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「蓮華躑躅(レンゲツツジ)の毒性」

金曜日, 10月 5th, 2007

対象物

蓮華躑躅

調査者

古泉秀夫

分類

63.099.RHO

記入日

2007.4.6.

成分

葉:アンドロメドトキシン(andromedotoxin)

花:ロドジャポニン(rhodjaponine)

根皮:スパラゾール(sparazol)

有毒ジテルペンのrhodjaponine I-VIIを含む。

ツツジ科植物にはジテルペン構造を持つグラヤノトキシン(grayanotoxin)I-III等の有毒物質が含まれている。命名の由来は最初に同定されたハナヒリノキ(学名:Leucothoe grayana)に由来する。このうちgrayanotoxin-Iはandromedotoxinとも呼ばれている。また蓮華躑躅から抽出されたロードトキシン、アセビから抽出されたアセボトキシンもgrayanotoxin-Iと同一物質である。

一般的性状

ツツジ科ツツジ属。北海道西南部から九州の水湿十分な高原や野にはえ、観賞用に庭園に栽培する落葉低木。高さ1-2m、多数綸生状に分枝。葉は長さ5-10cm、繊毛あり、時に裏白がある。花は4-6月、新葉と共に開き散形状に横向きに頂生。花冠5裂、径5-6cm、朱紅、濃朱紅、黄色の品種がある。雄しべ5、雌しべ1。

学名:Rhododendron japonicum Suringer。

ツツジ科は103属3350種含まれる大きな科で、特に躑躅、シャクナゲを含むツツジ属は850種あり、その多くが園芸植物として栽培されている。

別名:馬躑躅、鬼躑躅、毒躑躅、べこ躑躅。

有毒部分:葉、花、根皮、花蜜。

ツツジ科植物の有毒性は古くから知られており、紀元前4世紀のギリシャの軍人・著述家クセノフォン(Xenophon)はその著書の中で兵士たちがツツジ属植物やハナヒリノキ(Leucothoe grayana)の蜜に由来する蜂蜜で中毒した様子を記録している。最近でもトルコでツツジ属の花から採った蜂蜜によるヒトの中毒事故の報告があった。

毒性

痙攣毒。

grayanotoxinは細胞膜上のNaチャンネルの第2結合部位に結合し、Naチャンネルを開いて持続的な脱分極を起こす。この作用が心筋、骨格筋、中枢神経、末梢神経に症状となって発現する。grayanotoxinは、神経終末で持続的な脱分極を起こすため、Ca2+が神経終末に流入し、伝達物質の過剰放出や枯渇をもたらすことが知られている。

grayanotoxin:C22H36O7。アセボトキシン、アンドロメドトキシンともいう。grayanotoxin I:LD50(マウス・腹腔内)1.31mg/kg、grayanotoxin II:LD50(マウス・腹腔)26.1mg/kg。▼rhodjaponine:rhodjaponine I、II、IIIが蓮華躑躅の花から検出されている。蜂がこの毒を含む蓮華躑躅の花から蜜を集め、それを摂食して中毒になることがある。▼ネジキ(ツツジ科ネジキ属:Lyonia ovalifolia var. elliptica)の場合、体重の1%の摂取で牛は死亡する(古く島根県の三瓶地方では霧酔病と呼ばれていた)。▼アセビの場合、体重の0.1%の摂取で山羊に中毒が起こる。

症状

grayanotoxinを含む植物を摂取した動物は嘔吐や泡沫性流涎を起こし、軽症では沈衰、四肢開張、蹌踉、知覚過敏となる。重症では、四肢の麻痺、起立不能、更に簡潔性の疝痛、腹部膨満、呼吸促迫、脈の細弱不整、更に全身麻痺に陥る場合もある。ただし、回復は早く、致命率は高くない。

grayanotoxin類による症状は、口唇の痺れ、四肢の痺れ、眩暈、脱力感、発汗、吐き気、口渇、低血圧などで、摂食後1-2時間で発現する。心電図異常、期外収縮、心室性頻脈、伝導障害、徐脈が見られる。心拍出量が減少し、脳血流量が低下するため、意識消失、失神、更にそれに起因する痙攣が見られることがある。

処置

徐脈に対してはatropine、房室ブロックに対してはisoproterenolが効果がある。これ以外は保存的療法でよい。予後は良好であると報告されている。

事例

縁側には酒肴が用意され、平皿には独活と躑躅の花弁が盛ってある。躑躅の赤に独活の白、鮮やかな色彩が目を楽しませてくれた。躑躅には「食い花」の異名がある。▼赤い花弁を食うおつやの仕草が、妙に艶めいてみえた。三左右衛門は盆栽を抱えたまま、庭の端に突ったっていた。▼………………半兵衛は皺首をねじり、にっと入れ歯を?いた。無造作に躑躅の花を手折り、こちらへ差し出す。

▼「食うか」

▼「はあ」

▼「ふっ、やめておけ」

▼「誘っておいてそれはないでしょう」

▼「これは蓮華躑躅じゃ、食えば脳味噌が痺れ、足はふらつく。莫迦な山羊なぞがよく引っかかるのよ、くくく」

▼「わたしは山羊ですか」

▼「山羊のほうがましじゃろうな。ふっ、ちょっと見はおなじに見える可憐な花でも、毒をふくんでおることがままある。おなごもいっしょじゃ、不器用なおぬしに教訓を垂れてやったまでよ」

▼「余計なお世話ですな」[坂岡 真:照れ降れ長屋風聞帳 あやめ河岸;双葉文庫,2006]。

備考

蓮華躑躅が話の初めに出てくるので、毒殺目的で使用されるその複線かと期待していたが、そういうことではなかったようである。本書の主人公である三左右衛門は、小太刀の名手で、盲目の剣士富田勢源の再来といわれる男である。大体、小説の主人公で剣が強いということであれば、長いものを扱うのが通例だが、この主人公は長物は竹光で、使うの小太刀である。それだけでも変わっているが、どうやら風采も上がらず、女のヒモみたいな生活をしているが、一見、他人事には冷ややかな対応を示すが、本質的には無闇にお節介な性格が災いして事件に巻き込まれるということである。その意味では事件の進展の中で、蓮華躑躅が使用されれば面白い物語の展開になったのかもしれないが、あまり強力な毒性はなく、死亡することはないということであるから、物語の味付に持ち出したくらいで丁度いいのかもしれない。

文献

1)牧野富太郎:原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版1;北隆館,2003

2)海老原昭夫:知っておきたい身近な薬草と毒草;薬事日報社,2003

3)海老原昭夫・編著:知っておきたい毒の知識;薬事日報社,2001

4)清水矩宏・他編著:牧草・毒草・雑草図鑑;社団法人畜産技術協会,2005

5)Anthony T.Tu・編著:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005

6)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療 改訂第2版;南江堂,2001