon halys blomhoffii。朝鮮半島、中国、イラン、カスピ海にもA.halysは棲息している。日本のマムシは神経毒の含量は少ないが、中国マムシは神経毒
を含んでおり、実際に単離された。マムシ科はアジア、北米、中米、南米に棲息している。その中のAgkistrodonという属の蛇は広く分布しており、
東南アジア、インドア大陸、北米大陸にも棲息しているが、南米にはいない。マムシ科(Crotalidae)とクサリヘビ科(Viperidae)は相似
点が多いので、この2科を纏めてクサリヘビ科に分類することもある。
左右の眼の前下方に赤外線に敏感なピット器官を持ち、毒牙は注射針と同じ構造の管牙で、毒腺は両頬部にあるため頭部は幅広くほぼ三角形をしている。頸部は
細くくびれている。体色は茶褐色から赤褐色まで変異が多く、暗褐色の銭形斑紋が並ぶが、赤みの強い個体は属にアカマムシといわれ八丈島産に多く、黒化型も
ある。夜行性で、昼間は薄暗い場所に潜む。動作は鈍いが、ヒトが接近しても逃げることはなく、その場で防御・攻撃姿勢を取る。更に接近すると体長の1/3
程を伸ばして攻撃する。
毒性 毒 の主成分は出血毒で、ハブ毒よりも強い。実験によりハツカネズミが死ぬ毒の量はハブ毒の1/5だとされている。ただ平均注入量が少ないため致命率は低い。
致死率:0.5%以下(論文報告されたマムシ咬傷患者1,339例中死亡は10 例で致死率0.75%とする報告)。
ニホンマムシ(平均体長60cm)
採毒量15mg・LD50 静注:31μg(20gマウス)・最小出血量0.5μg・最小腫脹量(?)マムシの毒作用は腫脹、出血、壊死など、局所作用が主であるから半致死量(LD50) だけではその毒性は比較できない。そのため最小出血量、最小腫脹量という指標が併用されている。
症状 受 傷直後に灼熱感があり、20-30経過後に腫脹が発現し、次第に中枢側に進展する。腫脹が高度になると、皮膚の色は暗赤色になり、水疱形成を見る。更に腫
脹が進行すると末梢動脈は触れなくなり、知覚障害もでる。放置すれば壊死に陥る。約一昼夜で浮腫はピークを迎える。毒の直接作用による筋肉の壊死は、牙痕
の周辺の小範囲に止まるのが普通である。また眼筋麻痺による複視が見られることがある。
発熱、眩暈、意識障害を来すこともある。重症例では循環血液量減少性ショック、血小板減少、DIC(播種性血管内凝固症候群)を来たし、更に進行すれば横
紋筋融解症、急性腎不全を発症する。
処置 A. 応急処置:毒の吸収阻止のため、安静を保ち咬傷部より中枢側を軽く緊縛する。創部を洗浄後、 切開して毒素(浸出液)を吸引又は絞り出す。
応急措置としての素人による切開・毒素の吸引は行わない(咬傷跡の確認困難・ 破傷風感染等)。
B.全身管理:疼痛・腫脹が局所に局限している軽症例以外は入院させ経過を観察する。静脈路を確保し十分な輸液を行う。
Rx.処方例
ラクテック注 100-200mL/時 点滴静注(尿量1mL/kg/時以上を目標)
適宜血液検査(血算、生化学、凝固系など)を施行し、血液濃縮(ヘマトクリット値の上昇)や横紋筋融解症(CPK上昇)、腎不全(BUN、クレアチニン)
の有無をチェックする。C.抗毒素療法
腫脹が手関節又は足関節までの軽症例やアレルギーで抗毒素を投与できない症例では、セファランチンを投与して経過を観察する。
但しセファランチンの使用の有効性を示すevidenceはないとする内藤 (2001)が見られる。
Rx.処方例
下記の薬剤を症状に応じて適宜用いる。
1)セファランチン注(10mg)  1日1-2回静注
中等症から重症例(腫脹が肘関節又は膝関節以上に及ぶ症例)に対しては、乾燥まむし抗毒素を6時間以内に投与する。
2)乾燥まむし抗毒素 1回6,000単位 添付の注射用水20mLに溶解し、更に生理食塩水で10-20倍に稀釈して点滴静注。

*アナフィラキシー・ショックに十分注意し、添付文書に従ってウマ血清過敏症試験を行ってから投与する。なお、抗毒素のヒトにおける有効性を示す臨床上の
evidenceはないとする内藤(2001)の報告が見られる。
D.感染予防
抗破傷風ヒト免疫グロブリン、抗生物質を投与する。
1)テタノブリン注  1回250U  筋注

事例 ほ どなく、笛の低い音がぴーひょろろと短く鳴って止まると、天井から短く茶色の太い紐が落ちてきた。
畳の上で紐は巻き上がって、更に短く縮んだ。まむしの頭と舌が見えている。まむしはまた紐のようになって、するすると勘三の枕元まで這った。
「へ………」
鋼次は、危うく叫びだしそうになった。
お房は操られるように、半身だけ床の上に起きあがった。その目はまむしに注がれてはいたが、恐怖の色はなかった。まむしに取り憑かれたかのようにまばたき
一つしない。まむしとお房が見合っている。
「いけない」
そういって、桂助がお房のもとに急ごうとした時、まむしがするりと動いた。甘えるかのように、勘三の首に巻き付いたのであった。それを泥酔している勘三
は、
「うーん」
といって振り払った。
そのとたん、まむしの口がくわっと開いて、毒針が飛び出した。まむしががっぷりと勘三の首に噛みついて、跳ねている。

ひーっという断末魔の悲鳴が上がった。
桂助と鋼次はすぐにかけつけたが、噛まれた場所が場所だけに、すでに勘三はこと切れていた。
[和田はつ子:口中医桂助事件長-南天うさぎ;株式会社小学館,2005.11.1.]

備考 主 人公で探偵役の桂助は商家の長男ではあるが、家は継がず、長崎で蘭方を納めた歯医者、仲間の一人は飾り職人、後の一人は医師の娘で、桂助が栽培している漢
方の面倒を見ている。更に著者が連作を考えていると思われる節も見られるが、今回までのところ主人公は腕力には無縁と思われるので、切った張ったの場面に
遭遇したらどうするのか。些か期待したい部分でもある。
ところでこの当時の歯科の治療がどうであったかは知らないが、一応、調べてはあるようである。漢方処方の中味も出てくるが、特に間違っているとは思えな
い。
しかし、蝮を飼い馴らすというのは果たしてできるのかどうか。最低でも毒牙を抜いておかなければ、野生を抑えて馴らすというのは危険ではないか。最も毒牙
を抜いて飼っていたとしても、殺人の道具としては使えない。本書の発行年月日は2005年11月1日となっているが、購入したのは10月の10日前後である。単なる誤植なのか、意図的な設定なのか、よく解らない
が、多分誤植なんだろうね。
文献 1)Anthony T.Tu・編著:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005
2)小川賢一・他監修:危険・有毒生物;学研,2003
3) Anthony T.Tu:中毒概論-毒の科学-;薬業時報社,1999
4)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療;南江堂,2001
5) 山口徹・他総編:今日の治療指針;医学書院,2005
調査者 古 泉秀夫 記入日 2005.10.16.

曼荼羅華の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 曼荼羅華(マンダラ ゲ)
成分 朝鮮朝顔の成分:全草にtropane alkaloids(トロパン骨格を持つalkaloid)のスコポラミン(ヒヨスチン)、l-hyoscyamine、アトロピン(dl-
hyoscyamine)、スコポレチンを含み、総alkaloid含量は花に最も多く、種子や葉にはやや少ない。種子のalkaloidは scopolamine
0.24%を主として、l-hyoscyamine 0.02%、atropine 0.0025%を含む。日局IIIに収載されたことがある。
白花朝鮮朝顔の成分:葉にはalkaloid 0.4%を含有し、主成分はhyoscyamine及びアトロピンである。
洋種朝鮮朝顔の成分:葉にはtropane alkaloidsのhyoscyamine、アトロピン、スコポラミン、アポアトロピン、メテロイジンの他、硝石を含む。種子には約0.4%の
alkaloidを含み、hyoscyamine、アトロピンを主成分とし、またパルミチン、ステアリンなどからなる脂肪油25%を含み、アトロピン、
hyoscyamineの製造原料となる。
一般的性状 チョウセンアサガオ(マンダラゲ、キチガイナスビ、イガナスビ、ゲカコロシ)。ナス科チョウセンアサ ガオ属。Datura mete L.(=D.alba
Nees)、朝鮮朝顔、曼荼羅華。[英]datura leaf。熱帯アジアの原産で、日本には江戸時代に渡来し、薬用に栽培されたが、現在は殆ど見られなくなった1年草。
[有毒部分]花又は全草(曼荼羅華)、種子(曼荼羅子)、葉(曼荼羅葉)。 [薬効・薬理]トロパンアルカロイドは一般に副交感神経抑制作用、中枢神経興
奮作用を示す。アトロピンは副交感神経を遮断し、中枢神経を初め亢進、次いで麻痺させ、また血圧の上昇、脈拍の亢進、分泌機能の抑制、瞳孔の散大を起こ
す。スコポラミンはアトロピンに類似の作用を示すが、アトロピンよりも散瞳作用が強く、分泌抑制作用が弱い。本種は以前鎮痛麻酔薬として使用されたが、現
在ではアトロピン、スコポラミンの抽出原料とされる。
シロバナチョウセンアサガオ(Datura stramonium L.)、ナス科チョウセンアサガオ属。白花朝鮮朝顔。[英]Jimson Weed、Jamestown
Weed。熱帯アジア原産で、日本には明治初期渡来し、道端や荒地に野生化し、また薬用に栽培される1年草。 [薬用部分]葉(ダツラ葉)。[薬効・薬理]葉は鎮痛、鎮痙、鎮咳、目薬などに用いる。ヨウシュチョウセンアサガオ(Datura stramonium L.var.chalybea Koch(=D.tatula L.)、ナス科チョウセンアサガオ属。フジイロマンダラゲ、洋種朝鮮朝顔。熱帯アメリカ原産で、日本には明治12年に渡来
し、各地の道端や荒地に野生化し、薬用に栽培される帰化植物で1年草。 [薬用部分]葉(ダツラ、マンダラ葉)、種子。[薬効・薬理]鎮痛、鎮痙、鎮咳剤として使用する。
ダツラ(Datura)、マンダラ葉、 [局6]、[劇]。洋種朝鮮朝顔、白花洋種朝鮮朝顔、の花期の葉を乾燥したものである。本品は総alkaloid(ヒヨスチアミンとして)0.25%以上
を含む。本品は特異な麻酔性の臭いと、催吐性の不快な苦味を有する。
毒性 植物中のalkaloid含量は、生育条件や時期によって異なるので、摂取量と症状を関連づけるのは 難しい。
[1]朝鮮朝顔の種子を数粒から400粒摂食した13名の高校生が、中毒を起こした。[2]アメリカ朝鮮朝顔(ケチョウセンアサガオ)の種子を摂食した78歳の女
性が中毒症状を呈した。[3]朝鮮朝顔の根を牛蒡と間違えて炊きあげた五目飯を摂食した3人が、中毒症状を呈して入院した。
belladonna alkaloid(atropine、 scopolamine、l-hyoscyamine等)は、副交感神経と汗腺に行く交感神経の末端で、これから遊離するアセチルコリンの作用を遮断す
る。従って中枢作用以外の症状の全てはこれで説明できる。中毒症状として常に見られるものは、副交感神経の麻痺による散瞳と遠近調節力や対光反射の消失で
ある。自覚症状として眼のまぶしがり眼のちらつきが発現する。中枢神経に対しては、当初、軽い抑制、続いて刺激症状、反射の亢進、更に重篤になると昏睡か
ら死にいたる。不安、譫妄、失見当識、幻覚、活動亢進などが見られるため、精神分裂病の急性期や急性アルコール中毒と間違えられる。涙腺、唾液腺、汗腺などの外分泌が抑制される。口腔粘膜が乾燥するので、口渇、発声困難、喫食困難などを訴える。発汗が抑制されるので、皮膚が乾燥、熱感
を持つ。皮膚の紅潮を見るが、顔面、首、上半身に著しく、特に小児によく見られる。発汗が抑制されるから、体温が上昇する。特に小児や高温環境では43℃
にも達し、そうなれば致命的である。小児では鼓腸が見られる。頻脈、血圧上昇が見られるが、末期には血圧低下、呼吸麻痺が起こる。
atropine(dl-hyoscyamine)
毒性:マウス(経口)LD50 548mg/kg。
致死量:成人100mg以上、小児10mg-20mg。ただし、小児では10mg以下の致死例もあり、成人では1gの服用でも回復例がある。
体内動態:Tmax:1時間、t1/2:13-38時間、蛋白結合率:50%、排泄:85-90%/24時間(尿中)。
scopolamine:経口中毒量:3-5mg

洋種朝鮮朝顔:根茎にalkaloid約0.4-0.6%、種子には約 0.4%含有する。重症中毒発現量:種子50-100粒。小児致死量:葉及び種子4-5g。

症状 [1]30 分から2時間して最初に出る症状は口渇、喉の痛み、体のふらつき、倦怠感、眠気、瞳孔の散大である。その後、興奮、譫妄状態、失見当識、虫をつかんだり、
壁をまさぐったり、ゴミをつかむような動作、運動乱発状態を示す。尿失禁、強直性間代性痙攣も見られた。48時間程度で退院したが、その間のことは覚えて
いないという健忘があり、退院時でも散瞳は残った。[2]散瞳、口渇、意識混濁、譫妄の症状を呈したが、1日後には回復した。[3]食後30分後に口の痺れ、口
渇、吐気が現れ、足のふらつき、子供がだだをこねたり、指で何かをつかもうとするかのように手を出したり、暴れたりという、錯乱や意識消失などの症状が
あった。
経口後30分程度で口渇が発現し、体のふらつき、嘔気、倦怠感、眠気。
精神神経症状:興奮、錯乱、幻覚と発熱、昏睡。
消化器 症状:悪心。
皮 膚 症状:皮膚の乾燥、紅潮、首、顔、身体の紅斑。循環器 症状:心悸亢進。血圧上昇、頻脈が見られるが、末期には血圧低下、呼吸麻痺を来す。
呼吸器 症状:速い呼吸、呼吸抑制。
そ の  他:頻尿、尿閉、嚥下困難、瞳孔散大、光線嫌忌、視力障害。
処置 毒 物の排除:催吐又は胃洗浄、活性炭と塩類下剤投与(食塩水又は吐根シロップ15mLを与え、次に水、牛乳あるいは果実ジュース250mLを与えて吐かせ
る)。
維持 管理:気道を確保し、呼吸管理(酸素吸入・人工呼吸)。
対症 療法
*モルヒネの使用は呼吸抑制があるため避ける。*興奮が強いときは抱水クロラール(2%溶液を直腸内投与)又はジアゼパム投与。
*口渇には氷水。鼻・眼の乾燥には流動パラフィン。
*散瞳や眼圧上昇には塩酸ピロカルピン又はサリチル酸フィゾスチグミン(ウブレチド点眼液:臭化ジスチグミン0.5-1%点眼液)点眼。
*発熱には冷罨法。
*拮抗剤:フィゾスチグミン2mg(国内未発売)を緩徐に静注する。効果を見た上で、20分程度経過後に、必要があれば1-2mgを追加する。小児では
0.5mgを使用。
副交感神経の麻痺で、消化管の蠕動が抑制されるため、喫食物が長時間以内に滞留する。この事態はbelladonna alkaloid中毒の初期治療では重
要で、摂取後24時間以内であれば、催吐、胃洗浄、活性炭と下剤の投与が適応である。しかし、植物片は胃洗浄で出すことができない。膀胱の弛緩性麻痺が起
こるため尿閉となり、しばしば導尿の必要がある。導尿しないと尿失禁を起こす。
中毒症状はアセチルコリン作用の遮断によるもので、抗コリンエステラーゼ剤を投与、アセチルコリンの分解を抑制し、これを神経末端に蓄積させることを考え
る。中枢作用に拮抗させるためには、抗コリンエステラーゼ剤の中でも、血液脳関門を通過し、中枢神経内に入るものでなくてはならない。現在あるものとしてはフィゾスチグミンだけで、これがbelladonna alkaloid中毒の特効薬で ある。静注により症状の劇的な改善が見られるが、国内では市販されていない。病院薬局製剤として製剤したものを使用する。
フィゾスチグミンは、気管支喘息、四肢等の壊死、心疾患、消化管や尿路の機械的狭窄を増悪するので使用に際し十分に注意。万一、フィゾスチグミンによる副
交感神経刺激症状が出たときには0.5-1.0mgのアトロピンを静注する。
事例 「で すから、その茄子自体が怪しい。毒茄子だったに違いねえんで。すわが味噌に毒を入れたのなら、普通の茄子で間に合う。茄子や胡瓜はこうこにするので、いつ
も台所にあるそうです」
………………………………
親分は柴折戸をそっと開けて庭に入り、あちこち眺めていましたが、隅の低い草に目を付けてその傍らに屈みました。見ると何本かの茄子で、ところどころに小
さな紺色の実をつけています。親分は小声で
「見ねえ。もの茄子だ。幹のあたりに接ぎ木した痕があるだろう。何かの毒草に茄子を接いで毒茄子を作ったんだ」
………………………………
親木は曼荼羅華、俗に気狂い茄子と呼ばれている毒草で、これを台木にして食用の茄子を接いだと言います。この植物毒が体内にはいると呼吸障害を起こし、全
身に痙攣が起こって死んでしまいます。 [泡坂妻夫:自来弥小町-毒を食らわば;文藝春秋,1997]
備考 physostigmine 注
[商]Antilirium
[適応]三環系抗うつ薬、アトロピン、スコポラミン過剰投与に対する解毒。緑内障。
[用]成人:1回2mgを20分毎に静注又は筋注。小児:1回0.01-0.03mg/kgを15-30分毎に静注。総投与量2mgまで。0.1%-サリチル酸フィゾスチグミン注射剤(院内製剤)

サリチル酸フィゾスチグミン(6局-試薬)   0.1g

メタ重亜硫酸ナトリウム(試薬)        0.1g
クエン酸(試薬)               0.01g
クロロクレゾール(試薬)           0.2g
塩化ナトリウム(局方)            0.9g
注射用水              全量  100mL
調製法:注射用水(局方)にサリチル酸フィゾスチグミン、メタ重亜硫酸ナトリウム、クエン酸、クロロクレゾール、塩化ナトリウムを溶解し、全量100mL
とする。次いでメンブランフィルター(0.45μm)を用いて濾過し、褐色アンプルに分注し、熔封する。100℃-30分間高圧蒸気滅菌を行う。
規格単位:1mg/mL/管
貯法:褐色アンプル(1-2mL)、冷暗所保存。
適応:健忘症候群に対する治療(記憶力増強作用)。術後の麻酔緩和。

用法・用量:皮下注射
使用期限:1年
特記事項:サリチル酸フィゾスチグミン1gは水90mLに溶ける。pHは4以下に保つ。赤く変色したものは、使用不可。副作用として悪心、嘔吐がある。
類似処方:0.1%-サリチル酸フィゾスチグミン注射剤
サリチル酸フィゾスチグミン   0.1g
生理食塩水       全量  100mL

文献 1) 薬科学大辞典 第2版;広川書店,19902)三橋 博・監修:原色牧野和漢薬草大図鑑;株式会社北隆館,1988
3)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療 改訂第2版;南江堂,2001
4)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル;医薬ジャーナル社,2001
5)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999
6)白川 充・共訳:薬物中毒必携第2版;医歯薬出版株式会社,1989
7)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
8)飯野靖彦・監訳:スカット・モンキーハンドブック;MEDSi,2003
9)日本病院薬剤師会・編:病院薬局製剤 第5版;薬事日報社,2003
10)縮刷第六改正日本薬局方註解;南江堂,1954
調査者 古泉秀夫 記入日 2004.6.10.

馬銭子(マチンシ)の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 馬 銭(マチン)
成分 馬 銭(ホミカ)はalkaloid 2-5%を含み、その主成分はstrychnine(ストリキニーネ)とbrucine(ブルシン)で、その他、ボミシン、α-コルブリン、β-コルブリ
ン、配糖体のロガニン、カフェオタニン酸、脂肪油などを含む。ホミカはホミカエキスや硝酸ストリキニーネの製造原料などに用いられる。
一般的性状 マチン科(Loganiaceae)マチン属。学名:Strychnos nux-vomica Linn

ポリリン酸ナトリウムの毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 ミートボールの結着剤
成分 ポリリン酸ナトリウム(sodium polyphosphate)
一般的性状 [食添収載]。
本品は白色の粉末又は無色-白色のガラス状の片若しくは塊である。本品を乾燥したものは、五酸化リンとして53.0-80.0%を含む。本品は僅かに吸湿
性であり、水に溶け、その1%水溶液のpHは、トリポリリン酸ナトリウムで9.2-10.1である。市販品のpHはトリポリ塩9.7(9.5-9.8)、テトラポリ塩8.5-9.0(8.3-8.7)、ペンタポリ塩8.6、ヘキサポリ塩6.8といわれる。水溶液中で加水分解する傾向があり、トリポリリン酸ナトリウムでは1%溶液で70℃保存時50時間後に約30%が分解する。しかし100℃では10時間で約40%のピロ塩とオルト塩にまで分解し、未変化体は約20%である。他の縮合塩と同様に金属イオンを封鎖するほか、コロイド溶液を作り、分散性を高める。
作用、組織の保水性、結着性を強くする作用、特に緩衝作用が強いのが特徴である。我が国における市販品は、各種のポリ塩の混合物であることに留意する必要がある。
本品は昭和32年食品添加物として指定された。本品は単独で利用されることが無く、他の縮合塩との製剤として利用される。食品の変色防止、練り製品の結着
力の増大、チーズなどの風味、組織、体質、色調の向上と老化防止などに用いられる。
市販品の大部分はトリポリリン酸ナトリウムを主成分とし、少量のピロリン酸塩、トリメタリン酸塩及び非結晶性の高重合リン酸塩を混在する。
毒性 急性毒性(LD50)
ラット   経口   4,000mg/kgラット   静注     18mg/kg
マウス   経口   3,210mg/kg*3-ポリリン酸塩及びポリリン酸塩を混入した食餌で24週間飼育されたラットのうち、3%以上の混入群で体重増加の一時的抑制、3-5%群で腎石が認められた。
*ポリリン酸塩のヒトに対する経口許可1日摂取量についてFAO/WHO専門委員会は、そのままで殆ど腸管から吸収されず糞便中に排泄されるので、その毒
性は考えることはないが、腸内で一部がモノリン酸塩に分解されるので、モノリン酸塩の毒性と同様に考えられるとしている。リン酸塩は生理的に有害な金属を
含有しないものでは一般に毒性はないが、多量を飲下する時腸管壁を刺激して下痢を起こすことがある。
症状 *ポリリン酸塩は賦形剤及び水質軟化剤として殆どの家庭用洗剤に加えられており、刺激性もある。飲むと嘔吐を起こす。添加物のポリリン酸塩は高分子状態では、腸管から吸収されないが、低分子のものでは腸管内でかなり分解を受ける。
*ポリリン酸ナトリウムは弱アルカリ性であり、強アルカリ性物質と同様の影響は見られないと考えられるが、弱アルカリ性の『トリポリリン酸ナトリウム60%+ラウリル硫酸ナトリウム24%』をコーヒーに混入して誤飲した例で、胸痛・嘔吐が見られている。更にオートミルに加えて誤食した例では嘔気、嘔吐、下痢、胸やけが報告されている。
処置 特定の対処法は報告されていない。対症療法。
事例 大手ファミリーレストラン「サイゼリヤ」の鴻巣店で今月23日に食事をした夫婦が、手足のしびれや嘔吐などを訴えて一時入院したことが解った。子供向け料理
の輸入ミートボールが原因の可能性があり、鴻巣保健所などで詳しく調べている。長女(1)用に注文したミートボールの中にグリーンピース大の白い塊を見つ
けた。二人で味見したところ、舌先にしびれが残り、その後、発熱などの症状も出た。医師は「薬物中毒に近い症状」として、検査を継続中という。
同社は京都の店で残った白い塊の分析を進めてきたが、材料を結着させる成分のポリリン酸ナトリウムが混ざらずに固まったものだった可能性が高いとみている。[ミートボール提供中止 サイゼリヤ 夫婦おう吐、一時入院;読売新聞,第45615号,2003.3.26.]
備考 *リン酸塩は生体硬組織の組成分であるのみでなく、炭水化物、脂肪及び蛋白質代謝に主要な役割を果たす。
*ポリリン酸(6-メタリン酸)をラット、ウサギに経口投与しても、尿からのリン酸回収は極めて微量で、消化管からの吸収はモノリン酸となって行われるもので、その量は投与量の10-30%と考えられている。このモノリン酸への水解は酵素によるもので18時間でその40%が分解され、腸内細菌が関与すると考えられている。ポリリン酸は細胞内では核内に局在することが認められている。
*摂取されたポリリン酸の大部分は糞中に水解されることなく排泄される。その際、カルシウム、マグネシウム、鉄及び銅と結合し、その結果、ミネラルの欠乏
を起こすことがあるが、この障害を現実に起こした報告は見られない。
文献 1)薬科学大辞典 第2版;広川書店,19932)第7版食品添加物公定書解説書;廣川書店,1999
3)白川 充・他共訳:薬物中毒必携;医歯薬出版株式会社,1989
4)梅津剛吉:洗剤中毒;救急医学,3(10):1334-1338(1979)
調査者 古泉秀夫 記入日 2003.5.7.

フルニトラゼパムの毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 [商] ロヒプノール
成分 フルニトラゼパム(flunitrazepam:INN、BP、EP)。
一般的性状 本品を乾燥したものは定量するとき、フルニトラゼパム(C16H12FN3O3=99.0%以上含む。
本品は白色-微黄色の結晶性の粉末である。本品は酢酸(100)に溶け易く、無水酢酸又はアセトンにやや溶け易く、エタノール(99.5)又はジエチル
エーテルに溶け難く、水に殆ど溶けない。融点:168-172℃。
貯法:遮光保存。気密容器。
[本質]催眠薬 [benzodiazepine系]。中間型のbenzodiazepine系に分類。
[来歴]米国Hoffmann-La Roche社では、同社が1960年代に合成した一連のbenzodiazepine系化合物について構造活性相関の研究を行い、強力な催眠・鎮静作用を
有する本品を開発した。[動態・代謝] 経口投与後速やかに吸収され、bioavailability(生物学的利用率)は85%に達することもある。未変化体血漿中濃度は投与後1-2時間で最
高値となり、投与後12時間目までの消失半減期は約7時間である。血漿中蛋白結合率は約80%である。静脈内投与の場合、血漿中濃度は3相性に低下する
が、各相の消失半減期は約8分・2時間及び24時間で、投与後4時間以降は緩徐に体内から消失する。経口投与後、未変化体は投与量の1%以下しか尿中に排
泄されず、大部分は7-amino体などの代謝物の形で排泄される。代謝物のdesmethyl体は活性を有する。
[薬効薬理]benzodiazepine系薬物に共通の薬効を示す。徐波睡眠及び速波睡眠(REM睡眠)の軽度な減少が見られる。アルコールにより本薬
の作用は増強される。
[副作用]benzodiazepine系薬物共通の副作用を生ずる。大量連用により薬物依存を生じることがあるので注意を要する。精神分裂病などの精神
障害者に経口投与すると、逆に刺激興奮、錯乱などが現れることがある。注射では覚醒困難、興奮、多弁、また稀に麻酔後睡眠、錯乱が現れることがある。内服
及び注射による投薬では、GOT・GPTの上昇、呼吸抑制、血液障害、循環器症状、消化器障害、過敏症状や他に倦怠感、脱力感、尿失禁、発汗、排尿困難、
頻尿などが現れることがある。
[適用]不眠症の治療に用いるほか、麻酔前投薬に用いられる。1回0.5-2mgを就寝前又は手術前に服用する。なお高齢者には1回1mgまでとする。全
身麻酔の導入に用いる場合は、注射用水で2倍以上に稀釈調製した本薬を0.02-0.03mg/kg、局所麻酔時の鎮静に0.01-0.03mg/kgを
出来るだけ緩徐(1mgを1分以上掛けて)に静注する。必要に応じて初回量の半量-同量を追加する。
[投与禁忌]急性狭隅角緑内障、重症筋無力症、本薬過敏症の患者。また肺性心、肺気腫、気管支喘息及び脳血管障害の急性期などで、呼吸機能が高度に低下し
ている場合には、原則として服用しない。
毒 性 LD50 マウス(雄)経口 1550mg/kg。LD50(mg/kg)
動物 経口 腹腔内 皮下 筋肉内
マ ウス(ICR系) 1550 1050 >4000 >2000
1200 1080 >4000 >2000
ラッ ト(SD系) 415 1300 >4000 >2000
450 1060 >4000 >2000
症状 * 昏睡等の中枢神経抑制作用に基づく症状。
*嘔気、嘔吐、傾眠、昏睡、反射消失、痙攣、錯乱、筋力低下、呼吸抑制、低血圧、頻脈、口渇、排尿困難、軽度白血球増多、好酸球増多、肝障害。
処置 * 胃洗浄、活性炭による吸着。フルマゼニルの投与。
本剤の過量投与が明白又は疑われた場合の処置として、フルマゼニル(benzodiazepine受容体拮抗剤)を投与する場合には、使用前にフルマゼニ
ルの使用上の注意(禁忌、慎重投与、相互作用等)を必読すること。
*無症状でも6-8時間観察。
催吐、胃洗浄、吸着剤と下剤の投与。
呼吸管理、循環管理。
強制利尿、血液透析は無効。a.催吐:中毒量以上の毒物を摂取して1時間以内の意識正常患者に実施する。家 庭内で発生する低毒性物質の少量誤飲例に催吐の対応はない。
b.胃洗浄:毒物を経口的に摂取して1時間以内で、大量服毒の疑いがあるか、毒 性の高い物質を摂取した症例に実施する。
処方例
微温湯:1回200-300mL(小児では生理食塩水10mL/kg)を注入し、排液が透明になるまで繰り返す。
c.活性炭・下剤投与:活性炭投与も薬毒物の摂取後1時間以内が有効である。た だし、次の特徴を有する薬毒物では、24-48時間にわたり、2-6時間毎に繰返し投与する方法が推奨されている。
[1]分布容量(Vd)が小さい。
[2]蛋白結合率の低い物質。

[3]脂溶性。
[4]血中でイオン化していない。
[5]腸肝循環する(若しくは腸溶錠=徐放剤)
処方例
活性炭 50gを微温湯300-500mL(小児では1g/kgの活性炭を生理食塩水10-20mL)に溶解し、服用させる。その後半量を3時間毎に24
時間まで繰り返して投与する。下剤としてD-ソルビトール液(75%) 2mL/kgを投与し、6時間後に排便がなければ、半量を繰返し使用。
d.強制利尿:全ての急性中毒症例で、その程度は様々であるが、何等かの強制利 尿が実施されている。しかし、適切な体液・循環管理がされている限り、強制利尿の適応となる物質は限られている。また最近では腎障害の増強が問題視され、
酸性利尿は原則として推奨されていない。

事例 「毛 髪サンプルを洗滌し、乾燥し、有機溶媒抽出をした。抽出物を分光計に注入し、その結果を判定対照用の資料をサンプルと比較した」
「何が解ったんだ?」
「カンナビス製剤だ」
「英語でいってくれ、先生」
「マリファナだよ。アパートにあったかい?」
「いや」
「髪の毛が教えてくれたのはそれだけじゃないんだ」
「他に何か?」「ロヒプノール」
「ロ、ヒ、ノール?」
「R-O-H-Y-P-N-O-Lだ」ブレイニーがいった。「フルニトラゼパムという薬のブランド名だ」
「聞いたことがないな」
「この市ではあまり見かけないんだ。救急病院の世話になることもないし、死ぬこともない。緩和安定剤の一種のベンゾジアゼピンといって、南部や南西部では
けっこう知られてる。若い奴らが、アルコールや他の薬と一緒に使ってるんだ」
「窒息死っていったんじゃなかったか」
「そうなんだ。まあ、我慢して聞いてくれ。毛髪の分析結果を見て、もう一度血液を調べたんだ。今度はフルニトラゼパムとその第七アミノ基の代謝産物にし
ぼった。結局、その原薬であるフルニトラゼパムが少量発見されただけだった………命に関わるほどの量ではない。しかし、少なくとも二ミリグラムは絶対に摂
取したといえるんだ」
「ということは?」
「ということは、自分で首をつれなかったということだ。彼には意識がなかっただろう。おまえさんは殺人事件を扱うことになったのさ」

というわけで、あたらな局面を迎えることになった。
[山本博・訳(エド・マクベイン):87分署シリーズ-ラスト・ダンス;早川書房,2000]

備考 毒殺目的で使用されたわけではなく、殺人を楽にする目的で使用されたものである。本来、毒殺に使用された薬物ではないため、毒性を調べるのは筋違いというこ
となのかもしれないが、永年愛読してきた87分署シリーズも、2005年作者のEd McBAINが死んだとされており、翻訳される新作も数少ないと考えられる。そこで弔意を表する意味で、『The
Last Dance』で話として出てきた二つの薬物について取り上げることにした。従って、毒性がさほど強いわけではないので、毒殺のための道具としては不向きで
ある。
あと一つフルニトラゼパムを取り上げたのは、Ed McBAINが作中に並べ立てている薬物の隠語の数々を見捨てるのが忍びなく、拾っておきたいと考えたからである。但し、作者も調べてはいるのだろうが、
学術論文ではないため、必ずしも正しいということではないかもしれない。
デート・レイプ・ドラッグ(date rape drug)、ラ・ロッシュ(La-Roche)、リブ(ribes)、ローチ(roach)、ロープ(rope)、フォーゲット・ピル(forget・
pill)、アール・ツー(earl・two)、ロフィーズ、ルーフィーズ、ルーファーズ、ラッフィーズ、ルーフノル
文献 1) 第十四改正日本薬局方解説書;廣川書店,2001
2)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2005
3)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999
4)山口徹・他総編:今日の治療指針;医学書院,2005
5)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル,2001
6)サイレース錠IF,2002.3.作成
調査者 古 泉秀夫 記入日 2005.11.14.

副作用としてこむら返りの記載ある薬剤

金曜日, 8月 17th, 2007

KW:こむら返り・腓返り・強直性痙攣・腓腹筋痙攣・筋痙攣・腓腸筋痙直・腓腸筋痙攣・有痛性筋痙攣

添付文書の副作用欄に“こむら返り”(腓返り)とする記載のある薬剤について抽出した。“こむら返り”について、医学用語辞典では『強直性痙攣、腓腹筋痙攣』とする標記がされている。

■強直性痙攣(tonic cramp):持続性痙攣(tonic convulsion)。骨格筋が突っ張るように激しく痙攣し、比較的長時間にわたって持続するものをいう。全身性のものには、てんかん、テタニー、破傷風などがあるが、局所性のものとしては“こむら返り”(腓腹筋痙攣)がある。

■腓腹筋痙攣(muscle spasms of triceps surae):腓腸筋痙攣。下腿三頭筋の痙攣は、上位運動ニューロンの障害、中毒性疾患でも認められるが、健康人の運動中にもしばしば発生する。筋の疲労、準備運動の不足等が原因で“こむら返り”と呼ばれている。冷水中の水泳、テニスのサーブ で爪先立ちをした際に誘発される。腓腹部の緊張と疼痛が加わり運動不能に陥る。膝の屈伸、足趾の伸展などにより筋の痙攣は緩む。軽いマッサージ、温浴も効果がある。

■その他、“こむら返り”を 「有痛性筋痙攣」と標記する文献も見られる。

腓腹筋痙攣の発現機序については、種々の原因で起こる筋収縮であるとされているが、薬剤起因性の腓腹筋痙攣の発現機序は、可逆的で筋の収縮・弛緩に必要なCa2+・Na+のバランス、筋細胞膜の安定性・筋収縮に必要なエ ネルギーの供給不備等により発現すると考えられる。また、遠心性神経と求心性神経のアンバランスが生じた場合にも腓腹筋痙攣が発現するの報告が見られる。

一般名・商 品名(会社名) 副作用標記 推定される発現理由
[213]azosemido
ダイアート錠(三和化学)
筋痙攣 本剤の利尿作用により電解質 失調・脱水が報告されており、腓腹筋痙攣の原因となりうる。
[213]benzylhydrochlorothiazideベハイド錠(杏林) 筋痙攣 本剤の利尿作用により電解質 失調・脱水が報告されており、腓腹筋痙攣の原因となりうる。
[213]bumetanide
ルネトロン錠(三共)
筋痙攣 本剤の利尿作用により電解質 失調・脱水が報告されており、腓腹筋痙攣の原因となりうる
[214]bunitrolol hydrochloride
ベトリロール-Lカプセル
(ベーリンガー)
腓腸筋痙直 catecholamine は、筋肉内へのK流入を増大することによって、その上昇を緩衝する傾向がある。β-遮断薬はこの緩衝作用に拮抗するとされており、K値の変動により発現す
る可能性。
[212]carteolol hydrochloride
ミケラン錠(大塚)
腓腸筋痙攣
(こむら がえり)
catecholamine は、筋肉内へのK流入を増大することによって、その上昇を緩衝する傾向がある。β-遮断薬はこの緩衝作用に拮抗するとされており、K値の変動により発現す
る可能性。
[214]celiprolol hydrochloride
セレクトール錠(日本新薬)
腓腹筋痙攣
(こむら がえり)
catecholamine は、筋肉内へのK流入を増大することによって、その上昇を緩衝する傾向がある。β-遮断薬はこの緩衝作用に拮抗するとされており、K値の変動により発現す
る可能性。
[214]cilnidipineアテレック錠(味の素-持田) 腓腸筋痙直 catecholamine は、筋肉内へのK流入を増大することによって、その上昇を緩衝する傾向がある。β-遮断薬はこの緩衝作用に拮抗するとされており、K値の変動により発現す
る可能性。
[122]dantrolene sodium
ダントリウム注・カプセル
(山之内)
強直性痙攣
痙攣
腓腹筋痙攣の記載はないが、 本剤は骨格筋において筋小胞体からのカルシウム遊離を抑制し、中枢神経系において細胞内カルシウム濃度上昇を抑制し神経伝達物質の遊離亢進を抑制する結
果、ドパミン-セロトニン神経活性の不均衡を改善するとされており、この作用に起因して惹起される可能性が推定される[添付文書,2003.5.]。
[217]diltiazem hydrochloride
ヘルベッサー錠(田辺)
こむらがえり 細胞外Ca2+の 血管平滑筋及び心筋細胞内への流入を特異的に遮断し、筋原繊維ATPaseの活性を阻害することにより筋の機械的収縮を抑制すると報告されており、何等か
の影響が発現することが考えられる。
[214]felodipine
スプレンジール錠(アストラゼネカ)
こむらがえり catecholamine は、筋肉内へのK流入を増大することによって、その上昇を緩衝する傾向がある。β-遮断薬はこの緩衝作用に拮抗するとされており、K値の変動により発現す
る可能性。
[213]furosemide
ラシックス錠(アベンティス)
筋痙攣 本剤の利尿作用により電解質 失調・脱水が報告されており、腓腹筋痙攣の原因となりうる。
[213]hydrochlorothiazideダイクロトライド錠(万有) 筋痙攣 本剤の利尿作用により電解質 失調・脱水が報告されており、腓腹筋痙攣の原因となりうる。
[214]metoprolol tartrate
セロケン錠(アストラゼネカ)
筋痙直 catecholamine は、筋肉内へのK流入を増大することによって、その上昇を緩衝する傾向がある。β-遮断薬はこの緩衝作用に拮抗するとされており、K値の変動により発現す
る可能性。
[217]nifedipine
アダラートカプセル(バイエル)
筋痙攣 腓腸筋痙攣とする記載はないが、細胞外Ca2+の血管平滑筋及び 心筋細胞内への流入を特異的に遮断し、筋原繊維ATPaseの活性を阻害することにより筋の機械的収縮を抑制すると報告されており、何等かの影響が発現す
ることが考えられる[IF,1999.10.]。
[214]penbutolol sulfate
ベータプレシン錠(アベンティス)
筋痙直 catecholamine は、筋肉内へのK流入を増大することによって、その上昇を緩衝する傾向がある。β-遮断薬はこの緩衝作用に拮抗するとされており、K値の変動により発現す
る可能性。
[212]pindolol
カルビスケン錠(ノバルティス)
腓腹筋痙直
(こむら がえり)
catecholamine は、筋肉内へのK流入を増大することによって、その上昇を緩衝する傾向がある。β-遮断薬はこの緩衝作用に拮抗するとされており、K値の変動により発現す
る可能性。
[213]piretanide
アレリックス錠(ヘキサル)
筋痙攣 本剤の利尿作用により電解質 失調・脱水が報告されており、腓腹筋痙攣の原因となりうる。
[243]propylthiouracilプロパジール錠(中外) こむらがえり thiamazoleにおい てこむら返りや首筋、脇腹の筋肉が引き連れる症状は、本剤の急激な治療効果の発現の結果であるとする報告が見られる。
[213]spironolactone
アルダクトンA錠(ファイザー)
筋痙攣 腓腸筋痙攣とする記載はない が、本剤投与により高カリウム血症が惹起された場合、筋痙攣の症状が発現することがある[IF,2003.8.]
[243]thiamazole
メルカゾール注・錠(中外)
こむらがえり こむら返りや首筋、脇腹の筋 肉が引き連れる症状は、本剤の急激な治療効果の発現の結果であるとする報告が見られる。
[213]torasemide
ルプラック錠
(三菱ウェルファーマ)
筋痙攣
(こむらがえ り)
本剤の利尿作用により電解質 失調・脱水が報告されており、腓腹筋痙攣の原因となりうる[IF,1999.1.]
[213]trichlormethiazide
フルイトラン錠(塩野義)
筋痙攣 腓腸筋痙攣とする記載はない が、腎遠位尿細管局部の管腔側に局在するNa+、Cl-共輸送体を阻害するこ とによりNa+、Cl-の再吸収を抑制し、尿中への排泄を増加させる。これに 伴って水の排泄が増加することにより利尿作用を示すとされている。体内電解質の減少と脱水は筋肉痛・筋肉痙攣の原因としてあげられている[IF,
1998.4.]。

[015.11.MUS:2004.6.21.古泉秀夫]


  1. 医学大辞典;南山堂,1992
  2. 葛原茂樹:就寝中に起こる有痛性筋痙攣;日本医事新報,No.3656(1994)
  3. New Pins Table,2004.6.4.
  4. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
  5. 宮川俊平:こむら返りの原因と治療;日本医事新報,No.3743(1996)
  6. 藤原元始・他監訳:グッドマン・ギルマン薬理書[上]第8版;廣川書店,1992
  7. 永井育三:薬剤師のための服薬指導-抗甲状腺Q&A-;神谷書房, 2000

河豚毒の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 フ グ毒
成分 テ トロドトキシン(tetrodotoxin:TTX)
一般的性状 フグ毒と呼ばれ、TTXと略記される。C11H17N3O8=319.28。tetrodotoxinはフグ毒中に見いだ された神経毒であるが、カリフォルニアイモリ(taricatoxin)、ツムギハゼ、ヒョウモンダコ、Atelopus属のカエル、ボウシュウボラやバイなどの貝類のほか、ある種のヒトデ、カニ、ヒラムシなどにもTTXがあることが分かってきた。更にTTXは、ビブリオ科あるいはアルテロモナス科などの海洋細菌の産生する毒素であることが明らかになった。TTXは無臭無色の結晶で、融点を示さず、220℃以上で分解する。有機溶媒には溶けないが、希酢酸水溶液に溶ける。同意語:スフェロイジン(spheroidine)、タリカトキシン (taricatoxin)、テトロドントキシン(terodontoxin)。
ヒトのTTX中毒はフグ中毒のほか、1982年に和歌山県(1人)、1987 年に宮崎県(3人)で発生したボウシュウボラによる中毒、1984年に長崎県(1人)で発生したバイによる中毒がある。バイの中毒化は7-9月が多いが、毒は中腸腺にだけあるため、この部分を喫食しなければ問題はないとする報告が見られる。
フグ中毒を考える際に重要なことは、個体、地域、季節、種類、組織によってフグの毒力は大きく変わる。現在までに分かっている20種以上の有毒フグは、全てマフグ科に属し、ハリセンボン科、ハコフグ科に属するものは、無毒ないし毒性が非常に低い。組織別毒力は、一般に肝臓、卵巣が最も高く、次いで皮膚、腸で、精巣に毒を持つものは少ない。
毒性 TTXは非ペプチド性の神経毒で、神経や骨格筋のナトリウム(Na)チャン ネルを閉塞し活動電位を止める。しかし心筋や幼若筋のNaチャンネルに対する阻害は弱い。TTXの結合部位はNaチャ ンネル分子のαサブユニットのうち第5と第6セグメントの間にあるSS2セグメントにあり、イオンの選択フィルターの機能を持つ部分とされている。致死量:0.1-10μg/kg。ヒト最小経口致死量:10μg/kg。マウ ス致死量.01μg/g。ネコLD50(経口) 200μg/kg。LD50(腹腔内注射): 10μg/kg。マウスLD50(皮下):8.5- 8.7μg/kg。
最も毒性の強いメフグの卵巣やクサフグ、コモンフグの肝臓では、2gでヒトの致死量に相当するTTXを含むものがある。その他、毒力の高いフグの場合、卵巣5gで致死的、トラフグの卵巣の致死人数は12人、マフグの肝臓は32人を殺しうるの報告が見られる。
TTXはフグの卵巣や肝臓中にある毒性物質。フグ毒。運動並びに知覚神経末梢 を麻痺し、吸収されると中枢神経の麻痺を招く性質がある。
TTXは皮膚から吸収される可能性があるので、素手での取扱いは避けるべきで ある。
症 状 TTXの消化管からの吸収は速く、症状は摂食後30分から4時間半までの間に現れる。3時間までに現れるのが普通である。死亡は半数が4時間以内、速いものは1時間半、8時間以降死亡した者はいない。軽快する者は、12時間位で完全に症状が無くなる。希
に麻痺が残るが、数日以内に後遺症を残さず完治する。古典的フグ中毒の中毒症状として口唇の知覚麻痺と四肢麻痺があり、初期には意識正常で、経過が極めて速い等の報告が見られる。呼吸麻痺の原因は、末梢神経麻痺のほか、呼吸中枢の抑制が考えられる。
中毒症状の経過
第1度 口 唇、舌、指先などのしびれ、時に嘔吐がある。
第2度 四 肢の知覚と軽度の運動麻痺がある。反射は残 る。
第3度 全 身の運動障害、深部腱反射消失、発声不能、嘔吐、呼吸困難、胸内苦悶。
第4度 3 度の諸症状、呼吸麻痺、意識障害。
第 3度で嘔吐を伴う場合、第4度に進展することが多い。
処置 有効性が確立された解毒剤・拮抗剤はない。
[1]催吐:吐物にしばしばフグの肝臓等の有毒臓器が見られることから、催吐は特に重要で、胃洗浄では有毒臓器等の未消化物を取り出すことはできない。吐物にTTXが混在しているので、口腔・鼻腔等を清潔にし、残った吐物からTTXが吸収され続けることのないように注意。TTXはアルカリ溶液中で分解し易いが、20%-炭酸水素ナトリウム溶液程度では分解しないため、胃洗浄液としての使用は無意味。システインもTTXを分解するが、治療上の効果は未定。
[2]人工呼吸:死因が呼吸麻痺で、経過が速いため人工呼吸などの呼吸管理を速めに始めれば救命できる。
[3]血圧管理:低血圧に対してはドパミンが奏効する。1分間当たり1-5μg/kgを点滴静注し、必要に応じ20μg/kgまで増量する。体温低下があれば保温する。
[4]輸液:ショックなければ電解質・ブドウ糖製剤。ショックがあれば乳酸リンゲル液。[5]運動麻痺:エドロホニウム10mg静注又はネオスチグミン0.5mg筋注。
事例 「親 分。検屍のお役人は、何の毒だと言ってらっしゃるんだい」
「はっきりしねえが、多分、石見銀山じゃねえかと」
「違うね。砒石を使ったのなら、銀簪を喉の奥に入れると黒く変わるはずだが、そうはならなかっただろう。これは河豚の毒だね」
若旦那は、あっさりと言った。
「ほら、口のまわりの筋肉が少し硬くなっているよ。河豚の肝にあたると、吐気がして唇や指先が痺れてくる。燕之丞は、吐気がして戻したものの、舌や唇が自
由に動かないので、それが喉に詰まって死んでしまったのさ。吐いた物の中には河豚の肉や肝らしいものは見当たらないから、その毒だけを何かに混ぜて食べさ
せられたんだろう」
「す、すると、こいつは殺しですかいっ」 [鳴海 丈;柳屋お藤捕物暦-二階の若旦那;光文社,2003]
備考 河 豚の肝をすり潰して使用した場合、相当量の肝を必要とするため、相手に気付かれずに摂食させることは不可能である。その意味では純粋なTTXが入手できない“捕物帖”の世界では、説得力のある仮想現実の構築が必要であり、作者の苦心もその辺にある。しかし、探偵小説の世界は、あくまでも作られた世界であり、現実的な致死量は必要とされないため、『それでは死なんだろう』と思われない構成がされていれば、それでいいのである。
フグ毒を殺人の手段とする小説は、多くはないが、物語を作る上では比較的使用し易い毒物だといえる。
文献 1) 生化学辞典 第3版;東京化学同人,1998
2)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療 改訂第2版;南江堂,2001
3)塩見一雄・他:海洋動物の毒-フグからイソギンチャクまで-;成山堂書店,19974)薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
5)鵜飼 卓・監:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999
6)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル改訂6版;医薬ジャーナル社,2001
7)志田正二・代表編:化学辞典 普及版;森北出版,1999
調査者 古 泉秀夫 記入日 2004.6.27.

プトマイン(ptomaine)の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 プトマイン中毒
(ptomaine intoxication,ptomainotoxism,独ptomainintoxikation)
成分 プ トマイン(英・仏ptomaine・独ptomain)
一般的性状 <死(体)毒、屍毒>。動物組織、特に肉類の腐敗の際に生成される有毒物質の広義の名 称。主として動物組織の蛋白質を構成する種々のアミノ酸が細菌の脱炭酸酵素によって、脱カルボキシル化されて、生ずるものが多い。例えばリジン由来のカダ
ベリン、アルギニン由来のアグマチン、オルニチン由来のプトレッシン、チロシン由来のチラミン、ヒスチジン由来のヒスタミン、その他種々の生体アミン
(biogenic amine)が含まれている。これらのアミンの多くは有毒であり、また、悪臭を放つものもある。いわゆるプトマイン中毒(ptomaine
poisoning)の際にはこれらの腐敗毒とともに、細菌の生産する細菌性毒素による場合も多いといわれている。カダベリン(cadaverine)[NH2(CH2)5NH2]:蛋白質の腐敗生成物であるプトマインの一つで、ペンタメチレンジ アミンにあたる。リシンの乾留や醗酵、トリメチレンジシアニドの還元などで得られる。水、アルコールに可溶。塩酸塩を乾留すると容易にピペリジンになる。

アグマチン(agmatine)[H2N(CH2)4NHC(=NH) NH2]:魚介類などの腐敗過程で生成される。アレルギー様食中毒の原因物質としてヒスタミンとともにあげられ、これらは毒性相乗作用がある。麦角中にも
含まれる。
プトレッシン(putrescine)[H2N(CH2)4NH2]:テトラメチレンジアミン (tetramethylenediamine)、別名:1,4-ブタンジアミン、プトレシン。ジアミンの一つ。蛋白質の腐敗物中に見いだされ、アルギニ
ンからオルニチンを経て、又はアルギニンからアグマチンを経て、細菌の脱炭酸酵素の作用で生成する。テトラメチル誘導体が、ナス科Hyoscyamus
nigerから見いだされている。腐敗臭あり、有毒。
チラミン(tyramine)[HOC6H5(CH2)2NH2]:p-ヒドロキシフェニルエチルアミン(p- hydroxyphenylethylamine)。間接作用性交感神経作動薬のプロトタイプ。交感神経終末に取り込まれ、シナプス小胞からノルアドレナ
リンを追い出し、交感神経刺激作用を現すが、受容体に対する直接作用はほとんどない。生体内に生ずることは少なく、チラミンを含む食品に由来する。多く含
むものとしてはチーズ、酵母、肉の抽出液、ワイン、保存魚製品などである。

ヒスタミン(histamine)[C3H3N2(CH2)2NH2]:生体内でL-ヒスチジンからヒスチジン脱炭酸酵素により生 ずる生理活性アミンの一つである。近位(中枢)及び遠位(末梢)組織一般に存在し、多彩な薬理作用を発揮する。
ギリシャ語ptoma(死毒)に由来する語。蛋白質が屍肉などの中で自己消 化、細菌による腐敗によって分解してできる一群の有毒の塩基性含窒素化合物。カダベリン、プトレッシンなどを含み食中毒の一つの原因となる。しかし、アミ
ン類は相当に腐敗が進まないと生じないし、そのような食品は悪臭がして食べられない。更に実際に食中毒の原因となった食品はそれほど腐敗が進んでいない等
の理由で、プトマイン中毒説は消滅した。

ボルジア家の毒薬カンタレラは、一節にはプトマインの一種ではないかとされて いる。プトマインとは、生物が死亡する時に体内で生成される毒物で、屍毒とも呼ばれている。こうした毒物の採集法としては、ヒキガエルの肺から取られるの
が一般的であるが、ボルジア家のカンタレラの原料となったのは「逆さ吊りにしてブタを撲殺し、その肝臓を磨り潰した後に亜砒酸を混入したもの」であるらし
い。
Hyoscyamus niger L.:ヒヨス。alkaloidのhyoscyamineを主成分として、鎮痛、鎮痙薬とする。

毒性 現在では、プトマインの存在は否定されている。
症状 プ トマインによる中毒症状は多様で、ストリキニーネ、モルヒネ、クラーレあるいはムスカリン中毒に類似し、特にしばしばアトロピン中毒の症状を呈する。現在
ではプトマインという言葉は、歴史的にのみ存在していると考えられている。
処置 現在では、プトマインの存在は否定されている。
事例 事実は極めて簡単なんです。三人の人たちが夕食を共にして、いろいろ食べた中に缶詰の蝦が入っていました。その晩遅く、三人とも工合が悪くなり、いそいで医
者を迎えたのです。二人は回復し、一人はなくなりました」
「なるほど!」と、レイモンドは満足げに言った。
「まあ、事実そのものとしては、まったく単純でした。死因はプトマイン中毒によるものと考えられ、死亡証明書もそういうことで与えられ、死んだ人はちゃん
と埋葬されました。けれども、それだけでは落着しなかったのです」
ミス・マープルはうなずいた。「噂が出はじめたのでしょう」と彼女は言った。「いつもそうですわ」
…………………………………………………………………………………
しかし彼女は何度もくりかえして、どこから見ても罐はふくらんでいなかったことと、蝦も全然わるくなっているようには見えなかったということを主張しまし
た。[井上宗次・他訳:火曜の夜のつどい-クリスティ短編集(一);新潮文庫,1960]
備考 料理を作った女中は、蝦(エビ)の缶詰は膨らんでいなかったと力説している。缶詰が膨らむということは、細菌が酸素のないところで増殖するとガスを発生する
ところから、ボツリヌス菌等の嫌気性菌が増殖していることを示している。その結果、プトマイン中毒が発生し中毒死したというのが医師の診断であったが、結
局は誤診であって、死因は別の毒物ということである。
文献 1) 南山堂医学大辞典 第18版,19982)薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
3)秦野 啓・他:魔法の薬;新紀元社,2002
4)志田正二・代表編:化学辞典;森北出版,1999
5)新村壽夫・編:食品衛生学 第2版;愛智出版,2004
調査者 古泉秀夫 記入日 2004.6.3.

ピロカルピン(pilocarpine)の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 パ イロカルピン
成分 塩酸ピロカルピン又はピロカルピン(pilocarpine)。[英]pilocarpine hydrochloride 、[独]Pilocarpinhydrochloride、[仏]chlorhydrate
de pilocarpine、[ラ]pilocarpini hydrochloridum。
一般的性状 ピロカルピン(pilocarpine):南アメリカ産ミカン科の植物ヤボランジ(主として Pilocarpus microphyllus)の葉に含まれる主アルカロイド。イミダゾール骨格を持つ数少ない物質の一つ。発汗剤として1日数回0.005-0.015gを
内服する。毒薬
塩酸ピロカルピン(pilocarpine hydrochloride):無色の結晶又は白色の結晶性粉末、無臭、味は僅かに苦い。水、エタノールに溶け易く、クロロホルムに溶け難く、エーテルに
殆ど溶けない。吸湿性、pH:3.5-4.5(10%水溶液)。光によって変化する。貯法:遮光・気密容器。副 交感神経興奮薬。[局]収載。毒薬。常用量:1回3mg、1日3mg。極量: 1回20mg、1日40mg。薬効:本品は副交感神経支配を受ける平滑筋、分泌腺、心筋などに作用して副交感神経興奮と同様の効果を発現するとともに、自律神経節興奮作用、副腎髄質か
らのエピネフリン分泌作用なども併有する。従って縮瞳、唾液分泌亢進、発汗、消化液分泌増大、気管支分泌増大、消化管運動亢進、子宮、膀胱、胆管、気管支
筋収縮などの効果を現すとともに、自律神経節興奮に基づく血圧上昇、速脈等も現れる。中枢興奮作用をも示す。
pilocarpineの作用はアトロピンによって拮抗される。心機能不全患者を悪化させ、甲状腺機能亢進症では心房細動、心室細動を、気管支喘息患者で
は発作を起こすことがある。
本品は副交感神経支配下にある毛様体筋又は瞳孔括約筋の細胞に直接作用し、各々を収縮せしめる。その結果、房水の流出を増加して眼圧を下降させる。眼内圧
を低下させるので、緑内障の治療に、また、縮瞳やアトロピンによる散瞳を抑えるのに点眼液と して用いる。
副作用:大量摂取すると顔面、頸部の潮紅、大量の発汗とよだれ、縮瞳、下痢、脈拍急速、悪心、嘔吐が起こり、循環障害のある患者では、肺浮腫を起こして急
死することがある。本品の中毒に対しては、アトロピンが完全に拮抗する。
ピロカルピン(pilocarpine):無色-淡黄色の粘性のある油状物質又は結晶で、臭いはなく、吸湿性がある。水、メタノール、エ タノール及びジクロルメタンにやや溶け易く、エーテル及びベンゼンにやや溶け難く、石油エーテルに殆ど溶けない。劇薬。[局]収載。
毒性 pilocarpine hydrochloride
急性毒性LD50皮下:180-230mg/kg。点 眼剤の誤用時の急性発作には硫酸アトロピンが拮抗する。
pilocarpine
急性毒性LD50 (マウス) 静注:61.9mg/kg、腹腔内:83.8mg/kg、皮下:90.9mg/kg、経口:119mg/kg。急性毒性LD50 (mg/kg) マウス(♂)静注:149.5、腹腔内:182、皮下:200、経口:200。ラット(♂)腹腔内203、皮下230。
経口致死量:約60mg。
症状 振 戦、蠕動亢進、括約筋の調節喪失、極めて縮小した瞳孔、嘔吐、失神、四肢の冷え、筋肉攣縮、徐脈と呼吸困難。仮死又は心臓停止による死亡。
処置 physostigmine と同様。
[1]0.2%-過マンガン酸カリウムで直ちに胃洗浄(胃内アルカロイドの酸化)
[2]人工呼吸
[3]攣縮抑制:グルコン酸カルシウム投与
[4]痙攣抑制:ジアゼパム5-10mgを緩徐に静注又は筋肉内深く注射。
[5]心臓不整脈にはプロプラノロール静注、アトロピン(2mgを2-4時間おきに)静脈注射し、その後皮下注射すると筋活動と呼吸困難の反作用。しかし激し
い頻脈や心臓不整脈を惹起することがある。
事例 ミス・マープルは晴れがましい瞬間をひきのばすように、一座をひとわたりゆっくり見まわした。
「パイロカルピンですよ。舌が思うようにまわらないので、思うようにものが言えなかったんでしょうねえ。おわかりでしょう? パイロカルピンなんて、ただ
の一度も聞いたことのないコックの耳にそれがどんなふうに聞こえたか。コイを一山(パイル・オブ・カープ)というように聞こえはしなかったでしょうか?」
「いや、まったくこれはおどろきましたな」とサー・ヘンリーが言った。
「これはこれは、わたしなどにはとても考えもおよびませんよ」とペンダー牧師が言った。
「おもしろい」とペサリック氏が言った。「じつにおもしろい目のつけどころですね」
「わたしはいそいでそのページをくってみました。パイロカルピンとそれが目に及ぼす影響その他、関係もないようなことがいろいろ書いてありましたが、最後
に非常に意味深長な一節にぶつかったのでした。そこには、“アトロピン中毒の解毒剤として効能あり”と書いてあったのです。そのときはじめて、わたしは本当に夢から覚めたように、わかったのでした。………………」。 [アガサ・クリスティー(中村妙子・訳):火曜クラブ-聖ペテロの指のあと;早川書房,2003]。
備考 最初、パイロカルピンという薬の名前を見た時、全くなんの薬のことを言っているのか解らなかった。この作者が架空の薬を作品に登場させることはないと思って
いたので、実在の薬であるとは考えたが、薬品名と現物の薬が全く一致しなかった。早い話、国内でパイロカルピンなどという薬品名は見当たらないのである。
ましてアトロピン中毒の解毒剤としての効能有りなどと書かれると、よけい見当がつかなくなった。
そのうちひょいと気付いたのは『ピロカルピン(pilocarpine)』のことではないかということである。しかし、なぜ「pilo………」が「パイ
ロ………」になるのか。そのうちに「pilot」が「パイロット」であるなら「pilo」が「パイロ」であってもいいかということで、勝手にピロカルピン
に決定。物語上重要な鍵語ではあるが、殺人に使用した毒薬ではないので、まあ、勘弁して貰うかということである。
ただし、現在では点眼薬しか市販されていないので、アトロピン点眼薬による散瞳を緩解させるために本品点眼薬を使用することは可能であるが、経口や注射で
の使用は出来ない。
文献 1) 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
2)志田正二・代表編:化学辞典;森北出版株式会社,1999
3)大阪府病院薬剤師会・編:全訂医薬品要覧;薬業時報社,1984
4)白川 充・他:薬物中毒必携 第2版;医歯薬出版株式会社,1989
5)http://www.nval.go.jp/vet-cop/sub1/pillocarpine.htm,2005.2.20.
6)第八改正日本薬局方解説書;廣川書店,1971
調査者 古泉秀夫 記入日 2005.2.24.

砒霜の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 砒霜(ヒソウ)・砒 霜石・砒石
成分 三 酸化砒素(arsenic trioxide)、亜砒酸。As2O3=197.82。『毒薬』。
いわゆる白砒石として天然に産する。700年代に硫化砒素を大気中で熱して製したといわれているが、1000年代になって初めて確実に知られた。医薬品と
しては15世紀に使われ始め、当初本品を癌の腐食薬として使用し、16世紀には梅毒に、17世紀には再帰熱に、19世紀には癌に対して内用された。
一般的性状 砒霜石は銀又は銅などを吹き分けるときに生ずる砒素化合物である。砒石に同じ。
本品を乾燥したものは定量するとき三酸化砒素99.5%を含む。本品は白色の 粉末で、臭いはない。本品1gは水60mL又は熱湯15mLに溶け、グリセリンに溶け易くエタノール又はエーテルに殆ど溶けない。本品は塩酸、水酸化ナト
リウム試液又は炭酸ナトリウム試液にやや溶け易い(新鮮なときは無晶形で白色の多少透明ガラス様の塊であるが、湿った空気中で乳白色不透明となり、結晶性
に変化して比重は小さくなる。無晶形のものは熱するとき、一旦融解して揮散するが、結晶性のものは融解しないで揮散する)。三酸化砒素には、非晶系、等軸晶系、単斜晶系の結晶又は無色粉末の3種類の態 種がある。これらは還元され易く、また酸化されやすい。
[1]非晶系(砒石ガラス:vitreous arsenic):無色、無定型、ガラス状物質。不安定であって徐々に等軸晶系に変形する。As2O3。溶解性:結晶系のものより水に溶け易い。
[2]砒華(arsenolite):白色、等軸八面体の小結晶(粉末)。常温において最も安定である。135℃で昇華し、221℃で単斜晶系に転移する。
As2O3。溶解性:水(2.0g/100g水、20℃)に可溶。塩酸、アルカリ、エタノールに可溶(両性酸化物)。
[3]単斜砒華(claudetite):無色、単斜晶系に属する針状結晶。221℃以上の温度において安定である。As2O3。溶解性:水、酸、アルカリ、
エタノールに可溶。
砒霜石は銀又は銅などを吹き分けるときに生ずる砒素化合物である。砒石に同 じ。
毒性 致死量・中毒量経口(ヒト)LD50: 1.43mg/kg。吸入(ヒト)TCL0: 0.11mg(As)/m3。
経口(マウス)LD50:45mg/kg。皮下(マウ ス)LD:11-13mg/kg。
砒素化合物は無機性あるいは有機性のものでも、SH酵素系に対する代謝障害作用によって微生物の生活過程に干渉する性質のあることが知られている。
常用量:1日1-5mg・極量:1回5mg 1日15mg
慢性骨髄性白血病に対して内服。各種慢性疾患に対して変質剤として用いられた。
鉛、シアン化物と並んで本品は昔から中毒の多い物質である。大量を一度に摂取した場合にみられる急性中毒については、大人に対する中毒量は5-50mg、
致死量は100-300mgといわれ、大量しかも吸収が甚だ速い場合には、著しく急激な経過をたどり(電撃型)、血圧低下、頻脈、浅脈など虚脱症状を示す
循環障害と、痙攣、麻痺、昏睡など中枢神経障害を起こして、速いものでは24時間以内に死亡する。急性中毒の定型的なものは胃腸型と呼ばれるもので、摂取
後速いものでは2-3時間、遅い場合には数日後から発症するが、頑固な嘔吐、下痢が現れ、この嘔吐、下痢は甚だ激しくてコレラに類似するのでコレラ型とも
称される。頻回の下痢によって体内水分の消失を来たし、蛋白尿が現れて腎障害を思わせ、また横断などの肝障害の徴候を現す。

少量の砒素を長期連用して起こる慢性砒素中毒では、発熱、消化管の慢性炎症による嘔吐、下痢、腹痛などを訴え、特異な皮膚の変化すなわち黒皮症、発疹、角
化などがみられ、骨髄が障害されて貧血、無顆粒細胞症(agranulocytosis)を起こす。また神経が侵されて多発性神経炎の起こることもある。
肝臓、腎臓、心臓など重要臓器の変性を起こす。

症状 急 性及び亜急性中毒の症状として、刺激作用及び腐食作用があり、呼吸器系症状として咳嗽、呼吸困難、胸痛の他、眩暈、頭痛、四肢脱力感、その後、嘔気、嘔
吐、腹部疝痛、下痢、全身疼痛、麻痺などがある。三酸化砒素を含む粉塵、フュームに曝露することによりしばしば皮膚及び粘膜の刺激症状が伴い、“亜砒ま
け”、“砒素まけ”と俗称される接触性及びアレルギー性皮膚炎、鼻炎、喉咽頭炎、気管炎、気管支炎及び結膜炎を示す。
一般に成人で70-180mgの三酸化砒素が致死量と考えられている。
主症状
ニンニク臭、嚥下困難、頸部絞扼感、咽頭・食道・胃の灼熱感は、服毒直後から出現。嘔吐、激しい下痢、眩暈、不穏、昏睡、脱水による循環障害。痙攣、末梢
神経麻痺。
全身性金属味、口腔・咽頭の乾燥感。
嚥下困難、嘔気、嘔吐、腹部疝痛、下痢、腹鳴、数時間-1日後にコレラ様便、 脱水、黄疸、乏尿。
咳嗽、呼吸困難、胸痛。
眩暈、頭痛、四肢脱力感、四肢疼痛、痙攣、昏睡、精神異常。
循環不全。
局所性

接触性・アレルギー性皮膚炎。
鼻炎、喉咽頭炎、気管炎、気管支炎。
結膜炎。

処置 胃 洗浄の後、塩類下剤投与。腹痛にモルヒネ筋注。BAL 5mg/kg/4時間を時間続ける。輸液、呼吸管理、腎機能障害高度なら人工透析。
全身管理低血圧が伴っていることが多く、まず酸素吸入、大量輸液とともに必要に応じてカテコラミンを投与して血圧の維持を図る(意識清明で重症感がないことがあり
注意を要する)。
砒素体内からの排泄
経口摂取の場合、一般の薬物中毒に準じて胃洗浄、活性炭及び下剤の投与を行うが、悪心・嘔吐が強く胃洗浄が必要ないこともある。砒素は尿中への排泄が良好
であり、腎不全の徴候が見られない限り血液透析は必要ない。
薬物療法
BAL(British anti-Lewisite dimercaprol バル注)を用いたキレート療法を行う。症状がある場合は、砒素の測定結果を待つことなく可能な限り早期から使用する。
バル注 :1回2.5-5mg/kg  4時間毎に筋注、2日目からは1回2.5mg/kg4時間毎に1-2日間投与、以降は、症状と尿中への砒素排出量をみながら減量していく。キレート療法
は尿中の砒素排出量が50μg/日以下になるまで継続する。
バル注の副作用として、悪心・嘔吐、高血圧、頻脈、頭痛、発汗などがあり、中毒症状との鑑別に注意。
事例 昼前、大牢の歌次郎に鰻飯の差し入れがあった。慣れないもっそう飯は喉を通らず、前日から腹をすかしていた歌次郎は、その鰻飯をがつがつむさぼり食った。そ
れからまもなく苦しみはじめ、吐血して悶死した。今度は芝居の血糊ではなく、どす黒い本物の血で、正真正銘の死であった。
差し入れに来た人物を洗え、という兵助の下知を待つまでもなく、同心達は動いていた。五二半は清水谷の長屋に走った。
毒は鼠とりに使う砒霜であった。歌次郎を生かしておいては都合の悪いものが、当然、毒入り鰻飯を差し入れている。善助が脅かした歌次郎が殺されているのだ
から、善助も狙われる公算が高い [和巻耿介:御府内隠密廻り同心-新五二半捕物帖-花狂いの女-;春陽堂,1989]
備考 『砒霜』という単語は、薬科学大辞典 第2版(広川書店,1990 )には収載されておらず、大字典に収載されていた。一般的な言葉としては存在するが、化学用語としてはないということかもしれない。ただし、一般的な用語
であるとしても、国語事典にも収載されていないところを見ると、砒素の古語とも考えられる。
いずれにしろ時代物には出てくるが最近の小説では見られない表記である。その意味で時代物の作者は、よくこのような古い言葉を見つけ出してくるもだと感心
する次第。
文献 1) 大字典 普及版;講談社,1963
2)第7改正日本薬局方解説書;広川書店,1961
3)後藤 稠・他編:産業中毒便覧(増補版);医歯薬出版株式会社,1992
4)西 勝英・監:薬・毒物中毒救急マニュアル改訂第6版;医薬ジャーナル社,2001
5)山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2004
調査者 古泉秀夫 記入日 2004.7.9.

砒素の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 砒素入り蝋燭
成分 砒 素(arsenic)。As。
一般的性状 典型元素V族に属する元素の一つ。半金属と呼ばれる。硫ヒ化鉱物として産出。揮発性。同族体のうち灰
色砒素は金属光沢及び金属的性質を有する。黄色砒素は非金属的性質を有する。毒性が強い。サルバルサンなど医薬として用いられたが、今は殆ど用いられな
い。
砒素は周期律表でみればリンの下位にあって非金属である。ただし、砒素のよう
に重い原子は全て金属としての性質を持っている。
三酸化砒素(arsenic trioxi):局方収載。歯髄失活用薬。白色の粉末、水に殆ど溶けない。両性酸化物で、酸にもアルカリにも溶ける。各種慢性疾患に対して変質剤として用
いられたが、現在では使用されない。原形質毒で局所に用いると組織の壊死を起こす。この性質を利用して歯髄を破壊するのに用いる。毒薬:極量1回5mg。
亜砒酸(arsenious acid):三酸化砒素の別名。無味無臭のうどん粉様の白色粉末で、冷水に溶けないが、温水に溶ける(石見銀山ネズミ取り)。
毒性 砒素は体内で蛋白質と結合しやすく、蛋白質である酵素を阻害する。この様な酵素は、細胞で呼吸作用を
行う酵素に多いため、砒素は全身的に細胞を冒す生命毒の一つとなる。
砒素(灰色砒素・黄色砒素・黒色砒素):ヒト(経口):推定致死量200- 300mg/kg。
三酸化砒素(無水亜砒酸):ヒト(経口)LD50= 143mg/kg。ヒト(吸入)TCL10=0.11mg/m3 。成人致死量:200mg。致死量:5-7mg、1回の極量は5mg。砒酸石灰:ネズミ(経口)LD50=20mg/kg・ ウサギ(経口)LD50=50mg/kg。ヒト(経口)推定致死量0.2-0.3g。
症状 亜砒酸をうどん粉と間違えて天ぷらに使用した例(天ぷら1個中2.48g検出)で、摂食後30分以内
に腹痛、嘔吐、下痢で、特に嘔吐が著しく、死亡例では死亡直前に全身痙攣を起こした。
◆砒素
薬理作用:原形質毒であり、SH基系酵素活性阻害作用。平滑筋麻痺、末梢神経への毒作用。皮膚・粘膜の刺激・腐食作用。症  状:口腔、鼻粘膜の灼熱乾燥感、嚥下困難、腹痛、突発的嘔吐、血尿、 ショック、麻痺、下痢。
◆三酸化砒素(無水亜砒酸)
薬理作用:消化液に溶け吸収されやすい。皮膚、粘膜からも吸収される。刺激作
用、腐食作用。急性中毒は、大量摂取後30分-数時間で症状出現。細胞代謝障害、消化管の血管透過性亢進。
症  状:
全身性:a)金属味、口腔、咽喉の乾燥感。b)嚥下困難、嘔気、嘔吐、腹部仙痛、下痢、腹鳴、数時間-1日後にコレラ様便、脱水、黄疸、乏尿。c)咳
嗽、呼吸困難、胸痛。d)眩暈、頭痛、四肢脱力感、四肢疼痛、痙攣、昏睡、精神異常。e)循環器不全。
局所性:接触性、アレルギー性皮膚炎。鼻炎、候咽頭炎、気管炎、気管支炎。結膜炎。
◆砒酸石灰

薬理作用:吸収されて三価及び五価の砒素として作用。呼気がニンニク臭。誤飲後30-60分で症状が現れる。
症  状:
全身性:三酸化砒素に準ずる。
局所性:湿疹様皮膚症状。粘膜の炎症、上気道炎。角膜潰瘍。

処置 毒 物の除去
a.胃洗浄(温水、重曹水で)b.塩類下剤
c.血液透析の有効性は不明
対症療法
a.輸液
b.止瀉のためモルヒネ
c.細尿管へのメトヘモグロビン沈着を防ぐため、クエン酸ナトリウムを1日5g投与。
d.10%-チオ硫酸ナトリウム液を4-6時間毎に静注。
e.その他:組織沈着、血中へ再分布されるので血液透析、血液吸着の有効性は少ないと考えられる。

治療方針

通常の初期治療を行うが、下痢がある場合にはショックを惹起することがあるの
で、下剤の投与はむしろ有害である。血圧低下、ショックには、水や電解質の補給が必須である。
砒素とBAL(British Anti Lewisite;ジメルカプロール)の結合は、蛋白中のSH基との結合より安定性が高い。砒素の排泄促進のため、キレート療法として
dimercaprol(ジメルカプロール)[バル(R)]3-4mg/kgを4-12時間おきに筋注し、消化器症状が消退したら ペニシラミンの経口投与に切り替え、4日間続ける。ペニシラミンは1日2g迄を4回に分割して投与する。

事例 「そうじゃない。店の裏手の庭を掘り返した様子があるんだ。ここんとこ、柏屋には庭師も植木屋も入ってねえのにな。湿っぽい、独特の土の臭いがしたから間違
いっこないよ」。ろうそくが燃え続けている。一度、じじっと音がした。お初と直次は沈黙を守った。「こいつを、榊原先生に調べてもらおう」。ろうそくに目
をあてて、ようやく六蔵がいった。「そんな必要はないようですよ」。それまで静かになりゆきをみまもっていたおよしが、初めて口を開いた。「そら、ろうそ
くの周りをごらんなさいな」。燭台がわりの小皿の周りに、光につられて寄ってきた羽虫がいくつも落ちていた。一つ。それからまた一つ。落ち続ける。一同の
見守る前で、ろうそくから立ち上がる薄黒い煙に触れては落ちるのだ。「あたしは、あの人を手にかけるつもりなんて、これっぽっちもありませんでした。誠太郎だって、ろうそくに仕込んだ砒素じゃ死ぬことはない、具合が悪くな
るだけだって言ったんです。それを真に受けた私も馬鹿でしたけれど………」。[宮部みゆき:かまいたち;新潮文庫,1992]。
備考 砒素(arsenic)は亜砒酸(arsenious acid)の形で、無色、無臭且つ無味に近いため、従来から最も普遍的な毒として、特にヨーロッパにおいて16世紀以降19世紀に至るまで、しばしば殺人
に使用されてきた。しかし、砒素は肝臓、筋肉、毛髪、爪、皮膚に長期間証拠として残る。三塩化砒素の誘導体(ルイサイト類)は化学兵器(びらん剤-ガス)
に使われる。
現実に“トッファナ水”という亜ヒ酸を主体とする毒殺用の液体が市販されてい
た。しかし、砒素は容易に検出されるため、ヨーロッパでは“愚者の毒薬”といわれていた。
文献 1) 大木幸介:毒物雑学事典;株式会社講談社,19992)薬科学大辞典 第2版;広川書店,1993
3)内藤裕史:中毒百科 改訂第2版;南江堂,2001
4)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル社,2001
調査者 古泉秀夫 記入日 2003.3.9.

非ステロイド性抗炎症薬の効力比較

金曜日, 8月 17th, 2007

KW:臨床薬理・非ステロイド性抗炎症薬・効力比較・NSAID・鎮痛作用・抗リウマチ作用・抗炎症作用・解熱作用

■非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidalanti-inflammatore drug:NSAID)は、鎮痛・解熱、高用量で抗炎症作用を示す薬物である。

NSAID は化学的に種々の群があるが、いずれもシクロオキシゲナーゼ(cyclo-oxygenase:COX)阻害能があり、それによるプロスタグランジン (prostaglandins)合成阻害がその治療効果の主役となる。prostaglandinsは細胞防御作用をもつと考えられるため、胃粘膜の prostaglandins合成阻害が、胃腸管障害(消化不良、悪心、胃炎)を起こすことが少なくない。更に重篤な有害作用は胃腸管出血と穿孔である。

なお、下表に示す効力の比較は、同一試験群の結果に基づく比較ではなく、個別の報告に基づく判断であるため、あくまで参照情報である。表中の○ 印は、添付文書中に効果があるの記載がされていることを示す。また、資料中に抗リウマチ作用と標記されていたものは、『抗炎症作用』に統一表記した。

化学構造による分類 半減期(h) 鎮痛作用 抗炎症作用 解熱作用

カルボン酸類 カルボン酸 ■サリチル酸系
sodium salicylateザルソニン注(扶桑) 24時間以内
100%尿中排泄
?
aspirin
アスピリン錠(各社)
2-5 ++ +++(大量)
salicylamide
サリチルアミド(岩城)
  ?
■フェナム酸
flufenamic acid aluminium
オパイリン錠(大正富山)
72時間迄に
51% 尿中排泄
mefenamic acid
ポンタール錠(三共)
24時間後
血中濃度 痕跡
+++ ○(>aspirin )
tolfenamic acid
クロタムカプセル(大鵬)
1.8 +++ ?
酢酸 ■アリール酢酸系
diclofenac sodium
ボルタレン(ノバルティス)
1.2 +++ ++++ ○(>indometacin)
■インドール酢酸系
sulindac
クリノリル錠(万有)
α:3β:11-15 +++ +++ ○(indometacin)
fenbufen
ナパノール錠(ワイス)
α:12.5β:17 +++ +++ ○(aspirin )
amfenac sodium
フェナゾックス(明治製菓)
8時間後92.8%尿中排泄 +++ ++++ ++++
indometacin
インダシン(万有)
約2 +++ +++
indometacin farnesil
インフリー(エーザイ)
1.5 +++ +++
proglumetacin maleate
ミリダシン錠(大鵬)
α:2
β:14
+++ +++
acemetacin
ランツジール錠(興和)
3 +++ +++
nabumetoneレリフェン錠(三和化学) 約21 ?
etodolac
オステラック錠(ワイス)
6-8 +++ +++ ?
mofezolac
ジソペイン錠
(三菱ウェルファーマ)
約2.2 +++ +++ ?
プロピオン酸 ■プロピオン酸系
ibuprofen
ブルフェン錠(科研)
1.8 ++ ++ ++
ketoprofen
カピステン(キッセイ)
約1.13、
約4.5(徐放)
++ ++ ++
flurbiprofen
フロベン錠(科研)
約2.7
(>aspirin )
+++ ○(>aspirin )
flubiprofen axetil
ロピオン注(科研)
5.8
(>aspirin )
+++ ○(>aspirin )
oxaprozin
アルボ錠(大正富山)
約50 ++ ++ ++
fenoprofen calcium
フェノプロン錠(山之内)
3.5-5.9 ++ ++ ++
tiaprofenic acid
スルガム錠(アベンティス)
約2 ++ ++ ++
naproxenナイキサン錠(田辺) 約14 ++ ++ ++
pranoprofen
ニフラン錠
(三菱ウェルファーマ)
α:1.3
β:5.4
++ ++ ++
loxoprofen sodium
ロキソニン錠(三共)
1.2 ++ ++ ++
alminoprofen
ミナルフェン錠(マルホ)
1.06 ++ ++ ++
zaltoprofen
ペオン錠(ゼリア)
α:約0.87
β:約9
++ ++ ++

■ピラゾロン系
bucolome
パラミヂン(グレラン)
200時間後
約 50%尿中排泄
+++ +++ ?
■オキシカム系
piroxicam
バキソ(大正富山)
約36 +++ +++ ?
ampiroxicam
フルカム(ファイザー)
約40 +++ +++ ?
tenoxicamチルコチル錠(中外) 57 +++ +++ ?
meloxicam
モービック(ベーリンガー)
約27.6 +++ +++ ?
lornoxicam
ロルカム錠(大正富山)
約2.5 ++++ ++++ ?
非酸性
(塩基性)
epirizole(mepirizole)
メブロン錠(第一)
1.5
(>aspirin )
?
tiaramide hydrochloride
ソランタール錠(藤沢)
1.1 ○(>pentazocine)
emorfazone
ペントイル錠(ヘキサル)
1.75
化学構造による分類 半減期(h) 鎮痛作用 抗炎症作用 解熱作用

[015.4.NSA:2004.1.6.古泉秀夫]


  1. 麻生芳郎・訳:一目で分かる薬理学 第3版;MEDSi,1997
  2. 田中良子・監修:臨床で役立つ 薬効別 服薬指導マニュアル;薬業時報社,1990
  3. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2003
  4. 長澤紘一・監修:カルテの読み方と基礎知識 第2版;薬業時報社,1997
  5. クロタムカプセル添付文書,2003.4.改訂
  6. 300mgパラミヂンカプセル添付文書,2002.12.改訂
  7. バキソカプセル添付文書,2003.4.改訂
  8. ロルカム錠添付文書,2003.12.改訂
  9. モービックカプセル添付文書,2001.5.
  10. 厚生省薬務局研究開発振興課・監修:JPDI;薬業時報社,1996
  11. ペントイル錠インタビューフォーム,1995.8.改訂
  12. ソランタールインタビューフォーム,1994.9.改訂
  13. メブロン錠・G添付文書2002.7.改訂

「微生物殺滅法」(日本薬局方一般試験法)

金曜日, 8月 17th, 2007

*用語の定義

殺  菌 微生物を死滅させるこ と。
滅  菌 物質中のすべての微生 物を殺滅又は除去することをいう。
消  毒 人畜に対して有害な微 生物又は目的とする対象微生物だけを殺滅することをいう。

1.消毒法

*生存する微生物の数を減らすために用いられる処置法で、必ずしも微生物を全て殺滅したり除去するものではない。一般に、消毒法は化学薬剤(消 毒剤)を用いる化学的消毒法と湿熱や紫外線を用いる物理的消毒法に分けられる。

紫外線を用いる物理的消毒法に分けられる。

消毒法 消毒条件 消毒対象物
(1)
化学的消毒法
主な消毒剤
*アルコール類(エタノール・イソプロパノール)
*アルデヒド類(グルタルアルデヒド)
*塩素化合物(次亜塩素酸ナトリウム・ジクロロイソシアヌール酸ナトリウム)
*フェノール類(フェノール・クレゾール)
*陽イオン界面活性剤(塩化ベンザルコニウム・塩化ベンゼトニウム)
*ヨウ素化合物(ヨードチンキ・ポビドンヨード)
*両性界面活性剤(塩酸アルキルポリアミノエチルグリシン)
*ビグアニド剤(グルコン酸クロルヘキシジン)
*過酸化物(過酸化水素)
化学薬剤を用いて微 生物を殺 滅する方法をいう。化学薬剤の微生物を死滅させる機序及び効果は、使用する化学薬剤の種類、濃度、作用温度、作用時間、消毒対象物の汚染度、微生物の種
類・状態などによって異なる。本法を適用するに当たっては、調製化学薬剤の無菌性及び有効貯蔵期間、適用箇所からの耐性菌出現の防止、残存化学薬剤の製品
に与える影響等について注意を要する。化学薬剤選択時の注意
1)抗菌スペクトルの範囲
2)微生物の死滅に要する作用時間
3)作用の持続性
4)蛋白質存在下での効果
5)人体に対する影響
6)水に対する溶解性

7)消毒対象物への影響
8)臭気
9)使用方法の簡便性
10)廃棄処理方法の容易性
11)廃棄に伴う環境への影響
12)耐性菌の出現頻度

主としてガラス製、 磁製、金 属製、ゴム製、プラスチック製若しくは繊維製の物品、手指、無菌箱又は無菌設備など。
(1)物




1]流通蒸気 *加熱水蒸気を直接 流通させ ることによって微生物を殺滅する方法をいう。*乾熱法又は高圧蒸気法によって変質するおそれのあるものに用いる。
*通例、当該物を100℃の流通蒸気中で30?60分間放置。
*一般細菌(栄養型)・真菌を殺滅することは可能。しかし、芽胞を形成した細菌は死滅せず、一部生存している恐れがあるので注意。
主としてガラス製、 磁製、金 属製、ゴム製若しくは繊維製の物品、水、培地、試薬・試液又は液状医薬品など。
2]煮沸法注]常圧下煮沸では100℃以上にならないから全ての微生物を完全に死滅させる ことはできない。] *沸騰水中に沈め、 加熱する ことによって微生物を殺滅する方法をいう。*高圧蒸気法によって変質するおそれのあるものに用いる。
*通例当該物を、沸騰水中に沈め、15分間以上煮沸する。
*一般細菌(栄養型)・真菌を殺滅することは可能であり、沸騰水中に炭酸ナトリウム1-2%添加することによって殺菌効力は更に増加する。しかし、芽胞を
形成した細菌は死滅せず、一部生存している恐れがあるので注意。
主としてガラス製、 磁製、金 属製、ゴム製若しくは繊維製の物品、水、培地、試薬・試液又は液状医薬品など。
3]間けつ法(間歇 法) *80?100℃の 水中又は 流通水蒸気中で1日1回、30?60分間ずつ3?5回加熱を繰り返すことによって微生物を殺滅する方法をいう。
*本法は高圧蒸気法により変質するおそれのあるものに用いる。
*なお、60?80℃で同様に加温を繰り返す低温間けつ法もある。加熱又は加温の休止中は20℃以上の微生物の発育に適切な温度に保つこと。
主としてゴム製の物 品、培 地、試薬・試液又は液状の医薬品など。
4]紫外線法 *通例、254nm 付近の波 長を持つ紫外線を照射することによって微生物を殺滅する方法をいう。
*本法は比較的平滑な物品表面、施設、設備又は水、空気などで、紫外線照射に耐え得るものに用いる。
*本法は化学的消毒法で見られる耐性菌出現の心配もなく、細菌、真菌及びウイルスに対して殺菌効果を示すが、人体に対して直接照射すると眼や皮膚に障害を
受けるので注意。
*本法による殺菌効果は、一般細菌(栄養型)や酵母に対して認められるが、芽胞形成菌やカビに対しては殺菌効果が不確実であり、一部生存しているおそれが
ある。
*紫外線は浸透力が強くないため、その照射表面だけしか殺菌効果がなく、照射の死角となる影の部分までは殺菌作用が及ばない。
*紫外線の照射する環境条件(温度、湿度など)や消毒対象物にあった適切な照射条件(照度、照射距離、照射線量、照射方向及び照射時間など)を予備試験に
基づいて設定しておいた方がよい。
主としてガラス製、 金属製の 比較的平滑な物品表面、施設、設備、空気、水など。

2.滅菌法

滅菌法 滅菌条件 滅菌対象
(1)


  加熱法を行うとき、 温度又は 圧力などが規定の条件に至るまでの加熱時間は、本法が適用されるものの性質、容器の大きさ及び収納状態などにより異なる。なお、本法を行う時間は、本法が適用されるものの全ての部分が規定の温度 に達してから起算する。 ?
1)高圧蒸気法 *適当な温度及び圧 力の飽和 水蒸気中で加熱することによって、微生物を殺滅する方法をいう。
*通例、高圧蒸気法の場合は、次の条件で滅菌を行う。
115-118℃  30分間121-124℃  15分間
126-129℃  10分間
*本法は急速に加熱でき、滅菌対象物質の深部にまで速く熱が浸透し、殺菌が困難とされている耐熱性の強いBacillus属やClostridium属な
どの芽胞形成細菌に対して、他の滅菌法や消毒法より短時間で殺菌効果が確実に期待できる。
*他の加熱滅菌法に比較して滅菌対象物の材質変化(劣化や変質など)があまり認められない。
主としてガラス製、 磁製、金 属 製、ゴム製、紙製若しくは繊維製の物品、水、培地、試薬・試液又は液状の試料などで熱に安定なものに用いる。
2)乾熱法 *乾燥空気中で加熱 すること によって微生物を殺滅する方法をいう。
*乾燥高温に耐えるもでのに用いる。*ガス又は電気によって直接加熱するか、加熱した空気を循環させる方法がある。
*通例、直接加熱の場合は次の条件で行う。
160-170℃   120分
170-180℃    60分
180-190℃   30分
*本法は高圧蒸気法に比べて、殺菌効果は劣る。
*一般細菌(栄養型)、真菌、芽胞形成菌まで殺菌が一応可能。ただし、芽胞形成細菌中には300℃-30分間の乾熱処理を必要とするものも存在しているの
で、対象菌によっては、滅菌に要する温度・時間を別途設定することが必要。
主としてガラス製、 磁製、金 属製の物品、鉱油、油脂類又は粉体の試料など、熱に安定なものに用いる。
(2)


1)放射線法 *放射線同位元素か ら放出す るガンマ線又は電子加速器から発生する電子線や制御放射線を照射することによって微生物を殺滅する方法をいう。
*放射線照射に耐えうるものに用いる。*本法が適用されるものの材質、性状又は汚染状況などによって線量を調節して行うが、適用後の品質の変化に特に注意
する。
*本法は加熱法と異なって低温下で殺菌できるので冷滅菌(cold sterilization)ともいわれる。
主としてガラス製、 磁製、ゴ ム製、プラスチック製又は繊維製の物品など。
2)高周波法 *高周波を直接照射 し、発生 する熱によって微生物を殺滅する方法をいう。
*高周波の照射に耐えるものについて用いる。
*通例、2450±50MHzの高周波が用いられる。
主として水、培地、 試液な ど。
(3) ガス法 *滅菌用ガスを用い て微生物 を殺滅する方法をいう。
*滅菌用ガスとしては酸化エチレンガス、ホルムアルデヒドガス、過酸化水素ガス及び二酸化塩素ガスなどが用いられる。
*ガスの種類によって、滅菌時の温度、湿度、ガス濃度、滅菌時間が異なり、更に人体に悪影響をもたらすものもある。
*使用環境及び残留ガス濃度については厳重な注意が必要である。
*ガス法の中には滅菌後の微生物の死滅を定量的に測定又は推測できないものがある。
*過酸化水素ガス:滅菌温度は約45℃、処理時間約75分デカ温、加湿は必要なく、過酸化水素濃度として0.2-10mg/L(低温・低湿度下で短時間処
理で滅菌可能)。滅菌後のエアレーション不要。毒性も他の滅菌用ガスと比較して低い。最終生成物は水と酸素。
*二酸化塩素ガス:約2%の塩素ガスと塩化ナトリウムの反応で二酸化塩素を発生させ、二酸化塩素の強い酸化作用によって微生物を殺滅。処理温度30-
35℃。湿度75-80%。二酸化塩素濃度10-40mg/L。僅かに減圧下で滅菌。処理後は二酸化塩素ガスを中和・排気する。処理後ガスは容易に脱気す
るためエアレーション不要。
主としてガラス製、 磁製、金 属製、ゴム製、プラスチック製、施設、設備など。
(4) ろ過法 *適当なろ過装置を 用いてろ 過し、微生物を除去する方法をいう。
*通例、滅菌用フィルターには孔径0.22μm以下のフィルターが用いられる。
*本法においては孔径0.45μm以下のフィルター使用も許容される。
*本法は微生物を殺滅するのではなく、滅菌対象物質(被滅菌物)中に存在する微生物をろ過によって除去(除菌)することを目的とする。
*ろ過装置として陶土製(シャンベラン型)、珪藻土製(ベルケフェルド型)、多孔性半融ガラスのものやメンブランフィルター等を装着したものがある。
主として気体、水、 可溶性で 熱に不安定な物質を含有する培地、試液などに用いる。

3.無菌操作法

滅菌法 条   件 対象
無菌操作法 *無菌操作法は、無 菌医薬品 を製造する場合、医薬品を最終容器に充填した後、滅菌する方法である最終滅菌法を適用しない医薬品を製造するために用いる技術であり、ろ過滅菌後、又は原
料段階から一連の無菌工程により無菌医薬品を製造するために用いる方法をいう。
*本操作法を用いて無菌医薬品を製造する場合は、通例、あらかじめ使用する全ての器具及び材料を滅菌した後、環境微生物数及び微粒子数が適切に管理された
無菌設備内において、適切な無菌操作法を用いて一定の無菌性保証水準を得られるように行う。
主として前記の滅菌 法によっ て滅菌した医薬品などの調製、充填、密封、開封及び分注などの操作に用いる。

4.超ろ過法

滅菌法 条   件 対象
超ろ過法 *全ての種類の微生 物及びエ ンドトキシンを除去する能力を持つ逆浸透膜、限外ろ過膜又はこれらの膜を組み合わせた膜ろ過装置を用い、十字流ろ過方式で水をろ過する方法である。
*超ろ過法により「注射用水」を製するときは、通例、前処理設備、注射用水製造設備及び注射用水供給設備を用いる。
主として水。

[615.28.DIS:1998.6.1.古泉秀夫]

[第2改訂:2002.2.12.古泉秀夫]


  1. 第十三改正日本薬局方解説書;廣川書店,1996
  2. 第十四改正日本薬局方解説書;広川書店,2001

パラフェニレンジアミンの毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 白髪染-永久毛染第1液:酸化染料(p-フェニレンジアミン0.5-24%含有。p-又はo-アミノフェノール0.5%含有)・カップラー(m-フェニレンジアミン、m-
アミノフェノール)・25%-アンモニア液(4-5%含有)・非イオン系界面活性剤(20-30%)・溶剤(プロピレングリコール、イソプロピルアルコー
ル)5-10%。
第2液:酸化剤(過酸化水素5-6%含有)
成分 パ ラ・フェニレンジアミン(p-phenylenediamine)。[独]phenylenediamine、[仏]ph