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「ツベルクリン検査にについて」

土曜日, 1月 12th, 2008

KW:語彙解釈・ツベルクリン・ツベルクリン検査・精製ツベルクリン・一般診断用・一般診断用強反応者用・確認診断用・結核予防法改正・年齢制限

 

Q:ツベルクリン検査の動向について

 

A:平成14年11月13日付で『結核予防法施行令』の一部が改正され、平成15年4月1日から『小・中学校におけるツベルクリン反応検査は廃止』されている。
理由として『平成7年にWHOが、BCGの複数回接種の有効性に関して疑問視していることや、小・中学校でのツベルクリン検査による結核患者の発見も殆どなく、また強陽性患者が出たとしても過去にBCGの接種を受けていた結果あるいは再ツベルクリン検査などで繰り返し接種した場合の影響等で、結核感染の判断をすることが困難になる等が挙げられている。

□平成16年6月15日付で新に『改正結核予防法』が成立し、平成17年4月1日から施行された。改正のポイントは

?ツベルクリン反応検査を廃止して直接BCG接種を実施、また定期健康診断や定期外健康診断の対象者・方法の見直し

?保健所・主治医によるOTSの実施

?国・地方公共団体の責務の規定

?国・都道府県の結核対策に係る計画の策定

?結核診査協議会の見直し

の5点である。

『結核予防法施行令の一部を改正する政令第332号』の概要(平成17年4月1日施行)

□BCGの接種

改正前 改正後

対象年齢
4歳未満のツ反陰性者
小学校1年のツ反陰性者*
中学校1年のツ反陰性者*

間隔:ツ反判定後2週間以内

*)小・中学生へのツベルクリン反応検査・BCG接種は平成14年11月13日付で結核予防法施行令が一部改正され、平成15年4月廃止。

定期の予防接種

生後6ヵ月(特別の事情によりやむを得ないと認められる場合においては1歳)に達するまでの期間

*)ツベルクリン反応検査は全廃される。

定期の予防接種

生後6ヵ月(特別の事情によりやむを得ないと認められる場合においては1歳)に達するまでの期間

*)ツベルクリン反応検査は全廃される。

(二)定期の健康診断を受けるべき者 定期
(1)学校(専修学校及び各種学校を含み、幼稚園を除く。)、病院、診療所、助産所、介護老人保健施設などにおいて業務に従事する者 毎年度
(2)大学、高等学校、高等専門学校、専修学校、又は各種学校(修業年限が1年未満のものは除く。)の学生又は生徒 入学した年度
(3)監獄に収容されている者 20歳の誕生日の属する年度以降において毎年度
(4)社会福祉法に規定されている施設に収容されている者 65歳の誕生日の属する年度以降において毎年度

 

(三)市町村が行う定期の健康診断を受けるべき者 定期
(1)他の者が行う健康診断の対象者以外の者

65歳の誕生日の属する年度以降において毎年度

(2)市町村が時に必要があると認める者 市町村が定める定期

 

定期の健康診断の回数を次のとおりとすることとした。

条件 回数
(1)(二)及び(三)(1)の健康診断にあっては、それぞれの定期において 1回
(2)(三)(2)の健康診断にあっては、市町村が定める定期において市町村が定める 回数

定期外健康診断について

初発患者が感染源となって接触者に感染させた疑いがある場合に感染の有無等を把握するため、及び当該初発患者に感染させたと疑われる者を発見する目的で以下の方法等必要な検査を実施する。

実施の方法[接触者検診・集団検診]

喀痰検査・胸部X線検査、聴診、打診、ツベルクリン反応検査等必要な検査。

以上の法律改正に伴い、次の製品は2005年3月末をもって製造・販売中止された。

製品 単位 備考
一般診断用強反応者用精製ツベルクリン(PPD) 0.2μg/2mL 経過措置期間:2006.3.31.
確認診断用精製ツベルクリン(PPD) 10 μg/2mL 経過措置期間:2006.3.31.
確認診断用精製ツベルクリン(PPD)1人用 2.5μg 1人用×10 経過措置期間:2006.3.31.
一般診断用精製ツベルクリン(PPD) 5μg/10mL [薬価未収載]
BCG接種用管針 10本入り  
BCG接種用管針煮沸ホルダー 20本立て  

継続して製造・販売される製品

製品 単位 備考
一般診断用精製ツベルクリン(PPD)

1μg/瓶
添付溶解液2mL(3mL/管)

約10人
一般診断用精製ツベルクリン(PPD)1人用

0.25μg/瓶
添付溶解液0.5mL

10瓶
乾燥BCGワクチン(経皮用・1人用) 12mg/ 1人分/管・溶剤0.15mL/管 器具1人分添付

 

[615.8TUB:2002.11.25.古泉秀夫・2007.4.3.・2007.6.18.改訂]

 

1)NEWS「改正結核予防法が成立」;日本医事新報,No.4182:70(2004.6.19.)
2)小学1年・中学1年に対するツベルクリン反応検査及びBCGの接種の中止にいて;事務連絡,2002.11.13.
3)結核予防法施行令の一部を改正する政令,第332号,2002.11.13.
4)結核予防法施行令の一部改正に伴う母子健康手帳の様式の改正について;雇児母発第1119001号,2002.11.19.
5)結核予防法の規則の一部を改正する省令;厚生労働省政令第9号,2003.2.4.
6)結核予防法施行令の一部を改正する政令(政令第303号)(厚生労働省);官報,第3949号:1-2(平成16年10月6日)
8)卸DI実例集第273回;卸薬業,29(8):485(2005)
9)政令第44号:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令;官報,第4539:2-7(平成19年3月9日)

「受動喫煙と中耳炎の関係」

土曜日, 1月 12th, 2008

KW:副作用・煙草・タバコ・受動喫煙・二次喫煙・中耳炎・急性中耳炎・環境たばこ煙・ETS・environmental tobacco smoke

Q:受動喫煙によって中耳炎が起こるという話があるが、中耳炎発現の理由はどのように説明されているのか。

 

A:米国における禁煙の動機付けの一つとして、『自分の子供に二次喫煙による有害な影響(耳や気道の感染の増加、喘息の悪化)を与える可能性があることを知って禁煙する』とする紹介[文献?p.2482]がされている。また小児の急性中耳炎について『副流煙による受動喫煙が、危険因子として示唆されている』[文献?p.675]。『煙草の煙に曝されていたり、おしゃぶりを使用している子供では、中耳炎にかかるリスクがかなり高くなる。これらはいずれも耳管の働きを妨げ、中耳の通気に影響を与えるからである』[文献?p.1607]とする報告も見られる。

また、厚生労働省の最新たばこ情報『21世紀のたばこ対策検討会(第1回)』報告として、次の資料が見られる。

                                                              平成10年2月24日
                                                                厚生省保健医療局

 

受動喫煙によるリスクは、米国環境保護庁(EPA)により環境たばこ煙(ETS)は人体に発がん性のある「A級発がん物質」と分類され、がん、呼吸器疾患、循環器疾患、小児の発育毒性について因果関係が立証されている(表2) 。

ニコチンの代謝産物であるコチニンが受動喫煙の指標として広く用いられているが、我が国の住民検診の対象者においても、家庭と職場の両方で曝露の程度の高い集団ほど、尿中コチニンの検出される割合が高いことが示されている。さらに、喫煙者がいて子供の前でも吸う家庭では、受動喫煙のない家庭に比べて、未就学児において血中鉛濃度が有意に高いことが示されている。

表2 環境たばこ煙(ETS)による健康被害

健康被害 因果関係が証明されている 因果関係が示唆されている
発育への影響 低出生体重児、乳幼児突然死症候群 自然流産、認知・行動障害
発がんへの影響 肺がん、鼻腔がん 子宮頚がん
呼吸器への影響 小児の気管支炎・肺炎、喘息誘発・増悪、慢性呼吸器症状、滲出性中耳炎、成人の眼や鼻への刺激症状 嚢胞性線維症の増悪、肺機能の低下
循環器への影響 心疾患死亡、急性・慢性の冠状動脈性心疾患罹患  

(ETS; environmental tobacco smoke)

 

その他、次の報告も見られる。

『反復感染を含む急性中耳炎や慢性滲出性中耳炎の罹患者は、受動喫煙の害を受けている子供達の間で増えている。煙草を吸う家庭では中耳炎はほぼ3倍多く発生する。又は家庭で受動喫煙にさらされている子供は、中耳炎に1.5-2倍かかり易くなる』等がインターネットのページ上に喫煙と中耳炎の関係として散見される。但し、成人の中耳炎に関する記載はなく、乳児・小児に限定された情報と思われる。

日本禁煙推進医師歯科医師連盟-受動喫煙の診断基準委員会による受動喫煙症の分類と診断基準-に、レベル4(慢性受動喫煙症)として、中耳炎の記載が見られる。

レベル0 正常 非喫煙者で、受動喫煙の機会がない。
レベル1 無症候性急性受動喫煙症

(疾患)急性受動喫煙があるが、無症候の場合。
(診断)タバコ煙に曝露の病歴があればよい。コチニン検出は不要。
(注意)本人がタバコ煙曝露についての自覚なしに見過ごされることもある。

レベル2 無症候性慢性受動喫煙症

(疾患)慢性受動喫煙があるが、無症候の場合。
(診断)週1時間以上の曝露が繰り返しある。コチニンを検出できる。
(注意)本人がタバコ煙曝露についての自覚なしに見過ごされることもある。

レベル3 急性受動喫煙症

(疾患)目・鼻・喉・気管の障害、頭痛、咳、喘息、狭心症、心筋梗塞、一過性脳虚血発作、脳梗塞、発疹、アレルギー性皮膚炎、化学物質過敏症

(診断)非喫煙者がタバコの煙に曝露した事実のみで、コチニン検出は不要。

(注意)眼症状にはかゆみ、痛み、涙、瞬目などがある。鼻症状にはくしゃみ、鼻閉、かゆみ、鼻汁などがある。これらは一般に非喫煙者の方が強い反応を示す。

1.症状の出現が受動喫煙曝露開始(増大)後に始まった

2.疾患の症状が受動喫煙の停止とともに消失する

3.タバコ煙以外の有害物質曝露がないの3点があれば、可能性が高い。

レベル4 慢性受動喫煙症

(疾患)化学物質過敏症、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、COPD、小児の肺炎、中耳炎、気管支炎、副鼻腔炎、身体的発育障害など。
(診断)非喫煙者が週1時間を超えて繰り返しタバコ煙に曝露。曝露後24時間以内に測定した尿からコチニンを検出。
(注意)但し、1日数分であっても連日避けられない受動喫煙がある場合はこれに起因する慢性の症状やタバコ病が発症する可能性がある。状況を総合的に判断し、1日1時間以内であっても受動喫煙症と診断して良い。

レベル5 重症受動喫煙症

(疾患)悪性腫瘍(とくに肺癌など)、乳幼児突然死症候群、COPD、脳梗塞、心筋梗塞(致死性の疾患の場合)
(診断)非喫煙者が週1時間を超えて繰り返しタバコ煙に曝露。曝露後24時間以内に測定した尿からコチニンを検出。
(注意)但し、1日数分であっても、連日避けられない受動喫煙がある場合はこれに起因する慢性の症状やタバコ病が発症する可能性がある。状況を総合的に判断し、1日1時間以内であっても受動喫煙症と診断して良い。

 

受動喫煙と子供の中耳炎の関係については、海外で既に100報以上の論文が出ており、中耳炎の患児を診察する際に、家族の喫煙状況を問診することは、欧米では常識とされている。

受動喫煙によって中耳炎が起きやすくなる機序は、耳管や中耳の粘膜や繊毛細胞が障害を受けて、粘液の性状が変化したり繊毛運動が低下して細菌が侵入しやすくなること、また化学的刺激によって耳管が閉塞したり、局所免疫機能が低下して細菌やウイルスが感染しやすくなることが指摘されている。

  [065.ETS:2006.11.13.古泉秀夫]

 

1)メルクマニュアル第17版日本語版;日経BP社,1999
2)http://www.health-net.or.jp/tobacco/21c_tobacco/1st/20.html,2006.11.8.
3)国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・私信,2006.11
4)加治正行:子供の受動喫煙による中耳炎の増加;http://www.abe.or.jp/tobacco/slide2_12.asp,2006.11.8.
5)最新メルクマニュアル医学百科家庭版;日経BP社,2004

医療事故に関する私的考察[3]

土曜日, 1月 12th, 2008

                                                                  医薬品情報21
                                                                      古泉秀夫

6.日本消化器学会の報告から

 

日本消化器学会の医療事故対策委員会が損害保険会社の賠償金支払い例を分析した結果が報告されていた[読売新聞,第44737号,2000.10.26.]。

事故が起きた肝臓・胆嚢・膵臓の主な検査・治療[( )内は死亡者数]

 

?開腹手術 75(27)
?腹腔鏡による胆嚢摘出術 50(4)
?内視鏡による胆嚢・膵臓造影 34(10)
?肝臓の組織採集検査(肝生検) 12(3)
?全身麻酔 11(4)
?採血 10(0)
?点滴 9(4)
?胆管出口の切開術 8(3)
?腹部血管造影 7(3)

 

分析の結果、初歩的なミスが原因の圧倒的多数を占めることが明らかになった。内視鏡を入れた途端に食道や直腸などに穴を開けたり、手術の際に異物を腹部に置き忘れたりする注意や技術で防げる事故が殆どだった。同委員会では「一部の医師の技術の未熟は明らか。再教育も必要」とし、医師の技量、経験などで保険料に差を付ける“荒療治”も必要としている。
データの大半は1989?1997年の9年分で約500件。内視鏡による消化管の検査と治療では、保険金支払い例が198件。目的とする消化管に到達する前の単純なミスが多く、死亡例も目立った。
肝胆膵の検査と治療では、344件に保険金が支払われた。殆ど初歩的なミスで、手術の際のガーゼや管の置き忘れが29件と最も多く、採血で神経を傷つけた例(8件)や縫合ミスによる手術後の出血(6件)、肝細胞を採集する検査で他の臓器を傷つけた例(4件)などがあった。腹部から管を入れる腹腔鏡による胆嚢摘出もミスが多く、今回の調査で関連事故が50件にのぼったととしている。

調査の結果について初歩的なミスと切り捨てるのも結構であるが、研修医・レジデントの期間を通して教育・訓練した時代の教育担当医はどの様な教育をしてきたのか。その当たりから掘り下げなければ、本当の意味での見直しにならないのではないか。単に『医師の技量、経験などで保険料に差を付ける“荒療治”も必要』等という簡単な結論では片付かないものが、医療教育の根元にあるのではないか。

7.個別的事項(続続)

 

 

報道時期 事故の概要 事故内容の問題点

1999年11月

薬剤調製ミス

大阪吹田市の国立循環器病センターで、心臓手術を受けた女児が、臨床工学技士が心筋保護液を混ぜていない蒸留水を使用したことにより死亡[読売新聞,2000.3.8.]

[1]臨床工学技士は、あくまで薬については専門外であり、製剤室業務を行うための薬剤師が配置されているのであれば、院内製剤として調製し、払い出すべきである。それを実施していなかったというところに最大の問題点があるといえる。

[2]継続中の作業の終了までは、決して作業を中断してはならないと言うのが、医療現場における過誤防止の鉄則である。これは病院薬剤師としての経験に基づく鉄則であり、マニュアルにも明記されているはずである。

[3]医師は身近にいる人間に安直に仕事の依頼をする傾向があるが、それぞれの専門性を評価し、薬の調製は全て薬剤部に依頼するの原則を遵守すべきである。

1999年11月 東京都中央区の聖路加国際病院で、昨年11月、親子二人が相次ぎ浴室で一酸化炭素中毒死した事故で、最初に亡くなった父親を治療した際の血液検査をした時、血中の一酸化炭素濃度が41.7%と、一酸化炭素中毒を疑わせる数値がでていたにも係わらず、これを見落とし、家族らに伝えていなかったことが2000年6月6日に分かった。事故は風呂釜の工事ミスで発生し、翌日長男が同じ風呂に入り一酸化炭素中毒で死亡した。父親の中毒の疑いが知らされていれば、長男の事故は防げた可能性もあるが、病院側は「父親の蘇生措置の時点で、中毒死を推測するのは困難だった」としている。病院側は、心停止状態で救急搬送された患者を既往の狭心症であると判断[読売新聞,2000年6月6日]。

予断を持って物事を見れば、結論は自ずから決まる。あるべき事実を事実として認識し、総合的に判断するのが科学だとすれば、データの一部に疑問を持たなかったというのは、明らかに失敗だったといえる。

報道の内容からだけでは、何故このような結果が生じたのかの背景は不明である。しかし、少なくとも治療に関係した医師のうちの誰か一人でもデータに疑念を持てば、結果は変わっていたのではないか。データを見ながらデータを読み切れないのでは、技術力低下をいわれても仕方がない。

あるいは専門分化し過ぎた現在の医療のありようが、化学物質の中毒を疑わせるデータを見逃させたとしたら日本の医療のあり方を変えない限りこのような事故が続くということである。

1999年12月 東京都豊島区の癌研究会附属病院で抗癌剤過剰投与による患者死亡事故が発生。主治医が誤って行った標準の3倍もの投薬指示に、薬剤部や当直医が何の疑問も抱かず、3日間にわたり副作用の強い抗癌剤が投与された結果だった。担当医が死因は投薬ミスと認めながら家族には死亡後3カ月も事実が伏せられ、警察への届出は未だにない。1999年12月16日、男性の注射や検査内容を書き込む3日分の「指示票」に抗癌剤などの薬品の投与日や回数を記入した際、本来1回投与したら3週間以上投与を避けるべき抗癌剤を3日続けて投与するよう丸印を付けてしまった。シスプラチンに付けるべきではない丸印を行を間違えて付けた結果[読売新聞,2000.4.27.]

総合病院における入院患者の基本は、日々容態の変化する急性期の患者である。従って退院間近の患者以外、治療は日々変化するのが当たり前のはずである。そのような医療機関で、頻繁に変更されるはずの注射薬が3日分の「指示票」で処理されていることに疑念を持つのである。必要とする注射薬は「注射処方せん」に記載し、薬局で1日分ずつ調剤するの原則さえ確立されていれば、行を間違えて丸印を付けるなどということはあり得ないことである。

通常、医師が指示簿に注射薬を記載し、注射伝票に看護婦が転記、薬剤師が払い出すという仕組みが多いはずであるが、注射薬も「処方せん」に医師自らが記載し、1日分ずつ調剤して出す方策を確立すべきであり、その結果、注射薬に関係する多くの事故の一部は防止できるはずである。

2000年1月
抗癌剤8倍量投与

大阪市天王寺区大阪赤十字病院で前立腺の末期癌で1999年12月22日入院した男性患者(63歳)が通常量の8倍の抗癌剤を投与され、副作用のため17日後に死亡していた。処方した研修医が別の薬剤の投与量と勘違いしたミス。
本来は10mgの投与量である抗癌剤を、別の薬と間違え80mg投与の指示を出した。看護婦が糖液に溶解して別の医師が男性に点滴。男性は副作用で白血球が減少して敗血症になり、2000年1月13日多臓器不全のため死亡した。[読売新聞,2000.3.10]。

注射薬の管理が、どうなっているのか記事内容だけでは理解できないが、注射薬の管理という面からいえば、病棟には余分な注射薬を置かないというのが基本原則である。従前は『箱渡し』ということで、病棟に箱ごと払出して、任意に使用するという方策が採られていたが、これは注射薬の誤用という面でも、薬品管理という面でも最悪の方法といわなければならない。次にセット制が導入され、各病棟毎の必要量を定め、必要最低量をセットにして2組のセットを定期的に交換する方法が導入されたが、まだ、定数量が多い、注射薬を取り出すのが看護婦・医師等特定できないという弱点がある。

セット制の欠陥を改善するために導入されたのが、処方せんに基づく個人渡し制(注射薬調剤)とセット制の併用である。この方式であれば、セットに入れる薬の数は最低限の臨時使用分ということであり、薬剤師が責任を持って調剤した注射薬が払い出されるため、注射薬の取扱に関する事故は限りなく減少するはずである。

2000年1月

松江市の国立療養所松江病院に入院中の少女が、人工呼吸器のスイッチを入れ忘れて死亡[読売新聞,2000.3.8.]

全医労国立松江病院支部の調査によると、11種50台以上の人工呼吸器を保有しているとされている。更に『多様な患児に対応するため機種が多種多様で、全機種の操作に精通することは困難』との意見を述べているが、機種の多様性は、患児の多様性だけの問題なのかどうか。国立療養所の宿命として医師が定着しない。補充のため派遣されてくる医師の出身大学が同じなら問題ないが、もし出身大学が異なっていれば、その都度使用機器の変更が求められる。『曰く、使用経験のない機械は使用できない』。手術用メス1本にまで従前使用していたものに固執する医師の性格からすると、機械ではなおさらそういう要求がでてくる可能性が予測される。

*医療内容の高度化に伴い、使用する医療機器も高度・複雑化しているのが現状であり、それらの機器を医師・看護婦で保守点検・操作することは困難である。医療機器の保守管理・操作を行う専門家(臨床工学士)を導入することが必要である。

2000年1月 沖縄県宜野湾市の国立療養所沖縄病院で、昨年7月に人工呼吸器の管が外れたALS患者が半年後の今年1月に死亡していたことを明らかにした[読売新聞,2000.4.30] 同上

1床当たりの職員数比較
先進国:2.14人
日 本:0.95人
[朝日新聞,2000.9.2.]

2000年2月

島根県伯太町が2月小学校6年生を対象に実施した予防接種で、3校の計46人に対して適量(0.1mL)の5倍のワクチンを接種していた。幼児対象の別の予防接種と量を勘違いしたミスで、接種したワクチンはジフテリア破傷風混合ワクチン。5?6人に接種部分が腫れるなどの症状がでた[読売新聞,2000.3.16.]

明らかなうっかりミスである。医療のあらゆる場面において二重・三重のチェックをするのは常識である。しかし、忙しいとか、仕事に対する慣れとかが、この基本を忘れさせる。
2000年3月 東京都文京区「有馬記念医学財団・富坂診療所」茨城県土浦市内の事業所の巡回検診で胃の検査に使用するバリウム液を使用する際、誤って消毒用エタノールを混ぜ、これを服用した受診者54人中21人が酒に酔ったような症状を訴えた。症状は顔の火照りや動悸、ふらつき等。バリウムに混入したアルコール濃度は12%で、日本酒約80mLを一気に飲んだ場合に相当。[読売新聞,2000.3.10]

ラベルの確認という基本を忠実に実行していれば、起こり得ない間違いであり、ワクチンの投与量を間違えた前出の事故と同根のものである。
専門職能のとしての誇りにかけて一般人が起こすような失敗を起こさないという自負は、何処かに置き忘れてしまったとしか思えない。

 

事故を防止するための作業手順は、各施設毎にマニュアル化されているはずである。しかし、マニュアルは時間とともに風化する。決定されたときの事故に対する反省と忸怩たる思いは、伝え続けることは難しい。その事故の内容が、単純であればあるほど、『そんなことを私は起こさない』という自惚れが先に立つのと同時に、面倒な手順は省きたいという怠惰な思いが忍び込むのである。

 

[2008.1.12.一部修正]

「抗不安薬の効力比較について」

木曜日, 1月 10th, 2008
 

KW:臨床薬理・効力比・筋弛緩作用・睡眠薬・ベンゾジアゼピン系・benzodiazepine系・作用特性・抗不安作用・催眠鎮静・抗痙攣・抗うつ・血中濃度半減期・作用持続時間

 

Q:ベンゾジアゼピン系抗不安薬の効力比較について

 

A:抗不安薬としてbenzodiazepine系薬物が臨床で繁用されている。それらの薬理効果は、情動と関係する大脳辺縁系に分布するbenzodiazepine受容体に作用して、GABAの作用を増大させることにより抗不安作用を発現すると考えられている。以下にbenzodiazepine系抗不安薬の効力比較を示す。

体に作用して、GABAの作用を増大させることにより抗不安作用を発現すると考えられている。以下にbenzodiazepine系抗不安薬の効力比較を示す。

抗不安薬

註1.力価:各種資料により分類に相違が見られるため、文献?の分類に従った。
註2.筋弛緩作用・抗痙攣作用の力価は文献?の判定に従った。
註3.抗不安作用・催眠鎮静作用・抗うつ作用の力価は文献?の判定に従った。
註4.力価の漢字表記は文献?の表記に従った。

上表に見られるとおり、各薬剤の力価は報告者により若干の相違があり、『評価は確立していない』ということが出来る。従って本表の利用に際しては、あくまで参照程度と考えることが必要である。なお、高齢者には中力価・中期作用型が有用とする報告が見られる。

作用時間区分による適用

短期作用型
(6時間以内)
1)不安発作(パニック障害)に対する頓用に有用。
2)連用後に中断すると反跳性不安・退薬症候を起こしやすい。
3)高力価・短期作用型では健忘や譫妄・錯乱の報告がある。
4)高齢者には投与を避ける。
中期作用型
(12-24時間以内)
1)高齢者への投与可能。
2)全般性不安障害に対して1日1回(せいぜい2回)連用。
長期作用型
(24時間以上)
1)服薬回数を削減できる。
2)依存者の離脱に有効。
3)連用によって体内蓄積を起こすおそれがある。
4)高齢者には投与を避ける。
5)全般性不安障害に対して1日1回(せいぜい2回)連用。
6)benzodiazepine依存者に対しては、長期作用型に変更して離脱を図る。代替薬として抗うつ薬が有用。
超長期作用型
(90時間以上)
1)高齢者には投与を避ける。

力価区分による適用

?高力価型
 
1)標準1日最低用量:5mg≧
2)高齢者には高力価・短期作用型(譫妄・健忘を惹起する恐れ)を避ける。
 
?中力価型
 
1)標準1日最低用量:6mg<10mg
2)高齢者には中力価・中期作用型が有用。
 
?低力価型
 
1)標準1日最低用量:10mg≦
2)高齢者には低力価・中期作用型が有用。
 

[015.4.BEN:2003.11.11.古泉秀夫]

 
1)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2003
2)融 道男:向精神薬マニュアル;医学書院,1998
3)田中良子・編:臨床で役立つ-薬効別服薬指導マニュアル 第3版;薬業時報社,1990
4)大内尉義・他編:疾患と治療薬-医師・薬剤師のためのマニュアル 改訂第5版;南江堂,2003

アロエとワーファリンの相互作用

木曜日, 1月 10th, 2008

KW:健康食品・漢方薬・相互作用・アロエ・キダチアロエ・ワーファリン・ビタミンK含有量

Q:アロエとワーファリンの相互作用。アロエジュース中にビタミンKは含まれているか。

A:キダチアロエロイヤルエキス(株式会社ひらたヘルシー;群馬県群馬郡群馬町棟高1675-20TEL.0120-40-3433)の分析資料によれば、次の含有成分が報告されている。

分析試験項目 結果
水分 98.2%
蛋白質 0.1%[窒素・蛋白質換算計数;6.25]
脂質 0.1%
繊維 0
灰分 0.5%
糖質 1.1%[計算式:100-(水分+蛋白質+脂質+繊維+灰分)]

また、アロエ中の主な成分一覧として、次の資料が紹介されている。

植物フェノール類
アントラキノン類 アロエエモジン、クリソファノール、ラバルベロン、ラムノサイド
クロモン誘導体 アロエシン、フェルロイアルアロエシン、クマロイアルアロエシン
糖類-単糖類 グルコース、キシロース、マンノース、アラビノース、フルクトース、ガラクトース
糖類-多糖類 セルロース、アルドナンテーゼ、ムチン、D-マンノース
ビタミン類 ビタミンA,B1,B2,B6,B12,C,E,パントテン酸、葉酸
ミネラル類 カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、マンガン、クロム、銅、ゲルマニウム、塩化物、硫酸塩
アミノ酸類 トリプトファン、ロイシン、イソロイシン、リジン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、チロシン、ヒスチジン、アルギニン、ヒドロキシプロリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン
酵素 アリナーゼ、アミラーゼ、カタラーゼ、オキシダーゼ、リパーゼ、アロエカルボキシペプチダーゼ、プロテアーゼインヒビター、アロエレクチン様物質、TNF様物質、アンチトリプシン中和物質、トリプシン様プロテアーゼ、セルラーゼ
その他 ヘキスロン酸、ペテログルタミン酸、グルクロン酸、タンニン、葉緑素、植物ホルモン、カサンスラノールI・II、アロエチン酸ペンタヒドロキシフラボン、ヒドロキシクロモン、サポニン、カルシウムオキサレート、ムコポリサッカラーゼ複合体、ミルセンリモネン、コニフェニールアルコール、2-メチル-2- フィチン-6-クロマノール、グルコサミン、ヘコゲニン、サボゲニングルコシド、コリン、コリンサリチル酸塩

 

以上の成分表中に具体的にビタミンKの記載はされていない。

但し、その他の成分中に「葉緑素」の記載がされており、植物の光合成において葉緑素の生成にビタミンKが重要な役割を果たしているとする報告もされていることから、葉緑素が存在する植物ではビタミンKがその成分中に存在することは否定できない。また、ワーファリン錠の添付文書中に上記成分との相互作用の記載はされていないが、アロエ中に含有する成分の全てについて、薬理作用等が解明されているとは限らないので、ワーファリン錠服用中の患者がアロエジュースを飲用している場合、アロエジュースの飲用中断はないと仮定して、トロンボテスト等の検査結果を見ながら判断する。

その他、日本薬局方の記載を参照すると、アロエ(aloe)、別名ロカイ。アロエ末のラット経口投与による潟下効果はbarbaloin含量に比例し、塩酸テトラサイクリン前投与で著明に減弱するが、これはbarbaloinの腸内菌による代謝的活性化を示唆するものである。ヒト糞便菌叢又はラット盲腸内菌叢の作用でbarbaloinからaloe-emodinanthroneの生成が認められるが、この代謝物はラット結腸粘膜の傍細胞透過性を増大させることなどにより、結腸内腔液量を増加させる。アロエ及びaloinは、ヒト又はラットにおいて排便促進作用を有する。

本品の副作用として、大量の服用は腹部の疝痛と骨盤内臓器の充血を起こすので、妊娠時、月経時、腎炎、痔疾の場合などには注意するとされている。

[510.FD38.015.2ALO][1996.7.8.・1999.3.22.一部改訂.古泉秀夫]


  1. 株式会社ひらたヘルシー・私信1996.5.31.
  2. 第12改正日本薬局方解説書;広川書店,1991
  3. ワーファリン錠添付文書,1995.7.改訂
  4. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:NHS.DI-News,No.1556,1997.6.11.より転載。

アセトアミノフェンの苦味マスキング法

木曜日, 1月 10th, 2008

KW:物理・化学的性状・苦味マスキング法・アセトアミノフェン・acetaminophen・添加物・矯味用賦形剤・製剤処方

 

Q:ライ症候群発生以来小児用バファリンに代えてアセトアミノフェンが使用されるようになったが、苦くて服用し難いの苦情が相次いでいる。投薬法の工夫を教えて下さい。

 

A:acetaminophen[ピリナジン(山之内製薬)]は、非ピリン系の解熱・鎮痛剤であり、その添付文書中に「小児に対する安全性は確立していない」の記載が見られるが、小児に投与されているのは事実である。尚、本品の性状について、添付文書中の記載を見ると、白色の結晶又は結晶性の粉末で、臭いはない。

エタノール又はピリジンに溶け易く、熱湯、イソアミルアルコール又は温イソアミルアルコールにやや溶け易く、水又は温湯にやや溶け難く、エーテルに極めて溶け難い。水酸化ナトリウム試液に溶け、飽和水溶液は僅かに酸性であるとされているが、味に関する記載はされていない。

本品の原末を口中に含んだ場合、その直後には苦味感がないが、口内で本品が溶けた段階では、質問の通り苦味感があり、あるいは小児では服用困難の苦情が出る可能性は否定できない。また、本品を乳鉢中で微粉末化し乳糖と1:1の割合で混合した場合の味について確認したが、苦味感は増す傾向が見られた。

次に矯味用賦形剤の処方例について調査したところ、次の処方例が報告されていた。

  P-S(10) P-S(20)
  処方 製剤処方 処方 製剤処方
sodiumcyclohexylsulfamate(シクラミン酸ナトリウム) 0.1g 100g 0.2g 200mg
ice-creamessenceNo.500
(アイスクリーム・エッセンスNo.500*)
適量 10mL 適量 10mL
starch(澱粉) 0.3g 300g 0.3g 300g
lactose(乳糖) 適量 600g 適量 600g
全量 1g 1000g 1g 1000g

 

[注]アイスクリーム・エッセンスNo.500は、本品50gにつき10滴の割合で添加する。

  • 調製法:澱粉の一部にアイスクリーム・エッセンスNo.500を加えた後、各薬品を5号篩(50メッシュ)で篩過し、常法に従って散剤とする。
  • 貯法:気密容器
  • 応用:甘味賦形剤として用いる。

その他、ココア末0.1gに乳糖0.9gを加えた賦形剤を苦味のマスキング剤として使用している例、及びココア末に5%-10%のサッカリンナトリウムを添加し、マスキング剤として使用している例等が報告されており、これらの報告例に従って賦形剤を調製し、添加することで、 Acetaminophenの苦味は防げるものと考える。

[114.FD15.014.47AC][1991.3.13.・1999.3.26.一部修正.古泉秀夫]


  1. ピリナジン添付文書,1986
  2. 野上寿:薬局製剤とその解説;南山堂,1964,p.41
  3. 稲丸量一・他:小児科領域における繁用賦形剤について;薬局,36(4):489-494(1985)
  4. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:FAX.DI-News,No.42,1991.3.19.より転載

アマランサスについて

木曜日, 1月 10th, 2008

KW:健康食品・アマランサス・アトピー・amaranthus・成分・組成・カルダータス・ヒポコンドリアカス・ケニアッタ

Q:粟・稗等の餅の中にアマランサスを入れた物が市販されており、アトピーに良いと新聞に書いてあったが、このアマランサスとは何か

A:新聞報道[1991.10.3.朝日新聞・朝刊-神奈川版]によれば、

猿害に縁遠い転間作物・アマランサスを神奈川-真鶴農協[TEL.0465-68-1225]が栽培として、ミカンの減反後地に「健康食品」として使われる作物アマランサスの試験栽培を始めている。粟に似た実を粉にし小麦粉に混ぜ、パンやうどんに加工して同農協で販売する計画。アマランサスは中南米が原産、その実にはミネラルや蛋白質を多く含み、アトピー性皮膚炎で愛用する人も多い

等の報道がされている。

尚、amaranthusについて、次の報告がされている。

アマランサスは、インカの古代食物として長い伝統と歴史を持つが、儀式用食物として用いられていたため、邪教の食物としてその価値が認められず、ヨーロッパにも紹介されず、19世紀に入りアジアに紹介された。その後アフリカに導入され、野菜や穀物としての利用が広がってきた。アマランサスは、野菜として夏期の高温でも良く生育し、C4植物の性質を持ち、他の野菜の生育しない不良環境でも良く育つだけではなく、蛋白質・ビタミンC・鉄・カルシウム・線維等、特に昨今栄養として要求される成分を極めて豊富に含んでいる。

アマランサス茎・葉の主要成分(乾物100g当たりの成分量)

乾物重量 15.0g
カロチン 5.7mg
6.9mg
カルシウム 410mg
ビタミンC 64mg
蛋白質 4.6g
脂質 968mg

アマランサスの穀実は、疑穀類といわれ、穀物でない穀物として分類されている。穀類の栄養成分は、蛋白質や脂質、線維等のほか、カルシウム・リン・鉄・カリウム等を豊富に含み、他の穀類にない優れた成分組成を持っている。更に近年、食物性アレルギーのアトピー性皮膚炎にアマランサスが有効であるとして、御飯やパンに約10%混ぜて調理すると、アレルギーが回避できるとする報告がみられる。

アマランサス実の栄養成分組成比較(可食部100g当たり)

廃棄率(%) ?
エネルギー 372kcal
水分 9.8g
蛋白質 13.0g
脂質 7.3g
灰分 4.6g
炭水化物
糖質 61.3g
繊維 4.0g
無機質
Ca 152mg
P 485mg
Fe 111mg
Na 6.9mg
K 969mg
ビタミン
B1 0.06mg
B2 0.20mg
ナイアシン 1.7mg
C 0

食物連鎖の中で、どの様な作用があるのかは解明されていないが、脂質の中に占める脂肪酸が炭素数16のパルミチン酸と18のステアリン酸、オレイン酸、リノール酸が脂肪酸総量の97.33%を占め、これがアトピーの回避機作と深い係わりがあるのではないかとされている。

アマランサスの種類

 

■ カルダータス[AmaranthscaudatusL.](餅・タイプ)
子実利用。→ヒユ科の植物。センニンコク(和名)、老槍穀(ロウソウコク)。葉はベタイン、蓚酸塩を含む。種子にはフィトヘマグルチニンと脂肪油を含み、その中には飽和脂肪酸23.8%、不飽和脂肪酸71%、不鹸化性物質3.2%を含む。脂肪酸中にはパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸を含む。不鹸化性物質には4種類のステロイドを含み、その中の一つはβ-シトステロールである。
■ ヒポコンドリアカス(ウルチ・タイプ)
子実利用・野菜利用
■ ケニアッタ(ウルチ・タイプ)
子実利用・野菜利用
■ トリカラー[AmaranthustricolorL.]
鑑賞用花き・野菜利用。→ヒユ科の植物。雁来紅(和名)ハゲイトウ。→大量のビタミンC、アマランチン含む。
■パイアム
野菜

アマランサスの利用
機能性食品 アトピー性皮膚炎等
健康食品
  1. うどん・ソバ→乾麺(5%程度混入)
  2. 生麺(10%程度混入)
  3. パン・クッキー(カルダータス)
  4. その他→御飯(10?20%)/雑炊(20?25%)

[59.FD19.011.1AMA][1992.1.21.・1999.4.9.一部修正.古泉秀夫]


  1. SDIC・私信,1992
  2. 真鶴農協・私信,1992
  3. 上海科学技術出版社・編:中薬大辞典[第一巻];小学館,1985,p.399
  4. 上海科学技術出版社・編:中薬大辞典[第三巻];小学館,1985
  5. 上海科学技術出版社・編:中薬大辞典[第四巻];小学館,1985,p.2761
  6. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:FAX.DI-News,No.243,1992.1.23.より転載

アニサキス症について

水曜日, 1月 9th, 2008

KW:薬物療法・アニサキス症・anisakisis・幼虫寄生・消化管障害・海産魚類・ニシン・サバ・アジ・サケ・スルメイカ・イルカ・アザラシ・海産哺乳類

 

Q:アニサキス症の治療とアニサキスの抵抗性

 

A:アニサキス症(anisakisis)は、アニサキス亜科に属するアニサキス属(アニサキスI、II型)及びテラノパ属(テラノパA、B型)の幼虫の寄生による消化管障害を称する。これらの幼虫は本来海産魚類(ニシン、サバ、アジ、サケ、スルメイカ)に寄生し、海産哺乳類(イルカ、アザラシ)体内で成虫となる。

ヒトが感染魚肉を生食すると幼虫が胃や小腸粘膜に穿入し急性腹[部]症を呈する。我が国で発生したアニサキス症の大部分はイルカ類の胃に寄生する Anisakissimplexの幼虫によるもので、サバ、サケ、マス、スルメイカ等の生食により感染する、嘔気、嘔。発症は全国的に見られるが、最近では九州で激増している。

このほかにオットセイ、アシカ等の胃に寄生するPseudoteranvadecipienceの幼虫によるアニサキス症で、タラ、ホッケ、オヒョウ等の生食で感染し、主として北海道、青森県、日本海沿岸本州北部で発生している。

両者の臨床症状に大差はないが、Pseudoteranvadecipienceの幼虫によるアニサキス症は胃症状にのみ局限している。原因食としては、シメサバ、バッテラ寿司等が圧倒的に多い。食後3?8時間で絞り上げるような上腹部痛、嘔気、嘔吐、悪心を訴え、内視鏡で胃壁浸入中の幼虫を認める。1?5日後吐、筋性防御無き下腹部痛、腹水貯留を示すときは幼虫の回腸末端部侵襲を疑う。

治療方針

 

胃アニサキス症の場合、内視鏡による浸入虫体の確認に続き生検鉗子で摘出する。出血部位を観察するうちに虫体が出てくることもある。激痛のため内視鏡が使用できない場合や食事直後のため内視鏡観察の出来ない場合、抗アレルギー剤の静注、メベンダゾール投与を行う。腸アニサキス症は原則ととして開腹手術することなく、メベンダゾール投与とともに保存療法として消炎剤投与、輸液、腸管通過障害に腸紐の使用などを試みる。

1)抗アレルギー剤

強力ネオミノファーゲンC

40mL
デカドロン 2mg
生理食塩水 20mL

以上静注が有効とされる。

2)駆虫薬
 

メベンダゾール錠(mebendazole)

100mg/回
1日2回(朝・夕) 3日間経口投与
3)その他
内視鏡の届かない部位に、アニサキスの幼虫が残存している可能性がある場合、pyrantelpamoate[コンバントリン錠]の1回頓用を試みる。但し、本症の薬物療法は、あくまで補助的手段である。

なお、アニサキス幼虫の抵抗性について、次の報告がされている。

水道水・蒸留水中での生存期間及び消毒剤、熱、酸、アルカリに対する抵抗性(試験液1mLに対しアニサキス幼虫1匹を入れ、経過観察。虫体を刺激してから5分間全く動かない場合『死』と判定した)

試験対象物 条件

結果( )内検体数

水道水 室温 最長14日生存(10)
37℃ 7日以内死滅(10)
蒸留水  

最長20日生存(5)

ホルマリン 1% 最長6日生存(5)
5% 最長250分生存(5)
10% 最長170分生存(5)
アルコール 10% 最長5日生存(5)
20% 最長180分生存(5)
30% 100分以内に死滅(5)
50% 25分以内に死滅(5)
70% 5分以内に死滅(5)
100% 1分以内に死滅(5)
高温(温湯浸漬) 45℃ 生存期間61-78分(10)
50℃ 8秒で死滅(5)
60℃ 1秒で死滅(10)
70℃ 瞬時に死滅(10)
低温(水道水、冷蔵庫で冷却) ?10℃ 1日以内に死滅(10)
?15℃ 5時間以内死滅(10)
?20℃ 3時間以内死滅(10)
塩酸 pH:0.8 最長11日生存(10)
pH:2.0 最長112日生存(5)
pH:2.4-2.8 最長90日生存(5)
pH:3.4 最長64日生存(5)
pH:4.6-4.8 最長51日生存(5)
3%-石炭酸 pH:5.4 1日以内に死滅(10)
1%-硫酸 pH:1.6 最長8日生存(10)
1%-乳酸 pH:2.2 最長30日生存(10)
5%-酢酸 pH:2.0 最長32日生存(10)
食酢 pH:2.0 最長35日生存(10)
1%-水酸化ナトリウム pH:13.2 1日以内に死滅(10)
1%-水酸化カリウム pH:12.2 最長6日間生存(10)
1%-炭酸ナトリウム pH:11.4 最長35日生存(10)

[035.1ANI:2000.3.2.古泉秀夫]


  1. 南山堂医学大辞典,1992
  2. 日野原重明・他監修:今日の医療指針;医学書院,1991
  3. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2000
  4. 川田茂宏:大阪医科大学誌,26:224-244(1968)
  5. 西山利正・他:臨床と微生物,23(2):157-160(1996)

アルカリイオン水での薬の服用について

水曜日, 1月 9th, 2008

KW:物理化学的性状・相互作用・アルカリイオン水・酸性水・陽イオン・陰イオン・水酸化イオン・水素イオン・陰極反応・陽極反応

 

Q:現在、アルカリイオン水を飲用しているが、アルカリイオン水で薬を服用することに差し障りはないか

 

A:アルカリイオン水の性状について、次の通り報告されている。電解槽にカルシウムイオン(乳酸カルシウム)を含む原料水を入れ、水に直流電圧を放電すると、直流電流が流れ、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン等の陽イオンは陰極に引き寄せられ、塩化物イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン等の陰イオンは陽極に誘引される。両極間に掛かる電圧が十分に大きければ、電極表面において接触している水は電気分解され、下記の反応が生じる。

  • 陰極反応:2H2O + 2e? → H2 + 2OH?
  • 陽極反応:2H2O → O2 + 4H+ + 4e?

陽極側では水酸化イオン(OH?)、陽イオン及び溶存水素(H2)が多くなり、pH値の高いアルカリイオン水が生成され、陽極側では水素イオン(H+) 、陰イオン及び溶存酸素(O2 )等が多くなり、pH値の低い(弱)酸性水が生成される。

生成水 pH 酸化還元電位 陽イオン 陰イオン 溶存気体
アルカリイオン水 9-10程度 低い 増加 減少 水素
(弱)酸性水 4-6程度 高い 減少 増加 酸素、(塩素)

 

医療用具としての承認を受けているアルカリイオン整水器は、次の効能・効果が承認されている。

  • アルカリイオン水:飲用して慢性下痢、消化不良、胃腸内異常醗酵、制酸、胃酸過多
  • 酸性水:弱酸性のアストリンゼントとして美容に用いられる。

アルカリイオン水の作用機序については、現段階で明確に解明されていないが、カルシウムを添加してpHが弱アルカリ性となることから『水酸化カルシウム[Ca(OH)2]』が含まれていることになり、水酸化カルシウムに由来する薬理作用の発現が予測される。

以上の各報告を受けてアルカリイオン水飲用時の注意事項について、次の報告がされている。

(1)アルカリイオン水を飲用するときには、次のことに注意する。
[1]医薬品服用時の水としてアルカリイオン水を使用しない.
[2]無酸症の診断をされた者ではアルカリイオン水を飲用しない。
(2)アルカリイオン水を飲用して異常を感じたとき、又は飲用を続けても症状の改善が見られない場合は、医師又は薬剤師に相談する。

(3)持病を有する者又は身体の弱っている者では、アルカリイオン水を飲用する前に医師又は薬剤師に相談する。

なお、アルカリイオン水での薬の服用については、『薬を服用するときは常水でおのみ下さい。アルカリイオン水そのものが効能・効果の認められる水ですので、他の薬と同時に服用することは避けてください』の注意が求められている。

その他、calcium製剤の相互作用として、

  1. テトラサイクリン系抗生物質とカルシウム製剤の併用により、テトラサイクリン系抗生物質の吸収を阻害することがある。
  2. カルシウム製剤の服用により消化管内・体液のpH上昇、併用薬剤の吸収・排泄に影響を与えることがある。
  3. カルシウム製剤とビタミンDとの併用により、高カルシウム血症が現れやすくなる。
  4. カルシウム製剤は、ジギタリスの作用増強の可能性があるとされており、ジギタリス中毒症状発現の可能性。
  5. リン酸エストラムスチンナトリウムではカルシウムイオンとの間に、不溶性の複合体形成の報告。

等の報告がされており、注意が必要である。

[014.4.ALK:2003.6.24.古泉秀夫]


  1. アルカリイオン水整水器協会:http://www.3aaa.gr.jp/wa/index.html.,2003.6.24.
  2. 第十四改正日本薬局方解説書;廣川書店,2001
  3. エストラサイトカプセル添付文書,2001.9.改訂

アドヒアランスについて

水曜日, 1月 9th, 2008

KW:語彙解釈・アドヒアランス・adherence・コンプライアンス・compliance・服薬遵守・non-compliance・服薬非遵守

 

Q:アドヒアランスとコンプライアンスの違い

 

A:各語の語意について以下の通り解説されている。

語彙 adherence compliance
語意
  1. 密着、粘 着;執着、固執、固守;忠実(fidelity);(強固な)愛着、支持。
  2. 粘着作用;粘着性、粘着力。(精神的な)固守、執着、忠実。
  3. その他、
    1.(………に対する)執着、固守;信奉、支持。
    2.(まれ)(………に対する)粘着、付着。
  1. (命令、申 し出・要求などに)従うこと、黙従、屈服。
  2. 素直さ、従順、(特に)無気力で追従的な素直さ、卑屈。
  3. 応諾、承認。
  4. 協力;服従。
  5. [物理] ひずみとそれを起こす外力との比。
  6. 1.(要求・希望などに)そうこと、承諾。
    2.人の言いなりになること、従順さ、追従。
  7. その他
    1.(要求・命令等に)従うこと.
    2.追従、へつらい。

医療関係解釈

adherence は、患者が治療に能動的に参加できること。患者が実行可能な治療内容であること。患者のセルフケア能力・社会心理的な状態、患者-医療関係者の人間関係等を重視したもので、医療関係者側の因子の影響を受ける。 薬剤関係で見ると 『服薬』に関連してcomplianceは『服薬遵守』と訳され、『コンプライアンスが良い(高い)』、『コンプライアンスが悪い(低い)』と表現されている。

 

■『服薬遵守』という概念は、『医療従事者の指示に、患者がどの程度従っているのか』という視点での評価がされるということである。その判断の基準は、あくまでも医療従事者の側にあり、指示通り服薬できない患者については、患者側の問題として判断され、『服薬遵守』を高めるためには、患者を説得するという行為が行われる。

しかし、non compliance(服薬非遵守)は、全ての要因が患者側にあるわけではなく、医療関係者と患者の信頼関係の不足(患者情報の収集不足、患者の生活習慣に対する無理解、服用困難な処方や剤形の選択、あるいは事前の十分な服用意義の説明不足等)のため、多くは医療従事者側の独善的な思いこみに、その要因の殆どがあるということができる。

■adherenceは、compliance の維持・向上のために志向された概念であり、「熟練した医療従事者達が『患者は治療に従順であるべき』という患者像から離脱することを意図した概念(Stanton,1987)」、「医療従事者-患者間の関係及び相互作用に着目(Ley,1988)と紹介されている。

■adherenceという用語、概念についての認識は「第12回日本エイズ学会 総会(1998.12.1-2)サテライトシンポジウム」において取り上げられた結果であると考えられる。

■現在の抗HIV療法は、服用方法の複雑化(食前、食後、食間等の組み合わせ)、副作用・相互作用も多く、患者には大きな負担となっている。また、慢性の感染症疾患として長期間服用しなければならないための動機付けが困難、服薬非遵守が交差耐性の発現を起こした場合、使用可能な薬剤が少ない、更には経済的な負担が大きいこと等が問題として指摘される。

これらの患者において、服薬率を高めるためには、『医療従事者の指示をいかに守らせるか』だけではなく、薬剤・患者・医療関係者側のそれぞれの因子を総合的に考え、『患者が参加し、実行可能な薬物療法を計画、実行』することが必要である。

ただし、complianceにしろadherenceにしろ、外国では医療関係者が実地医療の中で生み出した思想であるが、我が国の場合、『単なる受け売り』に過ぎず、その認識において差が見られるのはやむを得ないが、患者対医療関係者の関係を真に見直す契機となるよう努力することが求められる。

(参照)アドヒアランスの維持
1. 処方に関して
予測される副作用と対処をあらかじめ説明し、副作用が発現した場合は適切に対処する。服薬条件を単純化する(例えば薬剤毎の食前・食後投与を一括)。有害な薬物相互作用に注意。可能であれば、服薬回数、錠数の少ない処方に変更する。
2. 患者に対して
患者が理解し、受け入れられる服薬計画。治療の意義・目標を説明し理解を求める。最初の処方箋を書く前に、患者が服薬のできる環境を整える時間を設ける。家族・友人の支援を求める。患者の食事時間、日々のスケジュールに合わせた処方、副作用を回避する処方を作成する。
3. 医療関係者に関して
患者との信頼関係の確立。患者にとっての情報源となり、継続的な援助と観察を行う。医療関係者が休暇中などにも患者の問題に対して対応できるよう連絡体制を整える。アドヒアランスの状況を観察し、維持が困難な場合は、来院回数を増やす、家族・友人の支援を求める、医療者チームの中の専門職を紹介するなどの対策をとる。新たな疾患(うつ状態、肝臓病、衰弱、薬物依存など)が出現した場合、アドヒアランスへの影響を考慮し、対処する。医師、看護師、薬剤師、カウンセラー、ソーシャルワーカーなどがチームとなり、アドヒアランスを維持するための対策を考え、互いに患者と密接に連絡を取りながら支援を行う。

[615.8.ADH:2002.11.25.古泉秀夫・2004.2.11.改訂]


  1. 竹林 滋・他:ライトハウス英和辞典;株式会社研究社,1984
  2. 小西友七・代表編:ジーニアス英和辞典;株式会社大修館書店,1995
  3. 堀 成美:アドヒアランスを左右する因子;看護学雑誌62(11),1998
  4. 東京都衛生局医療福祉部エイズ対策室;AIDS News Letter,7-1(65),1999.1.1
  5. 小学館ランダムハウス英和大辞典;?小学館,1979
  6. http://www.hivjp.org/guidebook/guide_07.html (2004.2.11.)

アダラートの脱カプセル化について

水曜日, 1月 9th, 2008

KW:物理化学的性状・特殊用例・粉末化・脱カプセル化・アダラート・ニフェジピン・nifedipine

 

Q:アダラートの脱カプセル調剤は可能か

 

A:アダラート(バイエル薬品)は、1Cap.中にニフェジピン(nifedipine)5mg・10mgを含有する橙色の軟カプセル剤で、カ プセル内容物は黄色?帯赤黄色の粘性の液体である。

剤型 ×
温度安定性
湿度安定性
光安定性 ×
水溶解性 ×
力価 ×
臭い
融点
総合判定 ×

 

nifedipineは黄色の結晶性の粉末で、臭い及び味はない。アセトン又はジクロルメタンに溶け易く、メタノール、氷酢酸又はエタノール (95)にやや溶け難く、ジエチルエーテルに溶け難く、水には殆ど溶けない。また光によって変化する。わずかに吸湿性を示す。融点:172-175℃。

本剤原薬の安定性試験の結果を見ると固体状態では比較的安定であるが、吸収性を高めるための液体状態では、耐熱試験の一部で力価の低下が認められている。

また、本品原薬は光に対する安定性が悪く、次の試験結果が報告されている。

試料 保存条件 保存容器 試験成績
固体状態 直射日光照射 無色粉末用アンプル 4日間で外観変化、含量低下 (含量32.2%)
同上 室内散乱光下 同上 10日間変化は認められず安 定であった。
液体状態 直射日光照射 蓋付褐色サンプル瓶 1.5時間後全て分解した。
同上 室内散乱光下 同上 3時間後含量低下が認められ た(含量84.2%)

 

無色透明のガラス瓶中においては比較的短時間で光分解するが、褐色ガラス瓶中においては、24時間後に痕跡程度に光分解物が認められたに過ぎ なかった。またアルミフィルムで包装した褐色ガラス瓶中においては光分解は認められなかった。』

その他、本剤添付文書中の2.重要な基本的注意の(2)として『まれに過度の低血圧を起こし、ショック症状や一過性の意識障害、脳梗塞があらわれることがあるので、その様な場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。なお、速効性を期待した本剤の舌下投与(カプセルをかみ砕いた後、口中に含むか又はのみこませること)は、過度の降圧や反射性頻脈をきたすことがあるので、用いないこと。』とする記載がされている。

以上の各報告から本剤のカプセル内容物は液状をしているため、簡単に脱カプセルすることは困難であり、病院等で看護師が服薬介助を行う場合以 外、実施は困難であると考えられる。また、前もって予製剤することは、製剤の安定性が担保できないため回避すべきである。

[014.4.NIF:2004.10.4.古泉秀夫]


  1. アダラート添付文書,2002.9.改訂
  2. アダラートインタビューフォーム,1999.10.作成

アダラートL錠の粉末化について

水曜日, 1月 9th, 2008

KW:物理化学的性状・特殊用例・粉末化・錠剤粉砕・アダラートL錠・ニフェジピン・nifedipine・徐放錠

 

Q:アダラートL錠の粉末化調剤は可能か

 

A:アダラートL錠(バイエル薬品)は、1錠中にニフェジピン(nifedipine)10mg・20mgを含有する淡赤色のフィルムコーティ ング錠である。

なお、本剤の製剤上の特性について『粒度分布が一定である微粉化ニフェジピン(micronized nifedipine)を用いることにより吸収遅延型又は溶出持続型が達成されたことによる持効錠』とされている。

剤型 ×
温度安定性 ?
湿度安定性 ?
光安定性 ?
水溶解性 ?
力価 ?
?
臭い ?
融点 ?
総合判定 ×

なお、本剤の粉末化については、インタビューフォーム-X-3.薬剤取扱い上の注意点として『本剤は徐放性のフィルムコーティング錠であり、粉砕により作用持続性及び光に対する安定性が失われることが考えられるため、 粉砕して使用しないこと』とする注意事項の記載がある。

従って、本剤を粉末化することは本剤の製剤特性である持効性を喪失させるため行ってはならない。

なお「L」の略号はLong actingの略記である。

[014.4.NIF:2004.10.4.古泉秀夫]


  1. アダラートL錠添付文書,2001.10.改訂
  2. アダラートL錠インタビューフォーム,1999.10.作成

アダラートCR錠の粉末化について

水曜日, 1月 9th, 2008

KW:物理化学的性状・特殊用例・粉末化・錠剤粉砕・アダラートCR錠・ニフェジピン・nifedipine・有核錠・徐放錠

 

Q:アダラートCR錠の粉末化調剤は可能か

 

A:アダラートCR錠(バイエル薬品)は、1錠中にニフェジピン(nifedipine) 10mg(帯赤灰色)・20mg(淡赤色)・40mg(淡赤褐色)を含有する徐放化システム(有核錠)を導入したフィルムコート錠である。また本剤は nifedipineを一定速度で放出する徐放性の外層部と、それよりも薬物放出速度が速くなるよう設計された内核錠から構成された有核錠である。

従って本剤を粉末化した場合、薬物放出特性、消化管通過速度及び消化管の運動性を考慮したとされる製剤特性が破壊される。

剤型 ×
温度安定性 ?
湿度安定性 ?
光安定性 ?
水溶解性 ?
力価 ?
?
臭い ?
融点 ?
総合判定 ×

 

なお、本剤の粉末化等について、添付文書中に次の注意事項が記載されている。

『9.適用上の注意-(1)服用時:本剤は割ったり、砕いたり、すりつぶしたりしないで、そのま まかまずに服用させること[割ったり、かみくだいたりして服用すると、血中濃度が高くなり、頭痛、顔面紅潮等の副作用が発現しやすくなる可 能性がある]。』

従って、如何なる理由であれ本剤を粉末化することは、本剤を使用する意味を失うことになる。

本剤商品名の『CR』の略号はControlled Releaseを略記したものである。

[014.4.NIF:2004.10.4.古泉秀夫]


  1. アダラートCR錠添付文書,2001.10.改訂
  2. アダラートCR錠インタビューフォーム,1999.3.作成

アクリルアミドの毒性について

水曜日, 1月 9th, 2008

KW:毒性・中毒・アクリルアミド・acrylamide・発癌性・ポテトチップス・フライドポテト・経皮吸収・土壌凝固剤・接着剤

 

Q:新聞報道されていたアクリルアミドの毒性について

 

A:新聞報道の内容は

『世界保健機関(WHO)の食糧農業機関(FAO)の合同専門委員会が、ポテトチップスやフライドポテトなど高温で調理された食品に含まれる化学物質アクリルアミドについて「健康に有害な恐れがあるかも知れず、食品含有量を低減すべきだ」との勧告を出した。

アクリルアミドは、地下工事の土壌凝固剤などに広く使用される化学物質で、動物実験で発癌性が指摘されていた。更に2002年スウェーデンの研究によって、炭水化物の多い芋類などを120℃以上で焼いたり、揚げたりした加工食品にも含まれていることが新たに判明した。

厚生労働省も同年に国内製品での含有を確認しており、過度の摂取をしないよう呼びかけるとともに、詳細なデータ収集作業を進めている』     [読売新聞,第46325号,2005.3.7.]

とするものである。

アクリルアミド(acrylamide)—–[独]Acrylamid

 

  • 別名:プロペンアミド(propenamide)、CH2=CH-CONH2:71.08。
  • 無臭の白色結晶。
  • 比重1.122(20℃)、融点:84.5℃、沸点:87℃(266Pa)、125℃(3,325Pa)。
  • 水(30℃で水100mLに 215.5g溶ける)、アルコール、アセトンに可溶、ベンゼン、ヘプタンに不溶。
  • 室温で安定、溶融すれば激しく重合する。

 


用途

 

  1. 凝集剤:acrylamide系ポリマーとして水中に懸濁する粒子に作用させ、これを凝集沈降させる。また沈降物の含水率を減らしてろ過などを容易にする。→下水・屎尿処理等。
  2. 土壌改良剤:土粒子を団粒化し、空気の流通性、水浸透性、保水性を改良する目的で、ポリアクリルアミドの加水分解物が開発されている。
  3. 繊維改質及び樹脂加工:合成繊維を含む各種繊維に対して、acrylamideをカルバモイル化又はグラフト重合させ、繊維そのものの基礎物性を改良したりセルロース系織物のシワ防止、防縮、風合いの改良を目的とした樹脂加工等に使用される。
  4. 紙力増強剤:従来から使用されている澱粉、水溶性アミノ樹脂等の代替あるいは併用の形で実用化されている。
  5. 接着剤:ポリアクリルアミドをフェノール樹脂溶液とともに使用したガラス繊維の接着剤、合成ゴム系エマルジョン等と併用した感圧接着剤。
  6. 塗料:アクリル系熱硬化性塗料の原料。
  7. 石油回収剤:ポリアクリルアミド水溶液を地下油層中に注入し石油二次回収を行う。

 

毒性

 

  • 許容濃度0.3mg/m3(皮膚)、ACGIH 0.03mg/m3(TWA)、管理濃度0.3mg/m3。IARC 2A。経皮吸収有り。皮膚、呼吸器、消化管より吸収され、皮膚障害、言語障害、末梢神経炎、小脳性失調などを起こす。中毒症状は主に慢性障害で、神経症状と肝障害を起こす。
  • 粉体、水溶液ともに皮膚から容易に吸収される。生体内に吸収されたacrylamideは分解されやすく、蓄積性が少ないことから中毒からの回復は比較的早いという報告も見られる。
  • acrylamide は皮膚から吸収されやすいのが特徴で、工場での中毒の多くは経皮中毒である。足先からの麻痺で始まり、知覚麻痺から運動麻痺へと進む。
  • 運動失調、四肢冷感、筋力低下、知覚異常、腱反射消失、末梢の関節の位置感覚の減弱、末梢の振動感覚の減弱などが見られるが、圧感は残る。
  • 小脳失調のような症状も見られる。職業性の経皮慢性中毒が殆どであるが、自宅前の道路の下水管埋設のための薬液注入工法に使った地盤凝固剤acrylamideが井戸水に混入し、井戸水を使用していた一家5人に中毒事故が発生したという甚だ稀な事例も見られる。

 

刺激性

 

ウサギ(皮膚) 50mg/3day mild 500mg/24hr mild
ウサギ(眼) 10mg/30sec rinse mild 100mg/24hr moderate

 

急性毒性(LD50:mg/kg)

 

  経口 腹腔内 皮膚
ラット 124 90 400
マウス 170 70 (RTECS)  

 

恐らくヒトに発癌性がある。

その他『アクリルアミド問題の経過』として以下の報告が見られる。

1)スウェーデン食品庁の報告

平成14(2002)年4月、スウェーデン食品庁が、炭水化物を多く含む食材(注1)を高温で加熱して製造した食品(例えばポテトチップス、フライドポテト、ビスケットなど)に、アクリルアミドという化学物質が高濃度に含まれていると世界ではじめて発表した。これはストックホルム大学との共同研究で明らかになったもので、加熱しない生の食材や蒸してつくる食品にはアクリルアミドが見つからないことから、高温加熱によりアクリルアミドが生成すると考えられる。アクリルアミドは発ガン性をもつのではないかと考えられている物質である。 (注1)当初の報告では「炭水化物を多く含む食品」との表現であったが、その後研究でアスパラギンとブドウ糖などが、加熱により反応して、アクリルアミドが生成するということが解明されてきた。

2)各国の対応

スウェーデンと同様の結果がイギリス、ノルウェー、スイス、アメリカなどからも報告されている。アクリルアミドの存在が報告されたのがポテトチップスやフライドポテトなど、日常的に口にする食品であることや、アクリルアミド濃度が飲料水の基準値に比べて高いことなどから、世界中で大きな関心を呼んでいる。しかし、揚げたり焼いたりして作られた食品に高濃度のアクリルアミドが含まれているという報告が出されたが、これらの政府機関では、消費者の食事内容の変更、調理方法の変更については何ら改善方法を示していない。

[63.099.ACR:2005.3.28.古泉秀夫]


  1. 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
  2. 独立行政法人食品総合研究所:アクリルアミド問題の経過;http://aa.iacfc.affrc.go.jp/keika.html,2005.3.20.
  3. 内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療;南江堂,2001
  4. 化学物質と法規制;http://www.chemlaw.co.jp/index.htm,2005.3.20.
  5. 14303の化学商品;化学工業日報社,2003

アサイベリーについて

水曜日, 1月 9th, 2008

KW:健康食品・機能性食品・アサイベリー・Acai berry・アサイ・Assai・Assai palm・ヤシ科植物・ワカバキャベツ・ワカバキャベツヤシ

 

Q:健康食品の一種としてTV放映されていたアサイベリーについて

 

A:アサイベリー(Acai berry又はAssai berry)又はアサイと呼称される植物は、

  • ブラジル名:Acai
  • 学名:Euterpe oleracea Mar.
  • 英名:Assai palm
  • 和名:ワカバキャベツ・ワカバキャベツヤシ

等で標記されるヤシ科植物である。

Assaiは南米北部に自生し、アマゾン地方を中心として川沿い等の低湿地帯に生育し、年間を通して花が咲くとされている。果実は乾期に収穫され、6月-12月が主な収穫期だとする報告が見られる。

Assaiは通常株立ちし、幹の数は20以上に達するとされている。

木の高さは20m程度で、時に30mに達するものも見られる。

幹の径は約 12cm程度で、葉はヤシ科植物に特有の形態を示す。

花が咲き、実を付ける花序は、1本に3-4個付くとされている。

果実から搾取される果汁液は黒紫色で、果汁そのものに甘味はないとされている。また果実から採取する液には油分が豊富に含まれており、アイスクリームや種々の飲料に加工される。シリアルやタピオカの粒を混ぜて摂食も可能である。

よく「甘くないぜんざいのようなもの」というたとえで紹介されるが、食感はそれに限りなく近い。

新芽は「パルミット」とよばれる高級食材となる。

カロリー 水分 蛋白質 繊維 Ca P Fe カロテン VB1
247.00kcal

45.9g

3.80g

16.9g

118.00
mg

58.00
mg

11.80
mg

9mg

0.35
mg

 

VB2 ナイアシン VC 糖度 酸度 pH ポリフェノール アミノ酸
0.01mg 0.40mg 900mg 6.00% 0.13% 5.21 赤ワインの30倍

 

Feはレバーの約3倍、繊維は牛蒡の約3倍、Caは牛乳と同等とする報告がされている。

ただし、植物中の成分は、生育する環境によって、必ずしも一定していないので、含有成分について過信することは避けなければならない。

[015.9.ACA:2005.11.29.古泉秀夫]


  1. アマゾン群馬の森通信;http://amazon-gunma.hp.infoseek.co.jp.htm,2005.6.28.
  2. ワイルドフルーツサプリメント;http://www.frutafruta.com/c-02a.html,2005.6.28.
  3. http://amazon-gunma.hp.infoseek.co.jp/j-forest-watching06.htm,2005.11.29