トップページ»

伝染性単核症について

日曜日, 8月 12th, 2007

KW:語彙解釈・伝染性単核症・伝染性単核球症・伝染性単核細胞症・伝染性単球増加症・infectious mononucleosis・EBウイルス・ウイルス

Q:伝染性単核細胞症の病態及び治療について

A:伝染性単核細胞症の関連語として『伝染性単核症(infectious mononucleosis)』、『伝染性単核球症』、『伝染性単核細胞症』、『伝染性単球増加症』等の用語が見られる。その他、種々のvirusによって惹起される異型リンパ球を含めたリンパ球増加症を総称して『伝染性単核細胞症候群(infectional mononucleosis syndrome)』として扱われる傾向があるとする報告も見られる。

1950年代の後半からヒト癌ウイルスの具体的な探索が始まり、最初に発見されたのがEB(エプスタイン・バー)ウイルス(Epstein-Barr virus:EBV)である。

1964年EpsteinとBarrらが、赤道アフリカの小児に多発するバーキットリンパ腫(Burkitt lymphoma)から見出し、発見者に因んでEBウイルスと名付けられた。その後の研究からEB virusはヘルペスウイルス科の新しいvirusで、伝染性単核症の病原ウイルスとわかり、バーキットリンパ腫や中国南部の成人に多い上咽頭がん(nasopharyngeal carcinoma)等の原因に密接に関連している。

伝染性単核球症はEB virus初感染によっおこる。EB virusは90%以上が成人になる前に感染し、殆どの小児に不顕性感染として初感染を起こす。

思春期以降に初感染が起こると、半数に症状が見られるようになる。感染後も唾液中に長期間virusの排出が認められ、唾液を介して感染する(キス感染:kissing disease)。

潜伏期間は30-50日。

EB virusはB細胞に感染し、分化したB細胞は免疫グロブリンを非特異的に産生し、異種赤血球を凝集する抗体(異好抗体)が現れる(Paul- Bunnell反応陽性)。B細胞リンパ球の活性化に対してCTL活性化が起こりCD8+ リンパ球が異型リンパ球として観察されるようになる。

症状は発熱、扁桃腺腫大、咽頭炎、頚部リンパ節腫脹、脾腫などである。 通常は自然に軽快する。脾腫のある間は、脾臓破裂の危険がまれに見られるので、激しいスポーツは避ける。臨床検査成績ではリンパ球数増多と異型リンパ球増多、血小板減少、ポリクローナルな高免疫グロブリン血症、トランスアミナーゼの上昇などが見られる。

鑑別診断としてサイトメガロウイルスによる伝染性単核球症様症候群や急性 HIV感染症、溶連菌咽頭炎などの鑑別診断を行う。

治療は必要に応じて鎮痛・解熱薬を用いて保存的に行う。特に重要な点は、投与により強い皮疹が発現するため、ペニシリンGを除いて他のペニシリン系薬は禁忌である。特にアンピシリンは高率に皮疹を認める。化膿性レンサ球菌を考慮し抗菌薬の投与を行う場合にはマクロライド系抗菌薬を投与する。

頻度は少ないものの重篤な併発症として自己免疫性溶血性貧血、血小板減少、顆粒球減少、麻痺や脳炎などの神経症状、脾臓破裂、上気道閉塞、心筋炎、血球貪食症候群などがあり、厳重な注意が必要であるとされている。

[615.8.INF:2005.3.7.古泉秀夫]


  1. 大里外誉郎・編集:医科ウイルス学 改訂第2版;南江堂,2002
  2. 吉田眞一・他編:戸田新細菌学 改訂32版;南山堂,2002
  3. 山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2005