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薬剤師の義務を明確に認識すべし

水曜日, 8月 15th, 2007

薬に関する情報の仕事をしていると、種々雑多な薬に関する調査依頼が寄せられる。中には薬と全く係わりのない調査依頼が舞い込み、何の目的でそんな調査を依頼して来るのかと、質問者の意図に首を捻ることもあるが、最も問題としなければならない調査依頼は、“処方せんに記載された内容”に関するものである。

処方せん内容に関する疑義照会は、薬剤師法第24条で『薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、 歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない。』と定められている。ここで交付した“医師、歯科医師又は獣医師”と規定されているのは、処方せんが医師の薬物療法に関する意思伝達文書であり、その処方せんを書いた医師以外、内容の適否を判断することができないからである。

にも係わらず、相も変わらず第三者の調査機関に、処方せん中に記載されている“薬品名”や“用法”の調査を依頼してくるということはどういうことなのか。依頼された方は依頼された方で、懸命に調査をしているが、この調査の結果には何の意味もないことを認識すべきである。この調査の結果から得られるのは、あくまで推論であって確定ではない。いずれにしろ最終的には、処方医に確認した後でなければ、調剤できないということであり、第三者の推論に基づいて調剤するなどという危険を冒すべきではないということである。

第一薬剤師の行う処方せんの鑑査は、患者の安全性を確保するための鑑査であり、処方せんの不備を質すためのものである。その意味からすれば、公に通用しない略号やあるいは錠剤・カプセル剤に印字されている識別記号などを薬品名に代えて処方せんに記載するのは誤りである。

まして薬剤師からの問い合わせに対し、回答を面倒がる医師がいると聞くが、患者の安全確保のために問い合わせているのであって、単なる趣味で聞いているわけではないことを、医師も理解してもらわなければ困るということである。薬による事故を無くすためには、処方を書く医師と調剤をする薬剤師が緊密な連携を図ることが不可欠である。

まず、医師は、正確な処方せんを書く義務があることを認識しなければならない。処方せんを通して、医師は自らの薬物療法の判断を薬剤師に伝える、その手段が処方せんなのである。その処方せんに不明な点があれば薬剤師が問い合わせをするのは当たり前のことであり、その問い合わせに不機嫌になるのであれば、最初から問い合わせを受けない処方せんを書くべきなのである。

日本薬剤師会が、調剤過誤の防止のため、会員向けに下記の文書を配布した。身内を引き締めるのも結構であるが、同時に医師会に対しても正確な処方せんを記載するよう、日常的に呼びかけていくことが必要である。

1.疑義照会及びその記録の徹底について

会員薬局においては、「処方せん中に疑義が生じた場合には、薬剤師が処方医に直接疑義照会を行い、疑義が解決した後でなければ調剤してはならない」原則を徹底されたいこと。

疑義照会を行った結果、薬剤師が薬学的見地から疑義が解決しないと判断する場合には、調剤することが適当でないと判断せざるを得ない場合もあることを認識すること。

なお、疑義照会を行った場合には、その責任の所在を明確にするため、薬局側の質問者名と質問の内容、及び医療機関側の回答者名と回答の内容を薬歴に記録すること。

2.特に注意を必要とする医薬品の取扱いについて

会員薬局においては、フェニトイン(アレビアチン)、ジギタリス製剤(ジゴキシン)、フェノバルビタール、インスリン、抗ガン剤及び麻薬等の規格・濃度の違いが重大な事故を起こす可能性が高い医薬品について、特に処方せんの確認や医薬品の取り間違いに留意すること。

なお、複数の規格・濃度、類似する名称が存在するなど、取り間違いが生じやすい医薬品については、「調剤過誤防止マニュアル」(平成10月9月10日付.日薬業発第104号.日薬雑誌- 平成10年10月号)を参考とされたいこと。

3.処方せん発行医療機関との話し合いについて

都道府県薬剤師会及び処方せん発行医療機関のある地元支部薬剤師会においては、どこの薬局でも間違いなく調剤できるよう、複数の規格・濃度、類似する名称が存在する医薬品等については規格・濃度等まできちんと処方せんに記載するよう、当該医療機関と話し合いを行うこと。

また、疑義照会の方法についても、県薬及び地元支部薬剤師会が中心となり、当該医療機関と十分な話し合いを行うこと。疑義照会は薬剤師が処方医に直接行うものであるが、処方医に連絡がつかない時の対応や、大型病院の場合には院内薬剤部の協力体制等についても話し合いを行うこと。