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ポリリン酸ナトリウムの毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 ミートボールの結着剤
成分 ポリリン酸ナトリウム(sodium polyphosphate)
一般的性状 [食添収載]。
本品は白色の粉末又は無色-白色のガラス状の片若しくは塊である。本品を乾燥したものは、五酸化リンとして53.0-80.0%を含む。本品は僅かに吸湿
性であり、水に溶け、その1%水溶液のpHは、トリポリリン酸ナトリウムで9.2-10.1である。市販品のpHはトリポリ塩9.7(9.5-9.8)、テトラポリ塩8.5-9.0(8.3-8.7)、ペンタポリ塩8.6、ヘキサポリ塩6.8といわれる。水溶液中で加水分解する傾向があり、トリポリリン酸ナトリウムでは1%溶液で70℃保存時50時間後に約30%が分解する。しかし100℃では10時間で約40%のピロ塩とオルト塩にまで分解し、未変化体は約20%である。他の縮合塩と同様に金属イオンを封鎖するほか、コロイド溶液を作り、分散性を高める。
作用、組織の保水性、結着性を強くする作用、特に緩衝作用が強いのが特徴である。我が国における市販品は、各種のポリ塩の混合物であることに留意する必要がある。
本品は昭和32年食品添加物として指定された。本品は単独で利用されることが無く、他の縮合塩との製剤として利用される。食品の変色防止、練り製品の結着
力の増大、チーズなどの風味、組織、体質、色調の向上と老化防止などに用いられる。
市販品の大部分はトリポリリン酸ナトリウムを主成分とし、少量のピロリン酸塩、トリメタリン酸塩及び非結晶性の高重合リン酸塩を混在する。
毒性 急性毒性(LD50)
ラット   経口   4,000mg/kgラット   静注     18mg/kg
マウス   経口   3,210mg/kg*3-ポリリン酸塩及びポリリン酸塩を混入した食餌で24週間飼育されたラットのうち、3%以上の混入群で体重増加の一時的抑制、3-5%群で腎石が認められた。
*ポリリン酸塩のヒトに対する経口許可1日摂取量についてFAO/WHO専門委員会は、そのままで殆ど腸管から吸収されず糞便中に排泄されるので、その毒
性は考えることはないが、腸内で一部がモノリン酸塩に分解されるので、モノリン酸塩の毒性と同様に考えられるとしている。リン酸塩は生理的に有害な金属を
含有しないものでは一般に毒性はないが、多量を飲下する時腸管壁を刺激して下痢を起こすことがある。
症状 *ポリリン酸塩は賦形剤及び水質軟化剤として殆どの家庭用洗剤に加えられており、刺激性もある。飲むと嘔吐を起こす。添加物のポリリン酸塩は高分子状態では、腸管から吸収されないが、低分子のものでは腸管内でかなり分解を受ける。
*ポリリン酸ナトリウムは弱アルカリ性であり、強アルカリ性物質と同様の影響は見られないと考えられるが、弱アルカリ性の『トリポリリン酸ナトリウム60%+ラウリル硫酸ナトリウム24%』をコーヒーに混入して誤飲した例で、胸痛・嘔吐が見られている。更にオートミルに加えて誤食した例では嘔気、嘔吐、下痢、胸やけが報告されている。
処置 特定の対処法は報告されていない。対症療法。
事例 大手ファミリーレストラン「サイゼリヤ」の鴻巣店で今月23日に食事をした夫婦が、手足のしびれや嘔吐などを訴えて一時入院したことが解った。子供向け料理
の輸入ミートボールが原因の可能性があり、鴻巣保健所などで詳しく調べている。長女(1)用に注文したミートボールの中にグリーンピース大の白い塊を見つ
けた。二人で味見したところ、舌先にしびれが残り、その後、発熱などの症状も出た。医師は「薬物中毒に近い症状」として、検査を継続中という。
同社は京都の店で残った白い塊の分析を進めてきたが、材料を結着させる成分のポリリン酸ナトリウムが混ざらずに固まったものだった可能性が高いとみている。[ミートボール提供中止 サイゼリヤ 夫婦おう吐、一時入院;読売新聞,第45615号,2003.3.26.]
備考 *リン酸塩は生体硬組織の組成分であるのみでなく、炭水化物、脂肪及び蛋白質代謝に主要な役割を果たす。
*ポリリン酸(6-メタリン酸)をラット、ウサギに経口投与しても、尿からのリン酸回収は極めて微量で、消化管からの吸収はモノリン酸となって行われるもので、その量は投与量の10-30%と考えられている。このモノリン酸への水解は酵素によるもので18時間でその40%が分解され、腸内細菌が関与すると考えられている。ポリリン酸は細胞内では核内に局在することが認められている。
*摂取されたポリリン酸の大部分は糞中に水解されることなく排泄される。その際、カルシウム、マグネシウム、鉄及び銅と結合し、その結果、ミネラルの欠乏
を起こすことがあるが、この障害を現実に起こした報告は見られない。
文献 1)薬科学大辞典 第2版;広川書店,19932)第7版食品添加物公定書解説書;廣川書店,1999
3)白川 充・他共訳:薬物中毒必携;医歯薬出版株式会社,1989
4)梅津剛吉:洗剤中毒;救急医学,3(10):1334-1338(1979)
調査者 古泉秀夫 記入日 2003.5.7.