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紅葉巡礼(2)

日曜日, 1月 13th, 2008

鬼城竜生

前回の散策では、納得する紅葉の写真が撮れなかったため、2007年12月6日、再度紅葉の写真を撮るべく出かけた。

品川駅から山手線で代々木駅に、代々木駅で中央線に乗り換え千駄ヶ谷駅で下車した。改札口を出て、右に行くか左に行くか迷ったが、見事に黄葉していた銀杏の木に惹かれて右側に行くことにした。銀杏並木が続き、何処を見ても黄葉、黄葉という風景に驚いたが、同時に、この黄葉が散った後の掃除は大変だろうな等とつまらないことを考えながら歩いたが、行き着いた先は“明治神宮”だった。
明治神宮-01 別に“明治神宮”を目指していたわけではなく、どちらかといえば“聖徳記念絵画館”方面を目指していたので些か当てが外れたが、昼飯前で戻る気力はなく、そのまま明治神宮内を散策することにした。
紅葉を見るという目的からすると、“明治神宮”の参道には紅葉する木はあまり見られなかった。ただ、広い参道に落葉が風に舞い、小さな子が頻りに椎のみを拾っていたが、付き添いの明治神宮-03父親は些かうんざりした顔で付き合っていた。
それはそうだろう。

女の子は無闇に落ちている椎のみに興奮して拾いまくっていたが、父親の手には既にB5版のビニール袋に半分程度の椎のみがあり、これを持ち帰ってどうするんだという思いが先に立ったということなんだろうが、大人と子供では価値観が違うということの典型みたいな雰囲気が見られた。

枯れ葉舞う/椎拾う子の/小さき背に

椎拾う/子に参道の/枯れ葉舞う

枯れ葉舞う/神宮道の/巨木かな

狙った写真は撮れないということで、今回は銀杏の黄葉だけかと思いながら大鳥居をくぐり、原宿方面に抜けようとした時、竹垣に囲まれた庭があるのが見えた。どうやら明治神宮御苑の東門の前に立ったようであるが、この門からは入れないので、北門に回れと書かれていた。

入り口を見た時はさほどの庭とは見えなかったが、この”御苑“、江戸の初期には『加藤家、その後は井伊家の下屋敷の庭園であったものが、明治時代には宮内省所管となり、代々木御苑と呼ばれて明治天皇、昭憲皇太后が度々訪れた庭園であるとされている。

総面積は約83,000平方メートル、曲折した小径がクマザザの間を縫い、武蔵野特有の雑木林の面影をとどめていると紹介されている。隔雲亭(写真)は昭憲皇太后が別荘として使用していたといわれているようで、この縁側からは庭を通して南池が見えるようになっているようであるが、内部の見学は認められていないので、確認はしていない。

明治神宮-04
隔雲亭の前を通って緩やかな坂を下ると、池に張り出した形で御釣台が見られる。これは説明書によると昭憲皇太后が魚釣りを楽しまれたところだというが、その当時何が釣れたのか、今見ると釣れる魚の種類は限定されていたのではないかと思われた。せいぜい鯉か鮒程度だったのではないだろうか。池沿いの道を奥に入ると菖蒲田があり、時期になると見栄えのする菖蒲田になるの ではないかと思われた。

菖蒲田から清正井の方を見ると見事な紅葉が見られたが、期待していなかっただけに思わぬ眼の保養をさせていただいた。何しろ人の数が少ないのが佳かった。静かに落ち着いて鑑賞することが出来たということである。

帰りは原宿口休憩所にある食堂で日本酒を1本と蕎麦を注文したところ、蕎麦はどういう訳か鰊蕎麦が出てきた。鰊蕎麦は専ら京都のものと思っていただけに驚いたが、別に何処で出しても良い訳で、驚く方がおかしいのかもしれない。

(2008年1月10日)

医薬品情報管理学[7]

日曜日, 1月 13th, 2008

医薬品情報21

古泉秀夫

医薬品情報提供媒体の評価

1.人為的失敗は常に存在する

どの様に優れた資料であっても、その作成の各段階で『人間』が係わる限り、常に誤りは存在する。作成する側は、最大限の注意を払い、努力をしたとしても、それでもなお『間違い』から完全に逃れることはできない。つまり『人間』の行動は、常に間違いを侵す危険性の上に成り立っていると考えておくことが必要である。

資料情報の成立を考えた場合

  1. 研究者の研究結果表記上の誤りあるいは文意表現の失敗
  2. 引用文献の誤読・引用時の誤記
  3. 編集者の校正時の見逃し

等の間違いを侵す機会が存在する。更に最近では、電脳の発達による筆記の機械化により、入力時の失敗、文字変換時の機械的失敗等に陥る機会が増えている。またOCRの利用により原文を機械的に変換することが行われているが、機械の精度がよくなるにつれて、人の眼ではつい見逃してしまうような紙本体の塵までが文字と認識され、結果的に誤植となるような事例も見られる。

2.具体的事例

2-1. 添付文書情報をOCRで取込み提供する情報サービス

『味覚障害』 → 『昧覚障害』

の誤植がされていたため、機械検索では異字として認識された例である。
人が眼で校正する場合、何気なく見逃してしまいがちであるが、電脳の精度が上がるにつれ、読取りが困難になる例が生じてくる。電脳を用いて検索を行った場合、これらは異字として認識されるため、検索結果からは脱落する。
従って、電脳で検索する場合、『検索された結果』が全てではないということを常に認識しておかなければならない。検索できないから『無』のでなく、あっても検索できない事例があることを常に頭に入れておくことが必要である。

2-2. 調査結果から誤記・誤植等が判明した事例

*『Burow’s(ブーロヴ液)』についての調査

調査依頼者から添付された資料によると『Burow’s solution: ブーロヴ液(アルブミンの塩基性酢酸塩と氷酢酸の製剤。皮膚の防腐及び収斂薬として用いる)[ステッドマン医学大辞典改訂第3版;メディカルビュー社]。』

しかし、調査の結果Burow’s solutionについては、次の報告がされていた。

Burow’s solution;Aluminum Acetate Solution(USP

本品の処方内容は、次の通り。

  • 塩基性酢酸アルミニウム液……545cc
  • 氷酢酸……………………………………15cc
  • 水………………………………………… 適量
  • 全量………………………………………1000cc

本品100cc中に(CH3COO)3Al:4.8?5.8w/v%を含み、pH4程度。用時10倍に希釈して用いるが刺激が強い。またこのブロー液は次のようにして作ることができる。
酢酸鉛150gを半量の水に溶かし、別に硫酸アルミニウム液87gを半量の水に溶かした後、前者の冷液を後者に攪拌しながら徐々に注加し、混合して1日放置、上清液を1000ccとする。
ブロー氏液にはまた次のような処方がある。

  • 酢酸鉛—–1.5g
  • 明礬——1.5g
  • 水——-適量
  • 全量——1000cc

以上を濾過して使用。
但し、上記処方例は旧処方例であり、6局では「酢酸アルミニウム液 USP」として紹介されている。
酢酸アルミニウム液は100mL中塩基性酢酸アルミニウム[Al(OH)(CH3CO2)2=162.06]7.3?8.3gを含む。塩基性酢酸アルミニウムの溶液は、その製法により組成は必ずしも一定しないので、局方は製法を規定している。本品はもと明礬と鉛糖を混合して作ったブロー氏液の改良品で、鉛を全く含まないため無害である。
本品は無色澄明の液で、酢酸臭と収斂性の甘味を有し酸性である。本品はコロイド溶液であって、チンダル現象を起こす。貯蔵すれば塩基性の多い塩の分離により、混濁し沈殿を生ずる。

  • 処方:0.6%- ブロー氏液
  • 8%-酢酸アルミニウム液(E.T.E)—75mL
  • 滅菌蒸留水——適量
  • 全量——–1000mL

8%-酢酸アルミニウム液(E.T.E)

  • 硫酸アルミニウム——1000g
  • 沈降炭酸カルシウム—–460g
  • 酢酸——1200mL
  • 酒石酸 ——-120g
  • 滅菌蒸留水—-適量
  • 全量—-4600mL

製法:3号グラスフィルターで吸引濾過した蒸留水1000mLを、115℃-30分間の高圧蒸気滅菌し、冷後蒸留水75mLを抜き取り、8%-酢酸アルミニウム液75mLを加えて製する。

8%-酢酸アルミニウム液(E.T.E)

  1. 陶製液量計に蒸留水2700mLを入れ、硫酸アルミニウムをガーゼに包んで吊し、静置して溶解する(約一昼夜)。これをろ過したろ液に蒸留水を加え、蒸留水を加え、比重計を用いて比重を1.152(15℃)に調節する。
  2. 別に沈降炭酸カルシウム460gに蒸留水600mLを加え、乳鉢で研和する。
  3. (2)を(1)に徐々に加え、続いて酢酸1200mLを加えて時々撹拌しながら放置する(3日間)。
  4. (3)の上澄みをろ過し、ろ液に蒸留水を加えて比重1.011?1.048(15℃)に調節し、安定剤として酒石酸120gを加えて調製した液の上澄液をろ紙でろ過する。

貯法:気密容器に入れ、なるべく冷所に貯えなければならない。漸次白色の沈殿物を生ずる。硝子栓の使用は膠着する恐れがある。
薬効:アルミニウムに起因する収斂性を有し、そのため消毒力もある。また創傷面の分泌を抑制し、肉芽発生を促進する。比較的刺激が少ない。
適応:収斂剤、防腐剤で10倍に薄めて咽喉炎の含嗽料、潰瘍面の洗浄用とし、またガーゼに浸して腫瘍等に包帯料とする。
収斂剤として専ら外用として用いる。鼻、耳、膣、子宮などの悪臭分泌物の洗浄剤としては2?15倍の希釈液を用い、また広く炎症性又は水疱性の皮膚疾患に冷罨法剤とする。口腔炎のうがい液としては0.25?0.5%液を用いる。
なお、ステッドマン医学大辞典改訂第3版中に記載されている「アルブミン」は、酸により変性するはずであり、明らかに「アルミニウム」の誤植であると考える。また、出典内容に基づき火傷の専門医に確認したところ、ブロー氏液のことではないかとする見解が得られた。

*ヨードに対するアルコールの影響

『業務に必要な図書を見ていたところ、皮膚消毒に関する記載中にヨード剤とアルコールの併用は不可とする記載がされていた。両剤の併用に問題があるのか。』とする調査依頼である。

「与薬と管理/静脈内注入療法」(大西 和子・他監訳;照林社,1994)の80頁に「ヨード剤を用いた後にアルコールを使ってはいけません。アルコールはヨード剤の効果をなくしてしまうからです」の記載が見られる。
本書は「Susan,J.Hart.,et al:Drug administration/Intravasculartharapy,1992」の翻訳書である。
調査をする際には、本来は原著の確認をすることが基本原則である。しかし、調査依頼の内容から、今回は翻訳書の記載についてのみ検討している。
現在、ヨード剤の主力として使用されているpovidone-iodine(ポビドンヨード)の製品であるイソジン液(明治製菓)の添付文書中に記載されている希釈等液性に関する使用上の注意は下記の通りである。

  1. 深い創傷に使用する場合の希釈液としては生理食塩液か注射用水を用い、水道水や精製水を用いないこと。
  2. 石鹸類は本剤の殺菌作用を弱めるので、石鹸分を洗い落としてから使用すること。
  3. 衣類に付いた場合は水で容易に洗い落とせる。また、チオ硫酸ナトリウム溶液で脱色する。

なお、ヨウ素及びエタノールの揮散性、殺菌作用、局所刺激作用により、主として外用殺菌剤、刺激剤として使用されるヨードチンキは、ヨウ素・ヨウ化カリウムに70v/v%-エタノールを加えたものであるが、本剤の殺菌力については、既に有効性が証明されている。
その意味ではアルコールがヨード剤の効力を無効にするとする記載は誤解を与える記載であるとすることができる。
ヨードチンキは、表皮欠損のない皮膚の殺菌消毒には極めて有用であるとされており、手術野の殺菌消毒目的に使用されるが、その際、短時間放置後、消毒用エタノールでヨウ素を拭い去るとする手技が紹介されている。この方法は、ヨウ素がエタノールに溶解しやすいという性状を利用したものであるが、拭き取るという外的動作を加えない限り、ヨウ素剤の効力を減弱することはないと考える。
その他、手術野消毒時に、povidone-iodine等のヨード剤を使用後、脱色目的で使用されるハイポアルコールがある。ハイポアルコールによるヨウ素の脱色は、両者による化学反応を利用したものであり、水に難溶性のヨウ素を水に可溶性のヨウ化ナトリウムとすることにより着色の除去を図るものである。
従って、殺菌消毒目的でヨード剤を使用した後、直ちにハイポアルコールを使用した場合、ヨード剤の効力は甚だしく低下する。
上記の翻訳書の原著の記載がどのようになっているのかを確認せず、推測で判断することは避けるべきであるが、原著は、単純に「ヨード剤とアルコールの併用で無効になる」とする記載ではなかったのではないかと思われる。

*ブリの優先関係と階層関係(JICST 科学技術用語シソーラス,1993年版)

医薬品情報学入門(南山堂,1993)中で紹介されているシソーラスの引用例で、分類上別種の魚が加えられている。

  • ブリ(ブリ)
    UF ワラサ
    カンパチ
    イナダ
    ハマチ
    BT アジ科
    ・スズキ類
    ・・硬骨魚類
    ・・・魚類
    ・・・・脊椎動物
    ・・・・・動物

*thesaurus:Key wordとして用いられる用語間の階層関係、優先関係(同義語関係)、関連関係を整理し、索引作業や検索の際の効率の向上を図るために編集された辞書。

*UF:Used For:「?の代わりに用いよ」を意味する。
*BT:Broader Term:「上位概念語」を意味する。
*NT:Narrower Term:「下位概念語」を意味する。
*関東:ワカシ(若士)→ イナダ(魚秋)→ ワラサ(稚鰤)→ ブリ(鰤)
*関西:ツバス → ハマチ → メジロ → ブリ

関東で『ハマチ』は『ワラサ(60cm)』クラスの養殖魚を指す。ちなみに『カンパチ』は、分類上別種の魚である。
*『カンパチ』(アジ科):Seriola purpurascens TEMMINCK&SCHLEGEL。ブリよりも側扁度が強く、体高が高い。幼魚では頭頂に黒褐色の八字形の斑紋がある。
*『ブリ』(アジ科):Seriol quinqueradiata TEMMINCK&SCHLEGEL。

ブリの代わりに用いる用語として、カンパチは不適当ではないかと考えられるが、原典を参照していないのでどの段階でカンパチが挿入されたのかは不明である。

その他、「看護婦が情報室に注射筒内の薬液がニトログリセリンか塩酸ドパミンか知りたいといってきた。そこで水薬用のカップに数滴取り二人で味見をした。甘かったのでニトログリセリンということになり、看護婦は直ぐに戻っていきました」とする調査事例が紹介されている。更に『誤解を受けるようなあまり好ましい例ではないが、薬剤師にとっては「物性」に関する極く初歩的な知識で十分対応可能であり、ある意味ではつまらないことのように思われるが、医療の現場ならではの情報活動の見本といえよう』とする記載がされている。
しかし、この調査事例の基本的な問題点は「ラベルのない薬剤(内容不明薬)は使用しない」という薬品管理の鉄則に反しているということである。本来、廃棄させるべきものを2名の官能検査で判断したという点で、甚だしく危険をはらんでいるといわなければならない。更に注射筒に吸引した注射薬を、院内を持ち歩くことによって、細菌汚染の機会を増やしているのではないかと危惧するのである。更に一度看護婦にこのような経験をさせると、次にも同じことをしないという保証はなく、その経験が将来誤薬につながる危険性を内在させているのではないかとの疑念を持つのである。

*写真・図の配置の失敗

編集者が陥りやすい誤りに、写真・図の配置が異なっていることに全く気付かないという事例がある。
中毒学概論-毒の科学-(薬業時報社,1999)では口絵として使用されているカラー写真のうち写真14-(b)オニダルマオコゼ・14-(c)ハナミノカサゴの説明に対し、(b)には『ハナミノカサゴ』が、(c)には『オニダルマオコゼ』が張り付けられている。

3.文献上の誤記・誤植に対する注意

電脳による検索結果の漏れを発見したのは、電脳による『昧覚障害』の検索結果と以前作成した『味覚障害を惹起する薬剤一覧』を突合した結果による。添付文書中に『味覚障害』の記載が、既にされていなければならない薬品名が欠落していたため、薬品名で検索し、添付文書要約情報の全文を確認したところ変換誤記が確認された。

Burow’s solution・ヨードに対するエタノールの影響については、調査する過程で説明不足が確認された事例であり、シソーラスの『ブリ』及び写真の移動の件についていえば、『ブリ』は『ボラ』同様の出世魚であり、『ワカシ』から『ブリ』までの順番について、従前調査した経験から『カンパチ』は異種ではないかと気付き調査した結果である。『ハナミノカサゴ』については、かって『ミノカサゴ』に刺された経験から、二度と掴むことのないよう記憶に留めていた結果である。
注射薬の官能検査利用による判断についていえば、現役の頃、『内容不明な薬剤は患者に一切使用しない』ということを先輩薬剤師から厳しく教育されていた。更にディスポの注射筒に入れたものと推定されるが、アンプルカットにより『無菌状態が解除された注射薬』をあちらこちら持ち歩いた上、患者に使用することの危険性は、臨床経験のある薬剤師なら十分理解できるはずである。

4.常に受信装置の整備を

ヒトは日常生活の中で多くの情報に接している。情報量が多ければ当然忘れていく情報も多いはずである。しかし、『第六感』や『閃き』といわれている部分は、実際には忘れてしまっていた断片的で潜在的な情報が背景にあり、ヒトの受信装置に反応するのではないかと考えている。文献や資料を読んだときに『何かおかしいと感知』するものがあった場合、過去の断片的な情報が反応することを奨めていると考えることもできる。アンテナに何等かの信号が得られた場合、『必ず精査する』という習慣づけをすることが、情報を取り扱う人間としては必要である。


  1. 注解 第六改正日本薬局方;南山堂,1951
  2. 第七改正日本薬局方第一部解説書;廣川書店,1961
  3. 国立病院東京災害医療センター薬剤科・私信,1998.3.19
  4. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・私信,1998.3.19
  5. 日本病院薬剤師会・編:病院薬局製剤 第4版;薬業時報社,1997
  6. イソジン液添付文書,1996.2.改訂
  7. 第十二改正日本薬局方解説書;廣川書店,1991
  8. 古泉秀夫・代表編:医薬品情報Q&A[1];(株)ミクス,1990

治験薬一覧:F

日曜日, 1月 13th, 2008
 

治験記号:FC/TA-891

<一般名:ritipenem acoxil hydrate>

概要

[商]ペネマック(田辺製薬)。ペネム系抗生物質。申請中。[剤型]錠剤。経口投与時に主に腸管壁のエステラーゼによりアセトキシメチル基が加水分解され活性体として吸収されるプロドラッグである。活性体は各種β-ラクタマーゼに安定で、グラム陽性菌、グラム陰性菌に広範囲な抗菌スペクトルを有し、特に好気性グラム陽性菌及び嫌気性菌に対して優れた抗菌力を示す。

出典

トライアルドラッグス2000;株式会社ミクス,2000・月刊ミクス,11:87(2000)

 

治験記号:FG-7051

<一般名:paroxetine>

概要

[商]Paxil(米国・GSK)、Seroxat(英国・GSK)、パキシル(日本・GSK)。選択的セロトニン再取込阻害剤(SSRI)。抗うつ剤。[適]うつ病・うつ状態・パニック障害。

出典

The Medical Letter日本語版,19(14):53(2003.7.7)

 

治験記号:FK-199

<一般名:zolpidem tartrate>

概要

[商]マイスリー(藤沢)。2000年9月承認。非ベンゾジアゼピン系の入眠剤。催眠作用の発現が早く、残存作用がないなどの効果の他1.連用しても薬物依存性がなく耐性もない。2.禁断症状や反跳現象がない。3.循環器、呼吸器、記憶に対する影響も少ない等の特徴を有する。精神疾患を伴わない不眠症におけるニトラゼパムとの二重盲検試験で、本剤は有効性で有意に優れていた。仏・サノフィ-サンテラボ社提携。

出典

月刊ミクス,10:100(2000)

 

治験記号:FK-317

<一般名:———>

概要

[治験薬]
抗ガン抗生物質。米国での第2相試験を2000年中頃に開始予定。国内では海外データ活用を目指し申請にトライする。(藤沢薬品)。放線菌が産生するプロドラッグタイプの注射用抗がん性抗生物質。固形癌に対して既存薬よりも高い抗腫瘍効果を示す。マイトマイシンC、アドリアマイシンとの交差耐性を示さない。臨床第II相試験段階。藤沢薬品。

出典

日刊薬業:第10427号,2000.2.25.・月刊ミクス,10:100(2000)

 

治験記号:FK-366

<一般名:zenarestat>

概要

アルドース還元酵素阻害作用による糖尿病性末梢神経障害治療剤。米国において第II相臨床試験段階で神経生検を実施し、神経繊維密度、神経伝達速度等において有意な改善が見られた。Clinical
End Pointは神経伝達速度と痛覚などの自覚症状の改善である。96年3月一部地域を除く全世界を対象として米・ワーナー・ランバート社にライセンスした。臨床第III相試験段階。藤沢薬品。米国・臨床第三相段階。欧州・臨床第三相段階。

出典

月刊ミクス,10:100(2000)

 

治験記号:FK-463

<一般名:——–>

概要

注射用深在性真菌治療剤。ミカファンギン。藤沢薬品。ヒト細胞に存在しない真菌の細胞壁合成を阻害するため、高い安全性が期待される。in vitroで強い抗菌活性を示し、カンジダ属からアスペルギルス属まで幅広い抗菌スペクトルを有する。99年9月米国の化学療法学会において臨床第II相試験での優れた有効性と安全性が報告された。臨床第III相試験段階。米国・臨床第三相段階。欧州・臨床第三相準備中。[治験薬]。抗真菌薬。米国第3相試験。欧州治験計画中。国内では海外データ活用を目指し申請にトライする。(藤沢薬品)

出典

日刊薬業:第10427号,2000.2.25.・月刊ミクス,10:100(2000)

 

治験記号:FK-506

<一般名:tacrolimus hydrate>

概要

[治験薬]
タクロリムス。疾患修飾性抗リウマチ剤。藤沢薬品。放線菌Streptomyces tsukubaensisの代謝産物から発見された強力な免疫抑制作用を有する物質で、既に経口剤、注射剤が発売されている。自己免疫疾患を初めとした炎症性皮膚疾患の局所部位への適用に対応できる軟膏剤として開発されている。申請中。[商]プロトピック軟膏。

出典

高杉益充:Drug Information;月刊ミクス,5:100-101(2000)・トライアルドラッグス;株式会社ミクス,1999

 

治験記号:FK-614

<一般名:——–>

概要

グリタゾン系とは異なるベンズイミダゾール系のインスリン抵抗性改善剤。各種NIDDM(インスリン非依存性糖尿病)において先行品に比べ明らかに強い血糖低下作用を示し、高い安全性も確認されている。臨床第II相試験段階。藤沢薬品。[治験薬]。糖尿病治療薬。構造的にグリタゾン系に属さないインスリン抵抗性改善剤。国内では海外データ活用を目指し申請にトライする。(藤沢薬品)。

出典

日刊薬業:第10427号,2000.2.25.・月刊ミクス,10:100(2000)

 

治験記号:FK-888

<一般名:——–>

概要

欧州での第2相臨床試験を2000年中に終了、速ければ年内に欧州又は米国で第3相試験を開始し、欧米で2002年申請、2003年度発売を見込む。国内では海外データ活用を目指し申請にトライする。(藤沢薬品)。ニューロキニン拮抗薬。1995年から勧められていた第II相試験の結果十分な有効性が得られなかったとして治験中止。

出典

日刊薬業:第10427号,2000.2.25.日刊薬業,2000.10.2.

 

治験記号:FK-960

<一般名:——–>

概要

アルツハイマー型痴呆症治療剤。作用機序はゲノム研究により解明中であるが、海馬神経におけるソマトスタチンの遊離を促進、シナプス伝達を促進と考えられる。アルツハイマー型痴呆症の中核症状である記憶障害に対する有用性が期待され、口渇等のコリン刺激様の副作用がないと想定されている。臨床第II 相試験段階。藤沢薬品。[治験薬]。抗痴呆薬。記憶に深く関与する神経伝達物質セロトニン及び神経ペプチド・ソマトスタチンの両物質を刺激する新タイプの抗痴呆薬。米国での第2相臨床試験を2000年中に終了させ、第3相臨床治験を開始、2003年の申請、2004年度の発売を目指す。国内では海外データ活用を目指し申請にトライする。(藤沢薬品)

出典

日刊薬業:第10427号,2000.2.25・月刊ミクス,10:100(2000)

 

治験記号:FKK-138

<一般名:——–>

概要

遺伝子組換えによりヒト天然型t-PA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)のN末端からKringe
I domainまでの領域を欠失させ、更に275位のArgをAspに変換した構造を有する1本鎖の蛋白質で、大腸菌を宿主として産生される。非臨床試験でプラスミノーゲン活性化におけるフィブリン依存性が高く、更に血中半減期が長いなどの特性を示した。ヒトでは血中半減期は、従来のt-PAの5?8倍を示す、約7分であったの報告がされている。[適]急性心筋梗塞。静注。(化血研)。

出典

高杉益充:DI室;月刊ミクス,3:62(2001)

 

治験記号:FPI-31

<一般名:human leukocyte interferon-α>

概要

[商]INFα(日赤・扶桑)。抗腫瘍性免疫賦活剤、抗ウイルス剤。申請中。[剤型]注射用凍結乾燥製剤。[適]B型慢性肝炎、C型慢性肝炎、菌状息肉症。ヒト白血球にセダンウイルスを作用させて誘発し、生成物を精製したもの。抗ウイルス作用・抗腫瘍作用が期待されている。(扶桑薬品-日本ケミカルサーチ-日赤)。

出典

トライアルドラッグス2000;株式会社ミクス,2000

 

治験記号:FS-69

<一般名:———>

概要

作用時間を延長し、造影能を増強した第二世代の超音波造影剤。対象領域は心腔等。第II相及び第III相臨床試験臨床治験(中外-米・モレキュラーバイオシステム社)。

出典

月刊ミクス,12:73(2000)

 

治験記号:FTY-720

<一般名:——–>

概要

腎移植。新規作用機序-リンパ球のホーミング二より、副作用が少なく、安全性の高い免疫抑制剤。米国・欧州において第II相臨床試験段階(ウェルファイド-ノバルティス)

出典

月刊ミクス,3:38(2001)

「野生スイカについて」

土曜日, 1月 12th, 2008

KW:健康食品・機能性食品・野生スイカ・カラハリスイカ・シトルリン・citrulline・猛毒活性酸素・ヒドロキシルラジカル・hydroxyl radical・メタロチオネイン・metallothionein

 

Q:TV放送されていた野生のスイカについて

A:カラハリ砂漠原産の野生スイカ(カラハリスイカ)は、水のない状態で強い光・乾燥に耐えることができるとされている。この強光・乾燥耐性は細胞内に大量のシトルリン(citrulline)を蓄積するためで、citrullineは安定で無害なアミノ酸であるが、肌の大敵である猛毒活性酸素(ヒドロキシルラジカル:hydroxyl radical)を強力に分解する。また、カラハリスイカは保水効果が高いと報告されている。奈良先端科学技術大学院大学は、世界に先駆けて、多くの野生スイカ特許を出願している。

アフリカのカラハリ砂漠で育つ野生スイカが特定のアミノ酸などの働きで、有害な活性酸素を抑制し、過酷な環境から身を守っていることが突き止められた。この仕組みの解明により、強い日差しや乾燥に強い植物の改良に役立つのではないかといい、原産地のアフリカ南部、ボツワナと共同研究を進めることを決めた。研究者らは、カラハリ砂漠に自生するスイカが、強い日差しと極度の乾燥のため、細胞を傷つける活性酸素が発生しやすい環境なのに水分を豊富に蓄え、枯れないことに注目し、分析した。その結果、葉にアミノ酸の一種citrullineが大量に蓄積され、活性酸素が活動する前に、瞬時に分解していることが分かった。メタロチオネイン(metallothionein)という蛋白質にも同様の働きがあった。

灼熱の太陽が照りつける南アフリカ・カラハリ砂漠で、青々とした実をつける野生スイカに、生物体内で有害な働きをする活性酸素を消去する物質が大量に含まれていることを奈良先端化学技術大学院大学の横田明穂教授、明石欣也博士らの研究グループが突き止めた。アミノ酸の一種、citrullineで、活性酸素により、遺伝子本体のDNAが傷つくのを効率よく防ぐことが実験で確かめられた。citrullineの含有濃度は53g/Lで、他の生物に比べて1000倍以上も大量に含まれていた。citrullineは、もともと全ての生物体内で働いているので、副作用が少ないこともわかった。安全な活性酸素除去剤として、食品、医薬品、化粧品への応用が期待されている。

citrullineの活性酸素分解作用について、試験管内で実験を行ったところ、このアミノ酸は、hydroxyl radicalを速やかに分解した。体内で発生した活性酸素がDNAや、生理活性に係る酵素を傷つける前に、即座に分解してしまうことも判明。濃度をあげても、体内の生理作用に悪影響を与えないことも明らかにした。

citrullineとは、側鎖にウレイド(カルバミド)基(-NHCONH2-)を有する天然アミノ酸。蛋白質中には通常存在しないが、ペプチジルアルギニンデイミナーゼによる翻訳後修飾によりアルギニン残基がシトルリン残基に変換する。C6H13N3O3=175.19。M.Wada(1930)によりスイカの果汁から単離、命名された。生体内では尿素回路におけるアルギニン生合成の中間体として重要。ミトコンドリア中で、オルニチンのカルバモイル化により生成する。

metallothioneinとは、金属(メタル)をチオール基(チオ)を介して結合している蛋白質(protein)ということでメタロ-チオ-ネインと呼ばれている。1957年にMargoshesとValleeによってマウスの腎皮質からSH基が富むカドミウム結合蛋白として単離されたmetallothioneinは、哺乳類のみならず、両生類、爬虫類、鳥類、魚類、無脊椎動物等動物全般、更には植物や真核微生物、原核生物に至るまで、広くその存在が確認されている。また、metallothioneinは重金属毒性軽減作用を有しており、metallothionein合成を誘導した動物や培養細胞がカドミウムや無機水銀などの有害金属に対し、耐性を示すことが知られている。

metallothioneinは、ヒトを初め各種動物のみならず藍藻類に至るまで亜鉛、カドミウムなどを結合した状態で見いだされ、metallothionein類として分類されている。多くの哺乳動物でmetallothionein-Iとmetallothionein-IIの2種の亜型が存在し、ヒトやマウスではmetallothionein-IIIとmetallothionein-IVを含めた4種の亜型が確認されている。これらの亜型は、構成アミノ酸(metallothionein-I:61、metallothionein-II:61、metallothionein-III:68、metallothionein-IV:62)のうち20個をシステインが占め、しかもS-S結合を一つも持たず、チロシンなどの芳香族アミノ酸やヒスチジンを含まない低分子蛋白質(分子量:約7,000)である。また栄養素としての微量金属の研究により、中でも亜鉛がmetallothioneinという光防御蛋白質を作ることに注目し、紫外線対策についていくつかの方法が提案されている。

  [015.9.CIT:2007.2.13.古泉秀夫]

 

1)http://bsw3.naist.jp/yokota/research/Plant_High-Tech_Institute/jigyo.html,2005.3.2.
2)http://news.goo.ne.jp/news/kyodo/shakai/20050302/20050302a4380.html,2005.3.2.
3)http://www.shikoku-np.co.jp/news/news.aspx?id=20050302000347,2005.3.2.
4)http://www.g-osaka.co.jp/new/031117.html,2005.3.2.
5)http://www.north.ad.jp/hobia/contents/seminer18.htm,2005.3.2.
6)http://www.nara-shimbun.com/n_soc/050303/soc050303b.shtml,2005.3.2.
7)http://www.speciale.jp/word/07_metallo_01.html,2007.2.10.
8)佐藤雅彦・他:環境汚染バイオマーカーとしてのメタロチオネインの有用性;環境毒性学会誌2(1):27-34(1999)
9)薬科学大事典 第2版;廣川書店,1990
10)今堀和友・他編:生化学辞典 第3版;東京化学同人,1998

『感染症の分類-重要な感染症-改訂第2版』

土曜日, 1月 12th, 2008

KW:滅菌・消毒・感染症・感染症分類・一類感染症・二類感染症・三類感染症・四類感染症・五類感染症

 

Q:重要な感染症について、表にまとめたものはあるか。

A:重要な感染症の『重要な』は、取り方によって異なると考えられる。感染症としての『重症度』なのか、あるいは『院内感染』としての重要度なのか、『有効な治療薬がない感染症』であるために重要なのか等である。
しかし、取り敢えずということで、我が国において法律に基づいて分類されている感染症を表示してあるので、それを紹介する。なお、更に詳細な表が必要な場合、『感染症法中の感染症の分類と措置等 第三改訂』を参照すること。

一類感染症 エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう(天然痘)、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱 感染力、罹患した場合の重篤性から判断して、危険性が極めて高い感染症

二類感染症

急性灰白髄炎、結核、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(病原体がコロナウイルス属SARSコロナウイルスであるものに限る)。 感染力、罹患した場合の重篤性から判断して、危険性が高い感染症
三類感染症 コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、 腸チフス、パラチフス  感染力、罹患した場合の重篤性から判断して、危険性は高くないが、特定の職業への就業によって集団発生を起こしうる感染症
四類感染症 E型肝炎、A型肝炎、黄熱、Q熱、狂犬病、炭疽、鳥インフルエンザ、ボツリヌス症、マラリア、野兎病、ウエストナイル熱、エキノコックス症、オウム病、オムスク出血熱、回帰熱、キャサヌル森林熱、コクシジオイデス症、サル痘、腎症候性出血熱、西部ウマ脳炎、ダニ媒介性脳炎、つつが虫病、デング熱、東部ウマ脳炎、ニパウイルス感染症、日本紅斑熱、日本脳炎、ハンタウイルス肺症候群、Bウイルス病、鼻疽、ブルセラ症、ベネズエラウマ脳炎、ヘンドラウイルス感染症、発しんチフス、ライム病、リッサウイルス感染症、リフトバレー熱、類鼻疽、レジオネラ症、レプトスピラ症、ロッキー山紅斑熱。 既に知られている感染性の疾病であって、動物等の物件を介して人に感染し、国民の健康に影響を与えるおそれがあるものとして政令で定める感染症。
五類感染症

(全数把握)
ウイルス性肝炎(A型肝炎及びE型肝炎を除く)、クリプトスポリジウム症、後天性免疫不全症候群、梅毒、麻しん、風しん。
-省令で定める疾病-
アメーバ赤痢、急性脳炎(ウエストナイル脳炎、西部ウマ脳炎、ダニ媒介性脳炎、東部ウマ脳炎、日本脳炎、ベネズエラウマ脳炎及びリフトバレー熱を除く)、クロイツフェルト・ヤコブ病、劇症型溶血レンサ球菌感染症、ジアルジア症、髄膜炎菌性髄膜炎、先天性風しん症候群、破傷風、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症、バンコマイシン耐性腸球菌感染症。

(定点)
インフルエンザ(鳥インフルエンザを除く)、性器クラミジア感染症、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症。
-省令で定める疾病-
RSウイルス感染症、咽頭結膜熱、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、感染性胃腸炎、急性出血性結膜炎、クラミジア肺炎(オウム病を除く)、細菌性髄膜炎、水痘、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ(尖形コンジロームから変更)、手足口病、伝染性紅斑、突発性発しん、百日咳、ペニシリン耐性肺炎球菌感染症、ヘルパンギーナ、マイコプラズマ肺炎、無菌性髄膜炎、薬剤耐性緑膿菌感染症、流行性角膜炎、流行性耳下腺炎、淋菌感染症。

国が感染症発生動向調査を行い、その結果などに基づいて必要な情報を一般国民や医療関係者に提供・公開していくことによって、発生・拡大を防止すべき感染症。

 

今回、結核予防法が廃止(2007.4.1.)に伴い、『感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律』中に取込まれ、『二類感染症』として追加された。
また、今回、bio terrorへの使用が予測されるvirusが追加されており、その意味で重要な感染症の一覧とすることができる。

  [615.28.INF:2004.1.12.古泉秀夫・2007.4.9.・2008.1.7.改訂]

 

1)官報 号外第239号,15.10.16.
2)岡部信彦:感染症対策・予防接種の知識;調剤と情報,9(12):1679-1683(2003.11)
3)官報 号外第251号,15.10.30.
4)官報 第3716号,15.10.22.
5)基本医療六法編纂委員会・編:基本医療六法;中央法規,2002

『アルツハイマー病治療薬memantineについて』

土曜日, 1月 12th, 2008

KW:薬名検索・memantine・メマンチン・塩酸メマンチン・CAS-41100-52-1・SUN-Y-7017・axura・edixa・namenda・アルツハイマー病

 

Q:アルツハイマー病治療薬memantineについて

 

A:1982年、独逸において痴呆治療薬として使用されていた塩酸メマンチン(memantine HCl)が、アルツハイマー病の治療薬として、米国で最新の話題となっている。本剤は一部の試験で中等度から重度のアルツハイマー病に有効であることが示唆された。

化学名:1-amino-3,5-dimethyladamantane hydrochloride。CAS-41100-52-1

商品名:Namenda(米・Forest Laboratories社)。

別 名:Axura(Merz)、Ebixa(Lundbeck)。

治験記号:SUN-Y-7017(第一サントリーファーマ-第一製薬)。剤型:錠剤・液剤。

□アルツハイマー病に見られる退行性変化は、主にβ-アミロイドの蓄積に関連していると考えられている。β-アミロイドは色々多くの影響を及ぼすが、その中の一つは刺激性の神経伝達物質で、NMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)受容体の賦活剤であるグルタミンの伝達を阻害することである。グルタミン酸伝達は、学習と記憶に重要だと考えられている。NMDA受容体拮抗薬であるmemantineの使用を支持する説は、NMDA受容体におけるグルタミン酸の過剰刺激がニューロンに毒性を与えるというものである。

□本品の分類はN-メチル-d-アスパラギン酸(NMDA)受容体アンタゴニスト、グルタミン酸受容体のNMDAサブタイプ・アンタゴニスト、認知促進薬。適応症はアルツハイマー病の中等度ないしアルツハイマー型認知症。他の疾患における記憶障害。軽度認知障害。慢性頭痛。

□低ないし中等度の親和性を持つ非競合的(チャンネル開口)NMDA受容体アンタゴニストであり、NMDA受容体が調節する陽イオンチャンネルに優先的に結合する。アルツハイマー病で想定されている過剰なグルタミン酸遊離による持続的なNMDA受容体の活性化は恐らく阻害する。症状を改善し疾患の進行を遅らせることがあるが、変性過程をもとに戻すことはない。

副作用:恐らくNMDA受容体での過剰な作用による。ふらつき、頭痛、便秘。希にてんかん発作。

 

[011.1.MEM:2007.2.9.古泉秀夫]

 

1)Medical Letter<日本語版>,17(13)53(2001)
2)仙波純一・訳:精神科治療薬処方ガイド;メディカル・サイエンスインターナショナル,2006

「ツベルクリン検査にについて」

土曜日, 1月 12th, 2008

KW:語彙解釈・ツベルクリン・ツベルクリン検査・精製ツベルクリン・一般診断用・一般診断用強反応者用・確認診断用・結核予防法改正・年齢制限

 

Q:ツベルクリン検査の動向について

 

A:平成14年11月13日付で『結核予防法施行令』の一部が改正され、平成15年4月1日から『小・中学校におけるツベルクリン反応検査は廃止』されている。
理由として『平成7年にWHOが、BCGの複数回接種の有効性に関して疑問視していることや、小・中学校でのツベルクリン検査による結核患者の発見も殆どなく、また強陽性患者が出たとしても過去にBCGの接種を受けていた結果あるいは再ツベルクリン検査などで繰り返し接種した場合の影響等で、結核感染の判断をすることが困難になる等が挙げられている。

□平成16年6月15日付で新に『改正結核予防法』が成立し、平成17年4月1日から施行された。改正のポイントは

?ツベルクリン反応検査を廃止して直接BCG接種を実施、また定期健康診断や定期外健康診断の対象者・方法の見直し

?保健所・主治医によるOTSの実施

?国・地方公共団体の責務の規定

?国・都道府県の結核対策に係る計画の策定

?結核診査協議会の見直し

の5点である。

『結核予防法施行令の一部を改正する政令第332号』の概要(平成17年4月1日施行)

□BCGの接種

改正前 改正後

対象年齢
4歳未満のツ反陰性者
小学校1年のツ反陰性者*
中学校1年のツ反陰性者*

間隔:ツ反判定後2週間以内

*)小・中学生へのツベルクリン反応検査・BCG接種は平成14年11月13日付で結核予防法施行令が一部改正され、平成15年4月廃止。

定期の予防接種

生後6ヵ月(特別の事情によりやむを得ないと認められる場合においては1歳)に達するまでの期間

*)ツベルクリン反応検査は全廃される。

定期の予防接種

生後6ヵ月(特別の事情によりやむを得ないと認められる場合においては1歳)に達するまでの期間

*)ツベルクリン反応検査は全廃される。

(二)定期の健康診断を受けるべき者 定期
(1)学校(専修学校及び各種学校を含み、幼稚園を除く。)、病院、診療所、助産所、介護老人保健施設などにおいて業務に従事する者 毎年度
(2)大学、高等学校、高等専門学校、専修学校、又は各種学校(修業年限が1年未満のものは除く。)の学生又は生徒 入学した年度
(3)監獄に収容されている者 20歳の誕生日の属する年度以降において毎年度
(4)社会福祉法に規定されている施設に収容されている者 65歳の誕生日の属する年度以降において毎年度

 

(三)市町村が行う定期の健康診断を受けるべき者 定期
(1)他の者が行う健康診断の対象者以外の者

65歳の誕生日の属する年度以降において毎年度

(2)市町村が時に必要があると認める者 市町村が定める定期

 

定期の健康診断の回数を次のとおりとすることとした。

条件 回数
(1)(二)及び(三)(1)の健康診断にあっては、それぞれの定期において 1回
(2)(三)(2)の健康診断にあっては、市町村が定める定期において市町村が定める 回数

定期外健康診断について

初発患者が感染源となって接触者に感染させた疑いがある場合に感染の有無等を把握するため、及び当該初発患者に感染させたと疑われる者を発見する目的で以下の方法等必要な検査を実施する。

実施の方法[接触者検診・集団検診]

喀痰検査・胸部X線検査、聴診、打診、ツベルクリン反応検査等必要な検査。

以上の法律改正に伴い、次の製品は2005年3月末をもって製造・販売中止された。

製品 単位 備考
一般診断用強反応者用精製ツベルクリン(PPD) 0.2μg/2mL 経過措置期間:2006.3.31.
確認診断用精製ツベルクリン(PPD) 10 μg/2mL 経過措置期間:2006.3.31.
確認診断用精製ツベルクリン(PPD)1人用 2.5μg 1人用×10 経過措置期間:2006.3.31.
一般診断用精製ツベルクリン(PPD) 5μg/10mL [薬価未収載]
BCG接種用管針 10本入り  
BCG接種用管針煮沸ホルダー 20本立て  

継続して製造・販売される製品

製品 単位 備考
一般診断用精製ツベルクリン(PPD)

1μg/瓶
添付溶解液2mL(3mL/管)

約10人
一般診断用精製ツベルクリン(PPD)1人用

0.25μg/瓶
添付溶解液0.5mL

10瓶
乾燥BCGワクチン(経皮用・1人用) 12mg/ 1人分/管・溶剤0.15mL/管 器具1人分添付

 

[615.8TUB:2002.11.25.古泉秀夫・2007.4.3.・2007.6.18.改訂]

 

1)NEWS「改正結核予防法が成立」;日本医事新報,No.4182:70(2004.6.19.)
2)小学1年・中学1年に対するツベルクリン反応検査及びBCGの接種の中止にいて;事務連絡,2002.11.13.
3)結核予防法施行令の一部を改正する政令,第332号,2002.11.13.
4)結核予防法施行令の一部改正に伴う母子健康手帳の様式の改正について;雇児母発第1119001号,2002.11.19.
5)結核予防法の規則の一部を改正する省令;厚生労働省政令第9号,2003.2.4.
6)結核予防法施行令の一部を改正する政令(政令第303号)(厚生労働省);官報,第3949号:1-2(平成16年10月6日)
8)卸DI実例集第273回;卸薬業,29(8):485(2005)
9)政令第44号:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令;官報,第4539:2-7(平成19年3月9日)

「受動喫煙と中耳炎の関係」

土曜日, 1月 12th, 2008

KW:副作用・煙草・タバコ・受動喫煙・二次喫煙・中耳炎・急性中耳炎・環境たばこ煙・ETS・environmental tobacco smoke

Q:受動喫煙によって中耳炎が起こるという話があるが、中耳炎発現の理由はどのように説明されているのか。

 

A:米国における禁煙の動機付けの一つとして、『自分の子供に二次喫煙による有害な影響(耳や気道の感染の増加、喘息の悪化)を与える可能性があることを知って禁煙する』とする紹介[文献?p.2482]がされている。また小児の急性中耳炎について『副流煙による受動喫煙が、危険因子として示唆されている』[文献?p.675]。『煙草の煙に曝されていたり、おしゃぶりを使用している子供では、中耳炎にかかるリスクがかなり高くなる。これらはいずれも耳管の働きを妨げ、中耳の通気に影響を与えるからである』[文献?p.1607]とする報告も見られる。

また、厚生労働省の最新たばこ情報『21世紀のたばこ対策検討会(第1回)』報告として、次の資料が見られる。

                                                              平成10年2月24日
                                                                厚生省保健医療局

 

受動喫煙によるリスクは、米国環境保護庁(EPA)により環境たばこ煙(ETS)は人体に発がん性のある「A級発がん物質」と分類され、がん、呼吸器疾患、循環器疾患、小児の発育毒性について因果関係が立証されている(表2) 。

ニコチンの代謝産物であるコチニンが受動喫煙の指標として広く用いられているが、我が国の住民検診の対象者においても、家庭と職場の両方で曝露の程度の高い集団ほど、尿中コチニンの検出される割合が高いことが示されている。さらに、喫煙者がいて子供の前でも吸う家庭では、受動喫煙のない家庭に比べて、未就学児において血中鉛濃度が有意に高いことが示されている。

表2 環境たばこ煙(ETS)による健康被害

健康被害 因果関係が証明されている 因果関係が示唆されている
発育への影響 低出生体重児、乳幼児突然死症候群 自然流産、認知・行動障害
発がんへの影響 肺がん、鼻腔がん 子宮頚がん
呼吸器への影響 小児の気管支炎・肺炎、喘息誘発・増悪、慢性呼吸器症状、滲出性中耳炎、成人の眼や鼻への刺激症状 嚢胞性線維症の増悪、肺機能の低下
循環器への影響 心疾患死亡、急性・慢性の冠状動脈性心疾患罹患  

(ETS; environmental tobacco smoke)

 

その他、次の報告も見られる。

『反復感染を含む急性中耳炎や慢性滲出性中耳炎の罹患者は、受動喫煙の害を受けている子供達の間で増えている。煙草を吸う家庭では中耳炎はほぼ3倍多く発生する。又は家庭で受動喫煙にさらされている子供は、中耳炎に1.5-2倍かかり易くなる』等がインターネットのページ上に喫煙と中耳炎の関係として散見される。但し、成人の中耳炎に関する記載はなく、乳児・小児に限定された情報と思われる。

日本禁煙推進医師歯科医師連盟-受動喫煙の診断基準委員会による受動喫煙症の分類と診断基準-に、レベル4(慢性受動喫煙症)として、中耳炎の記載が見られる。

レベル0 正常 非喫煙者で、受動喫煙の機会がない。
レベル1 無症候性急性受動喫煙症

(疾患)急性受動喫煙があるが、無症候の場合。
(診断)タバコ煙に曝露の病歴があればよい。コチニン検出は不要。
(注意)本人がタバコ煙曝露についての自覚なしに見過ごされることもある。

レベル2 無症候性慢性受動喫煙症

(疾患)慢性受動喫煙があるが、無症候の場合。
(診断)週1時間以上の曝露が繰り返しある。コチニンを検出できる。
(注意)本人がタバコ煙曝露についての自覚なしに見過ごされることもある。

レベル3 急性受動喫煙症

(疾患)目・鼻・喉・気管の障害、頭痛、咳、喘息、狭心症、心筋梗塞、一過性脳虚血発作、脳梗塞、発疹、アレルギー性皮膚炎、化学物質過敏症

(診断)非喫煙者がタバコの煙に曝露した事実のみで、コチニン検出は不要。

(注意)眼症状にはかゆみ、痛み、涙、瞬目などがある。鼻症状にはくしゃみ、鼻閉、かゆみ、鼻汁などがある。これらは一般に非喫煙者の方が強い反応を示す。

1.症状の出現が受動喫煙曝露開始(増大)後に始まった

2.疾患の症状が受動喫煙の停止とともに消失する

3.タバコ煙以外の有害物質曝露がないの3点があれば、可能性が高い。

レベル4 慢性受動喫煙症

(疾患)化学物質過敏症、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、COPD、小児の肺炎、中耳炎、気管支炎、副鼻腔炎、身体的発育障害など。
(診断)非喫煙者が週1時間を超えて繰り返しタバコ煙に曝露。曝露後24時間以内に測定した尿からコチニンを検出。
(注意)但し、1日数分であっても連日避けられない受動喫煙がある場合はこれに起因する慢性の症状やタバコ病が発症する可能性がある。状況を総合的に判断し、1日1時間以内であっても受動喫煙症と診断して良い。

レベル5 重症受動喫煙症

(疾患)悪性腫瘍(とくに肺癌など)、乳幼児突然死症候群、COPD、脳梗塞、心筋梗塞(致死性の疾患の場合)
(診断)非喫煙者が週1時間を超えて繰り返しタバコ煙に曝露。曝露後24時間以内に測定した尿からコチニンを検出。
(注意)但し、1日数分であっても、連日避けられない受動喫煙がある場合はこれに起因する慢性の症状やタバコ病が発症する可能性がある。状況を総合的に判断し、1日1時間以内であっても受動喫煙症と診断して良い。

 

受動喫煙と子供の中耳炎の関係については、海外で既に100報以上の論文が出ており、中耳炎の患児を診察する際に、家族の喫煙状況を問診することは、欧米では常識とされている。

受動喫煙によって中耳炎が起きやすくなる機序は、耳管や中耳の粘膜や繊毛細胞が障害を受けて、粘液の性状が変化したり繊毛運動が低下して細菌が侵入しやすくなること、また化学的刺激によって耳管が閉塞したり、局所免疫機能が低下して細菌やウイルスが感染しやすくなることが指摘されている。

  [065.ETS:2006.11.13.古泉秀夫]

 

1)メルクマニュアル第17版日本語版;日経BP社,1999
2)http://www.health-net.or.jp/tobacco/21c_tobacco/1st/20.html,2006.11.8.
3)国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・私信,2006.11
4)加治正行:子供の受動喫煙による中耳炎の増加;http://www.abe.or.jp/tobacco/slide2_12.asp,2006.11.8.
5)最新メルクマニュアル医学百科家庭版;日経BP社,2004

医療事故に関する私的考察[3]

土曜日, 1月 12th, 2008

                                                                  医薬品情報21
                                                                      古泉秀夫

6.日本消化器学会の報告から

 

日本消化器学会の医療事故対策委員会が損害保険会社の賠償金支払い例を分析した結果が報告されていた[読売新聞,第44737号,2000.10.26.]。

事故が起きた肝臓・胆嚢・膵臓の主な検査・治療[( )内は死亡者数]

 

?開腹手術 75(27)
?腹腔鏡による胆嚢摘出術 50(4)
?内視鏡による胆嚢・膵臓造影 34(10)
?肝臓の組織採集検査(肝生検) 12(3)
?全身麻酔 11(4)
?採血 10(0)
?点滴 9(4)
?胆管出口の切開術 8(3)
?腹部血管造影 7(3)

 

分析の結果、初歩的なミスが原因の圧倒的多数を占めることが明らかになった。内視鏡を入れた途端に食道や直腸などに穴を開けたり、手術の際に異物を腹部に置き忘れたりする注意や技術で防げる事故が殆どだった。同委員会では「一部の医師の技術の未熟は明らか。再教育も必要」とし、医師の技量、経験などで保険料に差を付ける“荒療治”も必要としている。
データの大半は1989?1997年の9年分で約500件。内視鏡による消化管の検査と治療では、保険金支払い例が198件。目的とする消化管に到達する前の単純なミスが多く、死亡例も目立った。
肝胆膵の検査と治療では、344件に保険金が支払われた。殆ど初歩的なミスで、手術の際のガーゼや管の置き忘れが29件と最も多く、採血で神経を傷つけた例(8件)や縫合ミスによる手術後の出血(6件)、肝細胞を採集する検査で他の臓器を傷つけた例(4件)などがあった。腹部から管を入れる腹腔鏡による胆嚢摘出もミスが多く、今回の調査で関連事故が50件にのぼったととしている。

調査の結果について初歩的なミスと切り捨てるのも結構であるが、研修医・レジデントの期間を通して教育・訓練した時代の教育担当医はどの様な教育をしてきたのか。その当たりから掘り下げなければ、本当の意味での見直しにならないのではないか。単に『医師の技量、経験などで保険料に差を付ける“荒療治”も必要』等という簡単な結論では片付かないものが、医療教育の根元にあるのではないか。

7.個別的事項(続続)

 

 

報道時期 事故の概要 事故内容の問題点

1999年11月

薬剤調製ミス

大阪吹田市の国立循環器病センターで、心臓手術を受けた女児が、臨床工学技士が心筋保護液を混ぜていない蒸留水を使用したことにより死亡[読売新聞,2000.3.8.]

[1]臨床工学技士は、あくまで薬については専門外であり、製剤室業務を行うための薬剤師が配置されているのであれば、院内製剤として調製し、払い出すべきである。それを実施していなかったというところに最大の問題点があるといえる。

[2]継続中の作業の終了までは、決して作業を中断してはならないと言うのが、医療現場における過誤防止の鉄則である。これは病院薬剤師としての経験に基づく鉄則であり、マニュアルにも明記されているはずである。

[3]医師は身近にいる人間に安直に仕事の依頼をする傾向があるが、それぞれの専門性を評価し、薬の調製は全て薬剤部に依頼するの原則を遵守すべきである。

1999年11月 東京都中央区の聖路加国際病院で、昨年11月、親子二人が相次ぎ浴室で一酸化炭素中毒死した事故で、最初に亡くなった父親を治療した際の血液検査をした時、血中の一酸化炭素濃度が41.7%と、一酸化炭素中毒を疑わせる数値がでていたにも係わらず、これを見落とし、家族らに伝えていなかったことが2000年6月6日に分かった。事故は風呂釜の工事ミスで発生し、翌日長男が同じ風呂に入り一酸化炭素中毒で死亡した。父親の中毒の疑いが知らされていれば、長男の事故は防げた可能性もあるが、病院側は「父親の蘇生措置の時点で、中毒死を推測するのは困難だった」としている。病院側は、心停止状態で救急搬送された患者を既往の狭心症であると判断[読売新聞,2000年6月6日]。

予断を持って物事を見れば、結論は自ずから決まる。あるべき事実を事実として認識し、総合的に判断するのが科学だとすれば、データの一部に疑問を持たなかったというのは、明らかに失敗だったといえる。

報道の内容からだけでは、何故このような結果が生じたのかの背景は不明である。しかし、少なくとも治療に関係した医師のうちの誰か一人でもデータに疑念を持てば、結果は変わっていたのではないか。データを見ながらデータを読み切れないのでは、技術力低下をいわれても仕方がない。

あるいは専門分化し過ぎた現在の医療のありようが、化学物質の中毒を疑わせるデータを見逃させたとしたら日本の医療のあり方を変えない限りこのような事故が続くということである。

1999年12月 東京都豊島区の癌研究会附属病院で抗癌剤過剰投与による患者死亡事故が発生。主治医が誤って行った標準の3倍もの投薬指示に、薬剤部や当直医が何の疑問も抱かず、3日間にわたり副作用の強い抗癌剤が投与された結果だった。担当医が死因は投薬ミスと認めながら家族には死亡後3カ月も事実が伏せられ、警察への届出は未だにない。1999年12月16日、男性の注射や検査内容を書き込む3日分の「指示票」に抗癌剤などの薬品の投与日や回数を記入した際、本来1回投与したら3週間以上投与を避けるべき抗癌剤を3日続けて投与するよう丸印を付けてしまった。シスプラチンに付けるべきではない丸印を行を間違えて付けた結果[読売新聞,2000.4.27.]

総合病院における入院患者の基本は、日々容態の変化する急性期の患者である。従って退院間近の患者以外、治療は日々変化するのが当たり前のはずである。そのような医療機関で、頻繁に変更されるはずの注射薬が3日分の「指示票」で処理されていることに疑念を持つのである。必要とする注射薬は「注射処方せん」に記載し、薬局で1日分ずつ調剤するの原則さえ確立されていれば、行を間違えて丸印を付けるなどということはあり得ないことである。

通常、医師が指示簿に注射薬を記載し、注射伝票に看護婦が転記、薬剤師が払い出すという仕組みが多いはずであるが、注射薬も「処方せん」に医師自らが記載し、1日分ずつ調剤して出す方策を確立すべきであり、その結果、注射薬に関係する多くの事故の一部は防止できるはずである。

2000年1月
抗癌剤8倍量投与

大阪市天王寺区大阪赤十字病院で前立腺の末期癌で1999年12月22日入院した男性患者(63歳)が通常量の8倍の抗癌剤を投与され、副作用のため17日後に死亡していた。処方した研修医が別の薬剤の投与量と勘違いしたミス。
本来は10mgの投与量である抗癌剤を、別の薬と間違え80mg投与の指示を出した。看護婦が糖液に溶解して別の医師が男性に点滴。男性は副作用で白血球が減少して敗血症になり、2000年1月13日多臓器不全のため死亡した。[読売新聞,2000.3.10]。

注射薬の管理が、どうなっているのか記事内容だけでは理解できないが、注射薬の管理という面からいえば、病棟には余分な注射薬を置かないというのが基本原則である。従前は『箱渡し』ということで、病棟に箱ごと払出して、任意に使用するという方策が採られていたが、これは注射薬の誤用という面でも、薬品管理という面でも最悪の方法といわなければならない。次にセット制が導入され、各病棟毎の必要量を定め、必要最低量をセットにして2組のセットを定期的に交換する方法が導入されたが、まだ、定数量が多い、注射薬を取り出すのが看護婦・医師等特定できないという弱点がある。

セット制の欠陥を改善するために導入されたのが、処方せんに基づく個人渡し制(注射薬調剤)とセット制の併用である。この方式であれば、セットに入れる薬の数は最低限の臨時使用分ということであり、薬剤師が責任を持って調剤した注射薬が払い出されるため、注射薬の取扱に関する事故は限りなく減少するはずである。

2000年1月

松江市の国立療養所松江病院に入院中の少女が、人工呼吸器のスイッチを入れ忘れて死亡[読売新聞,2000.3.8.]

全医労国立松江病院支部の調査によると、11種50台以上の人工呼吸器を保有しているとされている。更に『多様な患児に対応するため機種が多種多様で、全機種の操作に精通することは困難』との意見を述べているが、機種の多様性は、患児の多様性だけの問題なのかどうか。国立療養所の宿命として医師が定着しない。補充のため派遣されてくる医師の出身大学が同じなら問題ないが、もし出身大学が異なっていれば、その都度使用機器の変更が求められる。『曰く、使用経験のない機械は使用できない』。手術用メス1本にまで従前使用していたものに固執する医師の性格からすると、機械ではなおさらそういう要求がでてくる可能性が予測される。

*医療内容の高度化に伴い、使用する医療機器も高度・複雑化しているのが現状であり、それらの機器を医師・看護婦で保守点検・操作することは困難である。医療機器の保守管理・操作を行う専門家(臨床工学士)を導入することが必要である。

2000年1月 沖縄県宜野湾市の国立療養所沖縄病院で、昨年7月に人工呼吸器の管が外れたALS患者が半年後の今年1月に死亡していたことを明らかにした[読売新聞,2000.4.30] 同上

1床当たりの職員数比較
先進国:2.14人
日 本:0.95人
[朝日新聞,2000.9.2.]

2000年2月

島根県伯太町が2月小学校6年生を対象に実施した予防接種で、3校の計46人に対して適量(0.1mL)の5倍のワクチンを接種していた。幼児対象の別の予防接種と量を勘違いしたミスで、接種したワクチンはジフテリア破傷風混合ワクチン。5?6人に接種部分が腫れるなどの症状がでた[読売新聞,2000.3.16.]

明らかなうっかりミスである。医療のあらゆる場面において二重・三重のチェックをするのは常識である。しかし、忙しいとか、仕事に対する慣れとかが、この基本を忘れさせる。
2000年3月 東京都文京区「有馬記念医学財団・富坂診療所」茨城県土浦市内の事業所の巡回検診で胃の検査に使用するバリウム液を使用する際、誤って消毒用エタノールを混ぜ、これを服用した受診者54人中21人が酒に酔ったような症状を訴えた。症状は顔の火照りや動悸、ふらつき等。バリウムに混入したアルコール濃度は12%で、日本酒約80mLを一気に飲んだ場合に相当。[読売新聞,2000.3.10]

ラベルの確認という基本を忠実に実行していれば、起こり得ない間違いであり、ワクチンの投与量を間違えた前出の事故と同根のものである。
専門職能のとしての誇りにかけて一般人が起こすような失敗を起こさないという自負は、何処かに置き忘れてしまったとしか思えない。

 

事故を防止するための作業手順は、各施設毎にマニュアル化されているはずである。しかし、マニュアルは時間とともに風化する。決定されたときの事故に対する反省と忸怩たる思いは、伝え続けることは難しい。その事故の内容が、単純であればあるほど、『そんなことを私は起こさない』という自惚れが先に立つのと同時に、面倒な手順は省きたいという怠惰な思いが忍び込むのである。

 

[2008.1.12.一部修正]

「抗不安薬の効力比較について」

木曜日, 1月 10th, 2008
 

KW:臨床薬理・効力比・筋弛緩作用・睡眠薬・ベンゾジアゼピン系・benzodiazepine系・作用特性・抗不安作用・催眠鎮静・抗痙攣・抗うつ・血中濃度半減期・作用持続時間

 

Q:ベンゾジアゼピン系抗不安薬の効力比較について

 

A:抗不安薬としてbenzodiazepine系薬物が臨床で繁用されている。それらの薬理効果は、情動と関係する大脳辺縁系に分布するbenzodiazepine受容体に作用して、GABAの作用を増大させることにより抗不安作用を発現すると考えられている。以下にbenzodiazepine系抗不安薬の効力比較を示す。

体に作用して、GABAの作用を増大させることにより抗不安作用を発現すると考えられている。以下にbenzodiazepine系抗不安薬の効力比較を示す。

抗不安薬

註1.力価:各種資料により分類に相違が見られるため、文献?の分類に従った。
註2.筋弛緩作用・抗痙攣作用の力価は文献?の判定に従った。
註3.抗不安作用・催眠鎮静作用・抗うつ作用の力価は文献?の判定に従った。
註4.力価の漢字表記は文献?の表記に従った。

上表に見られるとおり、各薬剤の力価は報告者により若干の相違があり、『評価は確立していない』ということが出来る。従って本表の利用に際しては、あくまで参照程度と考えることが必要である。なお、高齢者には中力価・中期作用型が有用とする報告が見られる。

作用時間区分による適用

短期作用型
(6時間以内)
1)不安発作(パニック障害)に対する頓用に有用。
2)連用後に中断すると反跳性不安・退薬症候を起こしやすい。
3)高力価・短期作用型では健忘や譫妄・錯乱の報告がある。
4)高齢者には投与を避ける。
中期作用型
(12-24時間以内)
1)高齢者への投与可能。
2)全般性不安障害に対して1日1回(せいぜい2回)連用。
長期作用型
(24時間以上)
1)服薬回数を削減できる。
2)依存者の離脱に有効。
3)連用によって体内蓄積を起こすおそれがある。
4)高齢者には投与を避ける。
5)全般性不安障害に対して1日1回(せいぜい2回)連用。
6)benzodiazepine依存者に対しては、長期作用型に変更して離脱を図る。代替薬として抗うつ薬が有用。
超長期作用型
(90時間以上)
1)高齢者には投与を避ける。

力価区分による適用

?高力価型
 
1)標準1日最低用量:5mg≧
2)高齢者には高力価・短期作用型(譫妄・健忘を惹起する恐れ)を避ける。
 
?中力価型
 
1)標準1日最低用量:6mg<10mg
2)高齢者には中力価・中期作用型が有用。
 
?低力価型
 
1)標準1日最低用量:10mg≦
2)高齢者には低力価・中期作用型が有用。
 

[015.4.BEN:2003.11.11.古泉秀夫]

 
1)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2003
2)融 道男:向精神薬マニュアル;医学書院,1998
3)田中良子・編:臨床で役立つ-薬効別服薬指導マニュアル 第3版;薬業時報社,1990
4)大内尉義・他編:疾患と治療薬-医師・薬剤師のためのマニュアル 改訂第5版;南江堂,2003

アロエとワーファリンの相互作用

木曜日, 1月 10th, 2008

KW:健康食品・漢方薬・相互作用・アロエ・キダチアロエ・ワーファリン・ビタミンK含有量

Q:アロエとワーファリンの相互作用。アロエジュース中にビタミンKは含まれているか。

A:キダチアロエロイヤルエキス(株式会社ひらたヘルシー;群馬県群馬郡群馬町棟高1675-20TEL.0120-40-3433)の分析資料によれば、次の含有成分が報告されている。

分析試験項目 結果
水分 98.2%
蛋白質 0.1%[窒素・蛋白質換算計数;6.25]
脂質 0.1%
繊維 0
灰分 0.5%
糖質 1.1%[計算式:100-(水分+蛋白質+脂質+繊維+灰分)]

また、アロエ中の主な成分一覧として、次の資料が紹介されている。

植物フェノール類
アントラキノン類 アロエエモジン、クリソファノール、ラバルベロン、ラムノサイド
クロモン誘導体 アロエシン、フェルロイアルアロエシン、クマロイアルアロエシン
糖類-単糖類 グルコース、キシロース、マンノース、アラビノース、フルクトース、ガラクトース
糖類-多糖類 セルロース、アルドナンテーゼ、ムチン、D-マンノース
ビタミン類 ビタミンA,B1,B2,B6,B12,C,E,パントテン酸、葉酸
ミネラル類 カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、マンガン、クロム、銅、ゲルマニウム、塩化物、硫酸塩
アミノ酸類 トリプトファン、ロイシン、イソロイシン、リジン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、チロシン、ヒスチジン、アルギニン、ヒドロキシプロリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン
酵素 アリナーゼ、アミラーゼ、カタラーゼ、オキシダーゼ、リパーゼ、アロエカルボキシペプチダーゼ、プロテアーゼインヒビター、アロエレクチン様物質、TNF様物質、アンチトリプシン中和物質、トリプシン様プロテアーゼ、セルラーゼ
その他 ヘキスロン酸、ペテログルタミン酸、グルクロン酸、タンニン、葉緑素、植物ホルモン、カサンスラノールI・II、アロエチン酸ペンタヒドロキシフラボン、ヒドロキシクロモン、サポニン、カルシウムオキサレート、ムコポリサッカラーゼ複合体、ミルセンリモネン、コニフェニールアルコール、2-メチル-2- フィチン-6-クロマノール、グルコサミン、ヘコゲニン、サボゲニングルコシド、コリン、コリンサリチル酸塩

 

以上の成分表中に具体的にビタミンKの記載はされていない。

但し、その他の成分中に「葉緑素」の記載がされており、植物の光合成において葉緑素の生成にビタミンKが重要な役割を果たしているとする報告もされていることから、葉緑素が存在する植物ではビタミンKがその成分中に存在することは否定できない。また、ワーファリン錠の添付文書中に上記成分との相互作用の記載はされていないが、アロエ中に含有する成分の全てについて、薬理作用等が解明されているとは限らないので、ワーファリン錠服用中の患者がアロエジュースを飲用している場合、アロエジュースの飲用中断はないと仮定して、トロンボテスト等の検査結果を見ながら判断する。

その他、日本薬局方の記載を参照すると、アロエ(aloe)、別名ロカイ。アロエ末のラット経口投与による潟下効果はbarbaloin含量に比例し、塩酸テトラサイクリン前投与で著明に減弱するが、これはbarbaloinの腸内菌による代謝的活性化を示唆するものである。ヒト糞便菌叢又はラット盲腸内菌叢の作用でbarbaloinからaloe-emodinanthroneの生成が認められるが、この代謝物はラット結腸粘膜の傍細胞透過性を増大させることなどにより、結腸内腔液量を増加させる。アロエ及びaloinは、ヒト又はラットにおいて排便促進作用を有する。

本品の副作用として、大量の服用は腹部の疝痛と骨盤内臓器の充血を起こすので、妊娠時、月経時、腎炎、痔疾の場合などには注意するとされている。

[510.FD38.015.2ALO][1996.7.8.・1999.3.22.一部改訂.古泉秀夫]


  1. 株式会社ひらたヘルシー・私信1996.5.31.
  2. 第12改正日本薬局方解説書;広川書店,1991
  3. ワーファリン錠添付文書,1995.7.改訂
  4. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:NHS.DI-News,No.1556,1997.6.11.より転載。

アセトアミノフェンの苦味マスキング法

木曜日, 1月 10th, 2008

KW:物理・化学的性状・苦味マスキング法・アセトアミノフェン・acetaminophen・添加物・矯味用賦形剤・製剤処方

 

Q:ライ症候群発生以来小児用バファリンに代えてアセトアミノフェンが使用されるようになったが、苦くて服用し難いの苦情が相次いでいる。投薬法の工夫を教えて下さい。

 

A:acetaminophen[ピリナジン(山之内製薬)]は、非ピリン系の解熱・鎮痛剤であり、その添付文書中に「小児に対する安全性は確立していない」の記載が見られるが、小児に投与されているのは事実である。尚、本品の性状について、添付文書中の記載を見ると、白色の結晶又は結晶性の粉末で、臭いはない。

エタノール又はピリジンに溶け易く、熱湯、イソアミルアルコール又は温イソアミルアルコールにやや溶け易く、水又は温湯にやや溶け難く、エーテルに極めて溶け難い。水酸化ナトリウム試液に溶け、飽和水溶液は僅かに酸性であるとされているが、味に関する記載はされていない。

本品の原末を口中に含んだ場合、その直後には苦味感がないが、口内で本品が溶けた段階では、質問の通り苦味感があり、あるいは小児では服用困難の苦情が出る可能性は否定できない。また、本品を乳鉢中で微粉末化し乳糖と1:1の割合で混合した場合の味について確認したが、苦味感は増す傾向が見られた。

次に矯味用賦形剤の処方例について調査したところ、次の処方例が報告されていた。

  P-S(10) P-S(20)
  処方 製剤処方 処方 製剤処方
sodiumcyclohexylsulfamate(シクラミン酸ナトリウム) 0.1g 100g 0.2g 200mg
ice-creamessenceNo.500
(アイスクリーム・エッセンスNo.500*)
適量 10mL 適量 10mL
starch(澱粉) 0.3g 300g 0.3g 300g
lactose(乳糖) 適量 600g 適量 600g
全量 1g 1000g 1g 1000g

 

[注]アイスクリーム・エッセンスNo.500は、本品50gにつき10滴の割合で添加する。

  • 調製法:澱粉の一部にアイスクリーム・エッセンスNo.500を加えた後、各薬品を5号篩(50メッシュ)で篩過し、常法に従って散剤とする。
  • 貯法:気密容器
  • 応用:甘味賦形剤として用いる。

その他、ココア末0.1gに乳糖0.9gを加えた賦形剤を苦味のマスキング剤として使用している例、及びココア末に5%-10%のサッカリンナトリウムを添加し、マスキング剤として使用している例等が報告されており、これらの報告例に従って賦形剤を調製し、添加することで、 Acetaminophenの苦味は防げるものと考える。

[114.FD15.014.47AC][1991.3.13.・1999.3.26.一部修正.古泉秀夫]


  1. ピリナジン添付文書,1986
  2. 野上寿:薬局製剤とその解説;南山堂,1964,p.41
  3. 稲丸量一・他:小児科領域における繁用賦形剤について;薬局,36(4):489-494(1985)
  4. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:FAX.DI-News,No.42,1991.3.19.より転載

アマランサスについて

木曜日, 1月 10th, 2008

KW:健康食品・アマランサス・アトピー・amaranthus・成分・組成・カルダータス・ヒポコンドリアカス・ケニアッタ

Q:粟・稗等の餅の中にアマランサスを入れた物が市販されており、アトピーに良いと新聞に書いてあったが、このアマランサスとは何か

A:新聞報道[1991.10.3.朝日新聞・朝刊-神奈川版]によれば、

猿害に縁遠い転間作物・アマランサスを神奈川-真鶴農協[TEL.0465-68-1225]が栽培として、ミカンの減反後地に「健康食品」として使われる作物アマランサスの試験栽培を始めている。粟に似た実を粉にし小麦粉に混ぜ、パンやうどんに加工して同農協で販売する計画。アマランサスは中南米が原産、その実にはミネラルや蛋白質を多く含み、アトピー性皮膚炎で愛用する人も多い

等の報道がされている。

尚、amaranthusについて、次の報告がされている。

アマランサスは、インカの古代食物として長い伝統と歴史を持つが、儀式用食物として用いられていたため、邪教の食物としてその価値が認められず、ヨーロッパにも紹介されず、19世紀に入りアジアに紹介された。その後アフリカに導入され、野菜や穀物としての利用が広がってきた。アマランサスは、野菜として夏期の高温でも良く生育し、C4植物の性質を持ち、他の野菜の生育しない不良環境でも良く育つだけではなく、蛋白質・ビタミンC・鉄・カルシウム・線維等、特に昨今栄養として要求される成分を極めて豊富に含んでいる。

アマランサス茎・葉の主要成分(乾物100g当たりの成分量)

乾物重量 15.0g
カロチン 5.7mg
6.9mg
カルシウム 410mg
ビタミンC 64mg
蛋白質 4.6g
脂質 968mg

アマランサスの穀実は、疑穀類といわれ、穀物でない穀物として分類されている。穀類の栄養成分は、蛋白質や脂質、線維等のほか、カルシウム・リン・鉄・カリウム等を豊富に含み、他の穀類にない優れた成分組成を持っている。更に近年、食物性アレルギーのアトピー性皮膚炎にアマランサスが有効であるとして、御飯やパンに約10%混ぜて調理すると、アレルギーが回避できるとする報告がみられる。

アマランサス実の栄養成分組成比較(可食部100g当たり)

廃棄率(%) ?
エネルギー 372kcal
水分 9.8g
蛋白質 13.0g
脂質 7.3g
灰分 4.6g
炭水化物
糖質 61.3g
繊維 4.0g
無機質
Ca 152mg
P 485mg
Fe 111mg
Na 6.9mg
K 969mg
ビタミン
B1 0.06mg
B2 0.20mg
ナイアシン 1.7mg
C 0

食物連鎖の中で、どの様な作用があるのかは解明されていないが、脂質の中に占める脂肪酸が炭素数16のパルミチン酸と18のステアリン酸、オレイン酸、リノール酸が脂肪酸総量の97.33%を占め、これがアトピーの回避機作と深い係わりがあるのではないかとされている。

アマランサスの種類

 

■ カルダータス[AmaranthscaudatusL.](餅・タイプ)
子実利用。→ヒユ科の植物。センニンコク(和名)、老槍穀(ロウソウコク)。葉はベタイン、蓚酸塩を含む。種子にはフィトヘマグルチニンと脂肪油を含み、その中には飽和脂肪酸23.8%、不飽和脂肪酸71%、不鹸化性物質3.2%を含む。脂肪酸中にはパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸を含む。不鹸化性物質には4種類のステロイドを含み、その中の一つはβ-シトステロールである。
■ ヒポコンドリアカス(ウルチ・タイプ)
子実利用・野菜利用
■ ケニアッタ(ウルチ・タイプ)
子実利用・野菜利用
■ トリカラー[AmaranthustricolorL.]
鑑賞用花き・野菜利用。→ヒユ科の植物。雁来紅(和名)ハゲイトウ。→大量のビタミンC、アマランチン含む。
■パイアム
野菜

アマランサスの利用
機能性食品 アトピー性皮膚炎等
健康食品
  1. うどん・ソバ→乾麺(5%程度混入)
  2. 生麺(10%程度混入)
  3. パン・クッキー(カルダータス)
  4. その他→御飯(10?20%)/雑炊(20?25%)

[59.FD19.011.1AMA][1992.1.21.・1999.4.9.一部修正.古泉秀夫]


  1. SDIC・私信,1992
  2. 真鶴農協・私信,1992
  3. 上海科学技術出版社・編:中薬大辞典[第一巻];小学館,1985,p.399
  4. 上海科学技術出版社・編:中薬大辞典[第三巻];小学館,1985
  5. 上海科学技術出版社・編:中薬大辞典[第四巻];小学館,1985,p.2761
  6. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:FAX.DI-News,No.243,1992.1.23.より転載

アニサキス症について

水曜日, 1月 9th, 2008

KW:薬物療法・アニサキス症・anisakisis・幼虫寄生・消化管障害・海産魚類・ニシン・サバ・アジ・サケ・スルメイカ・イルカ・アザラシ・海産哺乳類

 

Q:アニサキス症の治療とアニサキスの抵抗性

 

A:アニサキス症(anisakisis)は、アニサキス亜科に属するアニサキス属(アニサキスI、II型)及びテラノパ属(テラノパA、B型)の幼虫の寄生による消化管障害を称する。これらの幼虫は本来海産魚類(ニシン、サバ、アジ、サケ、スルメイカ)に寄生し、海産哺乳類(イルカ、アザラシ)体内で成虫となる。

ヒトが感染魚肉を生食すると幼虫が胃や小腸粘膜に穿入し急性腹[部]症を呈する。我が国で発生したアニサキス症の大部分はイルカ類の胃に寄生する Anisakissimplexの幼虫によるもので、サバ、サケ、マス、スルメイカ等の生食により感染する、嘔気、嘔。発症は全国的に見られるが、最近では九州で激増している。

このほかにオットセイ、アシカ等の胃に寄生するPseudoteranvadecipienceの幼虫によるアニサキス症で、タラ、ホッケ、オヒョウ等の生食で感染し、主として北海道、青森県、日本海沿岸本州北部で発生している。

両者の臨床症状に大差はないが、Pseudoteranvadecipienceの幼虫によるアニサキス症は胃症状にのみ局限している。原因食としては、シメサバ、バッテラ寿司等が圧倒的に多い。食後3?8時間で絞り上げるような上腹部痛、嘔気、嘔吐、悪心を訴え、内視鏡で胃壁浸入中の幼虫を認める。1?5日後吐、筋性防御無き下腹部痛、腹水貯留を示すときは幼虫の回腸末端部侵襲を疑う。

治療方針

 

胃アニサキス症の場合、内視鏡による浸入虫体の確認に続き生検鉗子で摘出する。出血部位を観察するうちに虫体が出てくることもある。激痛のため内視鏡が使用できない場合や食事直後のため内視鏡観察の出来ない場合、抗アレルギー剤の静注、メベンダゾール投与を行う。腸アニサキス症は原則ととして開腹手術することなく、メベンダゾール投与とともに保存療法として消炎剤投与、輸液、腸管通過障害に腸紐の使用などを試みる。

1)抗アレルギー剤

強力ネオミノファーゲンC

40mL
デカドロン 2mg
生理食塩水 20mL

以上静注が有効とされる。

2)駆虫薬
 

メベンダゾール錠(mebendazole)

100mg/回
1日2回(朝・夕) 3日間経口投与
3)その他
内視鏡の届かない部位に、アニサキスの幼虫が残存している可能性がある場合、pyrantelpamoate[コンバントリン錠]の1回頓用を試みる。但し、本症の薬物療法は、あくまで補助的手段である。

なお、アニサキス幼虫の抵抗性について、次の報告がされている。

水道水・蒸留水中での生存期間及び消毒剤、熱、酸、アルカリに対する抵抗性(試験液1mLに対しアニサキス幼虫1匹を入れ、経過観察。虫体を刺激してから5分間全く動かない場合『死』と判定した)

試験対象物 条件

結果( )内検体数

水道水 室温 最長14日生存(10)
37℃ 7日以内死滅(10)
蒸留水  

最長20日生存(5)

ホルマリン 1% 最長6日生存(5)
5% 最長250分生存(5)
10% 最長170分生存(5)
アルコール 10% 最長5日生存(5)
20% 最長180分生存(5)
30% 100分以内に死滅(5)
50% 25分以内に死滅(5)
70% 5分以内に死滅(5)
100% 1分以内に死滅(5)
高温(温湯浸漬) 45℃ 生存期間61-78分(10)
50℃ 8秒で死滅(5)
60℃ 1秒で死滅(10)
70℃ 瞬時に死滅(10)
低温(水道水、冷蔵庫で冷却) ?10℃ 1日以内に死滅(10)
?15℃ 5時間以内死滅(10)
?20℃ 3時間以内死滅(10)
塩酸 pH:0.8 最長11日生存(10)
pH:2.0 最長112日生存(5)
pH:2.4-2.8 最長90日生存(5)
pH:3.4 最長64日生存(5)
pH:4.6-4.8 最長51日生存(5)
3%-石炭酸 pH:5.4 1日以内に死滅(10)
1%-硫酸 pH:1.6 最長8日生存(10)
1%-乳酸 pH:2.2 最長30日生存(10)
5%-酢酸 pH:2.0 最長32日生存(10)
食酢 pH:2.0 最長35日生存(10)
1%-水酸化ナトリウム pH:13.2 1日以内に死滅(10)
1%-水酸化カリウム pH:12.2 最長6日間生存(10)
1%-炭酸ナトリウム pH:11.4 最長35日生存(10)

[035.1ANI:2000.3.2.古泉秀夫]


  1. 南山堂医学大辞典,1992
  2. 日野原重明・他監修:今日の医療指針;医学書院,1991
  3. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2000
  4. 川田茂宏:大阪医科大学誌,26:224-244(1968)
  5. 西山利正・他:臨床と微生物,23(2):157-160(1996)

アルカリイオン水での薬の服用について

水曜日, 1月 9th, 2008

KW:物理化学的性状・相互作用・アルカリイオン水・酸性水・陽イオン・陰イオン・水酸化イオン・水素イオン・陰極反応・陽極反応

 

Q:現在、アルカリイオン水を飲用しているが、アルカリイオン水で薬を服用することに差し障りはないか

 

A:アルカリイオン水の性状について、次の通り報告されている。電解槽にカルシウムイオン(乳酸カルシウム)を含む原料水を入れ、水に直流電圧を放電すると、直流電流が流れ、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン等の陽イオンは陰極に引き寄せられ、塩化物イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン等の陰イオンは陽極に誘引される。両極間に掛かる電圧が十分に大きければ、電極表面において接触している水は電気分解され、下記の反応が生じる。

  • 陰極反応:2H2O + 2e? → H2 + 2OH?
  • 陽極反応:2H2O → O2 + 4H+ + 4e?

陽極側では水酸化イオン(OH?)、陽イオン及び溶存水素(H2)が多くなり、pH値の高いアルカリイオン水が生成され、陽極側では水素イオン(H+) 、陰イオン及び溶存酸素(O2 )等が多くなり、pH値の低い(弱)酸性水が生成される。

生成水 pH 酸化還元電位 陽イオン 陰イオン 溶存気体
アルカリイオン水 9-10程度 低い 増加 減少 水素
(弱)酸性水 4-6程度 高い 減少 増加 酸素、(塩素)

 

医療用具としての承認を受けているアルカリイオン整水器は、次の効能・効果が承認されている。

  • アルカリイオン水:飲用して慢性下痢、消化不良、胃腸内異常醗酵、制酸、胃酸過多
  • 酸性水:弱酸性のアストリンゼントとして美容に用いられる。

アルカリイオン水の作用機序については、現段階で明確に解明されていないが、カルシウムを添加してpHが弱アルカリ性となることから『水酸化カルシウム[Ca(OH)2]』が含まれていることになり、水酸化カルシウムに由来する薬理作用の発現が予測される。

以上の各報告を受けてアルカリイオン水飲用時の注意事項について、次の報告がされている。

(1)アルカリイオン水を飲用するときには、次のことに注意する。
[1]医薬品服用時の水としてアルカリイオン水を使用しない.
[2]無酸症の診断をされた者ではアルカリイオン水を飲用しない。
(2)アルカリイオン水を飲用して異常を感じたとき、又は飲用を続けても症状の改善が見られない場合は、医師又は薬剤師に相談する。

(3)持病を有する者又は身体の弱っている者では、アルカリイオン水を飲用する前に医師又は薬剤師に相談する。

なお、アルカリイオン水での薬の服用については、『薬を服用するときは常水でおのみ下さい。アルカリイオン水そのものが効能・効果の認められる水ですので、他の薬と同時に服用することは避けてください』の注意が求められている。

その他、calcium製剤の相互作用として、

  1. テトラサイクリン系抗生物質とカルシウム製剤の併用により、テトラサイクリン系抗生物質の吸収を阻害することがある。
  2. カルシウム製剤の服用により消化管内・体液のpH上昇、併用薬剤の吸収・排泄に影響を与えることがある。
  3. カルシウム製剤とビタミンDとの併用により、高カルシウム血症が現れやすくなる。
  4. カルシウム製剤は、ジギタリスの作用増強の可能性があるとされており、ジギタリス中毒症状発現の可能性。
  5. リン酸エストラムスチンナトリウムではカルシウムイオンとの間に、不溶性の複合体形成の報告。

等の報告がされており、注意が必要である。

[014.4.ALK:2003.6.24.古泉秀夫]


  1. アルカリイオン水整水器協会:http://www.3aaa.gr.jp/wa/index.html.,2003.6.24.
  2. 第十四改正日本薬局方解説書;廣川書店,2001
  3. エストラサイトカプセル添付文書,2001.9.改訂