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「アマランサス葉の含有成分について」

月曜日, 1月 7th, 2008

KW:健康食品・アマランサス・アマランサス葉・葉鶏頭・grain amaranthus・Inca wheat・紐鶏頭・ヒモゲイトウ、仙人穀・センニンコク、繁穂ヒユ、種粒ヒユ、子実用アマランサス

 

Q:アマランサス葉の含有成分について

 

A:アマランサスとは、葉鶏頭の仲間で、ヒユ科、ヒユ属の1年生草本である。60属中に800の種があり、その内10種ほどが食用にされている。メキシコからアンデス南部を原産地とするものや、インドから東南アジア、またヨーロッパが原産のものもある。耐暑性と耐寒性を備えており、生育前半に霜にあたらなければ、生育はしだいに旺盛となる。
学名:Amaranthus hypocondriacus L.、 A. caudatas、 A. curuentus等。
別名:ヒモゲイトウ、センニンコク、繁穂ヒユ、種粒ヒユ、子実用アマランサス
英名:Grain amaranthus、Inca wheat
種類: 雑穀、擬穀類食用。

アマランサス属は、さらにAmaranthus節とBlitopsis節に分けられる。前者はグレインタイプであり、染色用、装飾用、野菜用を含むが、大多数は雑草である。この中には、A. cruentus、南米で栽培されている紐鶏頭(A. caudautus)、メキシコで栽培されている繁穂ヒユ (A. hypochondriacus)及びA. edulisが含まれているが、A. edulisを除き無限花序である。一方、Blitopsis節は無限花序で、頂部に穂があっても小さい。この中には、葉菜用のA. tricolor(葉鶏頭)、A. gangeticus及びA. blitumなどが含まれている。

amaranthusの近縁種

子実用
栽培種 A. hypochondriacus L.
栽培種 A. caudatus L.(紐鶏頭、仙人穀)
栽培種 A. cruentus L.(スギモリケイトウ、フジ鶏頭)

 

葉菜用 A. tricolor L.(葉鶏頭)
葉菜用 A. viridis L.(アオビユ、ホナガイヌビユ)
葉菜用 A. dulius Mart. ex Thell.(スギモリケイトウに近似)
野生種 A. spinosus L.(ハリビユなど)
野生種 A. retroflexus L.(アオゲイトウ)
野生種 A. patulus Bertoloni L.(ホソアオゲイトウ)

 

amaranthusの一部は、広い環境に適応できる。早生種を選べば北海道でも栽培可能なことがわかったと報告されている。普通の葉は先の尖った楕円形を呈している。葉の大きさは種によって多様である。茎色も濃緑から赤紫まで色々である。光合成能力が高い。
amaranthusは、南米Tehuacan ValleyのBC6700-5000の遺跡から発見されている。新世界における古い作物の一つであり、4千年前から耕作され、トウモロコシ、ジャガイモなどと共にインカ古代文明を支えた食物のひとつと伝えられている。
19世紀初頭にインド、ネパール地域に持ち込まれ、この地域を中心に、主として食用目的に栽培されている。中国では葉鶏頭の若い茎葉を野菜とし、薬用とする他、小鳥の餌、あるいは穂や茎葉は豚の餌として使っている。
アメリカでは中国から品種を輸入して栽培しているが、1980年代に、雑草としてのアマランサスを研究中に、薬効があることが解り、健康食品として見直されているとされる。日本でもアレルギー性患者をもつ家庭で関心を持ち始めているが、輸入穀物は検疫の際、燻蒸するため、国産品が求められている。
amaranthusは、葉は野菜、実は穀物、花は観賞用となるほか、ミネラルや良質たん白質が豊富であるため健康食品として、また水田転作作物として関心が持たれつつある。

amaranthus生葉100g中[農業機構(FAO)資料;Elias, J(1977)]

  mineral
蛋白質 食物繊維 Fe Ca Na K P
4.6-14.9g 7.4g 2.2-24.8mg 146-476mg 41-15mg 411-624mg 45-610mg

 

vitamin
A B1 B2 C niacin
65-7715IU 0.01-0.08mg 0.14-0.42mg 12-120mg 0.3-1.8mg

以上、調査の結果を報告するが、まだ野菜としての大衆的認知が得られていないため、食品としての詳細な栄養成分の報告は入手できなかった。しかし、取り敢えず、上記の各成分については、国外での報告例として紹介されていた。

  [015.9.AMA:2006.1.112.古泉秀夫]

 

1)古泉秀夫・編著:わかるサプリメント健康食品Q&A;じほう,2003
2)http://www.agri.pref.hokkaido.jp/chuo/hata2/tokuyo51.htm,2005.11.10.
3)http://misa.ac.affrc.go.jp/mihonen/CROP4.html,2005.11.10.
4)http://www.nava21.ne.jp/~uesugi/ken/seibun/amaranthus.htm,2005.11.10.

イチジクの食効について

月曜日, 1月 7th, 2008

KW:健康食品・機能性食品・生薬・果実・イチジク・無花果・ムカカ・ペクチン

 

Q:健康食品としてイチジクを原材料とした製品が市販されているが、これの食効について

A:通常、イチジクと呼称されている果実は、クワ科の植物で、漢方名『無花果(ムカカ)』(和名:イチジク)の乾燥した花托である。

イチジク(Ficus carica L.)。

落葉低木若しくは小高木。高さは10mに達し、乳汁がある。

異名として阿駅(アエキ)・底珍(テイチン)・天生子(テンセイシ)、映日果(エイジツカ)、優曇鉢(ユウドンハチ)・蜜果(ミツカ)・文仙果(ブンセンカ)・品仙果(ヒンセンカ)等が報告されている。

  • [成分]:果実にはブドウ糖、果糖、蔗糖、クエン酸と少量のフマール酸、コハク酸、マロン酸、ピロリジン-カルボン酸、蓚酸、リンゴ酸、キナ酸及び植物成長ホルモン(オーキシン)を含む。乾燥果、未熟果及び植物の乳汁は抗腫瘍成分を含むとされている。乳汁中にはアミラーゼ、エステラーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ等を含む。
  •  
  • [薬理]:無花果は豊富な栄養分を含み、食用にされる。
    便秘の時には、食物性の軽い下剤になる。
    樹の乳液(ラテックス)には、ラットの移植性肉腫を抑制する成分が含まれる(注射時)。
    乾燥果の水抽出物から活性炭、アセトン処理を経て得られる物質には、抗エールリッヒ肉腫の作用がある。
    未熟果実から得られる乳汁は、ラット移植性肉腫とマウスの自然性乳癌を抑制し、腫瘍を壊死させることができる。
    また移植性腺癌、骨髄性白血病、リンパ肉腫の成長を遅らせ、退化させることができる。この乳汁をラットに0.02mL、ウサギに0.05mL静脈注射すると、直ちに致死する。解剖すると内臓の毛細血管に損傷が見られ、腹腔内注射の状況もこれと類似している。
    皮下注射は局部の壊死を起こすが、経口投与では無毒である。
    石油エーテル、エチルエーテル抽出物は、ウサギ・ネコ・イヌに対していずれも降圧作用があり、呼吸はやや興奮を示す。
    ネコの瞬膜試験では、神経節遮断作用はない。降圧作用の原理は、末梢性のものによると推定されている。
  • その他:主成分は糖で、約10%(乾果は66%)含まれ、ビタミン・ミネラル類も少量ずつまんべんなく含まれている。この他食物繊維のペクチンがあり、腸運動を活性化し、便秘に効果的である。更に三大栄養素の分解酵素が含まれているので、その効果は多様である。
    また無花果には抗炎症作用があり、喉痛、痔疾に効果がある。葉の煎剤を痔の患部に塗布すると効果的であるとされている。果肉や葉からでる白色乳汁に含まれるペプチドは血圧抑制作用があり、外用では疣贅の治療に用いる等の報告がされている。

なお、無花果可食部100g当たりの栄養成分値は下記の通りである。

  エネルギー 水分 蛋白質 脂質 炭水化物-糖質 炭水化物-繊維 灰分
生果 43kcal 87.7g 0.6g 0.1g 10.4g 0.7g 0.5g
乾果 271kcal 22.0g 3.8g 0.6g 66.0g 4.4g 3.2g
缶詰 83kcal 78.4g 0.5g 0.1g 19.9g 0.8g 0.3g

 

無機質
Ca P Fe Na K Mg Zn Cu
26mg 16mg 0.3mg 2mg 170mg ? ? ?
170mg 100mg 1.9mg 12mg 1100mg      
30mg 30mg 0.1mg 8mg 110mg      

 

ビタミンA   ビタミン
カロチン A効力 B1 B2 ナイアシン C  
12μg 0 0.03mg 0.03mg 0.2mg 2mg 生果
30μg 17IU 0.05mg 0.05mg 1.0mg 0 乾果
0 0 0.02mg 0.02mg 0.1mg 0 缶詰

なお、上表のうち項目の無いものについては測定値の記載が無いことを意味する。

[015.9.FIG:2007.3.21.古泉秀夫]


  1. 上海科学技術出版社・編:中薬大辞典;小学館,1998
  2. 奥田拓道:健康・栄養食品事典;東洋医学舎,2000-2001
  3. イチジクFIGパンフレット[(株)コーワリミテッド 〒171-0031 東京都豊島区目白3-14-20 ]
  4. 香川芳子・監修:四訂食品成分表;女子栄養大学出版部,2000

飲食物中の蓚酸含有量について

月曜日, 1月 7th, 2008

KW:健康食品・機能性食品・食品・蓚酸・oxalic acid・植物・蓚酸低減量・野菜類

 

Q:食品中に含まれる蓚酸の含有量について、測定値は報告されているか

 

A:ヒトの生命維持に必要な栄養成分については、市販されている野菜等の食物全般にわたり測定値の報告がされているが、蓚酸(oxalic acid)は、特に栄養成分として必要性が認められていないため、全食品についての測定値は報告されていないようである。

なお、蓚酸は炭素原子を2個持ち、反応性が高く、金属と塩を作り、生成された塩は極めて溶け難い。

体内での蓚酸塩の沈着により尿路結石が惹起され、蓚酸レベルの高い人に多発する。更に野菜に含まれる蓚酸が、食品中のミネラルと結合し、その結果、これらのミネラルの吸収を阻害する。主にカルシウムと鉄の吸収が阻害されることが報告されており、注意が必要である。

測定値のある一部について、次に紹介する。

表1.食品中の蓚酸含有量(可食部100g中のg量)

食品名 測定部位 可溶性蓚酸 食品名 測定部位 可溶性蓚酸
アカザ 1.690 馬鈴薯 根茎 0.042
ツルナ 1.277 タンポポ 0.037
煎茶* 乾葉 1.044 葉茎 0.036
タケノコ 0.654 キク 花黄 0.035
ホウレン草 葉茎 0.650 春菊 0.027
浜防風 葉茎 0.585 パセリ 0.024
不断草 葉茎 0.580 セロリ 0.022
生姜 0.574 ニラ 葉茎 0.015
茗荷 花茎 0.447 キク 0.012
イタドリ 0.433 トマト 果菜 0.011
茗荷茸 葉茎 0.360 シメジ 全菜 ±
蒟蒻芋 0.175 サラダ菜 ±
ヤツガシラ 根茎 0.175 三つ葉 葉茎(冬) ±
里芋 根茎 0.151 ゼンマイ 葉茎 ±
筍水煮 0.138 ワラビ 葉茎 ±
アカメイモ 根茎 0.125 蒟蒻   0
生茶葉 0.121 土筆 0
葉茎 0.120 フキ 0
薩摩芋 0.103 フキ 0
三つ葉 葉茎(夏) 0.080 胡瓜 果菜 0
ヨモギ 0.063 大根 根茎 0
榎茸 全菜 0.061 紫蘇 青葉 0
大和芋 0.049 根茎 0
ナメコ 全菜 0.043 椎茸 全菜 0

*煎茶の場合1回使用量は2g程度  [中村経子:栄養と食糧,27:33(1974)]

上表の測定値は、可溶性蓚酸としているため、食品中の全蓚酸量として認識するかどうかは別として、植物中には一定量の蓚酸が含まれると考えることは可能である。但し、食物中の蓚酸が、全て体内に摂取されるわけではなく、ゼンマイ・蕨等では前処理として灰汁抜きが行われるため、相当量の蓚酸は植物本体から排出されるものと考えられる。また、茹でるという調理操作を必要とする野菜では、茹でこぼすという前処理によって含有量の低減が可能である。

次にほうれん草中の蓚酸量について、生及び茹でた場合の含有量の推移について、検討した資料を紹介する。

表2.ホウレン草中の蓚酸量の推移(mg/全量g)

  葉身 葉柄 可食部合計
豊葉 840.7/60.42 58.1/29.88 896.3/90.30
ニューアジア 504.2/55.50 35.2/35.40 539.4/90.90
新日本 587.3/53.30 54.3/39.00 641.6/92.30
茹で
  葉身 葉柄 可食部合計
豊葉 415.1/63.75 11.3/24.25 426.4/88.00
ニューアジア 315.7/61.50 13.6/27.10 329.3/88.60
新日本 347.5/58.70 14.2/29.40 361.7/88.10

[草間正夫・他:栄養学雑誌,21(2):13(1965)]

上表から可食部100g中の蓚酸の低減率を計算すると

表3.蓚酸の低減率

ホウレン草種類 低減率(%)
豊葉 51.11
ニューアジア 37.27
新日本 40.86

 

約40%から50%の蓚酸は、茹で汁中に排出されるという結果がでている。タケノコ(茎)の生中の蓚酸量について、可食部100g当たり 654mg、茹でた場合、可食部100g当たり138mgとする測定値が報告されている。この測定値から計算すると低減率は78.9%と計算できる。

また、上表の他、食品100g中の蓚酸量(mg)として次の測定値が報告されている。

食品名 含有量 食品名 含有量 食品名 含有量
ホウレン草 320-1260 リーキ 23-89 レタス 5-20
ナス 10-38 トマト 5-35 林檎 平均15
平均15 平均15 イチジク 80-100
茶葉 300-2000 煎茶 10-18/100mL ココア粉末 500-150

 

以上の報告から植物中に含まれる蓚酸は、生食しない限り茹で汁あるいは煮汁中に相当量溶出することが考えられる。

[015.9.WHE:2007.3.21.古泉秀夫]


  1. 山下光雄:野菜中の蓚酸含有量;日本医事新報社,No.3205:131(1985)
  2. 三浦里代:食品のシュウ酸含量;日本医事新報,No.3993:98-99(2000)

イムノゴールドSについて

日曜日, 1月 6th, 2008

KW:健康食品・機能性食品・担子菌類・イムノゴールドS・イムノエース・AHCC・植物性多糖類・BRM・Biological Respons Modifiers・BCG・MER・レンチナン・バヒアラン・ビラコンポリマー・ベスタチン・Active Hemi Cellulose

 

Q:癌治療中の患者が健康食品と思われる「イムノゴールドS」を服用したいと医師に相談しいるが、これは何か

 

A:イムノゴールドSについて次の資料が入手できた。

イムノゴールドS ・イムノエース [製造元:(株)アミノアップ化学]

 

AHCC(Active Hemi Cellulose)は、穀類をはじめとする植物体に、数種類の酵素を働かせて得られた「植物性多糖類」である。カプセルタイプのイムノゴールドS とAHCCの有用性を高めたマイクロ顆粒タイプのイムノエースがある。

イムノゴールドSは、担子菌を大型タンク培養法を用いて醗酵分解し、独自製法で抽出・精製した植物多糖類加工食品である。活性化されたヘミセルロース(AHCC)・リグニン・多糖蛋白質やミネラルを豊富に含む。

1粒:180mg 90粒/瓶

最近、食品による生体の調節機能が見出され、栄養組成やカロリー量の観点からだけでなく、内分泌系、神経系、免疫系などと係わり合いを持つ生体調節機能、いわゆる三次機能に注目していく動きがあり、新たなバイオサイエンスの登場も伴って、健康を増進させ、病気を予防し、また病気を治療する物質の探究が盛んになっている。このような作用を有する物質を総称してBRM(Biological Respons Modifiers)と呼称している。

この主なものとしてBCG、MER等の細菌由来物質。レンチナン、バヒアラン等の多糖類、ビラコンポリマー、ベスタチン等の合成物質などがある。しかし、BRMはその殆どが静注薬として使用されており、経口で使用されているものは皆無に等しい。

このような背景の中、食品としての免疫賦活物質の開発研究からAHCCが見出された。AHCCは、そのままあるいは食品に添加した場合、消化管を経由して吸収され、BRM的働きをするこれまでにない物質である。

 

*AHCCの概略

AHCCは、担子菌液体大量培養と独自の方法による菌糸体抽出物質で、活性ヘミセルロースをはじめとする植物繊維やβ-1・3グルカン等の多糖類を豊富に含有する。また、これらの成分の他、更に多くの有効成分が含まれていると考えられ、種々の試験の結果

  1. 免疫賦活作用
  2. 成人病予防等

の作用が確認されている。

*AHCCの性状

 

蛋白質 脂質 灰分 ビタミンB1 ビタミンB2
8.7g 0.1g 5.3g 3.7mg 0.97mg 0.40mg

残留農薬:有機塩素系残留農薬;不検出

ラット 経口(♂) 28.3g/kg
ラット 経口(♀) 30.1g/kg

AHCCは、多くのBRMと同様に、好中球の集積を促進する一方、TNF誘導活性を増強した。このことはAHCCが、食細胞が関与する生体防御機構を活性化し、抗癌作用、抗ウイルス作用に関与していることを意味している。実験結果が示すように、AHCCが細菌製剤、サイトカイン類のように生体防御機構に増強的に働くことで、AHCCが生体防御機構を調節し、健康な状態を保持する働きを有していることを意味している。

実際に生体防御系に関る疾病を持つヒトに、日常生活の中でAHCCを摂取してもらった結果、症状の改善が認められた。

[015.9.IMU:2007.2.7.古泉秀夫]


  1. 週間読売,1997.3.23.
  2. 小砂 憲一:食品における免疫賦活物質の開発;New Food Industry,35(2):46-48(1993)

販売会社:(株)リアライズ 〒101東京都千代田区内神田3-5-5大同ビル6階

医薬品の安全性評価のアルゴリズム

日曜日, 1月 6th, 2008

KW:語彙解釈・安全性評価・アルゴリズム・algorithm・算法・因 果関係判定基準・医薬品投与・副作用症状

 

Q:医薬品の安全性評価に関連して見られ るアルゴリズムとはどの様な意味か

 

A:アルゴリズム(algorithm)について、それぞれ次の解釈が記述 されている。

算法

問題を解決するための手順(手続き)。代表的なものに、二つの整数の最大公約数を求めるユークリッドのアルゴリズム(Euclideam algorithm)がある。

コンピュータのプログラムは、ある特定の問題に対するアルゴリズムをプログラミング言語(programming language)で記述したものといえる(1。

電算 一連の算法。与えられた、ある形に属する全ての問題を解く手段、手続き(2。
数理・ソフト

ある問題を解くための一連の手順をいう。算法と訳す。

コンピュータを使ってある問題を解く場合、そのための明確な方法と手順を完全な形で記述する必要がある。

一般に、アルゴリズムとプログラムはほぼ同じ意味で使われるが、実際のプログラムは特定の言語で書かれた(コンピュータで実行できる)もので、アルゴリズムはそのプログラムのもとになった問題解決の手順や考え方をいう。

アルゴリズムの良否は、計算時間や必要なメモリ容量、簡潔さ、解の安定性や誤差などで判断される。

プログラムを設計する場合、アルゴリズムはデータ構造とともに重要なポイントである。

論理学や数学基礎論、計算理論などの学問分野においてアルゴリズムという言葉は、機械的に実行でき、かつ有限時間内に必ず答えを出して終了する計算規則を指すことが多い(3。

因果関係判定基準 副作用発現には多種の要因が交絡しているため、因果関係の判定基準を明確にした場合でも、その判定は評価担当者の知識・経験などにより一致しない場合もある。このためより信頼性のある因果関係判定方法を行うために、アルゴリズム(理論的思考様式に基づいて数学的に処理する手順書)が用いられている(4。

『因果関係判定基準』は、医薬品投与と副作用症状(異常所見)の関連性の推定に使用する。因果関係の推論上最も重要なのは、医薬品投与と副作用発現に至るまでの時間的関係である。投与直後や投与期間中に発現した場合には関連性が強い。また、投与中止後急速に副作用症状が消失している場合にも関連性の強さを示す証拠になる。

I.definite:明らかに関連有り 時間的に明白な相関関係(投与中止後の経過も含む)があり、かつ下記のいずれかに該当する場合『偶然の再投与により同様の所見を認め る場合、薬剤感受性試験(リンパ球培養法、皮膚テスト他)陽性の場合、又は体液・血液内濃度測定により中毒量であることが認められる場合』
II.probable:多分関連有り 時間的に明白な相関関係(投与中止後の経過も含む)があり、かつ原疾患、合併症、併用薬、併用処置など当該医薬品以外の要因がほぼ除外されている場合。
III.possible:関連がないともいえない 時間的に明白な相関関係(投与中止後の経過も含む)があり、原疾患、合併症、併用薬、併用処置など他の要因も推定されるが、当該医薬品による可能性*も除外できない場合。
IV.remote:関連はないらしい(なし) 時間的に明白な相関関係が殆ど無い場合、原疾患、合併症、併用薬、併用措置など他の要因の可能性が大きいと考えられる場合。
V.unknown:関連不明 評価材料不足の場合(判定保留)。

*例えば、類似化合物を含めて過去に同様の報告がある、薬理作用から推定されるもの。

ただし、副作用の中には、最終投与後、数時間から数日後に発現する遅発性のものや中止になっても回復の遅い非可逆的なものもあり、判定するに際して注意が必要である。

また、偶然の再投与が行われた場合、生体内薬物濃度、免疫学的検査に関するデータも重要な証拠になる。

この他、併用薬、併用処置及び生体側の病態との交絡についても評価しなければならない。

algorithmで用いられる因果関係推定のための質問項目は、副作用の発現要因が複雑であるため、研究的には多くの項目を設定することが出来るが、日常臨床の場で発現する、市販後医薬品による副作用情報の評価に用いる algorithmの項目設定は、情報の質・量などを十分考慮し、実用的な範囲に限定して設定することが重要である。

現在、世界各国で用いられる algorithmの着眼点は

  1. 時間的関係
  2. 副作用の既知・未知
  3. 投与中止後の経過
  4. 再投与
  5. 他医薬品、併用処置の影響
  6. 原疾患、合併症、素因などの要因

にまとめられる。

設問 yes(B1) un-known(B2) no(B3)

薬剤投与と副作用発現との時間的関係はあるか(A1)

+2 ?2

薬剤中止後、副作用は軽減・消失したか(A2)

+1 ?1
説明できる病態要因があるか(A3) +1 ?1

説明できる併用薬・併用措置があるか(A4)

+1 ?1

既知所見か又は薬理作用などから推定可能か(A5)

+1
再投与、薬剤感受性試験で陽性か又は過量投与か(A6) +4 *

*未実施例を含む

設問中の6項目の着眼点について調査した結果は

  1. 肯定材料がある場合(B1=yes)
  2. 材料不足又は材料がない場合(B2= unknown)
  3. 否定材料がある場合(B3=no)
definite 7-10点
probable 5-6点
possible 2-4点
remote 1-?5点

 

A6を除く5項目のうち3項目以上の不明の場合は unknownとなる。

[615.8.ALG:2003.12.9. 古泉秀夫]


  1. 伊藤正男・他総編集:医学書院医学大辞典:医学書院,2003
  2. 三省堂編修所・編:コンサイス外来語辞典 第2版;三省堂,1978
  3. 赤堀侃司・監修:標準パソコン用語事典;株式会社秀和システム, 2001
  4. 堀岡正義・編著:医薬品情報-その考え方と実際;薬業時報社,1990

イソジン液の使用濃度について

日曜日, 1月 6th, 2008

KW:滅菌・消毒・ポビドンヨード・Povidone-Iodine・イソジン液・有効ヨウ素・遊離ヨウ素

 

Q:『ポビドンヨードの濃度には、有効ヨウ素濃度と殺菌作用に直接関与する遊離ヨウ素濃度があ る。10w/v%-ポビドンヨード原液では、有効ヨウ素濃度は10,000ppmであり、遊離ヨウ素濃度は1ppmである。100倍希釈した0.1w/v%溶液では、有効ヨウ素は100ppm (0.01w/v%)であるが、遊離ヨウ素濃度は最高濃度25ppmである』とする資料が見られるが、殺菌作用に直接関与する遊離ヨウ素濃度が最高値となる0.1w/v%-ポビドンヨード溶液が最も有効ということか

A:10w/v%-Povidone-Iodine製剤である『イソジン液(明治製菓)』の添付文書に記載されている用法・用量は次記の通りであり。原液での使用を指定している。

 

手術部位(手術野)の皮膚 の消毒、手術部位(手術野)の粘膜の消毒 皮膚・粘膜の創傷部位の消 毒、熱傷皮膚面の消毒、感染皮膚面の消毒
本剤を塗布する。 本剤を患部に塗布する。

 

なお、Povidone-Iodineの殺菌機序について、次の報告がされている。

Povidone-Iodine液はヨウ素を遊離し、その遊離ヨウ素I2が 水を酸化して生じるH2OI+ が、細菌表面の膜蛋白(-SHグループ、チロシン、ヒスチジン)と反応することにより、細菌及びウイルスを死滅させると推定されている。

理論的には、水溶液において、Povidone-Iodineの100倍希釈濃度で遊離ヨウ素濃度が高いが、この遊離ヨウ素が微生物又は有機物と接触して不活化(蛋白結合ヨウ素等)された後の遊離ヨウ素の補給を考慮すれば、原液又は原液に近い濃度での使用が望ましいと考えられるとする報告が見 られる。

希釈倍率と有効ヨウ素の関係は下記の通りである。

  Povidone-Iodine 有効ヨウ素 遊離ヨウ素濃度
原液(10w/v%) 100mg/mL(10w/v%)100,000ppm) 10mg/mL(1w/v%)(10,000ppm) 1ppm
10倍希釈 10mg/mL(1w/v%)(10,000ppm) 1mg/mL(0.1w/v%)(1000ppm)  
100倍希釈 1mg/mL(0.1w/v%)(1000ppm) 0.1mg/mL(0.01w/v%)(100ppm) 25ppm(最高濃度)
1000倍希釈 0.1mg/mL(0.01w/v%)(100ppm) 0.01mg/mL(0.001w/v%)(10ppm) 10ppm*

*:グラフから推定

以上の各報告から10w/v%-Povidone-Iodine製剤の100倍希釈溶液は、理論的には殺菌力が強いとすることができる。

ただし、臨床現場における微生物の消毒は、必ずしも瞬間的な接触により殺滅可能な菌量とは限らず、一定時間継続的に接触することによる効果が期待される場合もあるので、添付文書の規定濃度で使用すべきである。

[615.28POV:2004.4.6.古泉秀夫]


  1. イソジン液インタビューフォーム,2002.9.改訂
  2. イソジン液パンフレットNo.238(AD),2001.7.
  3. 第十四改正日本薬局方解説書;広川書店,2001
  4. 小林寛伊・編:改訂消毒と滅菌のガイドライン;へるす出版,2004
  5. イソジン液添付文書,2001.6.改訂

インポテンス治療薬バゾマックスについて

日曜日, 1月 6th, 2008

KW:薬名検索・インポテンス治療薬・勃起機能・バゾマックス・ vasomax・ゼットマックス・Z-max

 

Q: 新しいインポテンス治療薬のバゾマックスがFDAに申請されたというが、これはどの様な薬か

A:インポテンス治療薬バゾマックス(vasomax)は、Zonagen 社(ゾナジェン社)の開発した勃起機能を高める薬で、成分名はフェントラミン・メシル酸(phentolamine mesilate) である。

商品名ゼットマックス(Z-max)は、メキシコで承認販売された本品の商品名である。

phentolamine mesilateは、白色の結晶性粉末。水に易溶。交感神経抑制薬のうちα-受容体遮断薬に属する。

筋注又は静注によりカテコールアミン産生過剰となり、血圧を急激に下降させる。

細胞腫瘍摘出時の発作性高血圧の予防、細胞腫の診断に用いるとする報告が見られる。

その他、phentolamineはイミダゾリン誘導体 (imidazoline derivatives)で、競合的α受容体遮断作用の他に交感神経刺激作用(心筋興奮、冠血管拡張)を示し、その他副交感刺激作用(消化管運動亢進、唾液腺、汗腺、気道分泌促進)ヒスタミン様作用(胃液分泌促進、末梢血管拡張)、抗セロトニン作用など広範な薬理作用を有している。

本剤を静脈投与した場合、血圧は心臓興奮と血管拡張の両効果の割合に従って変動し、phentolamineは血圧降下を起こす。

臨床的には褐色細胞腫の診断、末梢循環障害の治療などに僅かに用いられている。

副作用は主に心臓作用(頻脈、不整脈)、消化管運動促進による胃腸管刺激作用(腹痛、悪心、嘔吐、下痢)である等の報告が見られる。

[011.1.PHE:2004.2.16. 古泉秀夫]


  1. 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
  2. 藤原元始・他編:医科薬理学;南山堂,1986

医薬品等の個人輸入について

日曜日, 1月 6th, 2008

KW:法律・規則・個人輸入・医薬品・化粧品・医薬部外品・医療用具・輸入禁止医薬品・血糖降下薬・要指示薬・覚せい剤・ワシントン条約・ CITES・レッドブック・自己責任

 

Q:医薬品等の個人輸入について、手続き等は定められているか

 

A:個人が自ら使用するために医薬品・化粧品等を海外から個人輸入又は持ち帰る場合は、業として行うのではないため、厚生労働大臣の許可は特に必要 とされていない。

この点に関しては、厚生労働省医薬局監視指導課・厚生労働省医薬局麻薬対策課による『医薬品や化粧品などの個人輸入について』が、平成13年4月1 日付で発出されていたが、平成16年4月1日厚生労働省医薬品食品局監視指導・麻薬対策課から新たに『医薬品や化粧品などの個人輸入について』とする文書が発出された。

  • 医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器を営業のために輸入する場合は、薬事法に よって、厚生労働大臣の許可が必要です。
  • 個人が自分で使用するために輸入する場合又は海外から持ち帰る場合は、厚生大臣の許 可は必要ありませんが、輸入できる数量が以下のとおり制限されています。

この場合は、勿論、他人への販売・授与はできません。

該当品目 個人輸入許容量及び制限規定
1.医薬品又は医薬部外品

2カ月分以内

  • ただし、毒薬、劇薬及び処方せん薬は1カ月分以内
  • 外用剤(毒薬、劇薬及び処方せん薬は除く)は1品目24個以内
  • 医薬部外品:養毛剤、浴用剤など人体への作用が緩やかなもの
  • 処方せん薬:使用に当たっては処方せんの交付が必要な医薬品
  • 外用剤:軟膏、点眼剤など

2.化粧品

1品目24個以内

3.医療機器

1セット(家庭用のみ)

  • 電気マッサージ器などのうち家庭用のものに限る。

 

《安全性の保証》

 

  • 日本国内で販売される医薬品・化粧品等は、薬事法で有効性と安全性が確認されています。
  • 個人輸入の場合は、品物が外国から消費者個人に送られますので、このような保証はありません。ご注意下さい。
[事例]
  1. 医薬品に人体に有害な量の「ヒ素」や「水銀」が含まれていた事例。
  2. 糖尿病薬として海外で購入した医薬品に、日本では処方せん薬に指定されている 血糖降下剤が配合されていた事例。
  3. 化粧品に「水銀」など日本では禁止されている成分が配合されていた事例。

 

分類 一般名
スルホニール尿素系(SU剤) acetohexamide、 chlorpropamide、glibenclamide、gliclazide、glyclopyramide、tolazamide、 tolbutamide
スルホンアミド系 glybuzole
ビグアナイド系 buformin hydrochloride、metformin hydrochloride
インスリン抵抗性改善薬 pioglitazone hydrochloride

食後過血糖改善薬(α-グルコシダーゼ阻害薬)

acarbose、 voglibose、
速効型食後血糖降下剤 nateglinide

 

《輸入が禁止されている医薬品》

 

  • 覚せい剤(アンフェタミン、メタンフェタミンなど)は、覚せい剤取締法によって、輸入できません。
  • 麻薬及び向精神薬を輸入する場合は、麻薬及び向精神薬取締法によって、地方厚生局長の許可が必要です。申請窓口は麻薬取締部。
  • 『ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約;Convention on Internatonal Trade Endangerred Species Wild Fauna and Flora;CITES)”』に基づき、自由に輸入できない医薬品や医薬品原料があります。
動物名 概要
犀角(サイカク) 基原動物:附属書I。商業取 引が一切認められないものに分類-税関で所有権の放棄。
麝香(ジャコウ) 中国産麝香鹿:附属書II。 中国政府発行の輸出許可証の添付-商業取引可能。海外旅行の土産としては持ち込めない。
虎骨(ココツ)

基原動物:附属書I。商業取 引が一切認められないものに分類。虎骨酒、海馬補腎丸、活絡丹、参茸虎骨丸等も対象-税関で所有権の放棄。

熊胆(ユウタン) 基原動物:附属書I(アメリ カクロ熊除外)。中国では養殖を行い、屠殺せずに熊胆採取の方法実用化。飼育されたことを証明する原産国の輸出許可書添付-輸入可能。海外旅行の土産としては持ち込めない。

 

《医薬品や化粧品などの個人輸入について》
  • もっと詳しい内用をお知りになりたい場合は、内容に応じ、以下までご相談下さい。
  • 医薬品、医薬部外品、医療機器に関しては、通関する税関を担当する地方厚生局薬 事監視専門官にお尋ね下さい。
問い合わせ内容 問い合わせ先
医薬品・化粧品・医薬部外 品・医療機器等

厚生労働省地方厚生局薬事監 視専門官

関東信越厚生局
電話 : 048-740-0800
FAX : 048-601-1336
(函館税関、東京税関及び横浜税関)
近畿厚生局
電話 : 06-6942-4096
FAX : 06-6942-2472
(名古屋税関、大阪税関、神戸税関、門司税関及び長崎税関)
九州厚生局沖縄麻薬取締支所
電話 : 098-854-2584
FAX : 098-834-8978
(沖縄地区税関)

ワシントン条約

経済産業省貿易経済協力局貿 易管理部貿易審査課電話 : 03-3501-1659

麻薬、向精神薬、覚せい剤等

厚生労働省医薬食品局監視指 導・麻薬対策課あへん係FAX : 03-3501-0034

 

[615.1.IMP:2001.3.30.古泉秀夫・2005.8.1.改訂]


  1. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2001
  2. ワシントン条約:
    http://www.yokohama-customs.go.jp/washington.htm, 2001.3.30.
  3. 日本への持ち込みが規制されている野生生物製品ガイド:
    http: //www.twics.com/~trafficj/souvenirlist.html,2001.3.30.
  4. 日本製薬団体連合会ワシントン条約関係委員会:ワシントン条約と医薬品;日本薬剤師会雑誌,49(7):1263-1265(1997)

ウルシかぶれについて

日曜日, 1月 6th, 2008

KW:毒性・中毒・ウルシ・漆・かぶれ・過敏症・接触性皮膚炎・マンゴー・ギンナン・銀杏・カシューナッツ

 

Q:『漆皮膚炎を起こした人はマンゴー、銀杏、カシューナッツでも同様の皮膚炎を起こすとされていますが、漆かぶれを起こす人すべてに当てはまるのでしょうか。また、それはどの部分(幹・枝、葉、果実、等)への接触によるもので、どういう状態のもの(自生状態、切断もしくは剥皮等)への接触に起因するものなのでしょうか。

 

A:それぞれの植物について、調査した結果は次の通りである。

和名 分類 成分等
ウルシ(漆)

ウルシ科ウルシ属

学名:Rhus vern-iciflua Satokes

樹液・気化成分で接触性皮膚炎

中国、印度、ヒマラヤ原産。日本には奈良時代に渡来。潤液(ウルシル)、塗汁(ヌルシル)の略号。樹皮からウルシ液を取るため植栽される。

[薬用部分]樹脂(乾漆<カンシツ>:日本では未製造)。

[成分]フェノール性化合物のウルシオール、ハイドロウルシオールの他、マンニトール、ゴム質を含む。

[薬効・薬理]ウルシオールはラッカーゼによって酸素と結合し、黒色樹脂状に変わり、急性皮膚炎を起こさせる成分となる。

*ウルシの樹液には刺激性のurushiol、 hydrourushiolが含まれ、樹液が皮膚に付着すると皮膚発赤が起こり、掻痒を伴う炎症や水疱ができる。その後激痛が起こることがある。
個人差もあるが、気化した有毒成分に反応し、過敏な人は漆の木に近づいたり、燃やした煙に当たったりしただけでもかぶれることがある。

ハゼノキ
(琉球ハゼ)

黄櫨、櫨

ウルシ科ウルシ属

学名:Rhus succe-danea L.

樹液で接触性皮膚炎

沖縄から来たハゼの意。本州関東地方南部以西、四国、九州、沖縄及び韓国の済州島、台湾、中国、マレーシア、印度に分布し、採鑞低園樹等に植栽される落葉高木。

[薬用部分]核果から得られる木鑞、櫨鑞。

[成分]脂肪酸のパルミチン酸、オレイン酸、ヤパニン酸、ペラゴニン酸、ステアリン酸のグリセリドを含む。

ヤマハゼ
(ハニシ)

ウルシ科ウルシ属

学名:Rhus silves-tris Sieb.et Zucc.

樹液で接触性皮膚炎

古名ハニシは埴締の略。本州東海道地方から沖縄、朝鮮、台湾、中国。

[薬用部分]果実、葉、根。果実は絞って木蝋。

[成分]果実には脂肪油としてパルミチン酸グリセリド等。葉にはロイホリン、枝にはフィゼチン、フスチンを含む。

ヤマウルシ
(山漆)

ウルシ科ウルシ属

学名:Rhus trichocarpa Miq.

樹液で接触性皮膚炎

山地生のウルシの意。日本各地の山林中に生える落葉低木。

[薬用部分]根皮、果肉の脂肪質(木蝋)。

[成分]種子にパルミチン酸、オレイン酸、ペラゴリン酸、ステアリン酸、トリパルミチン、トリコカルビン酸等を含む。

心材にはフラボノイドのフスチン、フィゼチンの他、β-シトステロールが含まれる。

カスミノキ
(別名:ハグマノキ、煙の木)

ウルシ科コチヌス属

学名:Cotinus coggygria Scop.

ヒマラヤ・南欧原産。

[英]:Smoke Tree。

チャンチンモドキ ウルシ科チャンチンモドキ属

学名:Poupartia fordii Hemsl.

センダン科の香椿(チャンチン)に類似していることに由来。日本では熊本県、鹿児島県の山中に稀に自生

カシューナッツ

(カシュ樹実)

[英]cashew nuts

ウルシ科カシューノキ属

学名:Anacardium occidentale L.

樹液で接触性皮膚炎

西印度、中米原産で、熱帯各地。

[英] Cashew。

ウルシ科の常緑高木。

カシュ樹実の殻に含まれる油のフェノール成分とホルムアルデヒドを反応させて得られる樹脂がカシュー塗料の原料。

[薬用部分]樹皮・根皮。

[成分]樹皮-タンニン。生種子-アナカルジア酸及びカアルドールを含み、かぶれを起こす。種子は火熱を加えて有毒成分を分解する。

コショウボク
(ピンクペッパー)

ウルシ科サンショウモドキ属

学名:Schinus molle

樹液で接触性皮膚炎

[英]Peruvian peppertree、 California peppertree。

[英]pinkpepperは胡椒木の実。

胡椒木の熟した果実をピンクペッパーとして使用する場合、種子や果肉には苦味とともに胡椒類似の味がするとされているが、辛味成分は一切含まれていないとする報告も見られる。彩りに加えられる。

ピスタチオ

ウルシ科カイノキ属(トリバハゼノキ属)

学名:Anacardiaceae Pistacia。

[英]pistachio nuts。

ウルシ科カイノキ属の樹木の実。原産は地中海沿岸。

農耕文明の初期以来、この地に自生していた原種を食用に栽培してきたもので、現在の生産量はイランが世界一。

ピスタチオの脂質にはオレイン酸、リノール酸などの不飽和脂肪酸が豊富に含まれている。また、食物繊維が特に多く、ビタミンB1、カリウム、鉄、銅も多く含まれている。

マンゴー(亡果)但し、『亡』は木偏。

ウルシ科マンゴー属

学名:Mangifera indica L.。

印度北東部から北ビルマのヒマラヤ山麓地域原産。[英]: Man-go。

[薬用部分]果実、葉、樹皮。

[成分]果実にマンギフェロン酸、アンボン酸などのトリテルペン、ガロタニン等のポリフェノール、多種のカロチノイド、ビタミンC等を含む。葉、樹皮にマンギフェリン、タンニンなどを含む。

接触性皮膚炎を惹起する成分であるレゾルシン誘導体のカアルドール(cardol-I・cardol-II)は主に Mangoの果皮の部分に含まれているが果肉にも少量含まれている。

症状は顔面、特に口の周りに発現しやすく、赤く腫れて小水疱ができ、強い掻痒を伴う。

[治療]:ステロイド剤の外用。Mangoで接触性皮膚炎を惹起する者は、ウルシ、ギンナンでも皮膚炎を起こすため注意。

イチョウ
(公孫樹、銀杏)

イチョウ科イチョウ属

学名:Ginkgo biloba L.。

外種皮の外層は粘液に富む肉質で特有の臭気を有し、粘液が皮膚につくと炎症を惹起する。

中国原産。鴨脚(ヤアチャオ)の中国宋代の音読の転訛とされる。

日本全土に広く植栽されている落葉高木。

[薬用部分]種子(銀杏<ギンキョウ>)、白果<ハクカ>

[成分]外種子にはフェノール性化合物のギンゴール酸、ビロボール、微量の青酸配糖体。種子を多食又は生食すると中毒を起こし、ときに死亡することがあるので注意が必要。澱粉、脂肪。
葉にフラボノイドのイソラムネチン、ギンゲチンが含まれる。

 

ウルシ科(Anacardiaceae)は双子葉植物に属する科で、70属980種ほどを含む。木本で温帯から熱帯に分布する。果実は核果。花は単性。樹脂を含み、これを漆などの塗料として利用するが、特にウルシに近縁の種(Rhus及びToxicodendron 属)はurushiolを多く含み、これによってアレルギー性皮膚炎を起こしやすい。また、果実の果肉に高融点の中性脂肪を含むものが多く知られ、しばしばこれを広義の蝋として利用する。種子の中の胚の子葉に蓄えられた貯蔵栄養素も、主として脂肪であるものが多く、ナッツ類として食用になるものがある。

なお、ウルシによるアレルギー性皮膚炎を惹起した者では、他のウルシ科の植物による交叉感作が起こりえる。また銀杏の含有成分は、ウルシ科の含有成分と化学構造が類似しており、銀杏ににかぶれる者はウルシ科の植物にかぶれる可能性がある。

山野でかぶれを起こす植物の代表は、山櫨の木、山漆、蔦漆等の漆の仲間である。これらの植物では有毒成分が気化しており、人によっては近くを通るだけで発赤を伴う皮膚炎を起こすことがある。樹液にはurushiolが含まれており、樹液が皮膚に付着するとアレルギー反応を惹起し皮膚炎を生じる。

樹液にかぶれるだけではなく、イラクサなどでは葉や茎の表面の刺毛が皮膚に刺さり、中に含まれるヒスタミンが体内に入って皮膚炎を起こすこともある。また、山芋の周皮を剥くときや摺り下ろしたとろろを食べたとき、手や口のまわり等かぶれるのは、山芋の芋に含まれる蓚酸カルシウムの針状結晶が皮膚に刺さり、機械的な刺激と中に含まれるヒスタミンなどの成分により、化学的な刺激やアレルギー反応が加わって皮膚炎を起こすからである。

 

植物による接触性皮膚炎の発症機序

 

刺激性接触皮膚炎
 
<機械的刺激>:肉眼的・顕微鏡的に観察できるトゲにより、皮膚に機械的刺激が加わることで起こる。:(例)針状結晶をもつシュウ酸カルシウムが含まれているサトイモ。<化学的刺激>:葉汁、茎汁、果汁に含まれる化学物質が皮膚を刺激して起こる。:(例)蛋白質分解酵素をもつパイナップル。

アレルギー性接触皮膚炎
 
原因植物に感作され、アレルギー反応を起こす。:(例)果肉部に感作を起こす成分がある銀杏。
 
光接触皮膚炎
 
皮膚に接触した物質が光にあたることによって刺激物質に変化し、炎症を起こす。:(例)ライムなどの柑橘系やイチジクなどのクワ科植物。
 
アレルギー性接触性皮膚炎(即時型反応によるもの)
 
感作が成立している人に、再度同一抗原あるいは化学構造上類似した物質が接触することにより即時的に生じるもの:レタス、タマネギ、ニンニク、ソバなど
 
遅延型反応によるもの(反応が遅いもの)
 
ウルシ、ハゼノキ、イチョウ、銀杏、プリムラ・オブコニカ、キク、シソなど

[63.099.URU:2006.5.21.古泉秀夫]


  1. 原色牧野日本植物図鑑 I(コンパクト版);株式会社北隆館,2003
  2. 原色牧野日本植物図鑑 II(コンパクト版);株式会社北隆館,2000
  3. 原色牧野日本植物図鑑 III(コンパクト版);株式会社北隆館,2002
  4. http://www.allergy- i.jp/hifu/faq/iga/index_iga07_05.html,2006.5.21.
  5. http: //www.sankyo.co.jp/healthcare/kahun/allergy/syokubutu.html,2006.5.21.
  6. 薬科学大事典 第2版;廣川書店,1990
  7. ハーブスパイス館;株式会社小学館,2000
  8. http://tokyo.cool.ne.jp/nutsno1/page032.shtml, 2006.5.21.
  9. 三橋 博・監修:原色牧野和漢薬草大圖鑑;北隆館,1988
  10. http://www.kyoto-phu.ac.jp/kpu- news/garden/ityou.html,2006,5.21.
  11. 小川賢一・他監修:危険・有毒生物;株式会社学習研究社,2003

エフェドラ属(genus ephedra)に分類される植物

金曜日, 1月 4th, 2008

KW:薬名検索・健康食品・エフェドラ属・genus ephedra・麻黄・Ephedra Herba・草麻黄・華麻黄・田麻黄・ephedrine・pseudoephedrine

 

Q: エフェドラ属に分類される植物としてどの様なものがあるか

 

A: 麻黄(Ephedra Herba)基原植物であるEphedra spp.は、ユーラシア大陸に約40種、アフリカに11種、アメリカ大陸南部に約30種分布しているが、これを薬として活用し、現在も頻用しているのは、漢民族及びその文化圏の人々だけであるとする報告がされている。

麻黄属(genus ephedra)に属する植物として、次の植物名が確認できたが、本表以外の麻黄属の植物名については不明である。

学名 成分等

Ephedra sinica Stapf麻黄(マオウ)

(英名:Ephedra Herba)

別名:華麻黄(カマオウ)・草麻黄(ソウマオウ)・田麻黄(デンマオウ)

遼寧、河北、河南、山西、陜西、内蒙古などの乾燥地に自生する。多年生草本状小低木、高さ20-40cm。主アルカロイドの(-)-ephedrine、抗炎症性の本体(+)- pseudoephedrine、ephedroxaneの他、副アルカロイドとして(-)-norephedrine、(-)-N- methylephedrine、(-)-N-methylpseudoephedrine、(+)- norpseudoephedrine等、アルカロイドの揮発性成分ベンジュールメチルアミンを含んでいる。

このうち主要成分はL-ephedrineである。

Ephedra equisetina Bunge木賊麻黄(モグゾクマオウ・トクサマオウ)

河北、山西、陜西、内蒙古、 甘粛、新疆、四川西部などの乾燥地に自生する。小低木、高さ30-50cm。主要成分は(-)-ephedrine、(+)-pseudoephedrine である。
Ephedra intermedia Schrenk et C.A.Meyer中麻黄(チュウマオウ) 甘粛、新疆、青海、内蒙古な どの砂地に自生する。低木、高さ1mに達する。多量の(-)-ephedrineを含む。
Ephedra linkiangensis Florin麗江麻黄(レイコウマオウ) 雲南、四川に分布。草質茎を 麻黄として使用。
Ephedra przewashii Stapf膜果麻黄(マクカマオウ) 内蒙古、新疆、甘粛、青海に 分布。草質茎を麻黄として使用。
Ephedra distachya L.双穂麻黄(ソウスイマオウ) 東北、新疆に分布。草質茎を 麻黄として使用。

 

なお、国内では、dietary supplement中に『麻黄』を配合することは禁止されているが、米国では痩身目的のdietary supplementに配合されていた。しかし、今回、米国においてもdietary supplement中に麻黄を配合することは禁止された。

『米FDAは、Ephedra含有栄養補助食品の販売禁止の予定を発表するとともに、ephedra含有栄養補助食品の安全性について消費者向けの警告を発行(2003年12月30日付)。

ephedra製品の購入および使用を速やかに中止するよう消費者に対し警告。また、2003年12月30 日に、ephedrineアルカロイド含有の栄養補助食品による疾病または傷害の過度のリスクについてfinal ruleを発表する予定であることを製造業者に通知(2003年12月30日付)』とする報告がされている。

 

[011.1.EPH:2004.3.9.古泉秀夫]


  1. 伊澤一男:薬草カラー大事典;株式会社主婦の友社,1998
  2. 奥田拓男・他:天然薬物・生薬学;廣川書店,1993
  3. 和漢薬ハンドブック;富山県薬剤師会,1992
  4. 高木敬次郎・他:和漢薬物学;南山堂,1983
  5. 上海科学技術出版社・編:中薬大辞典;小学館,1998
  6. http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/diet/jirei/ephedra.html#17,2004.3.9.

エトポシド注の安定性

金曜日, 1月 4th, 2008

KW:物理化学的性状・安定性・エトポシド注・etoposide・VP- 16・結晶析出・ラステット注

 

Q:エトポシド注投与中の点滴ライン中に結晶を認めた。以前同様の組み合わせの化学療法メニューを行った時には、結晶の析出は認めなかった。結晶析出の理由は

 

A:etoposide(VP-16)の性状について、次の通り報告されている。

*etoposideは、白色の結晶又は結晶性の粉末である。メタノールにやや溶け難く、エタノール(99.5)に溶け難く、水に極めて溶け難い。融点:約260℃ (分解)。

なお、etoposideの製品であるラステット注(日本化薬)の性状について、微黄色-淡黄色澄明のわずかに粘性の液であるとされている。pH: 3.5-4.5 (本剤5mLを生理食塩液500mLで希釈時)・ 3.3-4.3 (本剤5mLを生理食塩液250mLで希釈時)、浸透圧比: 約1 (本剤5mLを生理食塩液500mLで希釈時)・約2 (本剤5mLを生理食塩液250mLで希釈時)。

また、本剤投与時の注意として『100mgあたり250mL以上の生理食塩液等の輸液に混和し、30分以上かけて点滴静注する』。適用上の注意として『1.調製方法:本剤は溶解時の濃度により、結晶が析出することがあるので0.4mg/mL濃度以下になるよう生理食塩液等の輸液に溶解して投与すること。溶解後はできるだけ速やかに使用すること』とする記載がされている。

*etoposideは水に極めて溶け難く、高濃度水溶液の場合、結晶を析出する。結晶析出までの時間は、高濃度の方が早く、溶解液の種類によっても異なる。

ラステット注では、実使用例として、次の注意事項を配布している。

*稀釈後永く放置しておくと結晶が出てきますので、適切な時間で点滴静注して下さい。

希釈倍率

濃度(生理食塩水稀釈時)

結晶析出迄の最小時間 希釈液使用制限時間
100 約0.2mg/mL:1瓶を500mLに加えて稀釈 9時間 6時間以内
50 約0.4mg/mL:2瓶を500mLに加えて稀釈 4.5時間 3時間以内
40 約0.5mg/mL:2.5瓶を500mLに加えて稀釈 4.5時間 3時間以内
33 約0.6mg/mL:3瓶を500mLに加えて稀釈 3時間 2.5時間以内
25 約0.8mg/mL:4瓶を500mLに加えて稀釈 45分 30分以内
20 約1.0mg/mL:5瓶を500mLに加えて稀釈 30分 20分以内

 

その他の報告として *輸液配合後の結晶析出までの時間は、次の通り報告されている。

  0.4mg/mL 0.6mg/mL 0.8mg/mL
生理食塩液 24時間 6時間 2時間
5%-ブドウ糖 36時間 8時間 2.5時間

また、いずれの輸液で稀釈したとしても、0.6mg/mL以上の濃度で投与する際には、濃度が増すにつれて結晶析出時間が早まることが認められるので、点滴時間の設定には十分な注意が必要であるとする報告が見られる。

[014.4.ETO:2005.3.8.古泉秀夫]


  1. ラステット注添付文書,2005.2.改訂
  2. 柳沢孝次・他:エトポシド注の各種輸液稀釈後の結晶析出に関する検討;新薬と臨床,45(5):999-1002(1996)
  3. 幸道秀樹・他:エトポシド注(ベプシド、ラステット)輸液配合後の結晶析出の検討;化学療法の領域,11(6):165-168(1995)
  4. 国立国際医療センター医薬品情報管理室・編:医薬品情報,27(4): 322-323(2000)

オキシコンチンとMSコンチンの効力比較

木曜日, 1月 3rd, 2008

KW:臨床薬理・オキシコンチン徐放錠・塩酸オキシコドン・oxycodone hydrochloride・MSコンチン錠・硫酸モルヒネ・morphine sulfate・効力比較・体内動態

 

Q: オキシコンチンとMSコンチンの臨床的な相違点について

 

A:両剤の薬効薬理作用について、次の通り報告されている。

一般名 oxycodone hydrochloride
(塩酸オキシコドン)
morphine sulfate
(硫酸モルヒネ)
商品名(会社名)

オキシコンチン徐放錠
(塩野義)

MSコンチン錠
(塩 野義)
含有量(1錠中) 5mg・10mg・ 20mg・40mg 10mg・ 30mg・60mg
適応症 中等度から高度の疼 痛を伴う各種癌における鎮痛 激しい疼痛を伴う各 種癌における鎮痛
用法・用量 通常、成人 oxycodone hydrochloride無水物として1日10-80mgを2回に分割投与。適宜増減。 通常、成人 morphine sulfateとして1日20-120mgを2回に分割投与。適宜増減。
作用機序 morphine同 様にμ-オピオイド受容体を介して鎮痛作用を示すものと考えられる。

μ-オピオイド受容 体を介して作用を示す。大脳皮質知覚領域の痛覚域値を上昇させるほか、痛覚伝導路のうち脊髄以上の部位に作用し、脳幹の下降性抑制系の賦活や視床及び脊髄後角を抑制する。

鎮痛作用 morphine sulfateの3-6倍(ED50値)・3-4倍 (効力比)。鎮痛活性:0.1-2.0。 morphine hydrochlo-rideとの比較で、ほぼ同等の効力(ED50値)。鎮痛活性:1。
疼痛コントロール率 90%(オピオイド 系鎮痛剤非使用例及び使用例共に) 94.3-96.9% (MSコンチン錠投与例10mg-60mg製剤)
最高血漿中濃度 oxycodone として23.3ng/mL 29.9ng/mL(10mg 錠×3錠)
Tmax oxycodone として2.5時間 2.7時間
AUC0-48 303.5ng・ hr/mL 165.5ng・ hr/mL(AUC0-12計算値)
t1/2 5.7時間 2.58時間
血漿蛋白結合率 45-46% 約35%
体組織移行率 速やかに全身に分布 し、殆どの組織で投与約1時間後に最高濃度を示し、その後速やかに低下。作用部位である脳内消失は他の組織に比べ緩徐(ラット)。  
代謝 代表関与酵素
CYP2D6(→oxymorphone)、CYP3A4(→noroxycodone)
morphineは 主としてグルクロン酸抱合を受け、morphine-3-glucuro-nide及びmorphine-6-glucuronideに代謝される。
肝障害時投与 肝障害者に oxycodone hydrochloride徐放錠20mgを空腹時単回投与した結果、AUCは健康成人の約2倍、Cmaxは約1.5倍と有意に高値。 morphine-6 -glucuro-nideの蓄積によると考えられる遷延性の意識障害あるいは遷延性の呼吸抑制惹起の報告。
腎障害時投与

Ccr:10-60mL/min 、oxycodone hydrochloride徐放錠20mgを空腹時単回投与した結果、AUCは健康成人の約1.6倍、Cmaxは1.4倍。T1/2は1時間延長。腎障害者の鎮静作用は健康成人に比べ増加傾向。

 
食事の影響 oxycodone hydrochlo-ride徐放錠の体内動態に食事の影響は殆ど見られない。但し、160mgを抗脂肪食摂取後に投与したとき、空腹時との比較で oxycodoneのCmaxが25%増加の報告。 殆ど受けない。
バイオアベイラビリティ oxycodone hydrochlo-rideの生体利用率は健康成人で約60%、癌患者では平均87%。 生物学的利用率は 22.4%(初回通過効果受ける)
男女差

oxycodone hydrochlo-ride徐放錠20mgを空腹時単回投与した時、女性ではAUC及びCmaxが、男性より約1.4倍高値を示した。

 
高齢者 吸収、薬力学的評価 項目で、65歳以上と45歳以下の成人間に有意差無。  
母乳中移行 oxycodone hydrochlo-rideとacetaminophenの合剤経口投与時oxycodone hydrochlo-rideの乳汁/血漿中濃度の平均比率3.4(投与0.25-12時間後)。 ヒト母乳中に移行す ることがある。
排泄 尿中排泄:未変化体 として投与量の5.5±2.5%がoxycodone複合体として2.3±5.5%が排泄(24時間)。 MSコンチン錠1回 30mg、1日2回投与時の定常状態における24時間尿中総排泄率は、29.1%。
呼吸抑制 発現の可能性-息切 れ、呼吸緩和、不規則な呼吸、呼吸異常等発現→投与中止等適切処置。本剤による呼吸抑制には、麻薬拮抗薬(ナロキソン、レバロルファン等)が拮抗する。 発現の可能性-息切 れ、呼吸緩和、不規則な呼吸、呼吸異常等発現→投与中止等適切処置。本剤による呼吸抑制には、麻薬拮抗薬(ナロキソン、レバロルファン等)が拮抗する。
副作用 眠気 (53.0%)・便秘(38.4% )・嘔気(38.4%)・嘔吐(18.5%)・食欲不振(4.0%)・眩暈(3.3%)・掻痒感(3.3%) 眠気 (12.67%)・便秘(16.24%)・悪心(13.66%)・嘔吐(6.14%)・食欲不振(2.57%)・眩暈(0.40%)
作用発現時間 1時間 1時間30分
作用持続時間 12時間 12時間

 

以上、両剤を比較対照したが、必ずしも期待する項目が両剤で整備されているわけではなく、報告された資料の範囲内で類推する部分が多いのではないかと思われる。

[015.4.OXY:2005.1.25.古泉秀夫]


  1. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
  2. オキシコンチン錠添付文書,2003.10.改訂
  3. MSコンチン錠添付文書,2004.2.改訂
  4. 金 素安・他:薬の情報No.5 オキシコンチン錠;薬局,55(7):2211-2219(2004)
  5. 川股知之・他:新しい鎮痛薬と疼痛管理;日病薬誌,39(10):1229-1233(2003)
  6. 金沢賢也・他:鎮静・鎮痛薬投与による呼吸抑制;medicina,41(7):1181-1183(2004)
  7. MSコンチン錠IF,2001改訂5版
  8. オキシコンチン錠IF,2003.6.改訂第2版

オレフィン(C14-16)スルホン酸ナトリウムについて

木曜日, 1月 3rd, 2008

KW:薬名検索・オレフィン(C14-16)スルホン酸ナトリウム・テトラデセンスルホン酸ナトリウム・Sodium Tetradecene Sulfonate・α-オレフィンスルホン酸ナトリウム・AOS・界面活性剤・起泡剤・発泡剤

 

Q:オレフィン(C14-16)スルホン酸ナトリウム(クレンジング成分)の安全性・毒性等について

A:オレフィン(C14-16)スルホン酸ナトリウムについて、次の報告がされている。

項目 概要
Code 500279
表示名 オレフィン(C14-16)スルホン酸ナトリウム
種別許可成分名称 テトラデセンスルホン酸ナトリウム液
化学名

テトラデセンスルホン酸ナトリウム(一般名)。テトラデセンスルホン酸ソーダ、ソジウムテトラデセンスルホネート、1-テトラデセン-1-スルホン酸ナトリウム

英名 Sodium Tetradecene Sulfonate
別名 α-オレフィンスルホン酸ナトリウム
慣用名 AOS
INCA SODIUM C14-16 OLEFIN SULFONATE
分類 界面活性剤、洗浄剤、発泡剤

 

本品は主としてテトラデセンスルホン酸ナトリウム(C14H27NaO3S:298.42)及びヒドロキシテトラデカンスルホン酸ナトリウム(C14H29NaO4S:316.43)からなり、乾燥したものを定量するとき、テトラデセンスルホン酸ナトリウムとして90.0%以上を含む。

  • 性状:本品は、白色-淡黄色の結晶又は結晶性粉末で、僅かに特異な臭いがある。本品は水に溶け、90%-温エタノールにやや溶け易い。無水エタノールには溶け難い。水溶液は化学的に安定で、酸性下でも分解しにくい。
  • 基原:α-オレフィンスルホン酸塩(AOS)には、炭素数鎖によりC14-C19のAOSがあり、また製法上はほぼ同様の性能を持つC14-C19のヒドロキシアルキルスルホン酸塩を副生物として含む。従ってテトラデセンスルホン酸ナトリウムは、正確にはAOSを代表する一成分である。AOSは直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)に匹敵する洗浄力、起泡性を持ち、また比較的皮膚刺激も弱く、テトラデセンスルホン酸塩(C14AOS)は香粧品や台所洗剤にも汎用され、更に衣料用洗剤にも利用されている。
性質・作用

 

  1. 粘度特性:温度変化(10-60℃)により変化が少なく、20-30(cp)である。
  2. 生分解性:生分解度(JIS K-3363)は99%以上とよく、生分解速度も4日間で分解が終了し速い。
  3. 安全性:テトラデセンスルホン酸ナトリウムとしては特定していないが、AOSを対象として非常に多くの試験が実施されており、問題ないことが確認されている。
  4. 急性毒性:マウスに対するLD50値は、経口2500-3600mg/kg、皮下注209-1660mg/kg等である。
  5. 慢性毒性・発癌性:ラットへの2年間の経口投与 (5000ppm配合飼料)、30%溶液を70週間にわたり確実に皮膚投与等の試験において、腫瘍の発生等悪影響は認められていない。その他変異原性も認められず、催奇形性、多世代試験も悪影響は見られない。更に代謝・排泄については、経口投与した場合、消化管から容易に吸収され、大部分は尿中に排泄される。
  6. 感作性・各種刺激性:モルモットを用いた感作性試験は陰性であり、動物に対する皮膚刺激試験及びヒトに対する皮膚刺激性試験、眼刺激性試験について、いずれの場合も香粧品に配合される濃度では刺激性は認められていない。

 

[011.1.TET:2006.2.20.古泉秀夫]


  1. 湯浅正治・他編著:化粧品成分ガイド 第3版;フレグランスジャーナル社,2005
  2. http://ecoassist.omika.hitachi.co.jp/LawSCRIPTS_c/index.asp,2006.2.16.
  3. 化粧品原料基準 新訂版;薬事日報社,1999
  4. 日本化粧品工業連合会・編:日本汎用化粧品原料集 第4版;薬事日報社,1997
  5. 日本公定書協会・編:化粧品原料基準 第二版追補註解;薬事日報社,1987

過酸化水素の毒性

木曜日, 1月 3rd, 2008

KW:毒性・中毒・過酸化水素・オキシドール・oxydol・hydrogen peroxide・食品添加物

 

Q:過酸化水素の毒性について

 

A:過酸化水素の性状・毒性等について、次の報告がされている。

オキシドール(oxydol)

本品は定量するとき、過酸化水素(H2O2)2.5?3.5w/v%を含む。

本品は適当な安定剤を含む。

*保存中ガラス容器のアルカリ、光などのために徐々に分解するので含量の範囲が広く取ってある。安定剤にはリン酸、バルビツール酸、尿酸、アセトアニリド、オキシキノリン、ピロリン酸四ナトリウム、その他種々のものが用いられる。

本品を放置するか、又は強く振り混ぜるとき、徐々に分解する。

本品は還元剤と強く振り動かすとき、速やかに分解する。

本品はアルカリ性にするとき、激しく泡だって分解する。

本品は光によって変化する。

*純粋な過酸化水素は、無色澄明濃稠な液体で、水には任意の割合に溶ける。

oxydolはその3w/v%溶液に当たる。エタノール、エーテルにも溶ける。水溶液の味は収斂性で僅かに苦い。

本品は酸化及び還元の両作用を有し、アルカリに対しては甚だ不安定で、分解して酸素を発生する。波長の短い光線ほど分解を促す。

<動態・代謝>成人に50?70mgを経口投与したところ、吸収には個人差があるが、投与後4時間後にほぼ同じ血中濃度(200 ?300ng/mL)を示す。また150?210mgを1日3回分服で6週間に亘って継続投与すると、7日以内に定常血中濃度に達する。

過酸化水素(hydrogen peroxide)

 

本品は過酸化水素35.0?36.0%を含む。従来は30%程度の製品が主体であったが、現在は35、50及び60%の製品が主に市販されている。食品添加物として35%濃度(35?35.5%程度)を昭和23年7月26日に指定。過酸化水素は動植物生体内で、生成と分解が繰り返されており、生鮮食品中に天然由来として微量が含まれている。また、加工食品でも、相当量が天然由来として含まれている。

食品名 含有量
ピーナッツ 2.3?4.0ppm
ホタルイカ 2.9?4.1ppm
干し椎茸 1.0?16.9ppm
0.1?0.5ppm
雲丹 1.0?0.6ppm
乾燥ひじき 0.9?20.4ppm
桜エビ 0.3?0.9ppm
カニ 0.1?2.0ppm
干しわかめ 1.3?13.3ppm

 

牛乳、コーヒー等も室温に放置しておくと、過酸化水素含有量が、経時的に増加していく現象が認められる。なお、かっては殺菌剤又は漂白剤として食品に使用されたが、昭和55年微弱ではあるが発ガン性が認められたため、使用基準により最終食品の完成前に過酸化水素を分解又は除去することを条件に認めた。このため数の子を除き、事実上使用されなくなった。数の子の場合、血筋などの漂白及び寄生虫であるアニサキスの除去目的で用いられるが、漂白後はカタラーゼ処理を行い、過酸化水素を分解している。

<代謝>生体内には過酸化水素を分解する酵素として、カタラーゼ及びオキシダーゼが存在する。両者ともヘム酵素でカタラーゼは肝臓、赤血球などに多く分布し、オキシダーゼは白血球、乳汁、多くの植物組織等に分布している。

<毒性>人体に対する毒性は、それほど激しいものではないが、皮膚に触れると痛みを感じ、特に60%以上の高濃度品は皮膚を剥離することもある。25%以上の液が皮膚や粘膜に触れると激しい炎症を起こす。眼に入ると激しい痛みを感じる。許容濃度1ppm、1.5mg/m3。過酸化水素の少量を経口投与しても、急速に小腸細胞内のカタラーゼによって分解されるため、毒性が現れないことが知られているが、0.45%の割合で飲料水に混じてラットに与えると、水並びに飼料摂取量が減じ、体重減少を招くとされている。また舌下粘膜から吸収され、静脈内でガス化することもある。稀過酸化水素水を口腔洗浄剤として連用すると、舌乳頭の毛状肥大(毛状舌)をきたすが、これは使用を中止すると消退する。

-急性毒性(LD50)-
ラット皮内 700mg/kg

静脈内 21mg/kg

<発ガン性>昭和55年に終了した研究報告によれば、飲料水に0.1及び0.4%の濃度に溶解した過酸化水素を C57Blマウスに74日間投与したところ、十二指腸に癌の発生が認められた。なお、F-344ラットにおける実験では、0.6、0.3%で78週間投与したが、実験群と対照群との間に腫瘍発生率の有意の差はなく、F-344ラットにおいては発ガン性が認められないと判定されている。なお、マーロックス(山之内製薬)のpH実測値は8.18(22℃)と報告されており、本品中に過酸化水素が添加されたとしても、アルカリにより水と酸素分解し、人体に影響する程度の残存率を示すことはないと考えられる。

また万一、一定量の残存が見られたとしても小腸細胞内のカタラーゼによって分解され水と酸素になるとされているため、人体に対する影響は殆ど考えられない。なお、今回の回収措置は、『当該製品の承認処方成分にない物質の添加』が理由であり、既に服用していた患者等から相談された場合、特に問題はない等、回答することにより患者の不安を除くことが重要である。

 

[63.099HYD:2000.8.1.古泉秀夫]


  1. 第十三改正日本薬局方解説書;広川書店,1996
  2. 谷村顕雄・監修:食品添加物公定書解説書 第7版;廣川書店,1999
  3. 後藤 稠・他編:産業中毒便覧 増補版;医歯薬出版株式会社,1992
  4. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:医薬品情報Q&A[4];株式会社ミクス,1987
  5. マーロックス回収、処方中断連絡文書;山之内製薬株式会社,2000.8.1.

化学物質による広範囲障害について

木曜日, 1月 3rd, 2008

KW:毒性・中毒・化学物質・森永砒素ミルク事件・慢性ヒ素中毒症・ヒ素ミルク事件・イタイイタイ病・カネミ油症・クロロキン網膜症・解熱剤筋注・抗生物質筋注・筋拘縮症・コラルジル肝障害・サリドマイド胎芽病・非加熱製剤によるエイズ・水俣病

 

Q:森永ヒ素ミルク事件等の化学物質による広範囲にわたる障害事例について

A:化学物質が原因として、不特定多数の国民に障害の発現した事例として、広く知られているものとして、次の事例が挙げられる。

事例名 概要
イタイイタイ病

富山県の神通川下流の一定地域に、第二次世界大戦から1956?1957年頃をピークとして、全身の激しい疼痛を主訴とする患者が多発していることが、地元の荻野昇医師(1916?1990)らによって報告され、いわゆるイタイイタイ病として注目を浴びることになった。本症は、多くは更年期の多産婦が罹患し、最初は腰痛や下肢の筋肉痛が主訴となるが、疼痛は次第に悪化し、その部位も広がり、特有のアヒル様歩行(アヒル歩行)を示すようになる。

軽度の外傷を誘因として肋骨や四肢の骨に多発性の病的骨折を生じ、全身の変形をきたし、寝たきりの状態になる。

この病的骨折の原因として、上流の鉱山から排出されたカドミウム(cadmium)を様々な経路から吸収し、それが腎に貯留し、腎尿細管障害を起こし、カルシウムとリンの尿中排泄の増加が関与しているものとされている。

但し、カドミウム単独中毒説を疑問視する意見もある。

カネミ油症

1968 年ライスオイル(rice oil:米糠油)の製造工程で熱媒体として使用されていたカネクロール400がライスオイル中に混入し、福岡県、長崎県を中心に西日本一帯でこれを摂食したヒトに発生した。ざ瘡様皮疹を主徴とする中毒症である。汚染ライスオイル中にはポリ塩化ビフェニル(polychlorinated biphenyl;PCB)に合わせてPCBの熱変化物であるポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、ポリ塩化クォータフェニル、ポリ塩化クォータフェニルエーテルが含まれており、カネクロール400の主成分であるPCBとこれらの熱変化物により本中毒症が形成されたと考えられている。

臨床上、顔面、殿部などのざ瘡様皮疹、色素沈着、眼脂過多などが特徴的所見であり、この他全身倦怠感、、四肢のパレステジア、腹痛などを呈する。

また皮膚にメラニン沈着をきたした新生児や低出生体重児の誕生、小児の成長抑制、永久歯の萌出遅延などの影響も認められている。

PCBやPCDFの排泄促進を目的とした絶食療法や吸着剤の経口投与のほか、対症療法として肝庇護薬(解毒薬)や脂質代謝改善薬などの投与が試みられているが、PCBの化学的特性のため、根治は困難である。

クロロキン網膜症

クロロキン製剤を長期間(多くは1年以上)使用することにより起こる網膜障害で、発生頻度は約2%である。初期には黄斑を取り囲むドーナツ型の萎縮病巣 (標的黄斑病巣、Bull’s eye lesion)、中心暗点、輪状暗点が出現し、進行すると網膜全体が粗造となり、動脈も狭細化し、無色素性網膜色素変性症様の眼底像、求心性視野狭窄、色覚・暗順応障害をきたす。

網膜症(retinopathy)は一端発症すると回復し難く、投薬を中止しても進行し続ける例もある。

クロロキン網膜症は社会的に薬害事件として知られている。

医原病の一つ。

解熱剤・抗生物質筋注による筋拘縮症

筋肉が繊維化し、伸展性を失うために生ずる疾患。先天的に部分的あるいは全身的に筋拘縮現象を認めることもあるが、大部分は後天性で、乳児期に注射を受けたために発症する。

筋拘縮現象を発現しやすい薬剤はpHや浸透圧が生体と大きく異なるものが多く、またその注射容量とも関係する。未熟な筋肉内に注射しても筋拘縮を起こしやすい。

注射によって筋拘縮を起こした場合は、注射部位に陥凹を認めたり索状硬結を触れたりする。後天性筋拘縮症の発生部位は、大腿四頭筋、殿筋、肩三角筋が代表的である。

我が国では一部地域に集中多発した事例がある。

コラルジル肝障害

冠拡張剤『コラルジル』による肝障害→長期にわたり服用することにより肝臓・血液等の全身細胞に異常なリン脂質やコラルジルそのものが蓄積し細胞を破壊する。1963年本邦発売。1965年血液学者の間で「泡沫細胞症候群」とする珍しい病気が話題。

1969年頃から肝臓病の分野で「リン脂質脂肪肝」とする新たな病名が報告。

1970年11月動物実験の結果、コラルジルによる副作用に起因する同一疾患であると確認。

サリドマイド胎芽病

サリドマイド剤を含んだ、催眠薬及び胃腸薬を服用した母親から出生した胎児に起こった特徴ある形態形成障害。この薬剤は我が国では 1958年(昭和33年)?1962年(昭和37年)9月まで市場にあった。

薬剤の過敏期は最終月経後34?50日であり、症状は無肢症から母指球筋低形成までの種々の程度の四肢欠損、なかでも海豹肢症(アザラシ肢症)及び無耳症や難聴などの頭部領域の障害を認めるが、内臓などの異常もある。

我が国における患者数は309名で、全世界では7000名と推定されている。

スモン(SMON)

亜急性脊髄視神経ニューロパシー(subacute myelo-optico-neuropathy)の英文の頭文字をとった病名。その本体は整腸薬として使用されたキノホルム(chin-oform)の副作用による中毒性神経障害と考えられている。

1955年頃から各地に発生し始め、1970年にキノホルムの使用が禁止されるまで約1万人が罹患した我が国最大の薬害である。

諸外国からの報告は希である。臨床症状は、下痢・便秘・腹痛などの腹部症状が先行し、引き続き急性あるいは亜急性に下肢にジンジンした耐え難いしびれ感と感覚障害が出現し上行する。

併せて他の脊髄症状(痙性麻痺、腱反射亢進、バビンスキー徴候、膀胱直腸障害)と視神経障害(視力低下、失明)を伴うことが多く、意識障害や痙攣などの脳症状が出現することがある。

主病変は脊髄後根神経節、後索、側索、視神経、末梢神経に及ぶ。

キノホルム使用禁止以後は新規の発生はないが、有効な治療法がないため、今なお多くの患者が後遺症に苦しんでいる。医原病の一つである。

非加熱製剤によるエイズ

AIDS (エイズ):ヒトレトロウイルス(human retrovirus)の一種であるレンチウイルス科(Lentiviridas)のHIV(human immunodefiency virus;ヒト免疫不全ウイルス)感染症の終末像であり、細胞性免疫が荒廃し、種々の日和見感染症や悪性腫瘍、HIV脳症(HIV encephalopathy)が生じてきた病態を指す。現在、HIVにはHIV-1とHIV-2の二種のsubtypeの存在が認知されている。

AIDSは1981年アメリカの男性同性愛者や麻薬常用者に認められる特異な疾患として報告されたが、現在ではSTD(性交渉感染症)として認識されている。

我が国では、1996年血友病患者に投与した輸入非加熱血液製剤中にHIV混入があり、血友病患者の多くにHIV感染が生じる悲劇が生じているが、これは我が国医学界における体質的な問題に起因する部分が多い。

HIV感染の感染経路としては

[1]性交渉

[2]輸血(血液)

[3]血液製剤

[4]妊娠中の母子感染(垂直感染)

等があげられる。

慢性ヒ素中毒症
(ヒ素ミルク事件)

1955 年、乳質安定剤として用いられた第二リン酸ナトリウムに亜ヒ素が混入したことが原因でヒ素ミルク事件が発生し、患者総数約一万人以上、死者130人を出した。症状は経口的には、重篤な胃腸障害(腹痛、嘔吐)と頻脈を伴う。慢性中毒は色素沈着症、角化症、多発性神経炎、気管支肺疾患、末梢循環障害などの症状がでる。

水俣病

1953年~1960年にかけて、熊本県の不知火海水俣湾周辺の住民に発生した。当初、錐体外路症状を主とした原因不明の病気とされていたが、熊本大学研究班によりメチル水銀(methylmercury)による中毒であることが判明した。

工場排水に含まれたメチル水銀が、食物連鎖(food chain)により魚介類中に濃縮され、それを長期間摂食した主に漁民に多発した。

症状ははじめ四肢末端、口周のしびれ感より、表在及び深部知覚異常、求心性視野狭窄、運動失調、言語障害など、いわゆるハンター・ラッセル症候群(Hunter-Russell syndrome)を主症状とする。

急性激症型、慢性強直型はほとんど死亡し、慢性刺激型は重症例が多い。

更に患者は多量にメチル水銀を摂取した母胎より胎盤を通過し胎児に蓄積し、産まれた子供にも脳性小児麻痺様の胎児性水俣病として発生した。

第二水俣病 1964年には新潟県阿賀野川流域においても水俣湾周辺同様なメチル水銀中毒(methylmercury poisoning)が発生しており、これを第二水俣病といっている。

 

[1998.8.24.古泉秀夫]


  1. 南山堂医学大辞典,1998
  2. 曽田 長宗・編:薬害;講談社サイエンティフィク,1981.p.467