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クランベリージュースとワーファリンの相互作用

金曜日, 8月 10th, 2007

KW:相互作用・クランベリージュース・Cranberry juice・ワーファリン・Cranberry・キナ酸・quinic acid・馬尿酸・尿路感染症・warfarin・quilinggao・Chuanbeimu・Beimu・Chishao・JinYinhua・Jishi

Q:クランベリージュースとワルファリンの相互作用について

A:クランベリー(Cranberry)は、ツツジ科ツルコケモモ属の常緑低木である。
学名:Vaccinium macrocarpon Ait.又はV.oxycoccos L.。

Cranberryは北米原産の代表的な果実で、米国ではジュースやジャムなどに加工され、一般家庭にも浸透した普遍的な食材である。民間伝承的には、尿路感染症への作用が知られているが、最近の研究ではヘリコバクター・ピロリ菌の抑制作用が確認されたとする報告がされている。

米国においてメディカルハーブ(medicalherb)として使用されるCranberryの流通規格では、キナ酸(quinic acid)0.9%以上、クエン酸(citric acid)0.9%以上、リンゴ酸(malic acid)0.7%以上、quinic acid/malic acidが1.0以上(USP-NF)となっている。このほかブドウ糖(glucose)、フラクトース(fructose)などを含有する。

Cranberryの生理活性機能の代表的なものとして、尿路感染症(腎盂炎、膀胱炎など)の改善作用が知られており、現在までに数多くの基礎研究が行われている。メカニズムとしては、Cranberry中のquinic acidが腸管吸収され、肝臓で安息香酸に代謝、これにグリシンが加わり馬尿酸に変換される。酸性物質の馬尿酸が尿中に排泄され、尿のpHを低下させ、尿路感染菌の尿管への付着を抑制すると考えられている。

Cranberry摂取による尿の酸性化について、1923年の報告として尿pHが6.4から5.3に低下、馬尿酸が600%増加したとするものがある。

弱アルカリ又は健常者、尿路ストーマ患者を対象とした実験では、Cranberry juice飲用2時間後にpHの有意な低下が示されている。しかし、これだけでは予防や改善効果の説明が十分ではないため、尿の酸性化だけでなく、他の要因があるのではないかと考えられている。その一つとして含有成分で抗酸化作用のあるプロアントシアニン(ploanthocyanin)が注目されており、大腸菌など尿路感染菌の繊毛が上皮細胞に付着・定着するのを抑制するのではないかと考えられている。

また、尿路感染症に関しては、尿路変更やカテーテル留置に伴う慢性化が問題となるが、慢性尿路感染症に対しても効果があることから、感染菌が産生する多糖により形成されるバイオフィルムを抑制すると考えられており、ploanthocyaninの関与が推定されている。

Cranberryは、また歯周病・歯肉炎予防も期待されている。 Cranberryの菌付着抑制作用により、連鎖球菌等の歯への付着を抑制し、歯垢の形成を妨げる。

米国NIHは1998年、尿路感染症予防効果を評価しており、「入手可能なエビデンスに基づくと、Cranberry juiceは、尿路感染に罹りやすい集団の尿路感染症の予防としては勧められない」としている。NIHではCranberry製品の販売・普及を行う企業から参考文献やデータを取り寄せ、尿路感染に罹りやすい集団でCranberry juice/製品を評価したところ、「信頼に足るエビデンスは得られず、Cranberry juiceは試験中に多数の脱落、中止者があったことから長期の服用は受け入れられないかもしれない。」としている。

現在のところCranberryに関する相互作用の情報はなく、また臨床的に尿を酸性化する薬剤がないため、尿路感染症に対する有用性は高いと考えられる。

その他、Cranberry juiceの相互作用について次の報告が見られる。

70才台の男性は、胸部感染をcefalexinで治療後、 2週間にわたり食欲不振でほとんどなにも食べず、常用薬(digoxin、phenytoin、warfarin)のほか、Cranberry juiceのみを摂取していた。
Cranberry juiceを摂取し始めて6週間後、 INR上昇(>50)により入院した。以前、患者のINRコントロールは安定していた。患者は消化管出血および心膜出血により死亡した。患者は OTC薬やハーブ薬は服用しておらず、常用薬を正しく服用していた。

英国CSMは、yellow card reporting schemeを通じて、warfarinとCranberry juiceの相互作用によりINRの変化又は出血を惹起する可能性についての報告を他に7例受けている。
4例の患者ではCranberry juiceを飲んだ後のINR上昇又は出血は、さほど劇的ではなかった。2例ではINRが全般に不安定であり、残りの1例は INRが低下した。

Cranberry juiceは、フラボノイドを含む抗酸化物質を含有し、それらはチトクロムP450酵素を阻害することが知られており、warfarinは主としてCYP2C9により代謝されるため、Cranberry juiceとwarfarinとの相互作用は、生物学的に妥当である。

Cranberry juiceの成分がCYP2C9を阻害することによりwarfarinの代謝を阻害するのか、又は他の機序により阻害するのか、詳細な研究が必要である。それまではwarfarinを服用中の患者では、Cranberry juiceの摂取を制限することが賢明である [WarfarinとCranberry juiceとの相互作用の可能性;死亡した1症例の報告;Suvarna,R.,et al:Br. Med. J.(7429)1454/(2003.12.20,27)]。

2003 年9 月、英国のCSM(Committee on Safety of Medicines)、MHRA(Medicines and Healthcareproducts Regulatory Agency)が、warfarin とCranberry juiceの相互作用の疑いを明らかにし、Cranberry juiceを制限又は飲用しないようwarfarin 服用患者に勧告した。

INR(国際標準比)の変化や出血に至った相互作用の疑いが、1999 年から8 件報告された。患者の死亡が1 例、INR の増大や出血が4 例、INR の不安定な症例が2 例、INR の減少が1 例あった。死亡例において、それまで安定したINR を示していた患者が、6 週間Cranberry juiceを摂取した後、消化管出血および心嚢内出血で死亡した。別の症例では、warfarin を服用していた人工僧帽弁の患者が、Cranberry juiceを飲み始めた後(約2L/日)、INR が持続的に上昇した。

その後の手術では、術後に出血性の合併症を生じた。warfarin は主にCYP2C9で代謝され、Cranberry juiceはCYP 酵素を阻害するフラボノイドを含む。

米国では、NIH(National Institutes of Health)のNCCAM(National Center for Complementary and Alternative Medicine)が、Cranberryの大規模な研究の一環として、Cranberryと薬物の相互作用を調査する予定である。

抗凝固剤とdevil’s claw(ゴマ科Harpagophytum procumbensの根)、公孫樹、朝鮮人参、緑茶、パパイン(パパイヤ抽出物)、セントジョーンズワート、当帰、丹参、ある種の銘柄の quilinggao[Chuanbeimu*、Beimu、Chishao、JinYinhua、Jishi等を含む)のようなハーブ製品との相互作用の疑いが文書化された。

ビタミン剤(例:A、E、C およびK)、魚油サプリメント及び加工食品(豆乳等)は抗凝固剤と相互作用を生じる可能性がある。warfarinは安全域が狭いため、患者は薬物、自然健康製品や加工食品が相互作用に関連する可能性があることに注意すべきである。

Health Canada はこれらの相互作用のモニターを継続し、さらに詳しい情報が入手できた場合これを公表して、消費者や医療従事者のwarfarinと自然健康製品、薬物、食品間の相互作用の可能性に関する注意を促す。

  • Chuanbeimu:Tendrilled fritillaria bulb又はfritillaria cirrhosa。センバイモ(川貝母)、巻葉貝母。ユリ科に属するアミガサユリ。四川、雲南、西蔵を主産地とするFritillaria cirrhosa D.Donを川貝母と呼称しているようである。
  • Beimu:Fritillariae Bulbus。バイモ、貝母。本品はユリ科に属するアミガサユリ(Fritillariae verticillata Willdenow var.thunbergii Baker)の鱗茎である。fritilline、fritillarine、verticine(=peimine)、verticilline、 apoverticine等のアルカロイド、また配糖体peiminosideを含む。
  • Chishao(芍赤):Paeonia rubra。Paeonia lactiflora Pallas var.trichocarpa Stern(Paeony)。ボタン科。芍薬。薬用部分は根。主成分としてペオニフロリン(paeoniflorin)とその関連化合物、 paeoniflorigenone、paeonilactones等のモノテルペン、テルペン配糖体など。その他安息香酸、ガロタンニンなどを含んでいる。このうちペオニフロリンは鎮静、鎮痛、鎮咳、血圧降下などの薬理作用があることが知られてきた。
  • JinYinhua:Lonicera Japonica Thunb.(Japanese or Chinese Honeysukle)。スイカズラ科スイカズラ属。ニンドウカズラ、生薬名:忍冬(葉茎)・金銀花(花)。別名:酔蔓。タンニンや苦味配糖体のロガニンを含むがその他のものは不明。
  • Jishi:Poncirus trifoliata。Poncirus trifoliata Rufin(Trifoliate-orange)。カラタチ実、枸橘、枳。キジツ、枳実(zhishi):干した果実。精油:d-limonene。フラボノイド配糖体:原植物によりヘスペリジン(hesperidin)、のナリンギン(naringin)又は両成分を含むものがある。その他にシネフェリン(synephrine)、ネオヘスペリジン(neohesperidin)などを含んでいる。

[015.2.CRA:2004.10.19.古泉秀夫]


  1. 古泉秀夫・編著:わかるサプリメント健康食品Q&A;じほう,2003
  2. http://www.yobou.com/contents/rensai/report/r06_20.html,2004.10.14.(Medical Nutrition20号)
  3. 健康局食品医薬品安全部安全対策課:東京都医薬品情報No.356,2004.5.31
  4. 国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部:医薬品安全性情報,2:14 (2004.7.22);http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly2/14040722.pdf,2004.10.14.
  5. 第十四改正日本薬局方解説書;広川書店,2001
  6. 伊澤一男:薬草カラー大事典;株式会社主婦の友社,1998
  7. 富山県薬剤師会・編:和漢薬ハンドブック,1992

金属アレルギー - 貼付試験

金曜日, 8月 10th, 2007

KW:物理・化学的性状・過敏症試験・貼付試験・金属アレルギー・patch test・パッチテスト

Q:処方せん持参患者が、義歯装着後に皮膚のトラブルが増えたと言っているが、どの様に対処すればよいか

A:患者の質問内容から薬局で対応することは困難であり、受診中の歯科医に申し出るよう助言する。アレルギー性接触皮膚炎の確定診断、原因解明のために行う検査は『貼付試験(patch test)』である。

被検物質を皮膚に接触させ、その部位に炎症等が発現するか否かを調べる方法である。

開放法と閉鎖密封法とがあるが、開放法は被検物を単に塗布あるいは接触させるだけであり、感度が低い。従って症状から極めて強い反応が予想される場合にのみ行われる方法である。

通常は閉鎖密封法で行うが、種々の貼付材料が市販されている。パッチテスト用adhesivplasterの所定の位置に少量の被検物質を塗布して皮膚に貼付する。

貼付部位としては、通常背部傍脊柱領域が用いられ、一時に30-40種の被検物質の試験が可能であるとされている。

多種類の試験用アレルゲンが市販されており、原因のスクリーニングや原因物質の同定に利用されている。

貼付は48時間行い、除去1時間後と翌日に判定する。最もよく用いられる判定基準は国際接触皮膚炎研究グループによるものである。

(?) 反応なし
(+?) 疑わしい反応(弱い紅斑)
(+) 弱い陽性反応(紅斑、浸潤、 時に丘疹)
(++) 強い反応(紅斑、浸潤、丘 疹、小水疱)
(+++) 極めて強い反応(水疱形成)
(IR) 刺激反応

未知の物質を検査する際には、刺激反応を生じさせないため、被検物質の処理や濃度の設定に注意を払う必要がある。

またI型反応の検査では、短時間の貼付・判定が必要である等の報告がされている。歯科医が実施するのかあるいは近医の皮膚科医に依頼をするのかは別にして、受診中の医師と相談することが最も順当な方法である。

[014.4.PAT:2004.3.16.古泉秀夫]


  1. 国立国際医療センター国立病院療養所医薬品情報管理センター・編:医薬品情報Q&A[9];株式会社ミクス,1996
  2. 医学大辞典;南山堂,1992