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処方せん医薬品の指定について

土曜日, 8月 11th, 2007

KW:法律・規則・要処方せん薬・処方せん薬・薬事法・薬事法第49条

Q:薬事法の改正に伴い『処方せん医薬品』の指定がされた。今回の指定では注射薬も含まれているが、病院内で取り扱う注射薬についても、処方せんがない場合、病棟等への払い出しは出来ないということか

A:処方せん医薬品の指定について [各都道府県知事・政令市長・特別区長宛 厚生労働省医薬食品局長発出 薬食発第0210001号(平成17年2月10日)]によれば、

薬事法及び採血及び供血あつせん業取締法の一部を改正する法律(平成14年法律第96号。以下「薬事法等一部改正法」という。)による改正後の薬事法(昭和35年法律第145号。以下「新薬事法」という。)の規定に基づき、平成17年厚生労働省告示第24号(薬事法第49条第1項の規定に基づき厚生労働大臣の指定する医薬品。以下「新指定告示」という。)が別添の通り告示され、平成17年4月1日より適用されることになりました。

つきましては、下記事項に御留意の上、関係方面に周知方よろしくお取りはからい願います。なお、この告示の適用に伴い、昭和36年の厚生労働省告示第17号(薬事法第49条第1項の規定に基づき厚生労働大臣の指定する医薬品)は平成17年3月31日限り廃止します。

1.処方せん医薬品の指定の趣旨

現在、薬事法一部改正法による改正前の薬事法(以下「旧薬事法」という。)第49条第1項の規定により、薬局開設者又は医薬品の販売業者が処方せんの交付又は指示を受けた者以外の者に対して販売又は授与(以下「販売等」という。)出来ない医薬品を要指示医薬品として指定しているところである。

今般、医療の実情や他の法規制に照らし、要指示医薬品として指定されていなくとも、医師等の処方せん又は指示により販売又は授与されてきた注射剤や麻薬製剤等の医薬品の適正使用を一層徹底するため及び口頭指示等による明瞭でない販売等を改めるため、新薬事法において、呼称を要指示医薬品から処方せん医薬品と改めるとともに、処方せんの交付を受けた者に対してのみ、薬局開設者又は医薬品の販売業者が処方せん医薬品の販売等できることとしたものである。 なお、処方せん医薬品の指定の根拠条文である新薬事法第49条第1項の立法趣旨は、旧薬事法のそれと同じである。

上記に見られるとおり、この法律の規制を受けるのは、『薬局開設者又は医薬品の販売業者』であって、『医療法上の調剤所』は、新薬事法第49条第1項の規制は受けない。

第二節 医薬品の取扱い (処方せん医薬品の販売

第四十九条 薬局開設者又は医薬品の販売業者は、医師、歯科医師又は獣医師から処方せんの交付を受けた者以外の者に対して、正当な理由なく、厚生労働大臣の指定する医薬品を販売し、又は授与してはならない。ただし、薬剤師、薬局開設者、医薬品の製造販売業者、製造業者若しくは販売業者、医師、歯科医師若しくは獣医師又は病院、診療所若しくは飼育動物診療施設の開設者に販売し、又は授与するときは、この限りでない。

2 薬局開設者又は医薬品の販売業者は、その薬局又は店舗に帳簿を備え、医師、歯科医師又は獣医師から処方せんの交付を受けた者に対して前項に規定する医薬品を販売し、又は授与したときは、厚生労働省令の定めるところにより、その医薬品の販売又 は授与に関する事項を記載しなければならない

3 薬局開設者又は医薬品の販売業者は、前項の帳簿を、最終の記載の日から二年間、保存しなければならない

2.新指定告示の要旨

(1)医薬品として承認されているもののうち、医師、歯科医師又は獣医師(以下「医師等」という。)の処方せんに基づいて使用すべきものとして、以下に該当するものを処方せん医薬品として指定したこと。

  • [1]医師等の診断に基づき、治療方針が検討され、耐性菌を生じやすい又は使用方法が難しい等のため、患者の病状や体質等に応じて適切に選択されなければ、安全かつ有効に使用できないもの。
  • [2]重篤な副作用等のおそれがあるため、その発現の防止のために、定期的な医学的検査を行う等により、患者の状態を把握する必要があるもの。
  • [3]併せ持つ興奮作用、依存性等のため、本来の目的以外の目的に使用されるおそれがあるもの。

(2)旧薬事法における要指示医薬品については、(1)に該当するものとして、処方せん医薬品として指定されるものであること。

(3)放射性医薬品、麻薬、向精神薬、覚せい剤、覚せい剤原料、特定生物由来製品及び注射剤については、(1)に該当するものとして、これらすべてが処方せん医薬品として指定されるものであること。なお、これらについては、それぞれ新指定告示第1号から第7号に規定しており、有効成分の表記(第8 号)による指定ではないことに留意されたい。

(4)新指定告示第7号については、人工腎臓用透析液及び医療用注入器を用いて体内に直接適用する固形製剤も含まれるものであること。

(5)新指定告示第8号関係

  • [1]製剤に含まれる有効成分が同号に掲げるもの、その塩類、それらの水和物及び誘導体からなるもの(殺そ剤を除く。)が処方せん医薬品として指定されるものであること。
  • [2]複数の有効成分を含有する製剤については、新指定告示上、含有する全ての有効成分を塩類、水和物及び誘導体までを含めた形で表記し、指定対象品目の明確化を図ったこと。
  • [3]歯科用薬剤は外用剤には含まれないものであること。

(6)上記にかかわらず、体外診断用医薬品については処方せん医薬品として指定されないものであること。

3.運用上留意すべき事項

(1)新指定告示に掲げる全ての処方せん医薬品(平成17年4月1日に現に存するものも含む。)について、平成17年4月1日より適用するものであること。

(2)処方せん医薬品については第一種医薬品製造販売業許可、処方せん医薬品以外の医薬品については第二種医薬品製造販売業許可を受けた者でなければ、業として医薬品を製造販売してはならないこと。

(3)薬事法附則第14条第1項及び第2項の規定により、下記品目については平成19年3月31日までは新薬事法の規定に適合する表示がされているものと見なすこと。

  • [1]平成17年4月1日に現に存するものであって、旧薬事法に適合する表示がなされているもの。
  • [2]平成17年4月1日に現に旧薬事法に適合する表示がなされている容器若しくは包装又は添付文書(以下「添付文書等」という。)であって、平成18年3月31日までに添付文書等として使用されたもの。

(4)処方せん医薬品を取扱う製造販売業者は、その取扱う医薬品が処方せん医薬品である旨の情報提供等を適切に行うこと。特に、旧薬事法において要指示医薬品に指定されていなかったもので、今般、処方せん医薬品に指定されたものについては、周知を徹底すること。

(5)新指定告示及びこの通知発出に伴い、平成17年4月1日より、以下の通知中において「要指示医薬品」とあるのは「処方せん医薬品」と、「製造業者又は輸入販売業者」とあるのは「製造販売業者」と読み替える。

  • [1]「医療用医薬品添付文書の記載要領について(平成9年4月25日付薬発第606号薬務局長通知)」
  • [2]「医療用医薬品添付文書の記載要領について(平成9年4月25日付薬安第59号薬務局安全課長通知)」
  • [3]「医療用医薬品添付文書の記載要領について(平成9年4月25日付薬発第607号薬務局長通知)」
  • [4]「ワクチン類等の添付文書の記載要領について(平成11年1月13日付医薬発第20号医薬安全局長通知)」
  • [5]「ワクチン類等の添付文書の記載要領について(平成11年1月13日付医薬安第1号医薬安全局安全対策課長通知)」
  • [6]「ワクチン類等の接種(使用)上の注意記載要領について(平成11年1月13日付医薬発第21号医薬安全局長通知)」

別添

○厚生労働省告示第二十四号

薬事法(昭和三十五年法律第百四十五号)第四十九条第一項の規定に基づき、厚生労働大臣の指定する医薬品を次のように定め、薬事法及び採血及び供血あっせん業取締法の一部を改正する法律(平成十四年法律第九十六号)第二条の規定の施行の日(平成十七年四月一日)から適用し、昭和三十六年厚生労働省告示第十七号(薬事法第四十九条第一項の規定に基づき厚生労働大臣の指定する医薬品)は、平成十七年三月三十一日限り廃止する。

平成十七年二月十日

厚生労働大臣 尾辻 秀久

薬事法第四十九条第一項の規定に基づき厚生労働大臣の指定する医薬品

次に掲げる医薬品(専ら疾病の診断に使用されることが目的とされている医薬品であって、人の身体に直接使用されることのないものを除く。)

一、放射性医薬品(放射性医薬品の製造及び取扱規則(昭和三十六年厚生省令第四号)第一条第一号に規定する放射線医薬品をいう。)

二、麻薬(麻薬及び向精神薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)第二条第一号に規定する麻薬をいう。)

三、向精神薬(麻薬及び向精神薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)第二条第六号に規定する向精神薬をいう。)

四、覚せい剤(覚せい剤取締法(昭和二十六年法律第二百五十二号)第二条第一項に規定する覚せい剤をいう。)

五、覚せい剤原料(覚せい剤取締法(昭和二十六年法律第二百五十二号)第二条第五項に規定する覚せい剤原料をいう。)

六、特定生物由来製品(法第二条第十項に規定する特定生物由来製品をいう。)

七、注射剤(前各号に掲げるものを除く。)

八、次に掲げるもの、その誘導体、それらの水和物及びそれらの塩類を有効成分として含有する製剤(前各号に掲げるもの及び殺そ剤を除く。)。ただし、二以上の有効成分を含有する製剤にあっては、次に掲げるものに限る。以下個別薬品名省略

九、次に掲げるもの及びその製剤であって、動物に使用することを目的とするもの。

(1)オキシトシン

(2)血清性性腺刺激ホルモン

(3)胎盤性性腺刺激ホルモン

いずれにしろ病院内における注射剤は、一部自己注射可能薬品を除き、直接患者に交付するのものではなく、医師が直接患者に注射するか、医師の指示により看護師が注射するかであり、使用した注射剤については診療録に記載することが義務づけられている。使用された定数配置(常備薬)の注射薬の補充に関して、薬剤部門と病棟・手術室等の他部門間での物品の移動について、物品伝票によるか処方せんによるかは、院内の取り決め事項により行われる。

[615.1.PRE:2005.3.15.古泉秀夫]


  1. 薬事衛生六法;薬事日報社,2004

市販直後調査の英訳

土曜日, 8月 11th, 2007

KW:語彙解釈・市販直後調査・市販後調査・PMS・Post Marketing Surveillance・Early Postmarketing Phase Vigilance・EPPV・Early Post Marketing Vigilance・EPMV

Q:市販直後調査の英訳について

A:『医薬品の市販後調査の基準に関する省令の一部を改正する省令の施行及び医薬品の再審査に係る市販後調査の見直しについて』 [平成12年12月27日、医薬発第1324号各都道府県知事宛 厚生省医薬安全局長]により市販直後調査に係る省令等の改正に関する文書が発出された。

その内容は以下の通りである。 (ただし、平成16年9月22日改正薬事法施行のためGVP省令、GQP省令及び施行規則の一部改正に関する省令が交付されている。GPMSP→GVP:Good Vigilance Practice:製造販売後安全基準)。

 医薬品の市販後安全対策については、平成8年の薬事法の一部を改正する法律(平成8年法律第104号)等により、その充実を図ってきたところである。

今般、医薬品の市販後調査の基準に関する省令の一部を改正する省令(平成 12年厚生省令第151号)の公布により「市販直後調査」を新設し、また、再審査に係る市販後調査の見直しを行ったところであるが、今回の措置の趣旨等については下記のとおりであるので、貴管下関係業者等に対し周知徹底方よろしくお願いする。

また、「医薬品の市販後調査の基準に関する省令」(平成9年厚生省令第10号。以下「医薬品GPMSP」という。)に関する留意事項を別添「医薬品GPMSPの留意事項」としてとりまとめたので、貴職におかれても十分御了知の上、貴管下関係業者に対し併せて周知徹底方よろしくお願いする。

第一 医薬品GPMSPの改正について

1.新医薬品の市販直後調査の新設について(第2条、第5条、第7条、第9条の2、 第16条関係)

  1. 承認前に治験等から得られる医薬品の安全性情報は、患者数、併用薬、合併症、年齢等の患者背景において限定されたものであり、新医薬品の市販後においては、その使用患者数が短期間に急激に増加し、使用患者の背景も多様化することから、承認前には予測できない重篤な副作用及び感染症(以下「副作用等」という。)が発現したり、予測できない頻度等で発現するおそれがある。
    このため、新医薬品については、特に製造業者等において、医療機関に対し確実な情報提供、注意喚起等を行い、適正使用に関する理解を促すとともに、副作用等の情報を迅速に収集し、必要な安全対策を実施していくことが重要であり、医療機関においてもこれらの情報をもとに副作用等の発生に留意しながら慎重に使用することが重要となる。
  2. これまでも、医薬品の安全性に関する事項その他医薬品の適正な使用のために必要な情報については、薬事法(昭和35年法律第145号。以下「法」という。)第77条の3において、医薬品の製造業者等に対して収集等の努力を求めるとともに、医療関係者に対して収集への協力を求めてきたところであるが、今般、こうした状況を踏まえ、医薬品GPMSPの一部を改正し、「市販直後調査」を新設した。
  3. この「市販直後調査」は、

    [1]新医薬品を対象として、

    [2]販売開始直後の6か月間において

    [3]当該医薬品の慎重な使用を繰り返し促すとともに、重篤な副作用等が発生した場合、その情報を可能な限り網羅的に把握し必要な安全対策を講じるというものである。

  4. これを適正かつ円滑に実施するため、市販直後調査の手順を記載した市販後調査業務手順書の作成及び保存、市販直後調査実施計画書の作成及び保存並びに同実施計画書に基づく実施等について規定したところである。 なお、市販直後調査の具体的な実施方法については、別途通知する予定である。

2. 使用成績調査の改正について(第2条関係)

医薬品GPMSP第2条第3項に規定する「使用成績調査」については、従来、法第14条の4第4項に規定する再審査のための使用成績に関する資料の作成のための調査とされていたが、再審査期間終了後にも実施される場合があることから、当該目的の限定について削除し、再審査のための調査に限定しないこととした。

3. 外国措置情報の収集の強化について(第8条関係)

外国で使用されているものであって当該医薬品と成分が同一性を有すると認められるものに係る製造、輸入又は販売の中止、回収、廃棄その他保健衛生上の危害の発生により講じられ又はその発生を防止するために講じられた外国措置情報については、法第77条の4の2の規定に基づく薬事法施行規則(昭和36年厚生省令第1号)第64条の5の2第1項第1号ハにより報告が義務付けられているところであるが、当該情報の迅速な収集、検討を一層促進するため、医薬品 GPMSP第8条に規定する製造業者等が市販後調査業務手順書等に基づき収集すべき適正使用情報に、外国政府や外国法人から入手する措置情報等の情報が含まれることを明確化した。

4.施行日について

以上の医薬品GPMSPの一部改正は、平成13年10月1日に施行する。

[市販直後調査の定義]

「市販後調査」のうち、製造業者等が、販売を開始した後の6ヵ月間、診療において、医薬品の適正な使用を促し、重篤な副作用等の症例等の発生の迅速な把握のために行うものをいう。

『市販後調査』の英訳については『Post Marketing Surveillance:PMS』が人口に膾炙されているが、『市販直後調査』については、該当する英訳を文献等で眼にしたことがないので、まだ一般的に使用される訳文とはなってないものと思われる。 確認した範囲で、『Early Post Marketing Phase Vigilance:EPPV』が一部で使用されているとされる。

  • Early:早期の、初期の
  • Phase:局面、段階、相、面
  • Vigilance:監視、警戒、不寝番、用心

いずれにしろ現段階では、我が国独特の制度であり、具体的な実施内容を説明しなければ外国人には理解されないのではないかと思われる。

[615.8.EPP:2005.3.14. 古泉秀夫・2005.4.19.一部修正]


  1. 厚生労働省医薬局:医薬品・医療用具等安全性情報,No.170,平成 13年(2001年)9月
  2. 国立国際医療センター薬剤部薬品管理室・私信,2005.2.22.
  3. 英辞郎 第二版;株式会社アルク,2005

食物アレルギーに係る表示義務食品等について

土曜日, 8月 11th, 2007

KW:副作用・食物アレルギー・アレルギー・表示義務・表示奨励品目・即時型アレルギー・非即時型アレルギー・アナフィラキシーショック

Q:食物アレルギーとアレルギー原因食品の表示義務等について

A:2004年6月23日に行われた厚生労働省、農水省の合同有識者会議において、アレルギーの原因物質を含む加工食品の表示制度の見直しが行われた。

その結果、表示奨励品目として新たにバナナが追加された。また、「特定アレルギー食品を使っていません」とする表示も勧めることとなった。

更に、従来は原材料表示はすべて同じ色、大きさの文字と定めていたが、アレルギーの原因物質だけ文字の大きさや色を変えたり、欄外に別記するなどの方法も認める方針となった。改訂後の表示対象のアレルギー原因食品は以下の通り。

表示義務】卵、乳、小麦、そば、落花生

表示奨励】アワビ、イカ、イクラ、エビ、オレンジ、カニ、キウイフルーツ、牛肉、クルミ、サケ、サバ、大豆、鶏肉、豚肉、マツタケ、桃、山芋、リンゴ、ゼラチン、バナナ

米国アレルギー・臨床免疫学会は、1984年食物により惹起される生体にとって好ましくない反応を『adverse reaction to foods(食物に対する異常反応)』と定義し、免疫学的機序が関与した場合を『food allergy(食物アレルギー)又はfood hypersensitivity』、非免疫学的機序によるものを『food intolerance(食物不耐症)』と分類した。

食物不耐症には

  1. 食品添加物に対する過敏反応
  2. 仮性アレルゲンといわれる薬理作用もつ化学物質を含む食品に対する過敏症
  3. サルモネラ菌、赤痢菌、大腸菌が産生する毒素による食中毒
  4. 乳糖分解酵素欠損症のような代謝疾患

などが含まれている。

食物アレルギーの発症機序について、未だ十分に解明されていないとされている。食物アレルギーの発症は、食物を摂取して1時間以内に症状の出現する即時型1時間以上経過してから症状が出現する非即時型に分けられる。

しかし、大部分の食物では、摂取後1時間以内に症状が発現する即時型であるといわれる。

蕎麦アレルギー等のアナフィラキシーや即時型の呼吸器症状、消化器症状は、吸収された食物抗原と消化管組織の肥満細胞並びに特異的IgE抗体との相互作用により起こる。食物抗原とそれに対するIgE抗体との反応により肥満細胞の脱顆粒が起こり、ヒスタミンなどの伝達物質が遊離し、アレルギー症状が発現する。

即時型の症状としては、食物摂取後、多くは15分以内に口内掻痒感、悪心、嘔吐、眼の掻痒感などの症状が発現する。皮膚症状としては湿疹、蕁麻疹、皮膚掻痒等が発現する。呼吸器系の症状としては鼻汁、鼻づまり、くしゃみなどの症状や咳、喘鳴、呼吸困難などの喘息症状を起こす。

食物アレルギーの症状は、免疫学的な要因だけでなく、非免疫学的な影響によっても悪化する。消化力が不十分であったり、組織や局所免疫が不全であると、未分化の高分子の蛋白質がそのまま循環系へ流入し、アレルギー症状が出現する。この形態の食物アレルギーは、乳幼児期に発症し、加齢により軽快する。

食物アレルギーの中で、最も重篤な症状はアナフィラキシーショックである。これは外来抗原に対する抗原抗体反応が引き金となって、急速に激症の全身的アレルギー症状を示す病態であり、極く僅かな食物の摂取で、意識不明、低血圧、激症のショック症状を発現する。蕎麦、ピーナツなどが原因で起こることがあり、過去に経験のある者では、摂取しないよう厳重に注意することが必要である。この形態の食物アレルギーは、加齢による耐性獲得はあまり期待できないとされている。

子供の食物アレルギーの症状の中で最も多いのは皮膚症状で、乳幼児では卵を食べた後などに皮膚発赤、皮膚掻痒、蕁麻疹などが発現する。特に1歳未満の幼児では卵による食物アレルギーの発現が多くみられる。

食物アレルギーの種 別 特徴 原因食品
口腔アレルギー症候 群 直接接触した口唇、 口腔内に限局 リンゴ、キウイフ ルーツ、サクランボ、桃、梅、トマト、スイカ、ジャガイモ、セロリ等
アナフィラキシー 激症時に致死的 鶏卵、牛乳、ピーナ ツ、蕎麦、甲殻類、魚
食物依存性運動誘発性
アナフィラキシー
食物摂取後数時間以内に運動 小麦、甲殻類、魚、 果物、セロリ等
仮性アレルゲン 主な含有食品
acetylcholine クワイ、里芋、蕎 麦、タケノコ、トマト、茄子、ピーナツ、松茸、山芋
caffeine 紅茶、コーラ、ココ ア、コーヒー、茶、チョコレート、ミルクチョコレート
capsaicin 胡椒、シシトウ、タ バスコ
histamine 赤ぶどう酒、魚類、 酵母、チーズ、トマト、茄子、ほうれん草
inolin サンマ、塩鮭、冷蔵 たら
serotonin

(5-hydroxytryptamine)

アボガド、無花果、 カリフラワー、カンタロープ黒オリーブ、キーウイフルーツ、クルミ、グレープフルーツ、スモモ、トマト、茄子、ナツメヤシの実、パイナップル、バナナ、ハニーデュー、ヒッコリーナッツ、ブロッコリー、ほうれん草
phenyltyramine 赤ぶどう酒、ゴーダ チーズ、スチルトンチーズ、チョコレート
tyramine アボガド、無花果、 カマンベールチーズ、醤油、スモモ、チェダーチーズ、トマト、茄子、納豆、発酵食品、バナナ、味噌

[065.ALL:2005.3.1.古泉秀夫]


  1. 向山徳子:食物アレルギーはなぜ起こる?;食生活,93(3):14-19(1999)
  2. http://www.food-allergy.jp/info/news.html,2004.8.20.
  3. 宇理須厚雄:まず食物アレルゲンを知ろう;食生活,93(3):20-26(1999)
  4. 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990

処方に記載されるDNSの略号について

土曜日, 8月 11th, 2007

KW:語彙解釈・DNS・do not substitute・代替調剤・処方せんの記載・薬発第120号

Q:米国で処方せん中に医師が記載するとされる略号『DNS』の意味について

A:米国で医師が処方せん中に記載するDNSの略号は『do not substitute』の略記である。この略号は、医師が商品名を処方せんに記載した際、『DNS』の略号を附記していない場合には、代替調剤可ということで、同一組成の他社製品に変更して薬局で調剤してよいということを意味しているとされる。

我が国においても、厚生省医務・薬務両局長通知(昭和31.3.30.薬発第120号、各都道府県知事宛)として、次の文書が発出されている。

 

「処方せんの記載並びに調剤について」

新医薬制度の実施上留意を要すると認められる点については、すでに3月13日薬発第94号をもって通知したところであるが、更に左記の点についても関係者に周知徹底方何分の御配意を煩わしたい。

処方せんに記載する医薬品の名称は、公定書名、一般名又は商品名の何れを用いても差し支えないが、このうち商品名については、特に医師、歯科医師又は獣医師がその商品を指定する意思を表明する場合には、その商品名に(特)と附記する等の方法によって、その旨を明らかにするよう指導されたいこと。

薬剤師が調剤する場合、商品名で記載された医薬品については、原則としてその商品名のものを使用することを要し、(特)と附記する等の方法により特にその商品を使用することを指定する旨の表明がされている医薬品については、その商品名の医薬品を使用しなければならないこと。

ただ、処方せんに記載された商品名の医薬品が手許にない場合において、特にその商品を使用すべき旨の表明がなされていないときには、当該医薬品が公定書収載医薬品であれば、これと同一の成分分量を有する他の医薬品を使用して調剤しても差し支えないものとも考えられるが、この場合でもでき得る限り処方せんを交付した医師等と連絡することとするよう指導されたいこと。

以上の通知について、その主旨を考えた場合、次の3項に区分できる。

  1. 『商品名で記載された医薬品は原則として商品名のものを使用すること』
  2. 『特にその商品を使用することを指定する旨の表明がされている医薬品はその商品名の医薬品を使用』
  3. 『処方せんに記載された商品名の医薬品が手許にない場合において、特にその商品を使用すべき旨の表明がなされていないときには、当該医薬品が公定書収載医薬品であれば、これと同一の成分分量を有する他の医薬品を使用して調剤しても差し支えないものとも考えられる』

[1]は『原則として』とされてはいるが、『商品名のものを使用』とされており、代替調剤を容認しているものとは考えられない。

[2]は『医師が商品名を指定』しており、代替調剤の対象外である。

[3]は『処方せんに記載された商品名の医薬品が手許にない場合において、特にその商品名の使用が特定されておらず、当該医薬品が局方品であれば、同一成分分量を有する他の医薬品の使用』としているが、『できえる限り医師に連絡』としており、あくまで医師の意志確認が求められており、使用薬剤の範囲も狭く限定しており、米国でいう代替調剤には該当しない。

[615.8.DNS:2004.7.26.古泉秀夫]


  1. 武藤正樹・他:座談会 後発医薬品を育てる-不安を信頼に変えるために;週刊医学界新聞,第2591号,2004.7.5.
  2. http://www.ncc.go.jp/nk-cc/ingai-syohou/saiyoulist.html,2004.7.10.

硝酸銀棒について

土曜日, 8月 11th, 2007

KW:院内特殊製剤・硝酸銀棒・硝酸銀桿・製剤処方・調製法・臍の緒・潰瘍・疣贅・コンジローマ・尖圭コンジローマ

Q:硝酸銀棒の入手法について

A:現在、硝酸銀(silver nitrate)棒の製造は中止されたため、製品として入手することは出来ない。硝酸銀棒を必要とするなら院内製剤により調製することが必要である。製剤処方及び調製法は下記の通り。

硝酸銀棒

処方

(局)硝酸銀—–1g

(局)硝酸カリウム——10g

  • 調製法:水ガラスを先端から2cm位まで付け、乾燥させた竹串を用意する。ルツボ中で硝酸銀、硝酸カリウムを熔融し、用意した竹串の先を溶融した液の中に適当に浸けて取り出し、乾燥させる。附着させる硝酸銀は、マッチ軸頭程度の大きさとする。
  • 貯法:遮光・室温・防湿保存。
  • 適応:臍の緒を焼く。
  • 備考:水ガラスは、ケイ酸ナトリウム:水=1:2を温めて融解する。防湿のためシリカゲルを入れて黒いテープを巻いた試験管の中に保存する。なお、水ガラス(ケイ酸ナトリウム溶液)は市販されている。その他、硝酸銀桿(Styl.Arg.Nitr.)として次の報告がされている。

硝酸銀桿(styla argenti nitratis)

処方

硝酸銀——950g

硝酸カリウム——50g

全量——-1000g

以上を秤取し、注意して熔和し、桿状として製する。

  • 性状:本品は白色?灰白色桿状の塊で、破折面は結晶性を呈し、光により灰黒色となる。本品は水に溶け易く、アルコールに溶け難い。 貯法:遮光した気密容器に貯えなければならない。
  • 備考:硝酸銀・硝酸カリウムを乳鉢中で搗砕(とうさい;つき砕く)して緊密に混和し、カセロール(磁製の口付き平底の皿で、取扱いに便利なように柄が付いている)中で溶融し、鋳型に注入して造る。
  • 応用:硝酸銀は有機物を破壊する作用がある。蛋白質を凝固し、これと化合して不溶性の銀化合物を造る。故に粘膜潰瘍面、皮膚に適用するとその局所を腐蝕し、浅表性の痂皮を生成する。この腐蝕作用は激しいが表面に止まり、且つ炎症を伴わない。痂皮下に速やかに上皮細胞を新生し治癒する。また、強い防腐作用も有している。故に腐蝕、収斂薬として一般に表在した慢性炎症、潰瘍等に対し病変する組織を破壊除去し、健全な組織の再生を促す作用がある。本品には硝石(硝酸カリウム)を熔和してあるため硝酸銀のみによる作用よりは緩和である。
  • 適応:潰瘍、疣贅、コンジローマ(comdyloma)等

*尖圭コンジローム(尖圭湿疣、尖圭疣贅、陰部疣贅):ヒト乳頭腫ウイルス感染症。

*扁平コンジローム(扁平湿疣):第二期丘疹性梅毒疹の一つ。

[014.16.SIL.:2001.3.12.古泉秀夫・2004.3.15.改訂]


  1. 日本病院薬剤師会・編:病院薬局製剤 第4版;薬事日報社,1997
  2. 第六改正日本薬局方注解;南江堂,1954
  3. 医学大辞典;南山堂,1992
  4. 日本病院薬剤師会・編:病院薬局製剤 第5版;薬事日報社,2003
  5. 薬科学大辞典第3版;廣川書店,2001

シガテラ毒について

土曜日, 8月 11th, 2007

KW:毒性・中毒・シガテラ毒・シガ・cigua・ガンビエールディスカ ス・Gambierdiscus toxicus・渦鞭毛藻・シグアトキシン・ciguatoxin・マイトトキシン・maitotoxin

Q:シガテラ毒とはどの様な毒物か

A:シガテラとはカリブ海でシガ(cigua)と呼ばれるニシキウズガイ科 の巻貝(チャウダーガイ:Cittarium pica)に起因する食中毒を指していたが、その後巻貝だけではなく、カリブ海で獲れた魚貝類による食中毒を指すようになり、現在ではカリブ海に限らず熱帯及び亜熱帯海域の、主に珊瑚礁周辺に棲む魚によって起こる死亡率の低い食中毒の総称とされている。

シガテラ毒

シガテラ毒魚の毒性は、魚種により、また、同じ魚種でも個体により、更に同じ個体でも部位により大きく異なる。

魚が獲れた場所や時期によっても大きな差があり、藻食魚よりは肉食魚、小型魚よりは大型魚の方が毒性が強いことから、毒は魚自身が作るのではなく食物連鎖を介して毒が移行・蓄積していくものと予想されていたが、タヒチ産のサザナミハギの消化管内容物から石灰藻の一種『ヒメモサスギ』から派生する『ガンビエールディスカス(Gambierdiscus toxicus)』と名付けられた『渦鞭毛藻』を発見し、このプランクトンからシガテラ毒のシグアトキシンとマイトトキシンを単離し、毒の起源であることを証明した。

Gambierdiscus toxicusは付着性プランクトンで、石灰藻などの海藻の表面に高密度に付着し生育するため、海藻を餌とする魚や巻貝が毒化する。

シガテラ毒素には、水に溶け難い脂溶性のシグアトキシン (ciguatoxin)と水に溶け易い水様性のマイトトキシン(maitotoxin)の両者がある。

ciguatoxinは分子内に多くのエーテル結合を持つポリエーテル化合物で、C60H86O19=1,110の物質である。

毒性は極めて強力で、マウスに対する急性毒性(LD50)は 0.45μg/kg(腹腔内投与)で、フグ毒テトロドトキシンの約20倍も強い。ciguatoxinは膜電位異常及びNaチャンネル障害(神経興奮膜状のナトリウムチャンネルを開放)を惹起するが、この作用はテトロドトキシンによって拮抗される。

一方、maitotoxinはciguatoxinよりも構造がはるかに複雑で、毒性も強く、現在知られている海洋生物毒の中で最強の毒素とされている。

ciguatoxin同様ポリエーテル化合物であるが、分子内に硫酸エステルを持つため水様性を示す。マウスに対する急性毒性(LD50) は0.05μg/kg(腹腔内投与)で、ciguatoxinの9倍、テトロドトキシンの約200倍強力であるとされている。

毒作用はカルシウムイオンの細胞内への流入を増大させることで、細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させ、平滑筋、骨格筋、心筋の収縮など色々な反応を起こすと考えられている。ciguatoxinは主に大型の肉食魚から検出されるのに対して、 maitotoxinは藻食魚だけに見られる。

シガテラ毒は加熱、冷凍、塩蔵、酢漬、胃酸等によっても毒性は変化しない。

中毒症状

シガテラによる中毒症状は実に多彩で、中毒の原因、程度によっても異なるが、中毒は食 後30分から数時間ほどで現れ、消化器系(嘔気、嘔吐、下痢)、循環器系(徐脈)、神経系に異常が見られる。

シガテラ中毒で最も特徴的なのはドライアイスセンセーション(dry-ice sensation:温度感覚異常)と呼ばれる知覚異常で、冷たい感じをドライアイスに触れたときのように、あるいは電気ショックを受けたように感じ、暖かいものが冷たく感じられるというものである。

また、関節痛、筋肉痛、掻痒を伴うことが多いが、死亡率は低いのが特徴である。しかし、回復には時間がかかり、数カ月を要することがある。更に一度中毒を経験すると、次の中毒では過敏になり、症状も重篤化する。

シガテラ毒魚

シガテラは南北回帰線に挟まれた広い海域(カリブ海、太平洋、インド洋)で発生 し、世界中で毎年2万人を超えるヒトが中毒していると推定されている。日本では南西諸島が中毒海域に該当し、沖縄県や南九州での中毒事例が多いが、魚介の輸送拡大に伴い、国内全域で食中毒が発生している。

シガテラを起こす魚は300種とも500種ともいわれるが、特に問題となるのは次の魚類

ウツボ科 毒ウツボ(Gymnothorax javanicus)
カマス科 オニカマス[ドクカマス](Sphyraena picuda)
スズキ科 マダラハタ(Epinephelus microdon)、バラハタ(Variola louti)
イシダイ科 イシガキダイ(Oplegnathus punctatus)
フエダイ科 イッテンフエダイ(Lutjanus monostima)、バラフエダイ(Lutjanus bohar)、ゴマフエダイ(Lutjanus argentimaculatus)
ブダイ科 ナンヨウブダイ(Scarus gibbus)、カンムリブダイ(Bolbometopon muricatum)
ニダザイ科 サザナミハギ(Ctenochaetus striatus)
アイゴ科 アイゴ(Siganus fuscescens)

を含めて約20種程度といわれている。このうち中毒が多いのはバラフエダイであるが、勘八や平政で中毒が起こった事例が報告されている。海岸の土木工事や地震、大雨などで珊瑚礁の生態系が破壊されると毒化されることが多い。 有毒部位は肝臓やその他の内臓部だけでなく、筋肉にも毒性があることがあ り、シガテラが危険で、中毒が多い原因の一つとしてあげられている。

治 療

対症療法及び輸液管理。重症の場合、呼吸管理。急性期にはマンニトール1g/kgを30-45分で点滴静注。その後、アミトリプチリン 25mgを1日2回内服。徐脈にはアトロピンの静注が奏効する。

[63.099.CIG:2003.12.9. 古泉秀夫]


  1. 塩見一雄・他:海洋動物の毒-フグからイソギンチャクまで-;成山堂書 店,1997
  2. 西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル改訂6版;医薬ジャーナル 社,2001
  3. Anthony T.Tu:中毒学概論-毒の科学-;薬業時報社,1999
  4. 内藤裕史:中毒百科 改訂第2版;南江堂,2001
  5. 岡村 収・他編監修:日本の海水魚;株式会社山と渓谷社,1997

尋常性白斑治療に用いられる薬剤について

土曜日, 8月 11th, 2007

KW:薬物療法・尋常性白斑・Vitiligo Vulgaris・光毒性物質・ソラレン・psoralen・ステロイド外用療法・紫外線療法・活性型ビタミンD3外用療法・ステ ロイド内服療法・furocoumarin・フロクマリン・セロリ

Q:尋常性白斑の治療に用いられる薬剤について

A: 尋常性白斑(Vitiligo Vulgaris)は、色素脱失をきたす皮膚疾患の中で最も普通に見られるもので、後天性に出現し境界鮮明なほぼ完全な脱色斑で「白なまず」とも呼ばれる。

本症の原因はなお不明であるが、自己免疫的ないし神経性機序の関与が有力になっており、精神的ストレスによるとする意見もある。

白斑部皮膚の病理組織像では、表皮のメラニン顆粒は著明な減少ないし消失が見られ、DOPA反応を行うとDOPA陽性メラノサイトは殆ど見られなくなる。

白斑は皮膚のいずれの部位にも発生するが、露出部位、間擦部位や器官開口部、更に外傷、刺激を受けやすい部位に好発する。

尋常性白斑の治療には光毒性物質のソラレン(psoralen)を内服ないし外用し、長波長紫外線(UVA)を照射する光化学療法が主流を示している。

投与法の選択は汎発型では内服が優先される。

副腎皮質ホルモンの外用のみでも色素再生を期待し得るが、白斑の初期ないし進行期に効果的である。また、尋常性白斑は、汎発型(単発型を含む)と神経分節型に分類される。

汎発型は自己免疫機序が想定されており、神経分節型は末梢神経異常を想定されている。

治療方針

ステロイド外用と光化学療法が第1選択である。年齢が若く、罹病期間が短いほど反応がよい。難治例ではステロイド内服(汎発型)又は植皮術(限局型)を試みる

1)ステロイド外用療法

  • fluocinonide–1日1-2回–外用
  • トプシムクリーム(田辺)

発症部位に応じて適切なランクを選択する。6カ月間を投与の目安とする。

2)活性型ビタミンD3外用療法

  • tacalcitol–1日1-2回–外用[保険適応外]
  • ボンアルファ軟膏(帝人)
  • calcipotriol–1日1-2回–外用[保険適応外]
  • ドボネックス軟膏(藤沢)

軽度の炎症反応の後色素回復が見られる。被覆部では光化学療法を併用すると効果が増強される。6カ月を投与の目安とする。

3)紫外線療法

  • methoxalen–1週1-2回–外用
  • オクソラレンローション0.3%・1%(大正富山)[エタノールで0.05-0.1%に希釈]

上記外用後、長波長紫外線を照射する(光化学療法)。

照射量は光毒性反応量以下とする。

6カ月を目安とする。

Narrow-band中波長紫外線(311nm)の単独照射も光化学療法と同等の効果があると報告されている。本剤の外用部は治療当日1日、遮光を徹底させる。 methoxalenはオランダセリ科の植物Ammi majus Linnの種子より単離されたfurocoumarin系化合物の一種で、フロクマリンを含有する食物*:セロリ、ライム、ニンジン、パセリ、イチジク、アメリカボウフウ、カラシ等により光毒性が増強されるおそれがあるとしている。

4)ステロイド内服療法

  • methylprednisolone–8-12mg—分1—朝食後[保健適応外]
  • メドロール錠(4mg)–(住友-ファイザー)

他の治療法に抵抗し拡大する汎発型に用いる。2-3カ月間を目安とする。

5)自己表皮植皮術

限局する難治性白斑に適用される。

尋常性白斑は、難治であるが対症療法を根気よく行うことによってよくなる可能性はある。日常生活では、強い日光曝露を避ける。美容的にはカバー マークの使用、ダドレス(dhadress)による着色で隠す等の報告がされている。

*セロリを扱う労働者にアレルギー性過敏症が見られることはよく知られているとされる。

1962年に仏のLegrain、Bartheはセロリを収穫する栽培者の日光露出部に典型的な紅斑、浮腫、小水疱の発生を観察している。

1960 -1961年にBirninghamらはミシガンのセロリ栽培地区でセロリ摂取者の日光露出部位に色素沈着及び色素脱出を伴った小水疱及び水疱性病巣が見られたことを報告している。

セロリ皮膚炎の原因物質は真菌のSclerotina sclerotiorumの感染によりPink rot病になったセロリが作り出した光感作力の強いメトキサレン(8-メトキシソラレン)が原因であろうと考えられた。

その他の原因物質として5-メトキシソラレンも含まれており、これらはfurocoumarinと呼ばれている。

一般的に野菜中のfurocoumarin含量は低いことが知られているが、真菌の侵入、UV(ultraviolet)照射、冷却、化学物質への曝露等のセロリに対するストレスによってセロリ中のfurocoumarinの濃度が上昇することがあるとされる。

真菌感染による誘導、furocoumarinの真菌に対する毒性から、セロリが作るfurocoumarinは抗菌物質として作用すると考えられる。真菌に感染したセロリやニンジンでは、正常時の数倍のfurocoumarinが含まれているとする報告がされている。

尋常性白斑の治療に使用されるmethoxalenは、furocoumarinの一種であり、服用中の患者が大量のセロリ等を摂取すれば、服用中の薬剤の作用を増強する可能性が予測される。

ただし、現在までに具体的な報告はないとされている。

[035.1.VIT:2003.12.5.古泉秀夫]


  1. 医学大辞典;南山堂,1992
  2. 山口徹・他総編:今日の治療指針;医学書院,2003
  3. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2003
  4. 澤田康文・他:I.薬と食・嗜好品の出会いで起こる有害作用b)薬とセロリ;医薬ジャーナ,38(1):576-578(2002)

小児用バファリンかぜシロップの過量投与について

土曜日, 8月 11th, 2007

KW:毒性・中毒・小児用バファリンかぜシロップ・過量投与・アセトアミノ フェン・マレイン酸クロルフェニラミン

Q:3歳の幼児に『小児用バファリンかぜ シロップ』を1回に15mL服用させてしまった。通常1回量は5mLであるが、大丈夫かの問い合わせがあった。対処法は。なお、幼児の体重及び服用してか らの時間経過については報告を受けていない。

A:『小児用バファリンかぜシロップ』(日新製薬・滋-ライオン株式会社) の組成・含有量、年齢別の投与量は以下の通りである。

配合薬 30mL中 15mL(過投与量)
アセトアミノフェン 300mg 150mg
マレイン酸クロルフェニラミン 2.5mg 1.25mg
リン酸ジヒドロコデイン 8mg 4mg
dl-塩酸メチルエフェドリン 20mg 10mg
グアイフェネシン 80mg 40mg
無水カフェイン 25mg 12.5mg

添加物:安息香酸ナトリウム、ブチルパラベン、プロピレングリコール、香料

年齢 1回量 1日量
(1日 3回食後及び必要時就寝前)
1日最大6回
(服用間隔4時間以上)
6-3歳 5mL 15mL(20mL) 30mL
2-1歳 3.75mL 11.25mL(15mL) 22.5mL
11-6カ月 3mL 9mL(12mL) 18mL
5-3カ月 2.5mL 7.5mL(10mL) 15mL

本剤の6-3歳児に対する1日量は15mL、1日最大量は20mL又は 30mLである。今回の事例では、1日量を1回で服用したことになるが、配合剤としての全量での毒性は報告されていない。

従って、各薬剤の個別毒性を検討し、その上で全体の毒性を検討・予測せざる を得ない。

薬品名 acetaminopen chlorpheniramine dihydrocodeine
誤用量 150mg 1.25mg 4mg
小児最大用量 1回10mg/kg dl体:1-3歳(2.4mg)・3-5歳(3.0mg) /日

d体:1-3歳(1.2mg)・3-5歳(1.5mg) /日

?
最小中毒量 成人:5-15g

ヒト中毒量:150mg/kg

抗ヒスタミン剤の量が1日最大用量の3倍以内であれば家庭で経 過を見る。 ?
毒性 人経口致死量 13-25g(成人) 成人推定致死量10mg/kg。

痙攣を起こして死に至る。

幼小児:中枢神経の興奮、次に抑制状態(成人:中枢神経抑制)

マウス(経口)LD50:210mg/kg。

dl 体-マウス(経口)LD50:121mg/kg・ラット(経口)LD50:118mg/kg。

小児推定致死量:5-15mg/kg。

推定成人致死量:500mg

マウス(経口)LD50:411mg/kg。

人最小致死量 2.4g(成人)。

人致死量0.2-1g/kg

ラット(経口)LD50:
3.7g/kg 。

4時間後血中濃度 ? 120μg/mL以下で肝障害無・300μg/mL以上で重篤な肝障害 ? ?
最高血中濃度到達時間 ? 1時間(治療量)・約4時間(過量) 約2時間 ?
半減期 1-2時間(治療量)

12時間以上(過量)

12-15時間 3.3-4.5時間
吸収

排泄

胃腸より直ちに吸収され、0.5-1時間で最高血中濃度に到達する。

肝で代謝され、グルクロン酸 又は硫酸抱合され、尿に排泄される。

過用量後、一部水酸化代謝物が肝に蓄積され、壊死を起こす。

生物学的半減期は長くなる。

消化管と注射部位より急速に吸収される。

経口投与時は15-30分以 内に作用する。

代謝不明。

消化管と注射部位から吸収される。

鎮痛作用は、注射後4時間持続する。

おそらく脱メチル化され、 多数の代謝産物が尿中に排泄される。

毒作用 過用量は蒼白、悪心、嘔吐、食思不振、腹部不快感を起こす。

2日以内に血清酵素異常が肝機能障害 を示す。

重症中毒は代謝性アシドーシスと血糖の不規則を起こす。

昏睡は著しい過用量により起こる。

中毒の結果に対し好都合な早い指標はプロトロンビン 時間である。

これが過剰投与後24時間で著しく延長しているときはおそらく肝障害である。

軽い鎮痛と眠気。

一時的にヒリヒリするか灼熱感。

口渇、悪心、不安、発汗、蒼白、弱い脈拍と血圧 低下。

稀に過敏症があり、皮膚炎を起こす。

中等度の用量は不安、興奮、眩暈及び散瞳を起こすことがあ る。

100-500mg用量は、脈拍を遅くし、顔面を紅潮させ、疲労、耳鳴り、振戦、興奮を生じるであろう。

多量投与は遷延する縮瞳、筋肉衰弱及び眩暈を 起こす。

譫妄、振戦、頻脈、痙攣及び呼吸麻痺、薬物耽溺の危険は僅かであるが存在する。

標準的な3歳児の平均体重は、男児:13.8kg、女児:13.1kgとさ れており、acetaminopenの投与量を計算すると138mg(男児)・131mg(女児)であり、誤用量の150mgは極端に多い量とはいえな い。また、小児では肝薬物代謝酵素の活性等が成人とは異なるため、肝障害の発現率は低いとする報告も見られる。

薬品名 methylephedrine guaifenesin caffeine
誤用量 10mg 40mg 12.5mg
小児最大用量 ? ? ?
最小中毒量 ? ? ?
毒性 人経口致死量 推定致死量200mg(子供)・2g(成人)

中毒量:マウス(経口)LD50:758mg

/kg。

? 人推定致死量:約10gと報告されているが30gからの回復の報告例もある・183- 250mg/kg。

ラット(経口)LD50:200mg/kg。

成人中毒症状発現量:0.5-1g・小児重篤症状発現量:80-100mg/kg

人最小致死量
最高血中濃度到達時間 ? ? 1時間(イヌ) 約1時間
半減期 ? ? 65-102.9時間(早産児)、82時間(新生児)、14.4時間(-4.5カ月乳児)、 2.6時間(5-6カ月乳児)、3.0-7.5時間(成人)
吸収

排泄

直腸を含む胃腸管と注射部位より容易に吸収される。

変化せず腎より排泄される。75%までは12 時間までに排泄され、24時間までに全て排泄される。

鼻からの粘膜吸収によっても作用する。

? 容易に胃腸管より吸収される。多量に脱メチル化される。

キサンチン、一部メチル化したキサンチ ン、及び尿素として腎より排泄される。

毒作用 臨床的投与量は、神経症と不眠症、振戦、眩暈と頭痛を起こすことがある。

頻脈、心悸亢進、発汗と 体の熱い感じ、悪心、嘔吐と食欲不振、心臓不整脈、長く使用した後は不快状態、鼻粘膜に長く使用すると鼻充血を起こすことがある。

過量投与は悪心、嘔吐、 悪寒、チアノーゼ、過剰被刺激性と発熱を起こす。

頻脈、散大瞳孔と不鮮明視覚、後弓反張、痙縮、痙攣、呼吸困難、昏睡と呼吸障害。血圧は最初上がり後に下 がる。

? 多用量は嘔吐と痙攣を起こす。

感受性の強い人は、神経過敏、不眠症、不安、頭痛、振戦、悪心と嘔 吐を少量投与で生じる。

体温上昇、稀に譫妄、通常は治療を要しないで回復する。

疲労と呼吸障害が、時に死亡を生じることがある。

服用した幼児の体重等でも異なるが、『小児用バファリンかぜシロップ』の1 日量を1回に服用したとしても、直ちに重篤な中毒症状が発現することはないと考えられる。

ただし、抗ヒスタミン剤については、症状発現時間は摂取後30分 -2時間以内、死亡は18時間以内とする報告も見られるため、一定期間の経過の観察は必要である。なお、抗ヒスタミン薬誤用患者について、家庭で経過を観 察する場合少なくとも6時間は経過を見ると報告されているため観察期間の参照とされたい。

[63.099.ACE: 2003.10.14.古泉秀夫]


  1. (財)日本医薬品情報センター・編:一般薬日本医薬品集;じほう, 2002-2003
  2. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2003
  3. 白川 充・他共訳:薬物中毒必携 4th.;医歯薬出版株式会社,1989
  4. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:医薬品情報,26 (4):342-348(1999)5)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999
  5. 吉村正一郎・他編:急性中毒情報ファイル 第3版;廣川書店,1996
  6. フストジル末・錠添付文書,1998.12
  7. 西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル;医薬ジャーナル, 1999

消石灰飛散時の処置

土曜日, 8月 11th, 2007

KW:毒性・中毒・消石灰・水酸化カルシウム・calcium hydroxide・飛散・眼汚染

Q:校庭のライン引きを行っていた児童の眼に飛散した消石灰が入ったという連絡があった。この場合の処置法について

A:校庭のライン引き様に使用されるのは消石灰であり、消石灰の性状等について次の報告がされている。

消石灰は水酸化カルシウム(calcium hydroxide)の別名である。本品は定量するとき、水酸化カルシウム[Ca(OH)2]90.0% 以上を含む。本品は白色の粉末で、味は僅かに苦い。

本品は水に溶け難く(1→680)、熱湯に極めて溶け難く、エタノール(95)又はジエチルエーテルに殆ど溶けない。本品は稀酢酸、希塩酸又は希硝酸に溶ける。本品は空気中で二酸化炭素を吸収し、炭酸カルシウムになっている場合がある。本品に3-4倍量の水を加えるとき泥状となり、アルカリ性を呈する(25℃-pH12.4)。日本薬局方・食添収載。

  • 用途:建築用材料、水性塗料、耐火材料、運動場のライン引き。医薬品(局所収斂剤、制酸剤)、歯科用としても使用(歯髄に塗布;直接覆髄)。食品添加剤。
  • 作用:沈降炭酸カルシウムと同様に胃の制酸作用があるが、炭酸ガスを発生しない点が異なる。制酸薬としては臨床的に用いられない。消石灰には腐蝕性、刺激性があるが、その作用は弱い。
  • 症状:灼熱感、腐蝕。
  • 毒性:ラット(経口)LD50:7,340mg/kg。
  • 消石灰が眼に入った場合:眼をこすることなく直ちに流水で十分に洗浄する。その後、専門医を受診する。

[63.099.AL:2003.9.16.古泉秀夫]


  1. 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1993
  2. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:医薬品情報,26(4):341-342(1999)
  3. 西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル社,2001
  4. 第十四改正日本薬局方解説書;廣川書店,2001

食品添加物とされるTBHQについて

土曜日, 8月 11th, 2007

KW:薬名検索・食品添加物・酸化防止剤・TBHQ・2-t-ブチルヒドロキノン・2-t-Butylhydroquinone・t-ブチルヒドロキノン・t-butylhydroqinone

Q:食品添加物とされるTBHQとは、どの様なものか

A:TBHQとは、2-t-ブチルヒドロキノン、t-ブチルヒドロキノン(2-t-Butylhydroquinone、t-butylhydroqinone、tert-Buty1hydro-quinone)の別名である。

  • 性状:C10H14O2=166.22。紅褐色ないし類白色結晶性の粉末。
  • 融点:127℃。水に難溶、アルコール、アセトン、油脂に易溶。
  • 用途:油脂類の酸化防止剤、ポリマー類、潤滑油などの安定剤、ポリマー類の重合禁止剤。油脂の酸化防止剤としてアメリカなど10数カ国で使用が許可されているが、日本では許可されていない。急増する輸入食品にTBHQが誤って使用される可能性があり、兵庫県では平成3年度からTBHQの検査を実施しているの報告が見られる。
  • 別名:第三級ブチルヒドロキノン。
  • 急性毒性:ラット–経口 LD50:800mg/kg・ マウス–経口 LD50:1,000mg/kg。RTECS=急性経口毒性LD50:700mg/kg(ラット)。

本品の1日当たり摂取許容量は、体重1kg当たり0.7mgとされており、過剰に摂取した場合、体重減少などが見られるとされている。

[011.1.TBH:2003.8.25.古泉秀夫]


  1. http://www.eiken.city.yokohama.jp/hp2/,2003.8.14.
  2. http://www.iphes.pref.hyogo.jp/kenkou/tbhq/tbhq8.htm,2003.8.18.
  3. 14303の化学商品;化学工業日報社,2003

シクロスポリンと飲食物の相互作用

土曜日, 8月 11th, 2007

Q:「標準的な病院の朝食により、シクロスポリンの吸収の増加がみられる」とする資料をみたが、具体的な食事内容としては、どのようなものが考えられるのか。

A:シクロスポリン(ciclosporin)の製剤であるサンディミュンカプセル(ノバルティスファーマ株式会社)の添付文書中に飲食物との相互作用として、次の記載がされている。

4. 本剤の血中濃度に影響を及ぼす飲食物

「グレープフルーツジュース[同時に服用したとき、本剤の血中濃度が上昇することがある。]」

相互作用発現の機序としては、薬物動態的相互作用(pharmacokinetic interaction)ではないかと推定されており、グレープフルーツジュースにより肝P450IIIA4の活性阻害が起こり、シクロスポリンの血中濃度が増加するとされている。

なお、指摘された資料の原著は、国外文献であり、具体的な飲食物名は報告されていない。

シクロスポリンの体内動態及び代謝について、「経口投与では投与後3-4時間で最高血漿中濃度に達するが、バイオアベイラビリティは20?50%の範囲でばらつきがみられる。脂溶性が高いため、全血中では60?70%が赤血球中に存在し、白血球中にも10?20%が分布する。一方、血漿中では93%がリポ蛋白質などに結合している。血液中からの消失半減期は約6時間で、肝臓で代謝を受けた後、胆汁中に排泄される。尿中には代謝物を含めてほとんど排泄されない。」の報告がされている。

本剤の経口投与については、「吸収が一定していない」とする報告もみられ、「患者により個人差がある」とする報告もされている。従って、血中濃度の上昇が必ずしも食事による影響とは断定できないが、本剤の「脂溶性が高い」とする報告から考えると、本剤服用時に脂肪分の多い食物を摂取した場合、何らかの影響を受けるであろう可能性は否定できない。

[1998.5.14.古泉秀夫]


  1. サンディミュンカプセル添付文書,1998.2.改訂
  2. 厚生省薬務局研究開発振興課・監修:JPDI;薬業時報社,1996
  3. 「飲食物・嗜好品と医薬品の相互作用」研究班・編:改訂第2版 飲食物・嗜好品と医薬品の相互作用;薬業時報社,1995
  4. 日野原 重明・他編:今日の治療指針;医学書院,1998.p.1163
  5. 第十三改正日本薬局方解説書;廣川書店,1996

滋養糖について

土曜日, 8月 11th, 2007

Q:吸入薬に滋養糖を加えるという処方がでたが、これは何か

A:滋養糖(和光堂)は、調製麦芽糖水飴として市販されている製品である。

本品は、ミルクや離乳食が摂食できない乳幼児のカロリー補給用として調製された消化吸収良好の麦芽糖とデキストリンからなる粉末製品である。

本品は馬鈴薯澱粉を酵素で加水分解し、麦芽糖とデキストリンの糖化液とし、不純物をろ過して乾燥したものである。

用途は離乳食の甘味味付、砂糖の代わりに使用するとされている。

使用方法

  • 新生児の水分補給:湯ざまし50mLに添付の匙1杯(すり切り1杯:約3g)の滋養糖を溶解する。
  • 乳児の水分補給:湯ざましや薄目の果汁50mLに添付の匙1?2杯の滋養糖を溶解するとされている。
エネルギー 380Kcal
蛋白質 0.5g
脂質 0 g
糖質 94.5g
ナトリウム 10?40mg

本品は医薬品ではなく食品に分類されるものであり、処方せんによる調剤はできない。従って必要とするのであれば、患者個人の購入ということになる。

なお、滋養糖を吸入薬に配合した使用例、あるいはその結果についての資料はない。

[011.1JIY:2000.5.30.古泉秀夫]


  1. 和光堂株式会社品質保証部・私信,2000.5.29.

紫根の相互作用について

土曜日, 8月 11th, 2007

Q:健康食品の『シコン』とワーファリンの相互作用について

A:次の通り報告されている。

シコン(紫根):ムラサキ属ムラサキ科、ムラサキ。

  • 中国名:紫草藐
  • 学名:Lithospermum erythrorhizon Sieb.et Zucc.(Japanese Gromwell)
  • 薬用部分:根
  • 生薬名:紫根<シコン>。硬紫根
  • 分布:日本、朝鮮半島、中国、アムール
  • 使用法:染料(江戸紫)
  • 成分:根にnaphthoquinone系の色素(紫色色素)acetylshikonin、shikonin、lithospermic acid、青酸配糖体lithospermoside、allantoin、alkannin、多糖、furylhydroquinone誘導体を含む。
    その他、β-dimethylacrylshikonin、isobutylshikonin、deoxyshikonin、α-methyl-n- butylshikonin、alkane、tetracrylshikonin、イソバレリルシコニン、β-ヒドロキシイソバレリルシコニン、等を含む。
  • 薬効と薬理:紫根の水浸液はマウス、ラット等に投与するとその性周期に対し、発情抑制作用がみられた。また紫根の抽出液は抗炎症、抗浮腫、抗腫瘍作用の他、皮膚真菌に対して抗菌作用があり、shikonin、acetylshikoninは抗炎症、肉芽形成促進作用がある。紫根は解熱、解毒、抗炎症薬として腫瘍、火傷、凍傷、湿疹、水疱等に外用し、麻疹予防、便秘、黄疸に内服する。
ゴマ油 100g
黄鑞 38g
豚脂 2.5g
当帰 10g
紫根 10g
  • 調製法:ゴマ油をビーカーに入れて加熱し、静かに黄鑞と豚脂を加えて溶かし、当帰と紫根を刻んで加え、油が紫紅色になったら熱いうちに乾いた布で漉し、冷後使用する。
  • 適応症:火傷、はれ物、痔等

上記の資料中に直接的にphytonadione(vitamin K:黄色?橙黄色)の存在は記載されていない。但し、naphthoquinone系の物質は天然にはα体が多く、西洋クルミ中のjuglone、ムラサキの根に含まれるshikonin、動植物中のvitamin K等はその代表であるとされているため、あるいは何等かの相互作用の発現が予測される。

ワーファリン自体、種々の生体側の要件により効力に影響を受け易い薬剤であり、健康食品としての紫根の摂取は避けることが無難である。

[015.2.LIT:2000.5.22.古泉秀夫]


  1. 奥田拓道:健康・栄養食品事典;東洋医学舎,2000-2001
  2. 伊澤一男:薬草カラー大事典;株式会社主婦の友社,1998
  3. 三輪博・監修:原色牧野和漢薬草大図鑑;北隆館,1988
  4. 第十三改正日本薬局方解説書;広川書店,1996

食品を原因とする光線過敏症について

土曜日, 8月 11th, 2007

Q:植物成分あるいは食品中の成分で光線過敏症の発症が見られるものはあるか

A:次の通り報告されている。

光線過敏症(photosensitivity)[日光過敏症]

日光によって、発生ないし悪化する皮膚疾患の総称。日光中の一定波長のないし波長域の光線によるが、それが不明な疾患も含まれる。内因性と外因性光線過敏症がある。

区分 原因 発現理由

紫外線(ultraviolet rays:UV)

紫色光線の外のスペクトルにある1,000?4,000Åの波長を有する光線で、不可視光線である。太陽光線の中に約1%含まれている。化学的、生物学的作用が著しいため、化学線(chemical rays)ともいわれる。生物学的作用としては、エルゴステリンに作用してビタミンDに変える、殺菌作用、新陳代謝促進、皮膚炎症性紅斑発現作用等が挙げられる。

紫外線障害(ultraviolel rays disturbance)

紫外線過剰又は欠乏に伴う障害、人体皮膚に紫外線照射すると色素沈着を生ずるが、反復照射されると色素沈着を生じるが、反復照射されると皮膚は肥厚化して弾性を失う。ときに皮膚癌の発生を見ることもある。眼に対しては紫外線角膜炎、結膜炎を生じる。欠乏に伴う障害としては、日照時間の少ない地方におけるくる病が、ビタミンDの形成不良に伴って起こることが知られている。

長波紫外線(UVA)
(320-400nm)
UVA I (400-360nm)  
UVA II (360-320nm) 特に皮膚に与える作用の中で活性酸素の産生に注目すると、活性酸素の産生力は紫外線Bばかりでなく、紫外線A-IIにも十分あるので、活性酸素の産生を介して皮膚に生物学的ダメージを与える。従って、紫外線Aの波長の短い半分、紫外線A-IIを対象として入れることになる。皮膚の光老化という観点に立つと、無闇に照射することは危険である。
紅斑惹起紫外線(UVB)
(280-320nm)
  日焼けは紫外線Bに過剰に曝露された結果発現する。皮膚に与える影響中、活性酸素の産生力は強い。
外側紫外線(UVC)
(10-280nm)
   

光毒性接触皮膚炎

物質が皮膚に附着した後、日光に当たるとその部分が日焼け状の皮膚炎になるもので、 furocoumarin類が知られている。主にセリ科、ミカン科、クワ科に分布している。柑橘類の一種から得られるベルガモット油による皮膚炎の原因物質でもある。セロリ(セリ科)の腐った部分に多いのは、セロリが防御物質として腐敗部分で大量に産生するためである。毒性が強いのはpsoralen、5- methoxypsoralen(bergapten)、8-methoxypsoralen(xanthotoxin)等である。その他、蕎麦に含まれるfagopyrin(ファゴピリン)も同様のことがいわれている。

接触による皮膚炎

pheophorbiteは、葉緑素の分解物で、接触により皮下に蓄積し、顔や半袖シャツのむき出しの腕の部分など、日光に当たった皮膚に炎症を起こす、いわゆる日光皮膚炎の原因となる。青菜の漬物、乾燥に時間のかかったクロレラ製品などで知られているが、ドクダミ、アカザ、鮑の内臓(海草の葉緑素を蓄積)による日光皮膚炎も同じ原因であることが推定される。

furocoumarin

フロクマリン。フラン環が縮合したクマリン誘導体の総称。セリ科及びミカン科に多く見られる。ベルガモット油の成分bergaptenはその代表である。フロクマリン類は光線過敏性皮膚炎を起こす可能性がある。茶剤として生薬を治療に用いる場合、フロクマリン類は水に難溶であるため、光線による毒性、突然変異、発ガン性はおそれる必要がない。

pheophorbite

フェオホルバイトa(pheophorbide a)。古くから家畜が変質した牧草を食して日光に当たると、光力学的作用により、皮膚炎を起こすことが知られていたが、その原因物質が本物質である。クロロフィルaからMgが脱離し、クロロフィラーゼ作用によりフィートルが外れた物質。近年、クロレラ錠を多食したヒトに発生した中毒事例の原因物質もこれである。

その他、methoxsalenの製品である尋常性白斑治療剤の添付文書に、次の記載がされている。

対象(フロクマリンを含有する食物 ) 臨床症状・措置方法 機序・危険因子
セロリ、ライム、ニンジン、パセリ、イチジク、アメリカボウフウ、カラシ等 なし 光毒性を増強する恐れが考えられる。

methoxsalen

エジプトに自生するオランダセリ科のAmmi Majus Linn.の果実の粉が白班の治療に有効なことは13世紀以来知られていたという。

1947年Fahmyらによりその有効成分として furocoumarin誘導体であるammoidin(methoxsalen)とその同族体が単離された。1948年Moftyがその有効成分と紫外線の併用が白斑に優れた効果を示すことを報告した。furocoumarinは既に他の植物からpsoralenとして抽出されており、ammoidin はその9-methoxy体である。

以上、食品中に含まれる成分により光線過敏症を惹起するとされている食品を上げたが、医薬品の副作用としても光線過敏症が報告されており、それらの薬剤を服用中の患者では、光毒性を増強する可能性があり、摂食に注意することが必要である。又、健康食品中にも furocoumarin類を成分として含むものがあり、同様に注意が必要である。

なお、紫外線防御法として次の方法が紹介されている。

部位 防御法
口唇 光線のみでも障害を受けるが、口紅等が光増感作用を起こすことがある。
口腔粘膜 口腔粘膜は、口を開かなければ障害は起こらない。
毛髪 容易に酸化される。
眼球 急性のものと慢性のものがある。角膜のみでなく網膜など眼底の変化も起こる。眼球の保護には、色が付かない透明な紫外線防護用のゴーグルやサングラスを用いる。瞳孔は可視光線の量で調節されている。色つきレンズは可視光線の量を少なくすると散瞳するので、眼底の障害の可能性を大にする。

総体的には、帽子の着用、長袖のシャツの着用、長ズボンの着用、パラソルの利用等、紫外線の直接的な照射を受けないようにすることが必要である。

[065.UV:2000.6.12.古泉秀夫]


  1. 医学大辞典;南山堂,1992
  2. 福島雅典・総監修:メルクマニュアル 第17版日本語版;日経BP社,1999
  3. 福島雅典・総監修:メルクマニュアル 医学情報[家庭版];日経BP社,1999
  4. 戸田 浄:長波紫外線の危険性;日本医事新報社,No.3404:1352(1989)
  5. 指田 豊:皮膚炎を起こす植物と成分;都薬雑誌,22(4):28-33(2000)
  6. 薬科学大辞典 第2版:廣川書店,1990
  7. オクソラレン錠添付文書,1999.1.改訂
  8. メラジニンA錠添付文書,1999.4.改訂
  9. 第十三改正日本薬局方解説書;広川書店,1996
  10. 井上博之・監訳:西洋生薬;廣川書店,1999

酒石酸・クエン酸の効用について

土曜日, 8月 11th, 2007

Q:独自に酒石酸・クエン酸を飲用している患者がいるが、酒石酸飲用の目的は何か

A:医師の処方以外に「酒石酸・クエン酸」を飲用しているのであれば、飲用している当人にその目的を確認するのが最も解決が速いはずである。

しかし一応、以下に「酒石酸・クエン酸」について、調査した結果を紹介するが、日本薬局方解説書等の記載の範囲内であり、健康食品等として伝承的な情報に基づいて飲用しているのであれば、必ずしも該当する情報とはならない。

酒石酸(tartaric acid)

本品は無色の結晶又は白色の結晶性の粉末で、臭いはなく、強い酸味がある。

本品は水に極めて溶け易く、エタノールに溶け易く、エーテルに溶け難い。

普通見られるのはd体であるが、2個の不斉炭素原子を持ち、右旋性のd-酒石酸、左旋性のl-酒石酸及び分子内消去による不活性のメソ酒石酸の3種の立体異性体が存在する。ラセミ化合物のdl-酒石酸はブドウ酸ともいわれる。酒石酸は加熱すると120℃で分解してメタ酒石酸となり、180℃で無水酒石酸になる。180℃以上で褐色となり、カラメル臭を発して分解し、焦性酒石酸、焦性ブドウ酸などを生成する。クエン酸はカラメル臭を発しない。

  • 薬効・薬理:酒石酸は殆ど吸収されない。腸管を刺激して緩和な瀉下作用を発現する。また吸収されても生体内で極く僅かしか酸化されず、大部分が尿中にそのまま排泄される。従って血液の酸性を高める作用がある。
  • 動態・代謝:生体内では不活性で、イヌまたはウサギに投与すると74?99%が未変化体のまま排泄される。ヒトに 2gを経口投与すると約20%は尿中に未変化体として排泄され、残りは吸収されず糞便中に排泄される。また非経口的に投与すると未変化体のまま定量的に排泄される。
  • 副作用:大量はアシドーシス、腎障害を起こす。
  • 適応:清涼止渇剤として1日数回0.5?1.0gを散剤とし、また糖及びエッセンスを混ぜてリモナーデ剤として用いる。

クエン酸(citric acid)

本品は無色の結晶又は白色の粒若しくは結晶性の粉末で、臭いはなく、強い酸味がある。

本品は水に極めて溶け易く、エタノール又はアセトンに溶け易く、エーテルにやや溶け難い。本品は乾燥空気中で風解する。融点の記載はないが、75℃で軟化し約100℃で融ける。無水物は約150℃で融ける。

  • 薬効・薬理:本薬は、局所の収斂、刺激作用を有する他は、特異的な薬理作用を現すことはなく、大量に与えた場合を除き、酸化されて二酸化炭素となり呼気から排泄される。この結果、本薬の塩類投与により体液や尿はアルカリ性に傾く。クエン酸塩は血液凝固防止効果がある。
  • 動態・代謝:クエン酸は、TCAサイクル(クエン酸サイクル、Krebsサイクル)の一員としての生体酸化に関与する。
  • 適用:緩衝・矯味・発泡の目的で調剤に用いる。又、リモナーデ剤の調剤に用いる。

Krebsサイクル

筋肉活動に必要な炭水化物は、解糖機序により焦性ブドウ酸になってクレブスの回路に入る。焦性ブドウ酸は体内に存在するオキザロ酢酸と結合してクエン酸となる。更にα-ケトグルタミン酸→コハク酸→フマールブドウ酸が酸化されて3分子の炭酸ガス CO2を生じ、オキザロ酢酸を再生する。

もしこのKrebs回路が不良となると焦性ブドウ酸は乳酸となり体内に蓄積(乳酸蛋白となる)されて、筋肉組織を硬化し疲労を起こすものと推定される。なお、クエン酸と同様に、酢酸も体内でコハク酸となりこの回路にはいるものと考えられている。

健康食品としてのクエン酸-酢は、運動能力の向上、疲労回復、結石の抑制、肩こり・腰痛の予防、抗菌・抗ウイルス作用等が食効としていわれている。

Rx クエン酸( citric acid) 又は酒石酸 (tartaric acid) 0.5g
単シロップ 8.0-10.0mL
精製水 適量
全量 100.0mL

酸味は果実に類する爽快な味覚を有し、その4gは大型レモン1個の酸味に相当する。本剤は清涼剤としての効用の他に、口渇、壊血病の予防に用いられる。なお、クエン酸はクレブス回路の触媒的作用において、疲労の回復と予防及び軽減に関与する。

[015.4.TAR:2000.7.10.古泉秀夫]


  1. 第十三改正日本薬局方解説書;広川書店,1996
  2. 安藤鶴太郎・他:優秀処方とその解説 第37版;南山堂,1996
  3. 奥田拓道:健康・栄養食品事典;東洋医学舎,2000-2001