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アルコール・アルコール

火曜日, 8月 14th, 2007

拝復

突然、アルコールの50%濃度のものは、殺菌効果があるのかの御質問を受け、一瞬絶句いたしましたが、誠に痛み入る次第です。

貴方も御記憶のことと存じますが、私共が勤務いたしておりました病院では、消毒用に使用していましたアルコールは、日本薬局方の“消毒用エタノール”のみであり、アルコール=消毒用エタノールということからいけば、50%が有効かという御質問は、言わずもがなのことと受け止めたためでした。

しかし、その後、消毒剤として日本薬局方に収載されているイソプロパノール(isopropanol)が、イソプロパノールアルコール(isopropyl alcohol)と呼ばれることもあり、使用濃度として50%があることを思い出し、多分50%-アルコールといっているのは、isopropanolのことだろうとお答えした次第です。

それでは何故、私共が勤務いたしておりました病院で、isopropanolを採用していなかったのかということです。実は文献的な考察の結果、消毒用エタノールとの比較で、若干速効性・速乾性に劣るという報告があったこと、更に消毒用エタノールとの比較で、低濃度でも有効であるとして、かって30%濃度の製品も市販されていましたが、以外と低濃度では効果がなく、文献的には50%-isopropanolでは、短時間の接触では死滅しない細菌もあるということも報告されておりました。更には嫌な臭いがするということ、どうせ70%-isopropanolを使用するのであれば、消毒用エタノールを使用することの方が、殺菌・消毒の面ではより効果的であるという判断をしたということによるものです。

ただ、当院でも購入金額の点で、例えば消毒用エタノール10mL= 14.70円に対してisopropanol-50%10mL=5.40円・70%-10mL=6.20円(但し2000年9月段階)という、明らかな価格差から、会計は何度か切換えの意向打診をしてきましたが、薬剤部としては効果に確信を持てない限り切換えは認められない。更には院内感染が発生し、患者の命に関わることの損益勘定と消毒用エタノールをisopropanolに切り換えることの損益勘定との比較で、どちらが施設に利をもたらすのかということで断ってきました。

会計の立場からすれば、安いものに切り替えたいと思うのは当然のことであり、薬剤としては有効性を優先し防衛戦を張るのは当然のこと、どちらも職務に忠実であればあるほど、職種間の緊張は高まるというのが我が国の病院の現状ではないでしょうか。

ところで在職期間中にはお気付ではなかったかもしれませんが、我々の勤務していた施設では、消毒用エタノールに青色の着色をしていました。これは薬剤部の製剤室において0.2%-メチレンブルー液を500mL瓶に対し1滴ずつ加えていた結果です。これは無色澄明な液であれば、何か他の薬と間違えて誤用することもあるという、その危険性を回避する目的で続けてきましたが、これは製剤室に薬剤助手が配置されていたからこそできる作業です。現在、国立医療機関では、行政職(二)といわれる職群-つまり薬剤助手等は、退職後の後補充をしないということで定数削減がされていますが、医療事故を回避するための目に見えない細かな配慮をしようとすると、どうしても人手は必要だということです。

一見すると何の稼ぎもないような職種でも、その人がいることによって、病院の安全性確保に貢献しているということを、我々も明確に認識することが必要ですし、広く知らせていくことが必要だと思います。

2000年9月22日

医薬品情報21

代表 古泉秀夫