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薬学教育の規範となることを期待する

水曜日, 8月 15th, 2007

魍魎亭主人

2006年4月の入学生から薬科大学の6年制が始まり、いよいよ臨床に軸足を移した薬剤師教育が実施されることになった。しかし、臨床とは何かを考えた場合、患者の存在しない臨床がないとすれば、単科の薬科大学では臨床現場での教育は不可能である。

その意味では、単科の薬科大学が、今後の薬学教育にどう対応するのかを考えていたところ、一つの答えとして、今回の合併話が報道された。何と早ければ2008年4月にも、慶應義塾と共立薬科大が合併するための合併協議に入るという。

薬科大学が6年制になり、臨床教育に軸足を移すことになった時点での思い切った判断だということができる。共立薬科大学の理事長は「実務実習の際、病院や医学部があると、(薬剤師育成などに)絶大な力を発揮する」と説明したというが、将にその通りである。

共立薬科大の名称を残すかどうかは今後協議するとされているが、名称問題に拘泥するのは後向きの発想である。名称問題について、何れにするのかの論議に労力を費やすよりは、教育の質、教育するための仕組みの完成度を高めることに精力を費やすべきである。今後の薬学教育の模範となるものが創設されることを期待したい。

ところで多くの単科大学あるいは薬学部は、人を対象とした販売や調剤のできる薬局を持っているところさえ数える程である。つまり臨床薬学教育とはいうものの、全てが既設の病院・薬局をあてにして、他人の褌で相撲を取る話なのである。

あまつさえ何を思ったのか分からないが、薬科大学、薬学部の新設、増設が続き、他人の褌も、場合によっては使えない事態を招きかねない現状になりつつある。一体何を考えて、薬剤師教育などに乗り出してきたのか。現在、薬剤師が不足気味で、調剤薬局等の賃金はよいと聞くが、それも売り手市場であるから起こっている現象で、薬剤師の数が増加して買い手市場になれば、現在の条件は吹き飛んでしまう。

更に6年制になれば、薬剤師の労働条件がよくなり、待遇も改善されると期待している向きもあるようであるが、商品価値がなければ、単に6年掛けて卒業してきた程度では、処遇改善が図られるわけではない。

病院・薬局を教育機関として考えた場合、病院・薬局の設置目的は本来教育を前提としたものではない。教育機関として学生の教育に携わる以上、同一水準の知識を与えることができることが前提条件で、病院・薬局であれば、何処でもいいというわけにはいかない。教育するための計画を明確に示すことができ、更には教育するための人材が揃っていなければならない。更に教育する側は、医療人としての自覚を持った薬剤師でなければならないはずである。

今後、薬剤師教育の水準を確保するためには、病院を自前で持つ薬科大学の数が増えることを期待したい。ただし、薬剤師教育だけで病院を経営するのは難しい。看護学科、臨床検査学科・放射線技師学科、理学療法学科等を含めた医療関連職種を糾合した医療総合大学を目指すか、さもなければ既設の医科大学との合併あるいは提携等を模索すべきである。更に既存の病院・薬局を考えるのであれば、教育現場としての水準の維持と、現場で教育する人材の待遇等の整備に努めなければ話にならない。

臨床現場(患者)を身近に持たない学校での臨床薬剤師教育という、無謀にも近い試みを実践しなければならない日は直ぐそこに近づいている。あらゆる知恵を絞って対応しなければ、薬剤師教育は大きな失敗をしかねない。

慶應・共立薬科大学と合併へ  2008年目指し協議

慶応義塾(東京・港区)と共立薬科大(同)は2006年11月20日、合併を前提に協議を行うことで合意したと発表した。慶応は2008年4月に大学に薬学部、大学院に薬学研究科を新設する方針。予定通りに合併が行われれば、4年制私大の学校法人では1951年日本大、東京獣医畜産大、1952年の日本医大、日本獣医畜産大の合併以来、3例目となる。大学の志願者数と入学者数が一致する「大学全入時代」が来年度に迫り、大学の生き残り競争が激しくなる中で、今回の合併は注目を集めそうだ。

合併は共立薬科大側が持ちかけ、昨年10月、慶応大に非公式に打診した。水面下で協議を進めた後、今月6日に正式に合併を申し入れ、慶応大が20日の評議員会で受け入れを決定した。2007年3月、両大が合併協定書を締結する予定。

共立薬科大では、今年度から薬学部薬学科が4年制から6年制に変わったことで、学生離れが進み、今年度入試の志願者数が前年度比で14%も減少していた。また、6年制の変更に伴い、病院実習の期間が大幅に増えたため、「病院を持たない薬科大学としては限界がある。」と判断、医学部、病院、研究施設を備える慶応大との合併を希望した。

一方、慶応大には、医学部や理工学部、看護医療学部などがあるものの、薬学部はなかった。このため合併による新学部設立を新たな目玉とすることで、質の高い学生確保できると判断したと見られる。

私大の合併ではこの他に、関西学院大(兵庫県西宮市)と聖和大(同)が2009年4月の合併を予定している[読売新聞,第46948号,2006.11.21.]。

共立薬科大の橋本理事長は「実務実習の際、病院や医学部があると、(薬剤師育成などに)絶大な力を発揮する」と説明した。共立薬科大の名称を残すかは今後協議する。

理事長によると、具体的な他大学との合併の検討は約2年前から学内で行い、薬剤師がより高度な知識が求められるようになった最近の社会的背景などを踏まえて決断したという。「落ち着いた環境で、質の高い薬剤師を育てたい」と教育効果を強調した。一方、薬学部の受験者減などを背景にした経営不安については「収支も黒字で、学生の応募も高い率を維持している。経営は何ら不足はない」と否定した。

薬学部は2006年度から薬剤師の国家試験受験資格の在学年数が4年制から6年制に延長された。この影響で、大手予備校・河合塾の調べでは、薬学部全体の志願者は2005年度の121,534人から、2006年度は前年比65.4%の79,427人と大幅に減った。その半面、来年度には五つの大学が薬学部新設を申請している「供給過多」の状況にあり、「共立薬科大の経営者には危機感があったのだろう」とみる。私立大を持つ学校法人の合併は、関西学院大と聖和大が2009年4月に予定している。

過去には、1995年に南山大を持つ南山学園と名古屋聖霊学園が合併した例がある。また、東京水産大と東京商船大が東京海洋大となるなど国立大学でも統合の動きが進んでいる。


  1. 毎日新聞:http://www.excite.co.jp/News/society/20061120203600/20061121M40.086.html, 2006.11.21.