トップページ»

医薬品情報管理学[8]

水曜日, 8月 15th, 2007

電網情報の信頼性の担保

[1]電網情報と特許法改正

特許法第29条第1項が改正された。

その内容は、「3.特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明」は特許を受けることができないとするものである。

また、インターネット等で開示されている技術情報は、「雑誌や図書等の形で刊行された技術情報と同等の情報を有し、その伝達の迅速性などの利便性を備えており、研究者が自己の研究成果を早期に公表することを目的としてインターネット等を論文発表の場として利用する事例も増えてきていることから、刊行物と同様、技術の進歩、発展に寄与するものであり、既に産業界の技術水準を構成している。従って、例え刊行物に記載されていなくてもインターネット等で開示されてる発明に対しては特許権が付与されるべきものではない」としている。

つまりインターネット等で開示された情報は、頒布された刊行物の記載と同様、『新規性喪失事由』となることを明示したわけであるが、逆にいえば、電網情報を公式に認めたということであろう。

[2]用語の統一性

法律規則を定める場合、そこで使用される用語の解釈について、統一的な対応が必要である。特許法の改正に伴って発出された、『インターネット等の情報の先行技術としての取扱運用指針』において、次の用語の定義付けが示されている。

  1. 回線:一般に往復の通信路で構成された、双方向に通信可能な伝送路を意味する。一方向にしか情報を送信できない放送(双方向からの通信を電送するケーブルテレビは除く)は、回線に含まれない。
  2. 公衆:社会一般の不特定者を示す。
  3. 公衆に利用可能:不特定の者が見得るような状態におかれることを指し、現実に誰かがアクセスしたという事実は必要としない。具体的には、インターネットにおいて、リンクが張られ、検索サーチエンジンに登録され、又はアドレス(URL)が公衆への情報伝達手段(例えば一般に広く知られている新聞、雑誌等)にのっており、かつ公衆からのアクセス制限がなされていない場合には、公衆に利用可能である。

*ホームページ等へのアクセスにパスワードが必要であったり、アクセスが有料である場合でも、その情報がインターネット等にのせられており、その情報の存在及び存在場所を公衆が知ることができ、かつ、不特定の者がアクセス可能であれば、公衆に利用可能な情報であるといえる。

また、この運用指針の中ではと限定しているが

  1. インターネット等:電気通信回線を通じて技術情報を提供するインターネット、商用データベース、メーリングリスト等全てを示す。
  2. ホームページ等:インターネット等において情報をのせるものを示す。
  3. 電子的技術情報:電気通信回線を通じて得られる技術情報。

[3]電網情報を引用する際の条件

  1. 電子的技術情報に掲載日時の表示がない場合、原則的に引用しない。掲載日時については、インターネット等の情報がそのホームページ等にのせられた国又は地域の時間を、日本時間に換算して判断する。
  2. 次のようなホームページに掲載されている情報は、通常、問い合わせ先が明らかであり、当該疑義もきわめて低いと考えられる。

*刊行物等を長年出版している出版社等のホームページ(新聞、雑誌等の電子情報を載せているホームページ:学術雑誌の電子出版物をのせている)。

*学術機関のホームページ(学会、大学等のホームページ:学会、大学等の電子情報(研究論文等をのせている。)

*国際機関のホームページ(標準化機関等の団体のホームページ:標準規格等の情報をのせている。)

*公的機関のホームページ(省庁のホームページ:特に研究所のホームページにおいて、研究活動の内容や研究成果の概要等をのせている)

このようなホームページ等であっても掲載日時の表示がない場合は原則的に引用しないが、掲載された情報に関してその掲載、保全等に権限及び責任を有する者によって、ホームページ等への掲載日時及び内容についての証明が得られれば引用することができる。

[4]電子的技術情報が公衆に利用可能なものの事例

  1. 検索サーチエンジンに登録され検索可能であるもの。情報の存在、存在場所を公衆が知ることが出来る状態のもの。
  2. パスワードを入手することのみで不特定者がアクセス可能なもの。
  3. 有料ホームページ等においては、料金を支払うことのみで不特定者のアクセス可能であるもの。

電子的技術情報が公衆に利用可能とはいえない情報として、アドレスが公開されていないため偶然を除いてはアクセスできないもの、アクセス可能者が特定の団体・企業の構成員等に制限されており、部外秘の扱いとなっているもの。情報の内容が通常解読できない暗号化されているもの及び公衆が情報を見るのに十分なだけの間、公開されていないもの等が上げられている。

[5]引用の手引き

  1. 電子的技術情報と同一内容の刊行物が存在し、該電子的技術情報と該刊行物がどちらも引用可能な場合、刊行物を優先して引用する。
  2. 引用したホームページ等の情報をプリントアウトする。
  3. プリントアウトに、アクセスした日時、アクセスした審査官名、その情報を引用した出願の出願番号及びその情報を取得したアドレス等を記入する。
  4. 電子的技術情報を引用する際の引用文献等として記載要領

1)著者の氏名

2)表題

3)関連個所

4)媒体のタイプ(on-line)

5)掲載年月日(発行年月日)、掲載者(発行者)、掲載場所(発行場所)及び関連する個所が開示されている頁

6)検索日:電子的技術情報が電子媒体から検索された日を括弧内に記載する。

日本語での記載例

○○○○、外3名、新技術の動向[online]、平成10年4月1日、特許学会、[平成11年7月30日検索]、インターネット<URL:http://iij.sinsakijun.com/information/newtech.html>

[6]医薬品情報業務における電脳情報

医薬品情報業務における電脳情報の利用は、特許情報とは異なり、厳密な再現性が必要というわけではない。また、健康食品等の情報を検索した際、再現性を期待したとしても、再検索した場合、検索不能という事例が頻繁に起こり得る。

更に医薬品情報業務における電脳での検索は、初期情報を得る目的での検索が多く、検索結果がそのまま回答として使用できるとは限らない。

[7]情報は自己責任において使用すべきもの

『?情報とは自己の行動決定の規範となるものである?』

情報とは、自己の行動決定のための判断基準となるものであり、本来他人任せにするものではなく、自己責任において評価し、その採否を決定すべきものでる。その意味からすれば電網上で手に入れた情報を信頼するかしないかは、それこそ『貴方の勝手でしょう』ということであり、『信頼する』と判断して、最終的にその判断に裏切られたとしても、それはそれで当人の責任ということである。

[8]情報提供単位の選択基準

世界的規模で見た場合、どの位の情報提供単位(ホームページ)があるのか知りようもないが、ホームページ上に見られる情報は、玉石混淆であり、引用文献としてURLを記載したとしても、参照のため再アクセスしようとした時点で、既に機能を停止しているということも起こり得る。

健康食品等の販売を主体としているサイトの場合であれば、商品が売れなければホームページを運営する意味がないということであり、簡単に『サイト』を閉鎖するということは起こり得る。このような事態を考えると『商品販売のみの目的で開設されているサイト』の情報は、信頼性に欠けるということである。

一方、『個人名とメールアドレスが明記』されており、不足情報や不明な点を質問すると直ちに回答が戻ってくるサイトもある。このようなサイトでは、十分な情報の入手が可能であり、信頼性の高い情報の入手が可能である。しかも、このようなサイトの中には、必要資料を郵送してくれるという徹底したサービスを実施しているサイトもある。

更に専門的な情報を公開しているサイトもあるが、『著者名が記載されており、引用文献が明記』されているサイトに収載された情報は、信頼性が高いといえる。電網の世界だからということで、ホームページを主催する側が、情報を粗雑に扱うということは問題である。インターネットジャーナルとして、信頼される情報提供媒体にするためには、文書媒体と同様に一定のルールに基づいて情報を公開すべきである。

その意味では、学術雑誌等に収載されている原著論文同様、引用文献の明記はサイト管理者の責任であるといえる。

電網上に『有料で情報公開しているサイト』もある。有料である以上、会員登録し、使用料を支払うことが必要であるが、有料であるということは、提供する情報に責任を持つということも、その契約の中に含まれていると考えるのが当然である。つまり情報の正確性を保証するための対価も含まれていると考えていいはずである。一方、有料ではないが『会員制のサイト』もある。会員としての登録を求める以上、登録会員に責任ある情報を提供するのは当然であり、無料だから適当な情報というのでは、わざわざ閉鎖的な会員制を取り入れてまで電網上にサイトを運営する意味はない。

更に現在、多くの『官』が電網上で情報の公開を行っている。もし、『官』の提供する情報が信用できないとすれば、それはある意味で、国民が不幸だということにも繋がることになるので、『官』における都合の悪さがない限り提供される情報は、信頼のおける情報であると考えていいはずである。

従って電網上の情報の信頼性は

  1. 官庁等の公的機関が運営するサイトに公開されている情報
  2. 有料で運営されているサイトに公開されている情報
  3. 無料であるが登録会員制を導入しているサイトに公開されている情報
  4. 一般に公開されているサイトであるが、発表されている情報に、文書情報同様、著者、引用文献等が明記されている情報
  5. 情報提供者のメールアドレス、連絡方法が明記されているサイトに発表されている情報
  6. サイトの管理が徹底していて、収載されている情報のメンテナンスが確実に行われていること

等を総合して判断することが必要である。

[9]個人と専門家の信頼性の相違

文書情報であれ電網情報であれ、入手した情報を評価し、利用するか否かの判断を下すのは、あくまでも最終的には情報使用者である。

しかし、これは個人が個人のための情報を入手し、その情報を参照するか否かを決める場合であって、専門家である薬剤師が、患者に情報を提供する際に、『情報を参照するか否かは患者の判断』等ということはあり得ない。

専門家が特定の個人に提供する情報は、専門家がその患者にとって最も必要にして適切であると判断した情報であり、また十分に信頼性のある情報でなければならない。

その為には常に最新の情報を入手する努力と共に、信頼性の高い情報を手に入れる努力を忘れてはならない。入手した情報の正当性を評価する物差しは、あくまで個人の努力によってしか手に入れることはできない。

努力をし、技術を研くからこそ専門家なのであり、その努力の結果が他人に見えるから評価されるのである。同じ服薬指導をするのでも、懐の深い薬剤師と浅い薬剤師とでは、受け手の側の信頼感は異なってくる。同じ白衣を着ていても、話をしているうちに明らかに差が付くことを忘れてはならない。

提供した情報に基づいて、医師が患者に処置を行った場合、その結果が患者にどう反映したのか。もし誤った情報を提供し、患者に悪い結果を招いた場合、どの様な責任の取り方があるのか等の緊張感のなかで、情報を取り扱う経験を積み重ねることが、情報評価の眼を養うための最大の早道である。臨床現場での切った張ったの経験なしに、情報をどう取り扱ったところで、机上の空論でしかない。

薬剤師が白衣を着るのは患者の前である。病院であれ調剤薬局であれ、患者と向き合うことによって教育され鍛えられていく。医薬品情報は、そのような薬剤師が作り上げ確立すべきものである。専門職能として育てられていく過程で、何度も恥をかく場面に遭遇する。その環境の中から臨床現場で役に立つ薬剤師が育ち、患者が薬剤師の提供する医薬品情報等のサービスに評価を与えるのである。

[2000.10.22.]


  1. インターネット等の情報の先行技術としての取扱運用指針、[online]、2000.12.10、特許庁、[2000.9.25.検索]、インターネット<URL:htpp://www.jpo-miti.go.jp/info/unnyousisinhtm.htm>
  2. 古泉 秀夫:論壇-電網情報の信頼性;薬事新報,No.2131:1117-1118(2000)