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「遺伝子多型について」

火曜日, 2月 28th, 2012

 

KW:語彙解釈・遺伝子多型・遺伝的多型・遺伝子配列・genetic polymorphism・DNA・突然変異・SNP・スニップ・単一塩基多型

Q:遺伝子多型について

A:遺伝子多型(遺伝子配列の相違):人間集団全体で見た時、遺伝子には色々な型が存在するが、遺伝的個人差のことを「遺伝子多型」という。その本質はDNAの違いである。DNAには四種類の塩基(A、G、T、C)があるが、それら一個ずつが塩基置換によって違っている場合、SNP(単一塩基多型;スニップ)と呼ぶ。

患者個人によって薬物の効果、副作用の易発現、血中濃度の変動等が見られるのは、多くは遺伝的に定められた医学的素因の個人差に起因する。薬物代謝酵素の遺伝子や薬物及び代謝産物の無毒化に係わる酵素の遺伝子の変異あるいは遺伝子多型を各人について調べ、薬物の有効性を高めたり副作用を減弱することが行われている(薬理遺伝学、Pharmacogenomics)。

遺伝的多型(genetic polymorphism):同じ種類の生物の個体間に遺伝的に決定される二つ以上の不連続な遺伝的変異が世代を超えて共存し続けている状態。最も頻度の高い対立遺伝子頻度(遺伝子型頻度)が0.99(0.95の値を用いる場合もある)未満の時、変異遺伝子の頻度が少なくとも1%(5%)以上の時、その遺伝子座は多型であると定義する。おのおのの遺伝子型の出現頻度は、単なる突然変異の出現によっては説明しきれないほど高い。理由として進化の過程で、ある環境では有利に働く遺伝子に不利になるような突然変異が生じたとき、この変異遺伝子は別の環境では有利に働くことがあり得る。これらの二つの環境がしばしば入れ替わるような状況では、遺伝的多型が見られる。遺伝的多型は、遺伝子型が固定される前の進化の過渡的状態か、又はその遺伝子の間に淘汰価(選択価)の差がなくて中立的なことを示している。ほぼ同義として、遺伝子多型という用語も用いられる。

その他、「同一生物種内又は集団内に遺伝子型の異なる個体が常にある比率で混在して維持される現象。集団の占める生態的環境の差によって生じる多型、超優性遺伝子座における平衡多型、環境の変化・逆転による移行性多型など、色々の原因によって生じる。」とする説明もされている。

また「多型(polymorphism)は、表現型多型と遺伝的多型とに分けられる。表現型多型とは二つ以上の異なる表現型が同じ種の集団の中に存在する状態を指す。遺伝的多型とは同じ生物種の集団のうちに遺伝子型の異なる個体が存在すること、又はその異なる遺伝子・DNA配列のことをいう。」とする説明も見られる。

1)野村隆英・他:シンプル薬理学改訂第4版;南江堂,2008
2)医学書院医学大辞典 第2版;医学書院,2003
3)最新医学大辞典 第3版;医歯薬出版株式会社,2005
4)南山堂医学大辞典19th.,2006
5)斉藤成也:DNAから見た日本人;ちくま新書,525,2009

 

   [615.8.GEN:2011.12.7.古泉秀夫]