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毒芹(water-hemlok)の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 毒 芹(water-hemlok)
成分 全草に猛毒成分シクトキシン(cicutoxin)、シクチン(cicutin)を含む。シクトキシンの詳細な作用機序は不明であるが、ピクロトキシンに類似の作用を有し、脳幹部より上位の中枢神経を刺激する。
一般的性状 毒芹、セリ科(Umbelliferae)ドクゼリ属の多年草で、日本全国の湿地帯に自生する。地下茎は緑色。節間は短縮して竹節状に肥厚。茎は中空、葉は2-3回羽状複葉、枝先に複散形花序を付ける。学名:Cicuta virosa。有毒部:全草、特に地下茎。地下茎が最も有毒。
ドクウツギ、トリカブトともに日本の三大毒草に数えられている。
別名:オオゼリ。野芹菜花(漢名)。
葉は食用のセリと間違いやすい。しかし、実際の中毒事故は根茎をワサビ等と間 違えて食べて起こすことが多い。春には全草に毒成分が含まれるが、夏になると根茎に多くなる。
毒性 ヒトにおける致死率:30-50%。
ヒト致死量:50mg/kg。
5g以上の摂取で致死的中毒の可能性。
根茎から出る汁は、経皮的に吸収され中毒を起こす。かゆみ止めに使用して死亡 した例も報告されている。
症状 中枢神経系の延髄及び中脳を刺激し、強直性の痙攣を起こす。消化管から急速に吸収される。中毒症状:痙攣、頻脈、呼吸困難。
90-120分で発症し、24時間以内に死亡。悪心、嘔吐、灼熱感、腹痛、下 痢、耳鳴、眩暈、動悸、意識障害、てんかん様痙攣、チアノーゼ、散瞳、徐脈、呼吸困難で死に至る。
大きな毒芹の根茎を2本を摂食した者は約1時間後から1時間35分の間に6回 強直性間代性痙攣を繰り返し、心停止で死亡した。1本を摂食した者は45分後から強直性間代性痙攣が始まり、約30分おきに5回発作を繰り返し、その後、2日間にわたって嗜眠状態が続いた後、回復した。
処置 気道確保と痙攣対策が出来れば、致死率は一気に改善される。
痙攣を止めるためには、ジアゼパムを静注する。20-30mg静注して痙攣が止まらなければ、直ちにペントバルビタールに切り替える。これらの薬物は、痙攣を止める作用があるだけではなく、ピクロトキシンの作用点(GABA受容体)に対する特異的拮抗薬でもある。従ってピクロトキシン又はピクロトキシン類似の痙攣毒に対しては、対症療法がそのまま特異的治療となる。重症中毒には、気管内挿管して機械的人工呼吸をしなければならないことがある。*早期に胃洗浄(痙攣発作時は危険)
*酸素吸入、人工呼吸
*痙攣にはpentobarbital sodium(ネンブタール注)、thiopental sodium(ラボナール注)の静注。
*強制利尿。
*血液透析、血液吸着。
事例 庄兵衛もおまきも、それで命をとりとめたのだが、五日ほど過ぎて二人の回復を待って畝源三郎が取調べ てみると、奇妙な事実が浮かび上がった。てっきり、おまきが無理心中をはかったと思っていたものだったが、
「たしかに、毒芹を手に入れてきたのもおまきなら、それを団子に作ったのもおまきなのですが、庄兵衛は毒と承知していて、一緒に食ったと申すのです」
一緒に死にたいとおまきがいった時に、庄兵衛が同意し、二人して毒団子を口にしたという。
「おまきがそういっているのか」
「いや、庄兵衛自身がそう申すのです」 [平岩弓枝:御宿かわせみ8-白萩屋敷の月-水戸の梅-;文藝春秋,1989]
赤い薬包が二服入っている。調べてみると、意外にも、それは猛毒を有する鳳凰 角(毒芹の根)の粉末であった。これで話しが大きくなった。
昨年の十月十日に湯島天神境内のとよという茶汲女が何者かに毒殺され、それから三日おいて、両国の矢場のおさめという数取女が同じような怪死を遂げた[久生十蘭:顎十郎捕物帖-稲荷の使い;朝日文芸文庫,1998]
備考 春 には全草に毒成分が含まれるが、それ以外の季節では葉の毒性は低く、年間を通して根茎が最も毒性が強いとされている。国内での誤食例では、ワサビと間違えてということで、1回の誤食量は限定されるが、米国では食用になるアメリカボウフウの根と間違えて摂食するということで死亡例も出ている。いずれにしろ我が国を代表する有毒植物であるということで、捕物帖の世界では繁用される毒物の一つである。
文献 1) 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
2)海老原昭夫:知っておきたい身近な薬草と毒草;薬事日報社,2003
3)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル,2001
4)内藤裕史:中毒百科 改訂第2版;南江堂,2001
5)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
調査者 古泉秀夫 記入日 2004.8.22.