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悪しきに慣習に習う事なかれ

火曜日, 8月 14th, 2007

医薬品情報21

古泉秀夫

炭酸水素ナトリウム3g 分1の処方に対し、1包1gの包装品をよこす方式について、おかしいのではと申し上げた門前薬局で、「時間がかかりますが、それでもよろしければ一包化しますけれど」と云われた。

「分包するのにそんなに時間はかからんでしょう」

「いちいち服む時に3包ずつ切って服むのでは大変ですものね」

「今日はもう出来ているのでいいですけど、次回からは一包化して下さい」

「時間がかかると云うことを御承知下さい」

「しかし、それが本当の薬剤師のやる調剤じゃないんですか」

対応した薬剤師は、散剤を一包化することによって要する時間のことをしきりに気にしていたが、それで想い出したことがある。

かっての病院薬局は、多くの処方せんを実調剤しなければならず、その処理のためにきりきり舞いをしていた。その結果、患者の待ち時間は長くなり、待ち時間に関する苦情が頻繁に持ち込まれることになる。

更に悪いことに、院内のあちらこちらで待たされる患者は、院内各部署での待ち時間を、全て薬局の待ち時間に上乗せして苦情を云うという行動様式が定着する。その結果、病院長を始めとして、薬局での待ち時間解消をいかにするかの論議が、頻繁に会議の話題になるようになる。院内各部署の責任者は、自らに降りかかる火の粉を避けるためにも、待ち時間は薬局の個別問題ではなく、院内全体の問題であるとする薬剤部科長の声に耳を傾けることはしない。孤立無援の状況におかれた薬剤部科長は、薬局の最大の到達目標を『待ち時間短縮』とせざるを得なくなる。一方、薬剤師の数を増やせという要求には誰も返事をしないということになれば、残された手段は限られてくる。

外来患者が薬局に集中し始める時間帯-午前10時から午後2時あるいは3時までの間、薬局内の他の業務-管理・製剤・試験・情報等の担当者を全員調剤室に引き上げて実調剤に当たらせる。その間、薬局の業務は調剤室以外全て機能停止状態におかれる。他職種から必要があって連絡があっても、誰も対応できないという状況に陥る。これでは院内で薬剤師としての存在感を示せ等といわれても、示しようがない。

更に全てに優先された調剤室業務も、本来薬剤師がしなければならない-患者の安全を確保する実調剤-を放置し、必要最低限の実調剤を行うという方式を導入していくのである。その主たるものが市販の製剤があるものは市販の製剤で間に合わせる。散剤の場合、2種、3種の散剤が同一処方に記載されていれば、秤量し、分割し、分包しなければならないにもかかわらず、市販品を個別にわたし、患者自身が服用する時に個々の薬を選択して服用させるなどという明らかな手抜き工事を導入した。 実調剤の基本は

  1. 処方せんに基づいて正確な実調剤がされていること。
  2. 患者が服用する時に間違いの起こらない実調剤がされていること。
  3. 服用時、患者が調剤類似行為を行わなくても服用できること。

等が求められる。

しかし、病院薬局では本来薬剤師がやるべき調剤を放り出し、速く薬を渡すことに拘ったばかりに、実調剤を荒れたものにし、なお待ち時間の解消が得られないために『院外処方せん』の発行という行政指導の大鉈を振るわれたわけである。

市中薬局・門前薬局等の保険薬局は、実調剤が本務である。彼らが病院薬局の二の舞を演じたとすれば、次に患者は何処に行けばいいのか。保険薬局の生命線は完成度の高い実調剤と医薬品情報の提供である。

待ち時間を気にするあまり、実調剤で手抜きを続ければ、行き着くところは薬剤師不要論しかない。薬剤師教育には6年の歳月が必要であるとして、薬剤師の教育期間が延長された。しかし、実務において表芸をないがしろにすれば、行き着く先は地獄である。

(2004.12.26.)