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セラチア(Serratia)の感染防御

金曜日, 8月 17th, 2007
一般的性状 グラム陰性通性嫌気性桿菌。Serratia属に属する菌で代表種はSerratia marcescensである。Serratia liquefaciens、Serratia rubi-
daea等も知られている。多剤耐性菌が多く、日和見感染の原因菌となり得る。
周毛性のグラム陰性桿菌で、莢膜のある菌種もある。DNase活性が強い点で他の腸内細菌と区別される。 Serratia marcescensとSerratia rubidaeaは赤?桃色の色素(pro-digiosin)を産生するが、色素非産生株もある。
棲息部位 空気中、塵埃中、水中等にしばしば存在し、食物に附着して増殖、これを赤変することがある。腸内常在菌。
感染部位 従来、非病原菌として扱われてきたが、近年創傷感染、肺炎、肺化膿症膿胸、髄膜炎、尿路感染症、敗血症、骨髄炎、腹膜炎等種々の感染症の原因となり得る。院内感染も見られ基礎疾患を有する患者に菌交代症として発現する可能性が考えられる。
感染経路 尿路カテーテル、静脈カテーテル、腹腔カテーテル、輸液。
[1]点滴静注用のボトルの注入口(ゴムキャップ)にSerratia marcescensを附着させ、注射針で注入口を通過させると、菌は瓶中に侵入することが確認されている。
[2]病院で使用する輸液-ブドウ糖注射液、総合電解質液、静注用脂肪乳剤、血漿増量・体外循環灌流液、糖・電解質・アミノ酸液20mL中に菌液10μLを添加、室温放置、6時間・24時間後の菌量を測定した。この結果、静注用脂肪乳剤中では24時間後で10万倍以上増加し、血漿増量・体外循環灌流液中では1万?10万倍、総合電解質液、糖・電解質・アミノ酸液、ブドウ糖注射液中では100?10万倍に増加した。
この結果、輸液ボトル調製中に菌が混入し、室温に10時間以上おかれた場合、輸液中では菌は相当数まで増殖し、大量の菌の曝露源となり得ることが示唆された。*病棟における輸液準備は、概ね準夜帯(16時?18時)の看護婦が処置室において混合準備し、室温に静置し(調製から点滴開始まで10時間以上)、翌日投与する方法が一般的である。調製時汚染された場合、感染原因となりうる。
治療 β-ラクタマーゼを産生するので、第三世代セフェム、カルバペネム、モノバクタムを選択する。
ceftriaxone sodium・cefozopram hydrochloride・cefepime dihydrrochloride・ceftizoxime
sodium等
1回1g    1日2回 点滴静注
panipenem・betamiprom1回0.5-1g  1日2回 点滴静注
carumonam sodium
1回1g    1日2回  点滴静注
感染防御 高圧蒸気滅菌、煮沸消毒。薬液消毒については、通常の栄養型細菌と同様と考えられるが、菌の持つポンプ機能により低濃度の消毒剤等では菌体外に排出するとの報告もあるため、濃度注意。エタノールについて、60%前後の稀アルコールでは、霊菌(Serratiamarcescens)は30分で死滅とする報告もされているが、バイアル瓶等の注入口ゴム栓の消毒には時間がかかりすぎる。
なお、同一細菌による試験結果ではないが、消毒用エタノールとの比較でイソプロパノールは作用時間が遅いとする報告もされているため、『疑わしきは実施せず』の基本原則からすれば、濃度及び適用部位には注意が必要であると考える。
消毒剤 10?20% 60?90% 90%以上 備考
消毒用エタノール-70% 10分以上 約15秒 作用減弱 細菌芽胞に対する効力無。
イソプロパノール-70% 1分以上(60%濃度-対象ブドウ球菌) 細菌芽胞に対する効力無。多くのウイルスに効果期待できない。

[615.28. SER:2000.9.12.古泉秀夫]


  1. 森良一・他:戸田新細菌学;南山堂,1985
  2. 川名林治・他編:標準微生物学;医学書院,1982
  3. 水口康雄・他:ナースのための微生物学;南山堂,1987
  4. 武田美文・監修:院内感染防御マニュアル;薬業時報社,1996
  5. 遠藤美代子・他:セラチアの輸液中での増殖実験<抄録>;IASR,21(8):166-167(2000)
  6. http://idsc.nih.go.jp/iasr/21/246/dj2465.html
  7. 福島雅典・総監修:メルクマニュアル 第17版 日本語版;日経BP社,1999
  8. 第十三改正日本薬局方解説書;広川書店,1996
  9. 日本病院薬剤師会・編:院内における消毒剤の使用指針;薬事日報社,1987
  10. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2000
  11. 日野原重明・他監修:今日の治療指針;医学書院,1998
  12. 日本病院薬剤師会・編:院内における消毒剤の使用指針 改訂版;薬事日報社, 1994