Archive for 2月 28th, 2012

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『銀翹散について』

火曜日, 2月 28th, 2012

 

KW:臨床薬理・銀翹散・ぎんぎょうさん・風邪・かぜ・金銀花・連翹・薄荷・桔梗・甘草・荊芥・淡竹葉・淡豆鼓・牛蒡子・羚羊角

Q:銀翹散について

A:銀翹散(クラシエ製薬)は、次の処方により構成されている。
銀翹散エキス粉末…5,900mg(成人1日の服用量3包(1包2.3g)中含有量)
金銀花………4.26g
連翹…………4.26g
薄荷…………2.556g
桔梗…………2.556g
甘草…………2.556g
淡竹葉………1.704g
荊芥…………1.704g
淡豆鼓………2.136g
牛蒡子………2.136g
羚羊角………0.132g
全量…………24g

銀翹散エキス顆粒は漢方の古典と云われる中国の医書『温病条弁(うんびょうじょうべん)』に収載される銀翹散という漢方を基本として創られた処方である。
効能:かぜによる喉の痛み・口(のど)の渇き・せき・頭痛。
用法・用量:1日3回食前又は食間に水又は白湯で服用。
成人(15歳以上):1包/日。15歳未満7歳以上:1/2包/日。7歳未満5歳以上:1/4包/日。5歳未満:服用禁。
副作用:偽アルドステロン症(尿量減少、顔・手足の浮腫み、目蓋が重くなる、手の強張り、血圧上昇、頭痛等)。皮膚(発疹、発赤、痒み)。消化器(悪心、食欲不振、胃部不快感)。

連 翹:(forsythiae suspensa[局]):トリテルペノイドとしてはbetulinic acid、ursolic acid、oleanolic acid、リグナン及び配糖体phillygenin、phillyrin、arctigenin、arctiin、フラボノイドのrutin、quercitrin等が報告されている。その他、forsythoside A、forsythin、forsythigeninの含有が検討されている。連翹が熱性疾患や化膿性疾患に対して用いられることにより、抗菌作用、抗炎症作用が検討されている。連翹の適応症の一つに細菌感染症があると見なされることから抗菌作用の検討され、煎液には黄色ブドウ球菌、赤痢菌A群、溶血連鎖球菌、肺炎双球菌、チフス菌などに抗菌作用を示し、結核菌やインフルエンザ・ウイルスを抑制するの報告がある。その他、抗アレルギー作用、抗炎症作用が報告されている。

薄 荷:(mentha arvensis L.var.piperascens):精油を1%内外含有し、葉に1.5-4%、茎に0.1-0.3%含む。l-menthol 30-67%、methylacetate 5-31%、l-menthone 2-22%の他に、1,8-cineole、β-caryophynene、l-limonene、isomenthone、germacrene-D、piperitone、pulegone等のテルペノイドを含む。薄荷培養細胞由来の細胞外多糖中に含まれるペクチン成分に関する報告がある。薄荷油は中毒量以下で鎮痙的あるいは運動抑制的に作用する。薄荷油は蛙・兎で中枢麻痺作用を起こし、末梢血管拡張作用が報告されており、その他、利胆作用、鎮痛作用、抗炎症作用・抗アレルギー作用、抗菌作用、皮膚刺激作用が報告されている。薄荷油として健胃薬として配合剤の原料になり、鎮痛、鎮痒、収斂、・消炎薬としてパップ剤などの形で使用されている。

桔 梗:(platycodon grandiflorum A.De Candolle):根にトリテルペノイドサポニン(platycodin)、ステロール類を含有する。サポニンはplatycodigeninをアグリコンとするplatycodin A、C、D、D2 等とpolygalacic acidをアグリコンとするpolygalacin D、D2等に分類される。platycodogenin、3-O-β-glucosylplatycodigeninが分離されている。ステロール類はα-spinasterol、α-spinasteryl-β-D-glucoside、Δ7-stigmasterol等が知られている。効能として去痰・鎮咳作用、抗炎症作用、マクロファージ貪食能亢進作用、排膿作用・抗菌作用等が報告されており、漢方的には咳は二次的な物で喉痛と膿が主になっている。つまり桔梗の適応は鎮咳、排膿、去痰、喉痛が主である。

甘 草:(glycyrrhiaze radix):トリテルペノイド配糖体を6-14%含有し、その主成分glycyrrhizinは蔗糖の150倍の甘味がある。酸加水分解によりglycyrrhetinic acidと2分子のglucuronic acidを生ずる。蔗糖の300倍の甘味を持つapioglycyrrhizin、苦味を持つlicorice-saponin B等が単離されている。フラボノイドとしてはliquiritinとそのaglycone(非配糖体)のliquiritigenin、isoliquiritinとそのaglycone(非配糖体)のisoliquiritigenin、licoflavone、licoricone、licoricidin、クメスタン類のglycyrol、isoglycyrol、カルコン類のlicocharcone A、B、C、D等、他にクマリン及び桂皮酸誘導体、アミノ酸、糖類など多数の化合物が単離されている。効果として抗潰瘍作用、抗アレルギー作用、中枢抑制作用、副腎皮質ホルモン様作用、性ホルモン作用、解毒作用、肝障害改善作用、抗ウイルス作用、インターフェロン誘導作用など、免疫系改善作用、多くの生理活性が報告されている。漢方処方ではかぜ薬、解熱消炎鎮痛薬、鎮痛鎮痙薬、鎮咳去痰薬、健胃消化薬、止瀉整腸薬等に配合されている。

金銀花:(japanese honeysuckle:金銀花・忍冬・スイカズラ・吸い葛):精油に約30種類の成分を含有する。linalool、pinene、tetrahydrofuran、citronellol、α-terpineol、benzylethylalcohol、carvacrol、eugenol、benzylethylalcohol、l-hexene等、花蕾にはchlorogenic acid、isochlorogenic acid等、フラボン誘導体としてluteolin、lonicein、inositol等。その他グリコシド等を含んでいる。効果として抗病原微生物作用、抗炎症及び解熱作用、抗高脂血症作用、軽度の抗潰瘍作用、免疫に対する作用:白血球貪食機能促進・細胞性免疫の抑制作用、抗早期妊娠作用。一般に高熱を呈する感染症疾患に抗炎症、抗菌、解熱作用などの効能を有する。

淡豆鼓(学名:glycine max:タントウシ・香豆鼓・豆鼓):大豆の成熟種子を加工したもの。成分として蛋白質(19.5%)、脂肪(6.9%)、炭水化物(25%)、その他vitamin B1、vitamin B2、ニコチン酸、カルシウム塩、P、Fe、酵素、lecithin等。効能としてニコチン酸等による細胞の新陳代謝の促進、血管拡張作用等。焦燥感、不眠症に用いられる。

羚羊角:学名:antelope:レイヨウカク):成分として角質蛋白、その水解物として18種類のアミノ酸及びポリペプチド、コレステロール、リン脂質類、リン酸カルシウム、keratin、無機塩、vitamin A、微量元素等。薬効として鎮静・催眠作用、抗痙攣作用、解熱作用、高血圧作用、その他子宮平滑筋に対して興奮作用・腸平滑筋に対して抑制作用を示す。

荊 芥:(schizonepeta tenuifolia:ケイガイ):精油(約1.8%)を含み、主成分はd-menthoneの他、d-limonene、dl-menthone、α-pinene、camphene、β-pinene、3-octanone、p-cymene、3-octanol、β-elemene、β-hunulene、piperitone、piperitenone等。モノテルペンとしschizonepetoside ABCDE、schizonol、schizonodiol等。フラボノイドとしてhesperidin、apigenin-7-0-glucoside、licteolin-7-0-glucoside、diosmetin、hesperetin、luteolin等。薬効として抗病原微生物作用、鎮痛解熱作用、抗炎症作用、止血作用、抗酸化作用、抗癌作用(弱い)。効能はかぜ症候群、蕁麻疹、皮膚掻痒症等。

牛蒡子:(burdok:ゴボウシ):リグナン誘導体のアクチゲニン、アクチイン、マライレジノール、ラッパオールA、B、C、D、Eを含有する。薬効として子宮収縮、強直性痙攣誘発、心臓運動抑制、血管拡張、一過性血圧低下 (アークチイン) 。効能として解熱、解毒、去痰、消炎薬として、感冒、咳嗽、咽喉痛、麻疹等に応用。

淡竹葉:(tantikuy

「ミグルスタットについて」

火曜日, 2月 28th, 2012

 

KW:薬名検索・ミグルスタット・miglustat・ザベスカ・Zavesca・Niemann-Pick病C型・ニーマン・ピック病C型・Gaucher病?型・ゴーシェI型

Q:ミグルスタットについて

A:ミグルスタット(miglustat)は、軽症のゴーシェ病I型の治療に使われる経口、基質抑制療法治療薬。商品名はザベスカ(Zavesca)で[アクテリオンファーマシューティカルズジャパン株式会社]、国内未発売薬である。最近ニーマン・ピック病C型の治療にも有効という研究が発表され、欧州ではニーマン・ピック病C型の治療薬としても認可されている。
miglustat(1回100mg、1日3回 経口投与)は、グルコシルセラミド合成酵素阻害薬である。グルコセレブロシド(グルコセレブロシダーゼの基質)濃度を減少させる作用があるため、酵素補充が不可能な患者への代替療法になると報告されている。

miglustatは、Gaucher病の治療薬として使用されているが、ニーマン・ピック病C型にも有効として国内でも治験が開始された。

*効能・効果:小児例から成人例のNiemann-Pick病C型(ニーマン・ピック病C型)及び酵素補充療法が有効ではない又は継続できない成人のGaucher病?型(ゴーシェI型)。
用法・用量:Niemann-Pick病C型:1回200mg、1日3回経口投与(12歳以下の小児例へは体表面積で換算した量を投与)。Gaucher病?型:1回100mg、1日3回経口投与。

1.適応疾病の重篤性:Niemann-Pick病C型は進行性の神経症状を示し、乳児後期発症例は、発症からまもなく言葉がしゃべれなくなり2-3年で寝たきりとなる。発病から5-10年前後で死亡することが多い。若年発症では、知的退行と運動障害で発病し、5-6年で寝たきりになる。発病から10-20年前後で死亡することが多い。現在、乳児後期発症例は日本で約10名が生存し、若年型も日本で約10名が生存している。症状の進行を防ぐ有効な治療法はなく、嚥下障害や呼吸不全に対する経管栄養や胃ろう造設、気管切開と喉頭分離などの対症的な医療ケアが治療の中心となる。
Gaucher病?型は肝臓、脾臓、骨の進行性の症状を示すが、神経症状は示さない。II型とIII型は、それぞれ乳児期と小児期に進行性の神経症状で発症する。II型は急激に進行し、発病後数年で死亡する。III型は発病後5-10年で死亡する。日本では、I型が約50名、II型が10-20名、III型か20-30名存在する。酵素補充療法が承認されているが、中枢神経症状には、顕著な効果は得られていない。またGaucher病の神経症状にはmiglustatが有効であるとする報告はない。進行性の神経症状に対しては対症的なケアが治療の中心になる。

2.医療上の有用性:Niemann-Pick病C型は進行性の稀少神経難病で、これまで全く治療法がない中で、進行性の神経症状に対する初めての新しい治療薬として期待できる。
Gaucher病の中枢神経症状には効果があるという報告はなく、Gaucher 病I型で、酵素補充療法の継続が困難または酵素補充療法で効果が不十分な例に対する新しい治療薬として期待できる。

1)福島雅典・総監修:メルクマニュアル第18版日本語版;日経BP社,2007
2)「医療上の必要性に係る基準」への該当性に関する専門作業班(WG)の評価資料;厚生労働省,平成22年4月27日

 

         [011.1.MIG:2011.12.31.古泉秀夫]

「遺伝子多型について」

火曜日, 2月 28th, 2012

 

KW:語彙解釈・遺伝子多型・遺伝的多型・遺伝子配列・genetic polymorphism・DNA・突然変異・SNP・スニップ・単一塩基多型

Q:遺伝子多型について

A:遺伝子多型(遺伝子配列の相違):人間集団全体で見た時、遺伝子には色々な型が存在するが、遺伝的個人差のことを「遺伝子多型」という。その本質はDNAの違いである。DNAには四種類の塩基(A、G、T、C)があるが、それら一個ずつが塩基置換によって違っている場合、SNP(単一塩基多型;スニップ)と呼ぶ。

患者個人によって薬物の効果、副作用の易発現、血中濃度の変動等が見られるのは、多くは遺伝的に定められた医学的素因の個人差に起因する。薬物代謝酵素の遺伝子や薬物及び代謝産物の無毒化に係わる酵素の遺伝子の変異あるいは遺伝子多型を各人について調べ、薬物の有効性を高めたり副作用を減弱することが行われている(薬理遺伝学、Pharmacogenomics)。

遺伝的多型(genetic polymorphism):同じ種類の生物の個体間に遺伝的に決定される二つ以上の不連続な遺伝的変異が世代を超えて共存し続けている状態。最も頻度の高い対立遺伝子頻度(遺伝子型頻度)が0.99(0.95の値を用いる場合もある)未満の時、変異遺伝子の頻度が少なくとも1%(5%)以上の時、その遺伝子座は多型であると定義する。おのおのの遺伝子型の出現頻度は、単なる突然変異の出現によっては説明しきれないほど高い。理由として進化の過程で、ある環境では有利に働く遺伝子に不利になるような突然変異が生じたとき、この変異遺伝子は別の環境では有利に働くことがあり得る。これらの二つの環境がしばしば入れ替わるような状況では、遺伝的多型が見られる。遺伝的多型は、遺伝子型が固定される前の進化の過渡的状態か、又はその遺伝子の間に淘汰価(選択価)の差がなくて中立的なことを示している。ほぼ同義として、遺伝子多型という用語も用いられる。

その他、「同一生物種内又は集団内に遺伝子型の異なる個体が常にある比率で混在して維持される現象。集団の占める生態的環境の差によって生じる多型、超優性遺伝子座における平衡多型、環境の変化・逆転による移行性多型など、色々の原因によって生じる。」とする説明もされている。

また「多型(polymorphism)は、表現型多型と遺伝的多型とに分けられる。表現型多型とは二つ以上の異なる表現型が同じ種の集団の中に存在する状態を指す。遺伝的多型とは同じ生物種の集団のうちに遺伝子型の異なる個体が存在すること、又はその異なる遺伝子・DNA配列のことをいう。」とする説明も見られる。

1)野村隆英・他:シンプル薬理学改訂第4版;南江堂,2008
2)医学書院医学大辞典 第2版;医学書院,2003
3)最新医学大辞典 第3版;医歯薬出版株式会社,2005
4)南山堂医学大辞典19th.,2006
5)斉藤成也:DNAから見た日本人;ちくま新書,525,2009

 

   [615.8.GEN:2011.12.7.古泉秀夫]