ニトログリセリン(nitroglycerin)の毒性
金曜日, 8月 17th, 2007| 対象物 | トリニトリン(trinitrin) | |||
| 成分 | ニ トログリセリン(nitroglycerin) | |||
| 一般的性状 | ■物理・化学的性状:微黄色の粘稠な液体。急熱、振動、衝撃などにより爆発する。ラビル型とスタビル型 の2種の結晶形がある。火災危険:大。発火点:270℃(爆発)。分子量:227.1。融点:2.8℃(ラビル型)、13.5℃(スタビル型)。沸点: 160℃(15mmHg)。溶解性:水に難溶、メタノール、二硫化炭素に僅かに溶ける。エーテル、アセトン、ベンゼンに可溶。その他、常温では無色澄明の 粘稠性の液体で、味は甘く灼熱感があり、衝撃により爆発するの報告もある。 [毒薬]。1錠中0.3mg以下を含有するものは劇薬。 ■別名:ニトログリセロール(nitroglycerol)、NG、グロノイン (glonoin)。トリニトリン(trinitrin)。nitroglycerin tablets[USP]、glyceryl trinitrate tablets[BP]、propane、1,2,3-triol、trinitrate、CAS-55-63-0(nitroglycerin)。化学名:glyceryl trinitrate又は1,2,3-propanetriol trinitrate。 ■ニトログリセリンは1847年Sobreroによって発見され、 pyroglycerinと呼ばれた。その後、1866年A.Nobelがその爆発力を利用し、ダイナマイトを製造した。最初にニトログリセリンが医薬品として用いられたのは何時のことか不明であるが、亜硝酸アミルなどの亜硝酸エステルと同じ効力を持つことが、1951年Wégrialによって報告されている。■舌下投与後の血漿中濃度は、投与後4分で最高値に到達し、以後二相性で消失す る。尿中に未変化体は検出されない。主として肝臓で急速に1,3-ジニトロ体及びモノニトロ体に加水分解される。なお、ニトログリセリンは、皮膚からも吸収されるが、内服では無効(経口では殆どが腸管粘膜や肝臓で分解されるため、大量を必要と し、効果の持続は長いが、最大効果発現時間も60-90分と長い)である。ニトログリセリンは、静脈系血管を強く拡張することで静脈還流量を減少させ、心臓の前負荷を軽減する。また、作用は強くないが、全身の抵抗血管拡張を介して、後負荷も低下させる。加えて比較的太い冠動脈を拡張させるとともに、側副血行路を拡張させて、虚血に陥りやすい心内膜側の血流を改善する。通常これらの効果は1分以内に発現し、約5分で最高となる。作用機序は一酸化窒素(NO)の生成によるとされている。 |
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| 毒 性 | 致 死量 | |||
| 経 口-ラットMLD:80-100mg/kg | 筋 肉-ラットLDL0:275mg/kg | |||
| 皮 下-ウサギLD100:500mg/kg | 筋 肉-ウサギMLD:400-500mg/kg | |||
| 静 脈-ウサギMLD:45mg/kg | 皮 下-ネ コLD100:200mg/kg | |||
| 皮 下-ネ コLDL0:150mg/kg | 経 口-マウスLD50:500mg/kg | |||
| 頭 痛は人の皮膚に18mgを塗布、作用させることによって生じる。 中毒量(成人)5mg・(小児)0.1mg/kg 。成人の推定致死量は約4g、気中の限界値は0.5ppm。 |
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| 症状 | ■頭痛、頭の中の周律性拍動、興奮、眩暈、失神、呼吸促迫、血圧低下。大量投与はメトヘモグロビン血症 とチアノーゼを起こす。皮膚接触は掌皮と指間に発疹を生じる。定期的に本薬剤を取り扱うとき、耐薬性が現れるが、接触を少なくするとすぐ消失する。アルコールは毒作用を高める。 ■治療目的で過大量を投与したとき、血圧の急激な低下、脈搏の減少、メトヘモグ ロビン形成、不安感、冷汗、時に心停止に至る。ただし、ニトログリコールに比べると、メトヘモグロビン形成能は約1/4である。 ニトログリセリンの過大量を経口的に摂取したときの中毒は致死的な場合があり、また死に至らなかったとしても意識喪失、混乱、頭痛、いらいら、微熱などの 症状を示す。経皮的に、あるいはニトログリセリン蒸気に曝露したときには、顔や首に焼け付くような感じ、頭痛、血圧低下、吐気、嘔吐、下痢などの症状を示 す。 |
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| 処置 | ■対症療法:一般的処置、対症療法。 □大量嚥下時メトヘモグロビン血症の処置(1%-メチレンブルー10mL・ビタ ミンC 500mgを静注)。 □チアノーゼは酸素吸入を必要とすることがある。メトヘモグロビン血症の治療 □酸素投与を行う。 |
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| 事例 | 「も う一つお訊ねしたいんですがね、先生。命を奪うだけの毒をチョコレートに入れることはできるでしょうか?」 「できると思いますよ」と医者はゆっくり言った。「気化してしまわなけりゃ、純粋な青酸で大丈夫でしょう。それにちっぽけな錠剤なら、気づかずに飲むこと もあるでしょう…が、あまり可能性のない仮説ですな。モルヒネやストリキニーネを詰めたチョコレートじゃ………」言いかけて彼は顔をしかめた。「おわかりでしょう、ポアロさん………一噛みしただけで分かりますからね!よっぽどのんきな者でも、平気なわけがないでしょう」 「どうもありがとうございました、先生」 警察の者だということがなかなかきいて、必要な情報を集めることができた。が、デルラール家に毒薬を売ったというのは、たった一軒しかない。それが、デルラール老婦人に売った硫酸アトロピン(瞳孔拡大に効果がある)の点滴薬でね。アトロピンは猛毒だから、そのときはしめたと思ったんだが、アトロピンの中毒症状は、食中毒の症状と似ていて、ぼくが調べている中毒症状とは、どうもちがってるんだ。しかも、その処方箋はだいぶ前のものでね。デルラール婦人は何年も前から、両眼のそこひにかかってたんだよ。 ぼくががっかりして店を出ようとしたら、おやじが呼ぶんだ。 「ちょっと、ポアロさん。いま思い出したんですが、この薬を買いにきた女の子は、これからイギリス人のやっている薬局へいかなくっちゃならないなんて言っ てました。そこを当たってみたらいいでしょう」 そこでぼくはいってみた。もういちど警官であることに物を言わせて、必要なことを聞き出した。デルラール死の死ぬ前日、その店の者がジョン・ウィルスンに 薬を売っているんだ。わざわざ調合したものじゃない。トリニトリンの小さな錠剤さ。それを ちょっと見せてくれというと出してきたが、そいつを見たとたん、ぼくは心臓がドキドキした……その小さな錠剤がチョコレート色なんだ。「これは毒薬なんだろうね?」とぼくは訊いた。 「いいえ、そうじゃありません」 「この薬の効能を教えてくれないかね?」 「血圧を下げます。心臓病も種類によって投与します………たとえば、狭心症などに。それから動脈の緊張を緩和します。動脈硬化症では………」 ぼくは彼をさえぎった。「なるほどね!いや、そういろいろ説明してくれても、ぼくにはさっぱりだ。これを飲むと、顔が赤くなるかね?」 「なりますとも」 「この錠剤を10錠………いや、20錠飲んだら、どうなるだろう」 「そんな真似はなさらん方がよろしいでしょうね」と彼はそっけなく答えた。 「しかし、毒薬じゃないんだろう?」 「命取りのものでも、毒薬と言わないものはたくさんありますよ」あいかわらずそっけない口調だ [アガサ・クリスティー・小倉多加志・訳:アポロ登場;ハヤカワ・ミステリ文庫,2002]。 |
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| 備考 | ■トリニトリン(trinitrin)について、当初、適当な薬物名を作者が創作したものとばかり思っ ていたが、次のような文書を入手した。そこでこの名称について調査したところ、ニトログリセリンの別名として報告されていた。 ■アルフレッド・ノーベル(Alfred Nobel)は死の2ヵ月ほど前の1896年12月に同僚宛にこう書き残している。 『医者からニトログリセリンを経口薬として処方されるとは、何という運命の悪戯だろう。彼らはニトログリセリンをトリニトリンと呼んでいる。化学者や一般の人を怖がらせないようにだ』。 ノーベルは狭心症による胸部の激しい痛みの発作に度々おそわれていた。当時の医師はダイナマイトの有効成分であるニトログリセリンに発作を抑える効果があることを知っていた。また、ノーベルは研究室での実験からこの化学物質に曝されると酷い頭痛を惹起することを知っていた。彼は狭心症の治療目的で処方されたニトログリセリンの服用を拒否した。 |
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| 文献 | 1) MERCK INDEX 13Ed.,2001 2)爆発物から治療ガスへ-生物学と医学における一酸化窒素;http://www.nikkei- bookdirect.com/science/beyond-discovery/no/01.html,2004.9.14. 3)第14改正日本薬局方解説書;廣川書店,2001 4)ニトログリセリン錠山川添付文書,2004.7.改訂 5)白川 充・他共訳:薬物中毒必携 第2版;医歯薬出版株式会社,1989 6)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル社,20017)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療-改訂第2版;南江堂,2001 8)山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2004 9)高久史麿・他監訳:ワシントンマニュアル 第9版;MEDSi,2002 |
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| 調査者 | 古泉秀夫 | 記 入日 | 2004.9.24. | |