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月経前症候群の薬物療法について

金曜日, 8月 10th, 2007

KW:薬物療法・月経前症候群・premenstrual syndrome・PMS・診断基準・治療法・対症療法・漢方薬

Q:月経前症候群の薬物療法について

A:月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS:月経緊張症)について、日本産科婦人科学会用語解説集では、次の通りいわれている。

『月経前3-10日の黄体期の間続く精神的あるいは身体的症状で、月経発来と共に減退ないし消退するものをいう』とされている。

  • 病態:性ステロイド説、レニン-アンギオテンシン-アルドステロン説、ビタミンB6説、中枢オピオイド、カテコールアミン、セロトニン代謝異常説等が報告されているが、本症候群の病因は未だ明確ではない。幾つかの病態が複雑に絡み合って発現しており、単一の異常にその原因を求めるのは適当ではない。一般に性成熟婦人の20-40%程度にPMSが認められ、うち約20%の婦人でライフスタイルや仕事、学業上の影響を認める。PMS発現の頻度・程度には、地域差があるとされている。
  • 症状:いらいら、下腹部膨満感、下腹痛、腰痛、頭重感、怒りっぽくなる、頭痛、乳房痛、落ち着かない、憂うつ、むくみ、渇水感、食欲亢進、味覚の変化が知られている。乳房症状も酷いものは約10%であるが、何等かの乳房症状は約70%の婦人が経験している。

PMSの診断基準

  1. 3周期以上にわたり月経前に繰り返す以下の訴えが、各々最低一つずつはある。
    肉体的:乳房痛、腹部膨満感、頭痛、四肢浮腫
    情緒的:抑うつ、いらいら、不安感、錯乱、孤独感
  2. 上記の症状が月経開始4日以内に軽快し、少なくとも13日までは症状が消えている。
  3. これらの症状は、薬物、ホルモン及びアルコール飲用とは無関係に認める。
  4. 夫婦関係、親子関係、仕事・学業が上手くいかない。社会的孤立感、自殺企図、肉体症状に対する薬物依存を認める。
  • 治療法:プロゲステロン療法やビタミンB6療法の有用性が報告されたこともあるが、現在では疑問視されている。

本症候群が原因不明で、単独の成因ではないことにより、対症療法を行うことが多い。最近、GnRH agonist(ゴナドトロピン放出ホルモン作動薬)療法やserotonergic drugを用いた臨床成績の有用性が報告されている。

治療法については、その他、『黄体期中枢神経伝達物質の調節異常が関係していることからそこに焦点を合わせた治療法と頭痛、浮腫などの対症療法や漢方薬の併用が行われる。軽い症例では食事療法(糖、アルコール、カフェインなどの制限)、エアロビクスなどは内因性オピオイドを増加させるという点で試みるのも一つの方法である。以前投与されていたピルはプラセボと同等の効果しかなく、現在は投与に関して否定的である』とする報告が見られる。

  1. 消炎鎮痛剤—ibuprofen(100mg) 3-6錠 分3
  2. 利尿薬—spironolactone(50mg) 50-100mg/日 月経前7日間
  3. 抗不安・抗うつ—fluvoxamine maleate(25mg) 2錠 分2
    alprazolam(0.4mg) 2-3錠 分2-3(10-14日間 黄体期に内服)
  4. ホルモン剤による排卵抑制作用—leuprorelin acetate 1.88g/v・3.75mg/v 1回1v(皮下注)4週1回 4-6週間[適応外使用]
  5. 漢方薬—証によって『加味逍遙散又は桂枝茯苓丸』の何れか 2-3包/日

[035.1.PMS:2006.4.24.古泉秀夫]


  1. 中村康彦・他:premenstrual syndrome(月経前症候群);診断と治療,86<増刊号>:475(1998)
  2. 山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2003
  3. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2006