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馬銭子(マチンシ)の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 馬 銭(マチン)
成分 馬 銭(ホミカ)はalkaloid 2-5%を含み、その主成分はstrychnine(ストリキニーネ)とbrucine(ブルシン)で、その他、ボミシン、α-コルブリン、β-コルブリ
ン、配糖体のロガニン、カフェオタニン酸、脂肪油などを含む。ホミカはホミカエキスや硝酸ストリキニーネの製造原料などに用いられる。
一般的性状 マチン科(Loganiaceae)マチン属。学名:Strychnos nux-vomica Linné。馬銭(ストリキニーネノキ)、英名:Strychine。つる性植物ストリキニーネノキの種子(仁)は、直径2-3cmの円盤状で中央部がへ
こんだ型をしていて馬銭子と呼ばれる。
インドからオーストラリア北部までの熱帯に広く分布する常緑高木。猛毒性のalkaloid
のstrychnine(1.2%)を含む代表的植物。
薬用部分:種子。成熟した種子を採集し、水に浸して種子を分離し、日干しにする。薬用にはホミカエキス、ホミカチンキとして苦味健胃剤に配合される。別名:ホミカ<局>、蕃木鼈<バンボクベツ>。 [註:ベツの文字ない可能性]。
strychnineは馬銭属類植物の種子から抽出されるalkaloid。 その他、ホミカの種子、イグナチウス豆にも存在する。無色柱状結晶。1gは熱湯3100mL、アルコール150mL、クロロホルム5mLに溶ける。極めて
強い苦味を持ち、猛毒である。
毒性 種 子1個で致死量に近いalkaloidを含むため、そのまま薬用にしない。strychnine(1.15%)、brucine(1.5%)はともに中枢
神経を興奮させ、胃腸の機能を亢進させる作用があり、食欲増進剤として用いられる。中毒症状は全身筋肉の強直性痙攣を起こす。strychnineより製
した硝酸ストリキニーネは、初め殺鼠、殺虫剤に使われたが、禁止された。strychnineはラット経口(LD50)16mg/kg、 猛獣の殺傷、殺鼠剤に用いられる他、神経興奮剤としても用いられる。
主成分のstrychnineは最も毒性の強い天然毒の一つとして知られている。脊髄、脳幹、視床では、介在ニューロンを介した抑制機構が働いているが、
strychnineは、そのシナプス後抑制を遮断する。
症状 strychnine は脊髄に対する強力な中枢興奮作用を持つ。初めに筋の緊張が上昇し、反射興奮性が増大、中毒症状が進むと呼吸困難、強直性痙攣が起こり始め、甚だしくなる
と全身の骨格筋が強縮を起こし、酸素欠乏で死に至る。
激しい強直性痙攣、後弓反張、痙笑、刺激による痙攣誘発、呼吸麻痺、5時間が
勝負。脊髄前角の運動ニューロンの抑制系の神経伝達物質グリシンと拮抗作用を持つこ
とから、伸展筋の緊張が持続し、典型的な強直性痙攣、opisthotonus(弓なり緊張)を示す。心循環系、消化器系には影響を与えない。痙攣に伴
い、横紋筋融解が起き、ミオグロビン尿がでる。
strychnineは吸収が非常に速いので、中毒症状は30分以内、全身痙攣は15-60分で現れる。痙攣の前に筋の強直や興奮、risus
sardonicus(痙笑:ひきつり笑い)が見られることがあるが、突然の痙攣で始まることもある。重症の場合は3-6時間で死亡するが、
strychnineは分解も排泄も速いので、痙攣が24時間以上続くことはまずない。24時間持てば、生命に対する予後は良好。死因は痙攣による呼吸麻
痺である。
処置 初期治療で重要なのは、痙攣の防止である。極く僅かな刺激に対しても誘発されて痙攣が持続するため、刺激を与 える行為は全て禁忌である。従って、催吐、胃洗浄をしてはならない。吸収が非 常に速いため、催吐、胃洗浄をしても意味がない。低酸素さえなければ意識は清明であるため、活性炭をソルビトールに懸濁させて飲ませるのはよい。下剤(硫
酸マグネシウム30g)も飲ませる。強制利尿を行うと、ミオグロビンが尿細管に詰まって腎不全を来すおそれがある。strychnineは、酸性利尿により排泄が促進されるといわれるが、尿
を酸性にするとミオグロビンが無尿細管に沈着しやすい。
治療の主眼は、気道と喚起の確保である。痙攣の治療にはジアゼパムを静注す
る。刺激を絶対に与えない。ベッドのシーツに触れただけで、痙攣が誘発された例がある。
以上の治療で痙攣が止められないときは、筋弛緩薬であるパンクロニウム([商]ミオブロック)を静注し、気管内挿管をして、人工呼吸器で人工呼吸を続け
る。意識がある場合には、ペントバルビタール注射液を静注する。本剤には抗痙攣作用もある。
事例 「四日ばかり前から、参詣人たちの薬の噂を耳にするようになりましてね」利吉は、汗をかいている。
「薬の噂だ………?」
呑太、期待を引っ込めることにした。
「千願院で売り出す薬には東本願寺の御利益があって、滅法これが効くってえ噂なんでござんすよ」
「何に、よく効くんだ」
「犬又は毒蛇に咬まれたときに、よく効くんだそうで………」
「何てえ薬なんだよ」
「馬の銭の子と書いてマチンシと読むんだって聞きやした」
「馬の銭の子なんて薬は、一向に知らないな」

「この馬銭子の種を粉にしたものを、馬銭の粉と書いてマチンコと呼んでおりやす」
-馬銭とは、薬種商人が用いる隠し言葉なり。正しくは、毒空木(ドクウツギ)という。毒空木は産地に自生する。その毒空木の種の中身を粉にしたるものを馬
銭粉と俗称する。
[笹沢佐保:疫病神捕物帖 降ってきた赤ん坊;徳間文庫,1998]

備考 馬銭子について、別名:蕃木鼈、ホミカ、フジウツギ科(Loganiaceae)とする報告が見られ
るが、フジウツギ科はBuddlejaceaeである。なお、ドクウツギ(毒空木)は、ドクウツギ科ドクウツギ属に属する植物で、馬銭とは別のものであ
る。
第六改正日本薬局方解説書中にも起源としてホミカはフジウツギ科 Loganiaceaeの喬木Strychnos
nux-vomica Linnéの成熟した種子を乾燥したものでストリキニーネを1.15%を含む。医学、薬学関係の図書は、フジウツギ科の分類がされていたが、植物学の本では
マチン科に分類されている。
痙攣の前、早期の段階に胃洗浄とする記載も見られるが、胃洗浄が刺激となって
痙攣が発現するの報告もされている。
文献 1) 曾野維喜:続東西医学 臨床漢方処方学;南山堂,1996
2)三橋 博・監:原色牧野和漢薬草大図鑑;北隆館,1988
3)田中 治・他編:天然物化学 改訂6版;南江堂,20024)山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2004
5)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療-改訂第2版;南江堂,2001
6)薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
7)第六改正日本薬局方注解;南江堂,1952
調査者 古泉秀夫 記入日 2004.3.11.