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「アルツハイマー病治療薬isproniclineについて」

日曜日, 2月 3rd, 2008

KW:薬名検索・イスプロニクリン・ispronicline・アルツハイマー病・認知症

 

Q:アルツハイマー病の治療薬isproniclineについて

A:イスプロニクリン(ispronicline)はアストラゼネカが開発中のアルツハイマー病・認知症治療薬である。

別名:AZD3480、RJR-1734、TC-1734、TC-1734-112。[CAS-252870-53-4]。

isproniclineは米・targacept社(ターガセプト社)が創製した脳選択的α4/β2ニコチン性アセチルコリン(ACh)受容体パーシャルアゴニストで、アストラゼネカ社とtargacept社が2005年12月に全世界での共同開発・販売契約を締結した。

2006年3月本剤は加齢に伴う記憶障害患者に対する第II相臨床試験において有効性が確認されたの報告が見られる。既に2004年には加齢に伴う記憶障害患者、軽度認知障害の患者において安全性の確認もされている。

本剤は経口投与で、大脳皮質からのACh放出を持続的に促進し、acetylcholine esterase阻害剤との相加又は相乗効果が示唆されたとされる。また本剤は、動物モデルで神経保護効果、抗鬱効果を発揮した。毒性試験では遺伝毒性、細胞毒性は認められていないとされている。

現在までに行われた第I相臨床試験において、何れの用法・用量でも忍容性は良好で、主な有害事象は軽度-中等度の眩暈、頭痛であった。また臨床検査値、心血管パラメータの異常変動も認められなかった。また第II相臨床試験においても重篤な有害事象や有害事象による脱落は殆ど無く、主な有害事象は眩暈、頭痛であったとされている。

 

1)研究開発Report;New Current,18(3):48-50(2007.2.1.)

   [011.1.ISP:2007.3.5.古泉秀夫]

『アルツハイマー病治療薬ipidacrineについて』

日曜日, 2月 3rd, 2008

KW:薬名検索・ipidacrine・塩酸イピダクリン・amiridine hydrochloride・塩酸アミリジン・ipidacrine hydrochloride hydrate・塩酸イピダクリン水和物・アルツハイマー病・AD治療薬・NIK-274・CAS-90043-86-0

 

Q:アルツハイマー病治療薬ipidacrineについて

A:ipidacrine hydrochloride(塩酸イピダクリン)は、acetylcholine esterase阻害作用、Kチャンネルブロック作用及びNa、K-ATPase阻害作用を持つ薬剤として創薬された。

現在までに得られたipidacrineのコリン作動性神経系を賦活する機序としては、acetylcholine esterase阻害作用が考えられている。本品は近年学習・記憶障害を改善するための新たな作用機序として、長期増強現象を起こす作用を有している。またipidacrineは、米国でアルツハイマー病治療薬として承認されているtacrineに見られる肝障害が、治験段階では殆ど認められていない。

別名:ipidacrine hydrochloride hydrate(塩酸イピダクリン水和物)(日研)。

治験記号:NIK-274。

CAS-90043-86-0。

C12H16N2・HCl・H2O=242.75。

化学名:9-amino-235678-hexahydro-1H-cyclopenta(b)quinoline hydrochloride hydrate

本品は軽・中等度アルツハイマー型痴呆(AD:Alzheimer disease)改善又は進行抑制、特にAD患者の日常生活活動能力改善剤として有用である。本品は学習促進・記憶増強作用を有し、AD治療薬として有用である。またacetylcholine esterase抑制、筋肉・神経線維に対する直接作用による末梢神経系統の興奮刺激剤としても有用である。

更に本品は旧ソ連保健省により『amiridine hydrochloride(塩酸アミリジン)』として認可されており、効能・効果は「成人では、末梢神経系疾患(神経炎、多発性神経炎、多発性神経症、多発性神経根神経症)、球麻痺及び不全麻痺、運動機能障害を伴う中枢神経系器質性障害の回復期、筋無力症と各種筋無力症候群、脱髄性疾患の総合療法、AD及びアルツハイマー型老年痴呆、また産科では人工破水又は分娩前羊水流出後の陣痛促進にも用いられる」とされている。

臨床試験段階の副作用としては易怒、食欲不振、攻撃性、妄想、譫妄、腹痛(萎縮性胃炎)、嘔気・嘔吐、赤血球数増加、ヘマトクリット増加、薬疹が認められた(45mg投与群)。食欲不振、下痢、腹痛、全身倦怠感、嘔吐が認められた(75mg投与群)。入院を要した重篤な副作用としては譫妄、急性肺炎、食欲不振、脱水症状、性欲亢進が認められたと報告されている。

本品は1987年に臨床試験を開始し、1989年から第II相臨床試験、1992年9月から第III相臨床試験を開始した。しかし、“プラセボとの有意差が申請には不十分”として、1995年7月に試験のやり直しを決定、試験を実施したが、現在では開発が中止されている。

 

1)アルツハイマー病治療薬の現在と未来;クリニカルプラクティス,19(1):24(2000.1.)
2)アセチルコリンエステラーゼ阻害作用を有する抗痴呆剤-塩酸イピダグリン;New Current,14(13):10-15(2003.6.10.)
3)特許情報;New Current,15(26):45-46(2004.12.1.)

  [011.1.IPI:2007.2.20.古泉秀夫]  

『アルツハイマー治療薬metrifonateについて』

日曜日, 2月 3rd, 2008

KW:薬名検索・metrifonate・メトリフォネート・Ba-a9826・トリクロルホン・trichlorfon・アルツハイマー病・有機リン製剤

 

Q:アルツハイマー病治療薬metrifonateについて

A:metrifonate(メトリフォネート)は、コリンエステラーゼ阻害薬である。本品は有機リン化合物であり、1952年以降、殺虫剤や住血吸虫症の治療薬として数百万人の患者に投与されてきた。

分類:有機リン製剤。

治験記号:Ba-a9826(バイエル薬品)。metrifonateは生体内で活性代謝物dichlrvosに変換されて、AChE(acetylcholine esterase)阻害作用を示す。

別 名:トリクロルホン(trichlorfon)、chlorofos、DEP、DETF、dipterex、dimethyl-1-hydroxy-2,2,2-trichloroethanephosphonate、O,O-dimethyl(2,2,2-trichloro-1-hydroxyethyl)phosphonate、metrifonate、foschlor、trichlorofon、trichlorphon。CAS-52-68-6、CAS化学名:dimethyl 2,2,2-trichloro-1-hydroxyethylphosphonate。

trichlorfonは低毒性の有機リン殺虫剤である。白色の結晶。水に溶ける。浸透移行性が強い。蒸気圧が高く、残効性が低い。殺虫作用には比較的選択性がある。人畜毒性はマラチオンと同程度である。アルカリ性の条件で分解してDDVP(dichlrvos)になる。米、野菜、果実、茶などに使用。trichlorfonはmetrifonateの名前で、ヒトのビルハルツ住血吸虫(Schitosoma haematobium)症の治療に用いられていたことがあり、dichlrvosの発生源と見なされている。

農薬として使用されたtrichlorfonは土壌中で速やかに分解し、一般的には、使用後1カ月以内に、無視し得る濃度にまで減少する。また、水中ではpH5.5以下で比較的安定である。アルカリ側のpHでは、trichlorfonはdichlrvosに変化する。微生物及び植物はtrichlorfonを代謝すると考えられるが、最も重要な排除経路は非生物的な加水分解である。

metrifonateは、ヒト体内で代謝を受けて活性型となりcholinesterase(ChE)となる、いわゆる長時間作用型のプロドラッグとして働く。半減期は約2カ月と、効果は持続的である。典型的なコリン性副作用、全般的臨床スコア、認知機能ともに改善しているという結果が出ている。その他、非可逆性のAChE阻害剤として開発されたmetrifonateそのものはプロドラッグであり、体内で代謝を受け、活性型となり、AChE阻害作用を持つ。その活性型の半減期は60日と長いとする報告も見られる。

metrifonateは、新たな長時間作用型のAChE阻害薬。本剤の患者のADLに対する影響を検討した報告、介護者の負担感に対する影響を検討した報告、ApoE遺伝子型が本剤の反応を予測し得るか否か検討した報告は、エビデンスから除外した。 また対象例数の少ない報告もエビデンスから除外した。初期の検討では、副作用は少ないとされていたが、後の臨床試験において有害事象として呼吸麻痺や神経筋伝達における障害が報告され、開発が中止されている。 日本において開発の予定はないと報告されている。 実地臨床において推奨することはできない。

 

 

1)高杉益充:新薬展望2001-総論;医薬ジャーナル,37(増刊号):19-25(2001)
2)薬科学大事典 第2版;廣川書店,1990
3)トリクロルホン Trichlorfon;http://www.nihs.go.jp/html,2007.2.12.
4)トリクロルホン(DEP・ディプテレックス):環境汚染問題;http://www2.sala.or.jp/~bandaikw/index.htm,2007.2.12.
5)アルツハイマー型痴呆:Minds医療情報サービス,2007.2.12.
6)武田雅俊・他:第42回日本老年医学会学術集会記録<シンポジウムII:老年者の心の新しい医療>1.痴呆老人の治療とケア;老年医学会雑誌,37(11):879-881(2000.11.)

[011.1.MET:2007.2.19.古泉秀夫]

「流石茶について」

日曜日, 2月 3rd, 2008

KW:健康食品・流石茶・りゅうせきちゃ・さすがちゃ・赤芽柏・裏白樫・柿葉・隈笹・梅寄生・枸杞・波布茶・烏龍茶・籬通・杉菜・鬱金

 

Q:流石茶について

A:流石茶として市販されている製品の配合成分として、次のものが見られる。

配合成分 配合成分の食効
赤芽柏   トウダイグサ科アカメガシワ属の落葉性高木。別名:ゴサイバ(五菜葉)、アカメガシワ。赤芽槲。中国名:野梧桐(ヤゴトウ)。学名:Mallotus japonicus Muell.Arg.。樹皮にはやや多量のタンニンがある。消炎・収斂作用。 胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃酸過多、胆石症等の治療に使用。民間では、樹皮よりも、赤い新芽と新葉、赤い葉柄の干したものの方が効果があるとされている。
裏白樫   ブナ科コナラ属の常緑高木。和名:ウラジロガシ。学名:Quercus stenophylla Makino。薬用部分:小枝、葉。フラボノイドのクエルセチン、ケンフェロール、イソクエルセチン、トリテルペノイドのフリーデリン、エピフリーデリン、フリーデナロール、タラクセロールの他、コハク酸、エラグ酸、没食子酸、β-D-グルコガリン、カテコール、ピロガールなどを含む。裏白樫エキス(Uragilogashi Exe.)は動物実験の結果、膀胱内結石形成抑制作用・溶解作用が認められたと報告されている。民間療法として、胆石症、腎石症に用いられているとする報告が見られる。
柿葉   カキノキ科カキノキ属の落葉高木。学名:Diospyros Kaki Thunb.。柿渋中のタンニン様物質の水溶液は経口摂取で血圧降下作用を示すとの報告があるが、これは含まれるコリンの作用かもしれない。若葉にはvitamin Cが多い(生葉100g中1000mg)。その他、柿葉にはフラボノイドのケルセチン誘導体が含まれている。この物質は、血圧上昇に深く関与しているアンジオテンシンIIの生成を抑制する作用が認められている。果肉には糖質、タンニン、ペクチン、vitamin A1物質、酵素類を含む。
クマザサ
(隈笹)
  イネ科ササ属の多年草。別名:ヤキバザサ。学名:Sasa albo-marginata Makino et Shibata。薬用部分:葉。葉には葉緑素が含まれるが、その他の成分については未詳。葉緑素には皮膚や粘膜創傷面の治癒を促す作用がある。葉抽出エキスは、外国では胃炎・胃糜爛症・胃潰瘍等の治療剤として使用されている。
バイキセイ
(梅寄生)
  サルノコシカケ科マンネンタケ属に属する担子菌類の一品種。中国名:霊芝、和名:マンネンタケ。学名:Ganoderma lucidum。別名:瑞草、門出茸、仙草、吉祥茸、神芝、万年芝、赤芝。従来は梅の古木10万本に対し2-3個しか採集できないとされる希少品種であった。高血圧の改善、低血圧者の血圧を高める、動脈硬化の予防、高血圧症の改善、降圧剤の副作用軽減、老化防止等の作用が報告されている。β-グルカン、食物繊維ヘミセルロース、トリテルペノイド類のガノデリン酸、塩基成分のアデノシン、グアノシン等のヌクレオチド類、多糖蛋白質複合体のガノデランB、ガノデランC、ペプチドグリカン等を含有。
枸杞   ナス科クコ属の半落葉低木。学名:Lycium chinense Mill。薬用部分:葉、液果及び地下部の皮。葉にはカリウム、微量のルチン、vitaminB1、vitaminB2、vitamin C、メチオニン、硝酸カリ、葉緑素等。地下部の皮には消炎・解熱・強壮の効果があるとされ肺結核、糖尿病などによいといわれているが、僅かな消炎効果以外は望めない。枸杞実にはベタイン、フィリイエン等のalkaloidが含まれ、alkaloidは神経に働き疲労した神経を興奮させるとされているため、精気がみなぎったような感じになる。特にベタインは消化器系の分泌、運動を促し、胃腸病に対して間接的な効果を発揮するとされている。

ハブ茶
(夷草)

  マメ科カワラケツメイ属の1年草。学名:Cassia tora L.、別名:決明、ロッカク草。漢方名:決明子。ハブ茶は北米原産のエビス草(夷草)の種子を使用する。種々の眼病、習慣性便秘、高血圧、肝炎、脚気、浮腫等に使用された。ハブ茶は健康増進と、強壮、肝臓と腎臓の強化目的で使用される。
烏龍茶  

ツバキ科チャ属の常緑小高木。学名:Thea sinensis L.。烏龍茶は半醗酵の茶で、緑茶と紅茶の中間のお茶であるとされている。発酵の過程で生葉中にはない香気成分(ネロリドール、インドール、ジャスミンラクトン等)が発現するといわれている。烏龍茶はカフェインが少なく、放置してもタンニンの解毒・殺菌作用は変質しないため、いわゆる宵越しのお茶でも飲めるとされている。肥満予防、花粉症等のアレルギーの原因となるヒスタミン抑制効果がいわれている。

カキドオシ
(籬通・垣通)

  シソ科カキドオシ属の多年草。和名:連銭草、積雪草、生薬名:疳取草(カントリソウ)。学名:Glechoma hederacea L.。薬用部分:花期から夏期の全草。茎葉には精油(リモネン等)、タンニン、苦味質などが含まれる。その他、成分としてウルソール酸、硝酸カリ、コリン、タンニン、カリウム塩等を含むとする報告がある。効用として神経痛、肝臓病、胆石、糖尿病、虚弱体質、疲労、胃弱、浮腫等がいわれている。
杉菜  

トクサ科トクサ属の夏緑性多年草。薬用部分:栄養茎。学名:Equisetum arvense L.。全草中主成分はサポニン、P、K、Mg、鉄、銅、Mn、Ge、珪素等のミネラル類を多く含み、Caは100g中に1740mgにも達する。、vitamin C等。サポニンは血液中に入ると赤血球のコレステロール等と結びつき、赤血球の被膜の透過性を低下させ、その結果として溶血を引き起こすが、微量では気道からの分泌物を増やすため咳を誘発し、去痰剤となる。民間療法として利尿剤として利用されてきたが、利尿作用については薬理学的には未詳とする報告も見られる。米国で肉体疲労、貧血、前立腺肥大、尿路結石、肺結核、小児の夜尿症に有効の報告。

秋鬱金   ショウガ科ウコン属(クルクマ属)の多年草。漢名:鬱金。中国名:薑黄、学名:Curcuma longa L.。秋鬱金はクルクミンを多く含むことから染料や食材の着色料として利用される。ターメリックとしてカレー粉の材料になっている。特に春鬱金(学名:Curcuma aromatica S、中国名:鬱金)のクルクミンや精油成分について肝臓の解毒機能促進、胆汁分泌促進、胆道結石除去、利尿、強心、抗出血、抗菌、抗潰瘍、血中コレステロールの抑制作用があるとされている。

 

流石茶は医薬品ではないため、薬効を標榜することはできない。従って、惹句として『胆石、腎臓結石、尿路結石等の結石症を予防』する等としているが、次の点に注意が必要である。

生薬成分を含め配合されている植物には、多種多様な成分が含まれており、それぞれについて機能が報告されているが、茶剤として使用した場合、これらの含有成分が全て期待通りの機能を果たすわけではない。また、植物成分は、栽培地・栽培時の天候等種々の自然条件の影響により含有成分は必ずしも一定ではない。従ってあくまでも補助的な使用と考え、何等かの症状が自覚される場合、疾病が重篤化する前に、医療機関に受診すべきである。

 

1)伊沢凡人・他:カラー版 薬草図鑑;家の光協会,2003
2)奥田拓道・監修:健康・栄養食品事典-機能性食品・特定保健用食品-;東洋医学舎,2004・2005
3)牧野富太郎:コンパクト版 原色牧野日本植物図鑑I;北隆館,2003
4)牧野富太郎:コンパクト版 原色牧野日本植物図鑑II;北隆館,2000
5)牧野富太郎:コンパクト版 原色牧野日本植物図鑑III;北隆館,2002
6)http://www.holos-web.com/1-005.html,2005.3.21.
7)http://www.taiseidrug.com/urajiro(o).htm,2005.3.21.
8)古泉秀夫・編著:わかるサプリメント健康食品;じほう,2003

                                                [015.9.MAL:2007.2.19.古泉秀夫]

「スコポリン・スコポレチンについて」

日曜日, 2月 3rd, 2008

KW:薬名検索・スコポリン・scopolin・スコポレチン・scopoletin・オキシクマリン化合物・クマリン配糖体・ハシリドコロ

 

Q:スコポリン及びスコポレチンの関連性と薬理作用について

A:次の通り報告されている。

薬物名 スコポリン(scopolin) スコポレチン(scopoletin)
分子式 C16H18O9 =354.30 C10H8O4 =192.19
性状 無色針状晶、融点:218℃。水、エタノールに可溶、クロロホルム、エーテルに難溶。スコピンの異性体。 無色針状晶又は柱状晶(クロロホルム又は酢酸)、融点:204℃。水、エーテル、冷アルコールに難溶。酢酸、アルコールに熱時易溶、クロロホルムに可溶、二硫化炭素、ベンゼンに不溶。アルコール溶液は青色の蛍光を発し、FeCl3により緑色を呈する。フェーリング液及びアンモニア性銀液を還元する。
基原

*オキシクマリン化合物であるスコポレチンの配糖体。
*クマリン配糖体の一種で、スコポレチンの7-glycoside。ハシリドコロ(Scopolia japonicaやScopolia atropoides)の根茎に含まれる。
*スコポラミン(scopolamine)がアルカリ又は酸により加水分解を受ける時に生じる分解産物である。スコポラミンはスコピンとトロパ酸がエステル結合したものであるが、スコピンは分子中に不安定なエポキシ環を持つので、酸又はアルカリを用いた加水分解条件では開環し、新たに第二級ヒドロキシル基を生じるとともにトロパ酸とエステル結合していたヒドロキシル基がエーテル環を形成してスコポリンとなる。
オキシクマリン化合物。

*オキシクマリン化合物。
*クマリンの6-メトキシ-7-ヒドロキシ誘導体。配糖体(glycoside)スコポリンとしてハシリドコロ(Scopolia japonica)等の根茎に含まれる。
*1993年ハワイ大学でノニ(和名:八重山青木)の果実から抽出された物質である。

薬理作用

[1]副交感神経遮断作用
[2]中枢神経刺激作用

[1]血圧降下作用、[2]抗菌作用、[3]鎮痛作用、[4]うつ症・睡眠障害の改善。
scopoletinは、セロトニンの神経刺激伝達物質の合成に関与し、セロトニンの欠乏はアルツハイマー症等の原因になるとされている。

 

1)志田正二・代表編:化学辞典;森北出版,1999
2)今堀和友・他監修:生化学辞典第3版;東京化学同人,1998
3)奥田拓道・監修:健康・栄養食品事典-機能性食品・特定保健用食品-;東洋医学舎,2004-2005
4)第十四改正日本薬局方解説書;廣川書店,2001
5)西   勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂7版;医薬ジャーナル,2005

                                                  [011.1.SCO:2007.2.19.古泉秀夫]

「ウルソ錠の相互作用」

日曜日, 2月 3rd, 2008

KW:相互作用・ウルソ錠・ursodeoxycholic acid・UDCA・ウルソデオキシコール酸・制酸剤

Q:ウルソ錠の相互作用として添付文書に制酸剤の記載があるが、併用処方が出された場合、処方医に確認すべきか

A:ウルソ錠(三菱ウェルファーマ)は1錠中にursodeoxycholic acid(UDCA)50・100mgを含有する製剤である。本剤の相互作用については『併用注意』として、次の記載がされている。

薬剤名等 臨床症状・措置方法 機序・危険因子
スルフォニル尿素系経口糖尿病用薬(トルブタミド等) 血糖降下作用を増強するおそれがある。 本剤は血清アルブミンとトルブタミドとの結合を阻害するとの報告がある。
コレスチラミン等 本剤の作用を減弱するおそれがあるので、可能な限り間隔をあけて投与すること。 本剤と結合し、本剤の吸収を遅滞あるいは減少させるおそれがある。
制酸剤(水酸化アルミニウムゲル等) 本剤の作用を減弱するおそれがある。 アルミニウムを含有する制酸剤は、本剤を吸着し、本剤の吸収を阻害するおそれがある。
脂質低下剤(クロフィブラート等) 本剤をコレステロール胆石溶解の目的で使用する場合は、本剤の作用を減弱するおそれがある。 クロフィブラートは胆汁中へのコレステロール分泌を促進するため、コレステロール胆石形成が促進されるおそれがある。

使用薬剤の詳細について、医師は十分理解した上で処方していると判断すべきであり、薬剤師が調剤する際には、『併用注意』等についても、医師は当然認識していると考えて作業することが前提である。

また添付文書上の『併用注意』については、現在までに併用を禁止する程度の重篤な副作用は発現しておらず、十分に注意して処方する分には、特に問題はないとする判断がされている薬物である。

従って、現に服用中の患者が、特に症状の変化等を訴えていない限り、併用注意の薬剤が同一処方せん上に記載されているからといって、特段の対応を取ることは必要ない。但し、『併用禁忌等の薬剤が記載されている場合には、誤記と考えられるため、患者に不必要な影響を与えることを回避』するためにも処方医に疑義照会する。

1)ウルソ錠・顆粒添付文書,2007.3.改訂(第12版)
2)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2007

[015.2.INT:2007.3.23.古泉秀夫]

『時不待』

日曜日, 1月 27th, 2008

 

                                                                      魍魎亭主人

 

平成18年(2006年)12月17日オヤジが死んだ。明治43年3月12日生まれということであるから享年97歳。年齢的には死を悼む年ではないが、入院していた当人は、死について全く考えていなかった節がある。

おふくろが死んだ後、ほぼ16年、一人暮らしをしていたオヤジが、いよいよ心細くなって、末の弟の家に同居することになった。そこから機嫌良くディケアサービスを受けるために通所していたようであるが、その行き帰りに使いもしない杖を持っ歩いていたようである。更に室内では全く使用する必要のない杖を、玄関に置いたままにしたことが気になったのか、下の三和土に下りずに、上がり框から手を差し伸べて取ろうとして、三和土に転げ落ちて、大腿骨を骨折してしまったということであった。

入院した病院では、高齢でペースメーカを装着している事、更には腎機能が低下しているために手術には耐えられないと判断したようである。積極的な治療を希望するのであれば、手術して骨折部の処置をしますが、もし積極的な治療の必要はないということであれば、骨折部が自然接合するのを待って、車椅子に乗れるようになれば退院ということにしたいと思いますがという話があったようである。

高齢者が転んで骨折し、入院するということは、もし骨折が治癒したとしても、そのまま寝たきりになる比率は高いということを意味している。年齢的に見てどの程度の回復が望めるか分からないとしても、自然治癒を待つという選択をせざるを得ないということである。ただ最悪な場合、容体が急変することがあっても、人工呼吸器を使用する選択はしないということは最初に決めた。人工呼吸器を挿管されて、ただ機械的に呼吸をしていたとしても、それは回復期を迎えることを意味してはいない。

入院当初、意識も清明とはいえない状態から、人の顔が認識できるまでに回復し、比較的早く退院できるかもしれないと思われたが、食事が出来るようになった結果、食べ物を誤嚥して感染症を併発し、結局は不帰の人となってしまった。

会社を定年退職してから既に三十数年が過ぎており、更に親子二代にわたって住んでいた町内も引き払い、住んでいた家も壊して更地してしまった。その意味では旧町内も含めて、知り合いに案内を出しても、貰った方も迷惑をするといけないということで、葬儀は密葬でやることにした。それこそ兄弟とその身内だけということでやったが、田舎のしきたりとはやや違った事もあり、中には口伝てにお聞きになり葬儀に見えられた方もいた。その意味では、幾ばくかの方々には不義理をしたかもしれないが、将に『時不待』である。オヤジも会社を退職した後、市の幾つかの任務を担っていた時期もあったようであるが、それさえも遠い昔ということである。

『時は待たず』ただ過ぎ去るのみ。最早人々の記憶からは欠落していると思われる一人の男の人生は、粛々と終わりにさせていただいた。

一周忌は、本来は死んだ日か、あるいは前に持ってくるのが常識だということであるが、家族の都合とお寺の都合も付かず、平成19年12月22日に、これも兄弟と参加できる孫達とで実施した。

しかし、人生って何だろうね。六十代で死ねば、葬儀に集まる人は多いかもしれないが、九十を過ぎた年齢では、友人、知人の殆どは亡くなってしまっていないということである。
葬儀に人が来ないのは寂しいかもしれないが、それは死んだ人間に分かるのだろうか?。

                                                            (2008年1月10日)

医薬品情報管理学[1]

土曜日, 1月 26th, 2008

医薬品情報21
                                                                        古泉秀夫

医薬品情報とは

 

1]情報とは何か

 

断片的なものを収集し、連続させることによって、一つあるいは複数の意味を持つものに変化する流れである。

また、意味を持つ一つ一つの断片が、集積されることによって、大きな意味を持つ物語に変換する過程であるとすることも出来る。

言ってみれば、山に降った雨が、散り積もった腐葉土に染みこみ、一定の年限を経て小さな流れとなり、やがて大河となる。その流れ出る水が情報であり、一定のルールに従い、人に役立つように利用するとともに、暴走して大洪水とならないよう管理すること、これが情報の管理であるということが出来る。

河川の護岸工事をし、水源を造って水を溜める。その水を発電用に使用するのかあるいは農業用水にするのか、飲料用水にするのかの使途による再度細流を作る。情報管理とは、用水の管理をするのと同じ作業であるとすることが出来る。

従って、医薬品情報管理を考える場合、その基本となるのはあくまで総合的な情報管理の技術であって、医薬品情報に限定した情報管理技術はない。言ってみれば総合的な情報の水源から流れ出た細流の一つを固定して管理しているということに過ぎないのである。

情報媒体-001a

その意味では、医薬品情報管理学の入門書として、特別なものを考えるのではなく、一般的な情報管理に関係する入門書を読むことを推奨する。参考図書として、次の図書を紹介する。

?梅棹忠夫:知的生産の技術;岩波新書,1969
?加藤秀俊:整理学;中公新書,1963
?川勝 久:新整理学;ダイアモンド社,1985
?河野徳吉:情報整理術;日本経済新聞社,1977
?加藤秀俊:情報行動;中公新書,1972
?加藤秀俊:取材学;中公新書,1975

?野口悠紀夫:「超」整理法;中公新書,1993

なお、これらの図書を読む場合、初読時に必要と思われる事項に黄色の蛍光マーカーでマークし、再読時に必要と感じた事項に別の色でマークするという方式を取ると、視点の変化が明瞭になるばかりでなく、重要と思われる事項は二重にマークされることになるので、後で参照する必要が生じた場合に、必要事項の検索が容易になる。

この方式は、文献等の抄録を作成するための訓練、key wordを選定するための訓練としても重要であり、key word選定目的の場合には、最初に1文献当たりの必要key word数を決定し、作業にかかることが必要である。

 

2]医薬品とは何か

 

専門職能である薬剤師に対して『医薬品とは何か?』等と質問するのは、甚だ失礼であるの謗りを受けるかもしれないが、既に御承知の通り、薬事法第二条に、医薬品に関する法律上の定義がされている(図2)。

図2.医薬品とは

*薬事法上の定義(第二条)

 

? 日本薬局方に収められている物。
? 人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であって、器具器械(歯科材料、医療用品及び衛生用品を含む。以下同じ。)でない物(医薬部外品を除く。)。
? 人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって、器具器械でない物(医薬部外品及び化粧品を除く。)。

しかし、医薬品情報管理学の立場から見た医薬品は、この法律の定義とは若干異なった見方が必要となってくる。

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図3.医薬品情報管理学から見た医薬品

 

  医薬品原料として使用される物として、鉱物・生物成分・植物成分・動物成分・魚類を含む海産物成分等、多くの物質が考えられる。これらの成分を医薬品とすべく、最初に開始されるのが『基礎的研究』である。

勿論、従来、我が国で行われてきた漢方薬による治療では、植物・鉱物・動物等の原体を、そのまま粉末化して服用するか、浸煎剤等として、医薬品としての使用がされてきたが、現在では、それらに含有される成分を単離することによって、より有効・安全な薬物の創製が追求されている。

『基礎的研究』の結果を受け、更に健康人による『第I相臨床試験』において人における安全性等の検討がされ、『第II相前期臨床試験』・『第II相後期臨床試験』において、少数の患者群による安全性・有効性・至適投与量等の確認が行われた上で、本格的な医薬品としての『第III相臨床試験』へと展開していく。

患者を対象とした臨床試験は、『GCP(Good Clinical Practice)」による規制がされている。
つまり『臨床試験成績の信頼性確保』のために『科学的に』、『適正な実施』することが求められており、更に臨床試験結果の信頼性・患者の人権擁護の立場から『説明された上での自由な同意(Informed consent)』を求めるべく、実施する医療機関が遵守すべき事項が厳しく定められている。

これらの開発期間は、その『物』に対する『医薬品』としての情報集積期間であり、各種臨床試験の総合的な結果を受けて、医薬品としての製造承認がされる。つまり医薬品とは、『物』に付加価値としての『情報』が付け加えられることによって『医薬品』として承認される物であり、薬剤師が医薬品の管理を行うということは、これらの情報管理も含めて、管理を行うということなのである。

また発売後の医薬品についても、PMSにより、現在、発売後6年間の副作用調査が義務付けられており、患者の安全確保を図るべく努力がされているが、これも本質的には、安全に医薬品を使用するための情報の集積業務である。

従って、薬剤師の業務として、『医薬品情報管理業務』は至極当たり前の業務であり、情報量の増加が『情報管理業務』を独立化・専門化させているのである。その意味では全ての医療機関に、医薬品情報管理室及び管理のための専門家が配置されていないことが、問題であるといわなければならない。

                      [東京都病院薬剤師会会誌,44(3):161-163(1995.6.30.)以降に連載]

医薬品情報管理学[2]

木曜日, 1月 24th, 2008

医薬品情報21

古泉秀夫

 

医薬品の特性

 

1]医薬品の情報量と製品特性

 

医薬品の情報量は、個々の薬剤によって異なる。基礎実験開始時、0であった情報が、基礎・第I相臨床試験→第II相前期臨床試験・第II相後期臨床試験→第III相臨床試験の各試験段階を経過するにつれて付加され、増大する。

従って、基礎実験の開始から承認申請段階までの時間経過が長期になればなるほど、その薬剤の情報量は増加する。

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図3. 開発年数と情報量増大の関係

 

開発に要する年数と情報量の関係は『年数のx乗』の関係にあるといえるが、実際には計測不能な数値であると考えられる。

また、商品としての医薬品を見た場合

有効性[A]+副作用[B]+無効[C]=医薬品

という関係が成立し、対価として支払われる医薬品費の中には、当初から『副作用』あるいは『無効』も含まれていると考えることが出来る。更に問題なのは A=0・B=0の事例が存在した場合A+B+C=100の事例では、C[無効]=100、つまり全く効果がないという場合もあり、これは服用後でなければ確認出来ないということである。

効果を期待して医薬品の対価を支払いながら、服用者に何の利益ももたらさない商品が存在するということである。更に最悪な場合には、治療目的で服用したにもかかわらず、『副作用』であるBのみが発現し、生命の維持を困難にする事例も存在する。又は副作用の治療に更に医薬品を使用するという矛盾した状況が派生する。

一般に市場に流通する『各種製品』を考えた場合、使用目的以外の結果がでれば、それは明らかに『欠陥商品』であり、使用者から苦情が来ることは当然である。しかし、医薬品については、専門職能の判断が、直接の使用者であり、最終の使用者である『患者の判断』より優先されるという性格を持っており、消費者の意見が直接反映しないという商品特性を持っている。

有効と無効の関係を見る場合、従来であれば、患者側の要因として不明確な部分があり、薬剤の反応式に『個人差』があるのは当然のことであるとされてきたが、治療に対する対価を支払う側-患者側からすれば、その理論は通用しない。更に無効のみならず副作用だけが発現する事例も当然のこととして考えられる。

従って、医薬品を選択する医師あるいは薬剤師は、患者の安全確保に万全の体制を構築し、厚生労働省・製薬企業・病院・保険薬局等がそれぞれの立場から国民の健康保持に努めることが求められており、医薬品に関する情報の整備が必要とされるのである。

医薬品を取扱う専門職能は、常に最終消費者である患者の立場を代弁する位置にあるということを忘れてはならないのである。

その意味で『最小の薬物で最大の効果を上げる方策』を模索することが、医薬品情報管理業務の重要な柱の一つであるとすることが出来る。

 

2]適正な医薬品情報管理と安全性確保

 

医薬品の作用には、常に(正)の薬理作用と(負)の薬理作用が混在する。正の薬理作用は『有効性』であり、負の薬理作用は『副作用』として発現する。ただし、正と負の薬理作用の関係は、常に同一の関係を保つということではない。例えば高血圧治療薬として開発された末梢血管拡張剤であるminoxidil(米・Upjohn社)は、経口投与後3?6週間後に、約80%の症例で副作用として多毛が発現したと報告されている。

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図4.正・負の薬理作用模式図

開発された末梢血管拡張剤であるminoxidil(米・Upjohn社)は、経口投与後3?6週間後に、約80%の症例で副作用として多毛が発現したと報告されている。

しかし、一方では、これを外用剤として頭皮に塗布することで、円形脱毛症に対する治療薬としての検討がされていたが、現在では毛生え薬として OTC薬としての市販がされている。ただし、外用剤として頭皮に塗布した場合、頭皮からの吸収が見られるとされており、吸収されることによって血圧低下が発現した場合、経口剤での『有効性』が外用剤では副作用ということである。

 

一般名・商品名
(会社名)
適応症 副作用 適用 転換適応 適用
[114]aspirin(各社) 鎮痛解熱薬 血小板機能低下-出血時間延長 経口

抗血小板作用(少量)-血小板凝集抑制を目的80mg/回/日。
脳梗塞(血栓)再発予防

経口

[124]atropine sulfate
(各社)

胃腸の痙攣性疼痛・痙攣性便秘・疝痛・潰瘍性大腸炎 散瞳、眼調節障害、緑内障 経口・注射 診断又は治療を目的とする散瞳と調節麻痺 点眼

[217]minoxidil
(米・[商]ロゲイン)
-国内治験段階で中止-

血管拡張性降圧薬・
降圧剤としての評価↓

約80%で多毛(頭部・顔) 経口 育毛剤(米国・男性3200人に使用/1年間-84%に育毛効果確認;皮下血流増大-毛母細胞活性化) 塗布
[252]sildenafil citrate(米・[商]バイアグラ)

狭心症薬
大動脈圧・末梢血管抵抗性の軽減等↓

勃起 経口 性機能障害治療剤(性的興奮による陰茎勃起ではない) 経口

 

服用する患者にとって、有効性・安全性の両面で評価され『有用性』の高い薬剤が最良の薬剤である。しかし実際には、抗がん剤等の事例でも解るとおり、有効性・安全性の両面で問題とされる薬物が存在することもまた事実である。

この様な薬物の使用に際しては、より高い安全性を確保する意味で、情報の提供を行い、副作用の発現による患者の苦痛を極力抑えるよう努力することが必要である。医薬品情報管理業務に携わる薬剤師は、常に医薬品に関する情報を蒐集し、より効率的で敷衍性のある資料に加工し、日常的に医師・薬剤師等の医療関係者に提供する体制を確立することが必要である。

次に必要とされる資料として現在までに集合加工したものの一部を紹介する。

 

資料表題 内容の概略
*光線過敏症を惹起する薬剤 光線過敏症を惹起すると報告のある薬剤の一覧と患者に提供すべき情報
*手術前後の投与に注意を要する薬剤 添付文書上に手術前後における投与中止あるいは休薬期間の一覧
*授乳婦に投与可能な薬剤 添付文書中の授乳婦への投与に関する記載内容と文献情報の比較及び投与の可否判断
*注射薬の配合変化に関する資料 注射薬調剤に関連して配合変化試験結果・用時溶解注射薬の安定性・皮内反応実施指摘薬剤一覧
*抗コリン作用を有する薬剤 薬理作用として抗コリン作用を有する薬剤と緑内障患者への投与可否判断資料

 

ただし、これらの資料を作成する場合、作成者の都合を優先することは避けなければならない。利用する側が常に利用しやすい資料として提示すべきである。しかし、利用者が利用しやすいということは、逆説的にいえば情報を加工する側は、一つの資料を作成する際に膨大な労力を費やすことが求められるということである。

『資料の作成は常に利用者側の利益を優先する』

が、医薬品情報管理を業務として行う際に忘れてはならないことである。


  1. 古泉秀夫:医薬品情報管理学[2];THPA,44(6): 313-315(1995)

紅葉巡礼(3)

木曜日, 1月 24th, 2008

鬼城竜生

紅葉の写真を撮りに高幡不動に出かけた(2007年12月4日火曜日)。川崎駅から南部線で分倍河原に出て、京王線に乗り換えて高幡不動で下りると、直ぐ不動尊の参道入り口の看板が眼に入った。しかし、東京に住んで既に30年を超えるが、高幡不動、ある高幡不動-001 いは京王線の各駅に出るのは、新宿駅経由しかないと思いこんでいたので、高尾山等を含めて、南部線経由で足を伸ばせるということには、驚きを禁じ得なかった。従前は新宿方面に住んでいたので、高尾山も百草園も新宿からしか行っていないが、その当時でも高幡不動には特段の興味を持つことはなかった。今回、高幡不動に出かける気になったのは、前の日にTVで、紅葉が見頃だという放映がされていたので、紅葉の写真でも撮るかということで出かけた。

参道を真っ直ぐ行くと突き当たりに仁王門が見えたが、総門はやや左側にあり、総門の正面は山門を経由して大日堂に至る道になっており、仁王門は後ろに不動堂、奥殿が並んでいた。更に総門の左手に五重塔が見えたが、全く五重塔があるなどと思っていなかったので、素直に驚かさせていただいた。

大体、高幡不動とはそも何者なのかといえば、真言宗智山派別格本山、高幡山明王院金剛寺が正式な名称のようである。山号寺号でいえば『高幡山金剛寺』ということのようである。古くから関東三不動の一つに挙げられており、高幡不動尊として親しまれているという案内がされている。

その草創は古文書によれば大宝年間(701年)以前とも、奈良時代行基菩薩の開基とも伝え高幡不動-002られるが、1,1004年前、平安時代初期に慈覚大師円仁が、清和天皇の勅願によって東関鎮護の霊 場と定めて山中に不動堂を建立し、不動明王を安置したのに始まるとしている。建武二年(1335年)8月4日夜の大風によって山中の堂宇が倒壊したため時の住僧儀海上人が康永元年(1342年)に麓に移築したのが現在の不動堂で、関東近県内では稀に見る古文化財である。それに続いて建てられた仁王門ともども重文に指定されてい高幡不動-003ると解説されている。
足利時代に汗かき不動と呼ばれたとされているが、丈六不動三尊は関東唯一の平安時代の巨像で、本尊は本丈六・両童子半丈六で、古来日本一の不動三尊と伝えられ、三尊に火炎光背を加えた総重量は1100キロを超すとする紹介文があるが、誰がこんなものを量ったというのだろう。確かに拝見するところ凄まじい迫力で、関東武士勃興期の気分を伝える豪快な尊像で十一世紀末頃の造立というが、その当時の金額でどの程度かかったの か。そういう詰まらない考えが直ぐに頭を過ぎるというのは、信心が足りないということなのかもしれないが、民百姓から掠めた金で、所の権力者が建てたのだろうなどという罰当たりな発想に取り付かれてしまうのである。

まあ、そんなことはさておき、土方歳三の銅像を過ぎて大師堂の前に出ると、そこに見事な紅葉が見られたが、人が多すぎて話にならないということで、取り敢えず裏山不動ヶ丘に登り、八十八カ所の大師像が奉られているという道筋を歩くことにした。上から五重塔を紅葉越しに俯瞰できる位置を探して歩いたが、一度行ったきりで草々都合の良い位置を見つけ出すことは難しいということで、まあそこそこの写真が撮れたというところである。
紅葉を見ながら歩いて、それはそれで納得はしたが、裏山不動ヶ丘の植生は紫陽花が多いのではないかと思ったが、丈六不動三尊(重文)の参拝記念の半券裏面の説明によれば、裏山不動ヶ丘には桜・紫陽花・紅葉等四高幡不動-004 季とりどりの景色が味わえるとされている。しかし、歩いている間、桜の木は眼に入らなかったが、桜があるという認識を全く持たずに歩いていたため、見過ごしたということのようである。
何れにしろ納得いく写真を撮るためには、何回か通わなければ駄目だということになるのだろうが、風景を切り取るという作業は、太陽光や空気中の湿度に大きく影響されるという面もあり、行った時がその時だとは限らないため、結局は下手な鉄砲も数打ちゃ当たるの実践ということだと思われる。

今回は万歩計も1万を超えており、さほどきつい思いもせず、歩けたのは、自然の大地を踏んで歩いたということなのかもしれない。帰りに遅昼を食ったが、参道に面して店を開けていた飯屋で天丼を食ったが、店内の雰囲気としては、狭いなりに彼方此方に贔屓がいる店のようであった。

(2008.1.23.)

第2回薬害イレッサシンポジウム傍聴記

日曜日, 1月 20th, 2008

                                                                  医薬品情報21
                                                                        古泉秀夫

 

2007年12月8日(土曜日)『薬害イレッサ東京支援連絡会』が主催する『第2回薬害イレッサシンポジウム』に出かけてきた。

会場は野口英世記念会館で、JR千駄ヶ谷駅から四谷四丁目方向に9分ばかり歩いたところにあるということなので、2時からの開会であったが、11時30分には家を出た。少なくとも品川まで30分、千駄ヶ谷まで30分として、探し当たる時間と、地図上では御苑正門なる書き込みが見られるので、時間があれば紅葉の写真でも撮るかという余計な計画を付け加えての早立ちである。

しかし、驚いたことに御苑正門は、あまり正門には見えない門があり、しかも閉鎖中のため、ここからは入れませんという案内が出ていた。塀沿いに入り口までと考え、野口英世記念会館前を通り過ぎて、しばらく歩いてみたが、入り口に行くためには、とてものことに時間が足りそうもないということで、紅葉の写真を撮るのはあきらめ、食事をすませて早めに会場に入った。

プログラムは第一部が朗読劇『がん患者の命の重さを問う』-切り捨てられた、三津子の生から-。

第二部がパネルディスカッションで、パネリストは別府宏圀(医師・医薬品治療研究会代表)・松山圭子(青森公立大学教授)・清水鳩子(主婦連参与)・山村伊吹(薬害ヤコブ病東京訴訟原告団副団長)の4氏で、司会は水口真寿美氏(薬害イレッサ弁護団・薬害オンブズパースン会議事務局長)が担当していた。

弁護士が中心で、大衆的な支援の輪を広げたいという目的が前面にでているため、些か情緒的にならざるを得ないという点からいえば、第一部の朗読劇は、将に大衆受けを狙った企画ということで、その意味ではそれなりに成功していたということかもしれない。

ただ、パネルディスカッションについては、薬害を糾弾すればいいということで、視野狭窄的な発言の流れが出来てしまうということは避けるべきではなかったのか。例えば1985年に聴神経腫瘍摘出手術の際に移植を受けた『ヒト乾燥硬膜ライオデュラ』によってクロイッフェルトヤコブ病に感染したという事例で、その当時、医師は『ヒト乾燥硬膜ライオデュラ』の使用について、何の説明もしなかったという発言がされていたが、インフォームド・コンセントが定着している現状に照らし合わせて判断されたのでは、医療関係者はたまったものではない。

第一あの当時、医療材料である『ヒト乾燥硬膜ライオデュラ』から、クロイッフェルトヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease)が感染するなどという考えは、誰も思ってもいなかったというのが正直なところではないか。その危険性に気付いていた医師や役人がいたかといえば、誰もいなかったというのがあの当時の実態だったのではないか。

更に副作用のない薬はないという現実に立って論議を進めることも必要ではないのか。例えば『間質性肺炎』については、イレッサだけの副作用ではなく、小柴胡湯等の漢方製剤でも発現するのである。

『薬』の人に対する作用には『正』の作用と『負』の作用があり、ヒトにとって好ましい『正』の作用を効果といい、好ましくない『負』の作用を副作用と、これはヒトが勝手に決めていることである。更に多種多様な薬が開発され、その結果ヒトの寿命が延びたということもまた事実である。従って、薬について論議する場合、薬=悪という短絡的な論議に特化することは避けなければならないと考えている。

しかし、このような私見を述べたからといって、イレッサの問題を容認しているわけではない。第一他の国に先駆けて、2002年1月の承認申請から僅か6カ月という短期間で、承認しなければならない特段の理由があったのかどうか。兎に角ものは抗がん剤である。十分に検討しなければならない性質の薬を短期間で承認してしまったという点については、些か納得がいかないのである。

更に副作用による死亡例が何例出たら製造・販売を中止するという基準はないようであるが、イレッサの場合、急性肺障害・間質性肺炎の副作用が発症した1,708人中676人が死亡したとされている。何れにしろ死亡者数が多すぎはしないか。この間、投与された患者のうち何名の患者が治癒したのか知らないが、1薬物の副作用死としては、明らかに多すぎる。因果関係がどうであれ、取り敢えず使用を中断し、使用の是非について検討すべきではないのか。何を躊躇っているのか判らないが、厚労省の対応の仕方には疑問を持たざるを得ない。

  『疑わしきは使用せず』。

これが医薬品使用上の鉄則のはずである。

                                                              

   (2007.12.14.)

医薬品情報管理学[3]

日曜日, 1月 20th, 2008

医薬品情報21

古泉秀夫

情報管理の基本

 

1] 守備範囲の決定

 

『情報は限りなく空間を占有する』。

 

情報管理業務を行う上で、最も重要な課題の一つは、蒐集した情報の保管をどうするかということである。病院における医薬品情報管理室を考えた場合、病院より大きな薬局は存在し得ないのと同様、薬局より大きな医薬品情報管理室は存在しない。薬局は病院にとって一つの機関であり、医薬品情報管理室は、1 機関における一つの機能でしかない。従って、膨大な情報量を蒐集したとしても、保管する場所がなければ、それは単なる紙屑を蒐集したに過ぎないということである。

例えば5種類の月刊雑誌を購入しているとして、12冊×5=60冊の雑誌が年間配本されることになる。これだけの雑誌の数を数年にわたって保存するだけで、広大な空間を占有されることになるのである。更に5種類の雑誌で全ての情報を網羅することは困難である。いずれにしろ医療・医薬品に関する情報は際限なく作成される。その全ての情報を1情報管理室で蒐集・管理することは不可能ということである。

情報の奔流の中に三連の水車を設置し、情報を汲み上げたところで、全ての情報を汲み上げることは出来ない。まして情報の奔流をせき止めたとすれば、大洪水を起こし、情報の管理は不可能になる。

従って、1医療機関 の医薬品情報管理室で実行できる情報管理の守備範囲には、自ずから限界があるということである。また、そのことを前提に、業務の推進を図らなければ、情報管理室そのものの機能を停止させかねない。更に直接的な診療報酬の対象とならない情報管理室に、多くの薬剤師を配置するということは、資本主義経済の原則である投下資本に見合う収益性を考えた場合、不可能である。医薬品情報管理室が機能し、新薬採用に伴う致命的な相互作用を阻止したとしても、あるいは医薬品の誤用による事故の際に、情報の提供により致死的状況を防いだとしても、収益性が無いという大前提の下では、人員配置要求も説得力がないということである。

情報媒体-011b

 

 

 

 

図5.情報蒐集モデル例-朝倉三連水車(写真提供:倉田稔氏)

 

2]添付文書

 

医薬品の場合、各個別の商品に、その薬に関する情報を添付することが、法的に定められている。従前、『能書(効能書)』、『説明書』、『巻紙』等といわれていたが、法的には『添付文書』である。

添付文書等の記載事項については、薬事法第52条に『医薬品は、これに添付する文書又はその容器若しくは被包に、次の各号に掲げる事項が記載されていなければならない。ただし、厚生省令で別段の定めをしたときは、この限りではない。』と定められている。

  1. 用法、用量その他使用及び取扱い上の注意
  2. 日本薬局方に収められている医薬品にあっては、日本薬局方においてこれに添付する文書又はその容器若しくは被包に記載するよう定められている事項
  3. 第42条第1項の規定によりその基準が定められた医薬品にあっては、その基準においてこれに添付する文書又はその容器若しくは被包に記載するように定められた事項
  4. 前各号に掲げるもののほか、厚生省令で定める事項

また、添付文書等への記載禁止事項については、第54条『医薬品は、これに添付する文書、その医薬品又はその容器若しくは被包(内袋を含む。)に、次の各号に掲げる事項が記載されていてはならない。』と定められている。

  1. 当該医薬品に関して虚偽又は誤解を招くおそれのある事項
  2. 第14条(第23条)において準用する場合を含む。以下同じ。)又は第19条の2の規定による承認を受けていない効能又は効果(第14条第1項の規定により厚生大臣がその基準を定めて指定した医薬品にあってはその基準において定められた効能又は効果を除く。)
  3. 保健衛生上危険がある用法、用量又は使用期限

*第14条:医薬品等の製造の承認(14-2:前項の承認は、申請に係わる医薬品、医薬部外品等の名称、成分、分量、構造、用法、用量、使用方法、効能、効果、性能、副作用等を審査して行うものとし………)。

*第19条の2:外国製造医薬品等の製造の承認

以上に見るまでもなく、医薬品そのものは厚生大臣の許可なしには製造できないものであり、医薬品の使用は、製品に添付されている添付文書によることが当然ということである。つまり医薬品に関する情報の基本は、法律で定められた『添付文書』によるということである。

添付文書は、製薬企業が医薬品として開発すべき『物』を選択して基礎実験を開始し、各段階の臨床試験を実施する過程で蒐集した多くの情報を圧縮して収載したものである。ただし、臨床治験段階の医薬品は、ある意味で“選別した患者”を対象としたものであり、その薬剤の本質的な部分で、一部不明のまま市場に出されるという問題点を抱えている。例えば、

  1. 『腎障害のある患者への投与』
  2. 『肝障害のある患者への投与』
  3. 『高齢者・幼児・小児への投与量』
  4. 『食物・嗜好品と薬の相互作用』
  5. 『母乳中移行』
  6. 『配合変化』

等の情報は、臨床治験段階では、種々の困難があって、簡単には入手出来ない情報だといえる。

情報媒体-010

図6.添付文書の情報内容

 

これらの情報の多くは、臨床現場で医薬品として使用されて初めて確認できる情報であり、時には臨床治験段階では予測されなかった使用によって、初めて入手される情報なのである。

 

3]添付文書情報の重み

 

添付文書情報の重要性は、単に薬事法上に定められた文書というだけではなく、その薬を使用する上で、患者の安全性を確保するための最低限の情報を提供するものであるということである。

『医薬品の添付文書の記載事項は、当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者又は輸入販売業者が投与を受ける患者の安全を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから、医師が医薬品を使用するにあたって添付文書に記載された使用上の注意義務に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである』

1996年(平成8年)1月23日、ペルカミンSによる腰椎麻酔に関連した医療事故に対する最高裁判決中に見られる判断である。

1972年(昭和47年)に0.3%-ペルカミンSの添付文書中に、血圧対策として『麻酔剤注入前に1回、注入後は10-15分まで2分間隔で血圧を測定する』の記載が追記された。しかし、この当時の医療上の慣行では『5分間隔で血圧を測定する』というのが一般開業医の常識とされており、1審及び2 審では、これを『当時の医療水準を基準とする限り、過失とはいえない』として患者側が敗訴していた。

これに対し最高裁は『医師が医薬品を使用するにあたって、医薬品の添付文書に記載された使用上の注意事項に従わなかったことについて、特段の合理的理由がない限り、医師の過失が推定される』として、担当医師には『2分ごとに血圧測定を行わなかった過失があり、この過失と患者の脳機能低下症発症との間には因果関係がある』として、原判決を一部破棄し、破棄部分を原審に差し戻しした(その後、高裁で和解)。

[註]

医療水準;一般的には『診療当時の臨床医学の実践における医療水準は、全国一律に絶対的な基準として考えるものではなく、診療にあたる当該医師の専門分野、所属する診療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮して決せられるべきものであるが、医療水準は、医師の注意義務の基準(規範)となるものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従って注意義務を尽くしたと、直ちにいうことは出来ない』

添付文書は、患者の安全性を確保するため、その医薬品の効能、危険性等について最も情報を把握している製造業者等にこれを使用する医師等に対し、必要な情報を提供すべく薬事法第52条により義務付けた規定である。

従って、医師が医薬品を使用するに際には、特段の合理的理由がない限り、原則として添付文書の記載事項に従う義務があるとするのは自明のことであり、添付文書の注意事項に高度の規範性を認めたこの最高裁判決は、画期的な判断を示したということが出来る。更に1985年(昭和60年)4月9日の『チトクロームC』の使用方法に関する最高裁判決は、『添付文書に十分な記載がされていなくとも、それに付加し、適切な問診が不可欠であることが臨床医の間で一般的に認められている場合、これに従うべきである』としている。

添付文書に関するこの判決は、最高裁の判決であり、今後の医療訴訟の際の判断基準とされるものであり、医薬品を使用する際、『添付文書は最低限守るべき規範』であるとすることが出きる。

 


1)増田聖子:医薬品の添付文書と医師の注意義務;臨床医,27(4):540-543(2001)

医薬品情報管理学[4]

金曜日, 1月 18th, 2008

医薬品情報21

古泉秀夫

情報源としてのインタビューフォーム

 

1]Interview Formの概要

 

Interview Form(以下「IF」と略す)は、当初、病院において医薬品情報を担当する薬剤師が、製薬企業の医薬品情報担当者(以下「MR」と略す)と面談し、情報を蒐集する際、聞き取り調査をするための項目チェックを目的として作成されたものである。しかし、実際には、項目が細分化するにつれて、MRの対応が大変だということで、製薬企業がそれぞれ印刷して配布するようになったという経緯がある。

 情報媒体-004b

図7.添付文書とIFの相関図

添付文書は、薬事法の規定があり、膨大な情報を圧縮するという作業が必要になるが、IFには紙数の制約はなく、また、記載する内容についても、出典が明示される限り、何等制約は設けられていない。つまりIFは、添付文書に収載できない各種情報を詳細に収載できるということで、添付文書に収載された情報の投影図であるとすることが出きる。

 

2]IFの問題点

 

本来であれば、添付文書とIFを蒐集することによって、その医薬品の基本的情報の80%程度が蒐集可能であるという状況が必要であるが、実際には添付文書の焼き直し程度のIFを発行している製薬企業もあり、何の目的で発行したのか意味不明な内容のものもある。更に記載されている項目別に詳細に検討すると、書き込み不足と思われる部分が多い。製薬企業もIFに対する認識を変え、添付文書では出来ない情報を提供する媒体として明確に位置付けるべきである。IFの情報内容が充実すれば、基本的な情報について、一々製薬企業に問い合わせる必要が無くなり、製薬企業側にとっても、大きな利益となるはずである。

 

項目 添付文書 IF
記載内容の法的規制 無 [ただし、出典明記]
記載内容の量的規制
情報の優位性 第1位 補助的
情報の詳細性 限界 無限界
変更情報の確保 即応性 非即応性
収載項目 法規制 日病薬IF委員会設定
情報の範囲 限界 無限界
情報の深度 限界 無限界(文献的裏付)
改訂の即応性

なお、添付文書とIFの記載項目を比較検討すると、表4.の通りである。

I.概要に関する項目

記載項目 IF 添付文書
1. 開発の経緯 改訂新文書(削除)
2.製剤の特徴及び有用性、類似薬との比較 ?
3.主な外国での発売状況 ?

II.名称に関する項目

記載項目 IF 添付文書
4.商品名
5.一般名
6.構造式又は示性式

III.原薬の性状に関する項目

記載項目 IF 添付文書
7.原薬の規制区分
8.起 源 ?
9.物理化学的性状
10.原薬の安定性
11.原薬の確認試験法 ?
12.原薬の純度試験法 (定量法) ?
13.構造上関連ある化合物又は化合物群 ?

IV.製剤に関する項目

記載項目 IF 添付文書
14.剤 形
15.製剤上の特徴
16.製剤の組成
17.製剤の安定性
18.他剤との配合変化
19.混入する可能性のある夾雑物 ?
20.製剤中の原薬確認試験 ?
21.製剤中の原薬定量法 ?
22.容器の材質 ?
23.その他 ?

V.治療に関する項目

記載項目 IF 添付文書
24.効能・効果
25.用法・用量
26.臨床適用
27.その他の薬理作用
28.診断的特徴

VI.使用上の注意に関する項目

記載項目 IF 添付文書
29."警告"とその理由
30."一般的注意"とその理由及び処置方法
31."禁忌"とその理由
32."慎重投与"とその理由
33.副作用
34.薬物アレルギーに対する注意・試験法 ?
35.高齢者への使用に関する注意
36.妊婦等への使用に関する注意
37.授乳婦への使用に関する注意
38.未熟児、新生児、乳児、幼児、小児への使用に関する注意
39.相互作用
40.臨床検査値への影響
41.適用上の注意
42.薬剤交付時の注意事項
43.過量投与時の処置
44.腎障害時の投与
45.肝障害時の投与
46.その他 ?

VII.薬効薬理に関する項目

記載項目 IF 添付文書
47.薬理学的に関連ある化合物・化合物群 ?
48.薬理作用
49.薬理学的特徴

VIII. 体内薬物動態に関する項目

記載項目 IF 添付文書
50.血中濃度の推移・測定法
51.薬物速度論パラメータ
52.作用発現時間
53.作用持続時間
54.吸収
55.分布
56.代謝
57.排泄
58.透析等による除去率

IX.非臨床試験に関する項目

記載項目 IF 添付文書
59.一般薬理
60.毒性 ?
61.動物での体内動態

X. 取扱い上の注意、包装、承認等に関する項目

記載項目 IF 添付文書
62.有効期限又は使用期限
63.貯法・保存条件
64.薬剤取扱い上の注意点
65.包装・単位
66. 同一成分、同効薬 ?
67.製造・輸入承認年月日、承認番号
68.薬価基準収載年月日
69. 再審査期間の年数
70.長期投与の可否
71.厚生省薬価基準収載医薬品コード ?
72.国際誕生日

XI.文献

記載項目 IF 添付文書
73.引用文献
74.その他の参考文献 ?
75.文献請求先
76.問い合わせ先
77. 会社名及び住所

 

表4.の各項目は、IF上に設定されている項目である。添付文書欄の○印は、添付文書上に記載されている項目であり、△印は添付文書上に記載されているが、情報源としては、不十分な内容と判断されるものである。空欄は当然のこととして添付文書上には記載されていない情報であることを示す。

 

3]新たに追加が求められる情報

 

上記以外にIF上に更に追加が求められる情報として、次のものが上げられる。

  1. 血管外漏出時の処置:添付文書上に点滴静注時に血管外に漏出した場合、組織障害が起こるの記載がされているが、具体的な処置方法の記載がされていないため、より具体的な処置方法の記載が求められる。
  2. 定期的な検査の具体的間隔:重篤な副作用防止のために、『定期的な検査』の必要性が添付文書上に記載されているが、定期的の具体的な頻度の記載がされておらず、投与初期にはどの程度の間隔で実施するのか、長期投与の際の検査間隔等の具体的記載がされていない。患者の安全性確保のために必要とされる重要な情報であり、より具体的な記載が必要である。
  3. 手術前後の投与上の注意:添付文書の一部には記載されているが、技術的に進歩している現在の手術でも、同様な注意が必要なのかどうか。また必要とすれば、より具体的な処置方法の記載が求められる。
  4. 他臓器障害時の投与上の注意:腎障害時の投与については、具体的な記載が見られるが、肝障害等の多臓器障害時の投与方法についてより具体的な情報。
  5. 妊婦への投与:表記が曖昧であり、FDA評価等の具体例を参照して、実務に役立つ評価法を明示すべきである。
  6. 授乳婦への投与:添付文書上の記載は、具体性のない安易な記載がされており、具体的に臨床現場で役立つ情報を記載

等が求められる。

更に製薬企業は、社内資料として、未公開を前提条件とする資料を持参することがあるが、公表できない情報は情報ではない。最低限IFに収載可能な情報として精度の高い情報にまで高めるべきであり、臨床現場が必要とするより実務的な情報作成の基本姿勢を示すべきである。


  1. 古泉秀夫:医薬品情報管理学[3];THPA,45(1):13-21(1996)

医薬品情報管理学[5]

木曜日, 1月 17th, 2008

医薬品情報21

古泉秀夫

添付文書の問題点[1]-副作用表記の不統一性

1]computerによる文書管理

医薬品を使用する際、添付文書が重要な情報源であることに異論はない。また、添付文書が『computer』による情報管理を前提として作成されていないことも承知している。しかし一方で、添付文書が電子媒体化され、厚生労働省の手により『internet』上で公開されるという状況に到達していることもまた事実である。

厚生労働省は添付文書の電子媒体化に際し、文書管理方式としてSGML方式を導入したが、添付文書情報をcomputerで管理するという仕組みを確立するための基本的な部分は、未だに改善されないまま放置されている。

computerで文書を管理する際の最大の問題点は、『検索語』の確立ということである。この検索語の確立という視点から添付文書の副作用表記を見た時、現在の添付文書には多くの問題点が存在する。

2]副作用表記の不統一性

例えば必要があって『低カリウム血症』を惹起する医薬品の集合体を作ろうとする。しかし、『低カリウム血症』という『検索語』を設定し、電子媒体化された全添付文書情報を検索したとしても、副作用として低カリウム血症の記載されている全医薬品の集合体を作ることは不可能である。これは添付文書中に書かれている『低カリウム血症』の表記が、統一化されていないため、添付文書の記載内容を同一のものとして認識しないからである。

治療薬マニュアル 1999[高久史麿・他監修;医学書院]を利用し、『低カリウム血症』と同一の意味を持つ用語を全数調査した結果、同義語として次の9 語が捕捉された。

低K血症・血清カリウム低下・血清K低下・血清カリウムの低下・血清K値の低下・血清カリウム値の低下・血清カリウム値低下・血清K値低下・K低下

更に『味覚障害』を検索語として、JAPICが電子媒体化した情報源を用いて検索をかけると同時に、日本医薬品集1999年版を用いて全数調査を行った結果、同義語として次の用語が記載されていた。

味覚異常・味覚減退・味覚欠如・味覚消失・味覚症状・味覚喪失・味覚低下・味覚倒錯・味覚鈍麻・味覚不良・味覚変化・無味感・苦味感・口中苦味感・口中の苦味感・口中苦味・口中の苦味

『味覚障害』を示す同義語は17語あり、更に電子媒体化された情報の検索結果と図書との間で一致しない結果がでたため、精査したところ『昧覚障害』とする誤転換が見いだされた。たぶん添付文書をOCRを用いて電子媒体化する際に、添付文書上に何等かのゴミが付着しており、『味』を『昧』に誤転換したものと考えられる。

添付文書を電子情報化する意味の一つは、検索語により必要な情報を正確に検索することである。例えば同一の副作用を持つ薬剤の集合体を作成する必要があったとしても、現状では役立たないということである。

添付文書に記載されている副作用は、医師の報告に基づいた表記をそのまま記載するとされているが、そのことが添付文書の副作用の表記を曖昧にし、機械検索に馴染まないとすれば、早急に対応策を講ずるべきである。検索語となる副作用の基本語を定め、それにあわせて添付文書の改訂を行う等の思い切った方策を取るべきである。

ただし、味覚障害の場合、決定すべき検索語は『味覚障害』なのか『味覚異常』なのか。

『味覚障害』では回復不可能な状態を想像させる。しかし、添付文書情報として『味覚異常』とだけ表記されたのでは、患者から「どの様な症状がでるのか」との説明を求められたときに、他の資料を調査しなければ回答できないということになる。従って、『味覚異常(苦味感)』等、具体的な症状の併記をすることにより、添付文書が更に利用価値の高い情報源になるといえる。

光線過敏症・日光性皮膚炎・光線過敏性反応・多形型日光性皮膚炎・日光皮膚炎・光線過敏性皮膚炎

『光線過敏症』の同義語は5語あり、『光線過敏症』で機械検索(完全一致)した場合、同義語で記載された薬剤は検索できない。最終的にはマニュアル検索(曖昧検索=目視検索)により添付文書要約情報をまとめた成書を検索する事が必要である。

3]副作用表記の揺れ

1997年6月改訂のハイゼット錠の添付文書中-副作用の項『消化器』では、『ときに嘔吐、下痢、またまれに便秘、腹部不快感、食欲不振、腹痛、腹部膨満感、腹鳴、胸やけ、呑酸、無味感、口内炎』の記載がされている。治療薬マニュアル2000年版でも同様の表記となっており、現在もなお改訂されていないはずである。

この添付文書の表記の何が問題かといえば、『呑酸』とされている部分である。『呑酸』について医学大事典(南山堂)では、『呑酸?囃(ドンサンソウソウ)』という熟語と共に=『胸やけ』と紹介されている。しかし、大辞典では『呑酸』=『おくび』であり、『?囃』については不明である(・=口+曹)。

『おくび』=『?気』=『げっぷ』ということからすれば『呑酸?囃』は『げっぷ』がお囃子の如く騒々しいことということであろうか。更に『げっぷ』は時に『胸やけ』を伴うとされているが、ハイゼット錠の添付文書の表記は“胸やけ”なのか“げっぷ”なのか。“胸やけ”であるとすれば呑酸の前の“胸やけ”の表記はどうするのか、“げっぷ”であるなら、“?気”あるいは“げっぷ”と書くべきで、ここまで調べてなければ理解できない用語を添付文書に残しておくのはどうかということである。最も『げっぷ』あるいは『?気(アイキ)』についても、『?気』の表記では『おくび』と読むことは無理があり、添付文書の表記は『げっぷ』に統一すべきである(・=口+愛)。

更に添付文書によっては『陰萎』とする表記がされており、一方で『インポテンス・インポテンツ』の表記が見られる。しかし、『陰萎= impotence』であり、例えば『インポテンス』を惹起する薬剤の一覧が欲しいといわれたとき、『陰萎・インポテンツ』に気付かなければ、完成度の高い資料の作成は困難である。

少なくとも報告されている副作用の表記の揺れは、気付いた時点で排除すべきである。

4]機械検索への対応を

添付文書を電子媒体化する目的の一つとして、機械検索による情報検索の高速化がある。機械検索の最大の特徴は「完全一致検索」ということであるが、一方で、最大の欠点ともなるのがこの「完全一致検索」なのである。つまり検索語が完全に一致しなければ、情報の集合体の中に必要とする情報が含まれていたとしても検出できないということであり、機械検索の後に印刷媒体を用いて曖昧検索である目視検索を行わなければ精度の高い情報の入手ができないとすれば、電子媒体を利用する効果は半減する。ただ、精度の問題については、情報を作成するヒトの側の人為的な誤りが起こり得るので、常に100%を期待することには無理があるが、より完成度の高い情報源に進化させることは可能である。

患者の服薬指導に際し、『処方薬の入力、登録情報の総覧、必要情報の検索・抽出』等の作業が自動的に行える仕組みが出来上がれば、副作用を回避する情報・健康食品と薬の相互作用等の情報を含めたより高度な情報基盤の構築が可能になるはずである。

その為にも添付文書の用語の整理を図るべきである。特に副作用の表記の統一化は、何等法律等の改正なしにできることではないかと思われるので、厚生労働省が早急に取り組むことを期待したい。


  1. 古泉秀夫:添付文書の問題点[1]-副作用表記の不統一性;薬事新報,第2133号:1166-1167(2000)
  2. 南山堂医学大事典;南山堂,1992

医薬品情報管理学[6]

月曜日, 1月 14th, 2008

医薬品情報21

古泉秀夫

添付文書の問題点[2]-使用上の注意-相互作用

[1] 使用責任の下方移行

同一薬効群に属する薬の一つに、何等かの事象が発現すると、その薬効群に属する全ての薬物の添付文書に、同一の注意書きが書き加えられるか、同一の内容を類推させる近似の注意書きが書き加えられる。追加記載を指示する厚生労働省や追加記載を実行する製薬企業は、そのことによって行政責任や Product Liability Prevention(製造物責任防衛)を果たせるということであろうが、臨床現場で仕事をする立場からすれば、全ての責任が処方医あるいは情報管理者である薬剤師に下方移行されていると見えるのである。

まして臨床上具体的な事象がでた薬物と具体的事象はでていないが、同一薬効群であることを理由に、同一記載・類似記載をした薬剤の区分が、甚だ曖昧であるということが、臨床現場での判断を困難にしている。勿論、同一系統・同一薬効群に属する薬剤が、将来同様の事象を起こさないという保証はないということは理解しているが、起こり得る事象を予測して注意を喚起する記載と、現実にその事象が臨床的に発現した事例では、より明確な書き分けが必要ではないかということである。

それをしない限り、添付文書の文書配列の順番を変えてみたところで、記載内容に対する情報価値を高めることはできないし、情報源としての信頼性の確保も困難である。

[2] 禁忌-アスピリン喘息

現在、市販されている消炎・鎮痛剤の殆どの添付文書に、禁忌として『アスピリン喘息又はその既往歴(NSAIDs等による喘息発作誘発)』の記載がされている。

この記載は、塩基性抗炎症薬に分類されている下記の3種類のうち、epirizole、tiaramide hydrochlorideの2種類にもされているが、emorfazoneでは『アスピリン喘息』に関する禁忌は記載されていない。

この経緯について、次の報告がされている。

一般名・商品名(会社名) 作用機序 禁忌(過敏症)
emorfazone

ペントイル錠(ヘキサル)

[適]1)以下の疾患並びに症状の消炎・鎮痛:腰痛症、頸肩腕症候群、肩関節周囲炎、変形性関節症、会陰裂傷。

2)手術後並びに外傷後の消炎・鎮痛。

強力な鎮痛・解熱・抗炎症作用を示す。血管壁安定化作用により血管透過性亢進を抑制し、白血球の遊走を抑制するほか、特にキニンの遊離を抑制し、また発痛物質ブラジキニンの発痛作用に拮抗することが認められている。

プロスタグランジンの生合成阻害作用は認められない。

本剤成分-過敏症既往歴。
epirizole(mepirizole)

メブロン錠(第一三共)

[適]1)各科領域の手術並びに外傷後の鎮痛・消炎。

2)以下の疾患の消炎・鎮痛:腰痛症、頸肩腕症候群、関節症、神経痛、膀胱炎、子宮付属器炎、会陰裂傷、抜歯、智歯周囲炎、歯髄炎、関節リウマチ。

3) 以下の疾患の鎮痛:急性上気道炎。

炎症局所に末梢性、中枢性の鎮痛作用が協力的に働く。下垂体-副腎系に関与しない抗炎症作用がある。 本剤成分-過敏症既往歴。アスピリン喘息又は既往歴(NSAIDs等による喘息発作誘発)。
tiaramide hydrochloride

ソランタール錠(アステラス)

[適]1)各科領域の手術並びに外傷後の鎮痛・消炎。

2)以下の疾患の消炎・鎮痛:関節痛、腰痛症、頸肩腕症候群、骨盤内炎症、軟産道損傷、乳房鬱積、帯状疱疹、多形滲出性紅斑、膀胱炎、精巣上体炎、前眼部炎症、智歯周囲炎。

3)抜歯後の鎮痛・消炎。

4)以下の疾患の鎮痛:急性上気道炎。

炎症部位で起炎因子のヒスタミン、セロトニンと強く拮抗し、急性炎症を特異的に抑制する。 本剤成分-過敏症既往歴。アスピリン喘息又は既往歴(NSAIDs等による喘息発作誘発)。

塩基性抗炎症薬のうちtiaramide hydrochlorideについては、国内においてアスピリン喘息で負荷陽性の報告があったため、1994年の再評価のときに添付文書中に「投与禁忌」の記載が追加された。しかし、その報告内容は十分なものではなかった。延べ患者数で100例以上のアスピリン喘息患者にtiaramide hydrochlorideを処方してきたが、発作の悪化やピークフロー値の低下を認めた症例は皆無であったとする報告が見られる。

塩基性抗炎症薬のうちemorfazoneについては、1994年当時、再評価対象外であったため、[禁忌]蘭に『アスピリン喘息』の記載はされていない。

また塩基性抗炎症薬は、酸性抗炎症薬と異なりサイクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害しないため、アスピリン喘息患者にも安全に使用できるとする報告がされている。消炎・鎮痛剤であっても、塩基性のものでは、誘発作用があったとしても弱いか、あるいは殆ど無いと考えられている。

その他、acetaminophenについても、次の報告がされている。

一般名・商品名(会社名) 作用機序 禁忌(過敏症)
acetaminophen(paracetamol)

カロナール錠・細粒・シロップ

(昭和薬化工)

[適]1)頭痛、耳痛、症候性神経痛、腰痛症、筋肉痛、打撲痛、捻挫痛、月経痛、分娩後痛、癌による疼痛、歯痛、歯科治療後の疼痛。

2)以下の疾患の解熱・鎮痛:急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む)。シロップ:小児科領域の解熱。

視床下部体温調節中枢に作用して皮膚血管を拡張し、体温の放散を増大して発熱時体温を下降する。サリチル酸誘導体と異なり、抗リウマチ及び消炎作用を欠くが、サリチル酸誘導体と同様、作用機序は不明確だが、中枢性の鎮痛作用を呈する。 本剤成分-過敏症既往歴。アスピリン喘息又はその既往歴(NSAIDs等による喘息発作誘発;アスピリン喘息発症にPG合成阻害作用関与)

acetaminophenについても、添付文書中に『アスピリン喘息』は[禁忌]とする記載がされている。しかし、一方では『アスピリン喘息』既往者に対しても安全に投与することができる薬剤として報告されている。またWHOの喘息ガイドラインにも使用可能な消炎・鎮痛剤としてリストアップされている(ただし、初期は半量から投与し、2-3時間症状観察)とする報告が見られる。

ただし、喘息患者の場合、寛解期よりも有症状期の方が負荷閾値が低下することはよく知られているため、アスピリン喘息患者が少しでも喘息症状を伴っている時は、通常使用量の acetaminophenでも危険である。またアスピリン喘息の患者に対しては、高用量のacetaminophenは[禁忌]であるとする報告も見られる。

aspirin喘息誘発の機序については、未だ明確にされていないが、アラキドン酸カスケードにおけるサイクロオキシゲナーゼ(COX)抑制作用との関連があるとされている。しかし、化学構造上の類似性は必ずしもない。aspirinとインドール系酢酸のindometacinは強力な誘発作用を持つが、構造は全く異なっている。

*アスピリン喘息誘発作用の特に強いもの aspirin、indometacin、ibuprofen、aminopirin、diclofenac、naproxen、piroxicam等
*アスピリン喘息誘発作用のかなり特に強いもの mefenamic acid、flufenamic acid等

また、同じサリチル酸系であっても、sodium salicylate(サリチル酸ナトリウム)は、aspirinとは異なり殆ど誘発作用はないとされている。

その他、サリチル酸製剤では『重要な基本的注意:サリチル酸系製剤とライ症候群との因果関係は明らかでないが、関連性を疑わせる疫学調査報告がある。15 歳未満の水痘・インフルエンザの患者にやむを得ず投与する場合には、慎重に投与し、投与後の患者の状態を十分に観察する』とする注意事項が添付文書に記載されたが、『サリチルアミド、エテンザミドについては、他のサリチル酸系薬剤と異なり、代謝によりサリチル酸を生じないが、一層の安全性の観点から同様の使用上の注意を記載する』として一括処理されている。

[3] 飲食物と薬物相互作用の考え方

飲食物と薬物の相互作用は、患者のQualiy of Life(QOL)に配慮する上からも単なる規制であってはならない。薬物服用中に喫食した患者に、臨床的な悪影響がでたという絶対的な『禁忌』ということであれば、喫食の中止もやむを得ないが、『併用注意』という程度のことであれば、食生活を規制するのではなく、飲食物と薬物の相互作用を回避しつつ、飲食物の摂取制限なしに薬物の服用ができるよう折り合いを付ける工夫が必要である。飲食物中の果実や野菜等は、その生育場所や気象条件等によって、含有する成分の同一性が必ずしも保証されているわけではない。従って、飲食物と薬物との相互作用は、必ず発現するとは限らないという曖昧性を持っている。

まして、薬物療法により完治しない高血圧症等では、2?3週間の薬物の服用で、治療が終了するということではない。服用開始から終命までの長期にわたって、基礎疾患である高血圧症等に起因する摂食制限が指示される。従って、相互作用による摂食制限を上乗せすることは、極力避けるべきであり、また患者の注意事項遵守を高める上からも、制限事項の数は増やすべきではないといえる。

[4] カルシウム拮抗剤とグレープフルーツジュースの相互作用

Ca 拮抗剤と飲食物の相互作用について、多くの文献報告がみられる。実験に使用されたグレープフルーツジュース(以下GF-j)は、濃縮ジュースを2倍に水で希釈してとする報告等も見られるが、中には生果を絞ったジュースなのか濃縮ジュースなのかの見分けがつかない報告も見られるようである。

実際に試験的に実施した搾汁では、1個455gのグレープフルーツから搾汁できたジュースは180mL、1個430gのグレープフルーツから搾汁できたジュースは210mLである。天然果汁の場合、水分量は89.5%であるのに対し、濃縮果汁では水分量44.1%とする報告もされており、含有成分量も当然異なることが考えられる。

現在市販されているCa拮抗剤のうちdihydropyridine系薬剤であるamlodipine besilateでは、GF-jとの相互作用の記載はされていない。同様にdiltiazemに属するdiltiazem hydrochlorideにも、相互作用に関する記載はされていない。更に具体的な臨床例が報告されていないため、記載する必要が無いと考えられる nilvadipineでは、『本剤の作用が増強されるおそれがある。ただし、本剤に関する症例報告はない:相手薬が本剤の代謝酵素(P450IIIA4)を阻害するため、本剤の血中濃度を上昇させるおそれ[添付文書,2001.7.改訂]』の記載がされている。

また、aranidipineでは添付文書に『他のCa拮抗薬(ニフェジピン等)でその血中濃度が上昇したとの報告がある:GF-jに含まれる成分が薬物代謝酵素チトクロームP450を阻害し、本剤の血中濃度が上昇する可能性がある[サブレスタ顆粒添付文書,2000.3.改訂]』の記載がされているが、この薬剤では、現実的な事例は何等報告されていないということである。benidipine hydrochloride についても、添付文書には『血圧が過度に低下するおそれがある。GF-jが肝臓における本剤の代謝を阻害し、本剤の血中濃度が上昇[添付文書, 2000.4.改訂]』の記載がされている。

しかし、企業からの添付文書改訂情報では『本剤とグレープフルーツジュースとの相互作用については、従来より、国内においてグレープフルーツジュースの同時服用により塩酸ベニジピンの体内動態に変化が見られたとする知見が得られており、添付文書中の「適用上の注意」に、同時服用により本剤の血中濃度が上昇したとする報告があるある旨が記載されていた。

今回は、平成9年4月の添付文書の記載要領の変更により、[相互作用]の項については、「飲食物との相互作用についても重要なものを含む」とされたことから、[相互作用]の項に移動が行われた。なお、今回の[相互作用]の項では、血圧が過度に低下するおそれがあるとの記載となっているが、現在のところ、『同時服用により血圧が過度に低下したとする報告はなく』、本剤の血中濃度が上昇する懸念があることに基づいての内容となっている。』とする解説がされている。

そのほか、verapamil hydrochlorideでは、経口剤の添付文書にはGF-jとの相互作用が記載されているが、注射薬の添付文書には記載されていない。経口剤のみが問題であるとすれば、肝の薬物代謝酵素P450が抑制されるということでは、説明が付かないということになる。事実GF-jとの相互作用について、肝におけるCYP3A4の抑制ではなく、消化管に選択的に作用し、小腸上皮細胞のCYP3A4含有量を低下させるのではないかとする報告等も見られている。

これらの情報を検討するとCa拮抗剤とGF-jの相互作用は、限られた一部の薬剤では要注意情報であるが、他のCa拮抗剤では、患者に予測されない副作用が発現したときに検討する課題の一つと理解しておくことでいいのではないかと思われる。

ただ、Ca拮抗剤の添付文書で、理解できないのはfelodipine等で記載されている「患者の状態を注意深く観察し、過度の血圧低下等の症状が認められた場合には、本剤を減量するなど適切な処置を行う。GF-jを同時服用をしないよう指導すること[添付文書,2001.6.改訂]」という記載である。

『患者の状態を注意深く観察し、過度の血圧低下等の症状が認められた場合には、本剤を減量するなど適切な処置を行う。』とされているが、医療関係者が患者の状態を注意深く観察できるのは入院中だけであり、外来通院患者では観察は不可能である。この添付文書の表記は一体誰に何を期待しての記載なのか、苦慮するところである。

また、GF-jとの相互作用報告は、殆どGF-jによる実験結果であり、果実についての報告は見られていない。また、Ca拮抗剤服用中の患者が、果実を喫食しても『過度の血圧低下』等は見られていないという臨床医の意見もあり、その意味では、Ca 拮抗剤服用患者に、グレープフルーツの喫食を禁止する必要はなく、過度の喫食は避けるよう注意することでいいのではないかとおもわれる。更に現在、GF- jとの相互作用がいわれていないCa拮抗剤もあることから、それらの薬剤を選択することで、患者の生活を何等規制することなく治療は可能であるとすることもできる。

[5]グレープフルーツジュースとの相互作用に関する添付文書の記載一覧

一般名・商品名(商品名) 結果 臨床症状・措置方法 機序・危険因子
[214]amlodipine besilate
ノルバスク錠(ファイザー)
? 記載無[添付文書,2001.7.改訂]  
[214]aranidipine
サブレスタ顆粒(大鵬)
? 他のCa拮抗薬(ニフェジピン等)でその血中濃度が上昇したとの報告がある。 GF-jに含まれる成分が薬物代謝酵素チトクロームP450を阻害し、本剤の血中濃度が上昇する可能性がある[添付文書,2002.9.改訂]
[214]barnidipine
hydrochloride
ヒポカカプセル(アステラス)
作用増強(?) 本剤の血中濃度が上昇し、本剤の作用が増強される恐れがある。 GF-jによりCYP3A4が阻害され、本剤の血中濃度が上昇する[添付文書,2002.7.改訂]
[214]benidipine hydrochloride
コニール錠(協和醗酵)
作用増強(?) 血圧が過度に低下するおそれがある。 GF-jが肝臓における本剤の代謝を阻害し、本剤の血中濃度が上昇[添付文書,2000.4.改訂]
[214]cilnidipine
アテレック錠(持田)
? 本剤の血中濃度が上昇することが確認されている。 発現機序の詳細は不明であるが、GF-jに含まれる成分が本剤の薬物代謝酵素のCYP3A4を抑制するためと考えられる。[添付文書,2001.11.改訂]
[214]efonidipine
hydrochloride

ランデル錠(塩野義)

作用増強(?) 本剤の血中濃度が上昇し、作用が増強されるおそれがある。患者の状態を注意深く観察し、過度の血圧低下等の症状が認められた場合には、本剤を減量するなど適切な措置を行う。また、GF-jとの同時服用をしないよう指導すること。 発現機序の詳細は不明であるが、GF-jに含まれる成分がCa拮抗剤の代謝酵素(チトクロームP450)を抑制し、クリアランス低下させるためと考えられている。[添付文書,2002.4.改訂]。
[214]felodipine
スプレンジール錠(アストラ)
作用増強 本剤の血中濃度が上昇したとの報告がある。患者の状態を注意深く観察し、過度の血圧低下等の症状が認められた場合には、本剤を減量するなど適切な措置を行う。GF-jとの同時服用をしないよう指導すること。 GF-jに含まれる成分が本剤の小腸での代謝(チトクロームP450)を抑制し、クリアランスを低下させるためと考えられている。[添付文書,2001.6.改訂]
[214]manidipine
hydrochloride
カルスロット錠(武田)
血中濃度上昇 本剤の血中濃度が上昇することが報告されている。 GF-j中の成分が、本剤の肝薬物代謝酵素であるCYP3A4を阻害することが考えられている[添付文書,1998.3.改訂]
[214]nicardipine
hydrochloride
ペルジピン錠(アステラス)
作用増強(?) 本剤の作用が増強されるおそれがある。 GF-jが肝の薬物代謝酵素P450を抑制し、本剤の血中濃度上昇[添付文書,2001.9.改訂]
[214]nifedipine
アダラートL錠
(バイエル)
作用増強 本剤の血中濃度が上昇し、作用が増強されることがある。 発現機序は不明であるが、GF-jに含まれる成分が本剤の肝代謝(チトクロームP-450酵素系)反応を抑制し、クリアランスを低下させるためと考えられる →患者の状態を注意深く観察し、過度の血圧低下等の症状が認められた場合、本剤を減量するなど適切な処置を行う。GF-jとの同時服用をしないように注意する[添付文書,1999.10.改訂]
[214]nilvadipine

ニバジール錠(アステラス)

? 本剤の作用が増強するおそれがある。ただし、本剤に関する症例報告はない 相手薬が本剤の代謝酵素(P450IIIA4)を阻害するため本剤の血中濃度を上昇させる恐れ[添付文書,2001.7.改訂]
[214]nisoldipine
バイミカード錠(アストラ)
作用増強 本剤の血中濃度が上昇し、作用が増強されることがある。患者の状態を注意深く観察し、過度の血圧低下等の症状が認められた場合、本剤を減量するなど適切な処置を行う。GF-jとの同時服用しないよう注意する。 発現機序の詳細は不明であるが、GF-jに含まれる成分が本剤の肝代謝(チトクロームP-450酵素系)反応を抑制し、クリアランスを低下させるためと考えられている[添付文書,2000.10.改訂]
nitrendipine
バイロテンシン錠
(田辺三菱)
作用増強 本剤の血中濃度が上昇し、作用が増強されることがある。患者の状態を注意深く観察し、過度の血圧低下等の症状が認められた場合には、本剤を減量するなど適切な措置を行う。また、GF-jとの同時服用をしないよう指導すること。 発現機序の詳細は不明であるが、GF-jに含まれる成分が本剤の肝代謝酵素(チトクロームP-450)を抑制し、クリアランスを低下させるためと考えられている。[添付文書,2001.11.改訂]。

(2)verapamil

一般名・商品名(商品名) 結果 臨床症状・措置方法 機序・危険因子
verapamil hydrochloride
ワソラン錠(エーザイ)
血中濃度上昇 本剤の血中濃度を上昇させることがある。異常が認められた場合には、本剤を減量するなど適切な処置を行うこと。また、GF-jとの同時服用をしないよう注意すること。 GF-jに含まれる成分のチトクロームP450(CYP3A4)の阻害作用により、本剤の血中濃度を上昇させる[添付文書,2003.2.改訂]
verapamil hydrochloride
ワソラン注(エーザイ)
? 記載無[添付文書,2002.4.改訂] ?

(3)diltiazem

一般名・商品名(商品名) 結果 臨床症状・措置方法 機序・危険因子
diltiazem hydrochloride
ヘルベッサー錠・注(田辺三菱)
? 記載無[添付文書,2002.4.改訂] ?

[6]グレープフルーツジュースその他の薬剤による相互作用[相互作用-併用注意]の項に以下を追記。

グレープフルーツジュース[QT延長、心室性不整脈等の重篤な副作用を起こすおそれがあるので、グレープフルーツジュースの同時服用をしないように注意する。]

改訂の理由:グレープフルーツジュースとの相互作用の臨床報告はないが、欧州の添付文書を参考にして[相互作用]の項に追記した。

[発症機序]本薬はチトクロムP450 3A4(CYP3A4)で主に代謝されるが、グレープフルーツジュースはCYP3A4を阻害する。これらを併用すると、本剤の代謝が阻害されて血中濃度が上昇し、QT延長、心室性不整脈等の重篤な副作用が発現する可能性があると考えられる。

[専門医からのコメント]グレープフルーツジュースと医薬品の相互作用については、最初フェロジピンを初めとするカルシウム拮抗剤で盛んに研究され、当初はグレープフルーツジュース中に含まれるナリンジンなどのフラボノイド類が原因物質と考えられていた。しかし、最近の研究では、グレープフルーツジュース中に含まれるフラノクマリン誘導体が主に小腸のCYP3A4を阻害するために起こる現象であるとされている。

フラノクマリン誘導体はグレープフルーツジュースの実(果実)に多く含まれているが、天然物であるため含量のバラツキが非常に大きい。また、オレンジ、ミカン、レモン、ザボン、ボンタン、ナツミカンにはこの物質は含まれないとされている。理論的には、CYP3A4で代謝される医薬品についてはグレープフルーツジュースとの相互

作用の可能性を念頭に置く必要があるが、実際にどの程度の影響が現れるのかについては、医薬品の種類や服用者の感受性によってかなりの差があるようである。

今回のpimozide における改訂についても、実際の臨床報告はないとのことであるが、やはりCYP3A4で代謝されるものであるため、相互作用の発現には注意が必要である。

グレープフルーツジュースとの同時服用でない場合、具体的に何時間ぐらい空ければよいのか等についての詳細なデータは報告されていない[会社報告]。

[薬局での留意事項]本剤を服用する患者に対しては、グレープフルーツジュースでの同時服用をしないよう助言する。

(参考)ピモジドと相互に作用するチトクロムP450の確認と特性[Desta Z.et al:J.Pharmacol.Exp.Ther.,285:428-437(1998)]

ヒト肝ミクロゾーム及び組換え型ヒトチトクロムP450(CYP450)を用いて、ピモジドの主要代謝経路及びCYP450阻害作用などについて検討した。その結果、in vitroでのピモジドの主要代謝経路は1,3-dihydro-1-(4-piperidinyl)-2H-benzimidazol-2-ne (DHPBI)への酸化的N-脱アルキル化で、これにはCYP3AとCYP1A2が関与しており、CYP3Aは主要な役割を果たしていたが、CYP1A2 の関与は僅かであった。また、文献上CYP2D6はピモジドを代謝するかもしれないと示唆されているが、試験結果ではピモジドからDHPBIへの代謝に CYP2D6は影響を及ぼさず、ピモジドのCYP2D6に対する強い阻害作用が見られた。

これらの結果から、CYP3Aの阻害剤であるアゾール系抗真菌剤やマクロライド系抗生剤、及びフルボキサミンやキノロン系抗生剤のような CYP1A2の阻害剤との併用は副作用の危険性がより大きくなることが予想され、リファンピシン、カルバマゼピンのようなCYP3Aの代謝誘導剤の存在下ではピモジドの作用が減弱する可能性が考えられる。また、喫煙者ではCYP1A2活性が亢進しているため、より高用量のピモジドが必要かもしれない。

いずれにしろ現段階では、Ca拮抗剤とG-jの相互作用に関する情報は輻輳している。患者のQOLを考慮した場合、服用薬剤毎に個別の対応が必要であり、添付文書の記載内容は、その指針を提供する情報源でなければならない。

しかし、現状の表記は、甚だ曖昧な部分が多く、臨床現場で患者に対応する薬剤師にとって、解読に難儀する表記がされているのではないかといえる。製薬企業としては、現状の学問的到達点を整理すると共に、より理解し易い文書表現とすべきであるといえる。


  1. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2003
  2. 厚生省医薬安全局:医薬品等安全性情報,No.151:2(1998.12.)
  3. 権田秀雄・他:アスピリン喘息;医薬ジャーナル,24(5):999-1003(1988)
  4. 谷口正実・他:アスピリン喘息に対する解熱鎮痛薬の安全な使用法-質疑応答第25集;日本医事新報社,1998
  5. 栃木隆男:アスピリン喘息患者の感冒罹患時における麻黄附子細辛湯の使用経験;漢方診療,11(9):29-31(1992)
  6. ピモジドとグレープフルーツジュースの相互作用[平成12年4月3日 企業自主改訂];日薬医薬品情報,4(5):20-22(2001.5)
  7. 香川 綾・監修:四訂食品成分表;女子栄養大学出版部,1997
  8. 金子孝子:グレープフルーツジュースとカルシウム拮抗剤の相互作用に関する患者への情報提供;日病薬誌,36(11):1547-1549(2000)