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ドクダミ茶の副作用-高カリウム血症

日曜日, 8月 12th, 2007

Q:ドクダミ茶を服用している患者の血清カリウム値が上昇した。ドクダミの副作用としてカリウム値の上昇はあるか

A:ドクダミ(和名)はドクダミ科に属する多年草(学名:Houttuynia cordata Thunb.)で、別名として十薬(重薬)、漢方名『魚腥草(ギョセイソウ)』。その他『臭菜(シュウサイ)』、『臭草』等の異名がある。根の付いた全草を使用する。

成分

全草に精油が含まれるが、その中には抗菌成分としてのデカノイル-アセトアルデヒド(decanoylacetaldehyde)、ラウリルアルデヒド (laurinaldehyde) 、メチル-n-ノニルケトン(methylnonyketone)、α-ピネリン(α-pinene)、リナロール(linalool)及びカンフェン、 d-リモネン(d-limonene)、ボルニル-アセタート、カリオフィレン、ミルセン(myrcene)、leaf alcohl、citronellal、citronellol、citral、1,8-cineol、ocimene、o-cresol、m- cresol、p-cresol、carvacrol、thymol等を含む。またコルダリンも含まれる。

花穂及び果穂にはイソクエルシトリン(isoquercitrin:血圧調節作用)が含まれ、葉にはクエルシトリン(血圧調節作用)が含まれる。

花・葉・果実のフラボノイドは同じで、アゼリン、クエルシトリン(quercitrin:利尿作用)、クエルセチン(quercetin)、 isoquercitrin、レイノウトリン(reynoutrin)、ヒペリン(hyperin)、ルチン(rutin)を含むの報告もある。

根茎の精油にもdecanoylacetaldehydeが含まれる。また、カリウム塩を含む。無機物約2.7%を含有し、主成分はカリウム塩で、硫酸塩、塩酸塩として存在するとする報告も見られる。

魚腥草の悪臭の元凶はdecanoylacetaldehyde、laurinaldehydeで、これには抗菌力がある。乾燥するとこの悪臭は消失し、抗菌力も消滅するとする報告が見られる。

薬理

  1. 抗菌作用:有効成分であるdecanoylacetaldehydeはin vivoでカタル性球菌・インフルエンザ桿菌・肺炎球菌・黄色ブドウ球菌などに対し明らかな抑制作用を持つが、赤痢菌・大腸菌・腸チフス菌に対してはやや劣る。魚腥草から抽出される一種の油状物質は、多くの酵母・真菌に対して成長を抑制する作用を持つ。またin vitroでquercitrinは抗菌活性を示し、oxymethylenemethyl nonyl ketomeには2万倍希釈でAspergillus nigerに対し抗真菌活性が認められるなど、抗微生物活性があるとするのが一般的である。
  2. 抗ウイルス作用:魚腥草はインフルエンザアジアA型京科68-1株に対して抑制作用を持ち、更にエコーウイルスの成長を遅延させることができるとされている。インフルエンザウイルスに対する抗菌性は弱いとする報告も見られる。
  3. 利尿作用:魚腥草剤は蛙による実験において、毛細血管を拡張し、血流量と尿液分泌を増加し、利尿作用を発揮する。その利尿作用は、おそらく有機物によるもので、カリウムは利尿作用に対し相加的な作用を果たすのみであろうとされている。また、quercitrin の血管拡張作用も影響しているであろうとしている。
  4. その他の作用:魚腥草には鎮痛、止血、漿液分泌抑制、組織再生促進等の作用もある。また動物実験で鎮咳作用を示すが、去痰作用、平喘作用はない。ドクダミ成分「ピレスチン」について、毒性はなく、創傷、胃潰瘍の治癒を促進し、抗炎症作用があり歯槽膿漏、排膿瘍、湿疹に有効であるとしたが、抗トリプシン作用は全く認められないとする報告も見られる。臨床的には慢性腎炎や慢性気管支炎に対する治療効果も報告されている。その他の報告として、quercitrinが極めて低濃度で、利尿作用を示し、高含量のK+塩と共に十薬(日本薬局方)の利尿活性成分であるとした。

十薬の10%-ringer浸出液を用いて各種薬理試験を行った結果、本浸出液は蛙の瞳孔を収縮させ、蛙の皮膚色素細胞を拡大させ、心臓には直接作用して弛緩期で停止、更に血管に対しては一過性の収縮の後拡張させ、血流量を増大させることを認めた。

また、ネコの血圧を下降させ、子宮腸管平滑筋に対して周期運動を亢進させることを認めたが、これらの作用は全て灰化ドクダミにも認められ、K+塩の作用と同一であることから、ドクダミのこれらの作用はK+塩によるものであって有機化合物の関与はないとしている。

粉砕器で細粉とし90℃で24時間乾燥したものを5g秤取し、これに水100mLを加え直火を用いて約30分間で50mLになるように加熱し、ガラスフィルターを用いてろ過を行った煎液中の金属類を測定した結果が次の通り報告されている。

金属 試料 Na K Ca Mg Fe Mn Zn Cu
含有量 全草 212 54,300 770 3,430 500 120 56 26
溶出量 全草 92.1 18,400 110 1,470 250 43 19 4.3

食事中に摂取されるカリウムやグリコーゲン分解・体蛋白異化によって遊出するカリウムを排泄するには、腎以外に出口はなく、大便中のカリウムは10mEq 以下(全排泄量の10%程度)であるとされている。腎不全の場合、腎からの排泄率が低下することから高カリウム血症を惹起しやすい状態になりやすい。

一方、ドクダミ中のK含有量は上表に見るとおりであり、腎機能の低下する高齢者あるいは腎機能の低下している患者、カリウム保持性利尿剤、副作用として高カリウム血症を惹起する薬剤等を服用している患者では、ドクダミ茶の飲用により高カリウム血症を惹起する可能性があるため、注意を要する。

なお、ビタミンKの含有量は確認していないが、光合成を行う植物ではビタミンKの存在がいわれておりwarfarin服用患者では注意。

[065.HOU:2000.7.7.古泉秀夫]


  1. 伊澤一男:薬草カラー大事典;株式会社主婦の友社,1998
  2. 三橋 博・監修:原色牧野和漢薬草大図鑑;北隆館,1988
  3. 上海科学技術出版社・編:中薬大辞典;小学館,1998
  4. 生薬ハンドブック;株式会社ツムラ,1989
  5. 高木敬次郎・他編:和漢薬物学;南山堂,1983
  6. 鈴木 章・他:生薬中の金属の溶出;生薬学雑誌,36(3):190-195(1982)
  7. 桜井 寛:薬局よもやまばなし(21)カリウムの話(1)ドクダミ中のカリウム;薬事新報,No.1795:487(1994)
  8. 株式会社ツムラ学術課・私信,2000.7.7.