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ADHD治療薬はドーピング対象薬に含まれるか

火曜日, 8月 14th, 2007

KW:臨床薬理・ドーピング対象薬・ADHD・attention-deficit hyperactivity disorder・注意欠陥-多動性障害・methlphenidate・pemoline・clonidine・ dexamethylphenidate・dextroamphetamine

Q:アテネオリンピックの100m競争で金メダルを得たジャスティン・ガトリン(米国)は、『過 去に「注意欠陥多動性障害」の治療のため処方された薬が原因で、ドーピングによる処分を受け、その後、病気治療の目的で処方された薬ということで、処分は解かれた。しかし、次に違反すると永久追放になるリスクも背負ってトラックに復帰した』という報道があったが、ADHDの治療薬は全てドーピング対象薬に含まれるのか。

A:1994年米国精神医学会の診断基準に初めてADHD(attention-deficit hyperactivity disorder:注意欠陥・多動性障害)は疾患名として登場した。落ち着きのなさ、注意の集中や持続困難、衝動的な言動の三症状を主とするが、原因は不明であるとされている。有病率は約5%、男児が女児の5倍以上多い。

多くの症例は学童期に学校での問題を契機に顕在化するが、実際は乳幼児期から多動や衝動性は見られるので、一般外来時に気になる児は、受診時に 経過観察する。

ADHDは症候群であり、発達障害(精神遅滞、広汎性発達障害、学習障害)の症状としてADHD様の症状が出現したり、またADHDに発達障害 が合併することもある。

ADHDは本人には特に肉体的な苦痛はないが、周囲とのトラブルを頻繁に起こすため、常に叱責を受けたり敬遠されやすい。そのため二次的に心理 面で自尊心が傷つき、時に抑鬱的や反抗的になり、症状が悪循環になる。

現在、国内でADHDの保険適用が認められた薬剤はない。精神刺激剤に分類される薬剤等が使用されている。精神刺激薬はADHD患児の70- 80%に有効であるが、包括的なプログラムの一部として用いられることが最も多い。

使用薬剤 使用量 注意事項等 doping
methlphenidate hydrochloride

リタリン錠
(ノバルティス)

0.3-0.5mg/kg/ 日分1朝 20mg/回まで増 量し効果 なき場合、無効判断。6歳以下原則禁忌。 禁止物質
pemoline

ベタナミン錠
(三和化学)

0.5-3.0mg/kg/ 日分1朝   禁止物質
atomoxetine

Strattera(米・Lilly)

  日本未開発 今後禁止対象物質?
clonidine hydrochloride

カタプレス錠(ベーリンガー)

  脳幹部のα2受容体に選択的に作用し交感神経緊張を抑制し、末梢血管を拡張 させることにより血圧降下を示すと考えられている。

また、血漿レニン活性低下作用、血漿CA濃度低下作用が認められている。

該当無
dexamethylphenidate   日本未発売。抗精神 薬、中枢 興奮作用をもつ。methylphenidateは禁止物質 禁止物質
dextroamphetamine   日本未発売。中枢興 奮薬、覚 せい剤。amphetamineは禁止物質。 禁止物質

成人における注意欠陥障害の残遺状態は増加しているが、診断も治療も困難を伴う。診断に当たっては多動の有無にかかわらず、小児期に注意欠陥障害の診断が確立されていることが必要で、更に成人期における注意障害と行動性を伴うことが必要とされる。

成人における注意欠陥障害の残遺状態における症状は単独では特異的ではないが、落ち着きのなさ、集中困難、易興奮性、衝動性、イライラなどである。これらの症状は就業率や学業成績の悪さ、不安、感情の爆発、反社会的行動、物質乱用などがある。

ADHDの成人患者にmethlphenidateを投与したところ、中等度から著明な症状の改善が見られたが、pemolineには明確な有 効性はないとする報告がされている。

以上の報告からADHDは、小児に固有の疾病というわけではなく、成人後にも残遺状態が見られるとされていることから薬物療法が必要であるとすれば、methlphenidateの投与が必要とされるが、カウンセリングによっても一定の対応が可能だとされており、競技を目指すという大きな目的を持っている場合、あるいは薬物療法の必要はないとも考えられる。

また、今回、何ら問題にならなかったとすれば、禁止物質以外の薬物の使用あるいは一定期間、薬物の使用はなかったと考えられる。

[015.4.ADH:2004.10.26.古泉秀夫]


  1. 山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2004
  2. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
  3. 井上令一・他監訳:精神科薬物療法ハンドブック 第3版;メディカル・サイエンス・インターナショナル,2001
  4. 「彩の国 まごころ国体」も目前! 薬剤師のためのアンチ・ドーピングガイドブック;埼玉県薬剤師会雑誌,30(9):2-14 (2004)
  5. メルクマニュアル第17版<日本語版>;日経BP社,1999
  6. The Medical Letter <日本語版>,19(3):11(2003.2.3)
  7. 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990