Archive for 4月, 2010

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『ドロナビノールについて』

水曜日, 4月 28th, 2010

KW:薬名検索・ドロナビノール・dronabinol・マリノール・marinol・合成テトラヒドロカンナビノール・THC

Q:ドロナビノールについて

A:一般名:ドロナビノール(dronabinol)について、『食欲不振の薬』として紹介されている。[商]マリノール(Marinol)。(合成テトラヒドロカンナビノール:THC)。化学療法に伴う嘔気・嘔吐の治療。FDA承認。

適応:悪心・嘔吐、食欲増進。

作用:制吐作用、脳髄の嘔吐中枢を抑制。

用法[成人・小児]制吐:1回5-15mg/m2を必要に応じて4-6時間毎に内服。

[成人]食欲増進:1回2.5mgを昼・夕食前に内服。

規格:2.5mg・5mg・10mg/Cap.

注意:大麻中に存在する主な神経賦活物質である。中枢性障害が多数ある。

合成大麻成分のdronabinolは、アメリカ合衆国で『Marinol』という商品名で販売され、末期エイズ患者の食欲増進、癌の化学療法に伴う吐き気の緩和のために処方されている。また、dronabinolはドイツにおいて、抽出大麻成分を含有するサティベックス(Sativex

『ポルフィリン症の治療薬』

水曜日, 4月 28th, 2010

KW:薬物療法・ポルフィリン症・porphyria・ポルフィリア・ポルフィリン・porphyrin・ヘムアルギニン注

Q:ポルフィリン症の治療薬について

A:ポルフィリン症(porphyria:ポルフィリア):ヘム合成過程のポルフィリン代謝に異常のある一群の疾患である。代謝過程の酵素欠損のためポルフィリン体及びその前駆物質が肝や造血組織あるいは皮膚等に蓄積し、血液・尿・糞便中に増加する。多くは遺伝性であるが、一部は症候性にも生ずる。ポルフィリン代謝障害の主要臓器により、骨髄性ポルフィリン症、肝性ポルフィリン症、骨髄肝性ポルフィリン症に分類される。臨床的には、急性型ポルフィリン症と皮膚型ポルフィリン症に分けられる。

ポルフィリン(porphyrin):4個のピロールがメチン基(-CH=)によって結合した環状テトラピロール誘導体。ピロール核にメチル、エチル、カルボキシエチル、ビニル、ホルミルなどの置換基が結合する。天然にはFe、Cu、Mg等との錯体が見出され、生理的にはプロトヘム、クロロフィルなどが重要である。porphyrinは光が当たると毒性を持ち、沈着した部分を破壊する働きがある。その光毒性により皮膚に潰瘍を起こす。

『急性間欠性ポルフィリン症』

本症はヘム合成経路の3番目の酵素ハイドロキシメチルピレン合成酵素(HMBS)の遺伝子異常による常染色体優性遺伝疾患である。遺伝子異常者(潜在者)に、薬物、妊娠、饑餓、ストレスなどのヘム合成系に影響を与える刺激(誘因)が加わり、ヘム合成が遺伝子異常により低下しているヘム合成能力を上回ると発症する。ヘム合成系の初期産物であるALA(δアミノレプリン酸)及びPBG(ポルホビリノーゲン)の蓄積、あるいは何らかのヘム蛋白の欠乏が病因と考えられている。

急性腹症を思わせる腹部症状が初期に見られ、後にヒステリーを思わせるような精神症状を呈する。最後には四肢麻痺、球麻痺などの神経症状を呈し、死に至ることもある急性発作が見られる。腹部症状に対応する器質的な異常は認められ無い。高血圧、頻尿、肝機能検査値の異常、低Na血症や耐糖能異常も見られる。ポルフィリン症の多くは、赤色尿が起こる。

急性発症の予防:誘因を避けることが重要。糖分を十分に摂取し、禁忌薬物の摂取を避ける。

※発症時の治療

1)10%-ブドウ糖液   1日2-3L 点滴静注

ALASの酵素活性が抑制され、急性発作を改善させることが考えられている(グルコース効果)。

2)ヘムアルギニン注  1日3mg/kg 静注  4日連続(国内未承認)。

又は

 塩酸ヘマチン注    1日2-4mg/kg 静注 4日連続(国内未承認)

細胞内ヘムを上昇させ、ヘム合成系を抑制する。病態に則した治療法であり、欧米では第一選択療法であるが、我国では重症例に使用されることが多い。

3)タガメット錠    800mg  分4(保険外)

ALA及びPBGを減少させるとの報告がある。

《急性ポルフィリン症 対症治療薬についての重要な問題点》

対症療法としてブドウ糖の輸液が一般的であり、予後はあまりよくなかったが、諸外国では激しい腹痛、嘔吐、麻痺などの重篤な場合は既にヘミン関連医薬品、NORMOSANG(ヒトヘミン;ヘム-アルギニン酸)及びヘマチンの使用により症状が改善されたとする多くの論文があり、本医薬品の有効性及び安全性が確認され、欧米ではすでにポルフィリン症治療薬として公的に認可されているが、日本ではいまだに保険適用されていない[(近藤雅雄『急性ポルフィリン症治療の現状と治療薬供給の緊急性について』より抜粋)]。

『皮膚型ポルフィリン症』

400nmの光を避けることが第一である。その他、骨髄性プロトポルフィリン症には諸外国ではβ-カロテン内服が一般的であるが、本邦では食品添加物としてのみ使用が承認されている。晩発性ポルフィリン症には瀉血も有効である。

『Normosang(ヒトヘミン)』

1. 製造元:Jenahexal Pharma社(ドイツ)

2. 販売元:Orphan Europe,Export Department,Paris(フランス)

3. 効用:急性間欠性ポルフィリン症患者の急性発作(腹痛、神経障害)時及び急性発作予防に用いる。

4. 効用原理:患者に投与することで患者血液中のヘミンを正常値に戻し、アミルブリン酸合成酵素の活性を抑制し発作を抑制する。

5. 投与量:発作時に、一日あたり患者体重1kgにつき3mgの割合での投与を通常4日間続ける。

6. 最小販売単位:1箱(1瓶10mL(250mg)が4瓶入っている)

7. 価格:1箱につき、約40万円前後

1)最新医学大辞典 第3版;医歯薬出版株式会社,2006

2)山口 徹・他総編集:今日の治療指針,2009

[011.1.HEM:2009.10.21.古泉秀夫]

『‰の表記について』

水曜日, 4月 28th, 2010

KW:語彙解釈・‰・記号・単位・パーミル・プロミル・ppm・ppb・ppt・ppq

Q:外国文献を翻訳した抄録中に‰とする記号が見られたが、これはどの様な単位を現しているのか

A:『‰』は、日本語では「パーミル」あるいは 「プロミル」と読むとされているが、「パーミル」は英語読み、「プロミル」はドイツ語読みといわれている。

その他、『ppm』の読み方等については、次の通りである。

%

percent(パーセント)

100分の1 (10?2)

ppq

parts per quadrillion

1000兆分の1(10?15)

permil(英:パーミル)

promille(独:プロミル)

1000分の1(10?3)

ppm

parts per million

100万分の1 (10?6)

ppb

parts per billion

10億分の1(10?9)

ppt

parts per trillion

1兆分の1(10?12)

1)飯野靖彦:輸液の濃度表示と当量濃度;日本医事新報,No.4446(78-79),2009.7.11.

2)薬科学大辞典 第3版;廣川書店,2001

[615.8. PPM:2009.8.古泉秀夫]

『云いたくはないんですが………』

木曜日, 4月 15th, 2010

魍魎亭主人

 3月25日(水曜日)の朝刊に『製剤試験データ改ざん 田辺三菱製薬 販売承認取り下げ』の記事が載った[読売新聞,第47800号,2009.3.25.]。

 田辺三菱製薬(大阪市)は24日、子会社「バイファ」(北海道千歳市)と共同開発して薬事法の製造販売承認を受けた人血清アルブミン製剤について、承認の際に提出した試験データに改ざんなどの不正行為が見つかったとして、同製剤の製造販売承認を取り下げるとともに自主回収すると発表した。製薬企業が試験データの改ざんが原因で承認を取り下げるのは異例。

 問題の製剤は、重度熱傷の治療などに使われる「メドウェイ注」。実際に出荷された同製剤の安全性は確認されており、これまでに使用した患者807人(2月末時点)から健康被害は報告されていないという。

 田辺三菱製薬は、酵母を使ったバイオ技術で、世界初の遺伝子組換えによる同製剤を開発。2007年10月に承認を受け、昨年5月から販売していた。

 データ改ざんを行っていたのはバイファ社の社員で、製品にアレルギーが生じる酵母成分が混入しないことを調べる試験で、一部のラットにアレルギーの陽性反応が出ていたのに、陰性反応のデータと差し替えるなどしていたという。

 データを隠蔽して、薬を販売したとしても、副作用が発現すれば、その原因は追及される。その段階でデータの改竄が表沙汰になれば、当然社会的な指弾を受ける。製薬企業が開発段階で種々のデータを蒐集するのは、販売した後の安全使用の保証の意味もあるわけで、動物実験の結果であれ、負の結果が出たものについては、負のデータとして公表すべきである。

 医薬品を販売する会社が、自分に都合の悪い情報を隠蔽するという体質は、過去の歴史を見るまでもなく、薬害を発生させる最大の要因であったはずである。

 『云いたくはないが、………』、“田辺三菱製薬”の本体は、薬害エイズ、薬害C型肝炎等の主犯企業であった“ミドリ十字”と“吉富製薬”が1988年4月に合併し“吉富製薬”に集約された。2000年4月“吉富製薬”は“ウエルファイド”に社名を変更した。その“ウエルファイド”と“三菱東京製薬”(三菱化学の医薬品事業分社と東京田辺製薬との合併会社)が、2001年10月に合併し、“三菱ウェルファーマ”に社名が変更された。更に“三菱ウェルファーマ”と“田辺製薬”が合併して『田辺三菱製薬』が出来上がっている。

 この合併の道筋を見ていると“ミドリ十字”の体質を引きずっているのではないかと『云いたくはないが云いたくなるのである』。まして“ミドリ十字”は血液製剤をその仕事の中心としてきた会社である。今回の「メドウェイ注」も人血清アルブミン製剤である。

 何時までも執念深く覚えている必要はないのかもしれないが、大型の薬害を起こしたと云うことから云えば、今回のような隠蔽の話が出てくると、遺伝子はまだ残っているのではないかと疑いたくなるのである。

 少なくとも他社以上に、厳しい倫理観をもった社内体制を作ることが求められているのではないか。

(2009.4.2.)

『認識不足の一言』

木曜日, 4月 15th, 2010

医薬品情報21

古泉秀夫

『薬に関する情報は書籍やインターネットなどにより格段に入手しやすくなり、情報の加工についても各自が作成する時代は過ぎ、いわゆる既製品を手に入れやすい時代になっているようだ。情報を入手することに関しては、経験などというものは、もはや関係なくなって来ているように思える』なる一文を拝読した。

もし、これを本気で言っているとすれば、失礼だが薬の専門家の風上に置けないと言わざるを得ない。30年の病院薬剤師の経験に基づいてという仰有り様だが、嗜虐的な意味での発言ではなく、本当にそう思っているとすれば、群盲『象』を評すの類の話である。

確かに、従前との比較でいえば、薬に関する書籍の出版数も増え、種々の情報を入手しようとすれば、比較的簡単に入手することができる。しかし、その図書に書かれている情報が正鵠を得たものであるかどうかについては、図書を利用する側が自ら判断しなければならない。成書として市販されているからといって、その情報が必ずしも正しいとは限らない。執筆者の誤謬による書き間違いもあれば、編集者による誤植も起こる。それらの細かな間違いについても利用する側に情報を評価する眼がなければ、誤りのまま摺り抜けてしまう。

現在、病院の薬剤部で情報を検索する場合、Internetの利用が行われている様である。確かにInternetの使用により広範囲に・素早く情報が検索出来ることは事実である。しかしInternetに公開される情報の怖さは、その発信者が誰なのか確認しようがないということであり、玉石混淆の情報が、垂れ流されているということである。その中から正確で、信頼出来る情報を掴み出すためには、その情報が信頼に足るものであるかどうかの評価をする専門職能としての厳密な眼を持たなければならないということである。またそれ無しでは、入手した情報を使いこなしたことにはならない。

情報の加工について、各自が作成する時代は過ぎとのお言葉であるが、果たしてそうであろうか。少なくとも情報の意味を全く理解していない素人の言い分としか思えない。情報の加工とは、情報を収集し、分析し、評価し、自ら使い勝手の良い様に加工する。或いは情報の利用者である医師・看護師等の使い易いように情報を加工して提供するという、一連の流れの中の一つの作業が加工なのである。従って、情報の加工をしないと言うことは、製薬会社・卸等から手に入れた情報を、自らの判断を全く加えずに、単に手渡して済ますという、経験の少ない薬剤師か、素人のやる行動を取るということである。

『情報を入手することに関しては、経験などというものは、もはや関係なくなってきている様に思うという』御意見に対しても、異論がある。出来合の情報が、必ずしも精度の高い情報とは言えない場合がある。あるいは使用性の高い情報とはなっていない場合がある。

そのような場合に、何処を探せば必要な情報に行き合うことができるのかを素早く判断するのは、経験以外の何物でもない。

information literacy(情報活用能力)なる言葉がある。文部科学省の臨時教育審議会第2次答申(1986年)では「情報及び情報手段を主体的に選択して活用していくための個人の基礎的な資質」と定義され、学校教育でいう“情報リテラシー教育”は、広義の情報リテラシーを指している。広義には情報機器の操作能力だけではなく、「情報を活用する創造的能力」のことを指し、情報手段の特性の理解と目的に応じた適切な選択、情報の収集・判断・評価・発信の能力、情報および情報手段・情報技術の役割や影響に対する理解など、『情報の取り扱いに関する広範囲な知識と能力』のことをいうとされている。薬という生命関連物質を管理する薬剤師が、常に最先端の薬の情報を取り扱うのは当然のことである。更に情報伝達の相手は、医師・看護師のみならず、在宅介護をしている介護士の方々まで含めて、広範囲にわたる。何故なら医療機関から最も遠いところにある介護受給者は高齢者であり、認知症患者であり、薬の管理ができない情況に放置されている。これらの方々に薬剤師として情報を提供することは重要な課題である。

また、医師は薬を使用する場合、効果には興味を持つが、服むことによって派生するであろう副作用については比較的眼を向けていない。薬剤師は医師の書く処方内容を検討し、予防可能な副作用は予防し、誰よりも速く発見し、医師と処方内容について話し合いをし、副作用の原因となった薬を削除する。この様な情報管理をするとすれば、この方の文書が、薬剤師の行うべき情報管理業務を真に理解していないということは明らかである。

(2010.2.2.)

『写楽に惹かれて』

木曜日, 4月 15th, 2010

鬼城竜生

 8月14日(金曜日)特別展「写楽 幻の肉筆画展」の惹句に誘われて、江戸東京博物館に出かけた。65歳以上は割引だということで、常設展240円・特別展520円を払って入館した。

日本・ギリシャ修好110周年記念特別展

「写楽 幻の肉筆画」

ギリシャに眠る日本美術?マノスコレクションより

 今回はグレゴリオ・マノスのコレクションから選んで展示されたものである。

 「グレゴリオ・マノスコレクションとは、19世紀末から20世紀初頭に架けて、ヨーロッパに赴任したギリシャ大使、グレゴリオス・マノスが、ジャポニスムに沸くパリやウィーンで一万点以上のアジア美術を購入した。彼はギリシャに帰国後、同国政府にコレクションを全て寄贈してしまった。作品はコルフ島にあった元イギリス総督府の建物で公開されることになり、これが現在のコルフ・アジア美術館になったとされている。

 マノスの死後、コレクションは1世紀以上誰の目にも触れることなく眠っていたが、2008年7月、大々的な調査が行われ、東洲斎写楽の肉筆扇面画が発見された。本作品は、写楽が版画での活動を終えた後に描かれたもので、謎の絵師写楽の実像に迫る大きな一歩となった。写楽の作品と断定された肉筆画が、一般に公開されるのは世界で初めてのことであると紹介されていた。

 役者絵の版画で一世を風靡した写楽が、浮世絵界から姿を消したのは寛政七年(1795年)一月とされているが、この扇面画は同年五月に河原崎座にて上演された『仮名手本忠臣蔵』の舞台に取材したものだとされている。消息を消してから四ヶ月経って描かれたものとされている。元は扇に張られていたものとされているが、何時頃からか剥がされて大切に保存されていたとされる。

 処で猫好きの先輩がいる。そこでpostcardになっている浮世絵を探してお送りしていたが、さほど無いというのが印象だった。しかし、どうやらそれは勘違いで、猫の描かれている浮世絵で、postcardになっているものが少ないと云うことで、猫の描かれている浮世絵が少ないわけではないようである。最も浮世絵全体に占める割合からすれば、絶対数は少ないと思われるが。

 事実、江戸東京博物館の常設展示室5階、第2企画展示室では、『江戸東京ねこづくし』という企画展をやっていたが、何と案内のパンフレットは湯屋で湯に入る猫の集団図で、江戸時代の湯屋の二階は男の世界の筈が、この絵では女(猫)が湯屋の二階に上がる姿が描かれているが、これが猫だから江戸時代人にも違和感成しに受け入れられたのかもしれない。

 更に浮世絵師歌川邦芳は、無類の猫好きで、懐には何時も二?三匹の猫を入れており、飼い猫が死ぬと本所の回向院に葬り、家には猫の位牌や過去帳が揃っていたと云われているが、ほんとうかいな。また、弟子には画業の第一歩として猫の写生をさせたと云うほど徹底していたと云われているが、弟子の芳藤、芳年、芳虎等、国芳の弟子には猫を好んで描く絵師が多いとする報告がされている。

 しかし、浮世絵の世界で、猫の絵を描くのが得意な画家がいたということであれば、猫好きの多い現代、postcardにすれば喜んで買う人がいると思うが、まだ、著作権の問題があり、簡単に行かないということであろうか。

 何れにしろ購入したpostcardは、片っ端から使って、取って置くと云うことはしないので、猫の浮世絵は現在一枚もないが、受け取った方は、大切にアルバムに作っているということなので、以て瞑すべきということかもしれない。

 本日は歩くのが目的ではなかったが、総歩行数10,113歩である。

(2009.9.26.)

『べにふうき(紅富貴)について』

金曜日, 4月 2nd, 2010

KW:健康食品・べにふうき・紅富貴・茶農林44号・epigallocatechingallate・花粉症・メチル化カテキン・methylated catechin

Q:“べにふうき”について

A:“べにふうき”は日本のお茶べにほまれ(茶農林1号)と中国系のダージリン(枕Cd86)を特殊交配したもので、正式名称は“茶農林44号”であると報告されている。“茶農林44号”は1993年に農林登録されており、晩生種で、樹姿は開張型でよく分枝する。新芽は黄緑色でやや大きい。耐寒性はやや強い。耐病性は、山間地でもち病がみられるが、炭疽病、輪斑病には強い。収量は“べにひかり”より多い。紅茶品質は、発酵性がよく、クリームダウンが顕著に認められ、清香、水色は深紅色で滋味は濃厚である。半発酵茶品質は、強い芳香で滋味はやや強いが、独特のうま味がある。姉妹に“べにふじ”、“いずみ”がある。紅茶・烏龍茶系品種とされている。

更に“べにふうき”茶の成分の一つとしてメチル化カテキン(methylated catechin)が多く含まれており、花粉症やアトピーなどのアレルギー反応を抑制するとされる。その他“べにふうき”茶には、成分としてストリクチニンが含まれており、花粉症、アトピーなどのアレルギー反応を抑制すると報告されている。

“べにふうき”の特徴について、次の通りまとめられている。

(1)輪斑病、炭疽病に強く減農薬で栽培可能。

(2)多収であり2200-3000Kg/10aの生葉が収穫しうる(特に、静岡以南の暖かい地域)

(3)紅茶系の品種としては耐寒性が強く、樹勢が強い。軽く萎凋(いちょう)することにより、ダージリンフレーバーが発揚する。

(4)抗アレルギー作用が研究されている。メチル化カテキン(Epigallocatechin-3-O(3-O-methyl)Gallate;エピガロカテキン-3-O-(3-O-メチル)ガレート)を多く含む(図1)。

メチル化カテキンの構造式

5)メチル化カテキンは、発酵により消失するので、緑茶か包種茶(ほうしゅちゃ)に製造する必要がある。研究材料として用いているのは、“べにふうき緑茶”100%で あり、ブレンド品は使用していない。メチル化カテキンの作用機作は、マスト細胞内情報伝達系の阻害、高親和性IgE-receptorの発現阻害によるhistamine遊離抑制作用であることが確認されている。

“べにふうき”は、1996年から2000年にかけて、独立行政法人農業技術研究機構 野菜茶業研究所などで、アレルギー予防食品開発のための基礎研究が行われ、約40品種の茶葉について抗アレルギー作用を検定したところ、“べにふうき”に含まれる渋味成分であるカテキンの1種、Epigallocatechin-3-O(3-O-methyl)Gallate(EGCG3"Me)(通称メチルカテキン)や抗アレルギー成分のストリクチニンが、花粉症やアトピーなどのいわゆる「アレルギー症状」に対する改善効果をもつとことが判明した。「methylated catechin」の腸管吸収率は、茶の主要catechinであるepigallocatechingallateの5?6倍と高く、血中からの消失もepigallocatechingallateに比べ緩やかであることがわかった。

“べにふうき”茶の長期投与により、通年性アレルギー患者と季節性アレルギー患者でともに改善効果を確認した。苦味を低減させ「methylated catechin」の減少を抑える最適火入れ条件が確認された。また、緑茶飲料の製造工程で、高温抽出、長時間高温殺菌がhistamine遊離抑制活性を高めることも実証された。

1)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構(略称:農研機構):http://vegetea.naro.affrc.go.jp/index.html,2010

2)農林水産省登録品種一覧表(1):http://vegetea.naro.affrc.go.jp/cha/cultivar.htm,2010

3)茶機能解析研究室:http://www.vegetea.affrc.go.jp/kinou/chakino/benifuuki1.htm,2010

[015.9.MET:医薬品情報21・古泉秀夫,2010.2.8.]

『トロポミオシンについて』

金曜日, 4月 2nd, 2010

KW:語彙解釈・トロポミオシン・tropomyosin・TM・魚介類・シーフード・軟体動物・アクチン・actin・トロポニン・troponin・仮性アレルゲン・仮性allergen・海老・蟹・烏賊

Q:トロポミオシンについて

A:トロポミオシン(tropomyosin)について、次の報告が見られる。

*tropomyosin。略号:TM。分子量6.6万。長さ40nm、幅1.5nmの棒状の分子でK.Bailey(1946)により発見された。3.3万のサブユニットからなり、それぞれほぼ完全なα-ヘリックス鎖からなる二重螺旋構造をなし、互いに捻れ合って分子となる。troponinと共にアクトミオシンATPアーゼのCa2+ 感受性を回復させる。細い筋フィラメントはactin、tropomyosin、troponinを7:1:1分子比で含む。筋肉のみならず真性粘菌、血小板、脳からも得られる。

actin:筋収縮を発現する筋肉細胞内の筋原繊維を構成している二つのフィラメントのうち細いフィラメントを構成している筋肉蛋白質。

troponin:筋原線維の収縮にかかわる物質。

その他、tropomyosinについて、次の報告も見られる。

筋肉細胞内の筋収縮を発現する筋原繊維を構成する二つのフィラメントのうち細いフィラメントを構成している筋肉蛋白質。低塩濃度では重合体であり、塩を加えると単分子で存在する。分子量6万、2本のα-ヘリックス鎖からなる二重螺旋構造で、長さ40nmの棒状分子である。アクチンフィラメントがtropomyosinを囲んで配列し、更にその長さの方向に40nmの間隔でtroponinが結合して細いフィラメントが形成されている。troponinに結合したCa2+イオンはtropomyosinを通じて、ミオシン、actinの相互作用に影響を与えていると考えられている。

魚介類(魚、甲殻類、軟体動物)のうち魚や甲殻類に対するアレルギーについては各種の報告がされている。また軟体動物については、海水、淡水、陸上に棲む多くの生物からなり、ある種の軟体動物は重要な食料である。軟体動物の中には、巻貝、牡蠣、アサリ、イガイ、烏賊、アワビ、蛸など食物アレルギー反応の症例報告が示されているものがある。

軟体動物の主要allergenは、筋蛋白質(tropomyosin)である。tropomyosinは甲殻類やチリダニ、ゴキブリ、その他の昆虫などにも見られるallergenである。研究が進んでいる軟体動物及び別の甲殻類のtropomyosinでは、類似性もあるが、アレルギーを示す構造部分で、重要な違いもある。軟体動物にはtropomyosinの他にも多数のallergenがあるが、詳細は不明である。

血清学的・臨床的に軟体動物と甲殻類やハウスダストのダニとの交差反応性が報告されている。軟体動物allergenは、魚allergenとは交差反応性はないが、アニサキスが寄生している魚に軟体動物アレルギーの患者が反応する可能性はある。軟体動物のアレルギー誘発性は、食品の加工により余り減少しない。tropomyosinのアレルギー誘発性は耐熱性である。他の軟体動物allergenのアレルギー誘発性は、加熱で消失するものもあるが、逆に加熱によりアレルギー誘発性が増加するものもある。臨床症状を誘発する最低用量についての情報は殆ど無い。一種類の乾燥巻貝による二重盲検プラセボ対象食物投与試験では、反応は数百mgの範囲で観察されている。

その他、tropomyosinについて、actinの働きを調節する繊維状のactin結合蛋白質である。2本のα-ヘリックス鎖からなるコイルドコイルの構造をとり、特に筋収縮を行う上で重要な働きをしている。troponin複合体が筋繊維中のtropomyosinに結合し、ミオシン結合を調節することで、筋収縮を調節している。tropomyosinは種毎に違いが大きい蛋白質であるため、アレルギー源となることもある。例えばエビやハウスダスト中のチリダニ類などのtropomyosinが原因で、アレルギーを発症する人もいるの報告も見られる。

またtropomyosinは、海老、蟹、烏賊等の仮性アレルゲンの一つであると考えられている。

1)今堀和友・他編:生化学辞典 第3版;東京化学同人,1998

2)国立医薬品食品衛生研究所安全情報部;食品安全情報,No.7/2006.3.31

3)志田正二・代表編:化学辞典;森北出版株式会社,1999

4)小林陽之助・監修:食物アレルギーの治療と管理;診断と治療社,2004

   [615.8.TRO:2009.12.28.古泉秀夫]

「パーキンソン病と認知症」

金曜日, 4月 2nd, 2010

KW:語彙解釈・パーキンソン病・parkinson’s disease・認知症・パーキンソン症候群・続発性パーキンソン症候群・若年性パーキンソン症候群・Lewy小体・レビー小体

Q:パーキンソン病患者は進行すると認知症になるのか

A:パーキンソン病(parkinson’s disease)について、次の報告がされている。

パーキンソン病(PD)は65歳以上の群で約1%、40歳以上の群で0.4%が罹患する。平均発症年齢は約57歳である。稀に小児期や青年期に発症するものもある(若年性パーキンソン症候群)。

病態:PDでは黒質、青斑核及び他の脳幹ドパミン作動性細胞群の色素性ニューロンが消失する。黒質ニューロンは尾状核と被殻に放射しており、黒質ニューロンが失われると、これらの領域におけるドパミンが枯渇する。原因は不明である。

病因:続発性パーキンソン症候群は、他の変性疾患、薬物、又は外因性毒素により大脳基底核におけるドパミン作用の消失又は阻害が生じるために起こる。

(1)phenothiazine系、thioxanthene系(チオキサンテン)、butyrophenone系抗精神病薬、reserpine:これらの薬物はドパミン受容体を遮断する。

(2)一酸化炭素中毒、マンガン中毒、水頭症、脳の構造的病変(例:腫瘍、中脳又は基底核の梗塞)、硬膜下血腫、ウイルソン病、特発性変性疾患(線条体黒質変性症、多系統萎縮症): 頻度は低いが、これらの病因により発現することもある。

(3)N-MPTP(n-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロピリジン): 重度で不可逆性のパーキンソン症候群が突発的に生ずることがある(メペリジン合成の失敗によって意図せず作られ、非経口使用されている違法薬物)。

(4)基底核に生じた脳炎 : パーキンソン症候群が起こることもある。

症状・徴候

大部分の患者では、疾患は片手の安静時振戦(丸薬丸め振戦)として潜行性に発症する。振戦は緩徐で粗大である。振戦は安静時に最大となり、運動時には減少し、睡眠時には消失するが、情緒的緊張や疲労により増大する。通常は手、腕、脚が最も侵されやすく、この順に侵される。顎、舌、額、瞼も侵されることがあるが、声には波及しない。疾患が進行するにつれ、振戦は目立たなくなることもある。

多くの患者で、振戦のない固縮が生じる。固縮が進行するにつれて動きが鈍くなり(運動緩徐)、始動困難(無動)になる。固縮及び運動減少は筋肉痛や疲労感の一因となることがある。口を開けたままで瞬きが減る仮面様顔貌を呈する。顔の表情が失われ、動きが少なく緩慢になるため、最初はうつ状態にある様に見える。発声不全が生じ、独特の単調で吃音調の構音障害が見られる。

運動減少と遠位筋の制御障害により小字症(非常に小さな文字を書く)が起こり、日常生活活動が次第に困難になる。こわばった関節を医師が動かすと、固縮の度合いが変動して、律動的なピクピクした動きが突然生じ、爪車の様な効果をもたらすこともある(歯車様硬直)。

姿勢は前屈みになる。歩行を開始する・向きを変える・止まるという動作が困難になる;小刻みに足を引き摺って歩く様になり、腕は腰の方へ屈曲し、歩きながら腕を振らなくなる。足取りが不意に速くなり、倒れない様にするために急に走り出すことがある(加速歩行)。重心を移すと前や後ろに倒れそうになる(前方突進、後方突進)が、これは姿勢反射の消失によるものである。

認知症及び抑うつが良く見られる。起立性低血圧、便秘、排尿遅延が生じることもある。多くの患者に嚥下困難と、従って誤嚥が見られる。

患者は複数の動作を交互に、迅速に行うことができない。通常、感覚や力は正常である。反射は正常だが、著明な振戦又は固縮のため、反応がが生じ難くなることがある。脂漏性皮膚炎が良く見られる。脳炎後パーキンソン症候群では、頭部及び眼の強制的、持続的な偏位(注視クリーゼ)、その他のジストニア、自律神経不安定、人格変化が生じる。

その他、PDは大脳基底核の疾患で、運動欠乏、硬直、振戦が特徴である。進行性で、有効治療がされなければ無力性は増殖する。1960年代に行われたPDで死んだ患者の脳の分析で、大脳基底核(尾状核、被殻、淡蒼球)のドパミン(dopamine:DA)レベルの著しい減少が明らかになった。従ってPDは脳の特異伝達物質異常と関連する最初の疾患となった。PDの主な病理はdopamine作用性黒質線条体路(nogrostriatal tract)の広範な変性であるが、変性の原因は不明である。黒質線条体路の細胞体は中脳の黒質に局在し、PDの純症状は、これらのニューロンの80%以上が変性したときにのみ現れると思われる。PDの患者の約1/3は最後に認知症となる

PDのdopamine自体による補充療法は、dopamineが血液-脳関門を通過しないので不可能である。従ってその前駆体であるL-dopaは脳内に入り、脱炭酸されてdopamineになる。経口投与されたL-dopaは、大部分脳外で代謝されるので、選択的な脳外脱炭酸酵素阻害薬(carbidopaあるいはbenserazide)と併用される。これで末梢代謝を低下させ投与有効量を著しく少なくでき、末梢有害作用(悪心、体位性低血圧)を減少させられる。L-dopaと末梢脱炭酸酵素阻害薬の併用は治療の主流である。

PDの定義として「黒質-線条体dopamineニューロン系の一次障害により筋強剛、無動、静止時振戦などの錐体外路症状を示す疾患」である。

黒質緻密細胞のメラニン含有神経細胞が著しく減少し、残存細胞にレビー(Lewy)小体*が出現する。その他、橋の青斑核、延髄の迷走神経背側運動核、視床下部、脊髄交感神経核にも細胞減少とレビー小体を認める。PDの原因疾患の一つとして、グアムのパーキンソニズム・認知症症候群が報告されており、PDの症状として認知症が報告されている。

*Lewy小体:PD患者の黒質神経細胞の胞体内に出現する。エオジン好性の封入体、発見者Lewyの名によってLewy小体と呼ばれる。最近は、大脳皮質、黒質を含めて中枢神経にレビー小体が多発する老年期認知症疾患が注目され、レビー小体型認知症と呼ばれる

PDの患者の全てに認知機能の低下が見られるわけではなく、次のことが言われている。

PDの症状がある程度進んだ患者では、動作が緩慢になるのと同様、思考過程の遅延が見られる。また、PDは高齢者に多い疾患であるため、高齢者ではアルツハイマー病(老人性認知症)の合併が少なくない。PDはうつ病又はうつ状態の合併が少なくない。その結果、認知能力の低下が顕著になることがある。

1) メルクマニュアル 第18版日本語版;日経BP社,2006

2)麻生芳郎・訳:一目でわかる薬理学-薬物療法の基礎知識-第4版;MEDSi,2003

3)大内尉義・他:疾患と治療薬 改訂第5版;南江堂,2003

[615.8.PAR:2010.1.31.医薬品情報21・古泉秀夫]