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ストリキニーネの毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 ストリキニーネ(strychnine)
成分 ストリキニーネ(strychnine)・硝酸ストリキニーネ(strychnine nitrate)
一般的性状 ストリキニーネ:[英]strychnine、マチン属類植物の種子から抽出されるアルカロイド、そ の他ホミカの種子、イグナチウス豆にも存在する。別名:ストリキニン。無色柱状結晶。1gは熱湯3100mL、アルコール150mL、クロロホルム5mLに溶ける。水、エーテルに難溶。インドールアルカロイドの一つ。極めて強い苦味を持ち、猛毒 である。中枢神経系の反射亢進による筋硬直、テタヌス、反弓反射を起こし、呼吸停止、窒息にいたる。猛獣の殺傷、殺鼠剤に用いられる他、神経の興奮剤としても使用される。
硝酸ストリキニーネ:[英]strychnine nitrate、[独]strichninnitrat、 [仏]nitrate de strychnine、[ラ]strychnini nitras。興奮薬。無色又は白色の結晶又は結晶性粉末だ、味は苦い。水、グリセリン、クロロホルムにやや難溶、エタノールに難溶、エーテルには殆ど不溶。ホミカの種子から得られるアルカロイドで、反射機能亢進、延髄興奮、大脳皮質興奮作用がある。弱視、脚気、消化障害、胃アトニー、強心剤として用いられていたが、最近は殆ど用いられない。毒薬。
毒性 strychnine:ラット経口毒性(LD50)16mg/kg。ヒトに対する致死量:30-100mg。致死量:0.3mg/kg。主成分のstrychnineは最も毒性の強い天然毒の一つとして知られている。脊髄、脳幹、視床では、介在ニューロンを介した抑制機構が働いているが、strychnineは、そのシナプス後抑制を遮断する。
strychnine nitrate:致死量(イヌ)経口1.2-3.9mg/kg、皮下0.3-0.42mg/kg・致死量(マウス)皮下3.0-3.5mg/kg。
症状 strychnineは脊髄に対する強力な中枢興奮作用を持つ。初めに筋の緊張が上昇し、反射興奮性 が増大、中毒症状が進むと呼吸困難、強直性痙攣が起こり始め、甚だしくなると全身の骨格筋が強縮を起こし、酸素欠乏で死に至る。
激しい強直性痙攣、後弓反張、痙笑、刺激による痙攣誘発、呼吸麻痺、5時間が 勝負。
脊髄前角の運動ニューロンの抑制系の神経伝達物質グリシンと拮抗作用を持つこ とから、伸展筋の緊張が持続し、典型的な強直性痙攣、opistho-tonus(弓なり緊張)を示す。心循環系、消化器系には影響を与えない。痙攣に伴い、横紋筋融解が起き、ミオグロビン尿がでる。
strychnineは吸収が非常に速いので、中毒症状は30分以内、全身痙攣は15-60分で現れる。痙攣の前に筋の強直や興奮、risus sardonicus(痙笑:ひきつり笑い)が見られることがあるが、突然の痙攣で始まることもある。重症の場合は3-6時間で死亡するが、strychnineは分解も排泄も速いので、痙攣が24時間以上続くことはまずない。24時間持てば、生命に対する予後は良好。死因は痙攣による呼吸麻痺である。
strychnine nitrateは筋肉痛、振戦、知覚過敏、手足の強直、不安、次いで反射亢進、チアノーゼ、強直性痙攣、反弓緊張、呼吸停止、循環障害。
処置 strychnine
初期治療で重要なのは、痙攣の防止である。極く僅かな刺激に対しても誘発されて痙攣が持続するため、刺激を 与える行為は全て禁忌である。従って、催吐、胃洗浄をしてはならない。吸収が 非常に速いため、催吐、胃洗浄をしても意味がない。低酸素さえなければ意識は清明であるため、活性炭をソルビトールに懸濁させて飲ませるのはよい。下剤(硫酸マグネシウム30g)も飲ませる。強制利尿を行うと、ミオグロビンが尿細管に詰まって腎不全を来すおそれがある。strychnineは、酸性利尿により排泄が促進されるといわれるが、尿を酸性にするとミオグロビンが無尿細管に沈着しやすい。
治療の主眼は、気道と喚起の確保である。痙攣の治療にはジアゼパムを静注す る。刺激を絶対に与えない。ベッドのシーツに触れただけで、痙攣が誘発された例がある。
以上の治療で痙攣が止められないときは、筋弛緩薬であるパンクロニウム([商]ミオブロック)を静注し、気管内挿管をして、人工呼吸器で人工呼吸を続ける。意識がある場合には、ペントバルビタール注射液を静注する。本剤には抗痙攣作用もある。
strychnine nitrate
暗所での安静、酸素吸入、チオペンタールナトリウム [商:ラボナール注]又は中枢性筋弛緩剤(メシル酸プリジノール;コンラックス注)の投与、内服に対しては2%-タンニン酸液で胃洗浄、薬用炭の投与、バルビツール酸系催眠剤の静注を行う。
事例 エ ルシー・マクノートンの顔は青白くひきつっていた。「医師は呼んでくださったのでしょうか?」彼女はたずねた。
「ああ」そしてパイン氏はいった。「ストリキニーネだね?」
「ええ。あのけいれんで明白です。ああ、あたし信じられない!」彼女は椅子に泣き崩れた。パイン氏が肩を軽くたたいてやった。
そのとき、彼は何か思いついたようだった。急ぎ足で船室を出ると、ラウンジへ行った。灰皿の中に燃え残りの紙切れがあった。ほんの数語だけ見分けがつい
た……… [アガサ・クリスティー(乾信一郎・訳):パーカー・パイン登場-ナイル河の殺人;早川書房,2004]
備考 strychnine は『馬銭子』に含まれる成分である。アガサ・クリスティーの作品に比較的しばしば登場する毒物。国内では犬の飼育業者が、金銭問題の争いから硝酸ストリキニーネを使用した殺人事件を起こしたとされている。ただし、毒性は強いが、甚だしく苦味が強いので、殺人の道具としては、扱いにくい代物である。国内の例ではカプセルに詰めて服用させているが、険悪な状況下で、栄養剤といわれても飲まないのではないかと思うが、飲まなければ殺人事件にならないはずなのに事件が成立したということは、飲んだということである。よほど口先の巧い人間だったということのようである。
文献 1) 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
2)植松 黎:毒草を食べてみた;文春新書,2004
3)志田正二・代表編:化学辞典;森北出版株式会社,1999
4)第六改正日本薬局方注解;南江堂,1952
5)曾野維喜:続東西医学 臨床漢方処方学;南山堂,1996
6)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
7)山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2004
8)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999
9)大阪府病院薬剤師会・編:全訂医薬品要覧;薬業時報社, 1984
10)医学書院医学大辞典,2003
調査者 古泉秀夫 記入日 2004.11.20.