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彼岸花(曼珠沙華)

金曜日, 10月 26th, 2007

                                                                        鬼城竜生

彼岸花の写真を撮りたいと、神奈川県大和市福田にある常泉寺を訪ねた。川崎から藤沢に出て、小田急江ノ島線で高座渋谷駅へ。駅の西口に出て、本来であれば新たな街が出来ていたと思われる駅前を、将来予定されている商店街を抜けて、右折すると電柱の所々に“花のお寺 常泉寺”の案内が見える。
IMG_001 訪れた2007年9月26日は門の建て直しの工事をしており、門前からの全体的な雰囲気を見ることは出来なかった。常泉寺は山号を“清流山”といい、宗旨は禅宗の曹洞宗であるという。本山は福井県の永平寺、横浜の総持寺で、創建は1588年(天正16年)だとされている。本尊は聖観世音菩薩だという。
花の寺というのは、「かながわ花の名所100選」に三椏(ミツマタ)の花が選定されているからであるというのは解るが、それ以外にも年間を通して四季折々の花が咲き、この時期の彼岸花も知られているようである。
しかし、境内に足を踏み入れると、先ず驚かされるのが色とりどりの河童が置かれていることである。そこで境内の御札所にいたおばさんに訊ねた。
「ここは禅寺ですよね。禅寺と河童はどんな関係があるんですか。凄い数が置かれているようですが」
「ここのお寺の境内には湧き水がわいています。その水が涸れないようにということで、住職が、水の神様である河童を置いたんです。最初は、極く僅かだったんですが、段々増えてきたんです」。
  しかし、入り口に立っている『花のお寺常泉寺』の案内をかねた石地蔵も明らかに河童  IMG_002 (写真参照)であり、境内には河童の七福神の石像が飾ってある等というところを見ると、相当意図的に集めまくっているということではなかろうか。最も、入り口で渡された簡単な案内書に、『御来寺の方の一人一人と接することの出来ない住職が、自分の替わりに』と境内に置いたものとのこと。兎に角大小取り混ぜて、目子算ではあるが、100体は超えているのではないかと思われた。勿論、河童だけではなく、立像や座像の地蔵もあちらこちらに置かれており、まかり間違えば、嫌みに見えるところを、そうならないところは、境内に緑が多く、更に種々の花が咲いている、例えば石の座像のそばに紫式部が咲いている等という配置のされ方が、雰囲気を醸しているということだろう。
ところでついでに覗いた御札所にも、河童の陶器の人形がお土産として置かれており、釣りをしている河童の人形を見かけたため、ついつい購入してしまった。最近は専ら梟の人形を集めており、河童を手に入れる筋合いはなかったが、釣りをしているというもう一方の要素で、つい購入してしまったということである。
さて本題の彼岸花(曼珠沙華)の方だが、白と赤の彼岸花が咲いていた。しかし、時期的には白が先に咲き、赤が後からということからすると、白と赤が同時に満開になることはないようである。白が開いた後に、赤がぼちぼちと開き初めるということで、赤が満開になる時には、白は最早見るに堪えない状態になっているということのようである。事実、今回も白の花が目立つ割に、赤は蕾の部分が多く、庭の一部では白と赤が混在して、手頃に花を咲かせているという場所も見られたが、そのような場所でも白がやや優勢で、赤は少々遠慮しているという様子が見られた。

IMG_003 *彼岸花(曼珠沙華)、Lycoris radiata Herb.ヒガンバナ科ヒガンバナ属。英名:red spider lily(赤い蜘蛛百合)。名称は秋の彼岸の頃に花が咲くのによる。日本各地及び中国に分布。堤防や道端、墓地など人気のあるところに生える多年草。秋の葉のない時には地下の鱗茎から高さ30cmの花茎1本を出し、数花を輪状に開花する。花被片6は細長く外側に反る。雄しべ6と雌しべが長く出て同色、結実しない。花後に葉を束生して翌3月に枯れる。有毒。毒成分はlycorinという植物alkaloid。中国渡来説もある。彼岸花の球根には良質の澱粉が含まれ、飢餓の時にはこの澱粉が食用にされたため、あちこちに植えられたという。しかし、球根の澱粉をそのまま食べると嘔吐や下痢を起こす。
曼珠沙華という名称は『天上に咲く実在しない架空の花』ということであるとされている。因みに種小名のradiataは『放射線状の』という意味であり、花の開いた様を示している。
ところで彼岸花に蝉の抜け殻が付いている写真は、別に抜け殻を持参して撮った訳ではない。偶然、境内の彼岸花に蝉の抜け殻が付いているのを見つけて写しただけである。ただこの時期に脱皮する蝉は何蝉かを考えた場合、抜け殻の大きさからは油蝉とも思われるが、如何に厳しい残暑続きの夏の終わりとはいえ、油蝉がいるかという点ではよく分からない。しかし、抜け殻の状態は良好であり、そう先に抜け出したものではないと思われるので、あるいは油蝉が時期を間違えて出てきてしまったということかもしれない。

1)牧野富太郎:原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版1;北隆館,2003
2)海老原昭夫・編著:知っておきたい毒の知識;薬事日報社,2001

                                                                  (2007.9.29.)