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滅菌・消毒法に関する基本的注意事項

月曜日, 8月 13th, 2007

KW:滅菌・消毒・滅菌法・消毒法・感染防御・基本的事項・物理的消毒法・化学的消毒法

Q:滅菌・消毒法に関する基本的事項について

A:感染防御とは、感染症の発生を 事前に防止(prevention)することと、発生した感染症が拡散しないように管理 (control)することを意味する。

なお、感染症の発生には、次の諸条件が全て満たされることが必須の条件である。

  1. 原因病原微生物の存在
  2. 生体の感受性部位の存在
  3. 感染症を惹起するのに十分な接触量
  4. 感染経路の成立

感染防御とは、これらの要件の一つ以上を遮断するための対策を意味する。

滅 菌

滅菌とは、全ての微生物を殺滅あるいは除去する方法である。

(1)滅菌法

[1]加熱法:高圧蒸気法・乾熱法

[2]照射法:放射線法・高周波法

[3]ガス法:酸化エチレンガス法・過酸化水素ガスプラズマ法等。

(2)濾過法

消 毒

生存する微生物の量を減少させるための方法であり、必ずしも微生物を全て殺滅したり除去するものではない。

(1)物理的消毒法

[1]流通蒸気法

[2]煮沸法

[3]間歇法(流通蒸気)

[4]紫外線法

(2)化学的消毒法

[1]気体(オゾン殺菌法等)

[2]液体(各種消毒薬)

化学的消毒法(熱が利用できない場合に消毒薬を利用)

熱消毒の設備がない場 合、生体及び環境及び非耐熱性の医療用具等が対象となる。

薬液消毒に影響する因子

 a.消毒対象物に附着する有機物

b.消毒薬の濃度

c.消毒薬使用時の温度

d.消毒薬との接触時間

e.消毒対象物の物理的かつ構造的特性

f.pH(水素イオン濃度)

g.希釈用水の水質

消毒薬にはそれぞれ多くの特性がある。各消毒薬の特性を理解し、正しい用法を守らなければならない。

  1. 微生物に対する抗菌スペクトルがあり、全ての微生物に有効な消毒薬はな い。効果の及ばない微生物が必ず存在する。
  2. 消毒薬が殺菌作用を示すためには微生物との適切な接触時間が必要であ り、必ずしも速効的でない。効果発現時間は微生物の抵抗性と消毒薬の種類により異なる。通常は3分以上の接 触時間を要する。
  3. 血液等の有機物が混入すると消毒薬の殺菌効果は減弱する。
  4. 器具や環境消毒に使用する消毒薬には生体毒性があり、皮膚、呼吸器、中 枢神経系等に対して障害作用を示す。
  5. 消毒薬は化学的に不安定な物質であり、保存による効果の低下がある。使用中に揮発して濃度が低下するものがある。
  6. 消毒対象物に対して金属腐食作用、素材の劣化等の悪影響を及ぼす事例が ある。
  7. 使用方法が複雑なものが多い。決められた通りの希釈を行い、正しい濃度 で使用する。
  8. 不快な臭気や異常な着色がある。衣類等の脱色、腐蝕を起こす消毒薬がある。
  9. 廃棄により環境に対する悪影響がでるものがある。
  10. 消毒薬のなかでも生息できる微生物が存在する。
1.保存容器 定期的な滅菌処理を行う。
2.希釈液 滅菌精製水の使用。 滅菌精製水精製装置の定期的点検。
3.調製量 必要量のみ調製。新 しい消毒薬の継ぎ足しは禁止する。
4.濃度と調製 基準濃度を守る。
5.表示と保存 分かり易い表示で誤 用を避ける。誤用を避けるため保存場所を定める。
6.廃棄処理 規定の廃棄方法を守る。

殺菌力に影響する因子

消毒薬の効果は、『使用濃度・使用温度・作用時間』によ り規定される。

  1. 使用濃度:濃度が高くなれば殺菌効果は強くなる。ただし、人体に対する安全性は低下する。薬剤濃度がどの範囲にあれば、有効性があるかに ついては、消毒薬の種類により異なる。消毒薬は使用中に有機物や酸素、温度、紫外線等の影響により濃度が低下する。従って消毒終了時点においても有効濃度を確保するよう注意する(添付文書参照)。
  2. 使用温度:消毒薬の作用は一種の化学反応であり、温度が高くなれば殺菌力は強くなる(消毒薬によっては分解等に注意)。消毒薬の種類によ りその程度は異なるが、通常20℃以上で使用する。
  3. 作用時間:微生物と接触して瞬時に殺菌できる消毒剤はない。一定の作用時間が必要である。消毒薬と接触した微生物の生残菌数は、正確な対 数減少を示さない場合も多い。従って実際の消毒に際しては、十分な余裕を持って消毒時間を設定する必要がある。
  4. その他:消毒効果に影響する因子として、上記3項の他に消毒対象物の物理的特性及び構造的特性が上げられる。表面構造が粗の場合には、予備洗浄が十分行えず、消毒薬との接触も不良となる。また、構造的に細管構造や先端が盲端となっている場合には、消毒薬やガスが先端まで到達できず、消毒不良を起こす。予備洗浄が十分されているかどうかは、その後の消毒が有効にできるかどうかの鍵 となる重要な処置である。内視鏡の洗浄を確実に行えば、附着菌数を約10?4 減少させることができる。

消毒薬の濃度表示と希釈

消毒薬の濃度表示は、容積に対する成分の重量(w/v %:重量/容積%)で現される。特殊なものとしてアルコール類はv/v%、次亜塩素酸ナトリウム等はppmが使用される。

次亜塩素酸Na 10%溶液 (100,000ppm)、1%溶液(10,000ppm)、0.1%溶液(1,000ppm)
有効ヨウ素 10%ポビドンヨー ド原液(100,000ppm)→有効ヨウ素1/10(10,000ppm)
0.2w/v%希釈 液 10w/v% 原液を50倍希釈。10L滅菌精製水中に10w/v% 原液200mL添加。1Lの希釈液を調製する場合は980mLの精製水中に10w/v% 原液20mLを入れる。

消毒薬の希釈は、通常、精製水を使用し、希釈後に高圧蒸気滅菌をする。ポビドンヨードを希釈する際には、クリーンベンチ内で注射用蒸留水若しく は滅菌水を使用し、高圧蒸気滅菌は行わない。口腔内の含嗽等に使用する場合には、希釈液に水道水などの上水を使用してもよい。

希釈消毒液の保存

希釈して使用 する消毒薬は用時調製が原則であり、保存しないよう注意する。

希釈調製後滅菌する消毒剤として、クロルヘキシジン・塩化ベンザルコニウム・塩化ベンゼトニウム等がある。これらの消毒剤の希釈・滅菌後の安定 性は比較的よいので、未開封の場合は遮光保存で通常3カ月は安定である。開封後は『滅菌した消毒薬では、開 封時点で滅菌状態は解除されるため、使用残液は廃棄』する。開封後清潔な取扱いがされたばあい7日以内に使用とする報告もあるが、創傷部位 等の消毒には使用しない。

消毒剤の希釈に際して水道水、新鮮な蒸留水で調製したものは、調製後24時間以内に使用を完了する。次亜塩素酸ナトリウムは不安定であり、希釈 後8時間以内に使用を完了する。

細菌 真菌*1 ウイルス *2
増殖型 結核菌 芽胞 脂質無-小型サイズ 脂質有-中型サイズ
高水準消毒薬 ±*3
中水準消毒薬   ±*4 ±
低水準消毒薬 ?   ? ?

*1:糸状菌を含まない。

*2:肝炎ウイルスを除く

*3消毒剤と長時間接触した場合のみ有効

*4:殺芽胞効果を示すものもある。

細菌 芽胞菌(熱・消毒剤 抵抗性)。

結核菌の細胞壁は多量の鑞様物質(脂質)を含むため、色素の通過が妨げられる。

消毒薬の一部に抵抗性を示す。

その他の栄養型細菌は消毒薬に対し比較的抵抗性を示さないが、一部に抵抗性を示す細菌が報告されている。

ウイルス ウイルスによって capsidの外側にenvelopeと呼ばれる糖蛋白と脂質の膜を被るものがある。

virusの中にはnucleocapsidが、感染によって修飾された宿主細胞の細胞膜(envelope)を被って、完全なvirionとなるものがある。

envelope の表面には、糖蛋白の突起が認められ、spike(スパイク)と呼ばれる。

envelopeは糖蛋白と脂質よりなり、virusが細胞に吸着し感染する際に重要である。

糖蛋白に対する抗体は、中和抗体として感染防御に働き、脂質に対して作用するエーテルや胆汁 酸成分はvirusを失活させる

従ってenvelopeをもつvirusは、エーテル感受性である。envelopeをもつvirus は、envelopeが糖蛋白と脂質から構成されているため、消毒剤との親和性(易浸透)がよく、逆にenvelope をもたないvirusは消毒剤に抵抗性である。

virusの消毒法を考える場合、envelopeをもつvirusを中型・ envelopeをもたないvirusを小型に分類する方法が利用されている。

区分 消毒薬 一般細菌 緑膿菌 結核菌 真菌* 芽胞 B型肝炎virus
高水準 グルタラール
フタラール
中水準 次亜塩素酸ナトリウ ム
消毒用エタノール ×
ポビドンヨード ×
クレゾール石鹸 × ×
低水準 第四級アンモニウム 塩 [benzalkonium chloride]

[benzethonium chloride]

× × ×
クロルヘキシジン × × ×
両性界面活性剤 × ×

*糸状菌を含まない

○:有効・△:効果得られ難い。高濃度・接触時間延長で有効な場合がある・×:無効。

滅菌・消毒の基本原則

滅菌・消毒の基本原則は、滅菌の確実性・安全性を考量すれば、加熱滅菌が基本であり医療器具・用具等で加熱滅菌可能な材質のものは高圧蒸気滅菌を行う。また、院内感染防止対策として『石鹸を用いた流水による手洗い(ペーパータオル使用)。』も重要である。緊急の場合あるいは明らかな汚染がない場合『速乾性手指消毒剤』による手指消毒も可能である。

[615.28.STE:2003.6.17.古泉秀夫・2003.11.9.改訂]


  1. 厚生省保健医療局結核感染症課・監修:消毒と滅菌のガイドライン;へるす出版,2000
  2. 武田美文・監修、古泉秀夫・編:院内感染防御マ ニュアル;薬業時報社,1996
  3. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2003
  4. 日本病院薬剤師会・編:院内における消毒剤の使用指針;薬事日報社,1987