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モラクセラ属(Moraxella(Branhamella) catarrhalis)の感染防御

金曜日, 8月 17th, 2007
感染症分類 特に規定されていな い。
一 般的性状 Moraxella catarrhalisは、従来Branhamella catarrhalisとして分類されていた。臨床現場では、Moraxella
catarrhalisよりBranhamella catarrhalisの呼称が定着しているため、現在もこの名称が使用されている。オキシダーゼ陽性、カタラーゼ陽性、非運動性、好気性のブドウ糖非発
酵グラム陰性双球菌である。普通寒天培地に発育する。なお、モラクセラ属にはMoraxella(Moraxella)とMoraxella (Branhamella)という二つの亜属が存在する。芽胞は形成しない。一部の菌は莢膜を有する[non
fermenters-gram negative rod:NF-GNR・(ブドウ糖非発酵菌=ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌:non-fermentative
rod;NFR)]。
本菌は嘗てはナイセリアあるいはBranhamella属として扱われてい た。
棲息部位 ヒトや他の温血動物の粘膜に寄生する。ヒトの正常細菌叢として、鼻腔を中心とした呼吸器系や泌尿生殖 器系の粘膜に存在し、臨床材料中にしばしば混入する。
上気道、皮膚、泌尿・生殖器の常在菌である。健康人から分離されることは少な いが、子供や老人の鼻咽頭にしばしば生息している。
病原性・感染経路 耳鼻科領域、呼吸器科領域の重要な感染症の起炎菌である。急性中耳炎、急性気管支炎、肺炎などの急性 感染症及び慢性下気道感染症急性増悪期、また日和見感染の起炎菌としても増加傾向にある。βラクタマーゼ産生菌も増え、臨床上注意が必要な菌として報告さ
れている。小児では中耳炎、副鼻腔炎などの起炎菌になり、成人の呼吸器感染症の場合、複数菌感染のことがある。
一般的な肺炎と同様、37℃以上の発熱、膿性喀痰の排出、白血球増加、CRP 上昇などの炎症反応の存在、胸部X線上浸潤影の存在及び喀痰培養で107/mL以上の本菌の検出により診断する。
易感染性宿主に対して病院内感染症、日和見感染症の原因菌の一つ。ただし、市 中肺炎の起炎菌として増加傾向が見られる。
菌の侵入に関しては、Branhamella菌は他の呼吸器感染症起炎菌とは異なりIgAプロテアーゼを産生しないとされ、これは菌の粘膜内侵入が困難で
あることを示唆する。健康成人より基礎疾患として慢性呼吸器疾患を保有している患者に菌の付着率が高く、慢性呼吸器疾患を保有している患者で冬に高く、夏
に低い季節変動が明らかに認められ、この現象は肺炎の他の主要な起炎菌である肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、インフルエンザ菌には見られない現象である。
治療 本菌の60-70%はペニシリナーゼを産生することから治療には本酵素に安定な抗菌薬を選択すべきで ある。ペニシリン系ではβ-ラクタマーゼ阻害薬との合剤であるオーグメンチン(添付文書中の有効菌種に本菌の記載無し)、第3世代セフェム系抗菌薬、
ニューキノロンが効果的である。本菌は抗菌剤使用にともない急速に耐性化しつつある。
1)levofloxacin  200-300mg/日・分2-3 難治性・重症600mg/日・分3
クラビット錠100mg/錠(第一製薬)
2)tosufloxacin tosilate  450mg/日・分3 難治性・重症600mg/日
オゼックス錠150mg/錠(大正富山)・トスキサシン錠150mg/錠(アボット)
3)lomefloxacin hydrochloride 200-600mg/日・分2-3ロメバクトカプセル100mg/Cap.(塩野義)
4)sparfloxacin   100-300mg/日・分1-2
スパラ錠100mg/錠(大日本)
5)fleroxacin    200-300mg/日・分1
メガロシン錠100mg・150mg/錠(杏林・中外)
6)cefodizime sodium   1-2g/日・分2 静注・点滴 難治性・重症4g/日
ケニセフ注1g/瓶(大鵬)
7)cefpirome sulfate  1-2g/日・分2 静注   難治性・重症4g/日分2-4
ブロアクト注1g/瓶(アベンティス-塩野義)

8)cefozopran hydrochloride 1-2g/日・分2 静注・点滴 難治性・重症4g/日 分2-4
ファーストシン注1g/瓶(武田)

感染防御 *抵抗性:至適生育 温度は 33-35℃、25℃で生育。
手洗いの励行・消毒の徹底
滅菌・消毒 他の日和見感染症原因菌との混合感染を回避するためにも感染防御の徹底を図る。
(1)衛生的手洗い(hygienic handwashing):医療行為の前、手指が細菌により汚染された可能性のある場合、石鹸と流水により行うが、汚染が甚だしいときは消毒薬を併用す
る。通常、10-20秒間手洗いし、ペーパータオルで拭き取る。眼に見える汚れや有機物で汚染されていない場合には、速乾性エタノールローションを用いる
消毒法も可能であるが、速乾性エタノールローションには洗浄作用がないため、明らかな汚染がある場合には予め除去する。
(2)器  具:0.1w/v%-benzalkonium chloride、0.1w/v%-両性界面活性剤、0.1w/v%-benzethonium
chloride、0.01-0.1%(100-1000ppm)-次亜塩素酸ナトリウム液等へ30-60分浸漬、若しくは消毒用エタノールによる清拭。
熱を利用した消毒では、通常、湿熱80℃-10分間で行う。内視鏡はグルタラールを使用した通常の処理。
(3)患者環境:手術室・病室の床は日常の湿式清掃でよいが、清掃回数を増やして清潔に心がける。消毒を行う場合には、0.1w/v%-両性界面活性剤、
0.1w/v%-benzalkonium chloride、0.1w/v%-benzethonium chlorideで清拭消毒する。カート・ドアノブ・トイレの便座等は消毒用エタノールで清拭消毒する。浴槽の消毒は0.2w/v%-両性界面活性剤で清
拭後、熱水でリンスする。
(4)リネン類:カーテン・シーツ等は特別な汚染がない場合、日常の洗濯を行う。本菌による汚染が明らかな場合には、水溶性ランドリーバッグ(水で濡れたもの
は不向き)か指定のビニール袋に入れて運搬する。80℃-10分間、熱水洗濯機で洗濯する。通常の洗濯を行った後、濯ぎ水の中に0.01-0.1% (100-1000ppm)-次亜塩素酸ナトリウム液を入れ、5分間浸漬する方法(使用温度注意)もあるが、脱色に注意する。
(5)看護用具:血圧計(清拭後、消毒用エタノールで拭く)、点滴スタンド(清拭後、消毒用エタノールで拭く)。
(6)分泌物・排泄物: 本菌感染症患者の分泌物が附着した汚染物は感染性廃棄物として密閉し処理する。オムツなどは焼却するが、便器、尿器は専用のflashing
disinfector(90℃-1分間の蒸気)。洗浄後に0.1w/v%-両性界面活性剤、0.1w/v%-benzalkonium chloride、0.1w/v%-benzethonium
chlorideへ30分浸漬又は0.05%(500ppm)-次亜塩素酸ナトリウム液に30分間浸漬。
(7)糞  便:排便後に水洗トイレ槽へ第4級アンモニウム塩又は両性界面活性剤を注ぎ(最終濃度0.2-0.5w/v%)、5分間以上放置後流す。[10%
-原液100mLを水洗トイレ槽へ注ぐ]。-参照-
*高圧蒸気滅菌:適当な温度及び圧力の飽和水蒸気中で加熱することによって、微 生物を殺滅する方法をいう。
*通例、高圧蒸気法の場合は、次の条件で滅菌を行う。
115-118℃  30分間・121-124℃  15分間・126-129℃  10分間
[主としてガラス製、磁製、金属製、ゴム製、紙製若しくは繊維製の物品、水などで熱に安定なものに用いる。]
*煮沸消毒:沸騰水中に沈め、加熱することによって微生物を殺滅する方法をい う。高圧蒸気法によって変質するおそれのあるものに用いる。通例当該物を、沸騰水中に沈め、15分間以上煮沸する(発芽後の栄養型)。
[主としてガラス製、磁製、金属製、ゴム製若しくは繊維製の物品など。]

*流通蒸気消毒:加熱水蒸気を直接流通させることによって微生物を殺滅する方法 をいう。乾熱法又は高圧蒸気法によって変質するおそれのあるものに用いる。通例、当該物を100℃の流通蒸気中で30?60分間放置。
[主としてガラス製、磁製、金属製、ゴム製若しくは繊維製の物品、水、液状医薬品など。]
*化学的消毒法:化学薬剤を用いて微生物を殺滅する方法をいう。化学薬剤の微生 物を死滅させる機序及び効果は、使用する化学薬剤の種類、濃度、作用温度、作用時間、消毒対象物の汚染度、微生物の種類・状態などによって異なる。本法を
適用するに当たっては、調製化学薬剤の無菌性及び有効貯蔵期間、適用箇所からの耐性菌出現の防止、残存化学薬剤の製品に与える影響等について注意を要す
る。
[主としてガラス製、磁製、金属製、ゴム製、プラスチック製若しくは繊維製の物品、手指、無菌箱又は無菌設備など。]
*アルデヒド類(グルタルアルデヒド、フタラール)
*塩素化合物(次亜塩素酸ナトリウム・ジクロロイソシアヌール酸ナトリウム)
*過酸化物(過酸化水素)
*アルコール類(エタノール・イソプロパノール)

*フェノール類(フェノール・クレゾール)
*陽イオン界面活性剤(塩化ベンザルコニウム・塩化ベンゼトニウム)
*ヨウ素化合物(ヨードチンキ・ポビドンヨード)
*両性界面活性剤(塩酸アルキルジアミノエチルグリシン)
*ビグアニド剤(グルコン酸クロルヘキシジン)
等の利用も可能である。

[015.11.MOR:2003.2.25.古泉秀夫]


  1. 山西弘一・他編:標準微生物学 第8版;医学書院,2002
  2. 吉田眞一・他編:戸田新細菌学 改訂32版;南山堂,2002
  3. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2003
  4. 内海 爽・他:第4版エッセンシャル微生物学;医歯薬出版株式会社,2000
  5. 三浦 洋:ブランハメラ肺炎;別冊日本臨床<領域別症候群23>感染症症候群I:362-365(1999)
  6. 東京都感染症マニュアル;東京都政策報道室都民の声部情報公開課,2000