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なぜ、海外から出稼ぎ看護婦を導入しなければならないのか

水曜日, 8月 15th, 2007

鬼城竜生

経済同友会は2004年4月5日、医師や医療機関の診療成績の情報開示を義務づけるとともに、看護師など医療従事者の海外からの受け入れ、医療機関への株式会社の参入などを求める医療改革の提言を発表した。患者が納得し、受けたい医療サービスを選択できる制度や医療関係者のサービス向上への努力が報われる制度を作っていくのがねらい。

診療成績の公開は、行政や所属医療機関による処分歴、高度先進医療を担う機関の手術件数などから始め、最終的には治癒率、生存率、再入院率なども公開していく。看護師の受け入れ国は、当面は自由貿易協定交渉で協議しているフィリピンを想定し、合意へ向けた環境整備を求めている。

提言はこのほか、インフォームド・コンセントやカルテ閲覧権などを明記した患者権利法の制定、医療事故紛争に対して中立的判断を行う国税不服審判所のような行政組織の設置なども求めている。

ところで経済同友会は、何故に看護師等医療従事者の海外からの受け入れなどと云っているのであろうか。就業する看護師の数が少ないことに危機感を持って、海外からの看護師導入を提言しているのだとすれば、藪睨みもいいところである。看護師の資格を持ちながら就労していない看護師を掘り起こせば、国内の看護師の不足などということは起こり得ない。

しかし、未就労の看護師を医療現場に再度引き出すためには、労働条件の改善が絶対の必要条件なのである。夜勤の回数の多さ、勤務時間の長さ、連続する緊張感、これらの圧力に耐えられず燃え尽きてしまう。大都会の総合病院での看護師の平均勤続年数がその実態を如実に示している。 経済同友会が云うべきは、看護師の労働条件の改善であり、看護師が要望している三人夜勤、四人夜勤で6日以内を早急に実施すべしという提言なのである。

それとも今回の提言は、表向き国内医療の改善を目指しているように見えるが、本心は海外市場確保のため、東南アジア各国の労働者に働く場所を確保しようという魂胆だけなのかも知れない。

国内で働く看護師の数について、2001年に厚生労働省がまとめた数字が、次の通り報告されている。

看護職員数113万4000人・年間約4万人増加

1999年3月末時点で就業している看護職員数は約113万4000人で、前年から約4万人増えたことが2001年1月 19日の厚生労働省のまとめでわかった。看護職員の養成では、3年課程で大学の養成数が増える一方、准看護婦養成所の1学年定員数は約1万9000人となり、2万人を割り込んだ。

厚生労働省によると、1999年3月末で就業している看護婦・士は65万 5094人で、前年3月末から約4万3000人増加。准看護婦・士は41万3996人と4000人減り、計106万9090人になった。保健婦・士は4万 113人と4万人を突破、助産婦は2万4654人になり、看護職員数は計113万3857人、約4万人増加した。

また、3年課程と2年課程を合わせた看護婦の学校・養成所数は1085施設(2000年4月)で2施設減少。1学年当たり定員数は5万2027人と、620人減った。3年課程では、大学が75施設から84施設に増え、1学年定員数も5950人に増加している。

養成所は513施設と7施設増えたが、1学年定員数は280人減り、2万 3544人になった。准看護婦は養成所と高等学校衛生看護科を合わせて529施設と17施設減少。養成所だけで16施設減り、1学年定員数は1716人減の1万9335人になった。1学年定員数は計2万6470人、1830人減で減りが目立つ。

ところで小泉純一郎首相は2004年11月29日、訪問中のラオスでフィリピンのアロヨ大統領と会談し、日本におけるフィリピン人看護師・介護福祉士の就労受け入れを盛り込んだ自由貿易協定(FTA)などについて大筋で合意した。 その中には日本の国家資格を取得することを前提に

  1. 一定の要件を満たした看護師・介護福祉士候補者の入国
  2. 日本の国家資格を取得するための準備活動としての就労
  3. 国家資格を取得した後の就労 を容認することなどが盛り込まれている。

これを受けて厚生労働省は12月1日、候補者の入国要件等の一覧を自民党厚労部会に報告したとしている。

看護師     介護福祉士
国家試験受験 養成施設入校
目的 看護師国家資格取得と取得後の就労 介護福祉士国家資格取得と取得後の就労
在留 資格     2国間の協定に基づく特定活動(入管法上新たに創設)
在留内容 雇用契約
(日本国内の病院で就労)
雇用契約(日本国内の介護関連施設で就労) 養成施設在籍→修了・資格取得後は雇用契約
期間等 ・資格取得前:看護師3年、介護福祉士4年(養成施設入校の場合は、養成課程終了に必要な期間)が上限。
・不合格・資格不取得の場合は帰国。・資格取得後:在留期間上限3年、更新回数の制限なし。
・労働市場への悪影響を避けるため、受け入れ枠を設定。
要件 ・フィリピン看護師資格保有者
・看護師経験
・6ヵ月間の日本語研修等(※)
・日本人と同等の処遇
・「フィリピン介護士研修終了者(TESDAの認定保持)+4年制大学卒業者」又は「看護大学卒業者」・6ヵ月間の日本語研修等(※)
・日本人と同等の処遇
・4年制大学卒業者
・6ヵ月間の日本語研修等(※)又は日本語検定2級
送出調整機能 政府関係機関(フィリピン海外労働者雇用庁 [POEA])
受入調整機能 福祉・医療関係団体

※海外技術者研修協会(経済産業省)及び国際交流基金(外務省)が実施。「等」には看護、介護研修を含む。

病気は人間にとって最も弱い状態である。病人の気持ちを理解し、的確に対応するためには、病人の言い分を十分に聞かなければならない。生活習慣が異なり、言葉の正確な理解が難しいと思われる外国人の看護師に、日本人の患者の気持ちを理解することが出来るのか。工場で製品を作るようなわけにはいかない。 病院で働く看護師の過酷な労働条件を改善し、潜在的な看護師を掘り起こすことが先ではないのか。安直な外国人看護師・介護福祉士の導入には反対だと云わざるを得ない。

(2004.12.28.)


  1. 社団法人経済同友会:http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/list2003.html,2004.8.18.
  2. NEWS 対フィリピンFTA-看護師などの受け入れで合意;日本医事新,No.4207:72(2004.12.11)