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エフェドラ属(genus ephedra)に分類される植物

金曜日, 1月 4th, 2008

KW:薬名検索・健康食品・エフェドラ属・genus ephedra・麻黄・Ephedra Herba・草麻黄・華麻黄・田麻黄・ephedrine・pseudoephedrine

 

Q: エフェドラ属に分類される植物としてどの様なものがあるか

 

A: 麻黄(Ephedra Herba)基原植物であるEphedra spp.は、ユーラシア大陸に約40種、アフリカに11種、アメリカ大陸南部に約30種分布しているが、これを薬として活用し、現在も頻用しているのは、漢民族及びその文化圏の人々だけであるとする報告がされている。

麻黄属(genus ephedra)に属する植物として、次の植物名が確認できたが、本表以外の麻黄属の植物名については不明である。

学名 成分等

Ephedra sinica Stapf麻黄(マオウ)

(英名:Ephedra Herba)

別名:華麻黄(カマオウ)・草麻黄(ソウマオウ)・田麻黄(デンマオウ)

遼寧、河北、河南、山西、陜西、内蒙古などの乾燥地に自生する。多年生草本状小低木、高さ20-40cm。主アルカロイドの(-)-ephedrine、抗炎症性の本体(+)- pseudoephedrine、ephedroxaneの他、副アルカロイドとして(-)-norephedrine、(-)-N- methylephedrine、(-)-N-methylpseudoephedrine、(+)- norpseudoephedrine等、アルカロイドの揮発性成分ベンジュールメチルアミンを含んでいる。

このうち主要成分はL-ephedrineである。

Ephedra equisetina Bunge木賊麻黄(モグゾクマオウ・トクサマオウ)

河北、山西、陜西、内蒙古、 甘粛、新疆、四川西部などの乾燥地に自生する。小低木、高さ30-50cm。主要成分は(-)-ephedrine、(+)-pseudoephedrine である。
Ephedra intermedia Schrenk et C.A.Meyer中麻黄(チュウマオウ) 甘粛、新疆、青海、内蒙古な どの砂地に自生する。低木、高さ1mに達する。多量の(-)-ephedrineを含む。
Ephedra linkiangensis Florin麗江麻黄(レイコウマオウ) 雲南、四川に分布。草質茎を 麻黄として使用。
Ephedra przewashii Stapf膜果麻黄(マクカマオウ) 内蒙古、新疆、甘粛、青海に 分布。草質茎を麻黄として使用。
Ephedra distachya L.双穂麻黄(ソウスイマオウ) 東北、新疆に分布。草質茎を 麻黄として使用。

 

なお、国内では、dietary supplement中に『麻黄』を配合することは禁止されているが、米国では痩身目的のdietary supplementに配合されていた。しかし、今回、米国においてもdietary supplement中に麻黄を配合することは禁止された。

『米FDAは、Ephedra含有栄養補助食品の販売禁止の予定を発表するとともに、ephedra含有栄養補助食品の安全性について消費者向けの警告を発行(2003年12月30日付)。

ephedra製品の購入および使用を速やかに中止するよう消費者に対し警告。また、2003年12月30 日に、ephedrineアルカロイド含有の栄養補助食品による疾病または傷害の過度のリスクについてfinal ruleを発表する予定であることを製造業者に通知(2003年12月30日付)』とする報告がされている。

 

[011.1.EPH:2004.3.9.古泉秀夫]


  1. 伊澤一男:薬草カラー大事典;株式会社主婦の友社,1998
  2. 奥田拓男・他:天然薬物・生薬学;廣川書店,1993
  3. 和漢薬ハンドブック;富山県薬剤師会,1992
  4. 高木敬次郎・他:和漢薬物学;南山堂,1983
  5. 上海科学技術出版社・編:中薬大辞典;小学館,1998
  6. http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/diet/jirei/ephedra.html#17,2004.3.9.

エトポシド注の安定性

金曜日, 1月 4th, 2008

KW:物理化学的性状・安定性・エトポシド注・etoposide・VP- 16・結晶析出・ラステット注

 

Q:エトポシド注投与中の点滴ライン中に結晶を認めた。以前同様の組み合わせの化学療法メニューを行った時には、結晶の析出は認めなかった。結晶析出の理由は

 

A:etoposide(VP-16)の性状について、次の通り報告されている。

*etoposideは、白色の結晶又は結晶性の粉末である。メタノールにやや溶け難く、エタノール(99.5)に溶け難く、水に極めて溶け難い。融点:約260℃ (分解)。

なお、etoposideの製品であるラステット注(日本化薬)の性状について、微黄色-淡黄色澄明のわずかに粘性の液であるとされている。pH: 3.5-4.5 (本剤5mLを生理食塩液500mLで希釈時)・ 3.3-4.3 (本剤5mLを生理食塩液250mLで希釈時)、浸透圧比: 約1 (本剤5mLを生理食塩液500mLで希釈時)・約2 (本剤5mLを生理食塩液250mLで希釈時)。

また、本剤投与時の注意として『100mgあたり250mL以上の生理食塩液等の輸液に混和し、30分以上かけて点滴静注する』。適用上の注意として『1.調製方法:本剤は溶解時の濃度により、結晶が析出することがあるので0.4mg/mL濃度以下になるよう生理食塩液等の輸液に溶解して投与すること。溶解後はできるだけ速やかに使用すること』とする記載がされている。

*etoposideは水に極めて溶け難く、高濃度水溶液の場合、結晶を析出する。結晶析出までの時間は、高濃度の方が早く、溶解液の種類によっても異なる。

ラステット注では、実使用例として、次の注意事項を配布している。

*稀釈後永く放置しておくと結晶が出てきますので、適切な時間で点滴静注して下さい。

希釈倍率

濃度(生理食塩水稀釈時)

結晶析出迄の最小時間 希釈液使用制限時間
100 約0.2mg/mL:1瓶を500mLに加えて稀釈 9時間 6時間以内
50 約0.4mg/mL:2瓶を500mLに加えて稀釈 4.5時間 3時間以内
40 約0.5mg/mL:2.5瓶を500mLに加えて稀釈 4.5時間 3時間以内
33 約0.6mg/mL:3瓶を500mLに加えて稀釈 3時間 2.5時間以内
25 約0.8mg/mL:4瓶を500mLに加えて稀釈 45分 30分以内
20 約1.0mg/mL:5瓶を500mLに加えて稀釈 30分 20分以内

 

その他の報告として *輸液配合後の結晶析出までの時間は、次の通り報告されている。

  0.4mg/mL 0.6mg/mL 0.8mg/mL
生理食塩液 24時間 6時間 2時間
5%-ブドウ糖 36時間 8時間 2.5時間

また、いずれの輸液で稀釈したとしても、0.6mg/mL以上の濃度で投与する際には、濃度が増すにつれて結晶析出時間が早まることが認められるので、点滴時間の設定には十分な注意が必要であるとする報告が見られる。

[014.4.ETO:2005.3.8.古泉秀夫]


  1. ラステット注添付文書,2005.2.改訂
  2. 柳沢孝次・他:エトポシド注の各種輸液稀釈後の結晶析出に関する検討;新薬と臨床,45(5):999-1002(1996)
  3. 幸道秀樹・他:エトポシド注(ベプシド、ラステット)輸液配合後の結晶析出の検討;化学療法の領域,11(6):165-168(1995)
  4. 国立国際医療センター医薬品情報管理室・編:医薬品情報,27(4): 322-323(2000)

オキシコンチンとMSコンチンの効力比較

木曜日, 1月 3rd, 2008

KW:臨床薬理・オキシコンチン徐放錠・塩酸オキシコドン・oxycodone hydrochloride・MSコンチン錠・硫酸モルヒネ・morphine sulfate・効力比較・体内動態

 

Q: オキシコンチンとMSコンチンの臨床的な相違点について

 

A:両剤の薬効薬理作用について、次の通り報告されている。

一般名 oxycodone hydrochloride
(塩酸オキシコドン)
morphine sulfate
(硫酸モルヒネ)
商品名(会社名)

オキシコンチン徐放錠
(塩野義)

MSコンチン錠
(塩 野義)
含有量(1錠中) 5mg・10mg・ 20mg・40mg 10mg・ 30mg・60mg
適応症 中等度から高度の疼 痛を伴う各種癌における鎮痛 激しい疼痛を伴う各 種癌における鎮痛
用法・用量 通常、成人 oxycodone hydrochloride無水物として1日10-80mgを2回に分割投与。適宜増減。 通常、成人 morphine sulfateとして1日20-120mgを2回に分割投与。適宜増減。
作用機序 morphine同 様にμ-オピオイド受容体を介して鎮痛作用を示すものと考えられる。

μ-オピオイド受容 体を介して作用を示す。大脳皮質知覚領域の痛覚域値を上昇させるほか、痛覚伝導路のうち脊髄以上の部位に作用し、脳幹の下降性抑制系の賦活や視床及び脊髄後角を抑制する。

鎮痛作用 morphine sulfateの3-6倍(ED50値)・3-4倍 (効力比)。鎮痛活性:0.1-2.0。 morphine hydrochlo-rideとの比較で、ほぼ同等の効力(ED50値)。鎮痛活性:1。
疼痛コントロール率 90%(オピオイド 系鎮痛剤非使用例及び使用例共に) 94.3-96.9% (MSコンチン錠投与例10mg-60mg製剤)
最高血漿中濃度 oxycodone として23.3ng/mL 29.9ng/mL(10mg 錠×3錠)
Tmax oxycodone として2.5時間 2.7時間
AUC0-48 303.5ng・ hr/mL 165.5ng・ hr/mL(AUC0-12計算値)
t1/2 5.7時間 2.58時間
血漿蛋白結合率 45-46% 約35%
体組織移行率 速やかに全身に分布 し、殆どの組織で投与約1時間後に最高濃度を示し、その後速やかに低下。作用部位である脳内消失は他の組織に比べ緩徐(ラット)。  
代謝 代表関与酵素
CYP2D6(→oxymorphone)、CYP3A4(→noroxycodone)
morphineは 主としてグルクロン酸抱合を受け、morphine-3-glucuro-nide及びmorphine-6-glucuronideに代謝される。
肝障害時投与 肝障害者に oxycodone hydrochloride徐放錠20mgを空腹時単回投与した結果、AUCは健康成人の約2倍、Cmaxは約1.5倍と有意に高値。 morphine-6 -glucuro-nideの蓄積によると考えられる遷延性の意識障害あるいは遷延性の呼吸抑制惹起の報告。
腎障害時投与

Ccr:10-60mL/min 、oxycodone hydrochloride徐放錠20mgを空腹時単回投与した結果、AUCは健康成人の約1.6倍、Cmaxは1.4倍。T1/2は1時間延長。腎障害者の鎮静作用は健康成人に比べ増加傾向。

 
食事の影響 oxycodone hydrochlo-ride徐放錠の体内動態に食事の影響は殆ど見られない。但し、160mgを抗脂肪食摂取後に投与したとき、空腹時との比較で oxycodoneのCmaxが25%増加の報告。 殆ど受けない。
バイオアベイラビリティ oxycodone hydrochlo-rideの生体利用率は健康成人で約60%、癌患者では平均87%。 生物学的利用率は 22.4%(初回通過効果受ける)
男女差

oxycodone hydrochlo-ride徐放錠20mgを空腹時単回投与した時、女性ではAUC及びCmaxが、男性より約1.4倍高値を示した。

 
高齢者 吸収、薬力学的評価 項目で、65歳以上と45歳以下の成人間に有意差無。  
母乳中移行 oxycodone hydrochlo-rideとacetaminophenの合剤経口投与時oxycodone hydrochlo-rideの乳汁/血漿中濃度の平均比率3.4(投与0.25-12時間後)。 ヒト母乳中に移行す ることがある。
排泄 尿中排泄:未変化体 として投与量の5.5±2.5%がoxycodone複合体として2.3±5.5%が排泄(24時間)。 MSコンチン錠1回 30mg、1日2回投与時の定常状態における24時間尿中総排泄率は、29.1%。
呼吸抑制 発現の可能性-息切 れ、呼吸緩和、不規則な呼吸、呼吸異常等発現→投与中止等適切処置。本剤による呼吸抑制には、麻薬拮抗薬(ナロキソン、レバロルファン等)が拮抗する。 発現の可能性-息切 れ、呼吸緩和、不規則な呼吸、呼吸異常等発現→投与中止等適切処置。本剤による呼吸抑制には、麻薬拮抗薬(ナロキソン、レバロルファン等)が拮抗する。
副作用 眠気 (53.0%)・便秘(38.4% )・嘔気(38.4%)・嘔吐(18.5%)・食欲不振(4.0%)・眩暈(3.3%)・掻痒感(3.3%) 眠気 (12.67%)・便秘(16.24%)・悪心(13.66%)・嘔吐(6.14%)・食欲不振(2.57%)・眩暈(0.40%)
作用発現時間 1時間 1時間30分
作用持続時間 12時間 12時間

 

以上、両剤を比較対照したが、必ずしも期待する項目が両剤で整備されているわけではなく、報告された資料の範囲内で類推する部分が多いのではないかと思われる。

[015.4.OXY:2005.1.25.古泉秀夫]


  1. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
  2. オキシコンチン錠添付文書,2003.10.改訂
  3. MSコンチン錠添付文書,2004.2.改訂
  4. 金 素安・他:薬の情報No.5 オキシコンチン錠;薬局,55(7):2211-2219(2004)
  5. 川股知之・他:新しい鎮痛薬と疼痛管理;日病薬誌,39(10):1229-1233(2003)
  6. 金沢賢也・他:鎮静・鎮痛薬投与による呼吸抑制;medicina,41(7):1181-1183(2004)
  7. MSコンチン錠IF,2001改訂5版
  8. オキシコンチン錠IF,2003.6.改訂第2版

オレフィン(C14-16)スルホン酸ナトリウムについて

木曜日, 1月 3rd, 2008

KW:薬名検索・オレフィン(C14-16)スルホン酸ナトリウム・テトラデセンスルホン酸ナトリウム・Sodium Tetradecene Sulfonate・α-オレフィンスルホン酸ナトリウム・AOS・界面活性剤・起泡剤・発泡剤

 

Q:オレフィン(C14-16)スルホン酸ナトリウム(クレンジング成分)の安全性・毒性等について

A:オレフィン(C14-16)スルホン酸ナトリウムについて、次の報告がされている。

項目 概要
Code 500279
表示名 オレフィン(C14-16)スルホン酸ナトリウム
種別許可成分名称 テトラデセンスルホン酸ナトリウム液
化学名

テトラデセンスルホン酸ナトリウム(一般名)。テトラデセンスルホン酸ソーダ、ソジウムテトラデセンスルホネート、1-テトラデセン-1-スルホン酸ナトリウム

英名 Sodium Tetradecene Sulfonate
別名 α-オレフィンスルホン酸ナトリウム
慣用名 AOS
INCA SODIUM C14-16 OLEFIN SULFONATE
分類 界面活性剤、洗浄剤、発泡剤

 

本品は主としてテトラデセンスルホン酸ナトリウム(C14H27NaO3S:298.42)及びヒドロキシテトラデカンスルホン酸ナトリウム(C14H29NaO4S:316.43)からなり、乾燥したものを定量するとき、テトラデセンスルホン酸ナトリウムとして90.0%以上を含む。

  • 性状:本品は、白色-淡黄色の結晶又は結晶性粉末で、僅かに特異な臭いがある。本品は水に溶け、90%-温エタノールにやや溶け易い。無水エタノールには溶け難い。水溶液は化学的に安定で、酸性下でも分解しにくい。
  • 基原:α-オレフィンスルホン酸塩(AOS)には、炭素数鎖によりC14-C19のAOSがあり、また製法上はほぼ同様の性能を持つC14-C19のヒドロキシアルキルスルホン酸塩を副生物として含む。従ってテトラデセンスルホン酸ナトリウムは、正確にはAOSを代表する一成分である。AOSは直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)に匹敵する洗浄力、起泡性を持ち、また比較的皮膚刺激も弱く、テトラデセンスルホン酸塩(C14AOS)は香粧品や台所洗剤にも汎用され、更に衣料用洗剤にも利用されている。
性質・作用

 

  1. 粘度特性:温度変化(10-60℃)により変化が少なく、20-30(cp)である。
  2. 生分解性:生分解度(JIS K-3363)は99%以上とよく、生分解速度も4日間で分解が終了し速い。
  3. 安全性:テトラデセンスルホン酸ナトリウムとしては特定していないが、AOSを対象として非常に多くの試験が実施されており、問題ないことが確認されている。
  4. 急性毒性:マウスに対するLD50値は、経口2500-3600mg/kg、皮下注209-1660mg/kg等である。
  5. 慢性毒性・発癌性:ラットへの2年間の経口投与 (5000ppm配合飼料)、30%溶液を70週間にわたり確実に皮膚投与等の試験において、腫瘍の発生等悪影響は認められていない。その他変異原性も認められず、催奇形性、多世代試験も悪影響は見られない。更に代謝・排泄については、経口投与した場合、消化管から容易に吸収され、大部分は尿中に排泄される。
  6. 感作性・各種刺激性:モルモットを用いた感作性試験は陰性であり、動物に対する皮膚刺激試験及びヒトに対する皮膚刺激性試験、眼刺激性試験について、いずれの場合も香粧品に配合される濃度では刺激性は認められていない。

 

[011.1.TET:2006.2.20.古泉秀夫]


  1. 湯浅正治・他編著:化粧品成分ガイド 第3版;フレグランスジャーナル社,2005
  2. http://ecoassist.omika.hitachi.co.jp/LawSCRIPTS_c/index.asp,2006.2.16.
  3. 化粧品原料基準 新訂版;薬事日報社,1999
  4. 日本化粧品工業連合会・編:日本汎用化粧品原料集 第4版;薬事日報社,1997
  5. 日本公定書協会・編:化粧品原料基準 第二版追補註解;薬事日報社,1987

過酸化水素の毒性

木曜日, 1月 3rd, 2008

KW:毒性・中毒・過酸化水素・オキシドール・oxydol・hydrogen peroxide・食品添加物

 

Q:過酸化水素の毒性について

 

A:過酸化水素の性状・毒性等について、次の報告がされている。

オキシドール(oxydol)

本品は定量するとき、過酸化水素(H2O2)2.5?3.5w/v%を含む。

本品は適当な安定剤を含む。

*保存中ガラス容器のアルカリ、光などのために徐々に分解するので含量の範囲が広く取ってある。安定剤にはリン酸、バルビツール酸、尿酸、アセトアニリド、オキシキノリン、ピロリン酸四ナトリウム、その他種々のものが用いられる。

本品を放置するか、又は強く振り混ぜるとき、徐々に分解する。

本品は還元剤と強く振り動かすとき、速やかに分解する。

本品はアルカリ性にするとき、激しく泡だって分解する。

本品は光によって変化する。

*純粋な過酸化水素は、無色澄明濃稠な液体で、水には任意の割合に溶ける。

oxydolはその3w/v%溶液に当たる。エタノール、エーテルにも溶ける。水溶液の味は収斂性で僅かに苦い。

本品は酸化及び還元の両作用を有し、アルカリに対しては甚だ不安定で、分解して酸素を発生する。波長の短い光線ほど分解を促す。

<動態・代謝>成人に50?70mgを経口投与したところ、吸収には個人差があるが、投与後4時間後にほぼ同じ血中濃度(200 ?300ng/mL)を示す。また150?210mgを1日3回分服で6週間に亘って継続投与すると、7日以内に定常血中濃度に達する。

過酸化水素(hydrogen peroxide)

 

本品は過酸化水素35.0?36.0%を含む。従来は30%程度の製品が主体であったが、現在は35、50及び60%の製品が主に市販されている。食品添加物として35%濃度(35?35.5%程度)を昭和23年7月26日に指定。過酸化水素は動植物生体内で、生成と分解が繰り返されており、生鮮食品中に天然由来として微量が含まれている。また、加工食品でも、相当量が天然由来として含まれている。

食品名 含有量
ピーナッツ 2.3?4.0ppm
ホタルイカ 2.9?4.1ppm
干し椎茸 1.0?16.9ppm
0.1?0.5ppm
雲丹 1.0?0.6ppm
乾燥ひじき 0.9?20.4ppm
桜エビ 0.3?0.9ppm
カニ 0.1?2.0ppm
干しわかめ 1.3?13.3ppm

 

牛乳、コーヒー等も室温に放置しておくと、過酸化水素含有量が、経時的に増加していく現象が認められる。なお、かっては殺菌剤又は漂白剤として食品に使用されたが、昭和55年微弱ではあるが発ガン性が認められたため、使用基準により最終食品の完成前に過酸化水素を分解又は除去することを条件に認めた。このため数の子を除き、事実上使用されなくなった。数の子の場合、血筋などの漂白及び寄生虫であるアニサキスの除去目的で用いられるが、漂白後はカタラーゼ処理を行い、過酸化水素を分解している。

<代謝>生体内には過酸化水素を分解する酵素として、カタラーゼ及びオキシダーゼが存在する。両者ともヘム酵素でカタラーゼは肝臓、赤血球などに多く分布し、オキシダーゼは白血球、乳汁、多くの植物組織等に分布している。

<毒性>人体に対する毒性は、それほど激しいものではないが、皮膚に触れると痛みを感じ、特に60%以上の高濃度品は皮膚を剥離することもある。25%以上の液が皮膚や粘膜に触れると激しい炎症を起こす。眼に入ると激しい痛みを感じる。許容濃度1ppm、1.5mg/m3。過酸化水素の少量を経口投与しても、急速に小腸細胞内のカタラーゼによって分解されるため、毒性が現れないことが知られているが、0.45%の割合で飲料水に混じてラットに与えると、水並びに飼料摂取量が減じ、体重減少を招くとされている。また舌下粘膜から吸収され、静脈内でガス化することもある。稀過酸化水素水を口腔洗浄剤として連用すると、舌乳頭の毛状肥大(毛状舌)をきたすが、これは使用を中止すると消退する。

-急性毒性(LD50)-
ラット皮内 700mg/kg

静脈内 21mg/kg

<発ガン性>昭和55年に終了した研究報告によれば、飲料水に0.1及び0.4%の濃度に溶解した過酸化水素を C57Blマウスに74日間投与したところ、十二指腸に癌の発生が認められた。なお、F-344ラットにおける実験では、0.6、0.3%で78週間投与したが、実験群と対照群との間に腫瘍発生率の有意の差はなく、F-344ラットにおいては発ガン性が認められないと判定されている。なお、マーロックス(山之内製薬)のpH実測値は8.18(22℃)と報告されており、本品中に過酸化水素が添加されたとしても、アルカリにより水と酸素分解し、人体に影響する程度の残存率を示すことはないと考えられる。

また万一、一定量の残存が見られたとしても小腸細胞内のカタラーゼによって分解され水と酸素になるとされているため、人体に対する影響は殆ど考えられない。なお、今回の回収措置は、『当該製品の承認処方成分にない物質の添加』が理由であり、既に服用していた患者等から相談された場合、特に問題はない等、回答することにより患者の不安を除くことが重要である。

 

[63.099HYD:2000.8.1.古泉秀夫]


  1. 第十三改正日本薬局方解説書;広川書店,1996
  2. 谷村顕雄・監修:食品添加物公定書解説書 第7版;廣川書店,1999
  3. 後藤 稠・他編:産業中毒便覧 増補版;医歯薬出版株式会社,1992
  4. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:医薬品情報Q&A[4];株式会社ミクス,1987
  5. マーロックス回収、処方中断連絡文書;山之内製薬株式会社,2000.8.1.

化学物質による広範囲障害について

木曜日, 1月 3rd, 2008

KW:毒性・中毒・化学物質・森永砒素ミルク事件・慢性ヒ素中毒症・ヒ素ミルク事件・イタイイタイ病・カネミ油症・クロロキン網膜症・解熱剤筋注・抗生物質筋注・筋拘縮症・コラルジル肝障害・サリドマイド胎芽病・非加熱製剤によるエイズ・水俣病

 

Q:森永ヒ素ミルク事件等の化学物質による広範囲にわたる障害事例について

A:化学物質が原因として、不特定多数の国民に障害の発現した事例として、広く知られているものとして、次の事例が挙げられる。

事例名 概要
イタイイタイ病

富山県の神通川下流の一定地域に、第二次世界大戦から1956?1957年頃をピークとして、全身の激しい疼痛を主訴とする患者が多発していることが、地元の荻野昇医師(1916?1990)らによって報告され、いわゆるイタイイタイ病として注目を浴びることになった。本症は、多くは更年期の多産婦が罹患し、最初は腰痛や下肢の筋肉痛が主訴となるが、疼痛は次第に悪化し、その部位も広がり、特有のアヒル様歩行(アヒル歩行)を示すようになる。

軽度の外傷を誘因として肋骨や四肢の骨に多発性の病的骨折を生じ、全身の変形をきたし、寝たきりの状態になる。

この病的骨折の原因として、上流の鉱山から排出されたカドミウム(cadmium)を様々な経路から吸収し、それが腎に貯留し、腎尿細管障害を起こし、カルシウムとリンの尿中排泄の増加が関与しているものとされている。

但し、カドミウム単独中毒説を疑問視する意見もある。

カネミ油症

1968 年ライスオイル(rice oil:米糠油)の製造工程で熱媒体として使用されていたカネクロール400がライスオイル中に混入し、福岡県、長崎県を中心に西日本一帯でこれを摂食したヒトに発生した。ざ瘡様皮疹を主徴とする中毒症である。汚染ライスオイル中にはポリ塩化ビフェニル(polychlorinated biphenyl;PCB)に合わせてPCBの熱変化物であるポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、ポリ塩化クォータフェニル、ポリ塩化クォータフェニルエーテルが含まれており、カネクロール400の主成分であるPCBとこれらの熱変化物により本中毒症が形成されたと考えられている。

臨床上、顔面、殿部などのざ瘡様皮疹、色素沈着、眼脂過多などが特徴的所見であり、この他全身倦怠感、、四肢のパレステジア、腹痛などを呈する。

また皮膚にメラニン沈着をきたした新生児や低出生体重児の誕生、小児の成長抑制、永久歯の萌出遅延などの影響も認められている。

PCBやPCDFの排泄促進を目的とした絶食療法や吸着剤の経口投与のほか、対症療法として肝庇護薬(解毒薬)や脂質代謝改善薬などの投与が試みられているが、PCBの化学的特性のため、根治は困難である。

クロロキン網膜症

クロロキン製剤を長期間(多くは1年以上)使用することにより起こる網膜障害で、発生頻度は約2%である。初期には黄斑を取り囲むドーナツ型の萎縮病巣 (標的黄斑病巣、Bull’s eye lesion)、中心暗点、輪状暗点が出現し、進行すると網膜全体が粗造となり、動脈も狭細化し、無色素性網膜色素変性症様の眼底像、求心性視野狭窄、色覚・暗順応障害をきたす。

網膜症(retinopathy)は一端発症すると回復し難く、投薬を中止しても進行し続ける例もある。

クロロキン網膜症は社会的に薬害事件として知られている。

医原病の一つ。

解熱剤・抗生物質筋注による筋拘縮症

筋肉が繊維化し、伸展性を失うために生ずる疾患。先天的に部分的あるいは全身的に筋拘縮現象を認めることもあるが、大部分は後天性で、乳児期に注射を受けたために発症する。

筋拘縮現象を発現しやすい薬剤はpHや浸透圧が生体と大きく異なるものが多く、またその注射容量とも関係する。未熟な筋肉内に注射しても筋拘縮を起こしやすい。

注射によって筋拘縮を起こした場合は、注射部位に陥凹を認めたり索状硬結を触れたりする。後天性筋拘縮症の発生部位は、大腿四頭筋、殿筋、肩三角筋が代表的である。

我が国では一部地域に集中多発した事例がある。

コラルジル肝障害

冠拡張剤『コラルジル』による肝障害→長期にわたり服用することにより肝臓・血液等の全身細胞に異常なリン脂質やコラルジルそのものが蓄積し細胞を破壊する。1963年本邦発売。1965年血液学者の間で「泡沫細胞症候群」とする珍しい病気が話題。

1969年頃から肝臓病の分野で「リン脂質脂肪肝」とする新たな病名が報告。

1970年11月動物実験の結果、コラルジルによる副作用に起因する同一疾患であると確認。

サリドマイド胎芽病

サリドマイド剤を含んだ、催眠薬及び胃腸薬を服用した母親から出生した胎児に起こった特徴ある形態形成障害。この薬剤は我が国では 1958年(昭和33年)?1962年(昭和37年)9月まで市場にあった。

薬剤の過敏期は最終月経後34?50日であり、症状は無肢症から母指球筋低形成までの種々の程度の四肢欠損、なかでも海豹肢症(アザラシ肢症)及び無耳症や難聴などの頭部領域の障害を認めるが、内臓などの異常もある。

我が国における患者数は309名で、全世界では7000名と推定されている。

スモン(SMON)

亜急性脊髄視神経ニューロパシー(subacute myelo-optico-neuropathy)の英文の頭文字をとった病名。その本体は整腸薬として使用されたキノホルム(chin-oform)の副作用による中毒性神経障害と考えられている。

1955年頃から各地に発生し始め、1970年にキノホルムの使用が禁止されるまで約1万人が罹患した我が国最大の薬害である。

諸外国からの報告は希である。臨床症状は、下痢・便秘・腹痛などの腹部症状が先行し、引き続き急性あるいは亜急性に下肢にジンジンした耐え難いしびれ感と感覚障害が出現し上行する。

併せて他の脊髄症状(痙性麻痺、腱反射亢進、バビンスキー徴候、膀胱直腸障害)と視神経障害(視力低下、失明)を伴うことが多く、意識障害や痙攣などの脳症状が出現することがある。

主病変は脊髄後根神経節、後索、側索、視神経、末梢神経に及ぶ。

キノホルム使用禁止以後は新規の発生はないが、有効な治療法がないため、今なお多くの患者が後遺症に苦しんでいる。医原病の一つである。

非加熱製剤によるエイズ

AIDS (エイズ):ヒトレトロウイルス(human retrovirus)の一種であるレンチウイルス科(Lentiviridas)のHIV(human immunodefiency virus;ヒト免疫不全ウイルス)感染症の終末像であり、細胞性免疫が荒廃し、種々の日和見感染症や悪性腫瘍、HIV脳症(HIV encephalopathy)が生じてきた病態を指す。現在、HIVにはHIV-1とHIV-2の二種のsubtypeの存在が認知されている。

AIDSは1981年アメリカの男性同性愛者や麻薬常用者に認められる特異な疾患として報告されたが、現在ではSTD(性交渉感染症)として認識されている。

我が国では、1996年血友病患者に投与した輸入非加熱血液製剤中にHIV混入があり、血友病患者の多くにHIV感染が生じる悲劇が生じているが、これは我が国医学界における体質的な問題に起因する部分が多い。

HIV感染の感染経路としては

[1]性交渉

[2]輸血(血液)

[3]血液製剤

[4]妊娠中の母子感染(垂直感染)

等があげられる。

慢性ヒ素中毒症
(ヒ素ミルク事件)

1955 年、乳質安定剤として用いられた第二リン酸ナトリウムに亜ヒ素が混入したことが原因でヒ素ミルク事件が発生し、患者総数約一万人以上、死者130人を出した。症状は経口的には、重篤な胃腸障害(腹痛、嘔吐)と頻脈を伴う。慢性中毒は色素沈着症、角化症、多発性神経炎、気管支肺疾患、末梢循環障害などの症状がでる。

水俣病

1953年~1960年にかけて、熊本県の不知火海水俣湾周辺の住民に発生した。当初、錐体外路症状を主とした原因不明の病気とされていたが、熊本大学研究班によりメチル水銀(methylmercury)による中毒であることが判明した。

工場排水に含まれたメチル水銀が、食物連鎖(food chain)により魚介類中に濃縮され、それを長期間摂食した主に漁民に多発した。

症状ははじめ四肢末端、口周のしびれ感より、表在及び深部知覚異常、求心性視野狭窄、運動失調、言語障害など、いわゆるハンター・ラッセル症候群(Hunter-Russell syndrome)を主症状とする。

急性激症型、慢性強直型はほとんど死亡し、慢性刺激型は重症例が多い。

更に患者は多量にメチル水銀を摂取した母胎より胎盤を通過し胎児に蓄積し、産まれた子供にも脳性小児麻痺様の胎児性水俣病として発生した。

第二水俣病 1964年には新潟県阿賀野川流域においても水俣湾周辺同様なメチル水銀中毒(methylmercury poisoning)が発生しており、これを第二水俣病といっている。

 

[1998.8.24.古泉秀夫]


  1. 南山堂医学大辞典,1998
  2. 曽田 長宗・編:薬害;講談社サイエンティフィク,1981.p.467

牡蠣肉の効用

水曜日, 1月 2nd, 2008

KW:漢方薬・健康食品・牡蠣・oyster・ボレイ・含有成分・亜鉛欠乏症・銅欠乏症

 

Q:牡蠣の効用について

A:牡蠣(oyster)の食品成分分析結果として次の報告がされている(可食部100g当たり含有量/生)。

エネルギー 水分 蛋白質 脂質 灰分
78kcal 81.9g 9.7g 1.8g 1.6g
炭水化物
糖質 繊維
5.0 0
無機質
Ca P Fe Na K Mg Zn Cu
55mg 130mg 3.6mg 280mg 230mg 70mg 40,000μg 3,500μg
ビタミンA ビタミン(mg)
レチノール カロチン A効力 E効力 D B1 B2 B6 B12 K ナイアシン C
7μg 55μg 55IU 1.2 0 0.16 0.32 0.09 38.9μg 0 2.0 4
コレステロール 食塩相当量
50mg 0.7g

 

食品としての牡蠣の特徴は、その可食部100g中に40mgの亜鉛(Zn)及び3.5mgの銅を含有するということである。

その他、牡蛎肉(ボレイニク)として漢方薬での使用が報告されている。 イタボガキ科の動物。近江牡蛎等の肉。

成分]:近江牡蛎と大連湾牡蛎は、グリコーゲン63.5%、タウリン1.3%、10種の必須アミノ酸1.3%、無機塩(銅、亜鉛、マンガン、バリウム、リン、カルシウム)17.6%、グルタチオン、ビタミンA・B1・B2・D及びF(リノレン酸とリノール酸)を含む。

ヨード 1?11.53ppm(乾燥重量)を含む。脂質中に一種の糖脂質を含み、この糖は2分子グルコースと1分子フコースで構成されている。他に一種のスフィンゴリピドがあり、糖(グルコース、アラビノース、フコース)22.0%、ヘキソサミン7.26%、メチルペントース10.45%、リン0.47%を含む。別の報告によると長牡蛎の脂質中にステロールを含み、この水素化物はブラシカステロールに似ている。

亜鉛の体内における生理作用について、次の報告がされている。

無機質 人体の所在 生理作用 欠乏症状 含有食品
亜鉛

成人体内に約2g含まれる。皮膚・硝子体・前立腺・肝臓・腎臓に多い。インスリン構成元素

炭酸脱水素酵素・乳酸脱水素酵素等の成分である。核酸、蛋白質の合成に関与

充分に成長しない。 皮膚障害、味覚障害

皮膚障害、味覚障害 魚介類、獣鳥鯨肉類、牛乳、玄米、糠、豆、木の実

成人の体内に約0.1g含まれる。筋肉・骨・肝臓に多い。

骨髄でヘモグロビンを作るとき鉄の利用をよくする。腸管からの鉄の吸収を助ける。

ヘモグロビンの成分が減少し、貧血になる。骨折・変形を起こす。

肝臓(牛)

 

<亜鉛の欠乏>:亜鉛はRNAとDNAの合成を受け持つ酵素を含む 100以上の酵素の構成要素であることから、身体に広く存在する。亜鉛含有量が最も高い組織は、骨、肝臓、前立腺と精巣である。亜鉛の血中レベルは食事に含まれる亜鉛の量に依存する。肉、レバー、魚介類は豊富な亜鉛源であるが、穀類はそうではない。

全粒穀類のシリアル(siriar:穀物)には、亜鉛の吸収を抑制する繊維やリン酸塩などの物質が含まれる。一部のヒトが習慣的に食べるクレー(cray:粘土)は、亜鉛の吸収を抑制し、亜鉛の欠乏を惹起する。亜鉛を吸収できない遺伝性疾患である腸性先端皮膚炎も亜鉛の欠乏を引き起こす。

症状としては食欲不振、脱毛、皮膚炎、夜盲症、味覚障害がある。生殖器官の活動は損なわれ、その結果として性的発達の遅れ、男子では精子産生の低下が起こる。成長も遅くなることがある。身体の免疫系と傷の治癒力が害される場合がある。小児におけるこの欠乏症の初期徴候は、発育遅延、食欲不振、味覚障害、及び毛髪中の亜鉛量の低下である。

健康な成人による亜鉛の食事性摂取量は6?15mg/日で、おおよそ20%を吸収する。

<銅の欠乏>:銅はエネルギー産生、抗酸化、ホルモンであるアドレナリンの合成及び結合組織の形成に必要な様々な酵素の構成要素である。銅の欠乏症は健康なヒトには稀である。早産児、あるいは重度の栄養不良から回復中の乳児に最も一般的に生じる。長期にわたり静脈内(非経口)栄養補給を受けているヒトも銅が欠乏する危険に曝されている。殆ど毎日の食事に2 ?3mgの銅が含まれているが、そのうち約半分しか吸収されない。代謝に必要な量より多く吸収された銅は全て胆汁から排泄される。

以上の報告から特に最近若年子女に増加傾向が見られるとする味覚障害の予防あるいは薬剤の副作用として亜鉛キレート能に起因する味覚障害の発現が報告されているが、その予防等に役立つことが推定される。その他、最も大量に含まれるグリコーゲン(glycogen:糖源)は、動物に見られるグルコースを構成糖とする多糖であり、生体維持にとって重要な役割を果たしている。またタウリン(taurine)は、生体において肝臓、筋肉に多く存在するとされるが、肝機能の強化に重要であるとされている。

 

[015.9OYS:2000.6.29.古泉秀夫]


  1. 香川芳子・監修:四訂食品成分表;女子栄養大学出版部,1999
  2. 福島雅典・総監修:メルクマニュアル 第17版 日本語版;日経BP社,1999
  3. 福島雅典・総監修:メルクマニュアル 医学情報[家庭版];日経BP社,1999
  4. 上海科学技術出版社・編:中薬大辞典;小学館,1998

カリウム含有量の多い食品

水曜日, 1月 2nd, 2008

KW:薬物療法・副作用防止・低カリウム血症・カリウム含有食品・potassium・K・カリウム

 

Q:薬剤性低カリウム血症の予防目的で補食指示をしたい。カリウム含有量の多い食品の一覧はないか。

A:カリウム(potassium)含有量の多い食品として、次の食品がある(可食部100g当たりmg)。

 

食品名 含有量 食品名 含有量 食品名 含有量
米糠 1800 田作り 1300 乾燥バナナ 1200
ポテトチップス 1200 黒砂糖 1100 薩摩芋(千切り) 1000
グレープフルーツ(濃縮果汁) 950 干し柿 820 畳鰯 790
干しぶどう 740 温州蜜柑(濃縮果汁) 670 芋花林糖 550
茹で栗 500 薩摩芋(焼き) 490 バナナ 390
オートミル 360 薩摩芋(蒸し) 320 キウイ 320

 

上表以外にカリウム(potassium)含有量の多い食品として、キビ玄穀(1200mg)、小麦胚芽(1100mg)、蒟蒻-精粉 (2900mg)、薩摩芋-芋粉(1200mg)、乾燥マッシュポテト(1200mg)、蓮の実- 成熟味付(1100mg)、ピスタチオ-煎り味付(1100mg)、きな粉(1900mg)、寺納豆(1000mg)、煮干し(1000mg)等が報告されている。

そのほか、小豆全粒の乾燥品では1,500mg/100gのpotassiumが含有すると報告されているが、小豆全粒を茹でた場合、 460mg/100gにpotassiumの含有量は低下している。

また、茹で小豆の缶詰では160mg/100gに低下しており、水に溶け易い性質を有するpotassiumが煮汁等に溶出した結果ではないかと考えられるが、煮汁中のpotassiumの測定値は報告されていない。

同様に、ささげ全粒の乾燥品では1,400mg/100g含まれるpotassiumが、ささげ全粒を茹でた場合、potassiumの含有量は、400mg/100gと報告されている。

なお、カリウム含有量の多い食品の中には、ナトリウム含有量の多い食品も含まれているので、患者に説明する場合、医師から食事制限の指示がされていないことを確認することが必要である。

[035.1POT:2000.5.24.古泉秀夫]


  1. 香川芳子・監修:四訂食品成分表;女子栄養大学出版部,1999
  2. 第十三改正日本薬局方解説書;広川書店,1996

緩下剤と制酸剤の相互作用

火曜日, 1月 1st, 2008

KW:相互作用・緩下剤・制酸剤・フェノール系緩下薬・アントラキノン誘導体・sodium picosulfate・bisacodyl

 

Q:大腸刺激性下剤(アントラキノン系誘導体、ビサコジル、ピコスルファートナトリウム)と制酸剤との相互作用

A: 各緩下剤の特性は次の通り報告されている。

一般名

sodium picosulfate

bisacodyl

powderd rhubarb

商品名
(会社名)

ラキソベロン錠(帝 人)

テレミンソフト坐薬(日本ヘキサル)

大黄末(各社)

性状

本品は白色の結晶性の粉末で、臭い及び味はない。本品は水に極めて溶け易く、メタノールにやや溶け易く、エタノール(99.5)に溶け難く、ジエチルエーテルに殆ど溶けない。

本品は光りにより徐々に着色する。本品1.0gを水20mLに溶かした液のpH は7.4-9.4。

bisacodyl
本品は白色の結晶性の粉末である。本品は酢酸(100)に溶け易く、アセトンにやや溶け易く、エタノール(95)又はジエチルエーテルに溶け難く、水に殆ど溶けない。

本品は希塩酸に溶ける。

本品は換算した生薬の乾燥物に対し、sennoside A 0.25%以上を含む。本品は褐色を呈し、特異な臭いがあり、味は僅かに渋くて苦い。

噛めば細かい砂を噛むような感じがあり、唾液を黄色く染める。

来歴

フェノール系緩下薬の緩下作用と胃腸への刺激性も、本質的にはその構造中の遊離水酸基に基づくものであるという観点からビサコジルのアセチル基を硫酸エステル基に変えた水溶性の物質が本品である。*フェノールスルホン酸-ピリジン系。

本薬は1953年に開発された坐剤用緩下剤である。
*フェノール酢酸-ピリジン系。
神農本草経の下品に収録されている。現在でも漢方の要薬であり、緩下薬として多量消費されている。
薬効・薬理

胃、小腸では殆ど吸収されず、大腸の蠕動運動を亢進させ、緩和な瀉下作用を示す。経口投与後殆ど吸収されることなく大腸部位にそのまま到達した後、大腸細菌叢由来のアリルスルファターゼにより加水分解され活性型のジフェノール体が生じ、本物質が大腸粘膜を刺激し、蠕動運動を亢進させるとともに、水分吸収を阻害することにより緩下作用が発現する。

一部吸収されたものはジフェノール体として胆汁中に排泄されるが、同様に大腸部位で局所的に作用すると考えられている。

刺激性の緩下作用を示す。結腸・直腸粘膜の副交感神経末端に作用して蠕動を高め、また腸粘膜への直接作用により排便反射を刺激する。更に結腸腔内における水分や電解質の吸収を抑制するが、これは腸管のNa+、K+-ATPaseの抑制作用によると考えられている。

直腸坐薬とすれば15-60分以内に作用が発現し、効力はフェノールフタレインの約5倍強力である。

薬効成分はsennoside A、B、C、D、E、F及びrheinoside A、B、C、D等である。主瀉下成分のsennoside Aは胃腸で吸収されず、大腸で腸内細菌によりrhein anthroneに加水分解されて瀉下作用を示す。

なお遊離型のアントラキノン誘導体のrhein、emodin、aloe-emodin、 chrysophanol、physcionには実際上瀉下作用は認められない。

相互作用 制酸剤との相互作用-特に報告無し。 制酸剤との相互作用-特に報告無し。 制酸薬-酸化マグネシウムがアルカリ性のためセンナ、大黄と配合すると次第に赤褐色に変わる。変色しても無害で薬効に影響がない。

上表を見る通りphenol系緩下薬である『sodium picosulfate・bisacodyl』については制酸剤との相互作用は何等報告されていない。アントラキノン誘導体を含有する『powderd rhubarb』は、制酸薬(magnesium oxide)との配合で、変色することは事実であるが、従来から薬効に変化はないとして、薬袋等に注意事項を押印することはあっても併用回避の処置はとっていない。 今回の患者の質問が何に依拠してのことが不明であるが、質問の根拠を確認されたい。

[015.2.BIS:2004.2.3.古泉秀夫]


  1. 第十四改正日本薬局方解説書;広川書店,2001
  2. テレミンソフト坐薬1号添付文書,2002.2.改訂
  3. センナリド錠添付文書,2002.7.改訂
  4. ラキソベロン錠添付文書,2002.6.改訂 5)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004

カルキについて

火曜日, 1月 1st, 2008

KW:語彙解釈・カルキ・さらし粉・Bleaching powder・漂白粉・クロルカルキ・クロル石灰・次亜塩素酸カルシウム

 

Q:カルキの名称で呼ばれる物質はどのようなものか

A:カルキとはさらし粉(Bleaching powder)の別名である。さらし粉の別名としては、この他に『漂白粉・クロルカルキ・クロル石灰・次亜塩素酸カルシウム』が報告されている。さらし粉の他に高度さらし粉がある。[局方収載]、[食添収載]。

さらし粉の英名としては『calcium chlorinated lime、[英]chlorinated lime、hypochlorite、calcium hypochlorite、 [独]chlorkalk、 [ラ]calx chlorinata』とする表記が見られる。

さらし粉は1798年にTennantが石灰水に塩素を通じ、液状の漂白剤 を作ったのが始まりで、1799年になって固形のさらし粉が市販され、Tennant氏漂白粉と称した。

さらし粉を定量するとき、有効塩素(Cl:35.45)30.0%以上を含む。本品は白色の粉末で、塩素のような臭いがある。本品に水を加えるとき、一部が溶け、液は赤色リトマス紙を青変(アルカリ性)し、次に徐々にこれを脱色(次亜塩素酸によって色素が酸化されて脱色)する。

さらし粉は湿潤状態におかれると、その活性塩素が殺菌作用を発現する。この殺菌には分解によって発生する有効塩素と発生機の塩素の何れか又は両者があずかると考えられている。0.2%のさらし粉の存在で栄養型細菌は5分くらいで死滅し、また20%では破傷風芽胞も10分間で殺菌する。また有効塩素として0.4-1.5%に相当するさらし粉で飲用水を処理すると、水中に存在する細菌の約90%が死ぬとされている。

尿・糞便・喀痰等の排泄物の殺菌には、約2%量を加え、掻き混ぜて1-2時間放置する。この他、伝染病患者の使用した器具や食器の消毒にも用いられるが、漂白作用があるので衣類等には適さない。その他、漂白剤、殺菌剤、消毒剤としてパルプ、綿糸布、麻糸布などの漂白、澱粉、果皮、油脂、セラックなどの漂白、上下水、井戸水、プールなどの殺菌に使用する。

  • 性状:白色粉末、吸湿性がある。強い塩素臭があり、酸で分解。有効塩素量 30-38%(さらし粉)、60-90%(高度さらし粉)。
  • 安定性:空気中の炭酸ガスの影響を受けて分解する。日光によって酸素と塩化 水素に分解し、塩化カルシウムと炭酸カルシウムになる。
  • 抗菌作用:全ての微生物に抗菌作用を示す。次亜塩素酸ナトリウムに準じた殺 菌効果を示す。

カルキの名称の由来は『独逸語名のchlorkalk(クロールカルキ)の略称であるとされている。カルキそのものの語源は、オランダ語の「kalk」が語源で、「石灰」という意味である。クロールカルキは、ドイツ語で「Chlorkalk(塩化石灰)」のことで、さらし粉を意味する』。

-参照-

生石灰の名称としてCalx Usta(Calx Ust.)のほか、次の名称が報告されている。

Calcium Oxide The National Fomulary
Quicklime The National Fomulary
Oxyde de calcium French Codex
Gebrannter Kalk German Pharmacopoeia

 

その他、焼石灰とする標記も見られる。また、石灰(英lime 仏 chaux 独Kalk)について、酸化カルシウム(生石灰)の通称。石灰石(石灰岩)を950-1100℃で焼いて製造する。広義には水酸化カルシウム(消石灰)、炭酸カルシウム(石灰石)を含めた意味に用いられるとする報告が見られる。

[615.8.KAL:2004.4.13. 古泉秀夫]


  1. 防菌防黴剤事典;日本防菌防黴学会,1986
  2. 志田正二・代表編:化学辞典 普及版;森北出版株式会社,1999
  3. 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
  4. 第十四改正日本薬局方解説書;広川書店,2001
  5. 岐阜県池田町ホームページ:http: //www.town.ikeda.gifu.jp/,2004.4.16.
  6. 第六改正日本薬局方注解;南江堂,1954
  7. 長倉三郎・他:岩波理化学辞典 第5版;岩波書店,1998

界面活性剤について

火曜日, 1月 1st, 2008

KW:語彙解釈・界面活性剤・surface active agent・surfactant・アニオン界面活性剤・カチオン界面活性剤・非イオン界面活性剤・両性イオン界面活性剤

 

Q:界面活性剤について

A:界面活性剤(surface active agent,surfactant)。

別名:表面活性剤。

溶液にしたとき、気-液、液-液又は固-液界面に吸着して界面の性質を著しく変化する性質。

界面活性の大きい物質で、分子中に親水性及び親油性の原子団を有する両親媒性物質である。

一般に、界面活性剤は洗浄力、分散力、乳化力、可溶化力、湿潤力、殺菌力、起泡力、浸透力等に優れ、種類、目的によって広範囲に応用されている。また界面活性剤は水溶液にした場合に、ある濃度以上でミセルを形成し、この濃度において表面張力、粘度、電氣伝導率などが著しく変化する。

界面活性剤の種別 概要

アニオン界面活性剤(anionic surfactant)

[用途]:洗浄剤・乳化剤・湿潤剤・染色助剤・浸透剤・精練剤・分散剤・起泡剤等として食品工業、繊維、化粧品等。

別名:陰イオン界面活性剤、陰イオン表面活性剤。水溶液中でイオンに解離し、界面活性を示す部分がアニオンになるような界面活性剤をいう。水溶液としたとき、洗浄、乳化、可溶化、分散などの活性を示す。[例]:普通石鹸、硫酸化油、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩等非常に多くある。

*N-アシル-N-メチルグリシン塩(N-acyl-N-methylglycin)、*アルキルスルホン酸ナトリウム(sodium alklsulfonate)、*アルキル硫酸ナトリウム(sodium alkylsulfate)、*ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩(polyoxyethylene alkyl ether carboxylate)、*ラウリル硫酸ナトリウム(sodium lauryl sulfate)、*脂肪酸石鹸(Soaps)等。

カチオン界面活性剤(cationic surfactant)

[用途]:顔料分散剤・帯電防止剤・金属防錆剤・染色助剤・沈降促進剤・浮遊選鉱・殺菌消毒剤等。

別名:陽イオン界面活性剤、陽イオン表面活性剤、逆性石鹸。水溶液でイオンに解離し、界面活性を示す原子団がカチオンとなる界面活性剤で、分子中に親水性原子団と親油性原子団を持っている両親媒性物質である。一般には耐アルカリ性の小さいものが多いが、耐酸性、耐硬水性が大きく、他のタイプの活性剤と同様に界面張力低下能、乳化力、分散力、起泡力、浸透力などに優れ、また陽荷電を持っていることから陰荷電を持つ物質、例えば金属表面、鉱石、顔料、染料、繊維、合成樹脂などに強く吸着して強力な吸着被膜を形成して、これらの物質表面を親油性にする性質を有する。[例]:アミン塩(アルキルアミン塩、アミド結合アミン塩、エステル結合アミン塩等)、第4級アンモニウム塩(アルキルアンモニウム塩、アミド結合アンモニウム塩、エステル結合アンモニウム塩、エーテル結合アンモニウム塩等)、ピリジニウム塩(アルキルピリジニウム塩、アミド結合ピリジニウム塩、エーテル結合ピリジニウム塩、エステル結合ピリジニウム塩等)等がある。

*塩化ベンザルコニウム(benzalkonium chloride)、塩化ベンゼトニウム(benzethonium chloride)、*脂肪族アミン塩(alkylamine salt)、*脂肪族4級アンモニウム塩(quaternary ammonium salt)等。

非イオン界面活性剤(nonionic surfactant)

[用途]:乳化剤・分散剤・精練剤・洗浄剤・湿潤剤・染色助剤として鉱油系添加物

及び食品工業等多方面に用いられる。

別名:非イオン表面活性剤。水溶液中でイオンに解離することなく界面活性を示す界面活性剤をいう。分子中に水酸基-OH、エーテル結合-O-、エステル基- COOR、酸アミド基-CONH2-等の親水性原子団とアルキル基やアルキルアリル基などの長鎖の親油性原子団とを有する。[例]:酸化エチレン系(アルキルアリルエーテル型、アルキルエーテル型、アルキルアミン型等)、多価アルコール脂肪酸エステル系(脂肪酸グリセリンエステル型、アンヒドロソルビトール脂肪酸エステル型など)、ポリエチレンイミン系及び脂肪酸アルキロールアミド系など非常に多くある。

*ポリオキシエチレン高級脂肪族アルコール(polyxyethylene higheraliphatic alcohols)、*ラウロマクロゴール(lauromacrogol)等。

両性イオン界面活性剤(amphoteric surfactant)

用途:殺菌・洗浄・キレート効果を利用。

カチオン界面活性剤とアニオン界面活性剤、非イオン界面活性剤とカチオン(又はアニオン)界面活性剤の組み合わせのように、2種類の性質を同時に備えた界面活性剤を指す。一般には陽イオンとなる基と陰イオンになる基を同一分子中に持っているものをいう。

陰イオンとなる部分としてカルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基、そして陽イオンとなる部分にアミノ基を持っているものが多い。

*塩化アルキルポリアミノエチルグリシン(alkylpolyaminoethylglycine hydrochloride)、アミノカルボン酸塩(aminocarboxylate)、アルキルアミンオキシド(alkylamine oxide)、イミダゾリニウムベタイン(imidazolinium betaine)、カルボキシベタイン型(carboxy betaine)等

 

[615.8.SUR:2005.6.13.古泉秀夫]


  1. 志田正二・代表編:化学辞典;森北出版,1999
  2. 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
  3. 高杉益充・編:改訂版 消毒剤-基礎知識と適正使用-;医薬ジャーナル社,1990
  4. 14303の化学商品;化学工業日報社,2003

肝炎ウイルス感染者の血液眼飛散による汚染時の処置

火曜日, 1月 1st, 2008

KW:滅菌・消毒・感染防御・肝炎ウイルス・血液眼飛散・血液汚染・眼飛沫・B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルス・HCV

 

Q:HCV感染患者の開腹術の際、誤って患者の血液が医師の眼に入ってしまったが、0.025%-ヒビテングルコネートを更に稀釈して洗浄することで感染防御可能か

 

A:ヒビテングルコネートの成分であるclorhexidine gluconateのvirusに対する殺virus効果については効力未定あるいは無効とする報告がされている。

現在、手術等の観血的処置を行う患者の場合、殆どの施設で前もって肝炎ウイルス等の検査を実施し、患者の感染の有無を確認していると考えられる。

その意味では、肝炎ウイルス等感染患者の手術等を行う際、患者血液による感染防御の方法として、術者が手術時ゴーグル等の眼飛沫感染防御の方策を講じることが第一である。更にB型肝炎ウイルスについては、予防注射を実施することが前提となる。

質問の事例は既にC型肝炎ウイルス感染患者の血液による飛沫汚染があった後であるため、原則として次の処置を行う。

  1. 流水による十分な洗眼を行う。
    消毒薬を使用するとすれば、evidenceはないが、povidone-iodineを使用する。
  2. povidone-iodineによる結膜嚢の洗浄・消毒に20-50倍稀釈イソジンを用いる。血液の付着・飛散による汚染に由来する発症率については、明確にされていないが、少なくとも注射針誤刺入による発症率よりも低いことが予測される。また、口腔・眼などの粘膜への付着・飛散による汚染の方が、創傷部位などの損傷皮膚の場合より発症率は低いと予測される。血液などが付着・飛散した場合、直ちに大量の水道水で洗浄することが重要である。創傷部位や粘膜に汚染血液が付着した場合、感染が成立するか否かは、virus量と接触時間が大きく関与すると考えられているからである。十分に流水で洗浄した後、念のために創傷部位はイソジン原液、眼や口腔は20 倍希釈液で消毒するの報告が見られる。

    従って、消毒剤による洗浄を検討するとすれば、virusに有効であるとされているpovidone-iodine製剤を用いる。povidone-iodineによる結膜嚢の洗浄・消毒には20-50倍稀釈イソジンを用いるとされているため、その濃度を参照する。

virus名 envelopeの有無 薬物感受性
B型肝炎ウイルス
[ヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae)]

*脂質に対して作用するエーテルや胆汁酸成分はvirusを失活させる。従ってenvelopeを持つvirusはエーテル感受性である。*envelopeを有するvirusは消毒薬に対して感受性である。多くのvirusは56℃・30分でcapsid(殻蛋白)蛋白質が変性して不活化される。エーテル、クロロホルム、フロロカーボン等の脂質溶剤により、envelopeを持つvirusは不活化される。

C型肝炎ウイルス

[フラビウイルス科(Flaviviridae)]

同上

    3.その他、B型肝炎ウイルスは比較的消毒剤抵抗性が強い。WHOはglutaralと次亜塩素酸ナトリウムを推奨しているが、アルコールやpovidone-iodineにも感染性不活化作用があり有効であるとする報告が見られる。

 

[615.28HCV.1994.2.21.古泉秀夫・1999.7.2.第1改訂・2005.9.28.第2改訂]


  1. 神谷 晃・他:消毒剤の選び方と使用上の留意点;薬業時報社,1992
  2. 尾家重治・他:B型肝炎・C型肝炎・エイズに関するQ&A;薬事35(6):1161(1993)
  3. 国立国際医療センター医薬品情報管理室・編:C型肝炎ウイルス汚染時の予防法;FAX.DI.News No.6(1991)
  4. 吉田眞一・他編:戸田新細菌学 改訂32版;南山堂,2002
  5. 小林寛伊・編:改訂消毒と滅菌のガイドライン;へるす出版,2004

局方ブドウ酒の入手法

火曜日, 1月 1st, 2008

KW:薬名検索・局方葡萄酒・葡萄酒・ブドウ酒・局方ハチブドウ酒

 

Q:局方ブドウ酒の入手法。また、製造中止されているとしたら何年に中止されたのか

 

A:日本薬局方に収載されていた「局方ブドウ酒」は、合同酒精[03(3575)2711]により「局方ハチブドウ酒」として製造販売されていたが、薬効再評価等の課題が生じたため、昭和57年には製造が中止された。

本品の製造が中止されて以後、国内での局方ブドウ酒の入手は困難な状況にあったが、現在、局方ブドウ酒について、中北薬品株式会社[名古屋市中区丸の内3-11-9][連絡先;中北薬品株式会社・島津工場TEL.0567(32)1431]において製造が再開され、平成4年2月を目途に市販の準備がされている。

本品は赤ブドウ酒で、他のブドウ酒との相違点として、有機酸の含有率が高いため、酸味が強く、甘味が抑えられているの報告がされている。アルコール度14%未満、酸化防止剤として亜流酸塩が添加されている。

効能効果及び用法用量として、一般に食欲増進・強化・興奮のために、又は下痢の時などに1食匙又は1酒杯ずつ与えるが、不眠症や無塩食事療法等に用いる。リモナーデ剤に加える場合も多い。

貯法は直射日光を避け、なるべく涼しいところ(15?25℃)に保存する。飲用適温は約20℃。薬価は10mL:23.80円。(1997.4.現在)。

尚、リモナーデの処方例として次の処方が紹介されている。

  赤酒リモナーデ 濃厚赤酒リモナーデ
希塩酸 0.5mL 0.5mL
ブドウ酒 10.0mL 6.5mL
単シロップ 10.0mL 8.0mL
精製水 適量 適量
全量 100.0mL 15.0mL

 

以上1日量1日3回

[714.FD18.615.11WI][1991.10.3.・1999.4.8.一部改訂.古泉秀夫]


  1. 合同酒精製造課・私信,1991
  2. 中北薬品株式会社・私信,1991
  3. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:FAX.DI-News,No.222,1991,12,16.より転載

強酸性水の消毒効果と適応部位

火曜日, 1月 1st, 2008

KW:滅菌・消毒・強酸性水・消毒効果・適応部位・強酸性電解水・強アルカリ電解水

 

Q:強酸性水を歯科、婦人科、内科の処置時に使用したいとの依頼があったが、現在判明している殺菌効果及び使用部位等について

 

A:強酸性水は、現在、消毒剤としての承認を得ておらず、消毒剤としての有効性も確立していないため、その適用範囲は自ずから限定されたものである。

現在、強酸性水の適応として公表されているのは、次表の通りである。

分野 強酸性電解水 強アルカリ電解水
農業・ゴルフ場

減農薬・育成促進

  • ハウス作物への散布 (減農薬)
  • 芝への散布 (減農薬)
  • 作物の成長促進
  • 土壌改良
 

衛生管理保全に/クリーンな環境作りに

食品・その他
  • 手洗い
  • 包丁・まな板・厨房器具の洗浄
  • 生鮮食品の洗浄(食品添加物としての使用はできません)
  • 器具・床・設備等の衛生保全
器具の前洗浄

 

強酸性電解水とは「水道水に食塩を微量添加し、電気分解して作られる水である。また、同時に強アルカリ電解水も作られる。

強酸性電解水には、除菌・抗菌作用が見られる。pH2.7以下、酸化還元電位+1100mV以上という厳しい環境を作り、更に溶存塩素(有効塩素:30?40ppm)と溶存酸素(20ppm以上)の存在が、除菌・抗菌作用に相加的に作用すると報告されている。

また、強酸性電解水は、pH2.5?2.7とかなり低値を示すが、pH値の低い(酸性)食品との比較では次表の通りである。

食品名

pH
(AGEC測定)

食品名

pH
(AGEC測定)

ポン酢 1.9 グレープフルーツ 3.1
味醂 2.1 甘夏蜜柑 3.1
レモン 2.1 柚ポン・味ポン 3.3
食酢 2.2 赤ワイン 3.5
コーラ 2.3 ヨーグルト 3.8
レモン果汁(100%) 2.3 ビール 4.1
*強酸性水 2.7 ウィスキー 4.2
フレンチドレッシング 2.8 日本酒 4.4
サイダー 3.1 醤油 4.4

 

有害微生物の除去・抑制効果

強酸性電解水は、pH 2.7以下、酸化還元電位+1100mV以上という、微生物が生存できない環境を作り出す。

本品はB.subtilis以外の菌については作用させた直後より強い除菌力を示した。耐久性の胞子状態にあるB.subtilisに対しては、除菌作用を示すには、10分以上の作用時間が必要であった。

その他、結核菌(M.tuberculosis)に対する除菌効果も弱く、ウイルスのうちエンベローブを持たないDNAウイルス;アデノウイルスには効果がないとする報告も見られる。

なお、強酸性電解水は、次亜塩素酸ソーダと同等以上の細菌の除去・抑制効果を持つことが確認されたとして、次の報告がされている。

本報告は初期個数20000?800万個の各種細菌が除去されるまでの所要時間の測定値を比較したものである。

菌株 強酸性水 次亜塩素酸ソーダ

塩素溶液(pH=2.6)

塩化ベンザルコニウム 水道水
大腸菌 30秒以内 30秒以内 24時間 30秒以内 2分
サルモネラ菌 30秒以内 30秒以内 24時間 30秒以内 2分
腸炎ビブリオ 30秒以内 30秒以内 30秒以内 30秒以内 30秒以内
MRSA 30秒以内 30秒以内 24時間 30秒以内 殺菌されず
カンジダ菌 30秒以内 5分 殺菌されず 10分 30分
ミズムシ菌 30秒以内 5分 殺菌されず ? 殺菌されず

 

安全性

 

強酸性電解水は、化学薬品・農薬と異なり残留性がなく、有機物や土壌に接触すると通常の水に変換する。強酸性電解水活性酸素と有効塩素は自然光(紫外線) や有機物に接触すると速やかに放電、分解し常水に変換する。また、次亜塩素酸ソーダに比較し、同等以上の除菌・抑制効果を示しながらトリハロメタン等の生成をより低い濃度に抑える等の報告がされている。

試験項目 試験法の概要 試験結果
眼刺激性試験 ウサギの眼に強制点眼後、検眼鏡で角膜、虹彩、結膜を観察する。 刺激性無し
単回経口投与試験 ラットに強制投与後、状態観察及び解剖 毒性無し
単回皮膚刺激試験

剃毛したウサギの背部に塗布後、状態観察

刺激性無し
反復皮膚刺激試験 剃毛したウサギの背部に繰返し塗布後、状態観察、病理検査を行う 刺激性無し
突然変異原性試験 (プレインキュベーション法):サルモネラ菌、大腸菌を用いて、変異コロニー数を数える。 陰性

[試験機関:(財)食品薬品安全センター]

 

安定性

 

強酸性電解水は、一般の化学薬品と異なり、薬物の残留性がない反面、その効果の持続は短く、保存管理に十分な配慮が必要である。特に有効塩素は揮発性がありまた光により分解を起こす。強酸性電解水は、密閉容器に入れ、暗所に保管することが必要である。

また、強酸性電解水による実際的な処理において、その被処理物が有機物である場合が殆どで、更に対象とされる菌株が脂質、蛋白質、炭水化物等の間隙に存在するため、試験管内テストの結果を直ちに再現し、完全に菌を除去・抑制することは困難である。本品の優れた特性を十分に活用するためには、適切な接触法、適切な処理時間、その他目的にあった処理技術の確立が重要である。

 

保存条件

 

  1. 遮光・気密容器に保存:約1カ月(溢れるほどに入れ蓋をする)
  2. 容器の蓋の開閉を繰返した場合:1?10日(開閉の回数が少ないほど長く保存ができる)
  3. 洗面器:約8時間(開放条件での保存は行わない)
分野 目的 用途
医療 病原体の感染予防(肝炎、エイズ、MRSA)

消毒(手洗い・咳嗽) 、床・壁・医療器具の洗滌

食品

サルモネラ菌等汚染防止

生鮮(カット野菜等)食品、食品加工洗滌

衛生管理

手洗い(寿司・ホテル) 、厨房(機器)洗滌

農業

減農薬植物栽培の病気予防土壌改良

野菜栽培(施設園芸)、ゴルフ場、ビニールハウス殺菌噴霧

健康 美容・理容 衛生維持
  衛生維持

便器の洗滌・消毒

以上の各報告から判断して、現状では、従来使用している消毒剤に代えて本品単独で消毒することは問題があると判断する。あくまで消毒剤による消毒の補助として、考えるべきである。

その他、提案されている強酸性電解水・強アルカリ電解水の使用法

強酸性電解水 強アルカリ電解水
調理用

*蕎麦・饂飩・スパゲティーの茹で水(こしが強くなる)*天麩羅の衣作(衣を溶く水に使うと、カラッと揚がる)*茹で卵(早く仕上がり、中身が飛び出さず殻が剥きやすくなる)

調理用

*御飯の炊き水(従来より水を少し減らす。時間が短縮でき、おいしく炊きあがる)*味噌汁(だしと味噌が少量ですみ、おいしくなる)*スープ(材料の味が一段と際だち、おいしくなる)*野菜の灰汁抜き(蕗、ほうれん草、蓬、ゼンマイ、蕨、牛蒡、玉葱等の灰汁抜き)*緑色野菜の茹がき加工飲料*お茶(タンニン酸が中和され、渋みが少なくなり、色が鮮やかで、香りが高い)

*コーヒー(まろやかで香りが高い。アイスコーヒーは特に苦みがなく味はまろやか)

*紅茶(色が鮮やかに出て、味をまろやかにする)

*ウイスキー(水割りに用いる。まろやかで口当たりがいい)

*製氷

[FD36.615.28ST][1995.12.28.・1999.9.1.一部修正.古泉 秀夫]


  1. OASYS BiOパンフレット:旭硝子エンジニアリング株式会社,1994.11.[〒290 千葉県市原市八幡海岸通り38]
  2. 強酸性イオン水技術資料:旭硝子エンジニアリング株式会社機能商品部,1993.10.1.
  3. 超酸化水:塩野義製薬株式会社,1994.3.
  4. 塩野義製薬株式会社社内資料,1994.3.
  5. 超酸化水生成関連装置の資料:塩野義製薬株式会社,1994.3.
  6. )国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:NHS.DI-News,No.1402,1996.10.21.より転載