「狼茄子の毒性」
木曜日, 10月 4th, 2007|
対象物 |
オオカミナスビ(狼茄子:wolfeggplant)、ベラドンナ、belladonna leaf[USP・EP]。顛茄草(dianqiecao)は全草を用いる。 |
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調査者 |
古泉秀夫 記入日:2006.12.31. |
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成分 |
主成分はトロパアルカロイド(-)-hyoscyamineで、hyoscyamineの含有量は平均0.4%である。微量のatropine、scopolamine、apoatropine、belladonine等のアルカロイド、クマリン誘導体scopoletin、scopolinを含む。その他タンニン8-9%、succinic acid、aspartic acidを含む。 |
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一般的性状 |
*ベラドンナコン(ベラドンナ根): belladonna root。belladonnae radix。ナス科ベラドンナ属。学名:Atropa belladinna、英名:Deadly Nightshade。和名:別刺敦那。ブルガリア:ルド・ヴィレ(気違い草)。 *本品はAtropa belladonna Linné(Solanaceae)の根である。本品を乾燥したものを定量するとき、ヒヨスチアミン0.4%以上(総アルカロイド含量は0.4-0.8%)を含む。本品は円柱形を呈し、通例、長さ10-30cm、径0.5-4cm、しばしば横切又は縦割りされている。外面は灰褐色-灰黄褐色を呈し、縦じわがある。周皮はしばしば除いてある。折面は淡黄色-淡黄褐色を呈し、粉性である。 *本品は殆ど臭いはなく、味は苦い。ヨーロッパでは古くから知られた薬物の一つ。葉を古くから薬用としており、その後根も使われるようになった。 *原植物Atropa belladonnaL.[T.G.Tutin:Flora of Europae]。ヒマラヤ山系からコーカサス、イラン、小アジア、ヨーロッパにかけてのブナ帯に分布、各国で栽培される多年草。 *atropineは植物体内では(-)-hyoscyamineの型をしているが、抽出の過程でラセミ体のatropineになる。鎮痛鎮痙薬。 |
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毒性 |
*ナス科には有毒アルカロイドを含む植物が多い。その中でもatropine、scopolamineのようなalkaloid(アトロピン系アルカロイド)が得られる有毒植物が多い。atropineは神経伝達物質の一つであるacetylcholineと部分的に類似した化学構造を持っており、体内にはいると副交感神経のシナプスで、acetylcholine受容体に結合してしまい、神経の興奮伝達を阻害する。atropineは副交感神経抑制薬としての作用を持っている。 *atropine :LD50(ラット経口)750mg/Kg。atropine半致死量:200mg。atropine極量:2-3mg/回。 *scopolamine半致死量:100mg。scopolamine極量:0.5mg/回。 *毒成分が特に多いのは果実で、小さな子供なら5-6粒が生死を分けるボーダーラインとされている。 |
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症状 |
[副]口渇、便秘、瞳孔散大、興奮状態などが認められる。 *経口摂取した糊膏4gの作用で大人が死んだことがある。ベラドンナ硬膏は中毒症状を起こすことがある。2mLのベラドンナチンキは危険症状を起こすことがある。本植物の果実3又は4個を子供が食べると、興奮、不安、幻覚、口の渇き、悪心、嘔吐を起こすことがある。子供に対する致死量は通常果実20-30個、しかしそれ以上の量でも必ずしも致命的ではない。新鮮な本植物の他の部分は殆ど食べられることはないが、非常に有毒である。 *belladonnaalkaloidは、副交感神経と汗腺に行く交感神経の末端で、これから遊離するacetylcholineの作用を遮断する。従って、中枢作用以外の症状は全てこれで説明できる。中毒症状として常に見られるのは、副交感神経の麻痺による散瞳と遠近調節力や対光反射の消失である。自覚症状として、眩しさや眼のちらつきが現れる。 *中枢神経に対しては当初軽い抑制、続いて刺激症状、反射の亢進、更に重篤になると昏睡から死に至る。 *不安、譫妄、失見当識、幻覚、活動亢進などが見られるため精神分裂病の急性期や急性アルコール中毒と間違われることがある。 *涙腺、唾液腺、汗腺などの外分泌が抑制される。口腔粘膜が乾燥するので、口渇、発声困難、嚥下困難などを訴える。発汗が抑制されるので、皮膚乾燥、熱感を持つ。皮膚の紅潮を見るが、顔面、首、上半身に著しく、特に小児によく見られる。発汗が抑制されるので体温が上昇する。特に小児、高温環境では43℃にも達し、その場合致命的である。小児では鼓腸が見られる。頻脈、血圧上昇が見られるが、末期には血圧低下、呼吸麻痺が起こる。 |
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処置 |
*交感神経の麻痺で消化管の蠕動が抑制され、摂取したものが胃内に長時間滞留する。これはbelladonnaalkaloid中毒の初期治療における重要事項で、摂取後24時間以内であれば、催吐・胃洗浄、薬用炭(活性炭)と下剤の投与が適応である。膀胱の弛緩性麻痺が起こるため尿閉となり、しばしば導尿の必要がある。導尿しないと尿を失禁する。 *胃洗浄:洗浄液を注入する前には出来るだけ胃内容物を排出しておく。洗浄液の1回毎の注入量は、成人では200-300mL(水又は生理食塩液)、幼児では10-20mL/kgとする。通常は5-20mLの洗浄を目安に、排液が透明になるまで繰り返す。残渣の可能性を考慮し、体位交換・胃管先端の位置を移動させたりする。 *後処置:活性炭(成人で50-100g)と緩下剤(35%程度に希釈したソルビトール溶液を成人で1-2g/kg、小児では0.5-1g/kg又は13.6%-クエン酸マグネシウム剤2-4mL/kg)を注入し、胃管を抜去する。 *治療は抗コリンエステラーゼ剤を投与、acetylcholineの分解を抑制し、これを神経末端に蓄積させることを考える。中枢作用に拮抗させるためには、抗コリンエステラーゼ剤の中でも血液脳関門を通過し、中枢神経内に入るものでなければならない。現在あるものとしてはフィゾスチグミンだけで、belladonnaalkaloid中毒の特効薬で、静注により劇的な改善が見られるが、我が国では市販されていない。使用する場合院内製剤を考慮する。2mgを緩徐に静脈内投与し、効果を見た上で20分後に1-2mgを追加する。小児では0.5mgを使用する。 |
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事例 |
「おい、フォアマンさんよ、もう一度最初から言おうか。あんたは金さえ払ってもらえば、赤い砒素やナイトシエード(nightshade:狼茄子)、ベラドンナその他の命にかかわる薬を売っている。なあ」彼は嘘をついた。 「わたしの札入れのなかには首席裁判官の委任状が入っている。わたしがここにいるあいだに、この書記が急いでシティにもどり、代官代理の部下を連れてきて、ここを捜査することにしようか。赤い砒素だろうと白い砒素だろうと、罌粟の果汁だろうとしやらしい媚薬だろうと、ほんのぽっちりでも毒がここにあったら、あんたはギルドホールではなく王座裁判所で弁明することになるぞ!。なあ、この家のどこかに、売っているものの記録や控えがあるはずだろう?」 薬種屋の顔は青ざめ、額には玉の汗が浮かんだ。 「わたしを法廷に引きずり出したら………」男は小声で言った。「クランストン、あんたをあしざまに言う連中はおおぜいいるぞ!、わたしには有力な友達がいるんだ」視線はアセルスタンに飛んだ。「大修道院長とか、助祭長とか、司祭とか。みんな喜んでこわたしを守り、わたしの秘密を………それに彼らの秘密も………法律という明かりから隠しておいてくれるさ!」 「よかろう!」クラストンは答えた。[古賀弥生・訳(ポール・ドハティー:Paul Doherty):毒杯の囀り;創元推理文庫,2006] |
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備考 |
使用された毒物はベラドンナと砒素の混合物だと言うことになっているが、相当臭いがきついということで、使用時の工夫はされている。主人公はロンドンのシティの検死官(国王勅任)ジョン・クラストン卿でありその書記兼代書人を務めるアセルスタン修道士(托鉢修道士)であるが、探偵そのものはアセルスタン修道士である。 時代は1377年、場所はロンドン。老王エドワード三世の崩御と、まだ幼いリチャード二世の即位により、政情に不穏な気配が漂うさなかという背景のなかでの毒殺事件である。勿論鑑識技術が定着しているわけではなく、毒の判定も臭いをかいだ結果ということであり、大らかなものであるが、それにしても汚い街で、伝染病で住人が全滅しないというのが不思議なくらいである。それだけ免疫が出来ていたということなのか。 |
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文献 |
1)英名:Belladonna, Deadly Nightshade 2)第十五改正日本薬局方解説書;廣川書店,2006 3)植松 黎:毒草を食べてみた;文藝春秋,2000 4)大木幸介:毒物雑学事典-ヘビ毒から発ガン物質まで-;講談社ブルーバックス,1999.12.24. 5)船山信次:図解雑学-毒の科学;ナツメ社,2004.9.20. 6)白川 充・他共訳:薬物中毒必携 第2版;医歯薬出版株式会社,1989 7)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療 改訂第2版;南江堂,2001 8)山口 徹・他監修:今日の治療指針;医学書院,2006 |