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「パーキンソン病と認知症」

金曜日, 4月 2nd, 2010

KW:語彙解釈・パーキンソン病・parkinson’s disease・認知症・パーキンソン症候群・続発性パーキンソン症候群・若年性パーキンソン症候群・Lewy小体・レビー小体

Q:パーキンソン病患者は進行すると認知症になるのか

A:パーキンソン病(parkinson’s disease)について、次の報告がされている。

パーキンソン病(PD)は65歳以上の群で約1%、40歳以上の群で0.4%が罹患する。平均発症年齢は約57歳である。稀に小児期や青年期に発症するものもある(若年性パーキンソン症候群)。

病態:PDでは黒質、青斑核及び他の脳幹ドパミン作動性細胞群の色素性ニューロンが消失する。黒質ニューロンは尾状核と被殻に放射しており、黒質ニューロンが失われると、これらの領域におけるドパミンが枯渇する。原因は不明である。

病因:続発性パーキンソン症候群は、他の変性疾患、薬物、又は外因性毒素により大脳基底核におけるドパミン作用の消失又は阻害が生じるために起こる。

(1)phenothiazine系、thioxanthene系(チオキサンテン)、butyrophenone系抗精神病薬、reserpine:これらの薬物はドパミン受容体を遮断する。

(2)一酸化炭素中毒、マンガン中毒、水頭症、脳の構造的病変(例:腫瘍、中脳又は基底核の梗塞)、硬膜下血腫、ウイルソン病、特発性変性疾患(線条体黒質変性症、多系統萎縮症): 頻度は低いが、これらの病因により発現することもある。

(3)N-MPTP(n-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロピリジン): 重度で不可逆性のパーキンソン症候群が突発的に生ずることがある(メペリジン合成の失敗によって意図せず作られ、非経口使用されている違法薬物)。

(4)基底核に生じた脳炎 : パーキンソン症候群が起こることもある。

症状・徴候

大部分の患者では、疾患は片手の安静時振戦(丸薬丸め振戦)として潜行性に発症する。振戦は緩徐で粗大である。振戦は安静時に最大となり、運動時には減少し、睡眠時には消失するが、情緒的緊張や疲労により増大する。通常は手、腕、脚が最も侵されやすく、この順に侵される。顎、舌、額、瞼も侵されることがあるが、声には波及しない。疾患が進行するにつれ、振戦は目立たなくなることもある。

多くの患者で、振戦のない固縮が生じる。固縮が進行するにつれて動きが鈍くなり(運動緩徐)、始動困難(無動)になる。固縮及び運動減少は筋肉痛や疲労感の一因となることがある。口を開けたままで瞬きが減る仮面様顔貌を呈する。顔の表情が失われ、動きが少なく緩慢になるため、最初はうつ状態にある様に見える。発声不全が生じ、独特の単調で吃音調の構音障害が見られる。

運動減少と遠位筋の制御障害により小字症(非常に小さな文字を書く)が起こり、日常生活活動が次第に困難になる。こわばった関節を医師が動かすと、固縮の度合いが変動して、律動的なピクピクした動きが突然生じ、爪車の様な効果をもたらすこともある(歯車様硬直)。

姿勢は前屈みになる。歩行を開始する・向きを変える・止まるという動作が困難になる;小刻みに足を引き摺って歩く様になり、腕は腰の方へ屈曲し、歩きながら腕を振らなくなる。足取りが不意に速くなり、倒れない様にするために急に走り出すことがある(加速歩行)。重心を移すと前や後ろに倒れそうになる(前方突進、後方突進)が、これは姿勢反射の消失によるものである。

認知症及び抑うつが良く見られる。起立性低血圧、便秘、排尿遅延が生じることもある。多くの患者に嚥下困難と、従って誤嚥が見られる。

患者は複数の動作を交互に、迅速に行うことができない。通常、感覚や力は正常である。反射は正常だが、著明な振戦又は固縮のため、反応がが生じ難くなることがある。脂漏性皮膚炎が良く見られる。脳炎後パーキンソン症候群では、頭部及び眼の強制的、持続的な偏位(注視クリーゼ)、その他のジストニア、自律神経不安定、人格変化が生じる。

その他、PDは大脳基底核の疾患で、運動欠乏、硬直、振戦が特徴である。進行性で、有効治療がされなければ無力性は増殖する。1960年代に行われたPDで死んだ患者の脳の分析で、大脳基底核(尾状核、被殻、淡蒼球)のドパミン(dopamine:DA)レベルの著しい減少が明らかになった。従ってPDは脳の特異伝達物質異常と関連する最初の疾患となった。PDの主な病理はdopamine作用性黒質線条体路(nogrostriatal tract)の広範な変性であるが、変性の原因は不明である。黒質線条体路の細胞体は中脳の黒質に局在し、PDの純症状は、これらのニューロンの80%以上が変性したときにのみ現れると思われる。PDの患者の約1/3は最後に認知症となる

PDのdopamine自体による補充療法は、dopamineが血液-脳関門を通過しないので不可能である。従ってその前駆体であるL-dopaは脳内に入り、脱炭酸されてdopamineになる。経口投与されたL-dopaは、大部分脳外で代謝されるので、選択的な脳外脱炭酸酵素阻害薬(carbidopaあるいはbenserazide)と併用される。これで末梢代謝を低下させ投与有効量を著しく少なくでき、末梢有害作用(悪心、体位性低血圧)を減少させられる。L-dopaと末梢脱炭酸酵素阻害薬の併用は治療の主流である。

PDの定義として「黒質-線条体dopamineニューロン系の一次障害により筋強剛、無動、静止時振戦などの錐体外路症状を示す疾患」である。

黒質緻密細胞のメラニン含有神経細胞が著しく減少し、残存細胞にレビー(Lewy)小体*が出現する。その他、橋の青斑核、延髄の迷走神経背側運動核、視床下部、脊髄交感神経核にも細胞減少とレビー小体を認める。PDの原因疾患の一つとして、グアムのパーキンソニズム・認知症症候群が報告されており、PDの症状として認知症が報告されている。

*Lewy小体:PD患者の黒質神経細胞の胞体内に出現する。エオジン好性の封入体、発見者Lewyの名によってLewy小体と呼ばれる。最近は、大脳皮質、黒質を含めて中枢神経にレビー小体が多発する老年期認知症疾患が注目され、レビー小体型認知症と呼ばれる

PDの患者の全てに認知機能の低下が見られるわけではなく、次のことが言われている。

PDの症状がある程度進んだ患者では、動作が緩慢になるのと同様、思考過程の遅延が見られる。また、PDは高齢者に多い疾患であるため、高齢者ではアルツハイマー病(老人性認知症)の合併が少なくない。PDはうつ病又はうつ状態の合併が少なくない。その結果、認知能力の低下が顕著になることがある。

1) メルクマニュアル 第18版日本語版;日経BP社,2006

2)麻生芳郎・訳:一目でわかる薬理学-薬物療法の基礎知識-第4版;MEDSi,2003

3)大内尉義・他:疾患と治療薬 改訂第5版;南江堂,2003

[615.8.PAR:2010.1.31.医薬品情報21・古泉秀夫]