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チメロサールの性状等について

日曜日, 8月 12th, 2007

KW:薬名検索・チメロサール・thimerosal・殺菌・防腐剤・アルキル水銀・エチル水銀・中毒

Q:チメロサールの性状等について

A:チメロサール(thimerosalum)[劇薬]、[英]thimerosal。

別名:チオメルサール(Thiomersal)、エチル水銀チオサリチル酸ナトリウム。エチル水銀塩(ethylmercury salts)。

  • 本品を乾燥したものは定量するときチメロサール(C9H9O2SHgNa=404.81)98.0%以上を含む。水銀含有量:約49%。
  • 本品は白色-淡黄色の結晶性粉末で、僅かに特異な臭いがある。本品1gは水1mL又はエタノール9mLに溶け、エーテル又はベンゼンには殆ど溶けない。本品の水溶液(1→100)のpHは6.0-7.0である。本品は光によって徐々に変化する。
  • 本品は水、生理食塩液に溶け易く、その溶液は石鹸、メタノールによく混和する。1%-水溶液のpHは約6.7である。本品は空気に対して安定であるが、光によって影響される。
  • [別名]マーゾニン、マーサイオレート。
  • [貯法]:遮光・気密容器。
  • [劇薬]:0.2%以下を含有する外用薬は除く。指定医薬品は劇薬のみである。
  • [毒性]:2-4gで死亡。LD50:ラット(経口)63mg/kg、マウス(皮下)66mg/kg。長期経口投与実験による最小中毒量はネコで1mgHg/kg/日以下。
  • [本質]殺菌・防腐剤。
  • [名称]Thimerosal(USP)、Thiomersal(BP)、Thiomersal(東独)、Mercurothiolate Sodique(FP)、sodium o-(ethylmercurithio)benzoate。
  • [来歴]1926年Kharaschが創製したもので、マーキュロクロムなどと同じ有機水銀化合物(エチル水銀安息香酸塩)であるが、後者のように着色しないことと、殺菌力の強いことで広く用いられる。
  • [薬効]本品は殺菌作用及び静菌作用を持ち、0.1%の水溶液は連鎖球菌、ブドウ球菌、大腸菌などを死滅させる。本品の0.001%水溶液でも、連鎖球菌・ブドウ球菌・大腸菌等の発育を阻止することができる。
    C6H5SHg-となって作用すると考えられている。本品はカビに対しても効果を持つが、芽胞菌に対しては無効である。刺激性は弱く、組織蛋白質を凝固しないので、深達性がある。本品を可溶性抗原、血清、蛋白質に加えても混濁、凝固又は沈殿を起こさない。この場合抗原の免疫を阻害せず、殺菌力にも影響しない。トキシン、トキソイド等の生物学的製剤やその他の医薬品の防腐剤として使用された。また毒性は比較的少なく、普通の使用濃度では溶血を起こさない。
  • [副作用]本剤はエチル水銀の基を有するため、メチル水銀と同様な中枢神経障害を主体とするアルキル水銀中毒を起こしうる。昭和45年(1970年)に、本剤を防腐剤として使用していた人血漿を短期間に大量投与された小児が、アルキル水銀中毒を起こして死亡した例が報告された。また本品に対して過敏なヒトでは、適用後、局所の炎症を起こすことがあり、長期連用は慎むべき薬物である。
  • [適用]本品はマーキュロクロムのように溶液が着色しないので、人体組織や繊維を汚染することがなく、石鹸、エタノールと混和しても効力が変わらない。従って広く消毒用、防腐用に用いられれていた。本品の使用濃度は使用部位又は個人の感受性差により異なるが、一般消毒用としては0.1%-水溶液又は生理食塩液が用いられる。
使用濃度 適応部位
0.1%-水溶液又は生理食塩液 皮膚表面、深部及び敏感な粘膜、化膿性皮膚疾患、創傷一般の消毒・洗浄剤
0.02%-生理食塩液 眼科用消毒・洗浄剤
0.1-0.02%水溶液 耳鼻咽喉科用消毒・洗浄剤
0.1%-チンキ剤 手術洗浄用
0.5%-吸水軟膏又は親水軟膏 皮膚糸状菌
1%-チンク油製剤 皮膚糸状菌
0.01%-水溶液 鵞口瘡に塗布又は含嗽剤

本品水溶液は、酸、重金属塩により沈殿を起こすので、水溶液調製には新鮮蒸留水を用いる。また長期保存すると次第に分解する。

thimerosalは蛋白質との配合により殺菌効力が低下しないという特性から従来生物学的製剤の防腐剤として配合されていた。しかし、最近では、日本でも、thimerosalを添加しないワクチンや、thimerosalを減量したワクチンが増え、thimerosalをワクチンの保存剤としてできるだけ添加しない方向になっている。

ワクチンに添付されている添付文書でthimerosalの添加を確認することが可能である。保存剤として添加されるthimerosalは、従来、ワクチン1mL中に0.1mgの添加がされていたが、最近ではワクチン1mL中に0.01mgにthimerosalの添加は減量されている。また、ワクチンの「接種上の注意」欄に、「本剤は添加物としてチメロサール(水銀化合物)を含んでいる。チメロサールを含んでいる製剤の投与(接種)により、過敏症(発熱、発疹、じんましん、紅斑、かゆみ等)があらわれたとの報告があるので、問診を十分に行い、接種後は観察を十分に行うこと。」という注意事項が記載されている。

その他、2000年6月アメリカ家庭医アカデミー(AAFP)、アメリカ小児科医アカデミー(AAP)、予防接種諮問委員会(ACIP)、公衆衛生協会(PHS)は、ワクチンに保存剤として含まれるthimerosalに関して共同声明を行った。

『thimerosalは水銀を成分として含み、混入感染を防ぐ目的でワクチン保存剤として使用されている。水銀の及ぼす身体への影響には一般の関心が高いこと、ワクチンから水銀を除去することが小児の水銀への暴露を減少させることにつながることを考慮して今回の声明がなされた。

この声明で、AAFP・AAP・ACIPはthimerosal無添加ワクチンへの迅速な移行を求めている現行の政策を支持した。しかし十分量のワクチン供給が達成されるまでは、保存剤としてthimerosalを含むワクチンの使用はやむを得ないとした。ワクチン中のthimerosalによって健康上の被害を被ったという証拠は今のところ存在しない。

米国では2000年3月以降、thimerosalを保存剤として含まないB型肝炎ワクチンの接種を受けることが可能になった。b型インフルエンザ菌ワクチン (Hib)、ジフテリア・破傷風トキソイド・百日咳ワクチン(DTaP)においてもthimerosal無添加ワクチンがあり、また無添加への移行が進んでいる。この結果、小児が通常のワクチン・スケジュールで暴露されるエチル化水銀の最大量は約60%、すなわち187.5μg→75μg程度の量に削減される。

  [011.1.THI:2006.2.18.古泉秀夫]


  1. 第八改正日本薬局方解説書;廣川書店,1971
  2. 第七改正日本薬局方解説書;廣川書店,1961
  3. http://www.eiken.city.yokohama.jp/infection_inf/thimerosal1.htm,2006.2.18.
  4. http://idsc.nih.go.jp/iasr/21/247/fr2474.html,2006.2.18.
  5. 西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル,2001
  6. 後藤 稠・他編:産業中毒便覧 増補版;医歯薬出版株式会社,1992