KW:臨床薬理・緑茶・茶葉・チャヨウ・タンニン・tannin・緑茶タン ニン・栄養成分・機能性成分・カテキン・catechin・消毒・タンニン酸・tannic acid
Q:最近富にお茶、特に緑茶の効用が叫ば れ、カテキンがもてはやされています。昔からお茶は、薬効があるものとされていましたが、お茶の効用及びその成分等について教えてください。
A:通常、日本人が飲用するお茶は、生薬名「茶葉(チャヨウ)」と呼ばれる ものである。
ツバキ科(Theaceae)のチャ(Camellia sinensis L.)の葉を摘み、セイロで蒸し、酸化酵素の作用を停止したものである。
日常的に飲用するお茶は煎茶と考えられるので、煎茶の栄養成分を以下に紹介する。
 | 
茶葉 | 
浸出液 | 
| エネルギー | 
331kcal | 
2kcal | 
| 水分 | 
2.8g | 
99.4g | 
| 蛋白質 | 
24.5g | 
0.2g | 
| 脂質 | 
4.7g | 
(0) | 
| 炭水化物 | 
47.7g | 
0.2g | 
| 灰分 | 
5.0g | 
0.1g | 
| 無機質 | 
Na | 
3mg | 
3mg | 
| K | 
2200mg | 
27mg | 
| Ca | 
450mg | 
3mg | 
| Mg | 
200mg | 
2mg | 
| P | 
290mg | 
2mg | 
| Fe | 
20.0mg | 
0.2mg | 
| Zn | 
3.2mg | 
Tr | 
| Cu | 
1.30mg | 
0.01mg | 
| Mn | 
55.00mg | 
0.31mg | 
| ビタミン | 
A | 
retinol | 
(0) | 
(0) | 
| carotene | 
13000μg | 
(0) | 
| レチノール当量 | 
2200μg | 
(0) | 
| D | 
(0) | 
(0) | 
| E | 
68.1mg | 
? | 
| K | 
1400μg | 
Tr | 
| B1 | 
0.36mg | 
0 | 
| B2 | 
1.43mg | 
0.05mg | 
| niacin | 
4.1mg | 
0.2mg | 
| B12 | 
(0) | 
(0) | 
| 葉酸 | 
1300μg | 
16μg | 
| pantothenic acid | 
3.10mg | 
0.04mg | 
| C | 
260mg | 
6mg | 
| 脂肪酸 | 
飽和 | 
0.62g | 
? | 
| 一価不飽和 | 
0.25g | 
? | 
| 多価不飽和 | 
1.95g | 
? | 
| コレステロール | 
(0) | 
(0) | 
| 食物繊維 | 
水溶性 | 
3.0g | 
? | 
| 不溶性 | 
43.5g | 
? | 
| 総量 | 
46.5g | 
? | 
| 食塩相当量 | 
0 | 
0 | 
| 廃棄率 | 
0 | 
0 | 
| カフェイン | 
2.3g | 
0.02g | 
| タンニン | 
13.0g | 
0.07g | 
表1.中の浸出液は茶葉10gを90℃の湯430mLに1分間浸出したものである。茶葉中の栄養成分と比較して浸出成分は極く僅かな量である。
緑茶タンニンでは70mg/100mLに過ぎない。
次に茶葉に含まれる機能性成分について紹介する。
メチルキサンチン類(caffeine 4%、theobromine、adenine、xanthine)
一般に知られているものでmethylxanthine類の一部はタンニンと結合している。
(?)-epigallocatechin gallate(エピガロカテキンガレート)
茶葉の主成分で緑茶の渋味の本体である。
(?)-epicatechin gallate(エピカテキンガレート)
渋味がある。
これらは低分子であるが、蛋白質と結合しやすいなどタンニン(tannin)としての諸性質を備えているため、 tanninの一種(緑茶タンニン)として取り扱われている。
緑茶中の カテキン[(+)-catechin、(?)-epicatechin、(?)-epigallocatechinを含む。]の量は10%前後で、そのうち半分以上が(?)-epigallocatechin gallate(EGCG)である。
EGCGの抗酸化作用や抗発癌プロモーター作用が種々の動物実験で確かめられており、発癌予防の観点から注目されて いる。
tannin
蛋白質、塩基性物質、金属などに強い親和性を示し、難溶性沈殿を生成する植物性ポリフェノール群の総称である。tanninの名称(tan=皮を鞣す)からも明らかなように、従来皮なめし効果を持つものとして取り扱われてきた。
化学構造の特徴から加水分解性タンニン(hydrolyzable tannin)と縮合型タンニン(condensed tannin)とに大別される。縮合型タンニンはcatechine類の縮合物である。
縮合型タンニンはプロアントシアニジン (proanthocyanidin)と呼ぶのが一般化しつつある。
緑茶中に含まれる機能性成分の効能について、次の報告がされている。
| 栄養成分 | 
ビタミンC | 
  抗酸化、抗ストレス、風邪予防 | 
| 葉酸 | 
茶葉には葉酸が高含量に含まれており、その半分程度が茶葉浸出液に溶出され、玉露、茎茶、芽茶で は30-45μg/100mLと報告。
 葉酸は体内でメチレーションの補酵素として機能し、巨赤芽球性貧血症予防効果や新生児の神経管欠損予防効果がある。  | 
| カフェイン | 
眠気を覚ます興奮作用、胃液の分泌を促し消化を高める作用、脂肪蓄積予防作用を持つ。 | 
| 機能性成分 | 
カテキン
 EGCG 
(epigallocatechin-gallate) 
EGC 
(epicatechin-gallate) 
EGCG3Me 
(epigallocatechin-3-o(3-o-methyl)-gallate  | 
活性酸素を除去する酸素ラジカル吸収能。1杯の緑茶にはカテキンが70mg程度含まれ、野菜等の 10倍程度の抗酸化能を持つ。
 *細胞膜の脂質二重層と高い親和力を持つ。 
*幾つかの反応でレセプターの役目をするガレート部位を持つ等の理由から 特に抗酸化性が高いとされている。 
[1]経口投与で血漿の活性酸素消去活性が上昇し、総コレステロール、LDL コレステロール、中性脂肪値を減少させる。 
[2]血漿中のLDLの酸化を抑制し、動脈硬化を防止する。 
[3]小腸粘膜スクラーゼの酵素活性を非拮抗的に阻害し、血 中グルコース濃度を低下させ(ラット)、糖尿病を予防する。 
[4]血圧上昇物質であるアンジオテンシンIIへ変換する酵素(ACE)の活性部位にガレート部が 結合し酵素作用を阻害し、血圧を抑制する。 
[5]抗酸化能により遺伝子の突然変異を抑制して発がんのイニシエーションを抑制する。 
[6]発がんプロモータのレセプ ターに拮抗的に結合し、プロモーションを抑制する。 
[7]抗菌、抗ウイルス作用により、食中毒や風邪を予防する。 
メチル化カテキン:強い抗アレルギー作用が報告。  | 
| テアニン
 (グルタミン酸エチルアミド)  | 
玉露のような高級なお茶に多く含まれる旨味成分。
 テアニンはL系の輸送系を介し、血液脳関門を通 過して脳内に送り込まれる。 
また経口摂取によりラットで血圧降下作用、脳内ドパミン放出量の増加作用があることが確認されている。 
ヒトでの試験では脂肪蓄 積抑制作用や、200mgというかなり高濃度のテアニン摂取下ではリラックス時にみられる脳内α波の増大が報告されている。  | 
| サポニン | 
肥満や脂肪肝を抑制することがマウスで確認されている。
 サポニンは膵リパーゼ作用を阻害し、脂肪 の腸管吸収を低下させる。  | 
なお、病棟において茶浸出液を、含嗽・陰部洗浄等に使用しているとされる が、その目的は、茶浸出液の抗菌作用に期待したものであると考えられるので、茶浸出液の抗菌作用に関する報告を以下に紹介する。
[1]
近年、鶏卵・鶏肉及びその加工品によるSalmonella Enteritidis汚染に起因するサルモネラ食中毒が増加していることから、養鶏場におけるSalmonella Enteritidis汚染防止対策目的で鶏存在下に噴霧できる消毒薬の検討目的で実験した。
その結果としてSalmonella Enteritidisに対するcatechiの試験管内殺菌効果について、次の報告が見られる。
 | 
 | 
有機物 | 
| 消毒資材 | 
濃度 | 
 無 | 
有 | 
| カテキン | 
250ppm
 500ppm 
1000ppm  | 
効果なし
 効果なし 
効果なし  | 
効果なし
 効果なし 
効果なし  | 
註]効果なし:作用時間5分間で殺菌できないもの。
ただし、本実験はcatechiを使用したもので、お茶の浸出液を使用した ものではない。
[2]
緑茶のMRSA菌に対する効果について実験した例では、おーいお茶L缶 (伊藤園)245gを連日飲用。試料中の(?)-epigallocatechin-gallate濃度は120μg/mL。健常男子5人には2缶、 MRSA保菌者3人には1缶を飲用させた後、血中の(?)-epigallocatechin-gallateの
濃度を測定。また(?)-epigallocatechin- gallateのMRSAに対する最小発育阻止濃度は15μg/mLあるいは32-64μg/mLと報告されている。
 | 
最高血中濃度到達時間 | 
最高血漿中濃度 | 
| 健常者5人 | 
約1-2時間 | 
0.01082-0.034μg/mL | 
| MRSA保菌者3人 | 
0.00741-0.00927μg/mL | 
| 14日以内 | 
29日以内 | 
46日以内 | 
87日以内 | 
| 2人 | 
2人 | 
3人 | 
1人 | 
以上の結果からMRSAの陰性化における作用機序は、緑茶飲用後吸収された (?)-epigallocatechin-gallateが除菌効果を示しているとは考えにくい。
緑茶中の(?)-epigallocatechin- gallateの濃度は120μg/mLであることから、緑茶飲用によって咽頭に付着している菌に対して、直接作用により除菌効果を示していると思われ る。また、緑茶を飲用することによる咽頭附着菌の洗浄効果を示していることが示唆されたとしている。
ただし、本実験では、市販の缶入りのお茶を使用しており、茶葉から直接浸出 した浸出液でないという点で含有成分量が異なることが考えられる。
[3]
茶葉10gに沸騰した蒸留水500mLを加え、2分間抽出後濾紙で濾過した液を用いてMRSA、MSSA、E.coli、Enterobacter cloacae、P.aeruginosaに対する抗菌力を検討した実験で、
| 緑茶濃度 | 
100% | 
75% | 
50% | 
| MRSA | 
発育無し | 
発育無し | 
発育無し | 
| MSSA | 
発育無し | 
発育無し | 
発育無し | 
| E.coli | 
発育無し | 
発育無し | 
発育無し | 
| Enterobacter cloacae | 
発育無し | 
発育無し | 
発育無し | 
| P.aeruginosa | 
発育無し | 
発育無し | 
3コロニー | 
また、MRSAに対する緑茶の作用時間によるコロニー数の推移を見ると、 100%あるいは50%濃度で48時間後に0とする報告がされている。緑茶による発育抑制は緩やかなものであり、消毒液のように短時間で効果は見られず、 一夜以上を要した。菌液濃度がデータに大きく関係し、接種菌量が多いと緑茶の効果は見られなかったとする報告がされている。
[4]
Streptococcus pneumoniaeに対する緑茶抽出エキス及び茶から抽出、精製したカテキン[(?)epigallocatechin gallate:EGCg]の抗菌・殺菌作用について検討した。標準菌株9株と臨床分離株49株に対するepigallocatechin gallateのMICは250μg/mL(MIC90)で、通常飲用濃度(2.5%)で十分な殺菌作用を示した。
Penicillin-resistant-Streptococcus pneumoniae(PRSP)11株に対するepigallocatechin gallateとペニシリンとの併用効果を検討したところ、1/4MICのepigallocatechin gallateを併用することによって、高度耐性株が感受性株と同じ濃度のペニシリンで殺菌されることが分かった。
PCR法を用いたこれら耐性株の耐性遺 伝子の検出結果から、これらPenicillin-resistant-Streptococcus pneumoniaeに対するペニシリンとepigallocatechin gallateの併用効果は、Penicillin-resistant-Streptococcus pneumoniaeの耐性獲得機序に関係なく得られることが判明した[伊藤 勇・他:日化療会誌,50(2):118-125(2002.2.)]。
なお、局方タンニン酸(tannic acid)は、五倍子又は没食子酸から得たタンニンであるとされている。本品は局所収斂薬、含嗽薬として使用される。酸性並びに中性溶液で蛋白を凝固し 収斂作用を呈する。これにより局所の保護及び抗炎症作用を示す。
- 副作用:長期連用・大量の外用により経皮吸収による肝障害を起こす可 能性がある。また皮膚の乾燥・変色が現れることがある。濃厚液の含嗽により粘膜の粗荒・乾燥、舌・口腔・咽頭粘膜の知覚鈍麻が現れることがある。
 
- 適用:口腔・咽頭粘膜の炎症性疾患、極めて小範囲の熱傷及び創傷、肛門及 びその周囲の糜爛・炎症における収斂を目的として、含そう剤として2%水溶液を、外用剤として2-5%の軟膏を用いる。
 
天然に産出する植物の成分は、地味・気候等の外部環境に影響される。また、煎茶の場合、一番摘み とそれ以後の茶ではタンニンの含有量が異なるとする報告も見られるため、安定した効果を期待することは出来ないと考えるべきである。従って、通常飲用する お茶を利用して、医療機関内で発生する感染を防止することは不適当であるといわざるを得ない。
[015.4.CAT:2003.9.14. 古泉秀夫]
- 古泉秀夫・編著:健康食品Q&A;じほう,2003
 
- 香川芳子・監修:五訂 食品成分表;女子栄養大学出版部,2003
 
- 川上美智子:おばあちゃんの知恵袋-ことわざでみる食物[1];食生活, 97(4):43-47(2003)
 
- 田中 治・他編:天然物化学;南江堂,2002
 
- 緑茶に含まれるカテキンはウロキナーゼ阻害作用によりがんを抑制、米研 究報告;医薬関連情報,6:453(1997.6.)
 
- 三重県科学技術振興センター農業技術センター(畜産)中小家畜グルー プ:実験室レベルにおける噴霧消毒に有効な消毒資材;
http: //www.mate.pref.mie.jp/marc/kennkyuuseika/seikajouhou/H12/14seikaH12.PDF,2003.9.12. 
- 中村 護・他:緑茶のMRSA菌に対する効果;医薬ジャーナル,35 (2):695-699(1999)
 
- 石川恵子・他:新生児病棟(NICU)における緑茶を用いた院内感染対策;http: //www.chiringi.or.jp/k_library/kaishi/kaishi2002_3/,2003.9.12.
 
- Streptococcus pneumoniaeに対するepigallocatechin gallateの殺菌作用;医薬の窓-近着誌から-;薬事新報,No.2215:586(2002)