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彼岸花(曼珠沙華)

金曜日, 10月 26th, 2007

                                                                        鬼城竜生

彼岸花の写真を撮りたいと、神奈川県大和市福田にある常泉寺を訪ねた。川崎から藤沢に出て、小田急江ノ島線で高座渋谷駅へ。駅の西口に出て、本来であれば新たな街が出来ていたと思われる駅前を、将来予定されている商店街を抜けて、右折すると電柱の所々に“花のお寺 常泉寺”の案内が見える。
IMG_001 訪れた2007年9月26日は門の建て直しの工事をしており、門前からの全体的な雰囲気を見ることは出来なかった。常泉寺は山号を“清流山”といい、宗旨は禅宗の曹洞宗であるという。本山は福井県の永平寺、横浜の総持寺で、創建は1588年(天正16年)だとされている。本尊は聖観世音菩薩だという。
花の寺というのは、「かながわ花の名所100選」に三椏(ミツマタ)の花が選定されているからであるというのは解るが、それ以外にも年間を通して四季折々の花が咲き、この時期の彼岸花も知られているようである。
しかし、境内に足を踏み入れると、先ず驚かされるのが色とりどりの河童が置かれていることである。そこで境内の御札所にいたおばさんに訊ねた。
「ここは禅寺ですよね。禅寺と河童はどんな関係があるんですか。凄い数が置かれているようですが」
「ここのお寺の境内には湧き水がわいています。その水が涸れないようにということで、住職が、水の神様である河童を置いたんです。最初は、極く僅かだったんですが、段々増えてきたんです」。
  しかし、入り口に立っている『花のお寺常泉寺』の案内をかねた石地蔵も明らかに河童  IMG_002 (写真参照)であり、境内には河童の七福神の石像が飾ってある等というところを見ると、相当意図的に集めまくっているということではなかろうか。最も、入り口で渡された簡単な案内書に、『御来寺の方の一人一人と接することの出来ない住職が、自分の替わりに』と境内に置いたものとのこと。兎に角大小取り混ぜて、目子算ではあるが、100体は超えているのではないかと思われた。勿論、河童だけではなく、立像や座像の地蔵もあちらこちらに置かれており、まかり間違えば、嫌みに見えるところを、そうならないところは、境内に緑が多く、更に種々の花が咲いている、例えば石の座像のそばに紫式部が咲いている等という配置のされ方が、雰囲気を醸しているということだろう。
ところでついでに覗いた御札所にも、河童の陶器の人形がお土産として置かれており、釣りをしている河童の人形を見かけたため、ついつい購入してしまった。最近は専ら梟の人形を集めており、河童を手に入れる筋合いはなかったが、釣りをしているというもう一方の要素で、つい購入してしまったということである。
さて本題の彼岸花(曼珠沙華)の方だが、白と赤の彼岸花が咲いていた。しかし、時期的には白が先に咲き、赤が後からということからすると、白と赤が同時に満開になることはないようである。白が開いた後に、赤がぼちぼちと開き初めるということで、赤が満開になる時には、白は最早見るに堪えない状態になっているということのようである。事実、今回も白の花が目立つ割に、赤は蕾の部分が多く、庭の一部では白と赤が混在して、手頃に花を咲かせているという場所も見られたが、そのような場所でも白がやや優勢で、赤は少々遠慮しているという様子が見られた。

IMG_003 *彼岸花(曼珠沙華)、Lycoris radiata Herb.ヒガンバナ科ヒガンバナ属。英名:red spider lily(赤い蜘蛛百合)。名称は秋の彼岸の頃に花が咲くのによる。日本各地及び中国に分布。堤防や道端、墓地など人気のあるところに生える多年草。秋の葉のない時には地下の鱗茎から高さ30cmの花茎1本を出し、数花を輪状に開花する。花被片6は細長く外側に反る。雄しべ6と雌しべが長く出て同色、結実しない。花後に葉を束生して翌3月に枯れる。有毒。毒成分はlycorinという植物alkaloid。中国渡来説もある。彼岸花の球根には良質の澱粉が含まれ、飢餓の時にはこの澱粉が食用にされたため、あちこちに植えられたという。しかし、球根の澱粉をそのまま食べると嘔吐や下痢を起こす。
曼珠沙華という名称は『天上に咲く実在しない架空の花』ということであるとされている。因みに種小名のradiataは『放射線状の』という意味であり、花の開いた様を示している。
ところで彼岸花に蝉の抜け殻が付いている写真は、別に抜け殻を持参して撮った訳ではない。偶然、境内の彼岸花に蝉の抜け殻が付いているのを見つけて写しただけである。ただこの時期に脱皮する蝉は何蝉かを考えた場合、抜け殻の大きさからは油蝉とも思われるが、如何に厳しい残暑続きの夏の終わりとはいえ、油蝉がいるかという点ではよく分からない。しかし、抜け殻の状態は良好であり、そう先に抜け出したものではないと思われるので、あるいは油蝉が時期を間違えて出てきてしまったということかもしれない。

1)牧野富太郎:原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版1;北隆館,2003
2)海老原昭夫・編著:知っておきたい毒の知識;薬事日報社,2001

                                                                  (2007.9.29.)

薬局苦情拾遺[5]

木曜日, 10月 18th, 2007

医薬品情報21

古泉秀夫

9)苦情の種の説明書

今、2カ月に1回医師の診察を受けている。当然、その都度薬が出るが、その薬の説明書なるものは、次の通りである。

*なまえ、効能・効果:ユベラカプセル100mg 血行をよくする薬です。コレステロールを下げる薬。

*用法・用量:朝1・昼1・夕1  毎食後1日3回上記量

*色・型、記号:紅/白色・Cap

*注意事項:

◆発疹・かゆみ等の過敏症が現れた時は服用を中止し、医師か薬剤師に相談して下さい。◆この薬は食後に飲んで下さい。空腹時では吸収がよくありません。また、効果が現れるまである期間を要しますので、根気よく続けて下さい。

◆光の当たらない涼しいところに、湿気を避けて保管して下さい。

*なまえ、効能・効果:ペリシット錠250mg 血行障害を改善する薬です。コレステロールを下げる薬です。

*用法・用量:朝1・昼1・夕1  毎食後1日3回上記量

*色・型、記号:フィルムコート錠、白色 錠剤写真付き 識別器号:Sc 207

*注意事項:

◆飲み合わせに注意が必要な薬があります。他の医療機関で診察を受けたり、薬局で薬を購入する際には、この文書を見せてください。

◆発疹・かゆみ等の過敏症や、気になる症状が現れた時は服用を中止し、医師か薬剤師に相談してください。

◆病状を把握するため、また副作用の有無を知るためにも、決められた検査は必ず受けてください。

これは高脂血症(脂質代謝異常症)の治療目的で出されている薬である。本来はstatin剤の投与が主体となるべきはずであるが、体質的に合わないため、筋肉痛とmyoglobin尿が見られ、statin剤のどれに変えても結果は同じで、やむを得ずユベラニコチネート6Cap.の服用に変更したが、期待したほど数値は下がらず、ペリシット錠を追加投与すると共にユベラニコチネートは3Cap.に減量された。

この組み合わせの処方については、既に2回もらっているが、説明書は2回とも同じである。調剤薬を受け取る度に、お仕着せの同じ文書を提示して『薬剤服用歴管理料』を患者から取るというのでは、薬剤師が批判されても仕方がない。それぞれの薬の添付文書には、上記以外にも多くの情報が記載されている。それらを少しずつ付け加えるか、二回目以降は、少しずつ内容を変える等の工夫をすることが必要ではないか。

更に慢性疾患の場合、患者にすれば何時まで服まなければならないのかという思いが先だって薬を服むのに飽きる。死ぬまで服まなければならないのなら飽きさせないための情報提供が必要ではないか。更に薬と薬の相互作用のみならず『いわゆる健康食品』との相互作用、『明らか食品』との相互作用等、提供する情報はいくらでもあるはずである。

余所で作った文書のソフトを買い取って、CPに登録し、患者名と薬の名前を入力すれば印字されるなどという安易な説明書の出し方をしているうちに、『薬剤服用歴管理料』は廃止するなどということになりかねない。第一薬を調剤するということの意味は、この情報を提供するところまでやるから『調剤料』が付くのであって、むしろ両者は一本化した方がいいような気がするのである。

また、単なる流行りものとは思いたくないが、『顔の見える薬剤師』なる言葉を頻繁に耳にする。従来は医師や看護師の陰に隠れて目立たなかった薬剤師が、表に出ようと決意したということのようであるが、薬に係わる事故が発生した場合、全面的に薬剤師が受けるという決意も合わせて考えているということなのであろうか。もしそうだとすると、この程度の説明書で満足していたのでは、甚だ危ういことになると思うのは思い過ぎであろうか。

最近の薬の副作用に関する裁判で、特に『極く稀な重篤な副作用の発現事例』についての判例では、薬剤師法第25条の2に関係する『投薬時の説明義務の実効性については疑問』があるとされ、『経過観察の予見・回避義務の重視』という判断に重点が置かれているという。つまり予兆の発見(副作用の前駆症状)と早期発見・適切な治療義務(患者自身が前駆症状を理解することの出来る説明と早い段階での医師の受診)が医療側に課されれているということのようである。

つまり現在調剤薬局で患者に渡している文書は、この基準に照らして十分機能しているいえるのかどうかということである。

10)調剤基本料の差

H18.10.17.「調剤基本料の差について」(患者・電話)

コレステロールを下げる薬を4週間毎に薬局でもらっている。薬局によって1680円のところと1770円のところがあった。明細の分かる領収書を出してもらったら、調剤基本料が42点と72点で違っており、3割負担なのでこの差が料金の差であることが解った。薬局で調剤基本料について尋ねたら、有限会社と株式会社で違うとのこと。よく分からないので教えて欲しい。

[事務局対応]調剤基本料について説明。一応ご理解いただくが「患者にとっては関係ない話である」との感想を受ける[薬事新報,No.2490:968(2007Z9]。

1点が10円であるから、42点なら420円、72点なら720円で、1,680円とか1,770円ということであれば、その他の金額が含まれているということである。

有限会社と株式会社の違いという薬剤師の説明は、業界人にしか解らない駄洒落的な回答であり、患者に対する説明としては、面白味のない話ということになる。

調剤基本料(処方せんの受付1回につき)  42点

注1.処方せんの受付回数が1月に4,000回を超える保険薬局(特定の保険医療機関(特定承認保険医療機関を含む。以下この表において同じ。)に係わる処方せんによる調剤の割合が70%を超えるものに限る。)においては所定点数に係わらず処方せん受付1回につき19点を算定する。

2.別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方社会保険事務局長に届け出た保険薬局において調剤した場合は、当該基準に係わる区分に従い、次に掲げる点数をそれぞれ所定点数に加算する。

.基準調剤加算1 10点

ロ.基準調剤加算2 30点

3.長期投薬(14日分を超える投薬をいう。以下同じ。)に係わる処方せん受付において、薬剤の保存が困難であること等の理由により分割して調剤を行った場合、当該処方せんに基づく当該保険薬局における2回目以降の調剤については、1分割調剤につき5点を算定する。なお、当該調剤においては第2節薬学管理料は算定できない。

等の規定が定められている。

調剤基本料の違いは、原則的には門前薬局と市中薬局との違いであるといえる。病院の門前に薬局を開設して、その病院の処方せんを専ら調剤する薬局は、調剤基本料として『19点』ということになっている。門前薬局の多くは、幾つもの薬局を各病院の門前に開設し、株式会社として経営されている。一方、市中薬局は、個人経営が多く、株式会社ではなく有限会社という形式が多いということで、患者にはよく分からない説明になったと思われる。また『施設基準』についても、点数の差は、門前薬局と市中薬局の違いとして区分されている。

この仕組みを患者の側から見れば、ますます門前薬局に処方せんが集中する仕組みとしか見えないが、厚生労働省としても、門前薬局の扱いに苦慮していることの発露かもしれない。資本が大きくなって、大量に薬を使用する状況になれば、当然、薬の価格についても注文を付けるようになり、厚生労働省が定める薬価基準が建前の基準になりかねない。何事も規制緩和ばやりで、門前薬局を規制し、市中薬局を拡大する方策はない。

尚、『施設基準』については、次の事項が定められている(一部抜粋)。

*基準調剤とは、医療用医薬品だけでなく、一般用医薬品等についての薬剤服用歴管理も行っている等の厚生労働大臣の定める基準に適合しているものとして地方社会保険事務局長に届出を行った薬局で行われる調剤をいう。

基準調剤加算1

(1)保険調剤に係わる医薬品として500品目以上の医薬品を備蓄している。

(2)保険薬剤師は、調剤に係わる医薬品以外の医薬品に関するものを含め、患者毎に薬剤服用歴管理記録を作成し、必要な薬学的管理を行い、調剤の都度必要事項を記入すると共に、当該記録に基づき、当該薬剤の服用及び保管取扱いの注意に関し必要な指導を行っている。

(3)緊急時等の開局時間以外の時間における調剤に対応できる体制が整備されている(以下略)。

(4)基準調剤加算を算定する保険薬局は、時間外、休日、夜間における調剤応需が可能な保険薬局の所在地、名称、及び直接連絡が取れる連絡先電話番号等を記載した文書(これらの事項が薬袋に記載されている場合も含む)を原則として初回の処方せん受付時に患者又はその家族等に交付すると共に、同様の事項を薬局の外側の見えやすい場所に掲示する。

(5)当該保険薬局は、地方社会保険事務局長に対して在宅患者訪問薬剤管理指導を行う旨の届出を行い、在宅患者に対する薬剤管理及び指導が可能な体制を整備している。

(6)

(7)次に掲げる情報(当該保険薬局において処方された医薬品に係わるものに限る。)を随時提供できる体制にある。

ア.一般名

イ.剤型

ウ.規格

エ.内服薬にあっては製剤の特徴(普通製剤、腸溶性製剤、徐放性製剤等)

オ.医薬品緊急安全性情報

カ.医薬品・医療機器等安全性情報

(8)(7)に掲げる情報を入手ための手段(連絡方法及び連絡先等)を当該保険薬局の外側の見えやすい場所に掲示する。

基準調剤加算2

(1)保険調剤に係わる医薬品として700品目以上の医薬品を備蓄している。

(2)処方せんの受付回数が1月に600回を超える保険薬局については、当該保険薬局の調剤に係わる処方せんのうち、特定の保険医療機関(特定承認保険医療機関を含む。以下同じ。)に係わるものの割合が70%以下である。

(3)略

(4)麻薬及び向精神薬取締法第3条の規定による麻薬小売業者の免許を取得し、必要な指導を行うことが出来る。

(5)1の(2)から(8)までの基準を満たしている

1)日本薬剤師会・編:保険薬局業務指針2006年版;薬事日報社,2006

(2007.9.24.)

『ハンセン病療養所』

木曜日, 10月 18th, 2007

? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? 魍魎亭主人

 8月21日(火曜日)豊島公会堂で『ハンセン病療養所のあしたをひらく市民の集い』なるものがあって参加してきた。

 2001年ハンセン病国賠償訴訟熊本地裁判決における和解合意に基づき、第三者機関として設置された『ハンセン病問題検証会議』が、2年半に渡り検証事業を行い、2005年3月厚生労働大臣に報告書を提出した。このような流れを見ると我が国のハンセン病対策は、着々と進行しているように見えるが、この会に参加して報告を聞いていると、何も終わっていないということに改めて気付かされる。

 現在、全国のハンセン病療養所の入所者は2,890人(2007年5月1日現在)に減少しており、入所者の平均年齢も79歳に達したとされる。10年後には3分の1以下に激減することが推定されるとされており、療養所の存立そのものが危うくなる状況にあるとされている。

 現にハンセン病療養所では、退職後の医師の採用が困難で、国の医療機関でありながら内科医がいない療養所も出てきているとされる。つまり入所者の減少と共に、近い将来医療機関として維持できなくなるのではないかという心配が入所者の中に出てきている。このような入所者の不安を解消するため、将来の療養所の在り方を明確にし、国の政策に反映させるための十分な対策を早急に立てることが求められるとされている。

 しかし、この問題を解決する際の最大の問題点は、『らい予防法の廃止に関する法律(平成8年法律第28号/平成8年4月1日施行)』が制定されていることにある。

 (国立ハンセン病療養所における療養)

第二条 国は国立ハンセン病療養所において、この法律の施行の際、現に国立ハンセン病療養所に入所している者であって、引き続き入所するもの(第四条において「入所者」という。)に対して、必要な療養を行うものとする

 つまりハンセン病療養所は、国立の療養所でありながら、この法改正が行われた当時ハンセン病療養所に入所している者で、引き続き入所する者に対して必要な療養をする場所であって、一般の国民は相手にしていないということである。逆にいえば、入所者の高齢化が進み、入所者の減少が限りなく続いたとしても、入所者は増加することなく、ハンセン病療養所は、立ち枯れを迎えるということである。

 今回行われた『ハンセン病療養所のあしたをひらく市民の集い』は、『らい予防法の廃止に関する法律』に替わる新しい法律として『ハンセン病問題基本法(仮称)』を制定する運動を展開することを目的としたもので、隔離された療養所ではなく、地域社会に開かれた施設への転換を求めようというものである。

 ただ、この際難しい問題がある。

 従来、我が国では、ハンセン病を発症したというだけで、患者は社会で生活をすることが許されず、官民一体となって推進された『無癩県運動』等によって、村や町から徹底的に排除され、辺鄙なところに建てられた国立の療養所に隔離されてきたという歴史がある。

 そのためハンセン病療養所は、現在でも多くの施設がいわゆる僻地にあり、もし開放されたとしても、一般の人々が気軽に診察を受けるために出かけられるという診療施設にはならないということである。また、老人専用の福祉施設にしたとしても、家族が簡単に見舞いに行けないというようなところでは、新たに姥捨て山を作るみたいなことになってしまう。

 更に問題なのは、僻地にある療養所には医師の行き手がないということである。特に若い医師は、自分の将来を考えた場合、最新の医学に触れる機会を失うことが明らかであり、勤務を指示したとしても、その指示に従うということは考えられない。更に家族の学校等のことを考えれば、家族ぐるみ施設の近隣に居住するということは難しく、単身赴任ということになるとすれば、生活の二重構造に耐えてまで、勤務しようとする医師はいない。つまり医師の確保が困難だということである。

 限りなく入所者の数が減少すれば、療養所内の生活環境を維持するために、施設の統合を考えざるを得ない。また効率的な人材の活用という意味からも、職員を集約するために施設統合は避けて通れない。果たして現在の入所者は施設統合を容認するのか。強制的に隔離され、現在住むところが終の棲家、第二の故郷であるという意識と、再度、故郷を捨てることを強要する統合が馴染むのかどうか。

 更に最大の問題は、ハンセン病療養所を開放し、一般の患者と共生することが、療養所入所者側に抵抗なく受け入れられるのかということである。昔年の怨念がそう簡単に拭い去れるとは思えないが、その怨念は棚上げにするということなのだろうか。

 嘗て群馬県の吾妻地区にあった200床規模の結核療養所“長寿園”の国立療養所西群馬病院との統廃合反対闘争に係わったことがあるが、大きな運動の展開を見ることは出来たものの、結局は“長寿園”は更地にされてしまった。ハンセン病の場合は、その成立からして国家に瑕疵があり、行政に瑕疵ある場合、行政の責任において修正すべきは当然である。従って結核の療養所とは異なった対応になるものと思うが、見守っていれば自然消滅も期待できるハンセン病療養所の場合、行政に具体的な手当をさせるためには、相当の圧力が必要だといえる。

ところで、以下にライに関係する法律を部分的に引用しておく。

癩予防法[昭和六年四月二日法律第五八号]

明治四十年法律第十一號中左ノ通改正ス

本法ニ左ノ題名ヲ附ス 癩豫防法

第二條ノ二 行政官廳ハ癩豫防上必要ト認ムルトキハ左ノ事項ヲ行フコトヲ得

 一 癩患者ニ對シ業務上病毒傳播ノ虞アル職業ニ從事スルヲ禁止スルコト

 二 古着、古蒲團、古本、紙屑、襤褸、飲食物其ノ他ノ物件ニシテ病毒ニ汚染シ又ハ其ノ疑アルモノノ賈買若ハ授受ヲ制限シ若ハ禁止シ、其ノ物件ノ消毒若ハ廃棄ヲ爲サシメ又ハ其ノ物件ノ消毒若ハ廃棄ヲ爲スコト

第 三條 行政官廳ハ癩豫防上必要ト認ムルトキハ命令ノ定ムル所ニ從ヒ癩患者ニシテ病毒傳播ノ虞アルモノヲ國立癩療養所又ハ第四條ノ規定ニ依リ設置スル療養所 ニ入所セシムベシ 必要ノ場合ニ於テハ行政官廳ハ命令ノ定ムル所二從ヒ前項患者ノ同伴者又ハ同居者二對シテモ一時相當ノ救護ヲ爲スベシ

前二項ノ場合ニ於テ行政官廳ハ必要ト認ムルトキハ市町村長又ハ之ニ準ズベキ者ヲシテ癩患者及其ノ同伴者又ハ同居者ヲ一時救護セシムルコトヲ得

前項ノ規定ニ依リ市町村長又ハ之ニ 準ズベキ者ニ於テ一時救護ヲ爲ス場合ニ要スル費用ハ必要アルトキハ市町村又ハ之ニ準ズベキモノニ於テ繰替支辮スヘシ

らい予防法[昭和二十八年八月十五日法律二百十四号]

法律第二百十四号 らい予防法

第一章 総則

(この法律の目的)

第一条 この法律は、らいを予防するとともに、らい患者の医療を行い、あわせてその福祉を図り、もって公共の福祉の増進を図ることを目的とする。

(国及び地方公共団体の義務)

第二条 国及び地方公共団体は、つねに、らいの予防及びらい患者(以下「患者」という。)の医療につとめ、患者の福祉を図るとともに、らいに関する正しい知識の普及を図らなければならない。

差別的取扱の禁止

第三条 何人も、患者又は患者と親族関係にある者に対して、そのゆえをもって不当な差別的取扱をしてはならない。

第二章 予防

(医師の届出等)

第四条 医師は、診察の結果受診者が患者(患者の疑のある者を含む。この条において以下同じ。)であると診断し、又は死亡の診断若しくは死体の検案をした場合において、死亡者が患者であったことを知ったときは、厚生省令に定めるところにより、患者、その保護者(親権を行う者又は後見人を言う。以下同じ。)若しくは患者と同居している者又は死体のある場所若しくはあった場所を管理する者若しくはその代表をする者 に、消毒その他の予防方法を指示し、且つ、七日以内に、厚生省令で定める事項を、患者の居住地。(居住地がないか、又は明らかでないときは、現在地。以下 同じ。)又は死体のある場所の都道府県知事に届け出なけれなならない。

?2 医師は、患者が治ゆし、又は死亡したと診断したときは、すみやかに、その旨をその者の居住地の都道府県知事届けでなければならない。

(指定医の診察)

第五条 都道府県知事は、必要があると認めるときは、その指定する医師をして、患者又は患者と疑うに足りる相当な理由がある者を診察させることができる。

?2 前項の医師の指定は、らいの診療に関し、三年以上の経験を有する者のうちから、その同意を得て行うものとする。

?3 第一項の医師は、同項の職務の執行に関しては、法令により公務に従事する職員とみなす。

(国立療養所への入所)

第六条 都道府県知事は、らいを伝染させるおそれがある患者について、らい予防上必要があると認めるときは、当該患者又はその保護者に対し、国が設置するらい療養所(以下「国立療養所」という。)に入所し、又は入所させるように勧奨することができる。

?2 都道県府知事は、前項の勧奨を受けた者がその勧奨に応じないときは、患者又はその保護者に対し、期限を定めて、国立療養所に入所し、又は入所させることを命ずることができる

?3 都道府県知事は、前項の命令を受けた者がその命令に従わないとき、又は公衆衛生上らい療養所に入所させることが必要であると認めた患者について、前二項の手続きをとるいとまがないときは、その患者を国立療養所に入所させることができる。

?4 第一項の勧奨は、前条に規定する医師が当該患者を診察した結果、その者がらいを伝染させるおそれがあると診断した場合でなければ、行うことができない

(従業禁止)

第七条 都道府県知事は、らいを伝染させるおそれがある患者に対して、その者がらい療養所に入所するまでの間、接客業その他公衆にらいを伝染させるおそれがある業務であって、厚生省令で定めるものに従事することを禁止することができる。

?2 前条第四項の規定は、前項の従業禁止の処分について準用する。

(汚染場所の消毒)

第八条 都道府県知事は、らいを伝染させるおそれがある患者又はその死体があった場所を管理する者又はその代理をする者に対して、消毒材料を交付してその場所を消毒すべきことを命ずることができる。

?2 都道府県知事は、前項の命令を受けた者がその命令に従わないときは、当該職員にその場所を消毒させることができる。

(物件の消毒廃棄等)

第九条 都道府県知事は、らい予防上必要があると認めたときは、らいを伝染させるおそれがある患者が使用し、又は接触した物件について、その所持者に対し、授与を制限し、若しくは禁止し、消毒材料を交付して消毒を命じ、又は消毒によりがたい場合に廃棄を命ず ることができる。

?2 都道府県知事は、前項の消毒又は廃棄の命令を受けた者がその命令に従わないときは、当該職員にその物件を消毒し、又は廃棄させることができる。

?3 都道府県は、前二項の規定による廃棄によって通常生ずべき損失を補償しなければならない。

?4 前項の規定による補償を受けようとする者は、厚生省令の定める手続きに従い、都道府県知事にこれを請求しなければならない。

?5 都道府県知事は、前項の規定による請求を受けたときは、補償すべき金額を決定し、当該請求者にこれを通知しなければならない。

?6 前項の決定に不服のある者は、その通知を受けた日から六十日以内に、裁判所に訴をもってその金額の増額を請求することができる。

(質問及び調査)

第十条 都道府県知事は、前二条の規定を実施するため必要があるときは当該職員をして、患者若しくはその死体がある場所若しくはあった場所又は患者が使用し、患者その他の関係者に質問させ、又は必要な調査をさせることができる。

?2 前項の職員は、その身分を示す証票を携帯し、且つ、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない。

?3 第一項の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

第三章 国立療養所

(国立療養所)

第十一条 国は、らい療養所を設置し、患者に対して、必要な療養を行う。

(福利増進)

第十二条 国は、国立療養所に入所している患者(以下「入所者」という。)の教養を高め、その福利を増進するようにつとめるものとする。

(厚生指導)

第十三条 国は、必要があると認めるときは、入所患者に対して、その社会的更正に資するために必要な知識及び技能を与えるための措置を講ずることができる。

(入所患者の教育)

第十四条 国立療養所の長(以下「所長」という。)は、学校教育法(昭和二十二年法律二六号)第七十五条第 二項の規定により、小学校又は中学校が、入所患者のため、教員を派遣して教育を行う場合には、政令の定めるところにより、入所患者がその教育を受けるため に必要な措置を講じなければならない。

?2 所長は、学校教育法第七十条第二項の規定により、高等学校が、入所患者のため、教員を派遣して教育を行う場合には、政令の定めるところにより、入所患者がその教育を受けるために必要な措置を講ずることができる。

(外出の制限)

第十五条 入所患者は、左の各号に掲げる場合を除いては、国立療養所から外出してはならない

? ?一 親族の危篤、死亡、り災その他特別の事情がある場合であって、所長が、らい予防上重大な支障を来たすおそれがないと認めて許可したとき。

? ?二 法令により国立療養所外に出頭を要する場合であって、所長が、らい予防上重大な支障を来たすおそれがないと認めたとき。

?2 所長は、前項第一号の許可をする場合には、外出の期間を定めなければならない。

?3 所長は、第一項各号に掲げる場合には、入所者の外出につき、らい予防上必要な措置を講じ、且つ、当該患者から求められたときは、厚生省令で定める証明書を交付しなければならない。

(秩序の維持)

第十六条 入所患者は、療養に専念し、所内の紀律に従わなければならない。

?2 所長は、入所患者が紀律に違反した場合において、所内の秩序を維持するために必要があると認めるときは、当該患者に対して、左の各号に掲げる処分を行うことができる。

? ?一 戒告を与えること。

? ?二 三十日をこえない期間を定めて、謹慎させること。

?3 前項第二号の処分を受けた者は、その処分の期間中、所長が指定した室で静居しなければならない。

?4 第二項第二号の処分は、同項第一号の処分によっては、効果がないと認められる場合に限って行うものとする。

?5 所長は、第二項第二号の処分を行う場合には、あらかじめ、当該患者に対して、弁明の機会を与えなければならない。

(親権の行使等)

第十七条 所長は、未成年の入所患者で親権を行う者又は後見人のないものに対し、親権を行う者又は後見人があるに至るまでの間、親権を行う。

?2 所長は、未成年の入所患者で親権を行う者又は後見人のあるものについても、監護、教育等その者の福祉のために必要な措置をとることができる。

(物件の移動の制限)

第十八条 入所患者が国立療養所の区域内において使用し、又は接触した物件は、消毒を経た後でなければ、当該国立療養所の区域外に出してはならない。

第四章 福祉

(一時保護)

第十九条 都道府県知事は、居住地を有しない患者その他救護を必要とする患者及びその同伴者に対して、当該患者が国立療養所に入所するまでの間、必要な救護を行わなければならない。

(一時救護所)

第二十条 都道府県は、前条の措置をとるため必要があると認めるときは、一時救護所を設置することができる。

(親族の福祉)

第二十一条 所長は、必要があると認めるときは、当該国立療養所の職員をして入所者が扶養しなければならな い親族を訪問させる等の方法により、当該親族が生活保護法(昭和二十五年法律第百四十号)による保護その他の福祉の措置を受けるために必要な援助を与えることができる。

(児童の福祉)

第二十二条 国は、入所患者が扶養しなければならない児童で、らいにかかっていない者に対して、必要があると認めるときは、国立療養所に付属する施設において養育、養護その他の福祉の措置を講ずることができる。

?2 第十七条第一項の規定は、前項の施設に入所中の児童について準用する。

第五章 費用

(都道府県の支弁)

第二三条 都道府県は、左の各号に掲げる費用を弁済しなければならない。

? ?一 第五条第一項の規定による診察に要する費用

? ?二 第六条の規定による措置に要する費用並びに同条第一項又は第二項の規定による勧奨又は命令による患者の入所に要する費用及びその入所に当り当該都道府県の職員が附き添った場合におけるその附添に要する費用

? ?三 第八条及び第九条の規定による消毒及び廃棄に要する費用

? ?四 第九条第三項の規定による損失の補償に要する費用

? ?五 第十九条の規定による一時保護に要する費用

? ?六 第二十条に規定する一時救護所の設置及び運営に関する費用

(国庫の負担)

第二四条 国庫は、政令の定めるところにより、都道府県が支弁する前条各号に掲げる費用について、その二分の一を負担する。

第六章 雑則

(訴願)

第二十五条 この法律又はこの法律に基づいて発する命令の規定により所長又は都道府県知事がした処分(第九条第五項の規定による補償金額の決定処分を除く。)に不服がある者は、厚生大臣に訴願することができる。

?2 厚生大臣は、前項の訴願がらいを伝染させるおそれがある患者であるとの診断に基づく処分に対してその 診断を受けた者が提起したものであって、且つ、その不服の理由が、その診断の結果を争うものであるときは、その訴願の裁決前、第五条第二項の規定に準じて 厚生大臣が指定する二人以上の医師をして、その者を診察させなければならない。この場合において、訴願人は、自己の指定する医師を、自己の費用により、そ の診察に立ち会わせることができる。

?3 第五条第三項の規定は、前項の医師について準用する。

(罰則)

第二十六条 医師、保健婦、看護婦若しくは准看護婦又はこれらの職にあったものが、正当な理由がなく、その業務上知得した左の各号に掲げる他人の秘密を漏らしたときは、一年以下の懲役又は三万円以下の罰金に処する。

? ?一 患者若しくはその親族であること、又はあったこと。

? ?二 患者であった者の親族であること、又はあったこと。

?2 前項各号に掲げる他人の秘密を業務上知得した者が、正当な理由がなく、その秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。

第二十七条 左の各号の一に該当する者は、一万円以下の罰金に処する。

? ?一 第四条第一項の規定による届出を怠った者

? ?二 第五条第一項の規定による医師の診察を拒み、妨げ、又は忌避した者

? ?三 第九条第一項の規定による物件の授与の制限又は禁止の処分に従わなかった者

? ?四 第八条第二項又は第九条第二項の規定による当該職員の職務の執行を拒み、妨げ、又は忌避した者

? ?五 第十条第一項の規定による当該職員の調査を拒み、妨げ、又は忌避した者

? ?六 第十条第一項の規定による当該職員の質問に対して虚偽の答弁をした者

? ?七 第十八条の規定に違反した者

第二十八条 左の各号の一に該当する者は、拘留又は科科に処する。

? ?一 第十五条の第一項の規定に違反して国立療養所から外出した者

? ?二 第十五条に第一項の規定により国立療養所から外出して、正当な理由がなく、許可の期間内に帰所しなかった者

? ?三 第十五条に第一項の規定により国立療養所から外出して、正当な理由がなく、通常帰所すべき時間内に帰所しなかった者

優生保護法[昭和23年7月13日 法律第156号]

昭和23年9月11日 施行 ?最終改正 平成2年 法律56 ?平成8年法律第105号で「母体保護法」に改題

(医師の認定による優生手術)

第三条 ?医師は、左の各号の一に該当する者に対して、本人の同意並びに配偶者(届出をしないが事実上婚姻関係と同様な事情にある者を含む。以下同じ。)があるとき はその同意を得て、優生手術を行うことができる。但し、未成年者、精神病者又は精神薄弱者については、この限りでない。

一 本人若しくは配偶者が遺伝性精神病質、遺伝性身体疾患若しくは遺伝性奇形を有し、又は配偶者が精神病若しくは精神薄弱を有しているもの

二 本人又は配偶者の四親等以内の血族関係にある者が、遺伝性精神病、遺伝性精神薄弱、遺伝性精神病質、遺伝性身体疾患又は遺伝性畸形を有しているもの

本人又は配偶者が、癩疾患に罹り、且つ子孫にこれが伝染する虞れのあるもの

四 妊娠又は分娩が、母体の生命に危険を及ぼす虞れのあるもの

五 現に数人の子を有し、且つ、分娩ごとに、母体の健康度を著しく低下する虞れのあるもの

2 前項第四号及び第五号に掲げる場合には、その配偶者についても同項の規定による優生手術を行うことができる。

3 第一項の同意は、配偶者が知れないとき又はその意思を表示することができないときは本人の同意だけで足りる。

 昭和28年に制定された『らい予防法』は、第三条において『差別的取扱の禁止』を規定しながら法律自体は差別的視点が充ち満ちているという不思議なものに出来上がっている。更に昭和23年に制定された『優生保護法』では、その第三条において『本人又は配偶者が、癩疾患に罹り、且つ子孫にこれが伝染する虞れのあるもの』については医師の認定による優生手術が出来るとしている。

 一般的には1943年(昭和18年)のプロミンに始まる化学療法の効果によって、確実に治癒するようになったとされており、優生保護法が制定された昭和23年(1948年)当時、既に治る病気であるという、認識はあったはずである。昭和28年(1953年)に制定されたらい予防法の制定の時には、もはやあれほどの法律を制定することの必要性はなくなっていたのではないか。

 それこそ誰が、らい予防法の制定に固執したのか、その当たりは明確に検証する必要があるのではないか。

? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? (2007.9.8.)

「巴豆油の毒性」

土曜日, 10月 6th, 2007

対象物

巴豆。巴豆油、はず油、クロトン油、croton oil。別名:oleum crotonis、oleum tiglii。巴豆霜。

調査者

古泉秀夫

記入日

2006.8.20.

成分

巴豆油(croton oil):34-57%として脂肪酸:oleic acid、palmitic acid、stearic acid、lauric acid、crotonic acid、tiglic acid等。その他phorbol ester A1-4、phorbol ester B1-7、crotin(毒性蛋白)、crotonoside、arginine等を含む。

一般的性状

ハズ。トウダイグサ科ハズ属。ハズは漢名『巴豆』の音読み。印度、東南アジア、中国南部原産の常緑小高木で、日本では薬用(種子が下剤)として渡来した。巴豆の成熟した種子を乾燥したもの。学名:Croton tiglium L.。

毒性

猛毒があるため、一般には油を圧出し、残りの残渣(巴豆霜)を丸薬あるいは粉末として用いる。しかし、毒性は存在するので、使用に際しては細心の注意が必要で、少量、短期間に留める。phorbol esterは強力な発癌性を有する。phorbol esterの親化合物であるホルボール(phorbol)は、巴豆油に含まれるテルペン。皮膚及び粘膜を強く刺激し、小嚢胞の発疹を惹起する。

*alcohol中のクロトン油は“Mickey Finn(睡眠薬入りの酒=仕込み酒)”の一つの型である。

*吸収・排泄:不明。多分皮膚を通して吸収される。

*毒作用:2滴で危険症状を起こすことがある。幼児に対する推定致死量は3-4滴。成人致死量は1mL。

症状

*経口摂取:喉と口腔の灼熱の後、酷い腸炎の症状、嘔吐、胸痛、疝痛、下痢(水様又は出血性)。頭痛、傾眠、眩暈と虚脱。皮膚は冷えて湿る。脈拍弱く、血圧と体温は低下、呼吸は遅い。呼吸又は循環障害により死亡。その他、強烈な瀉下作用と同時に激しい腹痛、裏急後重の症候。腸の平滑筋を直接刺激、蠕動運動を亢進させ、腸粘膜を刺激し、炎症を惹起し、分泌を増強させるの報告。

*皮膚接触:局所に炎症と灼熱感。24時間後に水疱が現れ、破れて自然に痕跡亡くなる。その他、発赤、腫脹、水疱、糜爛。更には赤血球の減少、白血球の増加、陰嚢水腫、睾丸萎縮等。大量塗布では死に至るの報告。

*眼:酷い炎症、結膜腐食、角膜混濁。

処置

*胃洗浄は無効の報告。

*緩和剤:牛乳、卵及び粥。出来たら液体を経口投与。又は電解質障害が認められたら食塩とブドウ糖を絶えず静脈内投与。

疝痛にはアトロピン 1mg皮下注射。保温。48時間保てば回復有望:しかし腎及び肝障害が発現した場合、治療延長の必要性。

*解毒薬として黄連あるいは緑豆の煎湯を用いるの報告。

黄連:成分としてベルベリン(抗菌作用)、タンニン(収斂作用)、苦味質。黄連はこれらのいずれかの作用を利用する。

緑豆:解熱と解毒の効がある。

事例

 まもなく、着物を改めていた家臣が「御家老。かような物が衿に縫いつけござりました」

「うむ。これへ持て」淳斉たちが顔を寄せているところへ差し出された物は、何の変哲もない小さな薬袋であった。「なんと、四つ目屋の薬袋ではないか。なにやら細かい字で効能が書いてある。吉之丞、そのほう眼鏡を出して………」、「はっ。かしこまりました」 吉之丞が、やおら懐から眼鏡を取り出して、「まず薬種の名前らしく『巴豆油』と書いてござります」、「なんですって。巴の豆と書いてございますか」と言いながら駆け寄ってきたのは、公事師の伴彦左衛門。息急き切ってくるなり薬袋を見て、さっそく「巴豆油」についての知識を披瀝した。 巴豆油という薬は、巴豆という猛毒を含む植物の種子から採った油で、神経痛や凍傷の薬として外用し、また下剤として内服する劇薬である。「これを飲み過ぎると、からだ中の水分がなくなって、ぐったりいたしますが、そのまま水を飲ませないでおけば、たちまち死んでしまう匙加減のむずかしい薬種でございます』[小松重男:川柳侍;光文社,2003]。

備考

『ミッキーフィン』は、睡眠薬入りの酒というよりは、“仕込み酒”という方が適当ではないかと思われる。最初は気に入らない酒場のおやじに下剤入りの酒を飲ましたということから、出てきた言葉だとされている。『裏急後重(テネスムス:tenesmus)』(りきゅうこうじゅう)は、『しぶり』のことで、強い便意がありながら殆ど排便できず、ついには便所から出られなくなるような状態をいう。直腸に強い炎症があるため、軽度の刺激でも便意が容易に起こるもので、赤痢などで見られるとされている。物語の中で、巴豆油そのものは使う暇がなかかったため、使われていない。しかも薬袋に入れて衿に縫い込んでいたということで、毒物自体は、巴豆油ではなく、油を搾った後の『巴豆霜(はずそう)』ではないかと思われる。

この作品は、別に推理小説というのではなく、どちらかといえば、物語の本筋とはあまり関わりなく、作者の川柳に関する蘊蓄を読み取る物語として読んでいたところ巴豆油なる言葉が出てきて、殆ど聞いたことのない物だったため調べたところ、相当きつい毒性を発揮する物であることが分かったという次第である。

最近、新しい毒物を使った物語に行き合わず、小説を読むのも些か草臥れていたが、期待していなかった物語の中で新しい毒物に行き合うと、ついニヤリとしてしまう。しかし『巴豆霜』は、薬物としては、甚だ使いにくい薬であり、もはや薬としての役割を終わり、お蔵入りしてしまっているのではないかと思われる。なお、処置方法については、対症療法が主で、緑豆が特効的に効果があるという裏付けは得ていない。黄連の解毒効果については、巴豆霜の解毒薬としての効果は期待できないのではないかと思われる。

文献

1)牧野富太郎:コンパクト版3-原色牧野日本植物図鑑III;株式会社北隆館,2002

2)曽根維喜:続東西医学 臨床漢方処方学-優秀処方の組み立て方・東西薬物の併用-;南山堂,1996

3)Anthony T.Tu・編著:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005

4)白川 充・他共訳:薬物中毒必携 第2版;医歯薬出版株式会社,1989

5)南山堂医学大辞典 第19版;南山堂,2006

6)伊澤凡人・他:カラー版 薬草図鑑;家の光協会,2003

「硫化水素(hydrogen sulfide)ガスの毒性」

金曜日, 10月 5th, 2007

対象物

温泉ガス(硫化水素)

調査者

古泉秀夫

記入日

2006.1.5.

成分

硫化水素(hydrogen sulfide)。H2S=34.08。

一般的性状

無色、空気より重い可燃性の気体(沸点:?60.4℃、融点:?85.5℃)で、低濃度では特有の孵卵臭を呈するが、50-150ppm以上では嗅覚疲労に陥り、臭気を感じなくさせるといわれている。種々の溶媒によく溶解し、1gの硫化水素は水242mL、エタノール94.3mL、ジエチルエーテル48.5mLに溶解する。また、硫化水素は脂溶性が高いため、生体膜を容易に通過するという性質がある。

石炭・石油、天然ガス、火山、鉱山、温泉など自然界から発生するだけではなく、下水、屎尿処理槽、産業的過程での排出、工業的合成によっても発生する。大気汚染防止法で、特定有害物質の一つに指定されている。中毒事故発生時には、救助者が二次被害に遭う事例も多い。

毒性

硫化水素の中毒作用は、全身作用と刺激作用に基づく局所作用に別けることができる。中枢神経系を含む全身作用の機序は、シアン同様、チトクロム酸化酵素等、酸化的リン酸化に与える酵素の阻害、組織中毒性低酸素症を生じることによると考えられている。空気中0.1-0.2%(1000-2000ppm)の濃度で死に至る。▼*シアン化水素と同程度の毒性を有し、低濃度では粘膜を刺激し、高濃度では肺、神経を冒し、咳、嘔吐、頭痛、眩暈などの症状が出現する。▼0.025ppm:臭気を感じ始め。▼3 - 10ppm:不快な臭気。▼20-30ppm:強烈な不快な臭気(孵卵臭)。▼50ppm以上:結膜に対する刺激作用。▼50-100ppm:気道・呼吸器系に対する刺激作用。▼100-200ppm:臭気の消失(嗅覚疲労)。▼500ppm以上:30-60分曝露で致死するといわれている。▼500-1000ppm:致死的呼吸麻痺、不整脈、神経麻痺、急激な虚脱、死亡。▼*許容濃度(25℃,1atm):10ppm。▼マウス(吸入)致死量:60ppm(1時間)。▼ヒト(吸入)50ppm[症状発現]。

症状

高濃度曝露の場合の特徴的症状である『knockdown現象』(急激な虚脱状態)は、極めて急激であり、呼吸抑制、頻脈、振戦、cyanosis(紫藍症)、痙攣などを伴い、致死的となる可能性がある。中枢神経症状は、硫化水素の神経系に対する直接作用と考えられている。患者の示すvital sign(生命徴候)は、徐脈ないし頻脈、過換気又は無呼吸に及ぶ呼吸抑制、低血圧又は高血圧と、重症度により様々な症状が見られる。

局所症状

眼:眼痛、結膜炎、角膜炎、眼瞼浮腫などが生じる。

気道:刺激作用により肺水腫を発症することがある。硫化水素ガスは中等度の水溶性を示し、気道に対する作用は塩素ガスなど水溶性の高いガスと比較すると刺激性はやや低いが、深達性があり、末梢気道に到達し易いとされている。

皮膚:疼痛、掻痒、紅斑等。

処置

治療としては呼吸・循環管理、亜硝酸塩の投与を行う。

▼?速やかに患者を新鮮な空気の場所に移動し、100%酸素を吸入させる。▼?気管内挿管し、機械的人工呼吸を行う。▼?低血圧:ドパミン、ノルアドレナリン等のカテコラミンの持続投与を行う。▼?痙攣:ジアゼパムの静脈投与。▼?まだ、evidenceは不明とされるが、特異的治療として亜硝酸アミル、亜硝酸ナトリウムなど亜硝酸塩の投与が報告されている。▼亜硝酸アミルは毎分30秒間、ガーゼに浸すなどの方法で患者に吸入させ、3分毎に新しいアンプルを開け、亜硝酸ナトリウム投与開始まで続ける。3%-亜硝酸ナトリウム 10mL(未発売:院内調製)を2-4分かけて静注。▼血中メトヘモグロビン濃度が30%程度を越えないようにモニターすべきである。▼なお、硫化水素ガス中毒に対してチオ硫酸ナトリウムの投与は禁忌であると報告されている。

事例

温泉ガス?母子3人死亡 秋田の泥湯・父も重体 都内から旅行

29日午後5時頃、秋田県湯沢市高松の泥湯温泉にある屋外共同駐車場脇の雪山の中で、宿泊客が倒れているのを、探していた「奥山旅館」従業員が見つけた。倒れていたのは家族4人。除雪された雪の山が温泉の熱で溶け、トンネルのような空洞状態になっていた。空洞の内部に硫化水素ガスがたまると、濃度が高くなる場合があるという。

硫化水素は無色のガスで、卵の腐ったような臭いがする。呼吸困難や眩暈、喉の痛みなどの症状を引き起こし、濃度が高いと死に至ることもあるという。現場附近はガスが発生しやすいとされており、過去には死んだツバメやスズメが見つかったこともある。

各地で事故例

火山ガスには硫化水素、二酸化硫黄、二酸化炭素などがあり、過去にも多くの事故を招いたが、特に硫化水素ガスは、濃度が高まると嗅覚を麻痺させるため、噴出に気付かない可能性も高く、死亡例は多い。1989年3月には、鹿児島県牧園町(現霧島市)の温泉旅館の脱衣場で、流入した硫化水素ガスを吸った母娘が死亡した。山でも1971年12月群馬県・草津白根山の中腹で、温泉ボウリング現場から漏れたガスでスキーヤー6人が死亡。1976年8月には同県の本白根山の中腹で女子高生ら3人が、1997年9月には福島県猪苗代町の安達太良山・沼ノ平らで女性登山者4人が死亡した [読売新聞,第46623号,2005.12.30.]

備考

硫化水素ガスの特徴的事項として、”孵卵臭”なるものが挙げられている。しかし、最近身近に腐った卵など存在しないとすれば、”孵卵臭”といわれても解らない。危険性が解らなければ、避けようがないわけで、もっと危険と安全の境目を教える方策を考えるべきではないか。嘗てはガキ大将が仲間を仕切り、それぞれの仲間内には妙な知恵に恵まれた学者がいて、卵の腐ったみたいな臭いのする場所は毒ガスがあって危険だ。山ではそのガスにやられてスズメが墜ちるとか、夾竹桃には毒があるから葉っぱや枝を口に入れてはいかんとか。中には蜂に刺されたときにはオシッコをかけるといいなどという誤った口伝もあったが、それなりに危険を避ける知恵は持っていた。

子供達が群れて自然と戯れる機会が無くなった分、何処かに代わるものを創ることが必要なのではないかと思われる。

今回の事故で亡くなった方々の御冥福を衷心よりお祈りする。

文献

1)志田正二・代表編:化学辞典;森北出版株式会社,1999

2)Anthony T.Tu・編著:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005

3)(財)日本中毒情報センター・編:症例で学ぶ中毒事故とその対策 改訂版;じほう,2000

4)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル,2001

5)山口徹・他総編:今日の治療指針;医学書院,2005

6)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2005

「蓮華躑躅(レンゲツツジ)の毒性」

金曜日, 10月 5th, 2007

対象物

蓮華躑躅

調査者

古泉秀夫

分類

63.099.RHO

記入日

2007.4.6.

成分

葉:アンドロメドトキシン(andromedotoxin)

花:ロドジャポニン(rhodjaponine)

根皮:スパラゾール(sparazol)

有毒ジテルペンのrhodjaponine I-VIIを含む。

ツツジ科植物にはジテルペン構造を持つグラヤノトキシン(grayanotoxin)I-III等の有毒物質が含まれている。命名の由来は最初に同定されたハナヒリノキ(学名:Leucothoe grayana)に由来する。このうちgrayanotoxin-Iはandromedotoxinとも呼ばれている。また蓮華躑躅から抽出されたロードトキシン、アセビから抽出されたアセボトキシンもgrayanotoxin-Iと同一物質である。

一般的性状

ツツジ科ツツジ属。北海道西南部から九州の水湿十分な高原や野にはえ、観賞用に庭園に栽培する落葉低木。高さ1-2m、多数綸生状に分枝。葉は長さ5-10cm、繊毛あり、時に裏白がある。花は4-6月、新葉と共に開き散形状に横向きに頂生。花冠5裂、径5-6cm、朱紅、濃朱紅、黄色の品種がある。雄しべ5、雌しべ1。

学名:Rhododendron japonicum Suringer。

ツツジ科は103属3350種含まれる大きな科で、特に躑躅、シャクナゲを含むツツジ属は850種あり、その多くが園芸植物として栽培されている。

別名:馬躑躅、鬼躑躅、毒躑躅、べこ躑躅。

有毒部分:葉、花、根皮、花蜜。

ツツジ科植物の有毒性は古くから知られており、紀元前4世紀のギリシャの軍人・著述家クセノフォン(Xenophon)はその著書の中で兵士たちがツツジ属植物やハナヒリノキ(Leucothoe grayana)の蜜に由来する蜂蜜で中毒した様子を記録している。最近でもトルコでツツジ属の花から採った蜂蜜によるヒトの中毒事故の報告があった。

毒性

痙攣毒。

grayanotoxinは細胞膜上のNaチャンネルの第2結合部位に結合し、Naチャンネルを開いて持続的な脱分極を起こす。この作用が心筋、骨格筋、中枢神経、末梢神経に症状となって発現する。grayanotoxinは、神経終末で持続的な脱分極を起こすため、Ca2+が神経終末に流入し、伝達物質の過剰放出や枯渇をもたらすことが知られている。

grayanotoxin:C22H36O7。アセボトキシン、アンドロメドトキシンともいう。grayanotoxin I:LD50(マウス・腹腔内)1.31mg/kg、grayanotoxin II:LD50(マウス・腹腔)26.1mg/kg。▼rhodjaponine:rhodjaponine I、II、IIIが蓮華躑躅の花から検出されている。蜂がこの毒を含む蓮華躑躅の花から蜜を集め、それを摂食して中毒になることがある。▼ネジキ(ツツジ科ネジキ属:Lyonia ovalifolia var. elliptica)の場合、体重の1%の摂取で牛は死亡する(古く島根県の三瓶地方では霧酔病と呼ばれていた)。▼アセビの場合、体重の0.1%の摂取で山羊に中毒が起こる。

症状

grayanotoxinを含む植物を摂取した動物は嘔吐や泡沫性流涎を起こし、軽症では沈衰、四肢開張、蹌踉、知覚過敏となる。重症では、四肢の麻痺、起立不能、更に簡潔性の疝痛、腹部膨満、呼吸促迫、脈の細弱不整、更に全身麻痺に陥る場合もある。ただし、回復は早く、致命率は高くない。

grayanotoxin類による症状は、口唇の痺れ、四肢の痺れ、眩暈、脱力感、発汗、吐き気、口渇、低血圧などで、摂食後1-2時間で発現する。心電図異常、期外収縮、心室性頻脈、伝導障害、徐脈が見られる。心拍出量が減少し、脳血流量が低下するため、意識消失、失神、更にそれに起因する痙攣が見られることがある。

処置

徐脈に対してはatropine、房室ブロックに対してはisoproterenolが効果がある。これ以外は保存的療法でよい。予後は良好であると報告されている。

事例

縁側には酒肴が用意され、平皿には独活と躑躅の花弁が盛ってある。躑躅の赤に独活の白、鮮やかな色彩が目を楽しませてくれた。躑躅には「食い花」の異名がある。▼赤い花弁を食うおつやの仕草が、妙に艶めいてみえた。三左右衛門は盆栽を抱えたまま、庭の端に突ったっていた。▼………………半兵衛は皺首をねじり、にっと入れ歯を?いた。無造作に躑躅の花を手折り、こちらへ差し出す。

▼「食うか」

▼「はあ」

▼「ふっ、やめておけ」

▼「誘っておいてそれはないでしょう」

▼「これは蓮華躑躅じゃ、食えば脳味噌が痺れ、足はふらつく。莫迦な山羊なぞがよく引っかかるのよ、くくく」

▼「わたしは山羊ですか」

▼「山羊のほうがましじゃろうな。ふっ、ちょっと見はおなじに見える可憐な花でも、毒をふくんでおることがままある。おなごもいっしょじゃ、不器用なおぬしに教訓を垂れてやったまでよ」

▼「余計なお世話ですな」[坂岡 真:照れ降れ長屋風聞帳 あやめ河岸;双葉文庫,2006]。

備考

蓮華躑躅が話の初めに出てくるので、毒殺目的で使用されるその複線かと期待していたが、そういうことではなかったようである。本書の主人公である三左右衛門は、小太刀の名手で、盲目の剣士富田勢源の再来といわれる男である。大体、小説の主人公で剣が強いということであれば、長いものを扱うのが通例だが、この主人公は長物は竹光で、使うの小太刀である。それだけでも変わっているが、どうやら風采も上がらず、女のヒモみたいな生活をしているが、一見、他人事には冷ややかな対応を示すが、本質的には無闇にお節介な性格が災いして事件に巻き込まれるということである。その意味では事件の進展の中で、蓮華躑躅が使用されれば面白い物語の展開になったのかもしれないが、あまり強力な毒性はなく、死亡することはないということであるから、物語の味付に持ち出したくらいで丁度いいのかもしれない。

文献

1)牧野富太郎:原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版1;北隆館,2003

2)海老原昭夫:知っておきたい身近な薬草と毒草;薬事日報社,2003

3)海老原昭夫・編著:知っておきたい毒の知識;薬事日報社,2001

4)清水矩宏・他編著:牧草・毒草・雑草図鑑;社団法人畜産技術協会,2005

5)Anthony T.Tu・編著:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005

6)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療 改訂第2版;南江堂,2001

「ヂアミトール液の毒性」

金曜日, 10月 5th, 2007

対象物

ヂアミトール液(ベンザルコニウム塩化物 10W/V%)

調査者

古泉秀夫  分類:63.099.BEN  記入日:2007.10.3.

成分

ベンザルコニウム塩化物(benzalkonium chloride)。別名:逆性石ケン。

一般的性状

*殺菌消毒薬である。白色-黄色の粉末又は無色-淡黄色のゼラチン状小片。ゼリー状の流動体で、水に溶ける。水溶液は無色-黄色の澄明の液で、特異なにおいがある。本品は振ると強く泡立つ。陽イオン界面活性剤で、水溶液として外用、器具の消毒に使用される。▼*通常、第4級アンモニウム塩として重視されるのは、逆性石ケンあるいは陽性石ケン等といわれる第4級アンモニウム塩である。カチオン界面活性剤は、逆性石ケンの名称のごとく、通常の石鹸や合成洗剤とは逆の荷電を持つ活性体を有することが特徴であり、臭気がなく、水溶液の味は苦いが、皮膚に付着しても刺激性がなく、毒性も低い。▼*本剤は使用濃度において、栄養型細菌(グラム陽性菌、グラム陰性菌)、真菌等には有効であるが、細菌芽胞、結核菌及び大部分のウイルスに対する殺菌効果は期待できない。▼*手指・皮膚の消毒:通常石けんで十分に洗浄し、水で石けん分を十分に洗い落とした後、本品100-200倍希釈溶液(0.05-0.1%)に浸して洗い、滅菌ガーゼあるいは布片で清拭する。術前の手洗の場合には、5-10分間ブラッシングする。 ▼*手術部位(手術野)の皮膚の消毒:手術前局所皮膚面を本品100倍希釈溶液(0.1%)で約5分間洗い、その後本品50倍希釈溶液(0.2%)を塗布する。 ▼*手術部位(手術野)の粘膜の消毒、皮膚・粘膜の創傷部位の消毒:本品400-1000倍希釈溶液(0.01-0.025%)を用いる。 ▼*感染皮膚面の消毒:本品1000倍希釈溶液(0.01%)を用いる。 ▼*医療機器の消毒:本品100倍希釈溶液(0.1%)に10分間浸漬するか、または厳密に消毒する際は、器具を予め2%炭酸ナトリウム水溶液で洗い、その後本品100倍希釈溶液(0.1%)中で15分間煮沸する。 ▼*手術室・病室・家具・器具・物品などの消毒:本品50-200倍希釈溶液(0.05-0.2%)を布片で塗布・清拭するか、または噴霧する。 ▼*腟洗浄:本品200-500倍希釈溶液(0.02-0.05%)を用いる。 ▼*結膜嚢の洗浄・消毒:本品200-1000倍希釈溶液(0.01-0.05%)を用いる。 ▼*本剤は必ず希釈し、濃度に注意して使用すること。深い創傷又は眼に使用する希釈水溶液は、調製後滅菌処理すること。▼*投与経路:経口投与しないこと。浣腸には使用しないこと。 ▼*使用時:ア.粘膜、創傷面又は炎症部位に長期間又は広範囲に使用しないこと(全身吸収による筋脱力を起こすおそれがある)。イ.密封包帯、ギプス包帯、パックに使用すると刺激症状があらわれることがあるので、使用しないことが望ましい。▼*調製方法:ア.希釈液として塩類含量の多い水又は硬水を用いないこと。イ.繊維、布(綿、ガーゼ、ウール、レーヨン等)は本剤を吸着するので、これらを溶液に浸漬して用いる場合には、有効濃度以下とならないように注意すること。▼*使用時:ア.血清、膿汁等の有機性物質は殺菌作用を減弱させるので、これらが付着している医療器具等に用いる場合は、十分に洗い落としてから使用すること。イ.石けん類は本剤の殺菌作用を減弱させるので、石けん分を洗い落としてから使用すること。ウ.皮膚消毒に使用する綿球、ガーゼ等は滅菌保存し、使用時に溶液に浸すこと。エ.合成ゴム製品、合成樹脂製品、光学器具、鏡器具、塗装カテーテル等への使用は避けることが望ましい。オ.金属器具を長時間浸漬する場合は、腐触を防止するために塩化ベンザルコニウム0.1%溶液に0.5-1.0%の亜硝酸ナトリウムを添加すること。カ.皮革製品の消毒に使用すると、変質させることがあるので使用しないこと。

毒性

*原液又は濃厚液は刺激症状があらわれることがあるので、皮膚・粘膜に付着しないよう注意すること。また、眼に入らないように注意すること。原液又は濃厚液に接触した場合には直ちに水でよく洗い流し、適切な処置を行うこと。

*炎症又は易刺激性の部位(粘膜、陰股部等)に使用する場合には、濃度に注意して、正常の部位に使用するよりも低濃度とすることが望ましい。また、使用後は滅菌精製水で水洗すること。

*ラットの経口致死量(LD50)は、200mg/kgの他、第4級アンモニウム塩として10%溶液は家兎経口致死量(LD50)は0.12mL/kg、ラット経口致死量(LD50)は0.5g/kg等の報告がされている。

*その他、陽イオン界面活性剤を飲用することはないが、血液に入ると溶血作用があり、クラーレ様症状を発現するため危険であるとする報告も見られる。

*ヒトの経口推定致死量として50-500mg/kgとする報告も見られるが、成人が誤飲しても少量であれば問題はない。

症状

*発疹、そう痒感等の過敏症状(頻度不明)があらわれることがあるので、このような場合には使用を中止すること。▼*本品を大量に摂取した場合、胃腸障害、痙攣、虚脱、昏睡を起こす。昭和47年(1972)に生後3カ月から2歳の幼児23名にオスバン液(塩化ベンザルコニウム10%)1mLを誤飲させた事例では、服用直後に嘔吐、口腔・咽頭の発赤、流涎、第2病日に発熱、好中球増多、口腔・咽頭のベラーグ(belag:膿苔)、第4病日より下痢が4-7日続いたと報告されている。またヂアミトール液(benzalkonium chloride 10%)20mLを誤飲した2歳小児が、意識混濁、チアノーゼ、呼吸困難を起こし、15分後に死亡したとする報告も見られる。▼*本品を飲用した人に口腔内の糜爛・出血、咽喉頭の浮腫、食道から十二指腸にかけての出血・糜爛・潰瘍、体液喪失に伴う血液濃縮が見られた。▼*消毒用オスバン

「狼茄子の毒性」

木曜日, 10月 4th, 2007

対象物

オオカミナスビ(狼茄子:wolfeggplant)、ベラドンナ、belladonna leaf[USP・EP]。顛茄草(dianqiecao)は全草を用いる。

調査者

古泉秀夫  記入日:2006.12.31.

成分

主成分はトロパアルカロイド(?)-hyoscyamineで、hyoscyamineの含有量は平均0.4%である。微量のatropine、scopolamine、apoatropine、belladonine等のアルカロイド、クマリン誘導体scopoletin、scopolinを含む。その他タンニン8-9%、succinic acid、aspartic acidを含む。

一般的性状

ベラドンナコン(ベラドンナ根): belladonna root。belladonnae radix。ナス科ベラドンナ属。学名:Atropa belladinna、英名:Deadly Nightshade。和名:別刺敦那。ブルガリア:ルド・ヴィレ(気違い草)。

本品はAtropa belladonna Linn