エチルクロライド(ethyl chloride)の毒性
木曜日, 8月 16th, 2007| 対象物 | クロルエチル(ethyl chloride) | ||
| 成分 | クロルエチル(ethyl chloride) | ||
| 一般的性状 | [英] ethyl chloride。[独]chloräthyl。[仏]chlorure d’éthyle。 [日]塩化エチル。別名:ethylis chloridum。hydrochloric ether。エチルクロリド。クロロエタン(chloroethane)。クロールエチル(chlorethyl)。C2H5Cl。 冷却剤、局所麻酔剤。劇物。 本品は無色澄明の流動しやすい液体で、常温常圧では気体である。特異なエーテル様の臭いがあり、味は灼くようで、極めて引火しやすく、点火すれば緑色の辺 縁を有する炎を上げて燃え塩化水素を発生する。本品は水に溶け難く(20℃で水100mLに0.574g溶ける)、アルコール又はエーテルに溶け易い。沸 点は12-13℃、比重は約0.921(0℃)である。本品は-30℃に冷却しても凝固しない。引火し易い。貯法:遮光した耐圧の気密容器に入れ、火気を避けて貯えなければならない。 常用量:1回2g(吸入用)、極量:1回5g(吸入用)。 基原:1759年Rouelleが発見。Robiquet、Collinがその組成を明らかにし、1896年Lotheisenが初めて臨床上に応用し た。 応用:本品は比較的低温で沸騰するので、特に製造された螺旋付栓を装置したガラス管に入れてあるので、その管を握って体温で沸騰させ、瓶の口を開くと噴出 し、これに触れた皮膚表面及び粘膜面に寒冷知覚麻痺を起こさせるため、局所麻酔剤として小手術を行う場合に使用される。膿瘍の切開、扁桃腺の除去、その他 狼瘡、ひょう疽、せつ瘡等の手術、皮膚の凍結等に用いられ、神経痛、偏頭痛、腰痛、痛風発作等には鎮痛の目的で外用される。白癬及び黄癬の治療には、清浄 後、本品で凍結させる。 本品は吸入用に使用される。芳香があり、発揚期が短く、且つ弱く、副作用が殆ど見られない。本品2-5mLを吸入させると、1-2分で全身麻酔作用を起こ し、その麻酔は3-5分続く、ただし、1分間の使用量90滴以下とする。 麻酔強度はクロロホルムとエーテルの中間に位置し、単独使用の他、他の麻酔薬と混合使用される。本品による麻酔は覚醒も速く、覚醒後数秒で正常状態に復す る。 本品の使用前にアヘン剤、硫酸アトロピン、ブロムワレリル尿素等の鎮静・催眠剤を投与する。 |
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| 毒性 | 1) 死亡率は約0.08%(2500:2)の割合で、飲酒時では僅かに90滴で急死した例もある。塩素化炭化水素の中では最も毒性が低い。 2)上部呼吸器官を刺激し、咳と流涎を起こすことがある。急速な麻酔作用が発現し、長期間の曝露により、麻酔状態を起こす。アドレナリンに対する心筋の感 受性を高め、細動を含む心拍動不整を起こすことがある。許容限界値は1000ppm。 3)吸入-人TCL0:13,000ppm。産業中毒 の事例はないが、かつて麻酔剤として用いられたことがあり、25例が死亡している。死亡の原因は呼吸器及び循環障害が12例、循環障害7例、呼吸器障害5 例などが挙げられている。 |
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| 症状 | 皮 膚を含む全ての経路から容易に吸収される。急速に体内に広く分布し、直ちに排泄され、大部分は肺から未変化体のまま排泄される。■吸入した場合:麻酔作用が現われる。多量を吸入すると、めまい、吐気、おう吐 が起こりはなはだしい場合は、意識不明になり呼吸が停止する。 ■皮膚に触れた場合:直接液に触れると、しもやけ(凍傷)を起こす。 眼に入った場合:眼の粘膜が侵される。 |
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| 処置 | ■医師の処置を受けるまでの救急方法*吸入した場合:直ちに患者を毛布等にくるんで安静にさせ、新鮮な空気の場所に移す。意識不明、呼吸困難又は呼吸が停止しているときは直ちに人工呼吸を行 う。 *皮膚に触れた場合:直ちに汚染された衣服やくつを脱がせる。直ちに付着又は接触部を石けん水又は多量の水で十分に洗い流す。 *眼に入った場合:直ちに多量の水で15分以上洗い流す。 ■治療指針 新鮮な空気の場所に移す。保温、安静及び数時間の看護、汚染された眼と皮膚は完全に洗浄する。 |
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| 事例 | 後 ろから男が飛びかかってきてちいさなガラス瓶をわたしの鼻の下で割ったのよ。息を吸う暇もなく気を失ったわ。気がついたらぐるぐる巻きにされちゃって、わ たしの宝石はどうなったのやら。きっとどっさり盗っていったんでしょうね。」カーター氏がつまみあげたのは、薄いガラスの破片だった。彼は臭いを嗅いで、それをトミーに渡した。 「エチルクロライドか」彼はつぶやいた。「即効性の麻酔薬だ。しかし、効き目はほんの一瞬しか持続しない。もちろん、あなたが気づいたときには、まだやつ はこの部屋にいたんでしょうな、ヴァン・シュナイダー夫人」 [アガサ・クリスティー(坂口玲子・訳)おしどり探偵-16号だった男;早川書房,2004] |
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| 備考 | 小 説の中では「エチルクロライド」とされているが、現在では「クロルエチル」と表記されている。また、本品は毒殺目的で使用されたわけではなく、麻酔薬とし て使用された事例であり、例によって例のごとくアガサ・クリスティーの薬物に対する知識の豊富さには感心させられる。 しかし、現在、医療現場では麻酔薬とし使用されておらず、易引火性等の取扱い上の不便さが、医薬品としての使用を忌避された理由ではないかと思われる。 |
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| 文献 | 1) 薬名検索辞典;薬業時報社,1984 2)薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990 3)縮刷 第六改正日本薬局方註解;南江堂,1952 4)http://www.inv.co.jp/~yoshi/doku-g/frame-g.html,2005.1.3. 5)http://www.apha.jp/top/school/home2/yakumei/e/e16.html,2005.1.3. 6)白川 充・他共訳:薬物中毒必携-医薬品・化学薬品・動植物による毒作用と治療指針 第2版;医歯薬出版株式会社,19897)後藤 稠・他編:産業中毒便覧(増補版);医歯薬出版株式会社,1992 |
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| 調査者 | 古泉秀夫 | 記入日 | 2005.1.4. |