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隠蔽の付け

火曜日, 8月 14th, 2007

医薬品情報21

古泉秀夫

決定版“失敗学の法則”(畑村洋太郎・文春文庫)なる本が出版されているというのは知らなかった。

しかし、考えてみると、よくまあ何でも出版されている国だと感心する次第だが、その“失敗学の法則”によると、「付けの大きさは大体、予兆や事実を無視したり、隠したりして得をしたつもりになっている金額の300倍位になる」あるいは「失敗を隠そうというときには、多大な付けを払わなければならないことを覚悟しておかなければならない」との記述があるそうである。

但し、これは大手菓子メーカ「不二家」(本社・東京)の埼玉工場が、消費期限切れの原材料を使った洋菓子を製造・出荷していた問題についての寸評氏からの孫引き[読売新聞,第47002号,2007.1.15.]である。

不二家は消費期限切れの牛乳を使ってシュークリームを製造していた。同社はこの事実を直ちに把握していたにもかかわらず、調査を続ける必要があるとして2カ月以上も公表しないでいた。社内調査によれば、埼玉工場ではこの他にも期限切れの牛乳を7回使用、アップルパイなどに使うリンゴの加工品「アップルフィーリング」も4回期限切れを使用していたという。

またプリンの消費期限を社内基準より1日長く表示したことや、細菌検査で基準に満たない洋菓子「シューロール」を出荷していたことも判明していたとされる。

一般の家庭であれば、消費期限が切れていたとしても、1日ぐらいであれば、腐敗していないことを確認した上で、食べてしまうということがあるかもしれないが、食品を製造する会社では、万一の事態が起きたとき、影響する範囲が広すぎる。

更に食品を製造して利益を得るということは、消費者に安全な食品を提供するという責務をになっている。その責務に対する対価として、消費者は金を払っているのである。

1月15日になって、新たに消費期限切れが判明した15件の原料は、牛乳・生クリームが9件、卵類が6件、消費期限の社内基準の改竄は、明らかに意図的にやっていたと思われる。更に国の基準の10倍以上の細菌数が検出された洋菓子が出荷された問題について、埼玉工場では実際は約60倍だったことが判明したとしている。

それだけではなく食品中の細菌検査で検査結果を数値ではなく無限大と記載していたとされるが、人の口に入る食べ物を製造しているという認識が全くないといわれても仕方がない。社員教育等という、しゃれたことは何にもやっていなかったのではないか。

7年前の雪印乳業事件と同様、安全を軽視した製造・販売が会社全体に広がる様相を見せ始めたことに、消費者から改めて怒りの声が上がったとされている。

雪印乳業事件とは『雪印集団食中毒事件といわれるもので、2000年6月から7月にかけて、近畿地方を中心に発生した、雪印乳業(当時)の乳製品(主に低脂肪乳)による食中毒事件のことである。本事件は、認定者数13,420名の過去最大の食中毒といわれている。』

『本事件が起こった原因は、大阪工場(大阪市都島区、事件後閉鎖)で生産された低脂肪乳であるが、その原料となる脱脂粉乳を生産していた北海道の大樹工場(北海道広尾郡大樹町)の生産設備で停電が発生し、病原性黄色ブドウ球菌が増殖して毒素が発生したことも原因と推定された。同社は、1955 年にも八雲工場で同様な原因による集団食中毒事件を起こしており、事故後の再発防止対策にも不備があったと推測される。

なお、同時に大阪工場での原材料再利用の際における、不衛生な取り扱いも暴露された。また、この事件をきっかけに、再利用そのものに対する問題も露呈される形となってしまった[フリー百科事典・ウィキペディア(Wikipedia),2007.1.16.]。』というものである。

不二家のやるべきことは雪印乳業事件を他山の石として、身を正すことではなかったかとする論調も聞かれる。しかし、この他山の石というやつ、簡単なようで実際に実行するとなると多大の労力を要することなのではないか。事実、何か事故がある度に、他山の石が出てくるが、万全の策として実行されているとは思えない。

更に1月17日のTV報道では、物品管理の鉄則である『先入れ先出し』が行われておらず、納入された原料はそのまま積み上げ、上から順番に取り出して使用していたとされていた。しかも、使用残については消費期限の確認もせず、使用していたという。これがもし事実であるとすれば、管理無き工場ということであり、そこで製造される製品には何の信頼もおけない。ここまで綱紀が弛んでいたのでは、建て直しは難しいのではないか。

ところで“他山の石”ということでいえば、医療機関内における危機管理は大丈夫なのであろうか。何日か新聞に出ないと思っていると、似たような内容の医療事故が報道されている。何故これ程同じ過誤が起こるのかと首を捻りたくなるほど類似の事故が報道されるが、これこそ将に“他山の石”が“石” に成っていないということの証明ではないか。例えば終焉を迎えつつあるノロウイルスの感染症、院内感染事例が出た場合に全て報告し、公表されたのか。

人が virusの運び屋となるノロウイルスは、人の集まるところで感染は拡大する。院内感染が額面通り少なかったのであれば、問題はないが、もし隠蔽した施設があるとすれば、我が国の防疫体制は完成度が低いということになってしまう。

(2007.1.22.)