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シガテラ毒について

土曜日, 8月 11th, 2007

KW:毒性・中毒・シガテラ毒・シガ・cigua・ガンビエールディスカ ス・Gambierdiscus toxicus・渦鞭毛藻・シグアトキシン・ciguatoxin・マイトトキシン・maitotoxin

Q:シガテラ毒とはどの様な毒物か

A:シガテラとはカリブ海でシガ(cigua)と呼ばれるニシキウズガイ科 の巻貝(チャウダーガイ:Cittarium pica)に起因する食中毒を指していたが、その後巻貝だけではなく、カリブ海で獲れた魚貝類による食中毒を指すようになり、現在ではカリブ海に限らず熱帯及び亜熱帯海域の、主に珊瑚礁周辺に棲む魚によって起こる死亡率の低い食中毒の総称とされている。

シガテラ毒

シガテラ毒魚の毒性は、魚種により、また、同じ魚種でも個体により、更に同じ個体でも部位により大きく異なる。

魚が獲れた場所や時期によっても大きな差があり、藻食魚よりは肉食魚、小型魚よりは大型魚の方が毒性が強いことから、毒は魚自身が作るのではなく食物連鎖を介して毒が移行・蓄積していくものと予想されていたが、タヒチ産のサザナミハギの消化管内容物から石灰藻の一種『ヒメモサスギ』から派生する『ガンビエールディスカス(Gambierdiscus toxicus)』と名付けられた『渦鞭毛藻』を発見し、このプランクトンからシガテラ毒のシグアトキシンとマイトトキシンを単離し、毒の起源であることを証明した。

Gambierdiscus toxicusは付着性プランクトンで、石灰藻などの海藻の表面に高密度に付着し生育するため、海藻を餌とする魚や巻貝が毒化する。

シガテラ毒素には、水に溶け難い脂溶性のシグアトキシン (ciguatoxin)と水に溶け易い水様性のマイトトキシン(maitotoxin)の両者がある。

ciguatoxinは分子内に多くのエーテル結合を持つポリエーテル化合物で、C60H86O19=1,110の物質である。

毒性は極めて強力で、マウスに対する急性毒性(LD50)は 0.45μg/kg(腹腔内投与)で、フグ毒テトロドトキシンの約20倍も強い。ciguatoxinは膜電位異常及びNaチャンネル障害(神経興奮膜状のナトリウムチャンネルを開放)を惹起するが、この作用はテトロドトキシンによって拮抗される。

一方、maitotoxinはciguatoxinよりも構造がはるかに複雑で、毒性も強く、現在知られている海洋生物毒の中で最強の毒素とされている。

ciguatoxin同様ポリエーテル化合物であるが、分子内に硫酸エステルを持つため水様性を示す。マウスに対する急性毒性(LD50) は0.05μg/kg(腹腔内投与)で、ciguatoxinの9倍、テトロドトキシンの約200倍強力であるとされている。

毒作用はカルシウムイオンの細胞内への流入を増大させることで、細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させ、平滑筋、骨格筋、心筋の収縮など色々な反応を起こすと考えられている。ciguatoxinは主に大型の肉食魚から検出されるのに対して、 maitotoxinは藻食魚だけに見られる。

シガテラ毒は加熱、冷凍、塩蔵、酢漬、胃酸等によっても毒性は変化しない。

中毒症状

シガテラによる中毒症状は実に多彩で、中毒の原因、程度によっても異なるが、中毒は食 後30分から数時間ほどで現れ、消化器系(嘔気、嘔吐、下痢)、循環器系(徐脈)、神経系に異常が見られる。

シガテラ中毒で最も特徴的なのはドライアイスセンセーション(dry-ice sensation:温度感覚異常)と呼ばれる知覚異常で、冷たい感じをドライアイスに触れたときのように、あるいは電気ショックを受けたように感じ、暖かいものが冷たく感じられるというものである。

また、関節痛、筋肉痛、掻痒を伴うことが多いが、死亡率は低いのが特徴である。しかし、回復には時間がかかり、数カ月を要することがある。更に一度中毒を経験すると、次の中毒では過敏になり、症状も重篤化する。

シガテラ毒魚

シガテラは南北回帰線に挟まれた広い海域(カリブ海、太平洋、インド洋)で発生 し、世界中で毎年2万人を超えるヒトが中毒していると推定されている。日本では南西諸島が中毒海域に該当し、沖縄県や南九州での中毒事例が多いが、魚介の輸送拡大に伴い、国内全域で食中毒が発生している。

シガテラを起こす魚は300種とも500種ともいわれるが、特に問題となるのは次の魚類

ウツボ科 毒ウツボ(Gymnothorax javanicus)
カマス科 オニカマス[ドクカマス](Sphyraena picuda)
スズキ科 マダラハタ(Epinephelus microdon)、バラハタ(Variola louti)
イシダイ科 イシガキダイ(Oplegnathus punctatus)
フエダイ科 イッテンフエダイ(Lutjanus monostima)、バラフエダイ(Lutjanus bohar)、ゴマフエダイ(Lutjanus argentimaculatus)
ブダイ科 ナンヨウブダイ(Scarus gibbus)、カンムリブダイ(Bolbometopon muricatum)
ニダザイ科 サザナミハギ(Ctenochaetus striatus)
アイゴ科 アイゴ(Siganus fuscescens)

を含めて約20種程度といわれている。このうち中毒が多いのはバラフエダイであるが、勘八や平政で中毒が起こった事例が報告されている。海岸の土木工事や地震、大雨などで珊瑚礁の生態系が破壊されると毒化されることが多い。 有毒部位は肝臓やその他の内臓部だけでなく、筋肉にも毒性があることがあ り、シガテラが危険で、中毒が多い原因の一つとしてあげられている。

治 療

対症療法及び輸液管理。重症の場合、呼吸管理。急性期にはマンニトール1g/kgを30-45分で点滴静注。その後、アミトリプチリン 25mgを1日2回内服。徐脈にはアトロピンの静注が奏効する。

[63.099.CIG:2003.12.9. 古泉秀夫]


  1. 塩見一雄・他:海洋動物の毒-フグからイソギンチャクまで-;成山堂書 店,1997
  2. 西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル改訂6版;医薬ジャーナル 社,2001
  3. Anthony T.Tu:中毒学概論-毒の科学-;薬業時報社,1999
  4. 内藤裕史:中毒百科 改訂第2版;南江堂,2001
  5. 岡村 収・他編監修:日本の海水魚;株式会社山と渓谷社,1997