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抗生物質の過敏性試験について

金曜日, 8月 10th, 2007

KW:臨床薬理・抗生物質・過敏症試験・皮内反応テスト・プリックテスト・抗生物質製剤・サルファ剤・合成抗菌剤

Q:今回、抗生物質の皮内反応テストの廃止がされたが、それに伴いプリックテストの実施が推奨されたと聞くが、プリックテストに使用する注射針について

A:平成16年9月29日薬食安発第0929005号において『注射用抗生物質製剤等の使用上の注意の改訂について』とする文書が発出され、同時に『注射用抗生物質製剤、サルファ剤及び合成抗菌剤』・『坐薬用抗生物質製剤、サルファ剤及び合成抗菌剤』の使用上の注意の改訂指示(平成16年9月 29日)が発出された。 過敏症関連の改訂は、下記の通りである。

[注射]
抗生物質製剤
サルファ剤及び合成抗菌剤
[坐薬]抗生物質製剤及びサルファ剤
[重要な基本的注意]

  1. ショックがあらわれるおそれがあるので、十分な問診を行うこと。なお、事前に皮膚反応を実施することが望ましい。
  2. ショック発現時に救急処置のとれる準備をしておくこと。また、投与後患者を安静の状態に保たせ、十分な観察を行うこと。
[重要な基本的注意]

ショックがあらわれるおそれがあるので、十分な問診を行うこと。なお、事前に皮膚反応を実施することが望ましい。

[重要な基本的注意]の項のショックに関する記載を削除し本剤によるショック、アナフィラキシー様症状の発生を確実に予知できる方法はないので、次の措置を取ること。

  1. 事前に既往歴等について十分な問診を行うこと。なお、抗生物質等によるアレルギー歴は必ず確認すること。
  2. 投与に際しては、必ずショック等に対する救急措置のとれる準備をしておくこと。
  3. 投与開始から投与終了後まで、患者を安静な状態に保たせ、十分な観察を行うこと。特に、投与開始直後は注意深く観察すること。
[重要な基本的注意]の項のショックに関する記載を削除し

本剤によるショック、アナフィラキシー様症状の発生を確実に予知できる方法はないので、事前に既往歴等について十分な問診を行うこと。

なお、抗生物質等によるアレルギー歴は必ず確認すること。

*アナフィラキシーの基本的な発症メカニズムは、マスト細胞(肥満細胞)あるいは好塩基球から放出された生物学的に活性な化学伝達物質の存在による。そのうちIgEを介する反応は『アナフィラキシー反応』IgEを介さない反応が『アナフィラキシー様反応』と呼ばれるが、両者を区別することは臨床的には不可能である。

上記が今回の改正内容であるが、行政上は『皮内試験』に代えて『プリックテスト』の実施を推奨しているわけではない。ただし、日本化学療法学会:抗菌薬投与に関連するアナフィラキシー対策のガイドライン(2004)中に次の記載がされている。

なお、『特に、投与開始直後は注意深く観察すること』の投与開始直後について日本化学療法学会の提言では『静脈内投与開始20-30分間における患者の観察とショック発現に対する対処の備え』が必要とされているので、投与開始直後はこの期間を意味していると考えられる。また、アナフィラキシーショック発現時には可及的速やかに診断し、アドレナリン(epinephrine)を注射することが救命のためには必須である。蘇生などの緊急時には、『エピネフリンとして、通常成人1回0.25mg (0.25mL)を超えない量を生理食塩液などで希釈し、できるだけ緩徐に静注する。

なお、必要があれば、5-15分ごとに繰りかえす』(ボスミン注添付文書)。しかし、エピネフリンの高用量は有害であるとする見解が述べられているので、投与量については注意が必要である。

6.抗菌薬の皮膚反応試験

6-1.目的及び対象

薬剤アレルギーにおける皮膚試験の検討から見ると、病歴からアレルギーが疑われる患者においては、即時型薬剤アレルギーではプリックテストと皮内反応試験が薬剤に対するアレルギーの有無を局所の皮膚反応として調べる検査法として有用性が認められる。

しかしながらその有用性は、病歴からアレルギーが疑われる患者におけるものであり、アレルギー歴のない不特定多数において薬剤に対するアレルギーの有無を調べる検査法としての皮膚反応試験の有用性はないと判断される。

薬剤アレルギーが疑われる患者において、当該抗菌薬を投与せざるを得ない場合には、予め皮膚反応試験を行い、即時型アレルギーの存在を確認することに臨床的意義が認められる。

米国においては妊婦梅毒の患者にペニシリンアレルギーの既往がある場合などがあげられている[本ガイドライン項目3-2)参照]。

6-2.実施方法、判定方法

皮膚反応試験にはプリックテスト及び皮内反応試験がある。当該薬による薬剤アレルギーの存在が疑われる患者では、プリックテストを行うのがより安全である。皮膚疾患患者では偽陽性が増加する。

また、抗ヒスタミン及びステロイドなどの免疫抑制剤が投与されている場合には、偽陰性を考慮する必要がある。従来の皮内反応試験用の試薬は、実薬と内容が異なるので、プリックテスト及び皮内反応試験のいずれを行う場合も、実薬の一部を以下の要領で使用する。

6-2-1.プリックテスト

1)実施方法

当該注射薬の0.16%溶液を少量注射筒に採り、予めアルコール綿で清拭、乾燥させた被験者の前腕屈側皮膚上に1滴を滴下する。次に皮内針(23G 以上又は26Gの針)を皮膚に対して水平方向に持ち、滴下部分を出血しない程度に穿刺し、軽く皮膚を持ち上げた後針を抜き、1-2分経過後、滴下液をガーゼで軽く抑えて吸い取る。対照として、生理食塩水を用い同じ腕の注射液投与部位から十分離れた位置に同様の方法でプリックテストを実施する。

2)判定方法及び判定基準

施行15分後にテスト部位の皮膚状態を観察し、以下の基準に従って判定する。

陽性:膨疹径が4mm以上あるいは対照の2倍以上、又は発赤径が15mm以上。

陰性:膨疹、発赤があっても対照と差異のないものは陰性とする。

6-2-2.皮内反応試験

1)実施方法

[1]注射部位は前腕屈側*1とし、予め消毒用アルコールで清拭、乾かしておく。

[2]0.01mLまでの目盛りが付けられたツベルクリン注射器に皮内針を付け、当該注射薬の希釈液*2 を正確に0.02mL*3皮内へ注射する。正しく皮内に注射されると、直径4-5mmの膨疹ができる。

  • 注1:皮膚反応施行部位には通常前腕屈側を用いる。背部はより発赤がでやすいともいわれるので、小児では適している。しかし、万一全身症状が出現した場合の対応には、注射部位より中枢側で駆血が可能なため、前腕屈曲がよい。
  • 注2:皮内反応の抗原として用いられる薬剤の濃度として、ampicillin、 cephalothin、cephaloridin、 penicillin G、benzylpenicilloyl-HSA(BPO-HSA)は、いずれも300μg/mLが用いられる。それ以外の薬剤については、 carbapenem系は同量でよいが、キノロン系薬では局所でヒスタミン遊離を惹起する作用があるため、より薄い1-2μg/mLを用いる。
  • 注3:皮内反応の抗原注射量については、0.02mL、0.05mLなどがあるが、現在は0.02mLに統一されている。

2)判定方法

注射後15分後で行う。皮内反応が最大値に達する時間が15-20分であることから、通常15-20分又は15-30分で反応の大きさを測定する。

3)判定基準

判定 直径(縦軸・横軸の平均)mm
膨疹 発赤
陰性(?) 0-5 0-9
偽陽性(±) 6-8 10-19
陽性(+) 9-15 20-39
強陽性(2+) 16以上(偽足形成・掻痒伴う) 40以上

膨疹9mm以上、発赤20mm以上の何れか一方を満足すれば陽性とする。ただし、膨疹9mm近くでも発赤を伴わない場合は陰性。

4)検査結果と対応

皮膚反応試験が陰性であっても、ショック及びアナフィラキシー様症状が発現する可能性があるので、投与の際には注意を要する。皮膚反応試験が陽性の場合には、投与を行わない。  なお、プリックテストに用いる溶液の濃度について『0.16%』とする指示が見られる。この濃度については

抗生物質量 溶解液量
0.25g/10mL
0.5g/20mL
1.0g/20mL
1mLを秤取し全量15mLにする→25mg/15mL=1.66mg/mL1mLを秤取し全量30mLにする→50mg/30mL=1.66mg/mL
1mLを秤取し全量50mLにする→83mg/50mL=1.66mg/mL

[015.4.ANA:2004.11.9.古泉秀夫]


  1. 抗生物質・サルファ剤・合成抗菌剤(注射剤・坐薬)の使用上の注意の改訂について;https://diweb.e-mediceo.com,2004.11.8.
  2. パンスポリン静注用添付文書,2003.9.改訂
  3. パンスポリン静注用添付文書,2004.10.改訂
  4. エポセリン坐薬添付文書,2003.10.改訂
  5. エポセリン坐薬添付文書,2004.10.改訂
  6. 浜 六郎:抗生物質皮内テスト廃止は死亡事故を多発させる;正しい治療と薬の情報,19(10):105-110(2004)
  7. 今泉真知子:プリックテストって何?;THPA.,47(5)340(1998)
  8. 清澤研道:インターフェロン使用時のプリックテスト;日本医事新報,No.3551(1992)
  9. 浜 六郎:皮内テスト廃止後生じた劇症型アナフィラキシー-この死亡例から何を学ぶか-;正しい治療と薬の情報,19(11):113-116(2004)