トップページ»

メソミル(methomyl)の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007

象物
農薬-殺虫剤。メソミル(methomyl)
成分 メソミル(methomyl)

般的性状
methomylは、米国のデュポン社が開発したオキシムカーバ
メート系の殺虫剤で、我が国では1970年4月20日に登録された。ユニオン・カーバイド・インド社の農薬工場で漏れ出し、20万人もの死傷事故を起こし
たメチルイソシアネートが原料に使用される。
S-methyl
N-[(methylcarbamoyl)oxy]thiacetimidate。本品は白色結晶性の物質で、かすかな硫黄臭がある。融点:78-
79℃、水に溶ける(5.8g/100mL:25℃)、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトンに可溶。分子式:C5H10N2O2S=
162.21。別名:ランネート
(lannate)、ランネート45(45%)、複合剤でキーデックス、ホスクリン、ランダイヤ。CAS-16752-77-5。
用途:殺虫剤。カーバメイト系の薬剤で、キャベツ
のアブラムシ、コナガ、アオムシ、ヨトウムシ、稲のニカメイチュウ、ウンカ等に適用される。米や麦に浸して畑や果樹園にまいておくと、鳩や雀、その他の野
鳥が死ぬというので、鳥害対策に転用されている。また、野犬退治のための毒餌として使われることもある。
毒性 劇毒区分=劇物。魚毒性=B類。
残留農薬研究所は変異原性なしと報告しているが、
動物細胞を用いた実験で、染色体異常が報告されている。またmethomylのようなカーバメイト剤は胃液のような酸性条件下では、ハムなどの添加剤であ
る亜硝酸塩と結びついて容易にニトロソ体に変化する。ニトロソ体については、サルモネラ菌や大腸菌で変異原性が認められている。真鴨の受精卵に注入すると、雛の首に異常を来した
り、水腫や成長抑制を起こした。ラットで甲状腺から分泌されるチロキシンや下垂体からの成長ホルモンであるソマトロピンのレベルに影響を与えるため、環境
ホルモンの疑いがある。
1975年に静岡県掛川市の茶畑でmethomylを散布していた主婦が中毒死したが、methomylは吸気毒性が強い
めと考えられる。
急性毒性
ラット(♂)LD50 経口
50mg/kg。マウス(♂)LD50
口17mg/kg

ラットLD50
経皮3,600mg/kg以上
魚毒性
コイTLm 2.6ppm
作用機作はcholinesterase
(ChE)活性阻害。接触毒、食毒作用がある。殺虫幅が広く、咀嚼性害虫、吸汁性害虫共に有効。速効性で残効性は小さい。カーバメイト剤そのものがChE
と結合し、その活性を阻害することにより、AChが分解されず蓄積し、コリン作動性神経の過剰刺激が起こる。ChEとの結合は有機リン剤より弱く、ChE
の復活も速やかである。また、カーバメイト剤そのものの代謝は早く、慢性中毒の危険がない。


1981年7月13日午後3-5時まで、梨の防虫作業としてラン
ネート(三共)を手動噴霧器で2時間程度散布した。当日は晴天で暑い日であった。慣れっこになってその日は防護マスク、防護眼鏡はしなかった。その間ラン
ネートが少量頭に付着したという。その後草取りを1時間くらいした。その頃から頭痛、吐き気、眩暈が現れたが、自分で車を運転して6時頃帰宅した。帰宅
後、水溶性胃液の嘔吐が頻発し、更に手足の倦怠脱力感が著しく、歩行困難となり救急車で入院した。中毒症状は有機リン剤と同じであるが、回復は比較
的急速である。
軽 症:頭痛、眩暈、悪心、嘔吐、多量の発汗、縮瞳、流涎。
中等症:縮瞳の亢進、失禁、筋線維性痙攣、歩行困難、言語障害。
重 症:意識混濁、対光反射消失、全身痙攣。

a.対症療法:(気道分泌物、気管支痙攣、呼吸停止などによ
る)呼吸不全:気管挿管して人工呼吸管理を行う。
痙攣:ジアゼパム5-10mgを静注する。ミダゾラム注2.5-15mgを静注又はくん注する。痙攣を繰り返す場合は、ミダゾラム又はプロポフォールの持
続注入により痙攣をコントロールした上で、フェノバルビタールを筋注する。
b.吸収の阻害:服用後1時間以内であれば、胃洗浄を考慮する。活性炭を投与する。
c.排泄の促進:血液浄化法は無効である。
d.解毒薬・拮抗薬:atropine:ムスカリン作用による症状の中でも(気管支痙攣による)喘鳴と大量の気道分泌物を目安に投与する。腸管の運動を減
弱させ吸収の阻害を妨げるので、ルーチンに投与してはならない。
atropineの投与量
初期量:硫酸アトロピン注(0.5mg/1mL)1-4管を静注。
維持量:1-4管の繰返し静注。

“公
園の米粒から殺虫剤成分 大阪、猫の餌に劇薬か”
『大阪府摂津市の公園に置かれた米を食べたとみられる鳥や犬が相次いで死んだ事件で、摂津署は7日、米粒から殺虫剤成分の劇薬メソミルが検出されたと明ら
かにした。
同署は器物損壊容疑で捜査。数年前から近所の60代の女性が野良猫の餌を公園内に置き、6日夕方も
いた米
と卵焼きを置いたことも分かり、同署は餌付けをめぐるトラブルがなかったか調べている。
調べでは、摂津市鳥飼本町のさくら公園とその付近で7日、ハトやスズメ計20羽と猫1匹の死骸が見つかった。近所の男性(60)が公園で散歩させていた犬
2匹も、落ちていた米粒を食べけいれんを起こし死んだ。米は炊いてあり、公園の南側入り口付近のクスノキの根元に置かれた新聞の上にあった。同署などによ
ると、メソミルは手足のけいれんなどを引き起こす成分があり、農業用の殺虫剤に多く含まれる(共同通信社)。[東奥日報ニュース;http:
//www.toonippo.co.jp/news_kyo/news/20070207010006331.asp,2007.2.7.]
備考 「米を食べた、米を食べた」というTV放送を見ていて、ネコの
餌付けをするために、何で生米を公園に撒かなければならないのかと不思議に思っていたが、“炊
いた米”
なる言葉が出てきた。普通、米というのは生米のことで、“炊
いた米”
は“御飯”とか“めし”というのではなかったのか。それとも関西は“炊
いた米”
も米という表記で統一されているのかどうか。第一猫の餌付けをするのに、如何に物好きでも生米はまかないだろう。それにしても猫餌付け派との永年の葛藤があるとはいえ、小さな子供も遊びに来るであろ
う公園に、劇物に分類される農薬を撒くという神経は理解できない。この農薬の毒性は、動物だけに致命傷を与えるわけではなく、人にも致死的な作用を及ぼす
のである。あまり短絡的な行動を取らないようにしないと、殺人者の汚名を被ることになりかねない。

1)
三共農薬手帳 第39版;三共株式会社, 1992
2)植村振作・他:農薬毒性の事典改訂版;三省堂,2002
3)西  勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂7版;医薬ジャーナル,2005
4)相馬一亥・監修:急性中毒診療ハンドブック;医学書院,2005
調
査者
古泉秀夫 分類 63.009.MET
入日
2007.2.9.