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『ポルフィリン症の治療薬』

水曜日, 4月 28th, 2010

KW:薬物療法・ポルフィリン症・porphyria・ポルフィリア・ポルフィリン・porphyrin・ヘムアルギニン注

Q:ポルフィリン症の治療薬について

A:ポルフィリン症(porphyria:ポルフィリア):ヘム合成過程のポルフィリン代謝に異常のある一群の疾患である。代謝過程の酵素欠損のためポルフィリン体及びその前駆物質が肝や造血組織あるいは皮膚等に蓄積し、血液・尿・糞便中に増加する。多くは遺伝性であるが、一部は症候性にも生ずる。ポルフィリン代謝障害の主要臓器により、骨髄性ポルフィリン症、肝性ポルフィリン症、骨髄肝性ポルフィリン症に分類される。臨床的には、急性型ポルフィリン症と皮膚型ポルフィリン症に分けられる。

ポルフィリン(porphyrin):4個のピロールがメチン基(-CH=)によって結合した環状テトラピロール誘導体。ピロール核にメチル、エチル、カルボキシエチル、ビニル、ホルミルなどの置換基が結合する。天然にはFe、Cu、Mg等との錯体が見出され、生理的にはプロトヘム、クロロフィルなどが重要である。porphyrinは光が当たると毒性を持ち、沈着した部分を破壊する働きがある。その光毒性により皮膚に潰瘍を起こす。

『急性間欠性ポルフィリン症』

本症はヘム合成経路の3番目の酵素ハイドロキシメチルピレン合成酵素(HMBS)の遺伝子異常による常染色体優性遺伝疾患である。遺伝子異常者(潜在者)に、薬物、妊娠、饑餓、ストレスなどのヘム合成系に影響を与える刺激(誘因)が加わり、ヘム合成が遺伝子異常により低下しているヘム合成能力を上回ると発症する。ヘム合成系の初期産物であるALA(δアミノレプリン酸)及びPBG(ポルホビリノーゲン)の蓄積、あるいは何らかのヘム蛋白の欠乏が病因と考えられている。

急性腹症を思わせる腹部症状が初期に見られ、後にヒステリーを思わせるような精神症状を呈する。最後には四肢麻痺、球麻痺などの神経症状を呈し、死に至ることもある急性発作が見られる。腹部症状に対応する器質的な異常は認められ無い。高血圧、頻尿、肝機能検査値の異常、低Na血症や耐糖能異常も見られる。ポルフィリン症の多くは、赤色尿が起こる。

急性発症の予防:誘因を避けることが重要。糖分を十分に摂取し、禁忌薬物の摂取を避ける。

※発症時の治療

1)10%-ブドウ糖液   1日2-3L 点滴静注

ALASの酵素活性が抑制され、急性発作を改善させることが考えられている(グルコース効果)。

2)ヘムアルギニン注  1日3mg/kg 静注  4日連続(国内未承認)。

又は

 塩酸ヘマチン注    1日2-4mg/kg 静注 4日連続(国内未承認)

細胞内ヘムを上昇させ、ヘム合成系を抑制する。病態に則した治療法であり、欧米では第一選択療法であるが、我国では重症例に使用されることが多い。

3)タガメット錠    800mg  分4(保険外)

ALA及びPBGを減少させるとの報告がある。

《急性ポルフィリン症 対症治療薬についての重要な問題点》

対症療法としてブドウ糖の輸液が一般的であり、予後はあまりよくなかったが、諸外国では激しい腹痛、嘔吐、麻痺などの重篤な場合は既にヘミン関連医薬品、NORMOSANG(ヒトヘミン;ヘム-アルギニン酸)及びヘマチンの使用により症状が改善されたとする多くの論文があり、本医薬品の有効性及び安全性が確認され、欧米ではすでにポルフィリン症治療薬として公的に認可されているが、日本ではいまだに保険適用されていない[(近藤雅雄『急性ポルフィリン症治療の現状と治療薬供給の緊急性について』より抜粋)]。

『皮膚型ポルフィリン症』

400nmの光を避けることが第一である。その他、骨髄性プロトポルフィリン症には諸外国ではβ-カロテン内服が一般的であるが、本邦では食品添加物としてのみ使用が承認されている。晩発性ポルフィリン症には瀉血も有効である。

『Normosang(ヒトヘミン)』

1. 製造元:Jenahexal Pharma社(ドイツ)

2. 販売元:Orphan Europe,Export Department,Paris(フランス)

3. 効用:急性間欠性ポルフィリン症患者の急性発作(腹痛、神経障害)時及び急性発作予防に用いる。

4. 効用原理:患者に投与することで患者血液中のヘミンを正常値に戻し、アミルブリン酸合成酵素の活性を抑制し発作を抑制する。

5. 投与量:発作時に、一日あたり患者体重1kgにつき3mgの割合での投与を通常4日間続ける。

6. 最小販売単位:1箱(1瓶10mL(250mg)が4瓶入っている)

7. 価格:1箱につき、約40万円前後

1)最新医学大辞典 第3版;医歯薬出版株式会社,2006

2)山口 徹・他総編集:今日の治療指針,2009

[011.1.HEM:2009.10.21.古泉秀夫]