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SPD外部委託の矛盾点

水曜日, 8月 15th, 2007

日本病院薬剤師会は2001年2月10日の理事会で、『院内の医薬品の搬送、補充、在庫管理などを一元管理する「SPD(Supply Processing & Distribution)」の外部委託が広がっていることについて協議、薬剤師の業務が侵されかねない重要な問題ととらえ、会員への周知が急務だとした』とする報道がされていた。

『SPD請負い業者の仕事は、調剤室への出庫、病棟での定数配置薬品の数量チェックや補充、個人注射薬と輸液の取り揃えの準備など多岐にわたり、その範囲や方法は病院によって異なる。その中で薬剤師とSPD請負業者との業務分担が不明確になっている。要所要所で薬剤師が点検するが、薬剤師の点検という形式の下で薬剤師の手間を省くことが第一となり、職能の縮少になるとしている。病院にとっては経営や物流の効率化を図ることができ、卸の参入も相まって急速に広がる可能性があり、SPDの導入時には適正使用の点から薬剤師が主導権を握ることが重要とだ』とする意見が出されたという。

しかし、皮肉な見方をすると、現在、日本病院薬剤師会が推奨している病棟での『服薬指導業務』の実践が、薬剤業務にSPDの導入を促進しているという見方も可能である。『服薬指導業務』を導入する際、一定数以上の入院患者を要する医療機関において、最も体力を要する部分が『注射薬についても原則として処方せんに基づく個人渡し』という部分で、この部分を実行しなければ、『服薬指導業務』に突入できないという自家撞着に陥るのである。もし、薬剤師の増員が可能であれば、何等問題なく片付く話であるが、薬剤師の定員削減に抵抗するための『服薬指導業務』の導入であれば、新たな仕事が増えるからということで増員がされる訳ではない。そこで人員増なしに『注射薬の個人渡し』をしようとすれば、手近なところで業者の手を使うということである。

ただし、問題なのは、『注射薬を原則として処方せん』ということであれば、その行為はあくまで調剤行為であり、薬剤師でもない業者に任せることの是非を問う前に、既に違法行為である。例えば最終的に、施設の薬剤師が鑑査を実施したとしても、薬剤助手制度の確立していない我が国において素人に調剤を委託するのは問題だといえる。更に問題なのは処方鑑査をし、注射薬を調剤し、鑑査するという一連の流れは、薬剤師による二重・三重の鑑査がされていることを意味する。それにも係わらず各部門での鑑査を排除して、如何に最終鑑査に力を入れたにしても、見逃しは必ず起こるというのが、長年の経験からいえることである。通常行われる調剤薬の鑑査もそれぞれ分担調剤を行う薬剤師が完璧を期して仕事を行い、その完成品を鑑査するからこそ薬局の窓口から外に出る誤薬がなかったということが出来る。注射薬調剤についても同様であり、最終1回の鑑査では、完璧は期しがたいということである。

また、注射薬は、急性期の入院患者に使用されるということで、頻繁に変更が行われる。特に土・日曜日あるいは連休中の払出し分は、休日明けに大量に返戻されるという宿命を担っている。これを避けるためには、薬剤師が土・日に出勤しあるいは連休に出勤し、通常業務を実施する以外にないが、これでは薬剤師の労働条件が守られない。

薬剤師の配置人員を決定する論議の中で、薬剤師の収益性が論議になり、病院薬剤師が期待する定員配置がされなかったことから、現状で最も収入に繋がる早道として『服薬指導業務』が喧伝される結果になったが、ある意味で、あまりにも短絡的な発想ではなかったのかという疑念を持たざるを得ない。

日本病院薬剤師会が大号令を掛けるまで、『服薬指導業務』が思ったほどの前進を見せなかったのは、それなりの理由があったからで、その原因の解明なしに促進のかけ声を掛けられれば、流行に乗り遅れるなとばかりに、あらゆるものを捨てて電車に乗ろうとするのが日本人の悪い癖である。

電車の先頭車両に乗るのか、最終車両に乗るのか、到着する駅が同じであれば急ぐことはないと考えるが、先頭車両に乗りたがるのが国民性ということであろう。しかし、SPD請負業者による注射薬調剤の代行は、ますます薬剤師の存在感を失わせるものであり、人件費に見合うことのない『服薬指導業務』の実践が、薬剤師の定数増に貢献しないばかりか、更に配置人員の削減の口実に利用されはしないかと危惧する次第である。

薬剤師の配置人員を考える場合、単に金銭的な利益の追求ではなく、院内薬品管理の全般に対する貢献度を再度検討することが必要ではないか。

嘗て“竹槍で戦争を仕掛けるタイプ”だといわれたことがあるが、『人が先か仕事が先か』といわれれば、やはり仕事をした上で増員を要求するといわざるを得ない。

[2003.7.29.]