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オキシコンチンとMSコンチンの効力比較

木曜日, 1月 3rd, 2008

KW:臨床薬理・オキシコンチン徐放錠・塩酸オキシコドン・oxycodone hydrochloride・MSコンチン錠・硫酸モルヒネ・morphine sulfate・効力比較・体内動態

 

Q: オキシコンチンとMSコンチンの臨床的な相違点について

 

A:両剤の薬効薬理作用について、次の通り報告されている。

一般名 oxycodone hydrochloride
(塩酸オキシコドン)
morphine sulfate
(硫酸モルヒネ)
商品名(会社名)

オキシコンチン徐放錠
(塩野義)

MSコンチン錠
(塩 野義)
含有量(1錠中) 5mg・10mg・ 20mg・40mg 10mg・ 30mg・60mg
適応症 中等度から高度の疼 痛を伴う各種癌における鎮痛 激しい疼痛を伴う各 種癌における鎮痛
用法・用量 通常、成人 oxycodone hydrochloride無水物として1日10-80mgを2回に分割投与。適宜増減。 通常、成人 morphine sulfateとして1日20-120mgを2回に分割投与。適宜増減。
作用機序 morphine同 様にμ-オピオイド受容体を介して鎮痛作用を示すものと考えられる。

μ-オピオイド受容 体を介して作用を示す。大脳皮質知覚領域の痛覚域値を上昇させるほか、痛覚伝導路のうち脊髄以上の部位に作用し、脳幹の下降性抑制系の賦活や視床及び脊髄後角を抑制する。

鎮痛作用 morphine sulfateの3-6倍(ED50値)・3-4倍 (効力比)。鎮痛活性:0.1-2.0。 morphine hydrochlo-rideとの比較で、ほぼ同等の効力(ED50値)。鎮痛活性:1。
疼痛コントロール率 90%(オピオイド 系鎮痛剤非使用例及び使用例共に) 94.3-96.9% (MSコンチン錠投与例10mg-60mg製剤)
最高血漿中濃度 oxycodone として23.3ng/mL 29.9ng/mL(10mg 錠×3錠)
Tmax oxycodone として2.5時間 2.7時間
AUC0-48 303.5ng・ hr/mL 165.5ng・ hr/mL(AUC0-12計算値)
t1/2 5.7時間 2.58時間
血漿蛋白結合率 45-46% 約35%
体組織移行率 速やかに全身に分布 し、殆どの組織で投与約1時間後に最高濃度を示し、その後速やかに低下。作用部位である脳内消失は他の組織に比べ緩徐(ラット)。  
代謝 代表関与酵素
CYP2D6(→oxymorphone)、CYP3A4(→noroxycodone)
morphineは 主としてグルクロン酸抱合を受け、morphine-3-glucuro-nide及びmorphine-6-glucuronideに代謝される。
肝障害時投与 肝障害者に oxycodone hydrochloride徐放錠20mgを空腹時単回投与した結果、AUCは健康成人の約2倍、Cmaxは約1.5倍と有意に高値。 morphine-6 -glucuro-nideの蓄積によると考えられる遷延性の意識障害あるいは遷延性の呼吸抑制惹起の報告。
腎障害時投与

Ccr:10-60mL/min 、oxycodone hydrochloride徐放錠20mgを空腹時単回投与した結果、AUCは健康成人の約1.6倍、Cmaxは1.4倍。T1/2は1時間延長。腎障害者の鎮静作用は健康成人に比べ増加傾向。

 
食事の影響 oxycodone hydrochlo-ride徐放錠の体内動態に食事の影響は殆ど見られない。但し、160mgを抗脂肪食摂取後に投与したとき、空腹時との比較で oxycodoneのCmaxが25%増加の報告。 殆ど受けない。
バイオアベイラビリティ oxycodone hydrochlo-rideの生体利用率は健康成人で約60%、癌患者では平均87%。 生物学的利用率は 22.4%(初回通過効果受ける)
男女差

oxycodone hydrochlo-ride徐放錠20mgを空腹時単回投与した時、女性ではAUC及びCmaxが、男性より約1.4倍高値を示した。

 
高齢者 吸収、薬力学的評価 項目で、65歳以上と45歳以下の成人間に有意差無。  
母乳中移行 oxycodone hydrochlo-rideとacetaminophenの合剤経口投与時oxycodone hydrochlo-rideの乳汁/血漿中濃度の平均比率3.4(投与0.25-12時間後)。 ヒト母乳中に移行す ることがある。
排泄 尿中排泄:未変化体 として投与量の5.5±2.5%がoxycodone複合体として2.3±5.5%が排泄(24時間)。 MSコンチン錠1回 30mg、1日2回投与時の定常状態における24時間尿中総排泄率は、29.1%。
呼吸抑制 発現の可能性-息切 れ、呼吸緩和、不規則な呼吸、呼吸異常等発現→投与中止等適切処置。本剤による呼吸抑制には、麻薬拮抗薬(ナロキソン、レバロルファン等)が拮抗する。 発現の可能性-息切 れ、呼吸緩和、不規則な呼吸、呼吸異常等発現→投与中止等適切処置。本剤による呼吸抑制には、麻薬拮抗薬(ナロキソン、レバロルファン等)が拮抗する。
副作用 眠気 (53.0%)・便秘(38.4% )・嘔気(38.4%)・嘔吐(18.5%)・食欲不振(4.0%)・眩暈(3.3%)・掻痒感(3.3%) 眠気 (12.67%)・便秘(16.24%)・悪心(13.66%)・嘔吐(6.14%)・食欲不振(2.57%)・眩暈(0.40%)
作用発現時間 1時間 1時間30分
作用持続時間 12時間 12時間

 

以上、両剤を比較対照したが、必ずしも期待する項目が両剤で整備されているわけではなく、報告された資料の範囲内で類推する部分が多いのではないかと思われる。

[015.4.OXY:2005.1.25.古泉秀夫]


  1. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
  2. オキシコンチン錠添付文書,2003.10.改訂
  3. MSコンチン錠添付文書,2004.2.改訂
  4. 金 素安・他:薬の情報No.5 オキシコンチン錠;薬局,55(7):2211-2219(2004)
  5. 川股知之・他:新しい鎮痛薬と疼痛管理;日病薬誌,39(10):1229-1233(2003)
  6. 金沢賢也・他:鎮静・鎮痛薬投与による呼吸抑制;medicina,41(7):1181-1183(2004)
  7. MSコンチン錠IF,2001改訂5版
  8. オキシコンチン錠IF,2003.6.改訂第2版

オレフィン(C14-16)スルホン酸ナトリウムについて

木曜日, 1月 3rd, 2008

KW:薬名検索・オレフィン(C14-16)スルホン酸ナトリウム・テトラデセンスルホン酸ナトリウム・Sodium Tetradecene Sulfonate・α-オレフィンスルホン酸ナトリウム・AOS・界面活性剤・起泡剤・発泡剤

 

Q:オレフィン(C14-16)スルホン酸ナトリウム(クレンジング成分)の安全性・毒性等について

A:オレフィン(C14-16)スルホン酸ナトリウムについて、次の報告がされている。

項目 概要
Code 500279
表示名 オレフィン(C14-16)スルホン酸ナトリウム
種別許可成分名称 テトラデセンスルホン酸ナトリウム液
化学名

テトラデセンスルホン酸ナトリウム(一般名)。テトラデセンスルホン酸ソーダ、ソジウムテトラデセンスルホネート、1-テトラデセン-1-スルホン酸ナトリウム

英名 Sodium Tetradecene Sulfonate
別名 α-オレフィンスルホン酸ナトリウム
慣用名 AOS
INCA SODIUM C14-16 OLEFIN SULFONATE
分類 界面活性剤、洗浄剤、発泡剤

 

本品は主としてテトラデセンスルホン酸ナトリウム(C14H27NaO3S:298.42)及びヒドロキシテトラデカンスルホン酸ナトリウム(C14H29NaO4S:316.43)からなり、乾燥したものを定量するとき、テトラデセンスルホン酸ナトリウムとして90.0%以上を含む。

  • 性状:本品は、白色-淡黄色の結晶又は結晶性粉末で、僅かに特異な臭いがある。本品は水に溶け、90%-温エタノールにやや溶け易い。無水エタノールには溶け難い。水溶液は化学的に安定で、酸性下でも分解しにくい。
  • 基原:α-オレフィンスルホン酸塩(AOS)には、炭素数鎖によりC14-C19のAOSがあり、また製法上はほぼ同様の性能を持つC14-C19のヒドロキシアルキルスルホン酸塩を副生物として含む。従ってテトラデセンスルホン酸ナトリウムは、正確にはAOSを代表する一成分である。AOSは直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)に匹敵する洗浄力、起泡性を持ち、また比較的皮膚刺激も弱く、テトラデセンスルホン酸塩(C14AOS)は香粧品や台所洗剤にも汎用され、更に衣料用洗剤にも利用されている。
性質・作用

 

  1. 粘度特性:温度変化(10-60℃)により変化が少なく、20-30(cp)である。
  2. 生分解性:生分解度(JIS K-3363)は99%以上とよく、生分解速度も4日間で分解が終了し速い。
  3. 安全性:テトラデセンスルホン酸ナトリウムとしては特定していないが、AOSを対象として非常に多くの試験が実施されており、問題ないことが確認されている。
  4. 急性毒性:マウスに対するLD50値は、経口2500-3600mg/kg、皮下注209-1660mg/kg等である。
  5. 慢性毒性・発癌性:ラットへの2年間の経口投与 (5000ppm配合飼料)、30%溶液を70週間にわたり確実に皮膚投与等の試験において、腫瘍の発生等悪影響は認められていない。その他変異原性も認められず、催奇形性、多世代試験も悪影響は見られない。更に代謝・排泄については、経口投与した場合、消化管から容易に吸収され、大部分は尿中に排泄される。
  6. 感作性・各種刺激性:モルモットを用いた感作性試験は陰性であり、動物に対する皮膚刺激試験及びヒトに対する皮膚刺激性試験、眼刺激性試験について、いずれの場合も香粧品に配合される濃度では刺激性は認められていない。

 

[011.1.TET:2006.2.20.古泉秀夫]


  1. 湯浅正治・他編著:化粧品成分ガイド 第3版;フレグランスジャーナル社,2005
  2. http://ecoassist.omika.hitachi.co.jp/LawSCRIPTS_c/index.asp,2006.2.16.
  3. 化粧品原料基準 新訂版;薬事日報社,1999
  4. 日本化粧品工業連合会・編:日本汎用化粧品原料集 第4版;薬事日報社,1997
  5. 日本公定書協会・編:化粧品原料基準 第二版追補註解;薬事日報社,1987

過酸化水素の毒性

木曜日, 1月 3rd, 2008

KW:毒性・中毒・過酸化水素・オキシドール・oxydol・hydrogen peroxide・食品添加物

 

Q:過酸化水素の毒性について

 

A:過酸化水素の性状・毒性等について、次の報告がされている。

オキシドール(oxydol)

本品は定量するとき、過酸化水素(H2O2)2.5?3.5w/v%を含む。

本品は適当な安定剤を含む。

*保存中ガラス容器のアルカリ、光などのために徐々に分解するので含量の範囲が広く取ってある。安定剤にはリン酸、バルビツール酸、尿酸、アセトアニリド、オキシキノリン、ピロリン酸四ナトリウム、その他種々のものが用いられる。

本品を放置するか、又は強く振り混ぜるとき、徐々に分解する。

本品は還元剤と強く振り動かすとき、速やかに分解する。

本品はアルカリ性にするとき、激しく泡だって分解する。

本品は光によって変化する。

*純粋な過酸化水素は、無色澄明濃稠な液体で、水には任意の割合に溶ける。

oxydolはその3w/v%溶液に当たる。エタノール、エーテルにも溶ける。水溶液の味は収斂性で僅かに苦い。

本品は酸化及び還元の両作用を有し、アルカリに対しては甚だ不安定で、分解して酸素を発生する。波長の短い光線ほど分解を促す。

<動態・代謝>成人に50?70mgを経口投与したところ、吸収には個人差があるが、投与後4時間後にほぼ同じ血中濃度(200 ?300ng/mL)を示す。また150?210mgを1日3回分服で6週間に亘って継続投与すると、7日以内に定常血中濃度に達する。

過酸化水素(hydrogen peroxide)

 

本品は過酸化水素35.0?36.0%を含む。従来は30%程度の製品が主体であったが、現在は35、50及び60%の製品が主に市販されている。食品添加物として35%濃度(35?35.5%程度)を昭和23年7月26日に指定。過酸化水素は動植物生体内で、生成と分解が繰り返されており、生鮮食品中に天然由来として微量が含まれている。また、加工食品でも、相当量が天然由来として含まれている。

食品名 含有量
ピーナッツ 2.3?4.0ppm
ホタルイカ 2.9?4.1ppm
干し椎茸 1.0?16.9ppm
0.1?0.5ppm
雲丹 1.0?0.6ppm
乾燥ひじき 0.9?20.4ppm
桜エビ 0.3?0.9ppm
カニ 0.1?2.0ppm
干しわかめ 1.3?13.3ppm

 

牛乳、コーヒー等も室温に放置しておくと、過酸化水素含有量が、経時的に増加していく現象が認められる。なお、かっては殺菌剤又は漂白剤として食品に使用されたが、昭和55年微弱ではあるが発ガン性が認められたため、使用基準により最終食品の完成前に過酸化水素を分解又は除去することを条件に認めた。このため数の子を除き、事実上使用されなくなった。数の子の場合、血筋などの漂白及び寄生虫であるアニサキスの除去目的で用いられるが、漂白後はカタラーゼ処理を行い、過酸化水素を分解している。

<代謝>生体内には過酸化水素を分解する酵素として、カタラーゼ及びオキシダーゼが存在する。両者ともヘム酵素でカタラーゼは肝臓、赤血球などに多く分布し、オキシダーゼは白血球、乳汁、多くの植物組織等に分布している。

<毒性>人体に対する毒性は、それほど激しいものではないが、皮膚に触れると痛みを感じ、特に60%以上の高濃度品は皮膚を剥離することもある。25%以上の液が皮膚や粘膜に触れると激しい炎症を起こす。眼に入ると激しい痛みを感じる。許容濃度1ppm、1.5mg/m3。過酸化水素の少量を経口投与しても、急速に小腸細胞内のカタラーゼによって分解されるため、毒性が現れないことが知られているが、0.45%の割合で飲料水に混じてラットに与えると、水並びに飼料摂取量が減じ、体重減少を招くとされている。また舌下粘膜から吸収され、静脈内でガス化することもある。稀過酸化水素水を口腔洗浄剤として連用すると、舌乳頭の毛状肥大(毛状舌)をきたすが、これは使用を中止すると消退する。

-急性毒性(LD50)-
ラット皮内 700mg/kg

静脈内 21mg/kg

<発ガン性>昭和55年に終了した研究報告によれば、飲料水に0.1及び0.4%の濃度に溶解した過酸化水素を C57Blマウスに74日間投与したところ、十二指腸に癌の発生が認められた。なお、F-344ラットにおける実験では、0.6、0.3%で78週間投与したが、実験群と対照群との間に腫瘍発生率の有意の差はなく、F-344ラットにおいては発ガン性が認められないと判定されている。なお、マーロックス(山之内製薬)のpH実測値は8.18(22℃)と報告されており、本品中に過酸化水素が添加されたとしても、アルカリにより水と酸素分解し、人体に影響する程度の残存率を示すことはないと考えられる。

また万一、一定量の残存が見られたとしても小腸細胞内のカタラーゼによって分解され水と酸素になるとされているため、人体に対する影響は殆ど考えられない。なお、今回の回収措置は、『当該製品の承認処方成分にない物質の添加』が理由であり、既に服用していた患者等から相談された場合、特に問題はない等、回答することにより患者の不安を除くことが重要である。

 

[63.099HYD:2000.8.1.古泉秀夫]


  1. 第十三改正日本薬局方解説書;広川書店,1996
  2. 谷村顕雄・監修:食品添加物公定書解説書 第7版;廣川書店,1999
  3. 後藤 稠・他編:産業中毒便覧 増補版;医歯薬出版株式会社,1992
  4. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:医薬品情報Q&A[4];株式会社ミクス,1987
  5. マーロックス回収、処方中断連絡文書;山之内製薬株式会社,2000.8.1.

化学物質による広範囲障害について

木曜日, 1月 3rd, 2008

KW:毒性・中毒・化学物質・森永砒素ミルク事件・慢性ヒ素中毒症・ヒ素ミルク事件・イタイイタイ病・カネミ油症・クロロキン網膜症・解熱剤筋注・抗生物質筋注・筋拘縮症・コラルジル肝障害・サリドマイド胎芽病・非加熱製剤によるエイズ・水俣病

 

Q:森永ヒ素ミルク事件等の化学物質による広範囲にわたる障害事例について

A:化学物質が原因として、不特定多数の国民に障害の発現した事例として、広く知られているものとして、次の事例が挙げられる。

事例名 概要
イタイイタイ病

富山県の神通川下流の一定地域に、第二次世界大戦から1956?1957年頃をピークとして、全身の激しい疼痛を主訴とする患者が多発していることが、地元の荻野昇医師(1916?1990)らによって報告され、いわゆるイタイイタイ病として注目を浴びることになった。本症は、多くは更年期の多産婦が罹患し、最初は腰痛や下肢の筋肉痛が主訴となるが、疼痛は次第に悪化し、その部位も広がり、特有のアヒル様歩行(アヒル歩行)を示すようになる。

軽度の外傷を誘因として肋骨や四肢の骨に多発性の病的骨折を生じ、全身の変形をきたし、寝たきりの状態になる。

この病的骨折の原因として、上流の鉱山から排出されたカドミウム(cadmium)を様々な経路から吸収し、それが腎に貯留し、腎尿細管障害を起こし、カルシウムとリンの尿中排泄の増加が関与しているものとされている。

但し、カドミウム単独中毒説を疑問視する意見もある。

カネミ油症

1968 年ライスオイル(rice oil:米糠油)の製造工程で熱媒体として使用されていたカネクロール400がライスオイル中に混入し、福岡県、長崎県を中心に西日本一帯でこれを摂食したヒトに発生した。ざ瘡様皮疹を主徴とする中毒症である。汚染ライスオイル中にはポリ塩化ビフェニル(polychlorinated biphenyl;PCB)に合わせてPCBの熱変化物であるポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、ポリ塩化クォータフェニル、ポリ塩化クォータフェニルエーテルが含まれており、カネクロール400の主成分であるPCBとこれらの熱変化物により本中毒症が形成されたと考えられている。

臨床上、顔面、殿部などのざ瘡様皮疹、色素沈着、眼脂過多などが特徴的所見であり、この他全身倦怠感、、四肢のパレステジア、腹痛などを呈する。

また皮膚にメラニン沈着をきたした新生児や低出生体重児の誕生、小児の成長抑制、永久歯の萌出遅延などの影響も認められている。

PCBやPCDFの排泄促進を目的とした絶食療法や吸着剤の経口投与のほか、対症療法として肝庇護薬(解毒薬)や脂質代謝改善薬などの投与が試みられているが、PCBの化学的特性のため、根治は困難である。

クロロキン網膜症

クロロキン製剤を長期間(多くは1年以上)使用することにより起こる網膜障害で、発生頻度は約2%である。初期には黄斑を取り囲むドーナツ型の萎縮病巣 (標的黄斑病巣、Bull’s eye lesion)、中心暗点、輪状暗点が出現し、進行すると網膜全体が粗造となり、動脈も狭細化し、無色素性網膜色素変性症様の眼底像、求心性視野狭窄、色覚・暗順応障害をきたす。

網膜症(retinopathy)は一端発症すると回復し難く、投薬を中止しても進行し続ける例もある。

クロロキン網膜症は社会的に薬害事件として知られている。

医原病の一つ。

解熱剤・抗生物質筋注による筋拘縮症

筋肉が繊維化し、伸展性を失うために生ずる疾患。先天的に部分的あるいは全身的に筋拘縮現象を認めることもあるが、大部分は後天性で、乳児期に注射を受けたために発症する。

筋拘縮現象を発現しやすい薬剤はpHや浸透圧が生体と大きく異なるものが多く、またその注射容量とも関係する。未熟な筋肉内に注射しても筋拘縮を起こしやすい。

注射によって筋拘縮を起こした場合は、注射部位に陥凹を認めたり索状硬結を触れたりする。後天性筋拘縮症の発生部位は、大腿四頭筋、殿筋、肩三角筋が代表的である。

我が国では一部地域に集中多発した事例がある。

コラルジル肝障害

冠拡張剤『コラルジル』による肝障害→長期にわたり服用することにより肝臓・血液等の全身細胞に異常なリン脂質やコラルジルそのものが蓄積し細胞を破壊する。1963年本邦発売。1965年血液学者の間で「泡沫細胞症候群」とする珍しい病気が話題。

1969年頃から肝臓病の分野で「リン脂質脂肪肝」とする新たな病名が報告。

1970年11月動物実験の結果、コラルジルによる副作用に起因する同一疾患であると確認。

サリドマイド胎芽病

サリドマイド剤を含んだ、催眠薬及び胃腸薬を服用した母親から出生した胎児に起こった特徴ある形態形成障害。この薬剤は我が国では 1958年(昭和33年)?1962年(昭和37年)9月まで市場にあった。

薬剤の過敏期は最終月経後34?50日であり、症状は無肢症から母指球筋低形成までの種々の程度の四肢欠損、なかでも海豹肢症(アザラシ肢症)及び無耳症や難聴などの頭部領域の障害を認めるが、内臓などの異常もある。

我が国における患者数は309名で、全世界では7000名と推定されている。

スモン(SMON)

亜急性脊髄視神経ニューロパシー(subacute myelo-optico-neuropathy)の英文の頭文字をとった病名。その本体は整腸薬として使用されたキノホルム(chin-oform)の副作用による中毒性神経障害と考えられている。

1955年頃から各地に発生し始め、1970年にキノホルムの使用が禁止されるまで約1万人が罹患した我が国最大の薬害である。

諸外国からの報告は希である。臨床症状は、下痢・便秘・腹痛などの腹部症状が先行し、引き続き急性あるいは亜急性に下肢にジンジンした耐え難いしびれ感と感覚障害が出現し上行する。

併せて他の脊髄症状(痙性麻痺、腱反射亢進、バビンスキー徴候、膀胱直腸障害)と視神経障害(視力低下、失明)を伴うことが多く、意識障害や痙攣などの脳症状が出現することがある。

主病変は脊髄後根神経節、後索、側索、視神経、末梢神経に及ぶ。

キノホルム使用禁止以後は新規の発生はないが、有効な治療法がないため、今なお多くの患者が後遺症に苦しんでいる。医原病の一つである。

非加熱製剤によるエイズ

AIDS (エイズ):ヒトレトロウイルス(human retrovirus)の一種であるレンチウイルス科(Lentiviridas)のHIV(human immunodefiency virus;ヒト免疫不全ウイルス)感染症の終末像であり、細胞性免疫が荒廃し、種々の日和見感染症や悪性腫瘍、HIV脳症(HIV encephalopathy)が生じてきた病態を指す。現在、HIVにはHIV-1とHIV-2の二種のsubtypeの存在が認知されている。

AIDSは1981年アメリカの男性同性愛者や麻薬常用者に認められる特異な疾患として報告されたが、現在ではSTD(性交渉感染症)として認識されている。

我が国では、1996年血友病患者に投与した輸入非加熱血液製剤中にHIV混入があり、血友病患者の多くにHIV感染が生じる悲劇が生じているが、これは我が国医学界における体質的な問題に起因する部分が多い。

HIV感染の感染経路としては

[1]性交渉

[2]輸血(血液)

[3]血液製剤

[4]妊娠中の母子感染(垂直感染)

等があげられる。

慢性ヒ素中毒症
(ヒ素ミルク事件)

1955 年、乳質安定剤として用いられた第二リン酸ナトリウムに亜ヒ素が混入したことが原因でヒ素ミルク事件が発生し、患者総数約一万人以上、死者130人を出した。症状は経口的には、重篤な胃腸障害(腹痛、嘔吐)と頻脈を伴う。慢性中毒は色素沈着症、角化症、多発性神経炎、気管支肺疾患、末梢循環障害などの症状がでる。

水俣病

1953年~1960年にかけて、熊本県の不知火海水俣湾周辺の住民に発生した。当初、錐体外路症状を主とした原因不明の病気とされていたが、熊本大学研究班によりメチル水銀(methylmercury)による中毒であることが判明した。

工場排水に含まれたメチル水銀が、食物連鎖(food chain)により魚介類中に濃縮され、それを長期間摂食した主に漁民に多発した。

症状ははじめ四肢末端、口周のしびれ感より、表在及び深部知覚異常、求心性視野狭窄、運動失調、言語障害など、いわゆるハンター・ラッセル症候群(Hunter-Russell syndrome)を主症状とする。

急性激症型、慢性強直型はほとんど死亡し、慢性刺激型は重症例が多い。

更に患者は多量にメチル水銀を摂取した母胎より胎盤を通過し胎児に蓄積し、産まれた子供にも脳性小児麻痺様の胎児性水俣病として発生した。

第二水俣病 1964年には新潟県阿賀野川流域においても水俣湾周辺同様なメチル水銀中毒(methylmercury poisoning)が発生しており、これを第二水俣病といっている。

 

[1998.8.24.古泉秀夫]


  1. 南山堂医学大辞典,1998
  2. 曽田 長宗・編:薬害;講談社サイエンティフィク,1981.p.467