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口内清拭に使用する消毒剤の安全性

金曜日, 8月 10th, 2007

KW:滅菌・消毒・口内清拭・消毒剤・安全性・イソジンガーグル・ Povidone-Iodine・ポビドンヨード・アズノールガーグル・アズレンスルホン酸ナトリウム・sodium azulene sulfonate・オキシフル・オキシドール・oxydol・ネオステリングリーン・benzethonium chloride・塩化ベンゼトニウム

Q:現在入院中の気切(気管切開)患者の 内の1名が、2週間毎に気管カニューレを交換していますが、薬剤耐性菌が増えてしまいました。口腔ケアとして、現勤務場所では、イソジンガーグル使用の口腔内清拭をしておりません。

私が勤務し始めた時、なかなかMRSAが消えない患者がいたのですが、その時主治医に、イソジンガーグルによる口腔内清拭と、経管栄養チューブの交換、気管カニューレの交換を同一日同一時間にする事を提案し、実行したところ、その患者のMRSAは消失し、現在までに菌の再発生は見られていません。

その事もふまえて、他の患者で耐性菌が増えた患者に対し、イソジンガーグルを使用しての口腔清拭の提案をした所、主治医は、イソジン等の消毒薬を長期スタンスで使う事による安全性や弊害について、情報が無いため許可し辛いと薬剤処方をためらっています。口腔内の清浄衛生の維持として、看護現場では、イソジンガーグルやアズレンなどを使うのですが、口腔清潔のための薬剤と、その効用及び影響・禁忌など教えて下さい。副作用も有りましたら宜しくお願いします。

A:口腔清浄等の目的で使用される医薬品について、次の通り紹介する。

一般名・商品名(会社名) [226]sodium azulene sulfonate (アズレンスルホン酸ナトリウム)

アズノール・ガーグル(日本新薬)

[添加物:乳糖、アラビアゴム、デキストリン、炭酸水素ナ トリウム、ポリビニルアルコール(部分鹸化物)、含水二酸化ケイ素、香料]

用法・用量:1回2-3包(アズレンスルホン酸ナトリウムとして4- 6mg)を適量(約100mL)の水又は微温湯に溶解し、1日数回含嗽する。

適応症 咽頭炎、扁桃炎、口内炎、急性歯肉炎、舌炎、口腔創傷
副作用 口中の荒れ、口腔・咽頭の刺激感[抜歯後等の口腔創傷の場合、血餅の形成が阻害されると思われる 時期には、激しい洗口を避けさせること]
作用機序等 実験的口内炎に対し、本品は40μg/mL以上の濃度で有意に創傷治癒促進作用を認めている。ま た角膜上皮剥離等の実験的創傷において治癒促進効果を認めている。

本品はin vitroにおいて白血球遊走阻止作用を認めるとともに、肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制作用を示し、各種起炎物質による浮腫、胸膜炎等種々の実験的炎症を抑制する。

一般名・商品名(会社名) [261]oxydol[3w/v%](オキシドール)

オキシフル(三共)

[添加物:アセトアニリド]

pH:3.0-5.0

用法・用量:

1.創傷・潰瘍:原液のままあるいは2-3倍に希釈して塗布・洗浄する。

2.耳鼻咽喉:原液のまま塗布、滴下あるいは2-10倍(耳科の場合、時 にグリセリン、アルコールで希釈)に希釈して洗浄、噴霧、含嗽に用いる。

3.口腔:口腔粘膜の消毒、齲窩及び根管の清掃・消毒、歯の清浄には原液 又は2倍に希釈して洗浄・清拭する。口内炎の洗口には10倍に希釈して洗口する。

適応症 *創傷・潰瘍の殺菌消毒

*外耳・中耳の炎症、鼻炎、咽喉頭炎、扁桃炎などの粘膜の炎症

*口腔粘膜の消毒、齲窩及び根管の清掃・消毒、歯の清浄、口内炎の洗口

副作用 連用により口腔粘膜を刺激することがある(頻度不明)。

重要な基本的事項:長期間又は広範囲に使 用しないこと。

その他の注意:長期大量経口投与によりマウスの十二指腸に腫瘍の発生が認められたの報告。

作用機序等 使用濃度において、栄養型細菌に対して殺菌作用を示すが、その作用は緩和で持続性がない。発泡に よる機械的清浄化作用がある。

本品は組織、細菌、血液、膿汁などのカタラーゼによって分解し、発生機の 酸素を生じ、殺菌作用を呈するが、低濃度の場合その作用発現は極めて遅い。石炭酸係数は黄色ブドウ球菌:0.012、大腸菌:0.014で強力とはいえず、持続性にも乏しく、浸透性も弱い。3%液は0.1%-昇汞水と同程度の殺菌力であるとされる。グラム陽性菌・陰性菌に有効。

一般名・商品名(会社名) [226]Povidone-Iodine 70mg/mL(ポビドンヨード)

イソジンガーグル(明治製菓)

[添加物:エタノール、チモール、l-メントール、濃グリ セリン、サッカリンナトリウム、サリチル酸メチル、ユーカリ油]

用法・用量:

用時15-30倍(本剤2-4mLを約60mLの水)に希釈 し、1日数回含嗽する。

適応症 咽頭炎、扁桃炎、抜歯創を含む口腔創傷の感染予防、口腔内の消毒
副作用 重大な副作用:ショック、アナフィラキシー様症状(0.1%未満)。

その他の副作用:総症例 1166例中嘔気(4例)、口内刺激(3例)、その他不快感・口内の荒れ・口腔粘膜糜爛・口腔内灼熱感(各1例)。

*慎重投与:甲状腺機能に異常のある患者[血中ヨウ素の調節が出来ず、甲状腺ホルモン関連物質に影響を与える恐れがある]。

作用機序等 本品の30倍希釈液の殺菌力

作用時間1分で死滅する細菌:Staphylococcus aureus 209P(黄色ブドウ球菌)、Streptococcus pneumoniae(連鎖球菌肺炎)、Streptococcus hemolyticus(溶連菌:溶血性連鎖球菌)。

作用時間10分で死滅する細菌:Corynebacterium diphtheriae(ジフテリア菌)。

作用時間15分で死滅する細菌:Streptococcus viridans(口腔連鎖球菌)。

本品は殺virus効果が認められる。コクサッキーウイルス、エコーウイ ルス、エンテロウイルス(AHC)は本品原液30秒以内の接触で不活化。ヒト免疫不全virusは本品の30倍希釈液で30秒以内に不活化。その他ポリオウイルスに対しても効果が認められた。

一般名・商品名(会社名) [261]benzethonium chloride(塩化ベンゼトニウム)

ネオステリングリーン 10%液(日本歯科製薬

[添加物:?]

用法・用量:

口腔内の消毒には、塩化ベンゼトニウムとして、0.004% (50倍希釈)溶液を用いる。抜歯後の感染予防には、塩化ベンゼトニウムとして、0.01-0.02%(10-20倍希釈液)溶液を使用する。

適応症 口腔内の消毒、抜歯創の感染予防。
副作用 過敏症:過敏症が発現した場合には投与を中止すること。刺激感。

[抜歯後等の口腔創傷の場合、血餅の形成が阻害されると思われる時期に は、激しい洗口を避けさせること]

作用機序等 本剤の主成分であるbenzethonium chlorideは、陽イオン界面活性剤で、芽胞のない細菌、カビ類に広く抗菌性を有し、低濃度で強い殺菌効果を示す。しかも毒性が低く、刺激が少なく、洗浄作用をも有する。

急性毒性(LD50)420mg/kg(ラット  経口)。

現在、含嗽用として使用可能な製剤は上記の4製品であるが、『アズレンス ルホン酸ナトリウム』製剤は、感染予防用ではなく、感染予防に使用可能な製剤は3製品である。

ただし、塩化ベンゼトニウム(benzethonium chloride)を主成分とする消毒薬として、ハイアミン液(三共)等も市販されているが、ハイアミン液の場合『口腔内消毒』の適応は承認されていない。

一方、塩化ベンゼトニウムを主成分とする『ネオステリングリーン(日本歯科製薬)』は、口腔内洗浄の用法のみが承認されている製剤である。

Povidone-Iodineの毒性として、次の報告がされている。

  • (1)急性毒性(mg/kg)
    経口 皮下 静脈内
    マウス(JcI-ICR) 8,500 5,200 480
    8,100 4,100 580
    ラット(Wistar) >8,000 4,090 640
    >8,000 3,450 642
  • (2)亜急性毒性 Povidone-Iodineの10、25、50、100mg/kgを 家兎背部皮膚に35日間塗布した試験で、薬剤と関連する変化は認められなかったの報告。

    背部皮下に5、10、25、50/kgを35日間投与した試験では、一般状態、摂餌量推移、平均体重推移25mg/kg以下の投与量では薬物起因と考えられる障害はなく、血液学的検査、血清及び尿の生化学検査では 25mg/kg投与群でBUN(尿素窒素)又はNaの変動を認めたが、薬物量及び投与期間との相関関係もなく、病理組織学的検索でも、これらの変動を裏付ける変化はなかった。また病理組織学的検索では、投与部位の出血、浸潤、壊死等の障害を除けば、各投与群に肝細胞の壊死、繊維化、細胞湿潤、グリソン鞘付近の細胞湿潤、腎におけるうっ血、尿細管の拡張、腎盂部の粘液うっ滞等を認めたが、これら肝、腎に及ぼす影響は極めて軽度で、薬物との相関関係も認められなかったとする報告が見られる。

    その他、登録症例数139例(褥瘡患者)に白糖・ポビドンヨード製剤を8 週以上6カ月間塗布した結果、評価可能だった133例に、副作用は全く認められず、本剤の安全性には問題のないことが確認された。異常所見としてイソジンパッチテスト陽性例が1例認められ、本剤投与3カ月目のテストの結果であったため、本剤の投与は中止されたの報告がされている。

    Povidone-Iodineの長期使用による安全性については、皮膚 外用剤によるものが報告されているが、含嗽剤は、本来長期に使用することを目的としていないので、検討された資料はないとされている。従って、背部皮下あるいは褥瘡に使用された事例から、口腔内に使用した場合の安全性を予測せざるを得ない。

    一方、ヒトは通常、物理的・生理的な非特異的防御機構並びに特異的免疫機 構により、微生物の侵襲から生命を守っている。しかし、これらの防御機構の何処かに破綻が生じると、易感染性となり、常在菌の侵襲を受けて発病したり、感染症の重症化を招く。

    また易感染性宿主(compromised host)が日和見感染(opportunistic infection)を起こし、難治性の感染症に罹患することが報告されている。 従って、気管切開患者の口腔内に感染が見られる場合、全身性の感染症とし ないためにも、消毒薬による口腔内清拭の実施を選択しなければならない事例が考えられる。その際、判断の根拠となるのは、消毒薬の副作用による患者への影響と感染症の重症化による患者への影響とを較量し、より患者の利益となる方策は何かということである。 ただし、実施の最終判断は主治医の判断による。

[615.28.ORA: 2003.11.4.古泉秀夫]


  1. アズノール・ガーグル添付文書,2002.9.改訂
  2. オキシフル添付文書,N18-1
  3. 第十四改正日本薬局方解説書;廣川書店,2001
  4. 高杉益充・編:改訂版消毒剤-基礎知識と適正使用;医薬ジャーナル社, 1990
  5. イソジンガーグル添付文書,2001.6.改訂
  6. 日本病院薬剤師会・編:院内における消毒剤の使用指針;薬事日報社, 1987
  7. イソジンガーグルインタビューフォーム,1994.9.
  8. 今村貞夫:褥瘡に対する白糖・ポビドンヨード製剤(ユーパスタコーワ) の長期投与における有効性と安全性の検討;皮膚科紀要,93(2):223-233(1998)
  9. 明治製菓株式会社学術課・私信,2003.10.28.
  10. 山西弘一・他編:標準微生物学 第8版;医学書院,2002
  11. ネオステリングリーン添付文書,1987.5.