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ハイポアルコールの安定性

日曜日, 8月 12th, 2007

KW:物理化学的性状・使用期限・安定性・ハイポアルコール・Hypo-alcohl・ヨウ素系消毒薬・着色除去・清拭剤

Q:包交回診車上に、開封日不明のハイポアルコール500mL入瓶が置かれているが、使用残液の取扱いについて

A:ハイポアルコール(Hypo-alcohl)の処方として、次の処方例が紹介されている。

Rx.8%- Hypo-alcohl

  • チオ硫酸ナトリウム(Na2S4O6)——40g
  • エタノール———- 250mL
  • 蒸留水——-適量
  • 全量——-500mL
  • 貯法:遮光・室温保存
  • 有効期限:なるべく速やかに使用する。
  • 適応:ヨウ素系消毒薬使用時の着色除去

Hypo-alcohlは、ヨウ素系消毒薬使用時の着色除去目的で使用する清拭剤である。着色除去の機序は、一般に次の化学変化によると考えられている。

 I2+2NaS2O3=2NaI+Na2S4O6

チオ硫酸ナトリウムとヨウ素は定量的に反応するとされている。

ヨウ素は水に極めて溶け難い(1g/100mL以上-1,000mL未満:溶解度は水で0.018g/100mLの溶媒量)性質を持っており、ヨウ素系消毒薬の消毒後のヨウ素による着色除去に蒸留水が使用されない理由とされている。

チオ硫酸ナトリウムによって変化した生成物であるNaI(ヨウ化ナトリウム)は、水に溶け易い性質を持っており、水に対する溶解度は179g/100mLと報告されているので、ヨウ素による着色の除去は容易になる。

以上報告されているHypo-alcohlの性状を考えると、例えばpovidone iodineによる消毒後、直ちにHypo-alcohlを使用することには消毒効果上問題があるといえる。

手術用Isodineによる一般的な手術野消毒法

  1. 手術野、手術部位を除毛し、水で湿す。
  2. 手術用Isodine液を取り(約10×15cm当たり本剤1mL)、泡立たせ、5分間十分に塗擦する。
  3. 滅菌ガーゼで拭き取る。
  4. 更にIsodine液の塗布を行う。
  5. 乾燥後あるいは5分経過後、Hypo-alcohlで着色を除去する。

以上の手技に従えば、特にHypo-alcohlによる消毒効果の減弱はないものと思われる。

その他、チオ硫酸ナトリウムはヨード還元剤であり、ヨウ化カリ水銀(HgI2・2KI)の作用を不活性化する。ヨウ化カリ水銀の500倍液で手洗いした後、5%-チオ硫酸ナトリウム溶液に手を浸すと、増菌が見られたとする報告がされている。

Hypo-alcohl中のalcohl濃度について、局方無水エタノール(99.5v/v%)を使用したとしても製剤化されたHypo-alcohl中のalcohl濃度は約50%である。

その他報告されている製剤処方例を見ると70v/v%-alcohlの使用例も見られるが、この濃度のalcohl濃度では完成品のalcohl濃度は35v/v%であり、いずれも消毒効果を期待できる濃度とはいえない。

従って、使用頻度にもよるが、病棟におけるHypo-alcohlの請求量として、500mL瓶入りの製剤は多すぎるといえる。

開封後のHypo-alcohlを室温中に長期保存すれば、当然アルコール成分は蒸発し、製剤中のalcohl濃度は限りなく低下する。

保存製剤が、万一細菌に汚染されていた場合、ヨウ素剤で消毒した部位を再度汚染することになると考えられるため好ましくない。

[615.28.HYP:2003.6.26.古泉秀夫]


  1. 古泉秀夫・代表編著:医薬品情報Q&A[1];株式会社,1990
  2. 日本病院薬剤師会・編:院内における消毒剤の使用指針;薬事日報社,1987
  3. 日本病院薬剤師会・編:病院薬局製剤-特殊処方とその調製法;薬事日報社,1982
  4. 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1993